霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 宝庫(ほうこ)の鍵(かぎ)〔六〇一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻 篇:第2篇 深遠微妙 よみ(新仮名遣い):しんえんびみょう
章:第11章 宝庫の鍵 よみ(新仮名遣い):ほうこのかぎ 通し章番号:601
口述日:1922(大正11)年04月15日(旧03月19日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
ウラナイ教の高姫と青彦は、秋山彦の館を訪ねていた。紅葉姫は二人を迎え入れて一間に通したが、秋山彦に呼ばれて席を外した。
高姫がふと額を見ると、裏に鍵がしまってあるのが目に付いた。鍵を手にとって見ると、冠島沓島の宝庫の鍵、と記されていた。
高姫と青彦は鍵を奪って館を抜け出し、由良の港から冠島・沓島指して漕ぎ出した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-01-27 17:21:38 文字数:5427 OBC :rm1611
愛善世界社版:135頁 八幡書店版:第3輯 450頁 修補版: 校定版:139頁 普及版:60頁 初版: ページ備考:
001神(かむ)素盞嗚(すさのを)の瑞霊(みづみたま)
002国武彦(くにたけひこ)の厳霊(いづみたま)
003三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
004名(な)さへ目出度(めでた)き亀彦(かめひこ)が
005闇(やみ)を照(てら)して英子姫(ひでこひめ)
006悦子(よしこ)の姫(ひめ)と諸共(もろとも)に
007鬼武彦(おにたけひこ)の守護(まも)りにて
008さしもに猛(たけ)き曲津(まがつ)神(かみ)
009鬼雲彦(おにくもひこ)の一族(いちぞく)を
010言向(ことむ)け和(やは)し服従(まつろ)はぬ
011数多(あまた)の鬼(おに)は四方(よも)八方(やも)に
012雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ散(ち)りて
013鬼雲彦(おにくもひこ)は雲(くも)に乗(の)り
014伊吹(いぶき)の山(やま)の方面(はうめん)に
015逃(に)げ失(う)せたりと取(と)り取(ど)りの
016高(たか)き噂(うはさ)を菊月(きくづき)の
017空(そら)を照(てら)して昇(のぼ)り来(く)る
018三五(さんご)の月(つき)の夕間暮(ゆふまぐれ)
019秋山彦(あきやまひこ)の門前(もんぜん)に
020現(あら)はれ出(い)でたる二人(ふたり)の男女(だんぢよ)
021覆面(ふくめん)頭巾(づきん)の扮装(いでたち)に
022四辺(あたり)を憚(はばか)り声低(こゑひく)に
023そつと門戸(もんこ)を叩(たた)きつつ
024頼(たの)も頼(たの)もと訪(おとな)へば
025ハツと答(こた)へて出(い)で来(きた)る
026加米公(かめこう)銀公(ぎんこう)の両人(りやうにん)は
027戸(と)の隙間(すきま)より垣間見(かいまみ)て
028二人(ふたり)の姿(すがた)を怪(あや)しみつ
029何人(なにびと)なるかと訊(たづ)ぬれば
030声(こゑ)淑(しと)やかに答(こた)へらく
031我(われ)は日(ひ)の出(での)大神(おほかみ)ぞ
032行成彦(ゆきなりひこ)の神(かみ)の宮(みや)
033早(はや)く開(あ)けさせ給(たま)へかし
034秋山彦(あきやまひこ)の神司(かむつかさ)に
035申上(まをしあ)ぐべき仔細(しさい)あり
036早(はや)く早(はや)くと急(せ)き立(た)てて
037何(なん)とはなしに落(お)ち付(つ)かぬ
038怪(あや)しき風情(ふぜい)に加米公(かめこう)は
039口(くち)を尖(とが)らし呶鳴(どな)り立(た)て
040日(ひ)の出神(でのかみ)とは心得(こころえ)ぬ
041三五(さんご)の月(つき)の皎々(かうかう)と
042上(のぼ)り初(そ)めたる夕間暮(ゆふまぐれ)
043門戸(もんこ)を叩(たた)き訪(おとな)ふは
044日暮(ひぐれ)の神(かみ)に非(あら)ざるか
045行成彦(ゆきなりひこ)とは嘘(うそ)の皮(かは)
046宿(やど)を失(うしな)ひ行詰(ゆきつま)り彦(ひこ)の
047醜(しこ)の命(みこと)の曲神(まがかみ)か
048門(もん)は締(し)めても秋山彦(あきやまひこ)の
049神(かみ)の司(つかさ)の御(おん)館(やかた)
050汝(なんぢ)等(ら)二人(ふたり)の胸(むね)の内(うち)
051未(いま)だ開(ひら)かぬ曲津見(まがつみ)の
052醜(しこ)の容(い)れもん砕(くだ)け門(もん)
053摺(す)つた門(もん)だと申(まを)さずに
054早(はや)く帰(かへ)るがよからうぞ
055日暮(ひぐれ)に門(もん)を叩(たた)く奴(やつ)
056碌(ろく)な奴(やつ)ではあるまいぞ
057用事(ようじ)があれば明日(あす)来(きた)れ
058此(こ)の大門(だいもん)は吾々(われわれ)が
059夜昼(よるひる)寝(ね)ずに守(まも)る門(もん)
060大門(おほもん)開(びら)きは日(ひ)の出時(でどき)
061其(その)日(ひ)暮(ぐら)しの門番(もんばん)も
062日暮(ひぐれ)の門(もん)は開(ひら)かない
063帰(かへ)れ帰(かへ)れと急(せ)き立(た)つる。
064高姫(たかひめ)『十里(じふり)四方(しはう)は宮(みや)の内(うち)、065大門(おほもん)開(びら)きの日(ひ)の出神(でのかみ)、066一(いち)時(じ)も早(はや)く秋山彦(あきやまひこ)の御(おん)大将(たいしやう)に、067日(ひ)の出神(でのかみ)行成彦(ゆきなりひこ)の神(かみ)の御(ご)入来(じゆらい)と申(まを)し伝(つた)へよ、068門番(もんばん)の分際(ぶんざい)として門(もん)の開閉(かいへい)を拒(こば)む事(こと)はなるまい、069愚図(ぐづ)々々(ぐづ)致(いた)して、070後(あと)で後悔(こうくわい)するな、071今宵(こよひ)に迫(せま)る当家(たうけ)の大難(たいなん)、072救(すく)ひの神(かみ)と現(あら)はれた日(ひ)の出神(でのかみ)を何(なん)と心得(こころえ)る』
073と慄(ふる)ひを帯(お)びた癇声(かんごゑ)を張上(はりあ)げ、074形相(ぎやうさう)凄(すさま)じく突立(つつた)ち居(を)る。
075加米公(かめこう)『オイ銀公(ぎんこう)、076一寸(ちよつと)覗(のぞ)いて見(み)よ、077顔(かほ)に白粉(おしろい)をべたりとつけて何(なん)だか嫌(いや)らしい女(をんな)が一人(ひとり)、078青瓢箪(あをべうたん)のやうな面(つら)をした男(をとこ)が一人(ひとり)だ。079何(なん)でも大変(たいへん)な事(こと)がお館(やかた)にあるので知(し)らしに来(き)たとか、080此(この)門(もん)開(あ)けねば明日(あす)になつて後悔(こうくわい)をするとか云(い)つて居(ゐ)る、081どうしたら好(よ)からうかな』
082銀公(ぎんこう)『何(なん)と云(い)うても御(ご)主人(しゆじん)様(さま)の云(い)ひつけ、083暮六(くれむ)つ過(す)ぎたなら、084何人(なにびと)が来(き)ても開(あ)ける事(こと)はならぬとの厳命(げんめい)だ。085ほつとけほつとけ』
086加米公(かめこう)『それでも普通(ふつう)の人間(にんげん)ではない、087神(かみ)だとか云(い)つて居(ゐ)るやうだ』
088銀公(ぎんこう)『神(かみ)にも種々(いろいろ)ある、089人(ひと)を喰(く)ふ狼(おほかみ)もあれば曲津(まがつ)神(かみ)もあり、090鼻紙(はなかみ)、091塵紙(ちりかみ)、092尻拭(しりふ)き紙(かみ)もあるワ、093ようかみ分(わ)けて判断(はんだん)をせないと後(あと)になつて歯(は)がみをなして悔(くや)しがらねばならぬ事(こと)が出来(しゆつたい)するぞ、094どれどれ一(ひと)つ俺(おれ)が覗(のぞ)いて様子(やうす)を調(しら)べてやらう』
095 銀公(ぎんこう)は門(もん)の隙間(すきま)より片目(かため)を塞(ふさ)ぎ、096片目(かため)を当(あ)てて覗(のぞ)きながら、
097銀公(ぎんこう)『ハヽヽヽヽ、098彼奴(あいつ)ア神(かみ)に間違(まちが)ひないが、099薑(はじかみ)だ、100咳嗽(せき)や痰(たん)の薬(くすり)なら持(も)つてこいだ。101よう何(なん)だか耳(みみ)に口(くち)を当(あ)てて密々話(ひそひそばなし)をやつて居(ゐ)よるワ、102あの顔色(かほいろ)の青(あを)い男(をとこ)はあの女(をんな)のハズバンドだな、103気楽(きらく)な奴(やつ)もあればあるものだ、104人(ひと)の門前(もんぜん)に立(た)つて意茶(いちや)ついて居(ゐ)やがる。105お月(つき)さまに恥(はづ)かしくは無(な)いだらうかなア』
106青彦(あをひこ)『モシモシ、107御(お)館(やかた)に対(たい)して今夜(こんや)の中(うち)に大事(だいじ)が突発(とつぱつ)致(いた)します、108一寸先(いつすんさき)は闇(やみ)の夜(よ)だ、109吾々(われわれ)は天下(てんか)を助(たす)ける宣伝使(せんでんし)だ、110どうぞ開(あ)けて下(くだ)さい』
111銀公(ぎんこう)『ナヽヽ何(なに)を吐(ぬか)すのだ、112今夜(こんや)のやうな明月(めいげつ)に、113一寸先(いつすんさき)は闇(やみ)の夜(よ)だとはそれや貴様(きさま)の心(こころ)の中(うち)の事(こと)だらう、114用事(ようじ)があらば明日(あす)来(こ)い。115仮令(たとへ)此(この)館(やかた)に如何(いか)なる変事(へんじ)が突発(とつぱつ)せうとも、116貴様(きさま)の容喙(ようかい)する所(ところ)ぢやない、117トツトと帰(かへ)れ』
118高姫(たかひめ)『左様(さやう)では御座(ござ)いませうが日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)より強(た)つての御(ご)神勅(しんちよく)、119何(なに)は兎(と)もあれ秋山彦(あきやまひこ)の御(ご)主人(しゆじん)に此(この)由(よし)お伝(つた)へ下(くだ)さいませ』
120銀公(ぎんこう)『アヽ仕方(しかた)がないな、121兎(と)も角(かく)御(ご)主人(しゆじん)様(さま)に申(まを)し上(あ)げて来(く)るから、122それまで、123貴様(きさま)は此処(ここ)に待(ま)つてけつかりませ、124オイオイ加米公(かめこう)、125俺(おれ)が出(で)て来(く)るまで邪(じや)が非(ひ)でも開(あ)けてはならぬぞ』
126と言(い)ひ捨(す)て奥(おく)を目蒐(めが)けて駆(か)け出(だ)したり。
127青彦(あをひこ)『もしもし門番(もんばん)さま、128早(はや)く開(あ)けないか、129愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(ゐ)るとお前(まへ)の身(み)の上(うへ)が危(あぶ)ないぞ。130根(ね)の国(くに)底(そこ)の国(くに)へ真逆(まつさか)様(さま)に落(おと)されると可憐(かはい)さうだから気(き)をつけてやり度(た)いと神(かみ)様(さま)の御(ご)神勅(しんちよく)で出(で)て来(き)たのだ』
131加米公(かめこう)『神勅(しんちよく)でも何(なん)でも主人(しゆじん)の許(ゆる)しなきまでは開(あ)けられぬ、132根(ね)の国(くに)底(そこ)の国(くに)と云(い)ふ地獄(ぢごく)に落(お)ちるか知(し)らぬが、133地獄(ぢごく)の沙汰(さた)も金(かね)次第(しだい)だ、134もし此(この)門(もん)あけて地獄(ぢごく)にでも落(お)ちては困(こま)るから、135お前(まへ)さまも何々(なになに)を出(だ)しなさい、136さうしたら開(あ)けて上(あ)げやう、137金(かね)さへあれば地獄(ぢごく)の釜(かま)の蓋(ふた)でも開(あ)くと云(い)ふ事(こと)、138鬼(おに)に酒代(さかて)をやつて地獄(ぢごく)を逃(のが)れる分別(ふんべつ)をさせなくてはならぬからサア出(だ)したり出(だ)したり、139惚薬(ほれぐすり)外(ほか)にないかと蠑螈(いもり)に問(と)へば指(ゆび)を輪(わ)にして見(み)せたげな、140蠑螈(いもり)でさへもそれだもの、141同(おな)じ水(みづ)に住(す)む加米公(かめこう)に円(まる)いものを出(だ)しなさい、142そつと開(あ)けてやるから』
143高姫(たかひめ)『サアこれだから瑞(みづ)の霊(みたま)の教(をしへ)は悪(あく)のやり方(かた)だと云(い)ふのだよ、144門番(もんばん)までが金取(かねとり)主義(しゆぎ)ぢや。145これこれ青彦(あおひこ)さま、146この一事(いちじ)を見(み)ても如何(いか)に三五教(あななひけう)が現金(げんきん)主義(しゆぎ)、147利己(りこ)主義(しゆぎ)、148吾(われ)よしの遣方(やりかた)と云(い)ふ事(こと)が分(わか)るぢやないか。149お前(まへ)さまもよい加減(かげん)に目(め)を醒(さ)まさぬと瑞(みづ)の霊(みたま)に尻(しり)の毛(け)が一本(いつぽん)も無(な)いところ迄(まで)抜(ぬ)かれて仕舞(しま)ひますぞゑ』
150青彦(あをひこ)『さうですな、151隅(すみ)から隅(すみ)まで抜(ぬ)け目(め)のないお前(まへ)さまと思(おも)つて居(ゐ)たのに、152三五教(あななひけう)はも一(ひと)つ哥兄(あにき)ですなア』
153加米公(かめこう)『エヽ、154愚図(ぐづ)々々(ぐづ)と出(だ)し惜(をし)みをする奴(やつ)だなア、155何処(どこ)の宣伝使(せんでんし)か知(し)らぬが、156三五教(あななひけう)が銭払(ぜにばら)ひがよい、157吾々(われわれ)のやうな門番(もんばん)のやくざものでも、158此方(こちら)から何(なに)も云(い)はぬに小判(こばん)の二(に)枚(まい)や三(さん)枚(まい)はそつと懐中(ふところ)に入(い)れて呉(く)れる、159此奴(こいつ)はウラナイ教(けう)と見(み)えて此方(こちら)から露骨(ろこつ)に請求(せいきう)しても出(だ)しやがらぬ吝嗇坊(けちんばう)だ、160それだから三五教(あななひけう)の信者(しんじや)を自分(じぶん)が苦労(くらう)もせずに掻(か)き落(おと)しに廻(まは)つてウラナイ教(けう)に入(い)れる事(こと)許(ばか)り考(かんが)へて居(ゐ)やがるのだ。161オイオイ二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)、162忘(わす)れものはないか、163何(なに)かお前(まへ)は忘(わす)れて居(ゐ)るだらう、164渡(わた)し船(ぶね)に乗(の)つてもはし銭(せん)が要(い)るぢやないか、165門(もん)を潜(くぐ)るのに何々(なになに)で潜(くぐ)ると云(い)ふ法(はふ)があるか、166エヽ気(き)の利(き)かぬ宣伝使(せんでんし)ぢやな、167銀公(ぎんこう)の奴(やつ)が居(を)らぬ間(ま)に一(ひと)つ権兵(ごんべ)る積(つも)りで居(ゐ)たのに、168先方(むかう)が気(き)の利(き)かぬドンベイだから成功(せいこう)覚束(おぼつか)なしと云(い)ふものだ』
169 斯(か)かる所(ところ)へ銀公(ぎんこう)は走(はし)り来(きた)り、
170銀公『ヤア加米公(かめこう)、171御(ご)主人(しゆじん)の申(まをし)つけだ、172直(ただち)に門(もん)を開(ひら)いてお通(とほ)し申(まを)せ』
173加米公『アヽさうか』
174と閂(かんぬき)を外(はづ)し左右(さいう)に開(ひら)いて声(こゑ)を変(か)へ、
175加米(かめ)『アヽこれはこれは立派(りつぱ)な立派(りつぱ)な御(ご)神徳(しんとく)のありさうな二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)様(さま)、176私(わたくし)は奥(おく)に急用(きふよう)あつて居(を)りませなかつたものだから家来(けらい)の奴(やつ)、177摺(す)つた門(もん)だと理屈(りくつ)を申(まを)し、178吝嗇(けち)な事(こと)を申(まを)してお金(かね)を強請(ねだ)つたさうで御座(ござ)います、179決(けつ)して、180当家(たうけ)は三五教(あななひけう)の信者(しんじや)ですから、181上(うへ)から下(した)まで清浄(せいじやう)潔白(けつぱく)お金(かね)などは手(て)に触(ふ)れるのも汚(きたな)がつて居(ゐ)るものばかりです、182此(この)頃(ごろ)傭(やと)うた門番(もんばん)が一人(ひとり)御座(ござ)いまして、183其奴(そいつ)が今迄(いままで)バラモン教(けう)の信者(しんじや)であつたものですから、184二(ふた)つ目(め)にはお金(かね)の事(こと)を申(まを)しまして恥(はづ)かしう御座(ござ)います、185決(けつ)して私(わたくし)が申(まをし)たのでは御座(ござ)いませぬ、186悪(あ)しからず、187御(ご)主人(しゆじん)にお会(あ)ひになつても加米公(かめこう)が云(い)つたのではないと弁解(べんかい)して置(お)いて下(くだ)さい、188兎角(とかく)誤解(ごかい)の多(おほ)い世(よ)の中(なか)、189清浄(せいじやう)潔白(けつぱく)の加米公(かめこう)迄(まで)が、190門番(もんばん)の傍杖(そばづゑ)を喰(く)つて痛(いた)くない腹(はら)を探(さぐ)られるのも余(あんま)り心持(こころもち)の好(い)い門(もん)ぢや御座(ござ)いませぬ』
191と初(はじ)めの作(つく)り声(ごゑ)をいつしか忘(わす)れて元(もと)の地声(ぢごゑ)になつて仕舞(しま)ひける。
192高姫(たかひめ)『ホヽヽそれでも貴方(あなた)のお声(こゑ)が好(よ)く似(に)てますナア、193初(はじめ)の方(はう)は違(ちが)ふ方(かた)かと思(おも)ひましたが、194矢張(やつぱり)最前(さいぜん)のお声(こゑ)の持主(もちぬし)、195ようマアお化(ば)け遊(あそ)ばすなア、196大化物(おほばけもの)の瑞霊(みづみたま)の乾児(こぶん)だけあつて化(ば)ける事(こと)は奇妙(きめう)なものだ。197ホヽヽヽヽ』
198 加米公(かめこう)は又(また)もや作(つく)り声(ごゑ)になつて、
199加米公『イエイエ決(けつ)して決(けつ)して、200初(はじめ)の内(うち)は私(わたくし)の地声(ぢごゑ)で御座(ござ)いました、201中途(ちうと)に新米(しんまい)門番(もんばん)の生霊(いきりやう)が憑(つ)きやがつて云(い)つたのです、202夫(そ)れで新米(しんまい)門番(もんばん)其儘(そつくり)の声(こゑ)が出(で)ました。203アハヽヽヽ』
204と笑(わら)ひに紛(まぎ)らさうとする。
205銀公(ぎんこう)『アハヽヽヽ、206地獄(ぢごく)の沙汰(さた)も加米(かめ)次第(しだい)だな』
207加米公(かめこう)『地獄(ぢごく)の沙汰(さた)も加米(かめ)と銀公(ぎんこう)とで埒(らち)が明(あ)く世(よ)の中(なか)だ。208アハヽヽヽ、209サアサアお二人(ふたり)のお方(かた)、210トツトとお入(はい)り遊(あそ)ばせ』
211 二人(ふたり)は定(きま)つた事(こと)だと云(い)はぬ許(ばか)りに大手(おほて)を振(ふ)り大股(おほまた)に意気(いき)揚々(やうやう)として、212のそりのそりとのさばり行(ゆ)く。213二人(ふたり)は玄関(げんくわん)にヌツと立(た)つて家(いへ)の様子(やうす)を覗(のぞ)き込(こ)むやうな、214覗(のぞ)かぬやうな体(てい)に聞(き)き耳(みみ)立(た)てて居(ゐ)る。215玄関(げんくわん)の障子(しやうじ)をさつと開(ひら)いて現(あら)はれ出(い)でたる一人(ひとり)の男(をとこ)、
216男『オー貴方(あなた)は高姫(たかひめ)さま、217青彦(あおひこ)さま、218此(この)間(あひだ)は豪(えら)いお気(き)の毒(どく)な御(ご)災難(さいなん)が御座(ござ)いまして、219其(その)後(ご)一度(いちど)お見舞(みまひ)に参(まゐ)らうと思(おも)つては居(ゐ)ませぬが、220随分(ずゐぶん)お火傷(やけど)なさいましたさうで、221水責(みづぜめ)、222火責(ひぜめ)、223煙責(けぶりぜめ)、224眼(め)から火(ひ)の出(で)の神(かみ)様(さま)、225青息(あをいき)吐息(といき)の顔(かほ)真青(まつさを)な青彦(あをひこ)さま、226ようマア態々(わざわざ)、227お尋(たづ)ね下(くだ)さりやがつた。228マアマア御(ご)遠慮(ゑんりよ)がありますれば、229御(ご)用事(ようじ)無(な)く、230とつとと入(はい)りやがるな』
231と云(い)ふかと見(み)ればプスリと姿(すがた)は消(き)えにける。232二人(ふたり)は玄関(げんくわん)に立(た)ちながら、
233高姫(たかひめ)『これだから化物教(ばけものけう)だと云(い)ふのだよ、234青彦(あをひこ)さま、235これだから私(わたくし)に随(つ)いて実地(じつち)教育(けういく)を受(う)けねば駄目(だめ)だと云(い)ふのだよ、236日(ひ)の出神(でのかみ)の眼力(がんりき)は違(ちが)やしよまいがな』
237青彦(あをひこ)『本当(ほんたう)にさうです、238いやもう恐(おそ)れ入谷(いりや)の鬼子(きし)母神(もじん)ですワ』
239高姫(たかひめ)『ソンナ剽軽(へうきん)な事(こと)を云(い)うてはなりませぬ。240お前(まへ)も何(ど)うやらすると瑞(みづ)の霊(みたま)の悪霊(あくれい)に憑依(ひようい)されたと見(み)える、241些(ちつ)と確(しつか)りなさらぬかい』
242 此(この)時(とき)奥(おく)の方(はう)より紅葉姫(もみぢひめ)は淑(しと)やかに此(この)場(ば)に現(あら)はれ、
243紅葉姫『これはこれはお二人(ふたり)のお方(かた)、244夜中(やちう)にお越(こ)し下(くだ)さいましたのは何(なに)か変(か)はつた事(こと)が在(おは)すのでは御座(ござ)いませぬか、245兎(と)も角(かく)お上(あが)り下(くだ)さいまして御(ご)休息(きうそく)の上(うへ)、246御用(ごよう)の趣(おもむき)仰(あふ)せ聞(き)け下(くだ)さいませ』
247高姫(たかひめ)『左様(さやう)ならば遠慮(ゑんりよ)なく御免(ごめん)蒙(かうむ)ります、248サア青彦(あをひこ)、249貴方(あなた)も随(つ)いて来(き)なさい、250随分(ずゐぶん)気(き)をつけて油断(ゆだん)せぬやう眼(まなこ)を八方(はつぱう)に配(くば)るのだよ』
251紅葉姫(もみぢひめ)『私方(わたくしかた)は三五教(あななひけう)の信者(しんじや)、252善(ぜん)の道(みち)を遵奉(じゆんぽう)するもの、253御(ご)心配(しんぱい)下(くだ)さるな、254滅多(めつた)に陥穽(おとしあな)もありませぬ、255又(また)地(ち)の底(そこ)に魔窟(まくつ)ケ原(はら)のやうな隠(かく)れ場所(ばしよ)も造(つく)つては御座(ござ)いませぬ、256マア悠(ゆつ)くりと、257安心(あんしん)して胴(どう)を据(す)ゑて下(くだ)さいませ』
258高姫(たかひめ)『此(この)間(あひだ)は御(ご)主人(しゆじん)様(さま)はお気(き)の毒(どく)な事(こと)で御座(ござ)いましたなア、259何(ど)うぞ霊様(みたまさま)なりと拝(をが)まして下(くだ)さい、260三五教(あななひけう)を信仰(しんかう)なさつても矢張(やつぱり)悪魔(あくま)には叶(かな)はぬと見(み)えます、261大江山(おほえやま)の鬼雲彦(おにくもひこ)の部下(てした)に捕(とら)へられ嬲殺(なぶりごろ)しにお遭(あ)ひなさつたさうだが、262私(わたくし)が聞(き)いても涙(なみだ)が澪(こぼ)れる、263况(ま)して女房(にようばう)の貴女(あなた)、264御(ご)愁傷(しうしやう)の程(ほど)お察(さつ)し申(まを)します』
265と、266そつと目(め)に唾(つばき)をつけ、267オンオンと空泣(そらな)きに泣(な)き立(た)てる。268青彦(あをひこ)はポカンとして紅葉姫(もみぢひめ)の顔(かほ)を見詰(みつ)めて居(を)る。269高姫(たかひめ)は青彦(あをひこ)の裾(すそ)をそつと引(ひ)き、270泣(な)き真似(まね)をせよと合図(あひづ)をする、271青彦(あをひこ)は些(すこ)しも合点(がてん)行(ゆ)かず、
272青彦『エ何(なん)ですか、273私(わたくし)の着物(きもの)に何(なん)ぞ着(つ)いて居(を)りますか、274甚(ひど)う引(ひ)つ張(ぱ)りなさいますな』
275紅葉姫(もみぢひめ)『オホヽヽヽ、276それは御(ご)親切(しんせつ)有難(ありがた)う御座(ござ)います、277私(わたくし)の主人(しゆじん)は無事(ぶじ)帰(かへ)つて参(まゐ)りました、278これも全(まつた)く三五教(あななひけう)の御(ご)神徳(しんとく)で御座(ござ)います、279余(あま)り三五教(あななひけう)の勢力(せいりよく)が強(つよ)いので嫉(ねた)み猜(そね)みから、280ウラナイ教(けう)とやらが出来(でき)て、281其処(そこ)ら中(ぢう)を掻(か)き廻(まは)して歩(ある)くと云(い)ふ事(こと)で御座(ござ)います、282よう人(ひと)の真似(まね)の流行(はや)る世(よ)の中(なか)、283人(ひと)が成功(せいこう)したからと云(い)うて自分(じぶん)が其(その)真似(まね)をして向(むか)ふを張(は)らうと思(おも)つても、284身魂(みたま)の因縁(いんねん)性来(しやうらい)で到底(たうてい)思惑(おもわく)は立(た)つものぢやありませぬ、285貴女(あなた)はウラナイ教(けう)の宣伝使(せんでんし)とお見受(みうけ)致(いた)しますが、286一体(いつたい)ウラナイ教(けう)はドンナ教(をしへ)で御座(ござ)いますか』
287高姫(たかひめ)『三五教(あななひけう)はあれは元(もと)は好(よ)かつたが、288今(いま)は薩張(さつぱ)り駄目(だめ)です、289三五教(あななひけう)の誠(まこと)生粋(きつすゐ)の根本(こつぽん)は、290日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)、291この高姫(たかひめ)が何(なに)も彼(か)もこの世(よ)の開(ひら)けた根本(こつぽん)の初(はじま)りから、292万劫(まんがふ)末代(まつだい)の世(よ)の事(こと)、293何一(なにひと)つ知(し)らぬと云(い)ふものはないウラナイ教(けう)です、294それだから誰(たれ)にも聞(き)かずにお家(うち)の御(ご)主人(しゆじん)秋山彦(あきやまひこ)様(さま)の御(ご)遭難(さうなん)もチヤンと分(わか)つて居(ゐ)るのです、295ナンとウラナイ教(けう)は立派(りつぱ)なものでせうがナ』
296紅葉姫(もみぢひめ)『死(し)ンでも居(ゐ)ない吾(わが)夫(をつと)秋山彦(あきやまひこ)を死人(しにん)扱(あつか)ひなさるのは、297如何(いか)にも好(よ)く分(わか)つた偉(えら)い神(かみ)様(さま)ですなア、298秋山彦(あきやまひこ)はピンピンして居(を)りますよ』
299高姫(たかひめ)『それは貴女(あなた)身魂(みたま)の因縁(いんねん)をご存(ぞん)じないからソンナ理屈(りくつ)を仰有(おつしや)るが、300三五教(あななひけう)で一旦(いつたん)大江山(おほえやま)に囚(とら)はれ死(し)ンだ処(ところ)を、301此(この)高姫(たかひめ)が日(ひ)の出神(でのかみ)の水火(いき)を遠隔(ゑんかく)の地(ち)よりかけて、302神霊(しんれい)の注射(ちうしや)をやつたから生返(いきかへ)つたのだよ、303サアこれからは心(こころ)を改(あらた)めてウラナイ教(けう)に改宗(かいしう)なされ』
304紅葉姫(もみぢひめ)『朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも、305月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも、306仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも、307三五教(あななひけう)は世(よ)を救(すく)ふ、308誠(まこと)の神(かみ)の御(おん)教(をしへ)、309ウラナイ教(けう)はどうしても虫(むし)が好(す)きませぬ、310合縁(あひえん)奇縁(きえん)蓼喰(たでく)ふ虫(むし)も好(す)き好(ず)き、311えぐい煙草(たばこ)の葉(は)にも虫(むし)がつく、312改宗(かいしう)するのは見合(みあは)しませう、313いや絶対(ぜつたい)に嫌(いや)ですワ、314ホヽヽヽヽ』
315 奥(おく)の方(はう)より秋山彦(あきやまひこ)の声(こゑ)がして、
316秋山彦『紅葉姫(もみぢひめ)紅葉姫(もみぢひめ)』
317と聞(きこ)え来(きた)る。
318『ハイ』と答(こた)へて紅葉姫(もみぢひめ)は二人(ふたり)に軽(かる)く会釈(ゑしやく)して奥(おく)の間(ま)さして進(すす)み入(い)る。
319 二人(ふたり)は紅葉姫(もみぢひめ)の後姿(うしろすがた)を目送(もくそう)しながら眼(め)を転(てん)じて額(がく)を見(み)れば、320額(がく)の裏(うら)に鍵(かぎ)の端(はし)が現(あら)はれて居(を)る。321高姫(たかひめ)は立上(たちあが)り、322手(て)に取(と)り見(み)れば冠島(かむりじま)沓島(くつじま)の宝庫(はうこ)の鍵(かぎ)と記(しる)されてある。323高姫(たかひめ)はニヤリと笑(わら)ひ、324これさへあれば大願(たいぐわん)成就(じやうじゆ)と手早(てばや)く懐中(くわいちゆう)に捻込(ねぢこ)み素知(そし)らぬ顔(かほ)、325青彦(あをひこ)はがたがた慄(ふる)ひ出(だ)し、
326青彦(あをひこ)『もしもし高姫(たかひめ)さま、327ソヽそれは何(なん)と云(い)ふ事(こと)をなされます、328当家(たうけ)の什物(じふもつ)を貴女(あなた)の懐中(くわいちゆう)にお入(い)れ遊(あそ)ばすとは合点(がてん)が参(まゐ)りませぬ』
329高姫(たかひめ)『シーツ、330エヽ融通(ゆうづう)の利(き)かぬ男(をとこ)だな、331日(ひ)の出神(でのかみ)の御(ご)命令(めいれい)だ、332此家(ここ)に冠島(かむりじま)沓島(くつじま)の鍵(かぎ)を持(も)つて居(を)る事(こと)は天眼通(てんがんつう)でチヤンと睨(にら)みてある、333之(これ)をかぎ出(だ)す為(ため)にやつて来(き)たのだよ、334サアサア今(いま)の中(うち)に夜(よ)に紛(まぎ)れて此処(ここ)を立(た)ち去(さ)り船(ふね)を拵(こしら)へ冠島(かむりじま)に渡(わた)りませう』
335と先(さき)に立(た)つて行(ゆ)かむとする。
336青彦(あをひこ)『一応(いちおう)当家(たうけ)の方々(かたがた)に御(ご)挨拶(あいさつ)を申上(まをしあ)げねばなりますまい、337何(なん)だか心懸(こころがか)りでなりませぬわい』
338高姫(たかひめ)『エヽ合点(がてん)の悪(わる)い、339愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(を)る時(とき)ぢやない、340時期(じき)切迫(せつぱく)間髪(かんぱつ)を容(い)れずと云(い)ふこの場合(ばあひ)だ。341大功(たいこう)は細瑾(さいきん)を顧(かへり)みず細君(さいくん)は夫(をつと)を顧(かへり)みず、342神国(しんこく)成就(じやうじゆ)の為(ため)に沐雨(もくう)櫛風(しつぷう)、343獅子(しし)奮迅(ふんじん)の大活動(だいくわつどう)早(はや)く御座(ござ)れ』
344と裏門(うらもん)よりそつと此(この)家(や)を逃出(にげだ)したり。345秋山彦(あきやまひこ)邸内(ていない)の者(もの)は一人(ひとり)として二人(ふたり)の者(もの)の逃走(たうそう)せし事(こと)に気(き)が付(つ)かざりける。346二人(ふたり)は由良(ゆら)の港(みなと)に駆(か)けつけ一艘(いつそう)の小船(こぶね)を○○(まるまる)し、347青彦(あをひこ)は艪(ろ)を操(あやつ)り、348高姫(たかひめ)は櫂(かい)を漕(こ)ぎ一生(いつしやう)懸命(けんめい)月(つき)照(て)る海原(うなばら)を漕(こ)ぎ出(だ)したりける。
349(大正一一・四・一五 旧三・一九 加藤明子録)
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