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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第16巻(卯の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 神軍霊馬
第1章 天橋立
第2章 暗夜の邂逅
第3章 門番の夢
第4章 夢か現か
第5章 秋山館
第6章 石槍の雨
第7章 空籠
第8章 衣懸松
第9章 法螺の貝
第10章 白狐の出現
第2篇 深遠微妙
第11章 宝庫の鍵
第12章 捜索隊
第13章 神集の玉
第14章 鵜呑鷹
第15章 谷間の祈
第16章 神定の地
第17章 谷の水
第3篇 真奈為ケ原
第18章 遷宅婆
第19章 文珠如来
第20章 思はぬ歓
第21章 御礼参詣
跋
霊の礎(一)
霊の礎(二)
余白歌
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霊界物語
>
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第16巻(卯の巻)
> 第2篇 深遠微妙 > 第14章 鵜呑鷹
<<< 神集の玉
(B)
(N)
谷間の祈 >>>
第一四章
鵜呑鷹
(
うのみだか
)
〔六〇四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻
篇:
第2篇 深遠微妙
よみ(新仮名遣い):
しんえんびみょう
章:
第14章 鵜呑鷹
よみ(新仮名遣い):
うのみだか
通し章番号:
604
口述日:
1922(大正11)年04月15日(旧03月19日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年12月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫を拘束した亀彦・鬼武彦は、高姫が取引の場として指定した田辺の港にこぎ寄せた。しかし港に着くと高姫と青彦はひらりと舟から飛び降りて、闇の中に姿をくらましてしまった。
亀彦はがっかりして由良の港へ帰っていく。鬼武彦は高姫らを捜索すると言ってどこかへ姿を消してしまった。亀彦の体たらくを見た従者たちは密かに非難を浴びせている。
秋山彦の館に戻ると、亀彦はこのたびの不始末を詫びるとして、切腹してしまう。秋山彦や英子姫が悲嘆に暮れていると、表門から高姫・青彦を捕らえた鬼武彦が入ってきた。
切腹したと見えたのは、亀彦に扮した白狐であった。本物の亀彦は鬼武彦とともに、高姫を捕らえて帰ってきたのであった。
奥には秋山彦が用意した祝宴の席が設けられていた。高姫は捕らえられながらも悪口雑言をしきりに発している。
そしてやおらに如意宝珠の玉をとりだすと、餅のように軟らかくして飲み込んでしまった。そして、宇宙の縮図たる如意宝珠の玉を飲んだ自分は宇宙と同体であるから、崇めよ、と一同を睥睨する。
怒った亀彦、秋山彦が猛烈な勢いで高姫に斬りかかると、高姫は白煙と化して逃げてしまった。鬼武彦がその後を追う。残された青彦はその場に震えていた。
一同は神前に祝詞を上げると、英子姫、悦子姫、亀彦の三人は秋山彦に別れを告げ、由良川をさかのぼって聖地に上ることになった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-02-05 18:08:18
OBC :
rm1614
愛善世界社版:
167頁
八幡書店版:
第3輯 462頁
修補版:
校定版:
172頁
普及版:
75頁
初版:
ページ備考:
001
亀彦
(
かめひこ
)
は
艪
(
ろ
)
を
漕
(
こ
)
ぎ
乍
(
なが
)
ら、
002
海風
(
うなかぜ
)
に
向
(
むか
)
つて、
003
亀彦
(
かめひこ
)
『
田辺
(
たなべ
)
見
(
み
)
たさに
松原
(
まつばら
)
越
(
こ
)
せば、
004
田辺
(
たなべ
)
隠
(
かく
)
しの
霧
(
きり
)
がこむ』
005
と
船唄
(
ふなうた
)
面白
(
おもしろ
)
く、
006
遂
(
つひ
)
に
竹島
(
たけしま
)
、
007
博奕
(
ばくち
)
ケ
岬
(
さき
)
、
008
目
(
め
)
の
白黒岩
(
しろくろいは
)
を
越
(
こ
)
え、
009
松原
(
まつばら
)
を
右手
(
めて
)
に
眺
(
なが
)
め、
010
蛇島
(
じやじま
)
、
011
広島
(
ひろしま
)
左手
(
ゆんで
)
に
眺
(
なが
)
めて、
012
やうやう
十七夜
(
じふしちや
)
の
黄昏
(
たそがれ
)
過
(
す
)
ぐる
頃
(
ころ
)
、
013
田辺
(
たなべ
)
の
湊
(
みなと
)
に
安着
(
あんちやく
)
したり。
014
咫尺
(
しせき
)
を
弁
(
べん
)
ぜぬ
宵闇
(
よひやみ
)
の
空
(
そら
)
、
015
高姫
(
たかひめ
)
、
016
青彦
(
あをひこ
)
は、
017
船
(
ふね
)
の
横着
(
よこづ
)
けになるを
待
(
ま
)
ち
兼
(
か
)
ね、
018
ヒラリと
飛上
(
とびあが
)
り、
019
暗
(
やみ
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
しける。
020
亀彦
(
かめひこ
)
『ヤア
高姫
(
たかひめ
)
は
居
(
を
)
らぬか、
021
青彦
(
あをひこ
)
は
何処
(
いづく
)
ぞ……
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
様
(
さま
)
どう
致
(
いた
)
しませう』
022
暗
(
くら
)
がりの
中
(
なか
)
より、
023
青彦
(
あをひこ
)
、
024
高姫
(
たかひめ
)
の
声
(
こゑ
)
、
025
高姫、青彦
『アハヽヽヽ、
026
オホヽヽヽ、
027
大
(
おほ
)
きに
憚
(
はばか
)
りさま、
028
此
(
この
)
玉
(
たま
)
渡
(
わた
)
してなるものかい、
029
……
皆
(
みな
)
さま、
030
アバヨ、
031
アリヨース』
032
と
冷嘲
(
れいてう
)
的
(
てき
)
怪声
(
くわいせい
)
を
漏
(
も
)
らし、
033
何処
(
どこ
)
ともなく、
034
闇
(
やみ
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せたり。
035
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
、
036
亀彦
(
かめひこ
)
は
直
(
ただ
)
ちに
船
(
ふね
)
を
飛
(
と
)
びあがり、
037
鬼武彦、亀彦
『アー
失敗
(
しま
)
つた、
038
由良
(
ゆら
)
の
湊
(
みなと
)
へ
着
(
つ
)
けさへすれば、
039
コンナ
事
(
こと
)
も
無
(
な
)
かつたらうに、
040
……
高姫
(
たかひめ
)
の
言
(
げん
)
に
従
(
したが
)
ひ、
041
田辺
(
たなべ
)
へ
着
(
つ
)
けたのが
此方
(
こちら
)
の
不覚
(
ふかく
)
……エー
仕方
(
しかた
)
がない、
042
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つかけようにも
真
(
しん
)
の
暗
(
やみ
)
、
043
一先
(
ひとま
)
づ
秋山彦
(
あきやまひこ
)
の
館
(
やかた
)
に
立帰
(
たちかへ
)
り、
044
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
を
致
(
いた
)
しませう』
045
と
力
(
ちから
)
無
(
な
)
げに
物語
(
ものがた
)
りつつ、
046
由良
(
ゆら
)
の
湊
(
みなと
)
を
指
(
さ
)
して、
047
テクの
継続
(
けいぞく
)
をなし、
048
由良
(
ゆら
)
の
湊
(
みなと
)
の
少
(
すこ
)
し
手前
(
てまへ
)
まで
一行
(
いつかう
)
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
る
折
(
をり
)
しも、
049
東天
(
とうてん
)
を
照
(
てら
)
して
昇
(
のぼ
)
り
来
(
く
)
る
十七夜
(
じふしちや
)
の、
050
楕円形
(
だゑんけい
)
の
月
(
つき
)
松
(
まつ
)
の
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
に
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はし、
051
一同
(
いちどう
)
を
冷笑
(
れいせう
)
し
給
(
たま
)
ふ
如
(
ごと
)
く
見
(
み
)
えける。
052
凩
(
こがらし
)
まがひの
寒風
(
かんぷう
)
は
容赦
(
ようしや
)
なく
向
(
むか
)
う
面
(
づら
)
に
突
(
つ
)
き
当
(
あた
)
り、
053
四辺
(
あたり
)
の
木々
(
きぎ
)
は
時
(
とき
)
ならぬ
笛
(
ふえ
)
を
吹
(
ふ
)
き
立
(
た
)
て、
054
一行
(
いつかう
)
の
失敗
(
しつぱい
)
を
囃
(
はや
)
すが
如
(
ごと
)
く
聞
(
きこ
)
え
来
(
き
)
たりぬ。
055
亀彦
(
かめひこ
)
『アー
怪体
(
けつたい
)
の
悪
(
わる
)
い、
056
丸
(
まる
)
で
高姫
(
たかひめ
)
のお
伴
(
とも
)
をした
様
(
やう
)
なものだ。
057
仮令
(
たとへ
)
高姫
(
たかひめ
)
天
(
てん
)
を
翔
(
かけ
)
り、
058
地
(
ち
)
を
潜
(
くぐ
)
るとも、
059
彼女
(
あれ
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
たづ
)
ね、
060
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
を
取返
(
とりかへ
)
さで
置
(
お
)
くべきか』
061
と
大道
(
だいだう
)
の
正中
(
まんなか
)
に
地団駄
(
ぢだんだ
)
踏
(
ふ
)
み、
062
遂
(
つひ
)
には
胡坐
(
あぐら
)
をかいて
動
(
うご
)
かなくなりぬ。
063
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
は、
064
鬼武彦
『ヤア
亀彦
(
かめひこ
)
殿
(
どの
)
、
065
斯
(
か
)
うなる
上
(
うへ
)
は、
066
悔
(
くや
)
みても
復
(
かへ
)
らぬ
事
(
こと
)
、
067
草
(
くさ
)
を
分
(
わ
)
けても
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
が
行衛
(
ゆくへ
)
を
探
(
さが
)
し、
068
玉
(
たま
)
を
取返
(
とりかへ
)
すより
外
(
ほか
)
に
途
(
みち
)
は
御座
(
ござ
)
らぬ。
069
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
吾
(
わ
)
れは
秋山彦
(
あきやまひこ
)
に
会
(
あ
)
はす
顔
(
かほ
)
なし、
070
是
(
こ
)
れよりお
暇
(
いとま
)
申
(
まを
)
す』
071
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
072
白煙
(
しろけぶり
)
となつて
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
しぬ。
073
秋山彦
(
あきやまひこ
)
が
家
(
いへ
)
の
子
(
こ
)
十数
(
じふすう
)
人
(
にん
)
は
当惑
(
たうわく
)
の
態
(
てい
)
にて、
074
如何
(
いかが
)
はせむと、
075
各自
(
めいめい
)
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み、
076
歎
(
なげ
)
息
(
いき
)
の
声
(
こゑ
)
暫
(
しば
)
しはやまざりにけり。
077
甲
(
かふ
)
『もしもし
亀彦
(
かめひこ
)
さま、
078
あなたが
左様
(
さう
)
気投
(
きな
)
げして
貰
(
もら
)
つては、
079
吾々
(
われわれ
)
はどう
致
(
いた
)
したら
宜
(
よ
)
いのですか、
080
館
(
うち
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
に、
081
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つてお
詫
(
わび
)
を
致
(
いた
)
しませうやら、
082
報告
(
はうこく
)
の
仕方
(
しかた
)
がありませぬ』
083
亀彦
(
かめひこ
)
『
有態
(
ありてい
)
の
通
(
とほ
)
り
報告
(
はうこく
)
すれば
良
(
い
)
いぢやないか。
084
俺
(
おれ
)
はモウ
是
(
こ
)
れ
限
(
かぎ
)
り、
085
秋山彦
(
あきやまひこ
)
の
館
(
やかた
)
へは
帰
(
かへ
)
らない。
086
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
つて
主人
(
しゆじん
)
夫婦
(
ふうふ
)
を
始
(
はじ
)
め、
087
英子姫
(
ひでこひめ
)
、
088
悦子姫
(
よしこひめ
)
に
此
(
この
)
由
(
よし
)
伝
(
つた
)
へて
呉
(
く
)
れよ』
089
甲
(
かふ
)
『
夫
(
そ
)
れは
又
(
また
)
あまり、
090
……ご
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
や、
091
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
宣伝使
(
せんでんし
)
が
首
(
くび
)
を
長
(
なが
)
うして
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
られます。
092
後
(
あと
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も、
093
一度
(
いちど
)
御
(
お
)
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
094
亀彦
(
かめひこ
)
『………』
095
乙
(
おつ
)
『
夫
(
そ
)
れだから、
096
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
腰抜
(
こしぬけ
)
だと、
097
俺
(
おれ
)
は
何時
(
いつ
)
も
言
(
い
)
ふのだよ。
098
ウラナイ
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
の
敏捷
(
すばしこ
)
い
事
(
こと
)
を
見
(
み
)
たか、
099
岩
(
いは
)
の
中
(
なか
)
で、
100
閉
(
と
)
ぢこめられて
居
(
ゐ
)
ても、
101
あれ
位
(
くらゐ
)
な
談判
(
だんぱん
)
をしよる。
102
喉元
(
のどもと
)
に
刃
(
やいば
)
を
突
(
つ
)
き
付
(
つ
)
けられて
居乍
(
ゐなが
)
ら、
103
逆様
(
さかさま
)
に
其
(
その
)
刀
(
かたな
)
で、
104
押
(
おさ
)
へた
奴
(
やつ
)
の
首
(
くび
)
を
切
(
き
)
る
様
(
やう
)
な
妙案
(
めうあん
)
奇策
(
きさく
)
をやつたぢやないか。
105
亀彦
(
かめひこ
)
なぞと、
106
コンナ
我羅苦多
(
がらくた
)
宣伝使
(
せんでんし
)
に
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
くものだから、
107
生
(
うま
)
れてから
無
(
な
)
い
様
(
やう
)
な
赤恥
(
あかはぢ
)
を
天地
(
てんち
)
に
曝
(
さら
)
させられたのだ。
108
アーア、
109
どうして
是
(
こ
)
れが、
110
主人
(
しゆじん
)
に
顔
(
かほ
)
が
会
(
あ
)
はされよう』
111
丙
(
へい
)
『ソンナ
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つたつて
仕方
(
しかた
)
がない。
112
死
(
し
)
んだ
子
(
こ
)
の
年
(
とし
)
を
数
(
かぞ
)
へる
様
(
やう
)
なものだ。
113
何事
(
なにごと
)
も
諦
(
あきら
)
めが
肝腎
(
かんじん
)
だ。
114
悪人
(
あくにん
)
の
栄
(
さか
)
え
善人
(
ぜんにん
)
の
衰
(
おとろ
)
へる
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だもの、
115
善人
(
ぜんにん
)
が
瞞
(
だま
)
されるのは
無理
(
むり
)
もない。
116
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
益々
(
ますます
)
三五教
(
あななひけう
)
の
正
(
ただ
)
しい
事
(
こと
)
に
感心
(
かんしん
)
した。
117
サア
亀彦
(
かめひこ
)
様
(
さま
)
、
118
ソンナ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
らずに
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
りませう』
119
亀彦
(
かめひこ
)
『サア
行
(
ゆ
)
かう、
120
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
が
如何
(
どん
)
な
意見
(
いけん
)
を
持
(
も
)
つてるかと
思
(
おも
)
つて、
121
一寸
(
ちよつと
)
探
(
さぐ
)
つて
見
(
み
)
たのだよ。
122
ナアニ
玉
(
たま
)
位
(
ぐらゐ
)
奪
(
と
)
られた
所
(
ところ
)
で、
123
どつかに
匿
(
かく
)
してある。
124
滅多
(
めつた
)
に
地獄
(
ぢごく
)
の
底
(
そこ
)
迄
(
まで
)
隠
(
かく
)
しても
居
(
を
)
るまい。
125
ウラナイ
教
(
けう
)
の
本陣
(
ほんぢん
)
へ
乗込
(
のりこ
)
みて、
126
有無
(
うむ
)
を
言
(
い
)
はせず、
127
とつ
返
(
かへ
)
して
呉
(
く
)
れる。
128
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
是
(
こ
)
れは
時日
(
じじつ
)
の
問題
(
もんだい
)
だ。
129
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
、
130
何事
(
なにごと
)
も
亀彦
(
かめひこ
)
に
任
(
まか
)
せよ。
131
心配
(
しんぱい
)
致
(
いた
)
すな。
132
サア
行
(
ゆ
)
かう』
133
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ちて
勢
(
いきほひ
)
よく、
134
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し、
135
聞直
(
ききなほ
)
し、
136
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
しつつ、
137
由良
(
ゆら
)
の
湊
(
みなと
)
の
秋山彦
(
あきやまひこ
)
が
館
(
やかた
)
を
指
(
さ
)
して、
138
一行
(
いつかう
)
十五六
(
じふごろく
)
人
(
にん
)
、
139
スタスタと
帰
(
かへ
)
り
着
(
つ
)
きける。
140
亀彦
(
かめひこ
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
141
表門
(
おもてもん
)
を
力
(
ちから
)
無
(
な
)
げに
潜
(
くぐ
)
り
入
(
い
)
らむとする
時
(
とき
)
、
142
門番
(
もんばん
)
の
銀公
(
ぎんこう
)
は
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ、
143
銀公
『ヤア
亀彦
(
かめひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
144
お
手柄
(
てがら
)
お
手柄
(
てがら
)
、
145
あなたのお
蔭
(
かげ
)
で、
146
一旦
(
いつたん
)
敵
(
てき
)
に
奪
(
と
)
られたる
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
珠
(
たま
)
も、
147
鍵
(
かぎ
)
も、
148
首尾
(
しゆび
)
能
(
よ
)
く
手
(
て
)
に
入
(
い
)
りまして、
149
さぞ
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
も
御
(
お
)
喜
(
よろこ
)
びで
御座
(
ござ
)
いませう。
150
主人
(
しゆじん
)
も
喜
(
よろこ
)
び、
151
奥様
(
おくさま
)
もお
喜
(
よろこ
)
び、
152
第一
(
だいいち
)
あなたのお
喜
(
よろこ
)
び、
153
従
(
つ
)
いて
往
(
い
)
つた
奴
(
やつ
)
等
(
ら
)
の
喜
(
よろこ
)
び、
154
共
(
とも
)
に
私
(
わたくし
)
もお
喜
(
よろこ
)
びだ。
155
流石
(
さすが
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
156
ヤアもう
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
つて
御座
(
ござ
)
います。
157
奥
(
おく
)
には
貴方
(
あなた
)
の
成功
(
せいこう
)
を
祝
(
しゆく
)
する
為
(
ため
)
、
158
海山
(
うみやま
)
河野
(
かはぬの
)
種々
(
くさぐさ
)
の
馳走
(
ちそう
)
を
拵
(
こしら
)
へ、
159
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
麗
(
うるは
)
しく、
160
お
待兼
(
まちかね
)
で
御座
(
ござ
)
います。
161
吾々
(
われわれ
)
も
御
(
ご
)
同慶
(
どうけい
)
に
堪
(
た
)
へませぬ』
162
とイソイソと、
163
肩
(
かた
)
をゆすぶり、
164
はしやいで
居
(
ゐ
)
る。
165
亀彦
(
かめひこ
)
は
軽
(
かる
)
く
目礼
(
もくれい
)
し、
166
トボトボと
奥
(
おく
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
167
銀公
(
ぎんこう
)
『オイ
岩公
(
いはこう
)
、
168
市公
(
いちこう
)
、
169
どうぢやつた。
170
随分
(
ずゐぶん
)
面白
(
おもしろ
)
かつたらうな』
171
岩公
(
いはこう
)
肩
(
かた
)
を
聳
(
そび
)
やかし、
172
岩公
『きまつた
事
(
こと
)
だよ。
173
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
の
剛力
(
がうりき
)
男
(
をとこ
)
の
岩公
(
いはこう
)
のお
出
(
いで
)
だもの、
174
高姫
(
たかひめ
)
の
一疋
(
いつぴき
)
や
二疋
(
にひき
)
は、
175
屁
(
へ
)
のお
茶
(
ちや
)
だ。
176
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
も
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
なものだよ。
177
とうと
玉
(
たま
)
を
奪
(
と
)
られやがつてなア……』
178
銀公
(
ぎんこう
)
『ナニ?
玉
(
たま
)
を
奪
(
と
)
られたとは、
179
それや
本当
(
ほんたう
)
か』
180
岩公
(
いはこう
)
『ウン、
181
奪
(
と
)
られた……でもない、
182
マア……
奪
(
うば
)
つたのだ』
183
銀公
(
ぎんこう
)
『どちらが
奪
(
と
)
つたのだい』
184
岩公
(
いはこう
)
『マアマア
奪
(
と
)
つた
奴
(
やつ
)
が
奪
(
と
)
つたのだ。
185
奪
(
と
)
られた
奴
(
やつ
)
が、
186
奪
(
と
)
られた……と
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
なものかいナ』
187
銀公
(
ぎんこう
)
『
高姫
(
たかひめ
)
は、
188
折角
(
せつかく
)
奪
(
と
)
つた
玉
(
たま
)
を、
189
フンだくられやがつて、
190
妙
(
めう
)
な
顔
(
かほ
)
しただらうな』
191
岩公
(
いはこう
)
『ウンさうだ。
192
……
何分
(
なにぶん
)
一
(
いち
)
の
暗
(
くら
)
みの
事
(
こと
)
で、
193
鼻
(
はな
)
摘
(
つま
)
まれても
分
(
わか
)
らぬ
位
(
くらゐ
)
だから、
194
ドンナ
顔
(
かほ
)
したか
知
(
し
)
らぬが、
195
一方
(
いつぱう
)
は
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
、
196
一方
(
いつぱう
)
は
意気
(
いき
)
消沈
(
せうちん
)
、
197
屠所
(
としよ
)
に
曳
(
ひ
)
かるる
羊
(
ひつじ
)
の
如
(
ごと
)
しだ。
198
お
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
なりける
次第
(
しだい
)
なりけりだ』
199
銀公
(
ぎんこう
)
『マアマア
結構
(
けつこう
)
だ。
200
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
及
(
およ
)
び
鍵
(
かぎ
)
が
戻
(
もど
)
つた
以上
(
いじやう
)
は、
201
今晩
(
こんばん
)
はお
祝酒
(
いはひざけ
)
でもドツサリ
戴
(
いただ
)
けるかなア』
202
市公
(
いちこう
)
『あまり
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
では
言
(
い
)
はれぬが、
203
サツパリぢや』
204
銀公
(
ぎんこう
)
『
何
(
なに
)
がサツパリぢや』
205
市公
(
いちこう
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
サツパリコンと、
206
蛸
(
たこ
)
があげ
壺
(
つぼ
)
喰
(
く
)
つた
様
(
やう
)
なものだよ、
207
アフンと
致
(
いた
)
して、
208
梟鳥
(
ふくろどり
)
が
夜食
(
やしよく
)
に
外
(
はづ
)
れた
様
(
やう
)
なむつかしい
顔
(
かほ
)
を
致
(
いた
)
すと
云
(
い
)
ふ……
是
(
こ
)
れからが
幕
(
まく
)
開
(
あ
)
きだよ』
209
一同
(
いちどう
)
は
急
(
いそ
)
いで、
210
奥
(
おく
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
211
秋山彦
(
あきやまひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
を
始
(
はじ
)
め、
212
英子姫
(
ひでこひめ
)
、
213
悦子姫
(
よしこひめ
)
は
玄関
(
げんくわん
)
に、
214
亀彦
(
かめひこ
)
を
出
(
い
)
で
迎
(
むか
)
へ、
215
秋山彦
(
あきやまひこ
)
『
是
(
こ
)
れは
是
(
こ
)
れは
多大
(
いか
)
い
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
をかけました。
216
様子
(
やうす
)
は
如何
(
いかが
)
で
御座
(
ござ
)
いまするか』
217
亀彦
(
かめひこ
)
『ハイ、
218
左様
(
さやう
)
、
219
然
(
しか
)
らば
逐一
(
ちくいち
)
報告
(
はうこく
)
致
(
いた
)
しませう』
220
英子姫
(
ひでこひめ
)
『
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
嬉
(
うれ
)
しき
便
(
たよ
)
りを
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さいナ。
221
今
(
いま
)
か
今
(
いま
)
かと
時
(
とき
)
の
経
(
た
)
つのを、
222
一
(
いち
)
日
(
にち
)
千秋
(
せんしう
)
の
思
(
おも
)
ひで
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
ました。
223
何事
(
なにごと
)
にも
抜
(
ぬ
)
け
目
(
め
)
の
無
(
な
)
い
亀彦
(
かめひこ
)
さまの
事
(
こと
)
、
224
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
も
伴
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
られる
以上
(
いじやう
)
は、
225
滅多
(
めつた
)
な
不調法
(
ぶてうはふ
)
はありますまい。
226
……
大勝利
(
だいしようり
)
……
大万歳
(
だいばんざい
)
……サア
早
(
はや
)
く
面白
(
おもしろ
)
い
顛末
(
てんまつ
)
を
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
227
亀彦
(
かめひこ
)
『
只今
(
ただいま
)
詳細
(
つぶさ
)
に
言上
(
ごんじやう
)
仕
(
つかまつ
)
る』
228
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
229
両肌
(
もろはだ
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎ、
230
両刃
(
もろは
)
の
短刀
(
たんたう
)
抜
(
ぬ
)
く
手
(
て
)
も
見
(
み
)
せず、
231
左
(
ひだり
)
の
脇腹
(
わきばら
)
に、
232
グサと
突立
(
つつた
)
て
抉
(
えぐ
)
り
始
(
はじ
)
めたり。
233
英子姫
(
ひでこひめ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
其
(
その
)
手
(
て
)
に
取
(
と
)
りすがり、
234
英子姫
『ヤア
亀彦
(
かめひこ
)
殿
(
どの
)
、
235
早
(
はや
)
まり
給
(
たま
)
ふな』
236
亀彦
(
かめひこ
)
、
237
苦
(
くる
)
しき
息
(
いき
)
の
下
(
した
)
より、
238
亀彦
『
早
(
はや
)
まるなとはお
情
(
なさけ
)
無
(
な
)
い、
239
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
唯一
(
ゆいつ
)
の
御
(
お
)
宝
(
たから
)
をば、
240
オメオメとウラナイ
教
(
けう
)
の
高姫
(
たかひめ
)
の
為
(
ため
)
に
欺
(
あざむ
)
き
奪
(
と
)
られ、
241
会
(
あ
)
はす
顔
(
かほ
)
が
御座
(
ござ
)
いませぬ。
242
最早
(
もはや
)
死
(
し
)
を
決
(
けつ
)
した
某
(
それがし
)
、
243
なまじひに
止
(
と
)
め
立
(
だ
)
てして
苦
(
くるし
)
めて
下
(
くだ
)
さるな。
244
委細
(
ゐさい
)
は
岩公
(
いはこう
)
、
245
市公
(
いちこう
)
、
246
磯公
(
いそこう
)
にお
聞
(
き
)
き
下
(
くだ
)
され。
247
拙者
(
せつしや
)
は
此
(
この
)
失敗
(
しつぱい
)
の
申
(
まを
)
し
訳
(
わけ
)
に、
248
腹
(
はら
)
掻
(
か
)
き
切
(
き
)
つてお
詫
(
わび
)
申
(
まを
)
す。
249
何
(
いづ
)
れもさらば』
250
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
251
力
(
ちから
)
を
籠
(
こ
)
めて
一抉
(
ひとえぐ
)
り、
252
忽
(
たちま
)
ち
息
(
いき
)
は
絶
(
た
)
えにけり。
253
英子姫
(
ひでこひめ
)
、
254
悦子姫
(
よしこひめ
)
は『ワアツ』と
計
(
ばか
)
り、
255
亀彦
(
かめひこ
)
が
死骸
(
しがい
)
に
取
(
とり
)
つき、
256
前後
(
ぜんご
)
も
知
(
し
)
らず
泣
(
な
)
き
伏
(
ふ
)
しぬ。
257
秋山彦
(
あきやまひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
も
目
(
め
)
をしばたき、
258
黙然
(
もくねん
)
として、
259
悲歎
(
ひたん
)
の
涙
(
なみだ
)
に
袖
(
そで
)
を
絞
(
しぼ
)
る。
260
此
(
この
)
時
(
とき
)
表門
(
おもてもん
)
より
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でたる
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
、
261
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
指
(
さ
)
して
韋駄天
(
ゐだてん
)
走
(
ばし
)
りに
駆
(
か
)
け
来
(
きた
)
る。
262
見
(
み
)
れば
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
、
263
青彦
(
あをひこ
)
の
二人
(
ふたり
)
を
左右
(
さいう
)
の
手
(
て
)
に、
264
猫
(
ねこ
)
を
提
(
ひつさ
)
げた
様
(
やう
)
な
体裁
(
ていさい
)
にて
出
(
い
)
で
来
(
きた
)
り、
265
鬼武彦
『ヤア
何
(
いづ
)
れも
様
(
さま
)
、
266
高姫
(
たかひめ
)
、
267
青彦
(
あをひこ
)
の
両人
(
りやうにん
)
を
引
(
ひ
)
つ
捉
(
とら
)
へ
参
(
まゐ
)
りました。
268
玉
(
たま
)
は
確
(
たしか
)
に
高姫
(
たかひめ
)
の
懐中
(
くわいちゆう
)
に
御座
(
ござ
)
れば
是
(
こ
)
れより
拙者
(
それがし
)
が
詮議
(
せんぎ
)
致
(
いた
)
して
取返
(
とりかへ
)
し
呉
(
く
)
れむ。
269
何
(
いづ
)
れも
様
(
さま
)
、
270
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
有
(
あ
)
れ……』
271
秋山彦
(
あきやまひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
二度
(
にど
)
ビツクリ、
272
秋山彦夫婦
『ヤア
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
様
(
さま
)
か、
273
能
(
よ
)
うマア
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
274
それは
誠
(
まこと
)
に
有難
(
ありがた
)
い、
275
さは
然
(
さ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
276
今
(
いま
)
の
今迄
(
いままで
)
元気
(
げんき
)
能
(
よ
)
く
居
(
ゐ
)
らせられた
亀彦
(
かめひこ
)
さまは、
277
腹
(
はら
)
を
切
(
き
)
つてお
果
(
は
)
てなされました』
278
と
泣
(
な
)
き
伏
(
ふ
)
せば、
279
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
はカラカラと
打笑
(
うちわら
)
ひ、
280
鬼武彦
『ヤア
皆様
(
みなさま
)
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なされますな、
281
亀彦
(
かめひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
頓
(
やが
)
て
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれませう』
282
一同
『エーツ』
283
と
驚
(
おどろ
)
く
一同
(
いちどう
)
。
284
亀彦
(
かめひこ
)
の
死骸
(
しがい
)
はムクムクと
起上
(
おきあが
)
り、
285
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
尨犬
(
むくいぬ
)
の
如
(
ごと
)
き
毛
(
け
)
を
全身
(
ぜんしん
)
に
生
(
しやう
)
じ、
286
灰色
(
はひいろ
)
の
虎
(
とら
)
とも
見
(
み
)
えず、
287
熊
(
くま
)
とも
見
(
み
)
えず、
288
怪獣
(
くわいじう
)
となつてノソリノソリと
這
(
は
)
ひ
出
(
だ
)
し、
289
表門
(
おもてもん
)
指
(
さ
)
して
帰
(
かへ
)
りゆく。
290
一同
(
いちどう
)
は
夢
(
ゆめ
)
に
夢見
(
ゆめみ
)
る
心地
(
ここち
)
して、
291
一言
(
いちごん
)
も
発
(
はつ
)
せず、
292
暫
(
しば
)
しは
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せ
居
(
ゐ
)
るのみなりき。
293
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
る
正真
(
しやうまつ
)
の
亀彦
(
かめひこ
)
はニコニコし
乍
(
なが
)
ら、
294
亀彦
(
かめひこ
)
『ヤア
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
様
(
さま
)
、
295
偉
(
えら
)
い
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
を
掛
(
か
)
けました。
296
暗夜
(
あんや
)
の
事
(
こと
)
と
言
(
い
)
ひ、
297
何
(
いづ
)
れに
潜
(
ひそ
)
み
隠
(
かく
)
れしやと
一
(
いち
)
時
(
じ
)
は
周章
(
しうしやう
)
狼狽
(
らうばい
)
致
(
いた
)
しましたが、
298
お
蔭様
(
かげさま
)
で
十七
(
じふしち
)
日
(
にち
)
の
月
(
つき
)
は
東天
(
とうてん
)
に
輝
(
かがや
)
き
給
(
たま
)
うた、
299
弥勒
(
みろく
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
で、
300
ヤツとの
事
(
こと
)
、
301
目的物
(
もくてきぶつ
)
が
手
(
て
)
に
入
(
い
)
り、
302
コンナ
有難
(
ありがた
)
い
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬ。
303
……アヽ
秋山彦
(
あきやまひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
のお
方
(
かた
)
、
304
英子姫
(
ひでこひめ
)
、
305
悦子姫
(
よしこひめ
)
殿
(
どの
)
、
306
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさいませ』
307
秋山彦
(
あきやまひこ
)
『ヤア
何
(
なに
)
よりも
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
308
誠
(
まこと
)
に
偉
(
いか
)
い
骨折
(
ほねをり
)
をさせました。
309
サアサア
奥
(
おく
)
に
馳走
(
ちそう
)
の
用意
(
ようい
)
がして
御座
(
ござ
)
います。
310
皆
(
みな
)
さまどうぞ
奥
(
おく
)
へ
入
(
い
)
らつしやいませ』
311
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
、
312
青彦
(
あをひこ
)
を
玄関
(
げんくわん
)
にドサリと
下
(
おろ
)
したり。
313
高姫
(
たかひめ
)
『アヽ
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
殿
(
どの
)
、
314
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
であつたのう、
315
お
蔭
(
かげ
)
でお
土
(
つち
)
も
踏
(
ふ
)
まず、
316
宙
(
ちう
)
を
駆
(
か
)
けつて
楽
(
らく
)
に
参
(
まゐ
)
りましたよ。
317
ホヽヽヽ、
318
玉
(
たま
)
は
確
(
たしか
)
に
此処
(
ここ
)
に
一
(
ひと
)
つ
御座
(
ござ
)
います。
319
一
(
ひと
)
つで
足
(
た
)
らねば、
320
青彦
(
あをひこ
)
が
金色
(
こんじき
)
の
玉
(
たま
)
を
二
(
ふた
)
つ
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
ります。
321
是
(
こ
)
れで
三
(
み
)
つ
揃
(
そろ
)
うた
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
……ホヽヽヽ』
322
亀彦
(
かめひこ
)
『コレコレ
高姫
(
たかひめ
)
さま、
323
お
前
(
まへ
)
さまも
随分
(
ずゐぶん
)
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
い
人
(
ひと
)
だネ』
324
高姫
(
たかひめ
)
『
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
いは、
325
ソリヤお
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
だよ。
326
折角
(
せつかく
)
二人
(
ふたり
)
が
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れ、
327
次
(
つぎ
)
に
金剛
(
こんがう
)
不壊
(
ふゑ
)
の
玉
(
たま
)
を
奪
(
と
)
らうとする
最中
(
さいちう
)
に、
328
大
(
おほ
)
きな
岩
(
いは
)
で
桶伏
(
をけぶ
)
せに
会
(
あ
)
はしたり……
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
として、
329
人
(
ひと
)
を
助
(
たす
)
ける
身
(
み
)
であり
乍
(
なが
)
ら、
330
ソンナ
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
をして
宜
(
よ
)
いものか。
331
チツト
反省
(
たしな
)
みなされ。
332
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
は
決
(
けつ
)
して
鍵
(
かぎ
)
を
盗
(
ぬす
)
みたのでも、
333
玉
(
たま
)
を
掠奪
(
りやくだつ
)
したのでもないワ、
334
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
に
依
(
よ
)
つて、
335
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
さまから
受取
(
うけと
)
りに
行
(
い
)
つたのだ。
336
それをお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
が、
337
アタ
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
い、
338
邪魔
(
じやま
)
に
来
(
き
)
よつたのだ。
339
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
も
偉
(
えら
)
いが、
340
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまは、
341
ドンナ
方
(
かた
)
だと
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
る。
342
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
さまも、
343
永
(
なが
)
らく
海
(
うみ
)
の
底
(
そこ
)
のお
住居
(
すまゐ
)
であつたが、
344
此
(
こ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
の
生宮
(
いきみや
)
に、
345
今度
(
こんど
)
は
残
(
のこ
)
らず
綺麗
(
きれい
)
薩張
(
さつぱり
)
とお
渡
(
わた
)
し
遊
(
あそ
)
ばす
世
(
よ
)
が
参
(
まゐ
)
つたのだ。
346
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
の
下
(
くだ
)
らぬ
教
(
をしへ
)
を
聞
(
き
)
きかぢつて、
347
神界
(
しんかい
)
の
御
(
お
)
経綸
(
しぐみ
)
の
邪魔
(
じやま
)
をすると、
348
頭
(
あたま
)
を
下
(
した
)
にし、
349
足
(
あし
)
を
上
(
うへ
)
にして
歩
(
ある
)
かねばならぬ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
て
来
(
く
)
るぞよ。
350
アンナ
者
(
もの
)
がコンナ
者
(
もの
)
になると
云
(
い
)
ふ
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を、
351
お
前
(
まへ
)
は
一体
(
いつたい
)
、
352
何
(
なん
)
と
考
(
かんが
)
へなさる……
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
は
詰
(
つま
)
らぬ
女
(
をんな
)
の
様
(
やう
)
に
見
(
み
)
えても、
353
系統
(
ひつぽう
)
だぞへ、
354
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
の……
切
(
き
)
つても
切
(
き
)
れぬ
御
(
ご
)
系統
(
ひつぽう
)
だ。
355
亀彦
(
かめひこ
)
なぞと、
356
何処
(
どこ
)
から
来
(
き
)
たか
知
(
し
)
らぬが、
357
元
(
もと
)
は……
偉相
(
えらさう
)
に
言
(
い
)
うても……ウラル
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
ぢやないか。
358
竜宮洲
(
りうぐうじま
)
へ
渡
(
わた
)
つて、
359
飯依彦
(
いひよりひこ
)
の
様
(
やう
)
な
蛸爺
(
たこおやぢ
)
に
泡
(
あわ
)
吹
(
ふ
)
かされて
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
り、
360
途中
(
とちう
)
で
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけ
)
の
神
(
かみ
)
に
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
うたのだらう。
361
ソンナ
事
(
こと
)
は
此
(
この
)
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
で
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
が、
362
チヤンと
仰有
(
おつしや
)
つて
御座
(
ござ
)
る。
363
醜
(
しこ
)
の
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
で、
364
井戸
(
ゐど
)
の
中
(
なか
)
へ
陥
(
はま
)
つたり、
365
種々
(
いろいろ
)
惨々
(
さんざん
)
な
目
(
め
)
に
逢
(
あ
)
うて、
366
ヤツとの
事
(
こと
)
で
宣伝使
(
せんでんし
)
になり
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
の
阿婆摺
(
あばず
)
れ
娘
(
むすめ
)
を
女房
(
にようばう
)
に
持
(
も
)
つたと
思
(
おも
)
つて、
367
余
(
あま
)
り
威張
(
ゐば
)
らぬが
宜
(
よ
)
からう。
368
何処
(
どこ
)
の
馬
(
うま
)
の
骨
(
ほね
)
か
牛
(
うし
)
の
骨
(
ほね
)
か、
369
素性
(
すじやう
)
も
分
(
わか
)
らぬ
様
(
やう
)
な
代物
(
しろもの
)
に、
370
肝心
(
かんじん
)
の
娘
(
むすめ
)
を
呉
(
く
)
れてやると
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
紊
(
みだ
)
れた
行方
(
やりかた
)
の
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
が、
371
何
(
なに
)
が、
372
夫
(
そ
)
れ
程
(
ほど
)
有難
(
ありがた
)
いのだい。
373
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
側
(
そば
)
へ
出
(
だ
)
したら、
374
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
は、
375
猫
(
ねこ
)
の
前
(
まへ
)
の
鼠
(
ねずみ
)
の
様
(
やう
)
なものだ。
376
さうぢやから
昔
(
むかし
)
からの
因縁
(
いんねん
)
を
聞
(
き
)
いて
置
(
お
)
かぬと、
377
まさか
の
時
(
とき
)
にアフンとせねばならぬと、
378
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
仰有
(
おつしや
)
るのだよ』
379
亀彦
(
かめひこ
)
『エーソンナ
事
(
こと
)
は
聞
(
き
)
きたく
有
(
あ
)
りませぬワイ。
380
又
(
また
)
庚申待
(
かうしんまち
)
の
晩
(
ばん
)
にでも、
381
ゆつくり
聴
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
ひませうかい』
382
高姫
(
たかひめ
)
『それは
不可
(
いかん
)
々々
(
いかん
)
、
383
どうでも
斯
(
こ
)
うでも
因縁
(
いんねん
)
を
説
(
と
)
いて
聴
(
き
)
かして、
384
根本
(
こつぽん
)
から
改心
(
かいしん
)
させねば
承知
(
しようち
)
をせぬのぢや。
385
此
(
この
)
月
(
つき
)
は
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまの
教
(
をしへ
)
を、
386
耳
(
みみ
)
を
浚
(
さら
)
へて
菊
(
きく
)
の
月
(
つき
)
ぢやぞへ。
387
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
と
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
との
尊
(
たふと
)
い
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
のある
此
(
この
)
肉体
(
にくたい
)
だ。
388
亀公
(
かめこう
)
位
(
くらゐ
)
が
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
千
(
せん
)
人
(
にん
)
束
(
たば
)
になつてきた
所
(
ところ
)
で
何
(
なん
)
の
効
(
かう
)
が
有
(
あ
)
るものか、
389
効
(
かう
)
と
言
(
い
)
つたら、
390
堅
(
かた
)
い
堅
(
かた
)
い、
391
邪魔
(
じやま
)
になる
亀
(
かめ
)
の
甲
(
かふ
)
位
(
くらゐ
)
なものだよ。
392
ゲツヘヽヽヽ』
393
秋山彦
(
あきやまひこ
)
『お
話
(
はなし
)
は
酒宴
(
しゆえん
)
の
席
(
せき
)
で
承
(
うけたま
)
はりませう。
394
サアサア
奥
(
おく
)
へお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
395
玄関口
(
げんくわんぐち
)
でお
話
(
はなし
)
は
見
(
み
)
つとも
良
(
よ
)
う
御座
(
ござ
)
いませぬから……』
396
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
が
秋山彦
(
あきやまひこ
)
ぢやな、
397
道理
(
だうり
)
で、
398
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
ても
飽
(
あ
)
きの
来
(
き
)
さうなお
顔立
(
かほだち
)
だ。
399
紅葉姫
(
もみぢひめ
)
さまも、
400
コンナ
夫
(
をつと
)
を
持
(
も
)
つてお
仕合
(
しあは
)
せだ、
401
オツホヽヽヽ』
402
秋山彦
(
あきやまひこ
)
、
403
稍
(
やや
)
機嫌
(
きげん
)
の
悪
(
わる
)
さうな
顔付
(
かほつき
)
し
乍
(
なが
)
ら、
404
秋山彦
『ハイハイ、
405
どうで
碌
(
ろく
)
な
者
(
もの
)
ぢや
有
(
あ
)
りませぬワイ、
406
三五教
(
あななひけう
)
に
現
(
うつつ
)
を
抜
(
ぬ
)
かす
代物
(
しろもの
)
ですから、
407
善
(
ぜん
)
ばつかりに
呆
(
はう
)
けまして、
408
ウラナイ
教
(
けう
)
の
様
(
やう
)
な、
409
他人
(
よそ
)
の
家
(
うち
)
の
鍵
(
かぎ
)
を
持出
(
もちだ
)
して、
410
平気
(
へいき
)
で
業託
(
ごうたく
)
を
並
(
なら
)
べる
様
(
やう
)
な、
411
謙遜
(
けんそん
)
な
善人
(
ぜんにん
)
は
居
(
を
)
りませぬ、
412
アハヽヽヽ、
413
サアサア
奥
(
おく
)
へお
出
(
いで
)
なさいませ』
414
高姫
(
たかひめ
)
『
三五教
(
あななひけう
)
は、
415
善
(
ぜん
)
に
見
(
み
)
せて
悪
(
あく
)
、
416
ウラナイ
教
(
けう
)
は
悪
(
あく
)
に
見
(
み
)
せても
善
(
ぜん
)
、
417
マアマア
奥
(
おく
)
へ
往
(
い
)
つて、
418
トツクリと
妾
(
わたし
)
の
諭
(
さと
)
しをお
聴
(
き
)
きなさい』
419
と
立
(
た
)
ちあがる。
420
秋山彦
(
あきやまひこ
)
を
先頭
(
せんとう
)
に、
421
一同
(
いちどう
)
はドシドシと
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
目
(
め
)
がけて
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
422
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
は
最後
(
さいご
)
の
殿
(
しんがり
)
を
勤
(
つと
)
め
乍
(
なが
)
ら、
423
高姫
(
たかひめ
)
、
424
青彦
(
あをひこ
)
の
身体
(
しんたい
)
に
目
(
め
)
を
配
(
くば
)
り、
425
奥
(
おく
)
へ
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
426
八尋殿
(
やひろどの
)
には、
427
山野
(
さんや
)
河海
(
かかい
)
の
珍肴
(
ちんかう
)
、
428
所狭
(
ところせ
)
きまで
並
(
なら
)
べられありぬ。
429
高姫
(
たかひめ
)
は
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もなく
最上座
(
さいじやうざ
)
に
座
(
ざ
)
を
占
(
し
)
め、
430
紙雛
(
かみひな
)
の
様
(
やう
)
に
袖
(
そで
)
をキチンと
前
(
まへ
)
に
畳
(
たた
)
み、
431
手
(
て
)
を
臍
(
へそ
)
の
辺
(
あた
)
りにつくね、
432
仔細
(
しさい
)
らしく
構
(
かま
)
へ
込
(
こ
)
みたり。
433
亀彦
(
かめひこ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
の
傍
(
かたはら
)
に
座
(
ざ
)
を
占
(
し
)
めむとするや、
434
高姫
(
たかひめ
)
柳眉
(
りうび
)
を
逆立
(
さかだ
)
て、
435
高姫
『ヤア
亀彦
(
かめひこ
)
、
436
お
前
(
まへ
)
は
身魂
(
みたま
)
が
低
(
ひく
)
い。
437
三段
(
さんだん
)
下
(
さ
)
がつてお
坐
(
すわ
)
りなされ。
438
抑
(
そもそ
)
も
霊
(
みたま
)
は
上中下
(
じやうちうげ
)
の
三段
(
さんだん
)
の
区別
(
くべつ
)
が
有
(
あ
)
る。
439
上
(
じやう
)
の
中
(
なか
)
にも
上中下
(
じやうちうげ
)
が
有
(
あ
)
り、
440
中
(
ちう
)
の
中
(
うち
)
にも
上中下
(
じやうちうげ
)
の
三段
(
さんだん
)
があり、
441
下
(
げ
)
の
中
(
うち
)
にも、
442
亦
(
また
)
上中下
(
じやうちうげ
)
の
三段
(
さんだん
)
が
有
(
あ
)
る。
443
お
前
(
まへ
)
は、
444
下
(
げ
)
の
中
(
ちう
)
位
(
くらゐ
)
な
霊魂
(
みたま
)
ぢや。
445
上
(
じやう
)
の
上
(
じやう
)
の
生粋
(
きつすゐ
)
の
大和
(
やまと
)
魂
(
だましひ
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
前
(
まへ
)
に
坐
(
すわ
)
ると
云
(
い
)
ふのは、
446
身魂
(
みたま
)
の
位地
(
ゐち
)
を
紊
(
みだ
)
すと
云
(
い
)
ふものだ。
447
それだから、
448
身魂
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
が
分
(
わか
)
らぬ
宣伝使
(
せんでんし
)
は
困
(
こま
)
ると
云
(
い
)
ふのだよ。
449
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
は、
450
上
(
じやう
)
の
上
(
じやう
)
の
身魂
(
みたま
)
が
持
(
も
)
つべきものだ。
451
下
(
げ
)
の
中
(
ちう
)
身魂
(
みたま
)
位
(
くらゐ
)
では
到底
(
たうてい
)
手
(
て
)
も
触
(
ふ
)
れる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬ……
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
ナンテ、
452
力
(
ちから
)
は
強
(
つよ
)
いが、
453
多寡
(
たくわ
)
が
稲荷
(
いなり
)
ぢやないか、
454
四足
(
よつあし
)
の
親玉
(
おやだま
)
ぢや、
455
稲荷
(
いなり
)
は
下郎
(
げろう
)
の
役
(
やく
)
を
勤
(
つと
)
めるものぢや、
456
コンナ
座席
(
ざせき
)
にすわると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
有
(
あ
)
るものか。
457
天狗
(
てんぐ
)
や、
458
野狐
(
のぎつね
)
や、
459
狸
(
たぬき
)
、
460
豆狸
(
まめだぬき
)
の
霊
(
みたま
)
は、
461
ズツトズツト
下
(
げ
)
の
下
(
げ
)
の
座
(
ざ
)
にお
直
(
なほ
)
りなされ』
462
亀彦
(
かめひこ
)
『
神界
(
しんかい
)
には、
463
正神界
(
せいしんかい
)
と
邪神界
(
じやしんかい
)
が
有
(
あ
)
つて、
464
正神界
(
せいしんかい
)
にも
上中下
(
じやうちうげ
)
三段
(
さんだん
)
があり、
465
邪神界
(
じやしんかい
)
にも
亦
(
また
)
上中下
(
じやうちうげ
)
の
三段
(
さんだん
)
が
有
(
あ
)
る、
466
さうして
段
(
だん
)
毎
(
ごと
)
に
又
(
また
)
三段
(
さんだん
)
がある。
467
吾々
(
われわれ
)
は
仮令
(
たとへ
)
下
(
げ
)
の
中
(
ちう
)
か
知
(
し
)
らぬが、
468
正神界
(
せいしんかい
)
だ。
469
お
前
(
まへ
)
は
上
(
じやう
)
の
上
(
じやう
)
でも、
470
邪神界
(
じやしんかい
)
の
上
(
じやう
)
の
上
(
じやう
)
だから、
471
是
(
こ
)
れ
位
(
くらゐ
)
悪党
(
あくたう
)
はないのだよ、
472
月
(
つき
)
と
鼈
(
すつぽん
)
、
473
雪
(
ゆき
)
と
炭
(
すみ
)
程
(
ほど
)
違
(
ちが
)
う。
474
邪神界
(
じやしんかい
)
の
身魂
(
みたま
)
は、
475
正神界
(
せいしんかい
)
と
席
(
せき
)
を
同
(
おな
)
じうする
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
476
お
下
(
さが
)
りなされ』
477
高姫
(
たかひめ
)
『
仮令
(
たとへ
)
正神界
(
せいしんかい
)
でも、
478
邪神界
(
じやしんかい
)
でも、
479
上
(
じやう
)
は
上
(
じやう
)
に
違
(
ちがひ
)
ない。
480
下
(
げ
)
はヤツパリ
下
(
げ
)
ぢや。
481
上
(
じやう
)
といふ
字
(
じ
)
はカミと
云
(
い
)
ふ
字
(
じ
)
ぢや。
482
カミのカミが
上
(
じやう
)
の
上
(
じやう
)
ぢや。
483
カミに
坐
(
すわ
)
るのは
高姫
(
たかひめ
)
の
身魂
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
性来
(
しやうらい
)
……オホン
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
みませぬナ、
484
亀彦
(
かめひこ
)
チヤン……』
485
亀彦
(
かめひこ
)
『チヨツ、
486
善悪
(
ぜんあく
)
の
区別
(
くべつ
)
を
知
(
し
)
らぬ
奴
(
やつ
)
に
掛
(
かか
)
つたら
仕方
(
しかた
)
がないワ………アーア
折角
(
せつかく
)
の
玉
(
たま
)
を
邪神界
(
じやしんかい
)
の
身魂
(
みたま
)
に
汚
(
けが
)
されて
仕舞
(
しま
)
つて
残念
(
ざんねん
)
な
事
(
こと
)
だワイ』
487
高姫
(
たかひめ
)
『
妾
(
わし
)
が
邪神界
(
じやしんかい
)
なら、
488
モウ
此
(
この
)
玉
(
たま
)
は
用
(
よう
)
が
無
(
な
)
い
筈
(
はず
)
……ソンナラ
高姫
(
たかひめ
)
が
更
(
あらた
)
めて
頂戴
(
ちやうだい
)
する』
489
と
懐
(
ふところ
)
より
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
を
取出
(
とりだ
)
し、
490
手
(
て
)
の
掌
(
ひら
)
に
乗
(
の
)
せて、
491
手
(
て
)
に
唾液
(
つばき
)
を
附
(
つ
)
け、
492
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
両
(
りやう
)
の
手
(
て
)
の
掌
(
ひら
)
で、
493
揉
(
も
)
みて
揉
(
も
)
みて
揉
(
も
)
みさがし
居
(
を
)
る。
494
此
(
この
)
玉
(
たま
)
は
拡大
(
くわくだい
)
する
時
(
とき
)
は
宇宙
(
うちう
)
に
拡
(
ひろ
)
がり、
495
縮小
(
しゆくせう
)
する
時
(
とき
)
は
鷄卵
(
けいらん
)
の
如
(
ごと
)
くになる
特色
(
とくしよく
)
のある
神宝
(
しんぽう
)
なり。
496
堅
(
かた
)
くもなれば、
497
軟
(
やは
)
らかくもなる、
498
高姫
(
たかひめ
)
は
揉
(
も
)
みて
揉
(
も
)
みて
揉
(
も
)
みさがし、
499
鷄卵
(
けいらん
)
の
如
(
ごと
)
く
縮小
(
しゆくせう
)
し、
500
搗
(
つ
)
きたての
餅
(
もち
)
の
様
(
やう
)
に
軟
(
やは
)
らげ、
501
高姫
(
たかひめ
)
『
亀彦
(
かめひこ
)
さま、
502
秋山彦
(
あきやまひこ
)
さま、
503
お
狐
(
きつね
)
さま、
504
改
(
あらた
)
めて
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
します。
505
オツ』
506
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
大口
(
おほぐち
)
を
開
(
あ
)
けて、
507
目
(
め
)
を
白黒
(
しろくろ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
508
蛇
(
へび
)
が
蛙
(
かはづ
)
を
呑
(
の
)
む
様
(
やう
)
に、
509
グツト
一口
(
ひとくち
)
に
嚥
(
の
)
み
下
(
おろ
)
したり。
510
亀彦
(
かめひこ
)
『アヽ
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
になつた。
511
……ヤイ
高姫
(
たかひめ
)
、
512
玉
(
たま
)
を
返
(
かや
)
せ』
513
高姫
(
たかひめ
)
『ホヽヽヽ、
514
分
(
わか
)
らぬ
身魂
(
みたま
)
ぢやナア、
515
呑
(
の
)
みて
了
(
しま
)
うた
物
(
もの
)
が、
516
どうして
手
(
て
)
に
渡
(
わた
)
せるか、
517
お
前
(
まへ
)
も、
518
モチツと
物
(
もの
)
の
道理
(
だうり
)
が
分
(
わか
)
つた
方
(
かた
)
ぢやと
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
つたのに、
519
子供
(
こども
)
よりも
劣
(
おと
)
つた
人
(
ひと
)
ぢやナア』
520
亀彦
(
かめひこ
)
『
腹
(
はら
)
を
裂
(
さ
)
いても、
521
取戻
(
とりもど
)
して
遣
(
や
)
らねば
置
(
お
)
かぬぞツ、
522
馬鹿
(
ばか
)
に
致
(
いた
)
すな』
523
高姫
(
たかひめ
)
『
宇宙
(
うちう
)
の
縮図
(
しゆくづ
)
たる
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
を、
524
わが
腹中
(
ふくちう
)
に
納
(
をさ
)
めた
以上
(
いじやう
)
は、
525
高姫
(
たかひめ
)
の
体
(
からだ
)
は
即
(
すなは
)
ち
宇宙
(
うちう
)
……
宇宙
(
うちう
)
には
天神
(
てんしん
)
地祇
(
ちぎ
)
、
526
八百万
(
やほよろづ
)
の
神
(
かみ
)
が
集
(
あつ
)
まり
給
(
たま
)
ふ。
527
今
(
いま
)
までの
肉体
(
にくたい
)
は、
528
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
と
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
の
生宮
(
いきみや
)
であつたが、
529
最早
(
もはや
)
唯今
(
ただいま
)
より、
530
天
(
てん
)
の
御
(
ご
)
三体
(
さんたい
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
を
始
(
はじ
)
め、
531
天地
(
てんち
)
八百万
(
やほよろづ
)
の
神
(
かみ
)
が
高姫
(
たかひめ
)
の
身体
(
からだ
)
に
神詰
(
かむつま
)
り
遊
(
あそ
)
ばすのぢや、
532
サア
神
(
かみ
)
に
仕
(
つか
)
へる
宣伝使
(
せんでんし
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て、
533
此
(
この
)
肉体
(
にくたい
)
に
指一本
(
ゆびいつぽん
)
触
(
さ
)
へるなら、
534
さへて
見
(
み
)
よツ』
535
亀彦
(
かめひこ
)
『どこまでも
馬鹿
(
ばか
)
にしやがる。
536
モウ
量見
(
りやうけん
)
ならぬ、
537
破
(
やぶ
)
れかぶれだ。
538
……ヤイ
高姫
(
たかひめ
)
、
539
貴様
(
きさま
)
の
生命
(
いのち
)
は
俺
(
おれ
)
が
貰
(
もら
)
つた、
540
覚悟
(
かくご
)
致
(
いた
)
せツ』
541
高姫
(
たかひめ
)
『ホヽヽヽ、
542
此方
(
こちら
)
が
馬鹿
(
ばか
)
にしたのぢやない、
543
生
(
うま
)
れ
付
(
つき
)
の
馬鹿
(
ばか
)
が、
544
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
を
仕
(
し
)
たのぢや、
545
誰
(
たれ
)
に
不足
(
ふそく
)
を
言
(
い
)
うて
行
(
ゆ
)
く
所
(
とこ
)
もあるまい、
546
自業
(
じごう
)
自得
(
じとく
)
だよ。
547
覚悟
(
かくご
)
致
(
いた
)
せとは……ソラ
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
、
548
虫
(
むし
)
一疋
(
いつぴき
)
殺
(
ころ
)
す
事
(
こと
)
のならぬ
三五教
(
あななひけう
)
の
教
(
をしへ
)
ぢやないか。
549
其
(
その
)
教
(
をしへ
)
をする
宣伝使
(
せんでんし
)
が、
550
勿体
(
もつたい
)
なくも
天
(
てん
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御霊
(
みたま
)
の
現
(
げん
)
に
納
(
をさ
)
まり
給
(
たま
)
ふ
肉体
(
にくたい
)
を
悩
(
なや
)
めやうとは、
551
盲
(
めくら
)
蛇
(
へび
)
に
怖
(
お
)
ぢず、
552
馬鹿
(
ばか
)
に
附
(
つ
)
ける
薬
(
くすり
)
は
無
(
な
)
し、
553
ハヽヽヽ、
554
困
(
こま
)
つたものぢや、
555
イヤ
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
な
者
(
もの
)
ぢや。
556
親
(
おや
)
の
在
(
あ
)
る
間
(
うち
)
に
直
(
なほ
)
して
置
(
お
)
かぬと、
557
不治難症
(
いつせうやまひ
)
ぢや。
558
サア
今
(
いま
)
から
改心
(
かいしん
)
をして、
559
亀彦
(
かめひこ
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
560
英子姫
(
ひでこひめ
)
、
561
悦子姫
(
よしこひめ
)
、
562
秋山彦
(
あきやまひこ
)
、
563
紅葉姫
(
もみぢひめ
)
、
564
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
、
565
其
(
その
)
外
(
ほか
)
の
厄雑
(
やくざ
)
人足
(
にんそく
)
共
(
ども
)
、
566
ウラナイ
教
(
けう
)
の
御
(
ご
)
趣旨
(
しゆし
)
を
遵奉
(
じゆんぽう
)
するか、
567
サアどうぢや、
568
返答
(
へんたふ
)
聞
(
き
)
かう……』
569
亀彦
(
かめひこ
)
『モシモシ
秋山彦
(
あきやまひこ
)
さま、
570
此奴
(
こいつ
)
ア、
571
居
(
ゐ
)
すわり
強盗
(
がうたう
)
ですナア、
572
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
573
踏
(
ふ
)
ン
縛
(
じば
)
つて、
574
海
(
うみ
)
へでも
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
みてやりませうか』
575
秋山彦
(
あきやまひこ
)
『あまりの
事
(
こと
)
で、
576
私
(
わたくし
)
も
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
ちます。
577
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
が
納
(
をさ
)
まりある
以上
(
いじやう
)
はどうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ませぬ。
578
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
になりました』
579
高姫
(
たかひめ
)
『サアサア
皆
(
みな
)
の
神々
(
かみがみ
)
共
(
ども
)
、
580
只今
(
ただいま
)
より、
581
天
(
てん
)
の
御
(
ご
)
三体
(
さんたい
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
高姫
(
たかひめ
)
へお
給仕
(
きふじ
)
を
致
(
いた
)
すが
可
(
よ
)
からうぞ、
582
又
(
また
)
と
再
(
ふたた
)
び、
583
コンナ
結構
(
けつこう
)
な
生宮
(
いきみや
)
に、
584
お
目
(
め
)
に
掛
(
かか
)
る
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ねば、
585
お
給仕
(
きふじ
)
さして
頂
(
いただ
)
く
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ぬぞや。
586
今日
(
けふ
)
は
特別
(
とくべつ
)
を
以
(
もつ
)
て、
587
祝意
(
しゆくい
)
を
表
(
へう
)
する
為
(
ため
)
にお
給仕
(
きふじ
)
を
差許
(
さしゆる
)
す』
588
亀彦
(
かめひこ
)
『エーツ、
589
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しよるのだ、
590
モウ
斯
(
か
)
うなつては
天則
(
てんそく
)
違反
(
ゐはん
)
も
何
(
なに
)
も
有
(
あ
)
つたものじやない、
591
両刃
(
もろは
)
の
剣
(
つるぎ
)
の
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
だ』
592
と
一刀
(
いつたう
)
スラリと
引
(
ひ
)
き
抜
(
ぬ
)
き、
593
斬
(
き
)
り
掛
(
かか
)
らむとするを
高姫
(
たかひめ
)
は、
594
高姫
『ギヤツハヽヽヽ、
595
ギヨツホヽヽヽ、
596
短気
(
たんき
)
は
損気
(
そんき
)
、
597
マアマア
静
(
しづ
)
まれ、
598
急
(
せ
)
いては
事
(
こと
)
を
仕損
(
しそん
)
ずる。
599
後
(
あと
)
で
後悔
(
こうくわい
)
せぬがよいぞ』
600
と
澄
(
すま
)
してゐる。
601
亀彦
(
かめひこ
)
『
後悔
(
こうくわい
)
も
糞
(
くそ
)
もあつたものかい、
602
……
貴様
(
きさま
)
も
讎敵
(
かたき
)
の
端
(
はし
)
くれ……』
603
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
604
青彦
(
あをひこ
)
の
頭
(
あたま
)
を、
605
足
(
あし
)
を
上
(
あ
)
げてポンと
蹴
(
け
)
り
倒
(
たふ
)
し、
606
又
(
また
)
もや
両刃
(
もろは
)
の
剣
(
つるぎ
)
を
閃
(
ひらめ
)
かし、
607
生命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
突
(
つ
)
いて
掛
(
かか
)
れば、
608
流石
(
さすが
)
の
高姫
(
たかひめ
)
も、
609
高姫
『
如何
(
いか
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
神
(
かみ
)
でも、
610
無茶
(
むちや
)
には
叶
(
かな
)
はぬ。
611
……サアサア
青彦
(
あをひこ
)
、
612
一先
(
ひとま
)
づ
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
逃
(
に
)
げたり
逃
(
に
)
げたり』
613
と
促
(
うなが
)
す。
614
青彦
(
あをひこ
)
は
狼狽
(
うろた
)
へ
騒
(
さわ
)
いで、
615
逃路
(
にげみち
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
616
同
(
おな
)
じ
所
(
ところ
)
をクルクルと
廻転
(
くわいてん
)
して
居
(
ゐ
)
る。
617
亀彦
(
かめひこ
)
は
益々
(
ますます
)
激
(
はげ
)
しく
突
(
つ
)
つかかる。
618
秋山彦
(
あきやまひこ
)
は、
619
秋山彦
『エー
斯
(
か
)
うなれば、
620
破
(
やぶ
)
れかぶれだ。
621
……
紅葉姫
(
もみぢひめ
)
、
622
薙刀
(
なぎなた
)
を
執
(
と
)
れツ』
623
と
下知
(
げち
)
すれば、
624
鶴
(
つる
)
の
一声
(
ひとこゑ
)
、
625
紅葉姫
(
もみぢひめ
)
は
長押
(
なげし
)
の
薙刀
(
なぎなた
)
執
(
と
)
るより
早
(
はや
)
く、
626
紅葉姫
『
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
高姫
(
たかひめ
)
、
627
覚悟
(
かくご
)
せよ』
628
と
斬
(
き
)
つてかかるを
高姫
(
たかひめ
)
は、
629
右
(
みぎ
)
に
左
(
ひだり
)
に
身
(
み
)
をかはし、
630
暫
(
しばら
)
くは
扇
(
あふぎ
)
を
以
(
もつ
)
てあしらひ
居
(
ゐ
)
たるが、
631
衆寡
(
しうくわ
)
敵
(
てき
)
せず、
632
忽
(
たちま
)
ち
白煙
(
はくえん
)
と
化
(
くわ
)
し、
633
天井窓
(
てんじやうまど
)
より
一目散
(
いちもくさん
)
に、
634
西北
(
せいほく
)
の
天
(
てん
)
を
目蒐
(
めが
)
けて、
635
中空
(
ちうくう
)
に
雲
(
くも
)
の
帯
(
おび
)
を
曳
(
ひ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
636
逸早
(
いちはや
)
く
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
したりける。
637
後
(
あと
)
に
青彦
(
あをひこ
)
は、
638
青菜
(
あをな
)
に
塩
(
しほ
)
した
如
(
ごと
)
く、
639
ビリビリと
慄
(
ふる
)
ひ
居
(
ゐ
)
たり。
640
亀彦
(
かめひこ
)
『エー、
641
コンナ
弱虫
(
よわむし
)
を
相手
(
あひて
)
にしたつて
仕方
(
しかた
)
がない。
642
助
(
たす
)
けてやらう。
643
サアサア
早
(
はや
)
くこの
場
(
ば
)
を
立去
(
たちさ
)
れツ』
644
折角
(
せつかく
)
の
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
も、
645
踏
(
ふ
)
んで
踏
(
ふ
)
んで
踏
(
ふ
)
みにぢられ、
646
台
(
だい
)
なしになつて
了
(
しま
)
ひける。
647
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
白煙
(
はくえん
)
と
化
(
くわ
)
し、
648
又
(
また
)
もや
天井
(
てんじやう
)
の
窓
(
まど
)
より、
649
帯
(
おび
)
を
曳
(
ひ
)
きつつ、
650
西北
(
せいほく
)
の
天
(
てん
)
を
目蒐
(
めが
)
け、
651
高姫
(
たかひめ
)
の
後
(
あと
)
を
逐
(
お
)
ひて
中天
(
ちうてん
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
しける。
652
秋山彦
(
あきやまひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
を
始
(
はじ
)
め、
653
亀彦
(
かめひこ
)
、
654
英子姫
(
ひでこひめ
)
、
655
悦子姫
(
よしこひめ
)
は、
656
神前
(
しんぜん
)
に
恭
(
うやうや
)
しく
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
657
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
り、
658
茲
(
ここ
)
に
別
(
わか
)
れを
告
(
つ
)
げて、
659
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
由良川
(
ゆらがは
)
を
遡
(
さかのぼ
)
り、
660
聖地
(
せいち
)
に
向
(
むか
)
ふ
事
(
こと
)
となりにけり。
661
(
大正一一・四・一五
旧三・一九
松村真澄
録)
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