霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 高論(かうろん)濁拙(たくせつ)〔九一六〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm3301
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001厳(いづ)の御霊(みたま)に由緒(ゆかり)ある
002伊豆(いづ)の神国(かみくに)田方(たかた)の郡(こほり)
003湯ガ島(ゆがしま)温泉(をんせん)湯本館(ゆもとくわん)
004軒(のき)を流(なが)るる狩野川(かのがは)
005連日(れんじつ)連夜(れんや)の大雨(おほあめ)に
006水量(みづかさ)まさり囂々(がうがう)と
007伊猛(いたけ)り狂(くる)ふ水(みづ)の音(おと)
008又(また)もや降(ふ)り来(く)る大雨(おほあめ)に
009亜鉛板(トタン)の屋根(やね)を轟(とどろ)かし
010耳(みみ)さわがしき雨館(あめやかた)
011皇(すめ)大神(おほかみ)を斎(まつ)りたる
012奥(おく)の一間(ひとま)に瑞月(ずゐげつ)が
013安全(あんぜん)椅子(いす)に横臥(わうぐわ)して
014瑞(みづ)の御霊(みたま)に由緒(ゆかり)ある
015三十三(さんじふさん)巻(くわん)物語(ものがたり)
016完全(うまら)に委曲(つばら)に述(の)べ立(た)つる
017あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
018御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
019待(ま)ちに待(ま)ちたる霊界(れいかい)の
020三十(みづ)の三巻(みまき)の物語(ものがたり)
021皇(すめ)大神(おほかみ)の道(みち)の為(ため)
022世人(よびと)の為(ため)に三五(あななひ)の
023教(のり)の蘊奥(おくが)を説(と)き諭(さと)す
024此(この)真心(まごころ)を諾(うべ)なひて
025神(かみ)の教(をしへ)は日(ひ)に月(つき)に
026茂(しげ)り栄(さか)えてどこ迄(まで)も
027道(みち)の柱(はしら)となさしめよ
028朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
029月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
030仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
031神(かみ)の言葉(ことば)は何時(いつ)までも
032天地(てんち)の続(つづ)く其(その)限(かぎ)り
033月日(つきひ)と共(とも)に変(かは)らまじ
034天地(あめつち)開(ひら)けし初(はじ)めより
035天津(あまつ)神(かみ)達(たち)八百万(やほよろづ)
036国津(くにつ)神(かみ)達(たち)八百万(やほよろづ)
037中(なか)にも分(わ)けて国治立(くにはるたち)の
038神(かみ)の命(みこと)の御(ご)来歴(らいれき)
039其(その)外(ほか)殊(こと)に御功績(みいさを)の
040著(いちじる)しきを選(よ)り集(あつ)め
041雲霧(くもきり)分(わ)けて瑞月(ずゐげつ)が
042宇宙(うちう)の外(そと)に立(た)ち乍(なが)ら
043松雲(しよううん)太夫(だいふ)に筆(ふで)とらせ
044とく物語(ものがたり)永久(とことは)に
045五六七(みろく)の御世(みよ)の末(すゑ)までも
046照(て)らさせ玉(たま)へ惟神(かむながら)
047神(かみ)の御前(みまへ)に願(ね)ぎまつる
048神(かみ)の御前(みまへ)に願(ね)ぎまつる。
049蒼空(さうくう)一点(いつてん)の雲影(うんえい)もなく
050天津(あまつ)日(ひ)は東天(とうてん)に
051高山(かうざん)の頂(いただ)きを掠(かす)めて
052昇(のぼ)らせ玉(たま)ひ
053平和(へいわ)の輝(かがや)きを
054地上(ちじやう)に投(な)げ玉(たま)ひ
055涼(すず)しき風(かぜ)は
056天然(てんねん)の音楽(おんがく)を奏(そう)し
057山野(さんや)の樹木(じゆもく)は
058惟神(かむながら)的(てき)に競(きそ)うて舞踏(ぶたう)をなす
059蝶(てふ)は翩翻(へんぽん)として
060心地(ここち)よげに飛(と)びまはり
061魚(さかな)は溌溂(はつらつ)として
062清泉(せいせん)に躍(をど)る
063実(げ)に名(な)にし負(お)ふ高砂島(たかさごじま)の
064瑞祥(ずゐしやう)を、目(ま)の前(あた)り
065天地(あめつち)四方(よも)に現(あら)はしぬ
066今日(けふ)はしも神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)
067天降(あまくだ)り玉(たま)ひて
068アルゼンチンの珍(うづ)の神館(かむやかた)に
069出(い)でさせ玉(たま)ひ
070八人(やたり)乙女(をとめ)の末(すゑ)の御子(みこ)
071末子(すゑこ)の姫(ひめ)の花(はな)の春(はる)
072一度(いちど)に開(ひら)く木(こ)の花(はな)の
073莟(つぼみ)の上(うへ)におく露(つゆ)も
074いとすがすがしげに見(み)えにける。
075三五教(あななひけう)の神司(かむつかさ)
076竜(たつ)の腮(あぎと)の球(きう)の玉(たま)
077其(その)神徳(しんとく)を身(み)に受(う)けて
078救(すく)ひの神(かみ)と輝(かがや)ける
079国依別(くによりわけ)の神司(かむつかさ)を
080珍(うづ)の都(みやこ)の主(あるじ)とし
081末子(すゑこ)の姫(ひめ)に娶(めあ)はして
082千代(ちよ)に八千代(やちよ)に高砂(たかさご)の
083ほまれを四方(よも)に伝(つた)へむと
084心(こころ)欣々(いそいそ)大神(おほかみ)は
085今(いま)さし昇(のぼ)る天津(あまつ)日(ひ)に
086向(むか)つて両手(りやうて)を合(あは)せつつ
087祈(いの)り玉(たま)ふぞ尊(たふと)けれ。
088 愈(いよいよ)結婚(けつこん)の式(しき)は今宵(こよひ)と差迫(さしせま)り、089松若彦(まつわかひこ)、090捨子姫(すてこひめ)は数多(あまた)の神司(かむづかさ)を初(はじ)め、091信徒(しんと)を使役(しえき)して、092今夜(こんや)の慶事(けいじ)の準備(じゆんび)万端(ばんたん)に全力(ぜんりよく)を注(そそ)ぎ、093何(いづ)れも甲斐(かひ)々々(がひ)しく東奔(とうほん)西走(せいさう)して、094喜色(きしよく)満面(まんめん)にあらはれ、095上下(しやうか)一致(いつち)、096手(て)の舞(ま)ひ足(あし)の踏(ふ)む所(ところ)を知(し)らず、097吾(われ)を忘(わす)れて大活動(だいくわつどう)をなせる折柄(をりから)、098此(この)慶事(けいじ)を少(すこ)しも祝(しゆく)せざるのみか、099体主(たいしゆ)霊従(れいじう)の限(かぎ)りを尽(つく)し来(きた)りし国依別(くによりわけ)が、100瑞(みづ)の御霊(みたま)の生娘(うぶむすめ)、101末子姫(すゑこひめ)に娶(めあ)ひて、102清(きよ)き御魂(みたま)を混濁(こんだく)し、103折角(せつかく)ここ迄(まで)造(つく)り上(あ)げた高砂島(たかさごじま)の瑞祥(ずゐしやう)を黒白(あやめ)も分(わか)ぬ暗(やみ)の夜(よ)に覆(くつが)へさむは目(ま)の前(あた)り、104神(かみ)の御(おん)為(ため)世(よ)の為(ため)に、105飽(あ)く迄(まで)も之(これ)を拒(こば)み遮(さへぎ)り破約(はやく)せしめむと、106夜叉(やしや)の勢(いきほひ)凄(すさま)じく、107彼方(かなた)此方(こなた)と駆巡(かけめぐ)り、108目(め)を釣(つ)り上(あ)げ、109顔(かほ)を赤(あか)らめ、110口(くち)を尖(とが)らせて運(はこ)ぶ歩(あゆ)みも荒々(あらあら)しく、111今夜(こんや)の準備(じゆんび)に目(め)のまはる程(ほど)多忙(たばう)をきはめ居(ゐ)たる松若彦(まつわかひこ)が館(やかた)を叩(たた)き、112慌(あわ)ただしく入(い)り来(きた)るは例(れい)の高姫(たかひめ)さまであつた。113高姫(たかひめ)は門口(かどぐち)より尖(とが)つた声(こゑ)で、
114高姫(たかひめ)『御免(ごめん)なさいませ……私(わたし)は皆(みな)さまに憎(にく)まれ者(もの)の名(な)を取(と)つた身魂(みたま)の悪(わる)い高姫(たかひめ)で御座(ござ)います。115急々(きふきふ)お目(め)にかかつて申上(まをしあ)げたい事(こと)が御座(ござ)いますから、116どうぞ松若彦(まつわかひこ)様(さま)に少時(しばらく)で宜(よろ)しいから、117御(お)目(め)にかかりたう御座(ござ)います。118どうぞ御(お)取次(とりつぎ)を願(ねが)ひます』
119とエライ権幕(けんまく)で呼(よば)はつて居(ゐ)る。120カールは此(この)声(こゑ)に表(おもて)へ駆出(かけい)で、
121カール『これはこれは、122貴(たふと)き高姫(たかひめ)さまで御座(ござ)いましたか。123よくマア御(ご)入来(じゆらい)、124何(なん)の用(よう)かは存(ぞん)じませぬが、125今日(けふ)は貴方(あなた)も御(お)聞(きき)及(およ)びの通(とほ)り、126瑞月(ずゐげつ)祥日(しやうじつ)と申(まを)しまして、127アルゼンチン開(ひら)けて以来(このかた)、128又(また)とない結構(けつこう)な御(お)日柄(ひがら)で御座(ござ)います。129御存(ごぞん)じの通(とほ)り、130一片(いつぺん)の雲影(うんえい)もなき青空(あをぞら)に、131天津(あまつ)日(ひ)の大神(おほかみ)様(さま)は赫々(かくかく)として輝(かがや)かせ玉(たま)ひ、132夜(よ)は三五(さんご)の明月(めいげつ)、133銀玉(ぎんぎよく)を空(そら)に懸(か)けたる如(ごと)き瑞祥(ずゐしやう)の今日(こんにち)、134イヤもう目出(めで)たうて目出(めで)たうて、135鶴(つる)は千(せん)年(ねん)、136亀(かめ)は万(まん)年(ねん)、137東方朔(とうはうさく)は九千(きうせん)年(ねん)、138三浦(みうら)の王統家(わうすけ)五千歳(ごせんざい)[※「鶴は千年~三浦の王統家」は伊都能売神諭大正八年一月二七日の一節。]、139三千(さんぜん)年(ねん)の御(お)仕組(しぐみ)の一厘(いちりん)の花(はな)も開(ひら)きそめ、140目出(めで)たいの目出(めで)たくないのつて、141何(なに)を仰有(おつしや)つても、142今日(けふ)に限(かぎ)つてグサグサした言葉(ことば)はテンと耳(みみ)には這入(はい)りませぬ。143御用(ごよう)があれば更(あらた)めて明日(あす)承(うけたま)はりますから、144どうぞ今日(けふ)は早(はや)く御(お)帰(かへ)り遊(あそ)ばし、145貴方(あなた)も御(ご)結婚(けつこん)の準備(じゆんび)の御(お)手伝(てつだひ)に御殿(ごてん)へお上(あが)り下(くだ)さいませ。146さぞ末子姫(すゑこひめ)様(さま)が御(お)待(ま)ちかねで御座(ござ)いませうぞえ』
147高姫(たかひめ)『コレコレ、148カール殿(どの)、149お前(まへ)に話(はな)さうと思(おも)つて来(き)たのぢやない。150主人(しゆじん)の松若彦(まつわかひこ)に意見(いけん)をしようと思(おも)うて来(き)たのですよ。151主人(しゆじん)にも取次(とりつ)がず、152僣越(せんゑつ)至極(しごく)にも門前払(もんぜんばら)ひをくらはすとはチト脱線(だつせん)ぢやありますまいか。153又(また)此(この)高姫(たかひめ)に対(たい)し、154早(はや)く御殿(ごてん)へ上(あが)り、155御(お)手伝(てつだ)ひをせよと仰有(おつしや)つたやうだが、156そんな命令(めいれい)を下(くだ)すお前(まへ)に、157ヘン、158権利(けんり)がありますかい。159グヅグヅして居(ゐ)ると、160日(ひ)が暮(く)れます。161さうすりやサツパリ後(あと)の祭(まつ)り、162サアもうお前(まへ)さまに係(かか)り合(あ)つて居(を)つては、163事(こと)が遅(おく)れる。164エヽそこ退(どか)つしやれ』
165カール『コレコレ高姫(たかひめ)さま、166貴方(あなた)は強行(きやうかう)的(てき)家宅(かたく)侵入(しんにふ)をするのですか、167法律(はふりつ)を心得(こころえ)てゐますかなア』
168高姫(たかひめ)『エヽ小癪面(こしやくづら)をさげて、169法律(はふりつ)の糞(くそ)のて、170何(なに)を言(い)ふのだ。171法律(はふりつ)は死物(しぶつ)だ、172生(い)きた人間(にんげん)が之(これ)を使(つか)へば活(い)きるが、173お前(まへ)のやうなデモ法律家(はふりつか)が何(なに)を吐(ほざ)いたつて、174三文(さんもん)の価値(かち)もありませぬぞや。175それだから神(かみ)様(さま)が法律(はふりつ)を変(か)へるぞよと仰有(おつしや)るのだよ』
176カール『高姫(たかひめ)さま余(あんま)り馬鹿(ばか)にして下(くだ)さるな。177これでも赤門出(あかもんで)のチヤキチヤキの法学士(はふがくし)、178而(しか)も優等(いうとう)で出(で)たカールさまだよ。179余(あんま)り馬鹿(ばか)にして貰(もら)ひますまいかい。180やがて博士(はかせ)の称号(しやうがう)が下(さが)らむとしてゐる所(ところ)だ』
181高姫(たかひめ)『博士(はかせ)が聞(き)いて呆(あき)れますぞえ、182お前(まへ)のは博士(はかせ)でなうて、183バカセだ。184昔(むかし)はハカセとよんだが今(いま)はハクシと読(よ)むのだよ。185読方(よみかた)も知(し)らぬような法学士(はふがくし)が何(なん)になるか、186法学士(はふがくし)でなうて、187方角(はうがく)知(し)らずと云(い)ふ馬鹿者(ばかもの)だらう。188薄志(はくし)弱行(じやくかう)の徒(と)計(ばか)りが集(あつ)まつて居(ゐ)るから、189今(いま)ではハクシといふのだ。190白紙(はくし)主義(しゆぎ)と云(い)うて、191白紙(はくし)の様(やう)な清(きよ)い精神(せいしん)なればまだしもだが、192真黒(まつくろ)々助(くろすけ)の濁(にご)つた魂(たましひ)で、193法学士(はふがくし)も博士(はくし)もあつたものかいな。194法律(はふりつ)を殺(ころ)して皆(みな)墓(はか)へ埋(うづ)めるのだから、195ハカセと昔(むかし)は云(い)つたのだ。196此(この)頃(ごろ)は松若彦(まつわかひこ)さまの庭先(にはさき)に立(た)つて、197箒(はうき)を以(もつ)て庭掃(にはは)かせになるとこだと云(い)つて威張(ゐば)つて居(ゐ)るのだらう。198何程(なにほど)箒(はうき)(法規(はふき))が立派(りつぱ)でも、199神(かみ)様(さま)の自然(しぜん)の憲法(けんぱふ)には抵抗(ていかう)することは出来(でき)ますまい。200法律(はふりつ)と云(い)ふものは其(その)源(みなもと)を神界(しんかい)の憲法(けんぱふ)に発(はつ)して居(ゐ)るのだ。201其(その)元(もと)を掴(つか)んだ日本(やまと)魂(だましひ)の生粋(きつすゐ)の高姫(たかひめ)に対(たい)し、202何程(なにほど)弁護士(べんごし)もどきに滔々(たうたう)と懸河(けんが)の弁(べん)を揮(ふる)つても駄目(だめ)ですよ。203舌端(ぜつたん)火(ひ)を吐(は)き、204炎(ほのほ)を吹(ふ)いて高姫(たかひめ)を煙(けむり)にまき、205追(お)ひ帰(かへ)さうと思(おも)つても、206いつかないつかな日(ひ)の出神(でのかみ)の…オツトドツコイ……日(ひ)の出(で)る様(やう)な勢(いきほひ)でも、207只(ただ)一口(ひとくち)ジユンと水(みづ)を注(さ)したら、208忽(たちま)ち消滅(せうめつ)して了(しま)ふ様(やう)な屁理屈(へりくつ)を云(い)ふものぢやありませぬぞえ。209それだから、210人間(にんげん)の作(つく)つた不完全(ふくわんぜん)な学問(がくもん)は駄目(だめ)だと云(い)ふのですよ。211『学(がく)ありたとて、212知慧(ちゑ)ありたとて、213神界(しんかい)の仕組(しぐみ)は人民(じんみん)では分(わか)るものではないぞよ』と此(この)世(よ)の根本(こつぽん)を御(お)造(つく)り遊(あそ)ばした大先祖(おほせんぞ)の国治立(くにはるたちの)命(みこと)様(さま)が仰(あほせ)られて御座(ござ)るぢやありませぬか。214其(その)大神(おほかみ)様(さま)の片腕(かたうで)となつて御(お)手伝(てつだ)ひ申(まを)す身魂(みたま)の云(い)ふことを、215揚(あ)げ面(づら)して聞(き)くと云(い)ふやうな不都合(ふつがふ)千万(せんばん)の罰当(ばちあた)りが、216どこにありますか。217エーエ面倒(めんだう)臭(くさ)い、218家宅(かたく)侵入(しんにふ)だらうが、219何(なん)だらうが、220そんな事(こと)を構(かま)うてゐる暇(ひま)がない、221カールさますつこんでゐなさい』
222 斯(か)く争(あらそ)ふ所(ところ)へ、223松若彦(まつわかひこ)は慌(あわ)ただしく、224何事(なにごと)ならむと奥(おく)の間(ま)より走(はし)り来(きた)り、
225松若彦(まつわかひこ)『ヤア貴方(あなた)は高姫(たかひめ)様(さま)、226何(なに)御用(ごよう)か存(ぞん)じませぬが、227なることならば明日(みやうにち)、228どうぞ御(お)訪(たづ)ね下(くだ)さいませ。229万一(まんいち)御(ご)都合(つがふ)が悪(わる)ければ、230私(わたくし)の方(はう)から明日(みやうにち)更(あらた)めて御(お)伺(うかが)ひ致(いた)す考(かんが)へで御座(ござ)いますから……』
231高姫(たかひめ)『間髪(かんぱつ)を容(い)れざる危急(ききふ)存亡(そんばう)の今日(こんにち)の場合(ばあひ)、232そんな暢気(のんき)な事(こと)を云(い)つて居(を)られませぬ。233何(なん)でもかでも、234お前(まへ)が発頭人(ほつとうにん)だから、235ここで一(ひと)つ生命(いのち)に代(か)へても往生(わうじやう)させねばならぬ大問題(だいもんだい)が差迫(さしせま)つて来(き)て居(を)ります。236後(あと)の後悔(こうくわい)は間(ま)に合(あ)ひませぬからなア』
237松若彦(まつわかひこ)『これはこれは何(なん)の御用(ごよう)かと思(おも)へば、238大変(たいへん)な急用(きふよう)との御(お)話(はなし)、239そんなら私(わたし)も結婚(けつこん)の準備(じゆんび)に付(つ)いて、240何(なに)かと繁忙(はんばう)をきはめ、241只今(ただいま)言依別(ことよりわけ)様(さま)の御(お)館(やかた)へ出仕(しゆつし)する所(ところ)で御座(ござ)いましたが、242僅(わづか)五(ご)分間(ふんかん)だけ繰合(くりあは)せまして御(お)話(はなし)を承(うけたま)はりませう』
243高姫(たかひめ)『別(べつ)に五(ご)分間(ふんかん)もかかりませぬ。244お前(まへ)さまが高姫(たかひめ)の云(い)ふことを……ウンさうか、245御尤(ごもつと)も……と首(くび)を縦(たて)に一(ひと)つふりさへすれば、246それで万事(ばんじ)解決(かいけつ)がつくのだ』
247 松若彦(まつわかひこ)は言依別(ことよりわけ)、248国依別(くによりわけ)、249竜国別(たつくにわけ)より昨夜(さくや)の高姫(たかひめ)の妨害(ばうがい)運動(うんどう)を早(はや)くも聞(き)かされてゐたので、250テツキリ、251此(この)事(こと)ならむと早合点(はやがつてん)し、
252松若彦(まつわかひこ)『高姫(たかひめ)さま……如何(いか)にも御尤(ごもつと)も、253仰有(おつしや)る通(とほ)りに致(いた)します……ウンウン……』
254 ガクリガクリと首(くび)を縦(たて)にふり、
255松若彦(まつわかひこ)『左様(さやう)なら……』
256と言(い)つたきり、257足早(あしばや)に裏口(うらぐち)よりぬけ出(いだ)し、258言依別(ことよりわけの)命(みこと)の館(やかた)を指(さ)して、259雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げて行(ゆ)く。
260高姫(たかひめ)『コレ……松(まつ)、261ワヽ若(わか)、262ヒヽ彦(ひこ)何(なに)をビコビコとしてゐるのだ。263奥(おく)の間(ま)にかくれて居(を)つても、264埒(らち)はあきませぬぞえ。265……ヤツパリ気(き)が咎(とが)めると見(み)えて、266蒟蒻(こんにやく)のやうにビリビリふるつて、267奥(おく)の間(ま)に隠(かく)れたのだな。268蚤(のみ)が蒲団(ふとん)の縫目(ぬひめ)に頭(あたま)計(ばか)り隠(かく)して、269尻(しり)を出(だ)しとるやうな、270アザとい事(こと)をしたつて駄目(だめ)ですよ。271今日(けふ)は奥(おく)の手(て)の、272とつときの日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)を現(あら)はして侵入(しんにふ)しますぞ。273今日(けふ)は肉体(にくたい)の高姫(たかひめ)では御座(ござ)いませぬぞ。274改(あらた)めてカールさま、275念(ねん)押(お)しておくから、276後(あと)で刑法(けいはふ)だの、277民法(みんぽふ)だのと小言(こごと)を云(い)うて下(くだ)さるなや』
278と云(い)ひながら奥(おく)の間(ま)さして足音(あしおと)高(たか)くかけ込(こ)んだ。279見(み)れば松若彦(まつわかひこ)の影(かげ)もない。
280高姫(たかひめ)『ハテ、281どこへ隠(かく)れたか』
282と言(い)ひつつ、283窓(まど)をガラリと開(あ)けて外面(そと)を眺(なが)むれば、284松若彦(まつわかひこ)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)、285裏道(うらみち)を尻(しり)ひつからげて、286どこかを指(さ)して走(はし)り行(ゆ)く姿(すがた)が見(み)えた。287高姫(たかひめ)は地団駄(ぢだんだ)ふんで悔(くや)しがり、
288高姫(たかひめ)『エヽ卑怯(ひけふ)未練(みれん)な松若彦(まつわかひこ)、289彼奴(あいつ)を往生(わうじやう)させねば此(この)世(よ)はサツパリ泥海(どろうみ)だ。290千騎(せんき)一騎(いつき)の神界(しんかい)の御用(ごよう)だ』
291と云(い)ひながら、292裏口(うらぐち)あけて松若彦(まつわかひこ)が後(あと)をトントントンと追(お)つかけて行(ゆ)く。
293(大正一一・八・二四 旧七・二 松村真澄録)
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