霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第二一章 峯(みね)の雲(くも)〔九三六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻 篇:第4篇 理智と愛情 よみ(新仮名遣い):りちとあいじょう
章:第21章 峯の雲 よみ(新仮名遣い):みねのくも 通し章番号:936
口述日:1922(大正11)年09月19日(旧07月28日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年11月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
黒姫と玉治別の出自と半生の歌を聞いて、東助は両手を組み頭をうなだれて太い息をつきながらこの光景を見守っていた。
一方、高山彦も自身の懺悔の歌を歌い始めた。高山彦はコーカス山の大気津姫の重臣であった父母の間に生まれたが、黄泉比良坂の戦いで大気津姫一派はコーカス山を追われてアーメニヤに逃げた。
兄が家を継いだので、高山彦は気ままに育ち、若い女と駆け落ちして都を出たという。しかしその途上、女は谷底へ落ちて死んでしまった。嘆き悲しむ高山彦が柏井川に来たところ、その女にどことなく似た女と行き会い関係を持ったが、人の足音に驚いて逃げ去ってしまったという。
それ以来その女を探していたが、黒姫の昔語りを聞いて、まさにそれが現在の妻である黒姫であったと悟り、また玉治別が自分の実子であることを悟ったことを明かした。
高山彦の告白に、ここに夫婦親子の対面はなり、高山彦、黒姫、玉治別は互いに取りすがり、嬉し涙を流した。
高姫はこの光景に驚きながらも、自分はまだ罪障が取れずに悩みが解決しないのだと語った。黒姫は、高姫も若いころに捨て子をしたと聞いたのだが、そのことなのかと問いかけた。そしてその捨て子の守り刀の様子や、幼名や年までも言い当てて高姫を驚かせた。
黒姫は、自分が探索に出かけた筑紫の島で、国の神司である建国別に面会したことを歌って聞かせた。建国別は捨て子であったが国司・建日別の婿となった人物であった。そして真の父母を探しているという。
黒姫は建国別の話を聞いて、高姫の昔語りを思いだし、もしや建国別は高姫の子ではないかと思いながらも、高姫本人に確認しようと筑紫の国では何も語らずに自転倒島まで戻ってきたことを明かした。
玉治別も、黒姫の話を聞いてもしや建国別は高姫の息子ではないかと、筑紫の島までの案内を買ってでた。高姫はしばしうなだれてお礼を述べるのみであった。そしてそんな高姫を東助は顔色を変えて見つめていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-09-06 05:03:38 文字数:4063 OBC :rm3321
愛善世界社版:230頁 八幡書店版:第6輯 335頁 修補版: 校定版:241頁 普及版:91頁 初版: ページ備考:
001高姫(たかひめ)『今(いま)承(うけたま)はれば、002実(じつ)に黒姫(くろひめ)さまも奇妙(きめう)な運命(うんめい)を辿(たど)られたものですな。003随分(ずゐぶん)貴女(あなた)も若(わか)い時(とき)は引手(ひくて)数多(あまた)の花菖蒲(はなあやめ)、004若(わか)い男(をとこ)に随分(ずゐぶん)チヤホヤされたでせう。005何処(どこ)ともなしに床(ゆか)しい花(はな)の香(か)が未(いま)だに備(そな)はつて居(ゐ)ますよ。006オホヽヽヽ……然(しか)し乍(なが)らこんなお目出度(めでた)い事(こと)は御座(ござ)いませぬ。007私(わたし)も自分(じぶん)の子(こ)に会(あ)うた様(やう)に嬉(うれ)しうなつて来(き)ました。008……高山彦(たかやまひこ)さま、009貴方(あなた)も若(わか)い時(とき)に子(こ)でも生(う)みつけて置(お)きなされば、010今頃(いまごろ)はさぞ神(かみ)様(さま)のお蔭(かげ)で親子(おやこ)の対面(たいめん)が出来(でき)御(ご)愉快(ゆくわい)で御座(ござ)いませうがな』
011黒姫(くろひめ)『ハイ、012誠(まこと)に恥(はづ)かしい事(こと)で御座(ござ)います。013畏(おそ)れ多(おほ)い……神(かみ)様(さま)から頂(いただ)いた吾(わが)子(こ)を捨(す)てたり、014こんな罰当(ばちあた)りの私(わたし)でも神(かみ)様(さま)はお許(ゆる)し下(くだ)さいまして、015斯(こ)んな嬉(うれ)しい親子(おやこ)の対面(たいめん)をさして下(くだ)さいました。016随分(ずゐぶん)彼方(あちら)此方(こちら)と気儘(きまま)の事(こと)をして廻(まは)り、017両親(りやうしん)の事(こと)は左程(さほど)にも思(おも)はず、018夫(をつと)の事(こと)や吾(わが)子(こ)の事(こと)ばかり尋(たづ)ねて居(を)りました。019私(わたし)の両親(りやうしん)も最早(もはや)此(この)世(よ)に居(を)るか居(を)らぬか知(し)りませぬが、020私(わたし)が子(こ)に恋(こ)ひ焦(こが)れる様(やう)に私(わたし)の両親(りやうしん)も嘸(さぞ)や嘸(さぞ)私(わたし)の事(こと)を気(き)にかけて居(を)られるでせう。021本当(ほんたう)に親(おや)の心(こころ)と云(い)ふものは何処(どこ)まで慈愛(じあい)の深(ふか)いものか分(わか)りませぬ。022斯(か)うなつて来(く)ると両親(りやうしん)の身(み)の上(うへ)も案(あん)じられ、023又(また)伜(せがれ)の玉治別(たまはるわけ)が折角(せつかく)母親(ははおや)に会(あ)うて喜(よろこ)んで居(を)りますが、024屹度(きつと)父親(てておや)の所在(ありか)を知(し)りたいと思(おも)うて居(ゐ)るに違(ちが)ひ御座(ござ)いませぬ。025何事(なにごと)も皆(みな)私(わたし)の不心得(ふこころえ)から、026一人(ひとり)の伜(せがれ)までに切(せつ)ない思(おも)ひをさせます。027あゝ玉治別(たまはるわけ)、028何卒(どうぞ)許(ゆる)して下(くだ)さい。029屹度(きつと)私(わたし)がお前(まへ)のお父(とう)さまを草(くさ)を分(わ)けても探(さが)し出(だ)し、030お会(あ)はせしませうから……』
031玉治別(たまはるわけ)『勿体(もつたい)ない事(こと)を云(い)つて下(くだ)さいますな。032此(この)広(ひろ)い世(よ)の中(なか)、033何時(いつ)まで探(さが)しても分(わか)りさうな事(こと)は御座(ござ)いませぬ。034神(かみ)様(さま)が会(あ)はして下(くだ)さらうと思召(おぼしめ)したら屹度(きつと)会(あ)はして下(くだ)さいますから……そんな事(こと)に心(こころ)を悩(なや)まさず、035一心(いつしん)に母子(おやこ)が揃(そろ)うて神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)を勤(つと)めさして頂(いただ)きませうか』
036黒姫(くろひめ)『左様(さやう)で御座(ござ)いますな。037母子(おやこ)手(て)を引(ひ)き合(あ)うて神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)を致(いた)しませう』
038 東助(とうすけ)は両手(りやうて)を組(く)み頭(かしら)を項垂(うなだ)れ、039時々(ときどき)太(ふと)い息(いき)を吐(つ)き、040物(もの)をも言(い)はず此(この)光景(くわうけい)を打看守(うちみまも)つて居(ゐ)る。
041 高山彦(たかやまひこ)は歌(うた)ひ出(だ)した。
042高山彦『コーカス山(ざん)に現(あら)はれし
043大気津(おほげつ)姫(ひめ)の八王(やつこす)と
044仕(つか)へまつりし千代彦(ちよひこ)や
045万代姫(よろづよひめ)の其(その)中(なか)に
046生(うま)れし吾(われ)は珍(うづ)の御子(みこ)
047隙間(すきま)の風(かぜ)にも当(あ)てられず
048蝶(てふ)よ花(はな)よと育(はぐく)まれ
049栄耀(えいやう)栄華(えいぐわ)に育(そだ)ちしが
050松(まつ)、竹(たけ)、梅(うめ)の宣伝使(せんでんし)
051石凝姥(いしこりどめ)や高彦(たかひこ)や
052其(その)他(た)数多(あまた)の神司(かむつかさ)
053コーカス山(ざん)に現(あら)はれて
054言霊戦(ことたません)を開(ひら)きてゆ
055老(おい)たる父母(ふぼ)は大気津(おほげつ)姫(ひめ)の
056神(かみ)の命(みこと)に従(したが)ひて
057逃(に)げ行(ゆ)く先(さき)はアーメニヤ
058館(やかた)の奥(おく)に隠(かく)れまし
059ウラルの神(かみ)の御教(みをしへ)を
060朝(あさ)な夕(ゆふ)なに守(まも)りつつ
061世人(よびと)を導(みちび)き給(たま)ひけり
062吾(われ)には三人(みたり)の兄弟(おとどひ)が
063いと健(まめ)やかに生(お)ひ育(そだ)ち
064父(ちち)の家(いへ)をば嗣(つ)ぎまして
065暮(くら)し玉(たま)へど弟(おとうと)と
066生(うま)れ出(い)でたる吾(われ)こそは
067自由(じいう)自在(じざい)の身(み)なりとて
068夜(よ)な夜(よ)な館(やかた)を抜(ぬ)け出(いだ)し
069若(わか)き女(をんな)と手(て)を曳(ひ)いて
070都(みやこ)を後(あと)にフサの国(くに)
071逃(に)げ行(ゆ)く折(をり)しも両人(りやうにん)は
072新井(あらゐ)の峠(たうげ)を越(こ)ゆる折(をり)
073谷(たに)に架(か)けたる丸木橋(まるきばし)
074危(あやふ)く之(これ)を踏(ふ)み外(はづ)し
075二人(ふたり)は千尋(ちひろ)の谷底(たにそこ)に
076落(お)ちて果敢(あへ)なくなりにけり
077かかる処(ところ)へ杣人(そまびと)が
078現(あら)はれ来(きた)りて吾(わが)身(み)をば
079種々(いろいろ)雑多(ざつた)と介抱(かいほう)し
080吾(われ)は危(あやふ)き生命(せいめい)を
081助(たす)かりたれど吾(わが)恋(こ)ふる
082女(をんな)のお里(さと)は影(かげ)見(み)えず
083深谷川(ふかたにがは)の激流(げきりう)に
084流(なが)されたるは是非(ぜひ)もなし
085最早(もはや)此(この)世(よ)に永(なが)らへて
086一人(ひとり)暮(くら)すも詮(せん)なしと
087柏井川(かしはゐがは)に架(か)け渡(わた)す
088橋(はし)の袂(たもと)に来(き)て見(み)れば
089夜目(よめ)には確(しつか)と分(わか)らねど
090お里(さと)の顔(かほ)によく似(に)たり
091何(いづ)れの人(ひと)の情(なさけ)にて
092危(あやふ)き生命(いのち)を免(のが)れしか
093不思議(ふしぎ)なことと擦(す)り寄(よ)つて
094よくよく姿(すがた)を眺(なが)むれば
095女(をんな)はお里(さと)に非(あら)ずして
096色香(いろか)勝(すぐ)れし真娘(まなむすめ)
097心(こころ)の裡(うち)の曲者(くせもの)に
098取(と)り挫(ひし)がれて懊悩(あうなう)の
099雲(くも)はいつしか晴(は)れ渡(わた)り
100再(ふたた)び陽気(やうき)に立(た)ち帰(かへ)り
101擦(す)れつ縺(もつ)れつ顔(かほ)と顔(かほ)
102眺(なが)めて忽(たちま)ち恋(こひ)の糸(いと)
103搦(から)まるままに傍(かたはら)の
104林(はやし)の中(なか)に立(た)ち入(い)りて
105○○○の折柄(をりから)に
106けたたましくも出(い)で来(きた)る
107人(ひと)の足音(あしおと)耳(みみ)につき
108パツと驚(おどろ)き立(た)ち別(わか)れ
109雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ去(さ)りぬ
110吾(われ)はそれよりフサの国(くに)
111彼方(あなた)此方(こなた)と逍遥(さまよ)ひつ
112若(もし)やお里(さと)は現世(うつしよ)に
113生永(いきなが)らへて居(ゐ)はせぬか
114飽(あく)まで探(さが)し求(もと)めむと
115雲(くも)をば掴(つか)む頼(たよ)りなき
116詮議(せんぎ)に月日(つきひ)を送(おく)りしが
117今(いま)黒姫(くろひめ)の物語(ものがたり)
118聞(き)いて驚(おどろ)く胸(むね)の裡(うち)
119柏井川(かしはゐがは)の橋(はし)の上(へ)で
120会(あ)うたる女(をんな)は黒姫(くろひめ)か
121さすれば玉治別(たまはるわけの)神(かみ)
122全(まつた)く吾(われ)の珍(うづ)の御子(みこ)
123あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
124神(かみ)の恵(めぐみ)は山(やま)よりも
125勝(すぐ)れて高(たか)く海(うみ)よりも
126いやまし深(ふか)く思(おも)はれて
127感謝(かんしや)の涙(なみだ)は雨(あめ)となり
128降(ふ)り注(そそ)ぐなる今日(けふ)の宵(よひ)
129玉治別(たまはるわけ)よ黒姫(くろひめ)よ
130高山彦(たかやまひこ)は汝(な)が父(ちち)ぞ
131汝(なれ)が昔(むかし)の夫(をつと)ぞや
132親子(おやこ)の縁(えにし)斯(か)くの如(ごと)
133月日(つきひ)の如(ごと)く明(あきら)かに
134なりたる上(うへ)は今(いま)よりは
135親子(おやこ)心(こころ)を協(あは)せつつ
136錦(にしき)の宮(みや)の御(おん)前(まへ)に
137誠(まこと)を捧(ささ)げて朝夕(あさゆふ)に
138力(ちから)限(かぎ)りに尽(つ)くすべし
139昔(むかし)の罪(つみ)が廻(めぐ)り来(き)て
140色々(いろいろ)雑多(ざつた)と世(よ)の中(なか)の
141憂目(うきめ)を忍(しの)び迷(まよ)ひたる
142夫婦(ふうふ)の仲(なか)も皇神(すめかみ)の
143恵(めぐみ)の鞭(むち)の戒(いまし)めか
144今(いま)は心(こころ)も打(う)ち解(と)けて
145天津(あまつ)御空(みそら)は殊更(ことさら)に
146弥(いや)明(あきら)けく地(ち)の上(うへ)は
147弥(いや)清(きよ)らけくなりにけり
148吹(ふ)き来(く)る風(かぜ)も今(いま)までの
149悲哀(ひあい)の音(おと)は何処(どこ)へやら
150千代(ちよ)を祝(しゆく)する歓(ゑら)ぎ声(ごゑ)
151小雲(こくも)の流(なが)れもサヤサヤと
152吾(われ)等(ら)親子(おやこ)の行末(ゆくすゑ)を
153祝(いは)ふが如(ごと)く聞(きこ)ゆなり
154あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
155御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
156 黒姫(くろひめ)、157玉治別(たまはるわけ)は高山彦(たかやまひこ)の物語(ものがたり)に二度(にど)吃驚(びつく)り、158……あの時(とき)の青年(せいねん)は高山彦(たかやまひこ)様(さま)であつたか……吾(わが)父(ちち)であつたか……と双方(さうはう)より取縋(とりすが)り嬉(うれ)し涙(なみだ)にかき暮(く)れる様(さま)、159実(じつ)に割(わり)なく見(み)えて居(ゐ)る。
160高姫(たかひめ)『黒姫(くろひめ)さま、161目出度(めでた)い事(こと)が重(かさ)なれば重(かさ)なるものですな。162お前(まへ)さまも全(まつた)く今(いま)迄(まで)の罪障(めぐり)がとれたと見(み)えて、163神(かみ)様(さま)が親子(おやこ)の対面(たいめん)をさして下(くだ)さつたのですよ。164そして高山彦(たかやまひこ)さまは露(つゆ)の契(ちぎり)と云(い)ひ乍(なが)ら、165若(わか)い時(とき)の貴方(あなた)のラバーしたお方(かた)、166なんとまア夢(ゆめ)に牡丹餅(ぼたもち)を喰(く)つた様(やう)な甘(うま)い話(はなし)で御座(ござ)いますなア。167それにつけても此(この)高姫(たかひめ)はまだ神(かみ)様(さま)のお許(ゆる)しがないと見(み)えまして、168心(こころ)の中(うち)に大変(たいへん)な悩(なや)みを持(も)つて居(ゐ)ます。169あゝ如何(どう)かして一時(いつとき)も早(はや)く、170此(この)悩(なや)みの雲(くも)が晴(は)れ、171青天(せいてん)白日(はくじつ)、172今日(けふ)の空(そら)の様(やう)にサラリとなり度(た)いものです。173あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
174と涙声(なみだごゑ)になつて両手(りやうて)を合(あは)せ祈(いの)りゐる。
175黒姫(くろひめ)『貴女(あなた)も何時(いつ)かのお話(はなし)の序(ついで)に一寸(ちよつと)承(うけたま)はりましたが、176妾(わたし)の様(やう)に捨児(すてご)をなされたさうですが、177貴方(あなた)の様(やう)な気丈(きぢやう)なお方(かた)でも矢張(やは)り気(き)にかかりますか』
178高姫(たかひめ)『親子(おやこ)の情(じやう)といふものは誰(たれ)しも同(おな)じ事(こと)です。179年(とし)が寄(よ)れば寄(よ)る程(ほど)子(こ)が恋(こ)ひしくなるものです。180アーア、181黒姫(くろひめ)様(さま)が元(もと)の親子(おやこ)夫婦(ふうふ)の対面(たいめん)を遊(あそ)ばしたに就(つ)いて、182一入(ひとしほ)昔(むかし)の事(こと)が思(おも)ひ出(だ)され、183吾(わが)子(こ)に一度(いちど)会(あ)ひ度(た)くなつて堪(たま)りませぬ。184其(その)時(とき)の夫(をつと)は今(いま)は何処(どこ)に如何(どう)して居(を)られますやら……今日(けふ)となつては其(その)夫(をつと)と出会(であ)つた処(ところ)が、185夫婦(ふうふ)となる訳(わけ)には行(ゆ)きませぬなれども、186せめて……お前(まへ)はあの時(とき)の妻(つま)であつたか、187夫(をつと)であつたか、188子(こ)であつたか……と名乗(なの)り合(あ)つて見(み)たう御座(ござ)います』
189と云(い)ひ放(はな)つて泣(な)き沈(しづ)む。190黒姫(くろひめ)は確信(かくしん)あるものの如(ごと)くニツコリと笑(わら)ひ乍(なが)ら、
191黒姫『高姫(たかひめ)さま、192あまり迂濶(うつかり)して居(を)つて貴女(あなた)のお話(はなし)を十分(じふぶん)に記憶(きおく)して居(を)りませぬが、193何(なん)でも貴女(あなた)のお捨(す)てになつたお子(こ)さまには、194守刀(まもりがたな)に真珠(しんじゆ)で十(じふ)の字(じ)の印(しるし)を入(い)れ柄元(つかもと)に「東(ひがし)」と「高(たか)」との印(しるし)をお入(い)れになつたぢや御座(ござ)いませぬでしたかな』
195高姫(たかひめ)『ナニ、196黒姫(くろひめ)さま、197そんな詳(くは)しい事(こと)を私(わたし)は申上(まをしあ)げた様(やう)な記憶(きおく)はありませぬが、198左様(さやう)の事(こと)を申上(まをしあ)げた事(こと)が御座(ござ)いますかな』
199黒姫(くろひめ)『そのお子(こ)さまの名(な)は金太郎(きんたらう)とは申(まを)しませなんだか、200丁度(ちやうど)今年(ことし)で私(わたくし)と同(おな)じ様(やう)に三十五(さんじふご)年(ねん)になるのぢや御座(ござ)いませぬか』
201 東助(とうすけ)の顔(かほ)の色(いろ)が之(これ)を聞(き)くよりサツと変(かは)つた。202高姫(たかひめ)の顔(かほ)も亦(また)俄(にはか)に変(かは)り、203目(め)は円(まる)くなり口先(くちさき)が尖(とが)つて来(き)出(だ)した。
204高姫(たかひめ)『何(なん)とまあ、205詳(くは)しい事(こと)を御存(ごぞん)じで御座(ござ)いますな。206私(わたし)はそこ迄(まで)お話(はな)した覚(おぼ)えは御座(ござ)いませぬが、207如何(どう)してまアそんな詳(くは)しい事(こと)がお分(わか)りで御座(ござ)いますか。208これには何(なに)か御(ご)様子(やうす)のある事(こと)でせう。209何卒(どうぞ)明(あか)らさまに仰有(おつしや)つて下(くだ)さいませ』
210 黒姫(くろひめ)は歌(うた)を以(もつ)てこれに答(こた)へける。
211黒姫『高山彦(たかやまひこ)の後(あと)を追(お)ひ
212筑紫(つくし)の島(しま)に立(た)ち向(むか)ひ
213建日(たけひ)の港(みなと)を後(あと)にして
214筑紫(つくし)ケ岳(だけ)の大峠(おほたうげ)
215高山峠(たかやまたうげ)を登(のぼ)り行(ゆ)く
216其(その)頂上(ちやうじやう)となりし時(とき)
217傍(かたへ)に五(ご)人(にん)の荒男(あらをとこ)
218玉公(たまこう)、虎公(とらこう)面々(めんめん)の
219人(ひと)の噂(うはさ)を聞(き)きつれば
220熊襲(くまそ)の国(くに)の神司(かむつかさ)
221建日別(たけひわけ)の御(おん)息女(むすめ)
222建能姫(たけのひめ)の夫(つま)として
223誉(ほまれ)も高(たか)き建国別(たけくにわけ)の
224神(かみ)の命(みこと)は何人(なにびと)の
225捨(す)てたる児(こ)とも分(わか)らずに
226三十五(さんじふご)才(さい)の今年(ことし)まで
227父母(ふぼ)両親(りやうしん)の所在(ありか)をば
228尋(たづ)ね居(ゐ)ますと聞(き)きしより
229遥々(はるばる)館(やかた)に立(た)ち寄(よ)つて
230夫婦(めをと)の神(かみ)に面会(めんくわい)し
231もしや吾(わが)子(こ)にあらぬかと
232昔(むかし)の来歴(らいれき)物語(ものがた)り
233種々(いろいろ)調(しら)べ見(み)たりしに
234建国別(たけくにわけ)の宣(の)らす様(やう)
235吾(われ)は如何(いか)なる人(ひと)の子(こ)か
236未(いま)だに分(わか)らぬ悲(かな)しさに
237朝(あさ)な夕(ゆふ)なに三五(あななひ)の
238神(かみ)に仕(つか)へて父母(ちちはは)の
239行方(ゆくへ)を尋(たづ)ね求(もと)めつつ
240其(その)日(ひ)を送(おく)る悲(かな)しさよ
241汝(なれ)の命(みこと)は遠近(をちこち)と
242神(かみ)の教(をしへ)を伝(つた)へつつ
243出(い)でます身(み)なれば父母(ちちはは)に
244もしもや会(あ)はせ給(たま)ひなば
245一日(ひとひ)も早(はや)く吾(わが)許(もと)に
246知(し)らさせ給(たま)へ幼名(をさなな)は
247聞(き)くも目出(めで)たき金太郎(きんたらう)
248吾(わが)身(み)に添(そ)へたる綾錦(あやにしき)
249守袋(まもりぶくろ)に名(な)を記(しる)し
250守刀(まもりがたな)に真珠(しんじゆ)にて
251十字(じふじ)の印(しるし)を描(ゑが)き出(だ)し
252鍔元(つばもと)篤(とく)と眺(なが)むれば
253「東(ひがし)」と「高(たか)」の印(しるし)あり
254人(ひと)の情(なさけ)に哺(はぐく)まれ
255漸(やうや)く成人(せいじん)なせしもの
256誠(まこと)の生(う)みの父母(ちちはは)が
257此(この)世(よ)に居(ゐ)ます事(こと)ならば
258一目(ひとめ)なりとも会(あ)ひたやと
259嘆(なげ)かせ給(たま)ふを聞(き)くにつけ
260此(この)黒姫(くろひめ)も胸(むね)迫(せま)り
261名乗(なの)り上(あ)げむかと思(おも)へども
262いや待(ま)て暫(しば)し待(ま)て暫(しば)し
263高姫(たかひめ)様(さま)に面会(めんくわい)し
264詳(くは)しき事(こと)を更(あらた)めて
265承(うけたま)はらずは軽々(かるがる)に
266名乗(なの)りもならずと口許(くちもと)へ
267出(で)かけた言葉(ことば)を呑(の)み込(こ)んで
268素知(そし)らぬ顔(かほ)を装(よそほ)ひつ
269此処(ここ)まで帰(かへ)り来(きた)りけり
270まさかに汝(なれ)の生(う)みませし
271御子(みこ)にはあるまじさり乍(なが)ら
272合点(がてん)の往(ゆ)かぬは三年前(みとせまへ)
273高姫(たかひめ)様(さま)の物語(ものがたり)
274朧気(おぼろげ)ながら思(おも)ひ出(だ)し
275半信(はんしん)半疑(はんぎ)に包(つつ)まれて
276名乗(なの)りも得(え)ざりしもどかしさ
277あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
278神(かみ)の恵(めぐみ)の幸(さち)はひて
279高姫(たかひめ)さまが愛(いと)し子(ご)に
280目出度(めでたく)会(あ)はせ給(たま)ふべき
281時(とき)こそ来(きた)れるなるべしと
282何(なん)とはなしに勇(いさ)ましく
283心(こころ)の空(そら)も晴(は)れにけり
284高姫(たかひめ)さまよ黒姫(くろひめ)が
285此(この)物語(ものがたり)諾(うべな)ひて
286お心当(こころあた)りのあるならば
287人(ひと)を遥々(はるばる)遣(つか)はして
288今一度(まいちど)調(あらた)め給(たま)へかし
289あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
290御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
291玉治別(たまはるわけ)『屹度(きつと)建国別(たけくにわけの)命(みこと)は高姫(たかひめ)様(さま)の御(ご)子息(しそく)に間違(まちが)ひありますまい。292如何(どう)も私(わたし)はその様(やう)な気(き)が致(いた)します。293さうであつたならば、294実(じつ)に此(この)上(うへ)ない目出(めで)たい事(こと)で御座(ござ)いますがな。295私(わたくし)は久(ひさ)し振(ぶ)りで両親(りやうしん)に邂逅(めぐりあ)ひ、296斯(こ)んな嬉(うれ)しい事(こと)は御座(ござ)いませぬ。297高姫(たかひめ)様(さま)も、298一度(いちど)遠方(ゑんぱう)なれども私(わたくし)が御(ご)案内(あんない)致(いた)しますから、299熊襲(くまそ)の国(くに)までお調(しら)べにお出(い)でになつたら如何(どう)でせう』
300高姫(たかひめ)『ハイ、301御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う御座(ござ)います』
302と言(い)つたきり稍(やや)少時(しばし)頭(かうべ)を垂(た)れ吐息(といき)を洩(も)らし居(ゐ)る。303東助(とうすけ)も亦(また)顔色(かほいろ)を変(か)へ高姫(たかひめ)の顔(かほ)を穴(あな)のあく程(ほど)見詰(みつ)め居(ゐ)たり。
304(大正一一・九・一九 旧七・二八 北村隆光録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→