霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一九章 報告祭(ほうこくさい)〔九三四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻 篇:第4篇 理智と愛情 よみ(新仮名遣い):りちとあいじょう
章:第19章 報告祭 よみ(新仮名遣い):ほうこくさい 通し章番号:934
口述日:1922(大正11)年09月19日(旧07月28日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年11月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
綾の聖地の錦の宮の八尋殿では報告祭がおこなわれた。麻邇の宝珠の神業成就や黒姫の息子が玉治別だと判明したことなど、前代未聞の大慶事に直会の席もにぎわっていた。
竹公、安公、虎公がたわいもない話で盛り上がっていた。やがて東助の一声で直会もお開きとなり、信者一同は上機嫌で家路についた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-09 14:56:42 文字数:5227 OBC :rm3319
愛善世界社版:205頁 八幡書店版:第6輯 326頁 修補版: 校定版:215頁 普及版:80頁 初版: ページ備考:
001 綾(あや)の聖地(せいち)に於(お)ける錦(にしき)の宮(みや)の八尋殿(やひろどの)には、002七五三(しちごさん)の太鼓(たいこ)の音(おと)が聞(きこ)えて来(き)た。003今日(けふ)は殊(こと)の外(ほか)風(かぜ)清(きよ)く、004陰鬱(いんうつ)なる霧(きり)も早朝(さうてう)より晴(は)れ渡(わた)り、005紺碧(こんぺき)の空(そら)は愈(いよいよ)高(たか)く、006太陽(たいやう)は東(ひがし)の山(やま)の端(は)より其(その)雄姿(ゆうし)を現(あら)はし、007金色(こんじき)の光(ひかり)を地上(ちじやう)に投(な)げてゐる。008今朝(けさ)は太鼓(たいこ)の音(おと)も何(なん)となく冴(さ)え渡(わた)り、009下界(げかい)の邪気(じやき)を万里(ばんり)の外(そと)に追(お)ひ払(はら)うた様(やう)な気分(きぶん)が漂(ただよ)うてゐる。
010 東助(とうすけ)、011高姫(たかひめ)を初(はじ)め、012秋彦(あきひこ)、013友彦(ともひこ)、014テールス姫(ひめ)、015夏彦(なつひこ)、016佐田彦(さだひこ)、017お玉(たま)、018高山彦(たかやまひこ)其(その)他(た)の幹部(かんぶ)は祭服(さいふく)厳(いか)めしく、019報告祭(ほうこくさい)を勤行(ごんぎやう)するのであつた。020高姫(たかひめ)が久振(ひさしぶ)りにて高砂島(たかさごじま)より帰(かへ)り、021又(また)黒姫(くろひめ)、022玉治別(たまはるわけ)が筑紫(つくし)の島(しま)より遥々(はるばる)帰国(きこく)し、023鷹依姫(たかよりひめ)、024竜国別(たつくにわけ)の宣伝使(せんでんし)が無事(ぶじ)に帰国(きこく)して、025麻邇(まに)宝珠(ほつしゆ)の神業(しんげふ)に無事(ぶじ)奉仕(ほうし)せし歓(よろこ)びと、026黒姫(くろひめ)が三十五(さんじふご)年(ねん)振(ぶ)りに吾(わが)実子(じつし)の発見(はつけん)せられし事(こと)の感謝(かんしや)を兼(か)ねたる報告祭(はうこくさい)であつた。
027 一紘琴(いちげんきん)、028二紘琴(にげんきん)の嚠喨(りうりやう)たる音楽(おんがく)の声(こゑ)と共(とも)に祭典(さいてん)は無事(ぶじ)終了(しうれう)した。029教主(けうしゆ)の英子姫(ひでこひめ)を初(はじ)め、030玉照彦(たまてるひこ)、031玉照姫(たまてるひめ)の神司(かむつかさ)並(ならび)に紫姫(むらさきひめ)も、032神殿(しんでん)に深(ふか)く進(すす)みて此(この)祭典(さいてん)に列(れつ)せられた。033祭典(さいてん)終(をは)ると共(とも)に此(この)四柱(よはしら)は教主(けうしゆ)の館(やかた)を指(さ)して、034悠々(いういう)と四五(しご)人(にん)の信徒(しんと)に送(おく)られ帰(かへ)つて行(ゆ)く。
035 後(あと)には賑々(にぎにぎ)しく直会(なほらひ)の宴(えん)が開(ひら)かれた。036万代(ばんだい)未聞(みもん)の大慶事(だいけいじ)といふので、037錦(にしき)の宮(みや)の八尋殿(やひろどの)も日頃(ひごろ)の窮屈(きうくつ)に引替(ひきか)へ、038今日(けふ)一(いち)日(にち)は気楽(きらく)に直会(なほらひ)の酒(さけ)を飽(あ)く迄(まで)頂(いただ)き、039口々(くちぐち)に歌(うた)ひ舞(ま)ひ、040踊(をど)り狂(くる)ふ事(こと)を黙許(もくきよ)されて居(ゐ)た。041酒(さけ)の酔(ゑひ)が廻(まは)るにつれて、042そろそろ雑談(ざつだん)が始(はじ)まつて来(く)る。
043甲(かふ)『オイ虎公(とらこう)、044時節(じせつ)は待(ま)たねばならぬものだなア。045高姫(たかひめ)の大将(たいしやう)や、046黒姫(くろひめ)婆(ば)アさまが、047寝(ね)ても醒(さ)めても、048玉々(たまたま)と云(い)つて随分(ずゐぶん)玉騒(たまさわ)ぎで、049言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)や、050大勢(おほぜい)の者(もの)を手古摺(てこず)らしたものだが、051到頭(たうとう)一心(いつしん)を貫(つらぬ)いて、052玉(たま)の御用(ごよう)を首尾(しゆび)克(よ)く勤(つと)め上(あ)げたぢやないか。053おまけに筑紫(つくし)の島(しま)から玉(たま)を一(ひと)つ持(も)つて帰(かへ)りよつたのは黒姫(くろひめ)だ。054本当(ほんたう)に甘(うま)い事(こと)しよつたネー』
055虎公(とらこう)『オイ、056小(ちひ)さい声(こゑ)で言(い)はぬか。057あれ見(み)よ、058高姫(たかひめ)さまや黒姫(くろひめ)さまが正座(しやうざ)に構(かま)へて御座(ござ)るぞ』
059甲(かふ)『俺(おれ)も一(ひと)つ是(これ)から玉(たま)さがしに往(い)つて来(こ)うかなア』
060虎公(とらこう)『貴様(きさま)捜(さが)しに往(い)かなくても、061宅(うち)に沢山(たくさん)あるぢやないか。062よく考(かんが)へて見(み)よ。063貴様(きさま)ん所(とこ)の猫(ねこ)は玉(たま)といふだらう。064そして毛(け)の色(いろ)が真黒(まつくろ)々助(くろすけ)の黒姫(くろひめ)だオツトドツコイ黒猫(くろねこ)だ。065おまけに貴様(きさま)の嬶(かか)がおすみと云(い)つて名詮(めいせん)自称(じしよう)の真黒(まつくろ)々助(くろすけ)、066中低(なかびく)のお玉杓子(たまじやくし)のやうな顔(かほ)をしてゐるだらう。067そして小(ちい)つぽけな肝玉(きもたま)を持(も)つてゐるなり、068団栗(どんぐり)のやうな目玉(めだま)も二(ふた)つぶら下(さ)げてゐる。069貴様(きさま)の睾丸(きんたま)は名代(なだい)の八畳敷(はちでふじき)狸(たぬき)が税金取(うんじやうと)りに来(く)るやうな品玉(しなだま)だ。070これ丈(だけ)沢山(たくさん)に麻邇(まに)の宝珠(ほつしゆ)や金(きん)の玉(たま)を持(も)つてゐる癖(くせ)に、071此(この)上(うへ)玉騒(たまさわ)ぎをせられちや皆(みな)の者(もの)がたまらぬから、072モウ良(い)い加減(かげん)に諦(あきら)めたがよからうぞ。073のう狸(たぬき)の安公(やすこう)』
074安公(やすこう)『コリヤ虎猫(とらねこ)、075何(なに)を吐(ぬか)すのだ。076人(ひと)の事(こと)を云(い)ふよりも、077自分(じぶん)の蜂(はち)から払(はら)うてかかれ。078俺(おれ)のは八畳敷(はちでふじき)ぢやない錦(にしき)の信玄袋(しんげんふくろ)だ。079奴(ど)狸(たぬき)野郎(やらう)奴(め)貴様(きさま)は手力男(たぢからをの)神(かみ)さまの様(やう)に、080おれは猫(ねこ)の年(とし)に生(うま)れた寅公(とらこう)だけれど、081ヤツパリ人(ひと)の家(うち)に養(やしな)はれる家畜(かちく)だから、082自称(じしよう)艮(うしとら)の金神(こんじん)よりも余程(よつぽど)偉(えら)いと吐(ぬか)してゐやがるが、083猫寅(ねことら)の金神(こんじん)と云(い)ふ者(もの)がどこにあるか。084よつ程(ぽど)よい馬鹿者(ばかもの)だなア』
085虎公(とらこう)『トラ何(なに)を吐(ぬか)す。086丑(うし)と云(い)ふ奴(やつ)は庭(には)のすみつこに置(お)いて貰(もら)ひ、087糞(くそ)まぶれになつて草(くさ)を喰(くら)つて暮(くら)して居(ゐ)る奴(やつ)だ。088猫(ねこ)と云(い)ふ奴(やつ)は、089主人(しゆじん)の膝(ひざ)へものり、090同(おな)じ炬燵(こたつ)へも這入(はい)り、091家庭(かてい)の花(はな)となつて、092優待(いうたい)される代物(しろもの)だぞ。093それだから猫(ねこ)が一番(いちばん)偉(えら)いのだ。094それだから猫虎(ねことら)の金神(こんじん)は丑寅(うしとら)の金神(こんじん)よりも位(くらゐ)が上(うへ)だと云(い)ふのだ。
095猫(ねこ)が三筋(みすぢ)の手管(てくだ)の糸(いと)で
096鰌(どぜう)や鯰(なまづ)を引(ひ)きころす………
097と云(い)ふ事(こと)を知(し)らぬか。098何程(なにほど)鰌(どぜう)ひげを生(は)やし、099鯰(まなづ)ひげを生(は)やしとるゼニトルメンでも、100自由(じいう)自在(じざい)に引(ひ)きまはす、101万能力(ばんのうりよく)を持(も)つてゐるのだから大(たい)したものだ。102猫寅(ねことら)の金神(こんじん)さまに限(かぎ)るぞよ。103………猫寅(ねことら)の金神(こんじん)が現(あら)はれて、104三千(さんぜん)世界(せかい)の神(かみ)、105仏事(ぶつじ)、106人民(じんみん)、107鳥類(てうるゐ)、108獣(けだもの)、109虫族(むしけら)に至(いた)るまで守護(しゆご)致(いた)さぬぞよ。110……コラ安(やす)、111イヤ狸安(たぬきやす)、112どうだい、113豪勢(がうせい)な者(もの)だらう。114オツホヽヽヽ』
115と笑(わら)ふ。116安公(やすこう)は立(たち)あがり、117そこらをキヨロキヨロ見(み)まはし、118自分(じぶん)の加勢(かせい)に来(き)て呉(く)れる友達(ともだち)はないかと、119酔眼(すゐがん)朦朧(まうろう)とあたりを調(しら)べてゐる。120そこへ目(め)についたのは竹公(たけこう)と云(い)ふ友達(ともだち)である。121安公(やすこう)は、
122安公『オイ竹公(たけこう)、123一寸(ちよつと)来(き)てくれ、124加勢(かせい)だ加勢(かせい)だ』
125 此(この)声(こゑ)に竹公(たけこう)は多勢(おほぜい)の中(なか)をヒヨロリヒヨロリと千鳥足(ちどりあし)になり、126徳利(とくり)を蹴転(けころ)がし、127盃(さかづき)をふみ砕(くだ)き、128人(ひと)の頭(あたま)の上(うへ)に尻餅(しりもち)をついたり、129肩(かた)を押(おさ)へたりし乍(なが)ら、130やつとの事(こと)で安公(やすこう)の前(まへ)にやつて来(き)た。131少(すこ)し目(め)が悪(わる)いので信仰(しんかう)を始(はじ)めた近在(きんざい)の百姓(ひやくしやう)男(をとこ)である。132真珠(しんじゆ)の上(うへ)に雑水(ざふづ)をかぶせた様(やう)な目玉(めだま)を、133底(そこ)の方(はう)からピカピカ光(ひか)らせ乍(なが)ら、134竹公(たけこう)は、
135竹公『オイ安公(やすこう)、136何(なに)をかせいするのだ。137かせいと云(い)つたつて、138此(この)頃(ごろ)はサツパリ懐(ふところ)が冬枯(ふゆが)れだ。139木(こ)の葉(は)一(いち)枚(まい)ドンドン乍(なが)ら、140持(も)つてゐないのだから、141反対(あべこべ)にこつちへチツト許(ばか)り貸(か)せないかなア。142俺(おれ)も今日(けふ)は斯(か)うして目出(めで)たい酒(さけ)を頂(いただ)いたのだが、143今日(けふ)働(はたら)いて今日(けふ)食(く)ふと云(い)ふ江戸(えど)つ児(こ)気質(かたぎ)の哥兄(にい)さまだから、144今日(けふ)は稼(かせ)ぎが出来(でき)ない。145三界(さんがい)の首枷(くびかせ)となる餓鬼(がき)が二三匹(にさんびき)、146家(うち)にや嬶(かか)と一緒(いつしよ)に鍋(なべ)を洗(あら)つて待(ま)つてゐるのだから、147俺(おれ)やモウそれを思(おも)ふと、148折角(せつかく)呑(の)んだ酒(さけ)がさめて了(しま)ひさうだ。149おれのやうな者(もの)にカセカセ吐(ぬか)さずと、150此(この)猫寅(ねことら)に貸(か)して貰(もら)つたら如何(どう)だい』
151虎公(とらこう)『オイ竹公(たけこう)、152猫虎(ねことら)とは余(あま)りぢやないか』
153竹公(たけこう)『丑寅(うしとら)の金神(こんじん)さまよりも偉(えら)い名(な)ぢやないか。154今(いま)お前(まへ)がさう言(い)つて自慢(じまん)して居(ゐ)ただらう。155それだから此(この)竹公(たけこう)が、156力(ちから)一杯(いつぱい)尊敬(そんけい)して猫寅(ねことら)といふのだが、157どこが悪(わる)いのだ、158そんな事(こと)言(い)はずにチツト俺(おれ)に貸(か)せ。159今日(けふ)は目出(めで)たい日(ひ)だから、160お前(まへ)も人(ひと)に頼(たの)まれて滅多(めつた)に首(くび)を横(よこ)にふるやうな事(こと)はしさうな筈(はず)もなし、161俺(おれ)も亦(また)借(か)つて呉(く)れと頼(たの)まれて借(か)つてやらぬと云(い)つて、162一口(ひとくち)にはねるやうな拙劣(へた)な事(こと)はせないからなア』
163安公(やすこう)『オイ竹公(たけこう)、164こんな奴(やつ)に金(かね)でも借(か)らうものなら、165それこそ大事(おほごと)だ。166出会(であ)ふ度(たび)に、167貸(か)してやつた貸(か)してやつたと、168人(ひと)の前(まへ)だらうが何処(どこ)だらうが構(かま)はずに、169いつ迄(まで)も恥(はぢ)をかかしやがるから、170措(お)け措(お)け、171後(あと)の為(ため)が悪(わる)いぞ』
172竹公(たけこう)『ナーニ、173構(かま)ふものか。174こちらの方(はう)から反対(はんたい)に、175人(ひと)に出会(であ)ふ度(たび)に借(か)つてやつた借(か)つてやつたと云(い)つたらいいぢやないか。176貸(か)してられる奴(やつ)よりも借(か)る奴(やつ)の方(はう)が、177当世(たうせい)は力(ちから)があるのだからなア。178さうだから人間(にんげん)は借金(しやくきん)をせなくては、179男(をとこ)の幅(はば)が利(き)かぬといふのだ。180貴様(きさま)のやうに金持(かねもち)の所(ところ)へ行(い)つては三文(さんもん)一文(いちもん)の世話(せわ)にもならぬ癖(くせ)に、181追従(つゐしよう)タラダラ、182旦那(だんな)はん仏壇(ぶつだ)はん、183ゼントルマンだとか吐(ぬか)しやがつて、184お髭(ひげ)の塵(ちり)を払(はら)ふよりも、185俺(おれ)達(たち)は自分(じぶん)の甲斐性(かひしやう)でドツサリ金(かね)を借(か)り、186お髭(ひげ)の塵(ちり)どころか、187三文(さんもん)も払(はら)うてやらぬのだ。188さうすると、189借(か)られた奴(やつ)めが、190反対(あべこべ)に俺(おれ)の機嫌(きげん)を取(と)りやがつて、191逆(さか)さまに振(ふる)うても虱(しらみ)一(ひと)つおちぬ男(をとこ)を、192道(みち)で出会(であ)ふと向(むか)ふの方(はう)からペコペコ頭(あたま)を下(さ)げて、193機嫌(きげん)を取(と)るのだから大(たい)したものだよ。194モシも俺(おれ)を怒(おこ)らさうものなら、195貸(か)した金(かね)をふみつぶされちや堪(たま)らないと、196執着心(しふちやくしん)の欲(よく)にかられて弱(よわ)くなるのだからなア、197貴様(きさま)の様(やう)に貸(か)しもせねば、198能(よ)う借(か)りもせず、199朝(あさ)から晩(ばん)まで碌(ろく)な物(もの)も食(くら)はず、200嬶(かか)アと睨(にら)みつこ計(ばか)りして……あゝ今年(ことし)もなんぼ なんぼ食(く)ひ込(こ)んだ、201田(た)が一町(いつちやう)減(へ)つた。202林(はやし)が一(ひと)つ飛(と)んだ……と言(い)つて、203青息(あをいき)吐息(といき)で暮(くら)す代物(しろもの)とは、204チツト種(たね)が違(ちが)ふのだからなア』
205 虎公(とらこう)は酒(さけ)にヅブ六(ろく)に酔(よ)うて居(ゐ)る竹公(たけこう)の話(はなし)を聞(き)いて、206何(なん)と思(おも)うたか、
207虎公(とらこう)『オイ竹公(たけこう)、208貴様(きさま)の言草(いひぐさ)は中々(なかなか)面白(おもしろ)い。209今(いま)まで随分(ずゐぶん)借倒(かりたふ)されたが、210到底(たうてい)返(かへ)してくれる見込(みこみ)もあり相(さう)にない。211一生(いつしやう)貴様(きさま)のいふ通(とほ)り、212俺(おれ)は貴様(きさま)の機嫌(きげん)をとらねばならぬと思(おも)へば情(なさけ)なうなつて来(き)た。213どうぞおれに金(かね)を借(か)つてやつたと云(い)ふことを忘(わす)れてくれ。214俺(おれ)も亦(また)貸(か)したなんどといふ事(こと)は夢(ゆめ)にも思(おも)はぬからなア。215ここに金(きん)百(ひやく)両(りやう)あるが、216これも貴様(きさま)に献上(けんじやう)するから受取(うけと)つてくれ。217そして俺(おれ)から貰(もら)うたといふ事(こと)もスツカリ忘(わす)れるのだぞ。218俺(おれ)も貴様(きさま)にやつたといふ事(こと)を、219今日(けふ)限(かぎ)り忘(わす)れて了(しま)ふからなア』
220竹公(たけこう)『ヨシ、221特別(とくべつ)を以(もつ)て許(ゆる)してやらう。222有難(ありがた)く頂戴(ちやうだい)いたせ……ぢやない、223俺(おれ)が頂戴(ちやうだい)いたす……オイ安公(やすこう)、224どうだい、225竹哥兄(たけにい)のお腕前(うでまへ)を知(し)つたか、226アーン』
227安公(やすこう)『チツト俺(おれ)にも分配(ぶんぱい)せぬかい。228貴様(きさま)一人(ひとり)、229猫糞(ねこばば)をきめるとは、230余(あま)り虫(むし)がよすぎるぞ』
231竹公(たけこう)『猫糞(ねこばば)をきめこむのは当然(あたりまへ)だ。232灰猫(はひねこ)の猫寅(ねことら)から……オツトドツコイ、233忘(わす)れるのだつた、234貰(もら)つたか貰(もら)はぬか、235曖眛(あいまい)模糊(もこ)として、236捕捉(ほそく)す可(べか)らざる活劇(くわつげき)に依(よ)つて、237捕捉(ほそく)したのだから、238マア内(うち)の嬶(かか)アに御(お)届(とど)けする迄(まで)は御免(ごめん)蒙(かうむ)らうかい。239ウフヽヽヽ……時(とき)に黒姫(くろひめ)さまの本当(ほんたう)の子(こ)といふのは、240あの……それ……何(なん)ぢやないか、241本当(ほんたう)に呆(あき)れたものだなア』
242安公(やすこう)『玉治別(たまはるわけ)さまが黒姫(くろひめ)の若(わか)い時(とき)の伜(せがれ)だつたといの。243何(なん)と黒姫(くろひめ)も今(いま)こそ神(かみ)さまだとか、244教(をしへ)だとか、245偉相(えらさう)に云(い)つてゐやがるが、246若(わか)い時(とき)や余程(よほど)の淫奔娘(いたづらむすめ)だつたと見(み)えるワイ』
247竹公(たけこう)『さうだから、248神(かみ)さまが此(この)八尋殿(やひろどの)へ集(あつま)つて来(く)る者(もの)は、249罪人(とがにん)計(ばか)りだと仰有(おつしや)るのだ。250一代(いちだい)で取(と)れぬ罪(つみ)を神(かみ)の御用(ごよう)を命(さ)して、251一代(いちだい)で取(と)つてやらうと仰有(おつしや)るのだからなア。252此(この)聖地(せいち)で偉(えら)さうにやつて居(を)る東助(とうすけ)総務(そうむ)でも、253高姫(たかひめ)でも、254げほうさまでも、255若(わか)い時(とき)に如何(どん)な事(こと)をやつて来(き)やがつたか、256知(し)れたものぢやないぞ。257上(うへ)に立(た)つて居(ゐ)る者(もの)程(ほど)霊(みたま)の悪(わる)い如何(どう)も斯(か)うもならぬ奴(やつ)が引寄(ひきよ)せてあるぞよと、258神(かみ)さまが仰有(おつしや)るのだからなア』
259虎公(とらこう)『オイ両人(りやうにん)、260余(あんま)りな事(こと)を言(い)つちや可(い)けないぞ。261今日(けふ)は目出(めで)たい日(ひ)だから、262話(はなし)をするのは良(い)いが、263人身(じんしん)攻撃(こうげき)になるやうな事(こと)は謹(つつし)まねばならうまい。264悪言暴語(ののしること)なく、265善言美詞(みやび)の言霊(ことたま)を以(もつ)て普(あまね)く神人(かみがみ)を和(なご)め、266天地(あめつち)の御子(みこ)と生(うま)れ出(い)でたる其(その)本分(つとめ)を尽(つく)させ玉(たま)へ……と朝(あさ)な夕(ゆふ)なに祈(いの)る所(ところ)の八尋殿(やひろどの)ぢやないか。267チツト場所(ばしよ)を考(かんが)へて見(み)よ』
268竹公(たけこう)『上(うへ)に立(た)つとる奴(やつ)は、269何奴(どいつ)も此奴(こいつ)もすました顔(かほ)しやがつて、270俺(おれ)はゼントルメンだと吐(ぬか)してゐるが、271神(かみ)さまを松魚節(かつをぶし)にして、272人(ひと)の懐(ふところ)から銭取奴(ぜにとるめん)だ。273まるで体(てい)のよい泥棒(どろばう)だよ。274八尋殿(やひろどの)が聞(き)いて呆(あき)れら。275ワツハヽヽヽ』
276安公(やすこう)『銭取(ぜにと)る奴(めん)といふ事(こと)は貴様(きさま)の事(こと)だ。277衆人(しうじん)環視(くわんし)の中(なか)で、278猫寅(ねことら)の懐(ふところ)から、279現(げん)に銭取(ぜにと)る奴(めん)をやつたぢやないか。280人(ひと)の事(こと)だと思(おも)うて居(を)つたら、281皆(みな)吾(わが)事(こと)であるぞよと神(かみ)さまの御教(みをしへ)にあるのを貴様(きさま)覚(おぼ)えて居(を)るか』
282竹公(たけこう)『そんな所(ところ)は俺(おれ)が覚(おぼ)える必要(ひつえう)がないのだ。283各自(めいめい)に心(こころ)相応(さうおう)に取(と)れる教(をしへ)だから、284俺(おれ)はおれで取(と)る所(ところ)があるのだ。285貴様(きさま)も貴様(きさま)で、286気(き)に入(い)つた筆先(ふでさき)の文句(もんく)があるだらう』
287安公(やすこう)『さうだなア、288俺(おれ)だつて嫌(きら)ひな所(ところ)もあれば好(す)きな所(ところ)もある。289……艮(うしとら)の金神(こんじん)現(あら)はれて……と云(い)ふ声(こゑ)を聞(き)くと、290俄(にはか)に頭(あたま)が痛(いた)くなりやがるなり……竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)が日(ひ)の出神(でのかみ)と現(あら)はれるぞよ……といふ文句(もんく)になつて来(く)ると、291益々(ますます)気分(きぶん)が悪(わる)くなつて逃(に)げて帰(かへ)りたくなつて了(しま)ふワ。292さうだと思(おも)ふと……世(よ)におちぶれた者(もの)を侮(あなど)る事(こと)はならぬぞよ、293結構(けつこう)なお方(かた)が世(よ)におとしてあるぞよ、294誠(まこと)の人間(にんげん)ほど苦労(くらう)が永(なが)いぞよ、295神(かみ)は上下(うへした)運否(うんぷ)のなき様(やう)に致(いた)すぞよ……といふ点(てん)になると、296中々(なかなか)気(き)に入(い)るね。297斯(か)ういふ所(ところ)を聞(き)かされると、298虎公(とらこう)なぞは頭(あたま)の痛(いた)い口(くち)だらう。299それだから其(その)人々(ひとびと)の心(こころ)に取(と)れる筆先(ふでさき)だと神(かみ)様(さま)が仰有(おつしや)るのだ』
300虎公(とらこう)『俺(おれ)は別(べつ)にどこが好(す)きだの嫌(きら)ひだのといふ事(こと)はない、301神(かみ)さまの教(をしへ)には無条件(むでうけん)降服(かうふく)だ。302何程(なにほど)人間(にんげん)が偉相(えらさう)に考(かんが)へて見(み)た所(ところ)で神(かみ)様(さま)のお詞(ことば)が分(わか)るものぢやない。303俺(おれ)は変性(へんじやう)男子(なんし)に対(たい)しても変性(へんじやう)女子(によし)に対(たい)しても絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)だ。304無条件(むでうけん)降服(かうふく)だ。305それより取(と)るべき途(みち)がないのだからなア』
306安公(やすこう)『貴様(きさま)も偉(えら)い迷信家(めいしんか)だなア。307筆先(ふでさき)といふものは一々(いちいち)審神(さには)をせなくては、308何(なに)もかも、309貴様(きさま)のやうに唐辛(たうがらし)丸呑(まるの)みの議論(ぎろん)ではサツパリ駄目(だめ)だ。310辛(から)いか甘(あま)いか苦(にが)いか、311よくかみ分(わ)けるのが、312吾々(われわれ)の務(つと)めだ』
313竹公(たけこう)『もうゴテゴテいふな、314今日(けふ)は目出(めで)たい日(ひ)だから、315俺(おれ)は兎(と)も角(かく)筆先(ふでさき)に有難(ありがた)いことがあるのだ。316……難儀(なんぎ)な者(もの)を助(たす)ける精神(せいしん)にならぬと、317神(かみ)の気(き)かんに叶(かな)はぬぞよ……といふ所(ところ)がある。318其(その)筆先(ふでさき)のおかげで、319猫寅(ねことら)が今迄(いままで)の執着心(しふちやくしん)をスツパリ捨(す)てて了(しま)つて俺(おれ)に現金(げんきん)で百(ひやく)両(りやう)も、320沢山(たくさん)借金(しやくきん)がある上(うへ)に、321くれる様(やう)な善(ぜん)の心(こころ)に立返(たちかへ)りなされたぞよ。322竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)殿(どの)は、323誠(まこと)に欲(よく)の深(ふか)い神(かみ)でありたなれど、324此(この)度(たび)艮(うしとら)の金神(こんじん)さまが表(おもて)に現(あら)はれ遊(あそ)ばして、325三千(さんぜん)世界(せかい)をお構(かま)ひ遊(あそ)ばすについて、326乙姫(おとひめ)さまも、327これでは可(い)かぬと御(お)合点(がつてん)を遊(あそ)ばし、328今(いま)まで海(うみ)の底(そこ)にためておいた宝(たから)を、329残(のこ)らず艮(うしとら)の金神(こんじん)様(さま)にお渡(わた)し申(まを)して、330今度(こんど)の御用(ごよう)の片腕(かたうで)にお成(な)りなされたぞよ。331人民(じんみん)も其(その)通(とほ)り、332欲(よく)にためて居(を)りて万劫(まんごふ)末代(まつだい)吾(われ)の物(もの)だとこばりて居(を)りても、333天地(てんち)の物(もの)は皆(みな)神(かみ)の物(もの)であるから、334神(かみ)に返(かへ)さねばならぬぞよ。335上下(うへした)運否(うんぷ)のなき世(よ)に致(いた)して、336世界(せかい)の人民(じんみん)を安心(あんしん)させるぞよ。337早(はや)く改心(かいしん)致(いた)した者(もの)程(ほど)結構(けつこう)になるぞよ……と云(い)ふお筆先(ふでさき)は俺(おれ)達(たち)に取(と)つては天来(てんらい)の大福音(だいふくいん)だ。338猫寅(ねことら)でさへも竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さまになりかけたのだからなア。339ウツフヽヽ、340ボロイボロイこんなボロイ事(こと)が世(よ)にあらうか。341それだから信心(しんじん)の味(あぢ)が分(わか)らぬといふのだ』
342 斯(か)く得意(とくい)になつて、343ベラベラ喋(しやべ)つてゐる所(ところ)へ、344伊助(いすけ)といふ竹公(たけこう)の身内(みうち)の男(をとこ)、345矢庭(やには)に走(はし)り来(き)たり、346『馬鹿(ばか)ツ』と大声(たいせい)一喝(いつかつ)、347竹公(たけこう)の横面(よこづら)をなぐりつけた。
348竹公(たけこう)『アイタヽ、349コリヤ伊助(いすけ)、350貴様(きさま)は誰(たれ)に断(ことわ)つて俺(おれ)の面(つら)を擲(なぐ)つたのだ。351伊(い)け助(すけ)ない餓鬼(がき)だ。352今(いま)にドツサリ金(かね)を持(も)つてお礼(れい)に行(ゆ)くから、353さう思(おも)へ』
354伊助(いすけ)『早(はや)くお礼(れい)に来(き)てくれ、355待(ま)つて居(ゐ)る』
356と云(い)ひ乍(なが)ら群集(ぐんしふ)を押分(おしわ)け表(おもて)へ駆出(かけだ)した。357東助(とうすけ)は高座(かうざ)に立現(たちあら)はれ、358大声(おほごゑ)を張上(はりあ)げて、
359東助(とうすけ)『皆様(みなさま)、360御(ご)苦労(くらう)で御座(ござ)いました。361これで宴会(えんくわい)を閉(と)ぢますから、362一先(ひとま)づ御(ご)退場(たいぢやう)を願(ねが)ひます』
363と宣示(せんじ)した。364数千(すうせん)人(にん)の人々(ひとびと)は東助(とうすけ)の鶴(つる)の一声(ひとこゑ)に、365神殿(しんでん)に向(むか)ひ拍手(はくしゆ)再拝(さいはい)し、366各(おのおの)上機嫌(じやうきげん)で住家(すみか)を指(さ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
367(大正一一・九・一九 旧七・二八 松村真澄録)
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