霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二五章 琉(りう)の玉(たま)〔九四〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻 篇:第4篇 理智と愛情 よみ(新仮名遣い):りちとあいじょう
章:第25章 琉の玉 よみ(新仮名遣い):りゅうのたま 通し章番号:940
口述日:1922(大正11)年09月19日(旧07月28日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年11月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
東助は道中、秋彦とともに生田の森の館に夜明け頃立ち寄った。国玉別夫婦は水ごり中で不在であったが、東助は急ぐたびだからと留守役の駒彦に告げて、さっさと行ってしまった。
水ごりから戻ってきた国玉別夫婦は、駒彦をやって東助に一言お詫びを伝えに追いかけさせた。
日暮れのころ、高姫が佐田彦とともに慌ただしくやってきた。高姫は用向きを伝えると、玉能姫に東助がここに来たかと尋ねた。玉能姫は、東助は朝早くに自分たちが不在のうちに出立してしまったと答えた。
高姫は自分の昔の夫であった東助に一言恨み言を言いたいがために、玉能姫に舟を出すようにとごねだした。そこへ駒彦が返ってきて、すでに東助は淡路島へ帰って支度を整え、フサの国に向かって船出してしまったと伝えた。
高姫はそれを聞いて、もう東助のことは思うまいとあきらめた。翌日、国玉別は琉の玉を高姫に渡して、生田の森の館を引き継いだ。そして自分たち夫婦は球の玉を奉じて紀の国に祀る神業の仕えるのだと伝えた。
高姫は生田の森で琉の玉を守護することとなり、国玉別、玉能姫、駒彦は紀の国の若の浦を指して進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-10-15 03:13:15 文字数:3963 OBC :rm3325
愛善世界社版:277頁 八幡書店版:第6輯 351頁 修補版: 校定版:290頁 普及版:109頁 初版: ページ備考:
001 東助(とうすけ)は秋彦(あきひこ)と共(とも)に生田(いくた)の森(もり)の若彦(わかひこ)(今(いま)は国玉別(くにたまわけ))の館(やかた)に翌日(あくるひ)の夜明(よあ)け頃(ごろ)、002一寸(ちよつと)立寄(たちよ)つて見(み)た。003昔(むかし)は人(ひと)は一夜(いちや)の中(うち)に五十(ごじふ)里(り)や八十(はちじふ)里(り)は平気(へいき)で跋渉(ばつせふ)したものである。
004東助(とうすけ)『国玉別(くにたまわけ)さまは居(を)られますかなア』
005と訪(おとな)ふ声(こゑ)に駒彦(こまひこ)はあわてて飛(と)び出(だ)し、
006駒彦(こまひこ)『コレハコレハ総務(そうむ)さまで御座(ござ)いますか。007……ヤアお前(まへ)は秋彦(あきひこ)、008久振(ひさしぶ)りだつたなあ』
009秋彦(あきひこ)『ウン』
010東助(とうすけ)『夫婦(ふうふ)は居(を)られるかなア』
011と重(かさ)ねて問(と)へば駒彦(こまひこ)は、
012駒彦(こまひこ)『ハイ、013今朝(けさ)のお礼(れい)を済(す)ませ、014夫婦(ふうふ)連(づ)れにて軈(やが)て東助(とうすけ)様(さま)が見(み)えるだらうから、015それ迄(まで)に布引(ぬのびき)の滝(たき)へ水垢離(みづごり)を取(と)りに往(い)つて来(く)るから、016一寸(ちよつと)待(ま)つてゐて貰(もら)へとの命令(めいれい)で御座(ござ)いました。017どうぞ暫(しばら)く御(ご)休息(きうそく)下(くだ)さいませ。018やがてお帰(かへ)りになるでせうから……』
019東助(とうすけ)『別(べつ)に用(よう)もないのだから、020夫婦(ふうふ)が帰(かへ)られたら、021東助(とうすけ)がフサの国(くに)の斎苑(いそ)の館(やかた)へ御(ご)神務(しんむ)を帯(お)びて行(ゆ)く途中(とちう)、022一寸(ちよつと)訪問(はうもん)したと伝(つた)へておいてくれ。023神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)は一刻(いつこく)も猶予(いうよ)は出来(でき)ないから………』
024と云(い)ひすて、025早(はや)くも此(この)場(ば)をスタスタと立去(たちさ)りにける。026秋彦(あきひこ)も兄(あに)の駒彦(こまひこ)に折角(せつかく)会(あ)ひ乍(なが)ら、027碌々(ろくろく)に詞(ことば)も交(かは)し得(え)ざる本意(ほんい)なさに、028後(あと)ふり返(かへ)りふり返(かへ)り名残(なごり)を惜(を)しみつつ、029東助(とうすけ)の後(あと)に従(したが)つて明石(あかし)の港(みなと)を指(さ)して進(すす)み行(ゆ)く。
030 後(あと)に駒彦(こまひこ)は双手(もろて)を組(く)み、
031駒彦(こまひこ)『あゝ何(なん)としたすげない人(ひと)だらう。032いつも朴訥(ぼくとつ)な東助(とうすけ)さまだと聞(き)いて居(を)つたが、033コリヤ又(また)余(あま)り愛想(あいさう)がなさすぎる。034国玉別(くにたまわけ)夫婦(ふうふ)も夫婦(ふうふ)だ、035何故(なぜ)こんな時(とき)に布引(ぬのびき)の滝(たき)なんかへ行(ゆ)くのだらう。036行(い)きたけりやモ少(すこ)し早(はや)く往(い)つて、037早(はや)く帰(かへ)つて来(く)れば良(よ)いのに、038此(この)頃(ごろ)は玉能姫(たまのひめ)が膨(ふく)れたとか、039ふくれぬとか、040何(なん)とか彼(かん)とか云(い)つて、041小言(こごと)ばかり仰有(おつしや)るものだから、042女房(にようばう)に甘(あま)い国公(くにこう)も、043夜分(やぶん)は碌々(ろくろく)によう寝(ね)ないと見(み)えて、044朝寝(あさね)をするのだ。045それだから斯(こ)んなことが出来(でき)て来(く)るのだ。046エヽまあまあなんでこれ程(ほど)遅(おそ)いのだろ。047これから一走(ひとはし)り駆(か)け出(だ)せば、048秋彦(あきひこ)に会(あ)はれぬ事(こと)はないが、049又(また)不在(るす)にしておいては、050おれの役(やく)がすまぬなり、051困(こま)つた事(こと)が出来(でき)て来(き)た。052これだから若夫婦(わかふうふ)の世話(せわ)はするものぢやないと人(ひと)が言(い)ふのだ。053東助(とうすけ)さまも大方(おほかた)早(はや)く淡路島(あはぢしま)へ立寄(たちよ)つて女房(にようばう)のお百合(ゆり)に会(あ)ひ、054一(いつ)分間(ぷんかん)でもいちやつかうと思(おも)うて、055倉皇(さうくわう)として駆(か)け出(だ)したのだらう。056ヤツパリ夫婦(ふうふ)といふものは互(たがひ)に恋(こひ)しいものと見(み)えるワイ。057おれも早(はや)く修行(しうぎやう)をして結構(けつこう)な女房(にようばう)を持(も)ち、058家庭(かてい)を作(つく)つて、059……コレ駒彦(こまひこ)……イヤ女房(にようばう)……と意茶(いちや)ついて見(み)たいものだ。060あゝ辛気(しんき)臭(くさ)い、061男同志(をとこどうし)の兄弟(きやうだい)にさへ碌々(ろくろく)話(はなし)も出来(でき)ぬやうな詰(つま)らぬことがあるものか』
062と呟(つぶや)いてゐる。063そこへ帰(かへ)つて来(き)たのは国玉別(くにたまわけ)、064玉能姫(たまのひめ)の両人(りやうにん)であつた。
065駒彦(こまひこ)『コレ国(くに)さま、066玉(たま)さま、067何(なに)をグヅグヅしてゐるのだ。068とうとう東助(とうすけ)が愛想(あいさう)をつかして帰(かへ)つて了(しま)ひました。069秋彦(あきひこ)までが……』
070国玉別(くにたまわけ)『東助(とうすけ)が帰(かへ)つたとは、071誰(たれ)の事(こと)だ』
072駒彦(こまひこ)『誰(たれ)のこともあつたものか。073国玉別(くにたまわけ)さま、074玉能姫(たまのひめ)さま、075よい加減(かげん)にしておきなさい。076聖地(せいち)の総務(そうむ)の東助(とうすけ)さまがここへ一寸(ちよつと)お寄(よ)りになり、077お前(まへ)さま等(ら)夫婦(ふうふ)の不在(ふざい)を見(み)て、078何(なん)とマア仲(なか)の良(よ)い夫婦(ふうふ)ぢやなア……と思(おも)はれたか、079思(おも)はれぬか、080そりや知(し)らぬが、081どうぞ宜(よろ)しうと云(い)つて、082トツトと帰(かへ)つて行(い)かれました。083秋彦(あきひこ)までが、084折角(せつかく)兄弟(きやうだい)に対面(たいめん)し乍(なが)ら、085ロクに私(わたし)に詞(ことば)も交(かは)さず、086明石(あかし)の港(みなと)まで行(い)つて了(しま)つたのですよ。087まだ半時(はんとき)許(ばか)り前(さき)だから、088私(わたし)はこれから追(お)つかけて、089弟(おとうと)にモウ一目(ひとめ)会(あ)うて来(き)ます。090どうぞお前(まへ)さま等(ら)夫婦(ふうふ)は此処(ここ)に仲好(なかよ)うしてゐて下(くだ)さい。091何(なに)か伝言(ことづけ)があるなら申上(まをしあ)げますから……』
092玉能姫(たまのひめ)『それはそれは誠(まこと)に不都合(ふつがふ)な事(こと)で御座(ござ)いましたなア……国玉別(くにたまわけ)さま如何(どう)致(いた)しませうか』
093国玉別(くにたまわけ)『後(あと)追(お)つかけてでも行(い)かうものなら、094東助(とうすけ)様(さま)の気性(きしやう)としてどんなに怒(おこ)られるか知(し)れたものぢやない。095いつそ駒彦(こまひこ)に往(い)つて貰(もら)はう。096……コレ駒彦(こまひこ)、097国玉別(くにたまわけ)夫婦(ふうふ)が誠(まこと)にすまぬことで御座(ござ)いましたとお詫(わび)をしてゐたと、098是(これ)だけ言(い)つてくれ。099其(その)外(ほか)のことは何(なん)にも言(い)はぬが宜(よろ)しいぞ』
100駒彦(こまひこ)『ヨシ合点(がつてん)だ!』
101といひ乍(なが)ら尻(しり)ひつからげ、102生田(いくた)の森(もり)の中(なか)に姿(すがた)をかくした限(き)り日(ひ)の暮(く)れ過(すぎ)まで帰(かへ)つて来(こ)なかつた。
103 其(その)日(ひ)の暮(くれ)頃(ごろ)、104高姫(たかひめ)は佐田彦(さだひこ)と共(とも)に慌(あわ)ただしくやつて来(き)た。
105高姫(たかひめ)『モシモシ国玉別(くにたまわけ)さま、106私(わたし)は高姫(たかひめ)で御座(ござ)います。107神(かみ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)に依(よ)つて、108生田(いくた)の森(もり)の守護職(しゆごしよく)となり、109はるばると出(で)て来(き)ました。110お前(まへ)さまは此(この)事(こと)は疾(と)つくに御存(ごぞん)じでせうなア』
111と門口(かどぐち)から出(だ)しぬけに喚(わめ)いてゐる。112玉能姫(たまのひめ)は此(この)声(こゑ)を聞(き)くよりあわただしく表(おもて)に飛(と)び出(だ)し、
113玉能姫(たまのひめ)『これはこれは高姫(たかひめ)様(さま)、114能(よ)うこそいらせられました。115サアお這入(はい)り下(くだ)さいませ。116貴女(あなた)の此所(ここ)へお越(こ)しになることは、117二三(にさん)日(にち)以前(いぜん)より、118錦(にしき)の宮(みや)から通知(つうち)が御座(ござ)いまして、119其(その)用意(ようい)の為(ため)にいろいろ道具(だうぐ)の取片付(とりかたづけ)も致(いた)し、120今日(けふ)は名残(なごり)に布引(ぬのびき)の滝(たき)へ禊(みそぎ)に行(い)つて参(まゐ)りました。121サア今日(けふ)からは貴女(あなた)は此(この)館(やかた)の主人(あるじ)、122どうぞ御(ご)遠慮(ゑんりよ)なく奥(おく)へお通(とほ)り下(くだ)さいませ』
123高姫(たかひめ)『ハイ有難(ありがた)う』
124と云(い)ひ乍(なが)ら、125何(なん)となくそはそはしい様子(やうす)で、126そこらあたりをキヨロキヨロと見(み)まはしつつ、127言(い)ひ憎(にく)さうに、128モヂモヂし乍(なが)ら、
129高姫『あの……東助(とうすけ)さまはここへ御(お)立寄(たちよ)りにはなりませなんだかなア』
130玉能姫(たまのひめ)『ハイ、131今朝(けさ)早々(さうさう)お尋(たづ)ね下(くだ)さつた相(さう)で御座(ござ)いますが、132折(をり)あしく布引(ぬのびき)の滝(たき)へ夫婦(ふうふ)の者(もの)が水行(すいぎやう)に参(まゐ)り、133不在中(ふざいちゆう)だつたものですから、134門(かど)の閾(しきゐ)も跨(また)げずに、135秋彦(あきひこ)と一緒(いつしよ)にお帰(かへ)りなつたといふことです。136大方(おほかた)今頃(いまごろ)は淡路島(あはぢしま)の吾(わが)館(やかた)へでもお立寄(たちよ)りになつて、137今晩(こんばん)はゆつくりお休(やす)み遊(あそ)ばし、138明日(みやうにち)更(あらた)めてお出(い)でになるでせう』
139高姫(たかひめ)『ヤアそりや大変(たいへん)だ。140如何(どう)しても斯(か)うしても東助(とうすけ)さまに一目(ひとめ)お目(め)にかかり、141一言(ひとこと)恨(うら)みいはねばなりませぬ。142イヤ一言(ひとこと)御(お)礼(れい)をいはねばならないのです。143コレ国玉別(くにたまわけ)さま、144玉能姫(たまのひめ)さま、145御(ご)苦労(くらう)だが、146一(ひと)ツ舟(ふね)を急(いそ)いで出(だ)して下(くだ)さい。147そして淡路島(あはぢしま)まで送(おく)り届(とど)けて下(くだ)さい。148玉能姫(たまのひめ)様(さま)は舟(ふね)を操(あやつ)るのが大変(たいへん)お上手(じやうづ)だから……』
149国玉別(くにたまわけ)『又(また)貴方(あなた)は俄(にはか)に東助(とうすけ)様(さま)をお慕(した)ひ遊(あそ)ばすのですな。150何(なに)か深(ふか)い事情(じじやう)が御座(ござ)いますか』
151高姫(たかひめ)『事情(じじやう)がなうて何(なん)としよう。152私(わたし)の恋(こひ)しい恋(こひ)しい昔(むかし)の夫(をつと)で御座(ござ)んすワイナ。153サア早(はや)く舟(ふね)を出(だ)して下(くだ)さいなア。154コレ玉能姫(たまのひめ)さま、155一生(いつしやう)の願(ねが)ひぢや、156早(はや)う出(だ)して下(くだ)さらぬと間(ま)に合(あ)ひませぬ』
157玉能姫(たまのひめ)『モシ国玉別(くにたまわけ)様(さま)、158舟(ふね)を出(だ)して送(おく)つて上(あ)げませうかなア』
159国玉別(くにたまわけ)『折角(せつかく)のお頼(たの)みだから、160送(おく)つて上(あ)げたいが、161昔(むかし)の恋男(こひをとこ)だなんて聞(き)く上(うへ)は、162ウツカリ送(おく)る訳(わけ)にも行(ゆ)くまい。163東助(とうすけ)さまの御(お)心(こころ)も分(わか)らず、164ウツカリ送(おく)つて行(ゆ)かうものなら、165それこそ何(ど)んなお目玉(めだま)を頂戴(ちやうだい)するか分(わか)るまいぞや。166いつもの東助(とうすけ)様(さま)ならば、167ゆつくりと吾(わが)家(や)に休(やす)んで行(い)つて下(くだ)さるのだけれど、168閾(しきゐ)もまたげずに行(ゆ)かれたとこを思(おも)へば、169高姫(たかひめ)さまが後(あと)からお出(いで)になるのを知(し)つて、170うるさがつて逃(に)げられたのかも分(わか)らぬから、171此奴(こいつ)ア一(ひと)つ考(かんが)へものだ』
172高姫(たかひめ)『エヽ人情(にんじやう)を知(し)らぬ冷酷(れいこく)な動物(どうぶつ)だなア。173そんなことで三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が出来(でき)ますか。174チツト粋(すゐ)を利(き)かしたら如何(どう)だなア』
175 かく話(はな)す折(をり)しもスタスタと帰(かへ)つて来(き)たのは駒彦(こまひこ)であつた。
176国玉別(くにたまわけ)『ヤア駒彦(こまひこ)か。177東助(とうすけ)さまに会(あ)うて来(き)たか』
178駒彦(こまひこ)『ハイ都合(つがふ)よく明石(あかし)の港(みなと)で追(お)つ着(つ)き、179秋彦(あきひこ)にも会(あ)ひ、180それから舟(ふね)で淡路島(あはぢしま)のお宅(たく)まで送(おく)り届(とど)け、181お百合(ゆり)さまと面会(めんくわい)の上(うへ)酒(さけ)を汲(く)みかはし、182私(わたし)達(たち)兄弟(きやうだい)もドツサリと頂(いただ)きました』
183高姫(たかひめ)『コレお前(まへ)は駒彦(こまひこ)だつたな。184そして東助(とうすけ)さまはまだ淡路島(あはぢしま)にゐられますかな』
185駒彦(こまひこ)『ヤア高姫(たかひめ)様(さま)か、186お珍(めづ)らしい所(ところ)でお目(め)にかかりました。187随分(ずゐぶん)貴女(あなた)も玉(たま)の事(こと)について、188生田(いくた)の森(もり)には面白(おもしろ)い経歴(けいれき)が残(のこ)つて居(を)りますなア。189国依別(くによりわけ)さまの神懸(かむがかり)[※三版・御校正本・愛世版では「神懸」、校定版では「神憑」。]で竹生島(ちくぶしま)へお越(こ)しになつたり、190随分(ずゐぶん)御(ご)苦労(くらう)をなさいましたですなア。191未(いま)だに時々(ときどき)思(おも)ひ出(だ)して、192国玉別(くにたまわけ)様(さま)と話(はなし)をして居(ゐ)るのですよ。193随分(ずゐぶん)玉(たま)にかけては、194貴女(あなた)も偉(えら)いものですなア』
195高姫(たかひめ)『コレ駒彦(こまひこ)、196玉(たま)の事(こと)は如何(どう)でも宜(よろ)しい、197暇(ひま)な時(とき)に聞(き)かして下(くだ)さい。198東助(とうすけ)さまは如何(どう)して居(を)られますかなア。199サア早(はや)く云(い)つて下(くだ)さい。200早(はや)く早(はや)く、201気(き)がせけてなりませぬワイナ』
202駒彦(こまひこ)『東助(とうすけ)さまですか、203明石(あかし)海峡(かいけふ)で別(わか)れました。204モウ今頃(いまごろ)にやあの勢(いきほひ)で行(ゆ)かれたら、205高砂(たかさご)の沖(おき)へでもかかつてゐられるでせう。206私(わたし)は小舟(こぶね)でたつた一人(ひとり)、207ここまで帰(かへ)つて来(き)ました。208そして森(もり)の中(なか)でいろいろと道草(みちくさ)をくつて居(を)りましたから、209大分(だいぶん)時間(じかん)がたつて居(を)りますよ。210高姫(たかひめ)さまは東助(とうすけ)さまに何(なに)か急用(きふよう)があるのですか』
211高姫(たかひめ)『エヽもう宜(よろ)しい。212東助(とうすけ)の事(こと)は思(おも)ひますまい』
213国玉別(くにたまわけ)『サア高姫(たかひめ)様(さま)、214何卒(どうぞ)ここに洗足(せんそく)の湯(ゆ)が沸(わ)いて居(を)りますから、215之(これ)を使(つか)つてお上(あが)り下(くだ)さいませ、216事務(じむ)の引継(ひきつ)ぎをせなくてはなりませぬから、217引継(ひきつ)いだ以上(いじやう)は最早(もはや)此処(ここ)は貴女(あなた)のお館(やかた)ですから、218どうぞ御(ご)ゆつくりとくつろいで御(お)話(はなし)を承(うけたま)はりませう』
219高姫(たかひめ)『ハイ有難(ありがた)う』
220と云(い)ひ乍(なが)ら、221佐田彦(さだひこ)に足(あし)を洗(あら)つて貰(もら)ひ、222塵(ちり)を打払(うちはら)ひ乍(なが)ら、223笠(かさ)をぬぎ蓑(みの)をすて、224奥(おく)の間(ま)へ進(すす)み入(い)る。
225 其(その)夜(よ)は主客(しゆきやく)共(とも)に安(やす)く寝(しん)につき、226翌日(あくるひ)国玉別(くにたまわけ)は琉(りう)の玉(たま)を高姫(たかひめ)の前(まへ)に差出(さしだ)し、
227国玉別(くにたまわけ)『これが言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)より預(あづか)りました琉(りう)の宝玉(ほうぎよく)で御座(ござ)います。228貴女(あなた)は此(この)玉(たま)を何処(どこ)までも保護(ほご)して長(なが)く此(この)森(もり)にお止(とど)まり下(くだ)さいませ。229私(わたし)は神命(しんめい)に依(よ)り、230玉能姫(たまのひめ)、231駒彦(こまひこ)と共(とも)に球(きう)の玉(たま)を持(も)つて、232紀(き)の国路(くにぢ)へ参(まゐ)り、233之(これ)を祀(まつ)らねばなりませぬから、234どうぞ、235宜(よろ)しうお願(ねがひ)申(まを)します』
236玉能姫(たまのひめ)『高姫(たかひめ)様(さま)、237何卒(どうぞ)宜(よろ)しく』
238高姫(たかひめ)『ハイ、239畏(かしこ)まりました。240私(わたし)のやうな者(もの)が、241尊(たふと)い琉(りう)の玉(たま)を保護(ほご)さして頂(いただ)くといふ事(こと)は、242何(なん)とした冥加(みやうが)に余(あま)つた事(こと)で御座(ござ)いませう。243キツト大切(たいせつ)にお守(まも)り致(いた)しますから、244御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
245国玉別(くにたまわけ)『早速(さつそく)御(ご)承知(しようち)下(くだ)さつた上(うへ)は、246一刻(いつこく)も猶予(いうよ)がなりませぬ。247サア是(これ)より球(きう)の玉(たま)を捧(ほう)じ、248紀(き)の国(くに)へ参(まゐ)りますから、249随分(ずゐぶん)御(ご)機嫌(きげん)よくお勤(つと)めなさいませ』
250玉能姫(たまのひめ)『駒彦(こまひこ)、251サア参(まゐ)りませう………高姫(たかひめ)様(さま)左様(さやう)ならば暫(しばら)くお別(わか)れ致(いた)します』
252高姫(たかひめ)『どうぞ御(ご)無事(ぶじ)に御(ご)神業(しんげふ)をお勤(つと)めあそばすやう祈(いの)つて居(を)ります。253そんならそこ迄(まで)私(わたくし)がお送(おく)り致(いた)しますから、254コレ佐田彦(さだひこ)、255此(この)宝玉(ほうぎよく)の番(ばん)をしてゐて下(くだ)さい』
256国玉別(くにたまわけ)『イエイエそれには及(およ)びませぬ。257此(この)玉(たま)が館(やかた)にある以上(いじやう)は、258あなたは暫(しばら)くの間(あひだ)は此(この)家(いへ)をお出(で)ましになつてはいけませぬ』
259高姫(たかひめ)『左様(さやう)ならば、260是非(ぜひ)が御座(ござ)いませぬ。261ここでお別(わか)れ致(いた)しませう』
262と門口(かどぐち)に見送(みおく)る。263国玉別(くにたまわけ)、264玉能姫(たまのひめ)、265駒彦(こまひこ)は十数(じふすう)人(にん)の信徒(しんと)に送(おく)られ、266夜(よ)を日(ひ)についで紀(き)の国(くに)の若(わか)の浦(うら)を指(さ)して進(すす)み行(ゆ)く。
267(大正一一・九・一九 旧七・二八 松村真澄録)
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