霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 楽茶苦(らくちやく)〔九一九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻 篇:第1篇 誠心誠意 よみ(新仮名遣い):せいしんせいい
章:第4章 楽茶苦 よみ(新仮名遣い):らくちゃく 通し章番号:919
口述日:1922(大正11)年08月26日(旧07月4日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年11月10日
概要: 舞台:ウヅの館 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
捨子姫は結婚式の準備に繁忙を極めていたが、松若彦が慌ただしく走り来たった。捨子姫の居間に通された松若彦は、高姫が自分の館にやってきて熱心に反対運動をしに来たことを告げ、捨子姫に注意を促した。
捨子姫は松若彦の報せに感謝し、ただし自分はすでに腹を決めているし、昨日国依別に会った時も、国依別本人が固い決心だから、何が起ころうとも安心するように、と松若彦をなだめた。
そこへ言依別命が松若彦を尋ねてやってきた。一緒に盛典を成功させようと、二人は御殿に向かって行こうとしたとき、高姫は髪を振り乱して捨子姫の館の玄関口にやってきた。いつの間にか言霊停止は解除されて、怒鳴りたてている。
後からカールと春彦がやってきて追いついたが、松若彦は玄関まで出て、取り込み中だから帰るようにと高姫に告げるが、高姫は必死にこの結婚が大神様への侮辱になるからと訴えた。
松若彦は高姫に上がるようにと言った。高姫はカールとちょっとやり合い、松若彦に憎まれ口を叩いた後、捨子姫に意見を始めた。
しかし捨子姫の結婚賛成への意見は堅く、逆に言依別命、松若彦とともに、高姫の反対意見に対して諭して聞かせた。高姫もついに我を折って、ここはおとなしく改心することになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-08-18 18:39:02 文字数:5074 OBC :rm3304
愛善世界社版:36頁 八幡書店版:第6輯 269頁 修補版: 校定版:37頁 普及版:15頁 初版: ページ備考:
001 夜(よ)の明(あ)けぬ前(まへ)から捨子姫(すてこひめ)は、002末子姫(すゑこひめ)の結婚(けつこん)の用意(ようい)に取掛(とりかか)り、003相当(さうたう)に繁忙(はんばう)を極(きは)めて居(ゐ)た。004そこへ松若彦(まつわかひこ)は慌(あわ)ただしく走(はし)り来(きた)り、005案内(あんない)を請(こ)うた。006高公(たかこう)は玄関(げんくわん)にて其(その)用事(ようじ)の趣(おもむき)を聞(き)き、007直(ただ)ちに捨子姫(すてこひめ)の居間(ゐま)に通(とほ)した。
008捨子姫(すてこひめ)『松若彦(まつわかひこ)様(さま)、009慌(あわ)ただしきあなたの御(ご)様子(やうす)、010何(なに)か変事(へんじ)が出来(しゆつたい)したので御座(ござ)いますか』
011 松若彦(まつわかひこ)は息(いき)を喘(はづ)ませ乍(なが)ら、
012松若彦(まつわかひこ)『今日(けふ)は誠(まこと)に以(もつ)てお目出(めで)たう存(ぞん)じます。013さて只今(ただいま)私(わたし)の館(やかた)へ高姫(たかひめ)さまが御(お)出(い)でになり大変(たいへん)な権幕(けんまく)で御座(ござ)いました。014要(えう)するに今度(こんど)の結婚(けつこん)をジヤミにしようと熱心(ねつしん)に車輪(しやりん)的(てき)運動(うんどう)をやつて居(を)られます。015私(わたし)も言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)より昨夜(さくや)大体(だいたい)を承(うけたま)はつて居(を)りましたので、016これは屹度(きつと)其(その)問題(もんだい)に違(ちがひ)ないと思(おも)つてゐますと、017果(はた)して私(わたし)が只一口(ただひとくち)……ウン……と云(い)つて、018首(くび)を縦(たて)にふりさえすれば、019万事(ばんじ)解決(かいけつ)のつく話(はなし)だと言(い)はれましたので、020コリヤ大変(たいへん)、021今(いま)となつて水(みづ)を注(さ)されては、022素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)初(はじ)め、023末子姫(すゑこひめ)様(さま)に対(たい)し、024申訳(まをしわけ)がない。025弁舌(べんぜつ)の巧(たくみ)な高姫(たかひめ)さまに対(たい)して議論(ぎろん)をして居(を)つても、026追(お)つ付(つ)かない、027取(と)り合(あ)はぬが奥(おく)の手(て)と、028裏口(うらぐち)から逃(に)げて参(まゐ)りました。029あと振(ふ)り返(かへ)り見(み)れば、030高姫(たかひめ)さまは髪(かみ)ふり乱(みだ)し、031夜叉(やしや)の様(やう)な勢(いきほ)ひで、032私(わたし)のあとを追(お)つかけて来(き)ます。033私(わたし)は幸(さいは)ひ、034一本橋(いつぽんばし)を落(おと)しておいて高姫(たかひめ)さまの進路(しんろ)を遮(さへぎ)り、035漸(やうや)く此処(ここ)まで駆(か)けつけました。036何(いづ)れ、037後(のち)程(ほど)お宅(たく)へお出(い)でになるでせうから、038それ迄(まで)にトツクリとあなたと御(ご)相談(さうだん)を遂(と)げ、039姫(ひめ)様(さま)にも断乎(だんこ)たる決心(けつしん)を持(も)つて頂(いただ)きたいと存(ぞん)じまして、040お邪魔(じやま)を致(いた)しました次第(しだい)で御座(ござ)います』
041捨子姫(すてこひめ)『あゝ左様(さやう)で御座(ござ)いましたか。042それは大変(たいへん)御(ご)心配(しんぱい)をおかけ申(まを)しました。043姫(ひめ)様(さま)の方(はう)に於(おい)ては夜前(やぜん)より、044言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)と私(わたくし)が、045及(およ)ばず乍(なが)ら、046いろいろと申上(まをしあ)げ、047今(いま)の処(ところ)では挺(てこ)でも棒(ぼう)でも動(うご)かぬ様(やう)な固(かた)い御(ご)決心(けつしん)で御座(ござ)いますから、048たとへ高姫(たかひめ)さまが何(なん)と云(い)はう共(とも)、049最早(もはや)ビクとも動(うご)きませぬ。050安心(あんしん)して下(くだ)さいませ』
051松若彦(まつわかひこ)『それを聞(き)いて私(わたくし)も一寸(ちよつと)安心(あんしん)致(いた)しました。052併(しか)し乍(なが)ら、053こんなゴテゴテした事(こと)が、054肝腎(かんじん)の国依別(くによりわけ)さまの耳(みみ)へでも這入(はい)らうものなら、055淡泊(たんぱく)な人(ひと)だから……エヽもう斯(こ)んなゴテゴテした縁談(えんだん)なら真平(まつぴら)だ……と首(くび)を横(よこ)にふられたが最後(さいご)、056吾々(われわれ)は大神(おほかみ)様(さま)に対(たい)して申訳(まをしわけ)が御座(ござ)いませぬから、057それが第一(だいいち)心配(しんぱい)で御座(ござ)います』
058捨子姫(すてこひめ)『国依別(くによりわけ)さまも、059妾(わたし)が夜前(やぜん)ソツと高公(たかこう)を伴(つ)れ訪問(はうもん)致(いた)し、060いろいろと御(ご)意見(いけん)を承(うけたま)はりましたが、061高姫(たかひめ)さまの混(まぜ)つ返(かへ)しについて、062少(すこ)し許(ばか)り、063うるさがつて居(を)られました。064併(しか)し乍(なが)ら、065今度(こんど)はどうしても、066大神(おほかみ)様(さま)の思召(おぼしめし)だから、067否(いな)む訳(わけ)には行(ゆ)かぬ……と仰有(おつしや)つて固(かた)い固(かた)い決心(けつしん)が見(み)えました。068これも一(ひと)つ御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
069 斯(か)かる所(ところ)へ、070言依別(ことよりわけの)命(みこと)は只(ただ)一人(ひとり)現(あら)はれ来(きた)り、071高公(たかこう)に案内(あんない)させ乍(なが)ら、072ツカツカと奥(おく)に入(い)り、
073言依別命『ヤア松若彦(まつわかひこ)さま、074此処(ここ)でしたか、075よい所(ところ)でお目(め)にかかりました……捨子姫(すてこひめ)様(さま)、076御(お)忙(いそが)しい事(こと)で御座(ござ)いませうなア』
077松若彦(まつわかひこ)『つい今(いま)の先(さき)、078参(まゐ)つた所(ところ)で御座(ござ)います』
079捨子姫(すてこひめ)『何(なん)と云(い)つても、080お目出(めで)たい事(こと)で御座(ござ)います。081あなたも此(この)事(こと)に就(つい)て御(ご)奔走(ほんそう)遊(あそ)ばし、082さぞお心遣(こころづか)ひの程(ほど)御(お)察(さつ)し申上(まをしあ)げます』
083言依別(ことよりわけ)『時(とき)に松若彦(まつわかひこ)さま……高姫(たかひめ)さまの事(こと)ですが、084俄(にはか)に病気(びやうき)が起(おこ)り、085一旦(いつたん)は人事(じんじ)不省(ふせい)に陥(おちい)られましたが、086吾々(われわれ)初(はじ)め、087カール、088春彦(はるひこ)両人(りやうにん)の祈願(きぐわん)に依(よ)りて、089漸(やうや)く息(いき)を吹(ふ)き返(かへ)されました。090併(しか)し乍(なが)ら言霊(ことたま)が停止(ていし)されて了(しま)ひ、091何(なに)を言(い)つても御(お)答(こた)へなく、092目(め)計(ばか)りパチつかせ、093体(からだ)をプリンプリンと振(ふ)つて計(ばか)りゐられます。094何(いづ)れ今夜(こんや)の御(ご)結婚(けつこん)がお気(き)に入(い)らないのでせうが、095此(この)事(こと)計(ばか)りは如何(どう)あつても、096高姫(たかひめ)さまの御(ご)意見(いけん)ばかり用(もち)ゐる事(こと)は出来(でき)ませぬから、097飽(あ)く迄(まで)も此(この)盛典(せいてん)を完全(くわんぜん)に成功(せいこう)させたいと思(おも)つて、098あなたの御(お)宅(たく)へ御(お)訪(たづ)ねした所(ところ)、099常彦(つねひこ)さまが留守(るす)をして居(を)り、100大方(おほかた)捨子姫(すてこひめ)様(さま)の御(お)宅(たく)へ御(お)出(い)でになつたのだらうとの事(こと)、101それ故(ゆゑ)お邪魔(じやま)を致(いた)しました様(やう)な次第(しだい)で御座(ござ)います』
102松若彦(まつわかひこ)『何(なん)と云(い)つても、103最早(もはや)動(うご)かすことは出来(でき)ませぬ。104サア是(これ)から御殿(ごてん)へ上(あが)りまして、105一切(いつさい)の準備(じゆんび)に取掛(とりかか)りませう』
106言依別(ことよりわけ)『左様(さやう)ならば、107捨子姫(すてこひめ)さま、108松若彦(まつわかひこ)様(さま)、109取急(とりいそ)ぎ参(まゐ)りませう』
110と立出(たちい)でむとする所(ところ)へ、111高姫(たかひめ)は髪(かみ)ふり乱(みだ)し、112玄関口(げんくわんぐち)に立塞(たちふさ)がり、113何時(いつ)の間(ま)にか言霊(ことたま)の停止(ていし)は解除(かいぢよ)されて、
114高姫(たかひめ)『言依別(ことよりわけ)、115松若彦(まつわかひこ)、116捨子姫(すてこひめ)殿(どの)、117用(よう)が御座(ござ)る。118早(はや)く此(この)門(もん)あけて下(くだ)さい』
119と呶鳴(どな)り立(た)ててゐる。120後(あと)よりカール、121春彦(はるひこ)の二人(ふたり)は慌(あわ)ただしく走(はし)り来(きた)り、122漸(やうや)く玄関先(げんくわんさき)で追(お)ひ着(つ)き、123胸(むね)を撫(な)で卸(おろ)してゐる。
124 言依別(ことよりわけの)命(みこと)外(ほか)二人(ふたり)は、125高姫(たかひめ)の声(こゑ)を聞(き)き、126又(また)うるさい、127やつて来(き)よつたなア……と口(くち)には云(い)はねど、128互(たがひ)の顔(かほ)を色(いろ)に表(あら)はし乍(なが)ら、129松若彦(まつわかひこ)は表(おもて)の戸(と)を開(ひら)き、
130松若彦(まつわかひこ)『高姫(たかひめ)さま、131今日(けふ)は取込(とりこ)んで居(を)りますので、132どうぞ御(お)帰(かへ)り下(くだ)さいませ。133又(また)明日(あす)ゆつくりとお目(め)にかかりませう』
134高姫(たかひめ)『又(また)しても妾(わたし)を邪魔者(じやまもの)扱(あつか)ひにして、135門前払(もんぜんばら)ひを食(く)はす積(つも)りですか。136言(こと)に捨(すて)の両人(りやうにん)も此(ここ)に居(を)られるでせう。137何程(なにほど)忙(いそが)しいか知(し)りませぬが、138今晩(こんばん)のことよりわけて、139きまりつけねば、140此(この)儘(まま)に捨子姫(すてこひめ)と云(い)ふ訳(わけ)にも参(まゐ)りませぬぞや。141各自(めいめい)が気(き)をつけて、142姫(ひめ)様(さま)の此(この)結婚(けつこん)は末(すゑ)の末子姫(すゑこひめ)まで考(かんが)へて上(あ)げねば、143あつたら娘(むすめ)をドブ壺(つぼ)へおとすやうなことを致(いた)しましたら、144それこそ瑞(みづ)の御霊(みたま)様(さま)へ、145あなた方(がた)の言(い)ひ訳(わけ)が立(た)ちますまいぞや、146此(この)高姫(たかひめ)も第一(だいいち)申訳(まをしわけ)が立(た)ちませぬからなア。147妾(わたし)の言(い)ふ事(こと)はどうで御(お)気(き)には容(い)りますまいが、148ここは一(ひと)つ大雅量(だいがりやう)を出(だ)して老人(としより)の云(い)ふ事(こと)も取上(とりあ)げて貰(もら)ひませぬと、149後(あと)に至(いた)つて臍(ほぞ)を噛(か)むとも及(およ)ばない、150困(こま)つた事(こと)になりますぞや』
151松若彦(まつわかひこ)『そんな玄関口(げんくわんぐち)で、152見(み)つともない、153どうぞ奥(おく)へ御(お)通(とほ)り下(くだ)さい』
154高姫(たかひめ)『通(とほ)れと云(い)はなくても、155通(とほ)らなおきますか。156妾(わたし)の云(い)ふ事(こと)が通(とほ)らねば、157通(とほ)る所(ところ)まで通(とほ)して見(み)せます。158桃李(たうり)物(もの)云(い)はずと云(い)ふ事(こと)がある。159此(この)高姫(たかひめ)が通(とほ)りたら最後(さいご)、160物言(ものい)ひなしに私(わたし)の意見(いけん)を通(とほ)して下(くだ)さい。161お前(まへ)さま方(かた)は寄(よ)つてたかつて、162とりどりの小田原(をだはら)評定(ひやうぢやう)計(ばか)りに日(ひ)を暮(くら)して御座(ござ)るが、163何(なに)を云(い)つても、164雪(ゆき)と炭(すみ)、165月(つき)と鼈(すつぽん)程(ほど)身魂(みたま)の違(ちが)ふ此(この)縁談(えんだん)がどうして纏(まと)まりませう。166チツト胸(むね)に手(て)を当(あ)てて後先(あとさき)を考(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。167誠(まこと)に神(かみ)様(さま)を侮辱(ぶじよく)すると云(い)うても、168これ位(くらゐ)甚(はなは)だしい事(こと)は御座(ござ)いますまい。169誰(たれ)も彼(かれ)も末子姫(すゑこひめ)様(さま)の御(ご)機嫌(きげん)をとる事(こと)計(ばか)り考(かんが)へて、170御(おん)身(み)の上(うへ)の大事(だいじ)と云(い)ふ事(こと)を一寸(ちよつと)も構(かま)はないから、171已(や)むを得(え)ず、172年(とし)の老(よ)つた高姫(たかひめ)が又(また)しても又(また)しても出馬(しゆつば)せねばならぬ様(やう)な事(こと)が、173出来(でき)て来(く)るのだ』
174カール『高姫(たかひめ)さま、175そらさうですワイ。176お前(まへ)さまは三五教(あななひけう)の元老株(げんらうかぶ)だから、177かういふ時(とき)にや飛(と)んで出(で)るのが当(あた)り前(まへ)だらう。178内閣(ないかく)組織(そしき)の時(とき)でも、179いつも元老(げんらう)が飛出(とびだ)すぢやないか。180併(しか)し乍(なが)ら立憲(りつけん)政体(せいたい)の今日(こんにち)、181元老(げんらう)の飛出(とびだ)しは時代(じだい)錯誤(さくご)だとか何(なん)とか云(い)つて、182随分(ずゐぶん)国民(こくみん)が小言(こごと)を云(い)うてゐますよ。183モウいい加減(かげん)にお前(まへ)さまも目(め)をつぶつておとなしくしたら如何(どう)ですか。184日進(につしん)月歩(げつぽ)の今日(こんにち)余(あま)り古(ふる)い事(こと)をふりまはされると、185時代(じだい)に順応(じゆんおう)すると云(い)ふ神策(しんさく)が行(おこな)はれなくなり、186此(この)ウヅの国(くに)は今日(こんにち)の文明(ぶんめい)から継子扱(ままこあつかひ)をされる様(やう)になつて了(しま)ひますよ』
187高姫(たかひめ)『お黙(だま)り召(め)され……カール口(ぐち)か何(なん)ぞのやうにベラベラと、188こんな所(ところ)へ出(だ)しやばる幕(まく)ぢやありませぬぞえ。189私(わたし)は言依別(ことよりわけ)様(さま)、190其(その)外(ほか)の立派(りつぱ)な方々(かたがた)に御(ご)意見(いけん)に来(き)たのだ。191コンマ以下(いか)のお前(まへ)さまが、192此(この)大問題(だいもんだい)に対(たい)して、193何(なに)嘴(くちばし)を尖(とが)らすのだい』
194カール『これだから、195あの儘(まま)にしておいたが宜(よ)かつたのだ。196言依別(ことよりわけ)さまを途中(とちう)まで御(お)送(おく)りすると……おいカール、197お前(まへ)は高姫(たかひめ)の言霊(ことたま)が利(き)く様(やう)に、198マ一度(いちど)引返(ひきかへ)し、199ウ…ア…と二声(ふたこゑ)言霊(ことたま)を唱(とな)へてやれ、200そしたら自由(じいう)自在(じざい)に口(くち)が利(き)けるやうになるから……と気(き)の良(よ)い言依別(ことよりわけ)様(さま)が仰有(おつしや)つたものだから、201此奴(こいつ)ア今(いま)物(もの)言(い)はしたら、202面倒(めんだう)だと思(おも)ひ乍(なが)ら、203教主(けうしゆ)の命令(めいれい)背(そむ)くに由(よし)なく、204引返(ひきかへ)して物(もの)を言(い)ふ様(やう)にしてやれば、205すぐ此(こ)れだから困(こま)つて了(しま)ふ。206どうぞマ一遍(いつぺん)、207とめる工夫(くふう)はあるまいかな』
208と首(くび)を振(ふ)つてゐる。
209高姫(たかひめ)『ヘン、210お構(かま)ひ遊(あそ)ばすなや。211高姫(たかひめ)は生(うま)れついてから唖(おし)ぢや御座(ござ)いませぬぞや。212言霊(ことたま)は天地(てんち)の神(かみ)様(さま)から授(さづ)かつて居(を)ります。213とめられるものなら、214とめて御覧(ごらん)なさい。215妾(わたし)が物(もの)言(い)はなかつたのは余(あま)りむかつくから、216言(い)はぬは言(い)ふにいや優(まさ)ると、217プリンプリンと身振(みぶ)りで妾(わたし)の意志(いし)を表示(へうじ)してゐたのだよ。218何(なに)も御(お)前(まへ)さまのウ…ア…なんてアタ阿呆(あはう)らしい、219そんな言霊(ことたま)で物(もの)が云(い)へたなぞと、220余(あんま)り、221ヘン、222見違(みちが)ひをして貰(もら)ひますまいかいなア。223アヽドレドレ、224何時迄(いつまで)も門立(かどだ)ち芸者(げいしや)の様(やう)に玄関口(げんくわんぐち)に立(た)ちはだかつて、225言霊(ことたま)の発射(はつしや)も気(き)が利(き)きませぬワイ』
226と云(い)ひ乍(なが)ら、227奥(おく)の間(ま)に主人顔(しゆじんがほ)して、228ドンとすわり込(こ)み、
229高姫(たかひめ)『松若彦(まつわかひこ)さま、230今朝(けさ)程(ほど)は大(おほ)きに御(お)世話(せわ)になりました。231ヨウまアあんな深(ふか)い川(かは)へおとして下(くだ)さいまして、232誠(まこと)に高姫(たかひめ)も空中(くうちう)滑走(くわつそう)の味(あぢ)を覚(おぼ)え、233愉快(ゆくわい)なこつて御座(ござ)いました、234ホヽヽヽヽ。235人(ひと)を呪(のろ)はば穴二(あなふた)つですよ。236お前(まへ)さまもシツカリなさらぬと何時(いつ)ドブへはまるか分(わか)りませぬぞや……コレ捨子姫(すてこひめ)さま、237お前(まへ)に一(ひと)つ言(い)ひたい事(こと)がある』
238捨子姫(すてこひめ)『ハイ、239何事(なにごと)か存(ぞん)じませぬが、240承(うけたま)はりませう』
241高姫(たかひめ)『お前(まへ)も大抵(たいてい)私(わたし)が何(なに)しに来(き)た位(くらゐ)は、242云(い)はいでも御(お)分(わか)りになつてゐるでせう。243今(いま)高姫(たかひめ)が茶々入(ちやちやい)れに来(く)るから、244腹帯(はらおび)をしめねばならぬと、245三(さん)人(にん)が三(さん)人(にん)云(い)ひ合(あ)はして御座(ござ)つたでせう。246併(しか)し乍(なが)ら、247よく考(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。248あの国依別(くによりわけ)と云(い)ふ男(をとこ)、249若(わか)い時(とき)から親子(おやこ)兄弟(きやうだい)散(ち)り散(ぢ)りバラバラとなり、250碌(ろく)に教育(けういく)も受(う)けず、251乞食(こじき)の様(やう)にうろつきまはり、252少(すこ)し大(おほ)きくなると、253女(をんな)たらしの後家倒(ごけたふ)し、254婆嬶弱(ばばかかよわ)らせの家潰(いへつぶ)しをやつて来(き)た如何(どう)にも斯(か)うにも仕方(しかた)のない代物(しろもの)を、255此(この)頃(ごろ)球(きう)の玉(たま)とかの神力(しんりき)を受(う)けたと云(い)つて、256御(ご)勿体(もつたい)ない素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)の大切(たいせつ)な御(お)娘子(むすめご)、257末子姫(すゑこひめ)様(さま)の婿(むこ)にしよう等(なぞ)とは地異(ちい)天変(てんぺん)、258天地(てんち)転倒(てんたふ)の行方(やりかた)と申(まを)さねばなりますまい。259是(これ)までお前(まへ)さまは何時(いつ)も末子姫(すゑこひめ)様(さま)の近侍(きんじ)を勤(つと)めてゐた関係(くわんけい)上(じやう)、260主人(しゆじん)が大事(だいじ)と思(おも)ふ誠(まこと)があれば、261国依別(くによりわけ)の欠点(けつてん)を包(つつ)まず隠(かく)さずさらけ出(だ)して、262愛想(あいさう)をつかさせ、263此(この)縁談(えんだん)を破約(はやく)なさるやうに仕向(しむ)けるのが、264お前(まへ)の誠(まこと)だ。265本当(ほんたう)に姫(ひめ)様(さま)を大事(だいじ)と思召(おぼしめ)すなら、266早(はや)く御(ご)意見(いけん)を遊(あそ)ばして、267やめさせて下(くだ)さい。268年(とし)が老(よ)つた高姫(たかひめ)がワザワザここへ訪問(はうもん)したのも其(その)為(ため)ですから、269どうぞ高姫(たかひめ)のここへ来(き)たことが無駄足(むだあし)にならぬ様(やう)に頼(たの)みますよ…なア捨子姫(すてこひめ)さま、270お前(まへ)は余(あま)り身魂(みたま)が良過(よす)ぎて、271映(うつ)り易(やす)いから、272言依別(ことよりわけ)さまや松若彦(まつわかひこ)に甘(うま)く抱(だ)き込(こ)まれ、273とうとう末子姫(すゑこひめ)様(さま)の御(お)心(こころ)を動(うご)かしたのぢやありませぬかなア』
274捨子姫(すてこひめ)『ハイ妾(わたし)が第一(だいいち)、275大賛成(だいさんせい)で御(お)話(はなし)を持(も)ちかけたので御座(ござ)います。276さうすると言依別(ことよりわけ)様(さま)や、277松若彦(まつわかひこ)様(さま)、278竜国別(たつくにわけ)様(さま)初(はじ)め、279肝腎(かんじん)の末子姫(すゑこひめ)様(さま)が、280それはそれは御(ご)愉快(ゆくわい)相(さう)な御(お)顔(かほ)でニコニコとお笑(わら)ひ遊(あそ)ばし……捨子姫(すてこひめ)、281何事(なにごと)もそなたに御(お)任(まか)せするから、282宜(よろ)しう頼(たの)むよ……と恥(はづ)かし相(さう)に仰有(おつしや)いました。283それで妾(わたし)が気(き)を利(き)かし、284相手(あひて)方(がた)の国依別(くによりわけ)様(さま)へも極力(きよくりよく)運動(うんどう)いたし、285ヤツとの事(こと)で纏(まと)まつた此(この)縁談(えんだん)、286何程(なにほど)高姫(たかひめ)様(さま)が水(みづ)をお注(さ)し遊(あそ)ばしても最早(もはや)ビクとも動(うご)かす事(こと)は出来(でき)なくなつて居(を)ります。287御(ご)注意(ちゆうい)御(ご)親切(しんせつ)は有難(ありがた)う厶(ござ)いますが、288今度(こんど)はモウ仕方(しかた)がないと御(お)諦(あきら)め下(くだ)さいませ。289肝腎(かんじん)の御(ご)本人(ほんにん)様(さま)同志(どうし)が、290ニコニコで居(を)られるなり、291大神(おほかみ)様(さま)は特(とく)に御(お)喜(よろこ)びなり、292どうして今日(こんにち)になつて之(これ)を顛覆(てんぷく)さす事(こと)が出来(でき)ませうか』
293高姫(たかひめ)『エヽそこ迄(まで)モウ固(かた)い決心(けつしん)が出来(でき)て、294若(わか)い方(かた)同志(どうし)が思(おも)ひ合(あ)うて御座(ござ)るのを動(うご)かさうと云(い)つたつて動(うご)きますまい。295残念(ざんねん)乍(なが)ら、296モウ高姫(たかひめ)も賛成(さんせい)いたしま……せうかい、297就(つ)いては、298貴女(あなた)も御存(ごぞん)じの通(とほ)り、299大神(おほかみ)様(さま)の教(をしへ)には一汁(いちじふ)一菜(いつさい)との定(さだ)めで御座(ござ)いますから、300決(けつ)して御(ご)馳走(ちそう)はしてはなりませぬぞや。301上(うへ)から贅沢(ぜいたく)な鑑(かがみ)を出(だ)すと、302人民(じんみん)が皆(みな)それに傚(なら)ひ、303世(よ)の中(なか)が不経済(ふけいざい)になつて来(き)ましては、304神(かみ)様(さま)に又(また)もや御(ご)心配(しんぱい)をかけなくてはなりませぬからなア』
305松若彦(まつわかひこ)『何程(なにほど)軍備(ぐんび)縮小(しゆくせう)、306経費(けいひ)節約(せつやく)の流行(りうかう)する世(よ)の中(なか)だとて、307一生(いつしやう)一代(いちだい)の結婚(けつこん)に其(その)様(やう)なケチな事(こと)が如何(どう)して出来(でき)ませうか、308そんな時代(じだい)遅(おく)れのイントレランス[※イントレランスとは英語のintoleranceで、不寛容、偏狭という意味。]な事(こと)を言(い)ふと、309人(ひと)が馬鹿(ばか)にしますよ。310それ相当(さうたう)の身分(みぶん)に応(おう)じて御(ご)馳走(ちそう)もせねばなりますまい。311お酒(さけ)もドツサリ皆(みな)さまに飲(あが)つて頂(いただ)き、312底抜(そこぬけ)騒(さわ)ぎをやつて面白(おもしろ)可笑(をか)しく御(お)祝(いはひ)をする方(はう)がどれ丈(だけ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)が御(お)喜(よろこ)び遊(あそ)ばすかも知(し)れませぬ。313又(また)吾々(われわれ)も大変(たいへん)に御(お)喜(よろこ)びですからな。314アハヽヽヽ』
315高姫(たかひめ)『私(わたし)の云(い)ふ事(こと)が頑迷(ぐわんめい)だと仰有(おつしや)るのですか、316何程(なにほど)新(あたら)しいのが流行(はや)る時節(じせつ)だと云(い)つて、317神(かみ)様(さま)の教(をしへ)まで背(そむ)いてすると云(い)ふ事(こと)は、318一(ひと)つ考(かんが)へものでせう』
319言依別(ことよりわけ)『高姫(たかひめ)さまの御(お)言葉(ことば)も御尤(ごもつと)もです。320松若彦(まつわかひこ)さまの御(ご)意見(いけん)も強(あなが)ち棄(す)てる訳(わけ)にも行(ゆ)きますまい。321そこは身分(みぶん)相応(さうおう)と云(い)ふ事(こと)に致(いた)しまして、322正中(まんなか)を取(と)り、323余(あま)りケチつかず、324余(あま)り奢(おご)らずといふ程度(ていど)に、325今晩(こんばん)の結婚(けつこん)を無事(ぶじ)に、326幾久(いくひさ)しく祝(いは)ひ納(をさ)めるやうにしたら如何(どう)でせう』
327高姫(たかひめ)『そんなら私(わたし)も我(が)を折(を)つて言依別(ことよりわけ)様(さま)にお任(まか)せ致(いた)します。328又(また)空中(くうちう)滑走(くわつそう)さされたり、329言霊(ことたま)を停止(ていし)さされたり、330灰猫婆(はひねこばば)アにせられると困(こま)りますから、331憎(にく)まれないやうにおとなしう改心(かいしん)しておきませう』
332言依別(ことよりわけ)『有難(ありがた)う』
333松若彦(まつわかひこ)『安心(あんしん)致(いた)しました』
334捨子姫(すてこひめ)『お目出(めで)たう御座(ござ)います』
335カール『面白(おもしろ)うなつて来(き)ました』
336春彦(はるひこ)『今晩(こんばん)は御(ご)馳走(ちそう)で、337ドツサリと酔(よ)はして貰(もら)ひませう。338何(なに)より彼(か)より上戸(じやうご)の春彦(はるひこ)、339一番(いちばん)にお目出(めで)たいワ、340有難(ありがた)いワ、341アハヽヽヽ』
342(大正一一・八・二六 旧七・四 松村真澄録)
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