霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二〇章 昔語(むかしがたり)〔九三五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻 篇:第4篇 理智と愛情 よみ(新仮名遣い):りちとあいじょう
章:第20章 昔語 よみ(新仮名遣い):むかしがたり 通し章番号:935
口述日:1922(大正11)年09月19日(旧07月28日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年11月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
黒姫の館には高山彦、東助、高姫、秋彦、友彦、テールス姫、夏彦、佐田彦、お玉、鷹依姫、竜国別が招かれていた。玉治別が黒姫の実子であることが判明し、親子対面の祝宴が開かれていたのであった。
高姫は、黒姫がどのようにして玉治別を生んだのか語ってくれと問いかけた。黒姫は罪滅ぼしの意味もかねて懺悔のためにと、一弦琴を取ってそのいきさつを歌い始めた。
黒姫はペルシャの国の里に名高い烏羽玉彦・烏羽玉姫の娘であった。秋の夕べにふと柏井川のほとりで出会った男と互いに恋に落ちたが、男は一夜でどこかに去ってしまったという。
黒姫はその後、父母の目をしのんで子供を産み落としたが、耐え切れずに辻に捨て、子供が旅人に拾われて行くのを見届けた。子供を捨てたことが苦になって家を飛び出し、バラモン教の教えを聞いたのち、高姫のウラナイ教に入信したという。
一方玉治別は、自分を拾った父母に慈しまれて育ったという。しかし育ての父母に実の子が生まれたことをきっかけに、許しを得て真の父母探しの旅に出たのだと歌った。玉治別ははるばる月の国を越えて自転倒島までやってきた。そして宇都山村の春助の養子となって暮らしていたところ、縁あって三五教に入り、お勝をめとり宣伝使となったといきさつを歌った。
玉治別は最後に、まだ見つからない父への思いを歌い悄然としながらも、神への祈りをささげた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-09-02 20:34:39 文字数:3579 OBC :rm3320
愛善世界社版:218頁 八幡書店版:第6輯 331頁 修補版: 校定版:228頁 普及版:86頁 初版: ページ備考:
001 桶伏山(をけふせやま)の東麓(とうろく)に小雲川(こくもがは)を眺(なが)めた風景(ふうけい)よき黒姫(くろひめ)の館(やかた)には、002主人側(しゆじんがは)の黒姫(くろひめ)を初(はじ)めとし、003高山彦(たかやまひこ)、004東助(とうすけ)、005高姫(たかひめ)、006秋彦(あきひこ)、007友彦(ともひこ)、008テールス姫(ひめ)、009夏彦(なつひこ)、010佐田彦(さだひこ)、011お玉(たま)、012鷹依姫(たかよりひめ)、013竜国別(たつくにわけ)の面々(めんめん)が親子(おやこ)対面(たいめん)の祝宴(しゆくえん)に招(まね)かれ静(しづか)に酒(さけ)汲(く)み交(か)はし、014色々(いろいろ)の話(はなし)に耽(ふけ)つて居(ゐ)る。
015高姫(たかひめ)『黒姫(くろひめ)様(さま)、016長(なが)らく筑紫(つくし)の島(しま)へ御(ご)苦労(くらう)で御座(ござ)いました。017第一(だいいち)の御(ご)目的(もくてき)は高山彦(たかやまひこ)様(さま)の後(あと)を慕(した)つてお出(い)で遊(あそ)ばしたのだが、018何(なに)が経綸(しぐみ)になるのか分(わか)りませぬなア。019肝腎(かんじん)の目的物(もくてきぶつ)たる高山彦(たかやまひこ)さまは、020灯台下(とうだいもと)は真暗(まつくら)がり、021足許(あしもと)の伊勢屋(いせや)の奥座敷(おくざしき)にかくれて居(を)られましたのも御存(ごぞん)じなく、022御(ご)苦労(くらう)千万(せんばん)にも遥々(はるばる)と波濤(はたう)を越(こ)えてお出(い)で遊(あそ)ばし、023気(き)の毒(どく)な事(こと)だと思(おも)ひましたが、024不思議(ふしぎ)の縁(えん)にて、025玉治別(たまはるわけ)が貴方(あなた)のお子様(こさま)だと云(い)ふ事(こと)が分(わか)つて参(まゐ)りましたのも、026実(じつ)に不思議(ふしぎ)の神(かみ)様(さま)のお引合(ひきあは)せ、027何(なに)が御(ご)都合(つがふ)になるか分(わか)つたものぢや御座(ござ)いませぬなア』
028黒姫(くろひめ)『ハイ、029本当(ほんたう)に嬉(うれ)しい事(こと)で御座(ござ)います。030私(わたくし)の伜(せがれ)がこんな立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)になつて居(ゐ)るとは夢(ゆめ)にも知(し)りませなんだ。031ほんに因縁者(いんねんもの)の寄(よ)り合(あひ)だと神(かみ)様(さま)が仰有(おつしや)るのは争(あらそ)はれないお示(しめ)しで御座(ござ)います……改心(かいしん)致(いた)せば御魂(みたま)だけの御用(ごよう)を指(さ)してやる、032改心(かいしん)致(いた)さねば親子(おやこ)の対面(たいめん)も出来(でき)ぬやうになるぞよ……と、033お筆(ふで)に出(で)て居(を)りますが、034私(わたくし)は余(あま)り身魂(みたま)の曇(くも)りが甚(ひど)かつたために、035今(いま)まで吾(わが)子(こ)に遇(あ)ひながら知(し)らずに居(を)りました。036こんな嬉(うれ)しい事(こと)は御座(ござ)いませぬ。037年(とし)が寄(よ)ると何(なに)を云(い)うても子(こ)が力(ちから)で御座(ござ)いますからなア。038親子(おやこ)は一世(いつせ)と云(い)つて切(き)つても切(き)れぬ深(ふか)い縁(えにし)のあるもので御座(ござ)います。039それにつけても夫婦(ふうふ)二世(にせ)とはよくいつたもの、040親子(おやこ)の関係(くわんけい)に比(くら)ぶれば夫婦(ふうふ)の道(みち)は随分(ずゐぶん)水臭(みづくさ)いもの、041少(すこ)し気(き)にくはぬ事(こと)を云(い)つたと仰有(おつしや)つて、042高山(たかやま)さまのやうに姿(すがた)をかくし、043女房(にようばう)に甚(ひど)い心配(しんぱい)をさせる夫(をつと)もありますからなア』
044高山彦(たかやまひこ)『モウ、045その話(はなし)は中止(ちうし)を願(ねが)ひます。046一家(いつか)の政治(せいぢ)上(じやう)の治安(ちあん)妨害(ばうがい)になりますから……』
047黒姫(くろひめ)『ホヽヽヽヽ、048何(なん)とマア都合(つがふ)のよい事(こと)を仰有(おつしや)いますワイ。049よい年(とし)をして居(を)つて伊勢屋(いせや)の下女(げぢよ)と何(なん)とか彼(か)とか……真偽(しんぎ)は知(し)りませぬが、050私(わたくし)の留守中(るすちう)噂(うはさ)を立(た)てられなさつた好男子(かうだんし)だから、051本当(ほんたう)に水臭(みづくさ)いハズバンドだ。052アヽ併(しか)しもう云(い)ひますまい。053立派(りつぱ)な伜(せがれ)の前(まへ)だから恥(はづ)かしうなつて来(き)ます』
054高山彦(たかやまひこ)『お前(まへ)は実(じつ)の伜(せがれ)に遇(あ)うて嬉(うれ)しうなつたと見(み)えて俄(にはか)に燥(はしや)ぎだし、055ハズバンドの私(わし)に対(たい)して非常(ひじやう)に冷(ひや)やかになつて来(き)たぢやないか。056私(わし)もかうなつて見(み)ると子(こ)が欲(ほ)しくなつて来(き)た。057併(しか)し乍(なが)らお前(まへ)のやうな婆(ばば)では到底(たうてい)子(こ)を生(う)むと云(い)ふ望(のぞ)みもなし、058もう諦(あきら)めるより仕方(しかた)がない。059玉治別(たまはるわけ)さまはお前(まへ)の子(こ)だ。060そしてお前(まへ)は私(わし)の女房(にようばう)だ。061さうすれば私(わし)も万更(まんざら)他人(たにん)ではない。062玉治別(たまはるわけ)さまのお世話(せわ)になるより仕方(しかた)がないなア。063併(しか)し乍(なが)ら、064お前(まへ)はいつの間(ま)に誰(たれ)と夫婦(ふうふ)になつて玉治別(たまはるわけ)さまを生(う)んだのだ。065差支(さしつかへ)なければ皆(みな)さまの居(を)られる中(なか)だけれど、066一(ひと)つ話(はな)して呉(く)れないか』
067 黒姫(くろひめ)は、
068黒姫『これも私(わたし)の罪滅(つみほろぼ)し、069恥(はぢ)を曝(さら)して罪(つみ)を神(かみ)様(さま)に取(と)つて貰(もら)はねばなりませぬから、070懺悔(ざんげ)のために申上(まをしあ)げます』
071と云(い)ひながら一紘琴(いちげんきん)を引(ひ)き寄(よ)せて歌(うた)ひ出(だ)したり。
072黒姫『ペルシヤの国(くに)の柏井(かしはゐ)の
073里(さと)に名高(なだか)き人子(ひとご)の司(つかさ)
074烏羽玉彦(うばたまひこ)や烏羽玉姫(うばたまひめ)の
075長女(ちやうぢよ)と生(うま)れ育(そだ)ちたる
076アバズレ娘(むすめ)の黒姫(くろひめ)が
077柏井川(かしはゐがは)にかけ渡(わた)す
078橋(はし)の袂(たもと)を夕間暮(ゆふまぐ)れ
079一人(ひとり)トボトボ川風(かはかぜ)に
080吹(ふ)かれて空(そら)を打(う)ち仰(あふ)ぎ
081天(あま)の河原(かはら)の西東(にしひがし)
082棚機姫(たなばたひめ)が御姿(みすがた)を
083仰(あふ)ぐ折(をり)しも向(むか)ふより
084二八(にはち)許(ばか)りの優男(やさをとこ)
085粋(いき)な浴衣(ゆかた)を身(み)に纏(まと)ひ
086ホロ酔(ゑひ)機嫌(きげん)でヒヨロヒヨロと
087鼻歌(はなうた)謡(うた)ひ進(すす)み来(く)る
088声(こゑ)の音色(ねいろ)は鈴虫(すずむし)か
089松虫(まつむし)、蟋蟀(こほろぎ)、螽斯(きりぎりす)
090秋(あき)の夕(ゆふ)べの肌寒(はださむ)き
091魔風(まかぜ)恋風(こひかぜ)さつと吹(ふ)き
092顔(かほ)と顔(かほ)とは相生(あいおひ)の
093実(げ)にも気高(けだか)き男(をとこ)よと
094此方(こちら)に思(おも)へば其(その)人(ひと)も
095摩擦(すれ)つ縺(もつ)れつからみあひ
096松(まつ)と梅(うめ)との色(いろ)深(ふか)く
097露(つゆ)の契(ちぎり)を人(ひと)知(し)れず
098四辺(あたり)の木蔭(こかげ)に忍(しの)び入(い)り
099暗(くら)さは暗(くら)し烏羽玉(うばたま)の
100星(ほし)の影(かげ)さへ封(ふう)じたる
101森(もり)の木蔭(こかげ)の草(くさ)の上(うへ)
102白(しろ)き腕(たたむき)淡雪(あはゆき)の
103若(わか)やる胸(むね)を素抱(そだた)きて
104たたきまながり真玉手(またまで)玉手(たまで)
105さし捲(ま)きもも長(なが)に
106寝(いぬ)る折(をり)しも恥(はづ)かしや
107忽(たちま)ち来(きた)る人(ひと)の足音(あしおと)
108吾(われ)は驚(おどろ)き身(み)を藻掻(もが)き
109恋(こひ)しき男(をとこ)と右左(みぎひだり)
110あはれや男(をとこ)は何人(なにびと)と
111尋(たづ)ぬる間(ま)さへ夏(なつ)の末(すゑ)
112果敢(はか)なき露(つゆ)の契(ちぎり)にて
113三十五(さんじふご)年(ねん)の昔(むかし)より
114夢(ゆめ)や現(うつつ)と日(ひ)を送(おく)り
115今(いま)に夫(をつと)の行方(ゆくへ)さへ
116知(し)らぬ妾(わらは)の身(み)のつらさ
117その月(つき)よりも身(み)は重(おも)く
118不思議(ふしぎ)や妾(わらは)は懐胎(くわいたい)し
119厳(きび)しき父(ちち)や母上(ははうへ)に
120何(なん)と応(こた)へもなきままに
121暗(やみ)に紛(まぎ)れて柏井(かしはゐ)の
122父(ちち)の館(やかた)を脱(ぬ)け出(いだ)し
123赤子(あかご)を抱(かか)へさまざまと
124苦労(くらう)も絶(た)えぬ黒姫(くろひめ)が
125心(こころ)は忽(たちま)ち鬼(おに)となり
126哀(あは)れや赤子(あかご)に富士咲(ふじさく)と
127名(な)をつけ道(みち)の四辻(よつつじ)に
128捨(す)てて木蔭(こかげ)に立(た)ち乍(なが)ら
129如何(いか)なる人(ひと)の御恵(みめぐみ)に
130吾(わが)子(こ)は拾(ひろ)い上(あ)げらるか
131あはれみ給(たま)へ天津(あまつ)神(かみ)
132国津(くにつ)神(かみ)達(たち)国魂(くにたま)の
133神(かみ)よ守(まも)らせ玉(たま)へかしと
134心(こころ)に祈(いの)る折柄(をりから)に
135カチリカチリと杖(つゑ)の音(おと)
136子(こ)の泣(な)き声(ごゑ)を聞(き)きつけて
137いづくの人(ひと)か知(し)らねども
138かかるいとしき幼児(をさなご)を
139此処(ここ)に捨(す)てしは云(い)ひ知(し)れぬ
140深(ふか)き仔細(しさい)のあるならむ
141何(なに)は兎(と)もあれ拾(ひろ)ひあげ
142救(すく)ひやらむと云(い)ひ乍(なが)ら
143その旅人(たびびと)は富士咲(ふじさく)を
144労(いたは)り抱(いだ)き懐(ふところ)に
145かかへて橋(はし)を渡(わた)り行(ゆ)く
146妾(わらは)は後(あと)より伏(ふ)し拝(をが)み
147拾(ひろ)ひし人(ひと)の幸福(しあはせ)や
148捨(す)てた吾(わが)子(こ)はスクスクと
149成人(せいじん)なして世(よ)の中(なか)の
150花(はな)と謳(うた)はれ暮(くら)せよと
151涙(なみだ)と共(とも)に立(た)ち別(わか)れ
152四方(よも)を彷徨(さまよ)ふ折柄(をりから)に
153又(また)もや父(ちち)に廻(めぐ)り合(あ)ひ
154再(ふたた)び吾(わが)家(や)に立(た)ち帰(かへ)り
155厳(きび)しき父母(ふぼ)の膝下(ひざもと)で
156月日(つきひ)を送(おく)る十年振(ととせぶ)り
157捨(す)てた吾(わが)子(こ)が苦(く)になつて
158朝(あさ)な夕(ゆふ)なに気(き)を焦(いら)ち
159案(あん)じ過(す)ごせど手係(てがか)りも
160泣(な)きの涙(なみだ)で日(ひ)を送(おく)り
161メソポタミヤの顕恩郷(けんおんきやう)に
162鬼雲彦(おにくもひこ)の現(あら)はれて
163バラモン教(けう)を開(ひら)きますと
164聞(き)くより妾(わらは)は両親(りやうしん)の
165眼(まなこ)をぬすみ遥々(はるばる)と
166顕恩郷(けんおんきやう)に参上(まゐのぼ)り
167神(かみ)の教(をしへ)を聞(き)きながら
168吾(わが)子(こ)を思(おも)ひ恋人(こひびと)を
169慕(した)ふ心(こころ)の執着(しふちやく)は
170未(ま)だ晴(は)れやらぬ苦(くる)しさに
171高姫(たかひめ)さまの立(た)て給(たま)ふ
172ウラナイ教(けう)に身(み)を寄(よ)せて
173朝(あさ)な夕(ゆふ)なに海山(うみやま)の
174恩顧(おんこ)を受(う)けて三五(あななひ)の
175誠(まこと)の道(みち)に入信(にふしん)し
176黄金(こがね)の玉(たま)の行方(ゆくへ)をば
177尋(たづ)ね彷徨(さまよ)ひ高山彦(たかやまひこ)の
178夫(をつと)の後(あと)を尋(たづ)ねつつ
179火(ひ)の国(くに)都(みやこ)に来(き)て見(み)れば
180高国別(たかくにわけ)の神司(かむつかさ)
181高山彦(たかやまひこ)と名乗(なの)らせて
182住(す)まはせ玉(たま)ひし尊(たふと)さよ
183神(かみ)の恵(めぐみ)の幸(さち)はひて
184茲(ここ)に吾(わが)子(こ)と名乗(なの)りを上(あ)げ
185玉治別(たまはるわけ)に導(みちび)かれ
186漸(やうや)く海(うみ)を乗(の)り越(こ)えて
187由良(ゆら)の港(みなと)に来(き)て見(み)れば
188思(おも)ひも寄(よ)らぬ高姫(たかひめ)さまが
189高砂島(たかさごじま)より帰(かへ)りまし
190互(たがひ)に無事(ぶじ)を祝(しゆく)しつつ
191思(おも)ひがけなき麻邇(まに)宝珠(ほつしゆ)の
192珍(うづ)の神業(しんげふ)につかはれて
193聖地(せいち)に帰(かへ)り来(きた)りたる
194此(この)嬉(うれ)しさは何時(いつ)の世(よ)か
195身魂(みたま)の限(かぎ)り忘(わす)れまじ
196玉治別(たまはるわけ)の宣伝使(せんでんし)
197御魂(みたま)の曇(くも)りし黒姫(くろひめ)が
198身(み)を卑下(さげ)すまずいつ迄(まで)も
199親子(おやこ)の睦(むつ)びいや深(ふか)く
200続(つづ)かせ玉(たま)へ惟神(かむながら)
201神(かみ)の御前(みまへ)に平伏(ひれふ)して
202真心(まごころ)尽(つく)して願(ね)ぎまつる
203あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
204御霊(みたま)幸(さち)はへましませよ』
205 玉治別(たまはるわけ)は黒姫(くろひめ)の後(あと)に続(つづ)いて歌(うた)ひ初(はじ)めたり。
206玉治別『思(おも)へば昔(むかし)フサの国(くに)
207高井(たかゐ)ケ岳(だけ)の山麓(さんろく)に
208其(その)名(な)も高(たか)き人子(ひとご)の司(つかさ)
209高依彦(たかよりひこ)や高依姫(たかよりひめ)の
210夫婦(ふうふ)が情(なさけ)に育(はぐく)まれ
211十五(じふご)の年(とし)の春(はる)までも
212吾(わが)子(こ)の如(ごと)く労(いた)はりて
213育(そだ)て玉(たま)ひし有難(ありがた)さ
214時(とき)しもあれや真夜中(まよなか)頃(ごろ)
215覆面(ふくめん)頭巾(づきん)の黒装束(くろしやうぞく)
216五(ご)人(にん)の姿(すがた)は表戸(おもてど)を
217蹴(け)やぶり座敷(ざしき)へ侵入(しんにふ)し
218有無(うむ)を云(い)はせず両親(りやうしん)を
219高手(たかて)や小手(こて)に縛(いまし)めて
220凱歌(がいか)を奏(そう)して帰(かへ)り往(ゆ)く
221吾(われ)は子供(こども)の痩力(やせぢから)
222山(やま)より高(たか)く海(うみ)よりも
223深(ふか)き恵(めぐみ)を蒙(かかぶ)りし
224育(そだ)ての親(おや)の危難(きなん)をば
225眺(なが)めて居(ゐ)たる苦(くる)しさに
226父(ちち)の秘蔵(ひざう)の守(まも)り刀(がたな)
227取(と)るより早(はや)く荒男(あらをとこ)が
228群(むれ)に向(むか)つて斬(き)り込(こ)めど
229何条(なんでう)もつて耐(たま)るべき
230あなたも強者(しれもの)隼(はやぶさ)の
231爪(つめ)磨澄(とぎす)まし小雀(こすずめ)を
232掴(つか)みし如(ごと)く吾(わが)体(からだ)
233又(また)もや高手(たかて)に縛(しば)りつけ
234山奥(やまおく)さして親子(おやこ)三(さん)人(にん)あへなくも
235連(つ)れ往(ゆ)かれたる悲(かな)しさよ
236吾(われ)は隙(すき)をば窺(うかが)ひて
237高井(たかゐ)ケ岳(だけ)の山寨(さんさい)を
238後(あと)に見捨(みす)てて逃(に)げ出(いだ)し
239父母(ちちはは)二人(ふたり)を救(すく)はむと
240心(こころ)を千々(ちぢ)に配(くば)る折(をり)
241二人(ふたり)の義親(おや)は木(こ)の花(はな)の
242姫(ひめ)の命(みこと)に助(たす)けられ
243此(この)世(よ)に無事(ぶじ)に居(ゐ)ますぞと
244聞(き)いたる時(とき)の嬉(うれ)しさよ
245高井(たかゐ)の村(むら)に立(た)ち帰(かへ)り
246高依彦(たかよりひこ)や母君(ははぎみ)に
247出会(であ)ひて無事(ぶじ)を祝(しゆく)しつつ
248暫(しばら)く此処(ここ)に居(ゐ)る中(うち)に
249二人(ふたり)の仲(なか)に生(あ)れませる
250玉(たま)をあざむく男(をとこ)の子(こ)
251玉春別(たまはるわけ)と命名(めいめい)し
252いよいよ茲(ここ)に育(そだ)ての親(おや)は
253誠(まこと)の御子(みこ)を生(う)みしより
254両親(りやうしん)様(さま)の許(ゆる)し得(え)て
255真(まこと)の父母(ふぼ)を探(さぐ)らむと
256フサの国(くに)より月(つき)の国(くに)
257漸(やうや)く越(こ)えて自凝(おのころ)の
258島(しま)にいつしか漂(ただよ)ひつ
259人(ひと)の情(なさけ)に助(たす)けられ
260宇都山(うづやま)村(むら)の春助(はるすけ)が
261子無(こな)きを幸(さいは)ひ養子(やうし)となり
262土(つち)かい草切(くさき)り稲麦(いねむぎ)を
263作(つく)りて其(その)日(ひ)を暮(く)らす中(うち)
264天(あめ)の真浦(まうら)や宗彦(むねひこ)が
265此処(ここ)に現(あら)はれ来(きた)りまし
266不思議(ふしぎ)の縁(えにし)の廻(めぐ)り合(あ)ひ
267妹(いも)のお勝(かつ)を吾(わが)妻(つま)に
268娶(めと)りて神(かみ)の道(みち)に入(い)り
269玉治別(たまはるわけ)と宣伝使(せんでんし)
270清(きよ)けき御名(みな)を授(さづ)けられ
271三五教(あななひけう)を遠近(をちこち)に
272開(ひら)き伝(つた)ふる折(をり)もあれ
273三十五(さんじふご)年(ねん)の時津風(ときつかぜ)
274吹(ふ)き廻(めぐ)り来(き)て村肝(むらきも)の
275心筑紫(こころつくし)の火(ひ)の国(くに)で
276真(まこと)の母(はは)に廻(めぐ)り遇(あ)ひ
277天(てん)にも昇(のぼ)る心地(ここち)して
278今日(けふ)の生日(いくひ)を祝(いは)へども
279まだ気(き)にかかる垂乳根(たらちね)の
280父(ちち)の命(みこと)は今(いま)いづこ
281遇(あ)はま欲(ほ)しやと朝夕(あさゆふ)に
282祈(いの)る吾(われ)こそ悲(かな)しけれ
283あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
284御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましまして
285一日(ひとひ)も早(はや)く吾(わが)父(ちち)に
286遇(あ)はせ玉(たま)へよ天津(あまつ)神(かみ)
287国治立(くにはるたちの)大御神(おほみかみ)
288神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
289御前(みまへ)に畏(かしこ)み願(ね)ぎまつる
290あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
291御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
292と、293母(はは)に遇(あ)うた嬉(うれ)しさと、294父(ちち)に遇(あ)はれぬ苦(くる)しさと悲喜(ひき)交々(こもごも)混(まじ)はりたる一種(いつしゆ)異様(いやう)の声調(せいてう)にて歌(うた)ひ了(をは)り、295悄然(せうぜん)として項垂(うなだ)れ居(ゐ)たりける。
296(大正一一・九・一九 旧七・二八 加藤明子録)
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