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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第33巻(申の巻)
序歌
瑞祥
第1篇 誠心誠意
第1章 高論濁拙
第2章 灰猫婆
第3章 言霊停止
第4章 楽茶苦
第2篇 鶴亀躍動
第5章 神寿言
第6章 皮肉歌
第7章 心の色
第8章 春駒
第9章 言霊結
第10章 神歌
第11章 波静
第12章 袂別
第3篇 時節到来
第13章 帰途
第14章 魂の洗濯
第15章 婆論議
第16章 暗夜の歌
第17章 感謝の涙
第18章 神風清
第4篇 理智と愛情
第19章 報告祭
第20章 昔語
第21章 峯の雲
第22章 高宮姫
第23章 鉄鎚
第24章 春秋
第25章 琉の玉
第26章 若の浦
伊豆温泉旅行につき訪問者人名詠込歌
附記 湯ケ島所感
余白歌
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第33巻(申の巻)
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(B)
(N)
峯の雲 >>>
第二〇章
昔語
(
むかしがたり
)
〔九三五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻
篇:
第4篇 理智と愛情
よみ(新仮名遣い):
りちとあいじょう
章:
第20章 昔語
よみ(新仮名遣い):
むかしがたり
通し章番号:
935
口述日:
1922(大正11)年09月19日(旧07月28日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年11月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
黒姫の館には高山彦、東助、高姫、秋彦、友彦、テールス姫、夏彦、佐田彦、お玉、鷹依姫、竜国別が招かれていた。玉治別が黒姫の実子であることが判明し、親子対面の祝宴が開かれていたのであった。
高姫は、黒姫がどのようにして玉治別を生んだのか語ってくれと問いかけた。黒姫は罪滅ぼしの意味もかねて懺悔のためにと、一弦琴を取ってそのいきさつを歌い始めた。
黒姫はペルシャの国の里に名高い烏羽玉彦・烏羽玉姫の娘であった。秋の夕べにふと柏井川のほとりで出会った男と互いに恋に落ちたが、男は一夜でどこかに去ってしまったという。
黒姫はその後、父母の目をしのんで子供を産み落としたが、耐え切れずに辻に捨て、子供が旅人に拾われて行くのを見届けた。子供を捨てたことが苦になって家を飛び出し、バラモン教の教えを聞いたのち、高姫のウラナイ教に入信したという。
一方玉治別は、自分を拾った父母に慈しまれて育ったという。しかし育ての父母に実の子が生まれたことをきっかけに、許しを得て真の父母探しの旅に出たのだと歌った。玉治別ははるばる月の国を越えて自転倒島までやってきた。そして宇都山村の春助の養子となって暮らしていたところ、縁あって三五教に入り、お勝をめとり宣伝使となったといきさつを歌った。
玉治別は最後に、まだ見つからない父への思いを歌い悄然としながらも、神への祈りをささげた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-09-02 20:34:39
OBC :
rm3320
愛善世界社版:
218頁
八幡書店版:
第6輯 331頁
修補版:
校定版:
228頁
普及版:
86頁
初版:
ページ備考:
001
桶伏山
(
をけふせやま
)
の
東麓
(
とうろく
)
に
小雲川
(
こくもがは
)
を
眺
(
なが
)
めた
風景
(
ふうけい
)
よき
黒姫
(
くろひめ
)
の
館
(
やかた
)
には、
002
主人側
(
しゆじんがは
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
を
初
(
はじ
)
めとし、
003
高山彦
(
たかやまひこ
)
、
004
東助
(
とうすけ
)
、
005
高姫
(
たかひめ
)
、
006
秋彦
(
あきひこ
)
、
007
友彦
(
ともひこ
)
、
008
テールス
姫
(
ひめ
)
、
009
夏彦
(
なつひこ
)
、
010
佐田彦
(
さだひこ
)
、
011
お
玉
(
たま
)
、
012
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
、
013
竜国別
(
たつくにわけ
)
の
面々
(
めんめん
)
が
親子
(
おやこ
)
対面
(
たいめん
)
の
祝宴
(
しゆくえん
)
に
招
(
まね
)
かれ
静
(
しづか
)
に
酒
(
さけ
)
汲
(
く
)
み
交
(
か
)
はし、
014
色々
(
いろいろ
)
の
話
(
はなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
015
高姫
(
たかひめ
)
『
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
、
016
長
(
なが
)
らく
筑紫
(
つくし
)
の
島
(
しま
)
へ
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
017
第一
(
だいいち
)
の
御
(
ご
)
目的
(
もくてき
)
は
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
の
後
(
あと
)
を
慕
(
した
)
つてお
出
(
い
)
で
遊
(
あそ
)
ばしたのだが、
018
何
(
なに
)
が
経綸
(
しぐみ
)
になるのか
分
(
わか
)
りませぬなア。
019
肝腎
(
かんじん
)
の
目的物
(
もくてきぶつ
)
たる
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまは、
020
灯台下
(
とうだいもと
)
は
真暗
(
まつくら
)
がり、
021
足許
(
あしもと
)
の
伊勢屋
(
いせや
)
の
奥座敷
(
おくざしき
)
にかくれて
居
(
を
)
られましたのも
御存
(
ごぞん
)
じなく、
022
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
千万
(
せんばん
)
にも
遥々
(
はるばる
)
と
波濤
(
はたう
)
を
越
(
こ
)
えてお
出
(
い
)
で
遊
(
あそ
)
ばし、
023
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
な
事
(
こと
)
だと
思
(
おも
)
ひましたが、
024
不思議
(
ふしぎ
)
の
縁
(
えん
)
にて、
025
玉治別
(
たまはるわけ
)
が
貴方
(
あなた
)
のお
子様
(
こさま
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
つて
参
(
まゐ
)
りましたのも、
026
実
(
じつ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
引合
(
ひきあは
)
せ、
027
何
(
なに
)
が
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
になるか
分
(
わか
)
つたものぢや
御座
(
ござ
)
いませぬなア』
028
黒姫
(
くろひめ
)
『ハイ、
029
本当
(
ほんたう
)
に
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
います。
030
私
(
わたくし
)
の
伜
(
せがれ
)
がこんな
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
になつて
居
(
ゐ
)
るとは
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
りませなんだ。
031
ほんに
因縁者
(
いんねんもの
)
の
寄
(
よ
)
り
合
(
あひ
)
だと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
仰有
(
おつしや
)
るのは
争
(
あらそ
)
はれないお
示
(
しめ
)
しで
御座
(
ござ
)
います……
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
せば
御魂
(
みたま
)
だけの
御用
(
ごよう
)
を
指
(
さ
)
してやる、
032
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
さねば
親子
(
おやこ
)
の
対面
(
たいめん
)
も
出来
(
でき
)
ぬやうになるぞよ……と、
033
お
筆
(
ふで
)
に
出
(
で
)
て
居
(
を
)
りますが、
034
私
(
わたくし
)
は
余
(
あま
)
り
身魂
(
みたま
)
の
曇
(
くも
)
りが
甚
(
ひど
)
かつたために、
035
今
(
いま
)
まで
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
に
遇
(
あ
)
ひながら
知
(
し
)
らずに
居
(
を
)
りました。
036
こんな
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬ。
037
年
(
とし
)
が
寄
(
よ
)
ると
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
うても
子
(
こ
)
が
力
(
ちから
)
で
御座
(
ござ
)
いますからなア。
038
親子
(
おやこ
)
は
一世
(
いつせ
)
と
云
(
い
)
つて
切
(
き
)
つても
切
(
き
)
れぬ
深
(
ふか
)
い
縁
(
えにし
)
のあるもので
御座
(
ござ
)
います。
039
それにつけても
夫婦
(
ふうふ
)
二世
(
にせ
)
とはよくいつたもの、
040
親子
(
おやこ
)
の
関係
(
くわんけい
)
に
比
(
くら
)
ぶれば
夫婦
(
ふうふ
)
の
道
(
みち
)
は
随分
(
ずゐぶん
)
水臭
(
みづくさ
)
いもの、
041
少
(
すこ
)
し
気
(
き
)
にくはぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つたと
仰有
(
おつしや
)
つて、
042
高山
(
たかやま
)
さまのやうに
姿
(
すがた
)
をかくし、
043
女房
(
にようばう
)
に
甚
(
ひど
)
い
心配
(
しんぱい
)
をさせる
夫
(
をつと
)
もありますからなア』
044
高山彦
(
たかやまひこ
)
『モウ、
045
その
話
(
はなし
)
は
中止
(
ちうし
)
を
願
(
ねが
)
ひます。
046
一家
(
いつか
)
の
政治
(
せいぢ
)
上
(
じやう
)
の
治安
(
ちあん
)
妨害
(
ばうがい
)
になりますから……』
047
黒姫
(
くろひめ
)
『ホヽヽヽヽ、
048
何
(
なん
)
とマア
都合
(
つがふ
)
のよい
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますワイ。
049
よい
年
(
とし
)
をして
居
(
を
)
つて
伊勢屋
(
いせや
)
の
下女
(
げぢよ
)
と
何
(
なん
)
とか
彼
(
か
)
とか……
真偽
(
しんぎ
)
は
知
(
し
)
りませぬが、
050
私
(
わたくし
)
の
留守中
(
るすちう
)
噂
(
うはさ
)
を
立
(
た
)
てられなさつた
好男子
(
かうだんし
)
だから、
051
本当
(
ほんたう
)
に
水臭
(
みづくさ
)
いハズバンドだ。
052
アヽ
併
(
しか
)
しもう
云
(
い
)
ひますまい。
053
立派
(
りつぱ
)
な
伜
(
せがれ
)
の
前
(
まへ
)
だから
恥
(
はづ
)
かしうなつて
来
(
き
)
ます』
054
高山彦
(
たかやまひこ
)
『お
前
(
まへ
)
は
実
(
じつ
)
の
伜
(
せがれ
)
に
遇
(
あ
)
うて
嬉
(
うれ
)
しうなつたと
見
(
み
)
えて
俄
(
にはか
)
に
燥
(
はしや
)
ぎだし、
055
ハズバンドの
私
(
わし
)
に
対
(
たい
)
して
非常
(
ひじやう
)
に
冷
(
ひや
)
やかになつて
来
(
き
)
たぢやないか。
056
私
(
わし
)
もかうなつて
見
(
み
)
ると
子
(
こ
)
が
欲
(
ほ
)
しくなつて
来
(
き
)
た。
057
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
前
(
まへ
)
のやうな
婆
(
ばば
)
では
到底
(
たうてい
)
子
(
こ
)
を
生
(
う
)
むと
云
(
い
)
ふ
望
(
のぞ
)
みもなし、
058
もう
諦
(
あきら
)
めるより
仕方
(
しかた
)
がない。
059
玉治別
(
たまはるわけ
)
さまはお
前
(
まへ
)
の
子
(
こ
)
だ。
060
そしてお
前
(
まへ
)
は
私
(
わし
)
の
女房
(
にようばう
)
だ。
061
さうすれば
私
(
わし
)
も
万更
(
まんざら
)
他人
(
たにん
)
ではない。
062
玉治別
(
たまはるわけ
)
さまのお
世話
(
せわ
)
になるより
仕方
(
しかた
)
がないなア。
063
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
064
お
前
(
まへ
)
はいつの
間
(
ま
)
に
誰
(
たれ
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
になつて
玉治別
(
たまはるわけ
)
さまを
生
(
う
)
んだのだ。
065
差支
(
さしつかへ
)
なければ
皆
(
みな
)
さまの
居
(
を
)
られる
中
(
なか
)
だけれど、
066
一
(
ひと
)
つ
話
(
はな
)
して
呉
(
く
)
れないか』
067
黒姫
(
くろひめ
)
は、
068
黒姫
『これも
私
(
わたし
)
の
罪滅
(
つみほろぼ
)
し、
069
恥
(
はぢ
)
を
曝
(
さら
)
して
罪
(
つみ
)
を
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
取
(
と
)
つて
貰
(
もら
)
はねばなりませぬから、
070
懺悔
(
ざんげ
)
のために
申上
(
まをしあ
)
げます』
071
と
云
(
い
)
ひながら
一紘琴
(
いちげんきん
)
を
引
(
ひ
)
き
寄
(
よ
)
せて
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
したり。
072
黒姫
『ペルシヤの
国
(
くに
)
の
柏井
(
かしはゐ
)
の
073
里
(
さと
)
に
名高
(
なだか
)
き
人子
(
ひとご
)
の
司
(
つかさ
)
074
烏羽玉彦
(
うばたまひこ
)
や
烏羽玉姫
(
うばたまひめ
)
の
075
長女
(
ちやうぢよ
)
と
生
(
うま
)
れ
育
(
そだ
)
ちたる
076
アバズレ
娘
(
むすめ
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
が
077
柏井川
(
かしはゐがは
)
にかけ
渡
(
わた
)
す
078
橋
(
はし
)
の
袂
(
たもと
)
を
夕間暮
(
ゆふまぐ
)
れ
079
一人
(
ひとり
)
トボトボ
川風
(
かはかぜ
)
に
080
吹
(
ふ
)
かれて
空
(
そら
)
を
打
(
う
)
ち
仰
(
あふ
)
ぎ
081
天
(
あま
)
の
河原
(
かはら
)
の
西東
(
にしひがし
)
082
棚機姫
(
たなばたひめ
)
が
御姿
(
みすがた
)
を
083
仰
(
あふ
)
ぐ
折
(
をり
)
しも
向
(
むか
)
ふより
084
二八
(
にはち
)
許
(
ばか
)
りの
優男
(
やさをとこ
)
085
粋
(
いき
)
な
浴衣
(
ゆかた
)
を
身
(
み
)
に
纏
(
まと
)
ひ
086
ホロ
酔
(
ゑひ
)
機嫌
(
きげん
)
でヒヨロヒヨロと
087
鼻歌
(
はなうた
)
謡
(
うた
)
ひ
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る
088
声
(
こゑ
)
の
音色
(
ねいろ
)
は
鈴虫
(
すずむし
)
か
089
松虫
(
まつむし
)
、
蟋蟀
(
こほろぎ
)
、
螽斯
(
きりぎりす
)
090
秋
(
あき
)
の
夕
(
ゆふ
)
べの
肌寒
(
はださむ
)
き
091
魔風
(
まかぜ
)
恋風
(
こひかぜ
)
さつと
吹
(
ふ
)
き
092
顔
(
かほ
)
と
顔
(
かほ
)
とは
相生
(
あいおひ
)
の
093
実
(
げ
)
にも
気高
(
けだか
)
き
男
(
をとこ
)
よと
094
此方
(
こちら
)
に
思
(
おも
)
へば
其
(
その
)
人
(
ひと
)
も
095
摩擦
(
すれ
)
つ
縺
(
もつ
)
れつからみあひ
096
松
(
まつ
)
と
梅
(
うめ
)
との
色
(
いろ
)
深
(
ふか
)
く
097
露
(
つゆ
)
の
契
(
ちぎり
)
を
人
(
ひと
)
知
(
し
)
れず
098
四辺
(
あたり
)
の
木蔭
(
こかげ
)
に
忍
(
しの
)
び
入
(
い
)
り
099
暗
(
くら
)
さは
暗
(
くら
)
し
烏羽玉
(
うばたま
)
の
100
星
(
ほし
)
の
影
(
かげ
)
さへ
封
(
ふう
)
じたる
101
森
(
もり
)
の
木蔭
(
こかげ
)
の
草
(
くさ
)
の
上
(
うへ
)
102
白
(
しろ
)
き
腕
(
たたむき
)
淡雪
(
あはゆき
)
の
103
若
(
わか
)
やる
胸
(
むね
)
を
素抱
(
そだた
)
きて
104
たたきまながり
真玉手
(
またまで
)
玉手
(
たまで
)
105
さし
捲
(
ま
)
きもも
長
(
なが
)
に
106
寝
(
いぬ
)
る
折
(
をり
)
しも
恥
(
はづ
)
かしや
107
忽
(
たちま
)
ち
来
(
きた
)
る
人
(
ひと
)
の
足音
(
あしおと
)
108
吾
(
われ
)
は
驚
(
おどろ
)
き
身
(
み
)
を
藻掻
(
もが
)
き
109
恋
(
こひ
)
しき
男
(
をとこ
)
と
右左
(
みぎひだり
)
110
あはれや
男
(
をとこ
)
は
何人
(
なにびと
)
と
111
尋
(
たづ
)
ぬる
間
(
ま
)
さへ
夏
(
なつ
)
の
末
(
すゑ
)
112
果敢
(
はか
)
なき
露
(
つゆ
)
の
契
(
ちぎり
)
にて
113
三十五
(
さんじふご
)
年
(
ねん
)
の
昔
(
むかし
)
より
114
夢
(
ゆめ
)
や
現
(
うつつ
)
と
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
り
115
今
(
いま
)
に
夫
(
をつと
)
の
行方
(
ゆくへ
)
さへ
116
知
(
し
)
らぬ
妾
(
わらは
)
の
身
(
み
)
のつらさ
117
その
月
(
つき
)
よりも
身
(
み
)
は
重
(
おも
)
く
118
不思議
(
ふしぎ
)
や
妾
(
わらは
)
は
懐胎
(
くわいたい
)
し
119
厳
(
きび
)
しき
父
(
ちち
)
や
母上
(
ははうへ
)
に
120
何
(
なん
)
と
応
(
こた
)
へもなきままに
121
暗
(
やみ
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
柏井
(
かしはゐ
)
の
122
父
(
ちち
)
の
館
(
やかた
)
を
脱
(
ぬ
)
け
出
(
いだ
)
し
123
赤子
(
あかご
)
を
抱
(
かか
)
へさまざまと
124
苦労
(
くらう
)
も
絶
(
た
)
えぬ
黒姫
(
くろひめ
)
が
125
心
(
こころ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
鬼
(
おに
)
となり
126
哀
(
あは
)
れや
赤子
(
あかご
)
に
富士咲
(
ふじさく
)
と
127
名
(
な
)
をつけ
道
(
みち
)
の
四辻
(
よつつじ
)
に
128
捨
(
す
)
てて
木蔭
(
こかげ
)
に
立
(
た
)
ち
乍
(
なが
)
ら
129
如何
(
いか
)
なる
人
(
ひと
)
の
御恵
(
みめぐみ
)
に
130
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
は
拾
(
ひろ
)
い
上
(
あ
)
げらるか
131
あはれみ
給
(
たま
)
へ
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
132
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
達
(
たち
)
国魂
(
くにたま
)
の
133
神
(
かみ
)
よ
守
(
まも
)
らせ
玉
(
たま
)
へかしと
134
心
(
こころ
)
に
祈
(
いの
)
る
折柄
(
をりから
)
に
135
カチリカチリと
杖
(
つゑ
)
の
音
(
おと
)
136
子
(
こ
)
の
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
を
聞
(
き
)
きつけて
137
いづくの
人
(
ひと
)
か
知
(
し
)
らねども
138
かかるいとしき
幼児
(
をさなご
)
を
139
此処
(
ここ
)
に
捨
(
す
)
てしは
云
(
い
)
ひ
知
(
し
)
れぬ
140
深
(
ふか
)
き
仔細
(
しさい
)
のあるならむ
141
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ
拾
(
ひろ
)
ひあげ
142
救
(
すく
)
ひやらむと
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
143
その
旅人
(
たびびと
)
は
富士咲
(
ふじさく
)
を
144
労
(
いたは
)
り
抱
(
いだ
)
き
懐
(
ふところ
)
に
145
かかへて
橋
(
はし
)
を
渡
(
わた
)
り
行
(
ゆ
)
く
146
妾
(
わらは
)
は
後
(
あと
)
より
伏
(
ふ
)
し
拝
(
をが
)
み
147
拾
(
ひろ
)
ひし
人
(
ひと
)
の
幸福
(
しあはせ
)
や
148
捨
(
す
)
てた
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
はスクスクと
149
成人
(
せいじん
)
なして
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
150
花
(
はな
)
と
謳
(
うた
)
はれ
暮
(
くら
)
せよと
151
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
立
(
た
)
ち
別
(
わか
)
れ
152
四方
(
よも
)
を
彷徨
(
さまよ
)
ふ
折柄
(
をりから
)
に
153
又
(
また
)
もや
父
(
ちち
)
に
廻
(
めぐ
)
り
合
(
あ
)
ひ
154
再
(
ふたた
)
び
吾
(
わが
)
家
(
や
)
に
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
り
155
厳
(
きび
)
しき
父母
(
ふぼ
)
の
膝下
(
ひざもと
)
で
156
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
る
十年振
(
ととせぶ
)
り
157
捨
(
す
)
てた
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
が
苦
(
く
)
になつて
158
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
気
(
き
)
を
焦
(
いら
)
ち
159
案
(
あん
)
じ
過
(
す
)
ごせど
手係
(
てがか
)
りも
160
泣
(
な
)
きの
涙
(
なみだ
)
で
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
り
161
メソポタミヤの
顕恩郷
(
けんおんきやう
)
に
162
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
現
(
あら
)
はれて
163
バラモン
教
(
けう
)
を
開
(
ひら
)
きますと
164
聞
(
き
)
くより
妾
(
わらは
)
は
両親
(
りやうしん
)
の
165
眼
(
まなこ
)
をぬすみ
遥々
(
はるばる
)
と
166
顕恩郷
(
けんおんきやう
)
に
参上
(
まゐのぼ
)
り
167
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
聞
(
き
)
きながら
168
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
を
思
(
おも
)
ひ
恋人
(
こひびと
)
を
169
慕
(
した
)
ふ
心
(
こころ
)
の
執着
(
しふちやく
)
は
170
未
(
ま
)
だ
晴
(
は
)
れやらぬ
苦
(
くる
)
しさに
171
高姫
(
たかひめ
)
さまの
立
(
た
)
て
給
(
たま
)
ふ
172
ウラナイ
教
(
けう
)
に
身
(
み
)
を
寄
(
よ
)
せて
173
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
海山
(
うみやま
)
の
174
恩顧
(
おんこ
)
を
受
(
う
)
けて
三五
(
あななひ
)
の
175
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
入信
(
にふしん
)
し
176
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
の
行方
(
ゆくへ
)
をば
177
尋
(
たづ
)
ね
彷徨
(
さまよ
)
ひ
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
178
夫
(
をつと
)
の
後
(
あと
)
を
尋
(
たづ
)
ねつつ
179
火
(
ひ
)
の
国
(
くに
)
都
(
みやこ
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
180
高国別
(
たかくにわけ
)
の
神司
(
かむつかさ
)
181
高山彦
(
たかやまひこ
)
と
名乗
(
なの
)
らせて
182
住
(
す
)
まはせ
玉
(
たま
)
ひし
尊
(
たふと
)
さよ
183
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
幸
(
さち
)
はひて
184
茲
(
ここ
)
に
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
と
名乗
(
なの
)
りを
上
(
あ
)
げ
185
玉治別
(
たまはるわけ
)
に
導
(
みちび
)
かれ
186
漸
(
やうや
)
く
海
(
うみ
)
を
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
えて
187
由良
(
ゆら
)
の
港
(
みなと
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
188
思
(
おも
)
ひも
寄
(
よ
)
らぬ
高姫
(
たかひめ
)
さまが
189
高砂島
(
たかさごじま
)
より
帰
(
かへ
)
りまし
190
互
(
たがひ
)
に
無事
(
ぶじ
)
を
祝
(
しゆく
)
しつつ
191
思
(
おも
)
ひがけなき
麻邇
(
まに
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
192
珍
(
うづ
)
の
神業
(
しんげふ
)
につかはれて
193
聖地
(
せいち
)
に
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
りたる
194
此
(
この
)
嬉
(
うれ
)
しさは
何時
(
いつ
)
の
世
(
よ
)
か
195
身魂
(
みたま
)
の
限
(
かぎ
)
り
忘
(
わす
)
れまじ
196
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
197
御魂
(
みたま
)
の
曇
(
くも
)
りし
黒姫
(
くろひめ
)
が
198
身
(
み
)
を
卑下
(
さげ
)
すまずいつ
迄
(
まで
)
も
199
親子
(
おやこ
)
の
睦
(
むつ
)
びいや
深
(
ふか
)
く
200
続
(
つづ
)
かせ
玉
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
201
神
(
かみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
平伏
(
ひれふ
)
して
202
真心
(
まごころ
)
尽
(
つく
)
して
願
(
ね
)
ぎまつる
203
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
204
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はへましませよ』
205
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
の
後
(
あと
)
に
続
(
つづ
)
いて
歌
(
うた
)
ひ
初
(
はじ
)
めたり。
206
玉治別
『
思
(
おも
)
へば
昔
(
むかし
)
フサの
国
(
くに
)
207
高井
(
たかゐ
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
山麓
(
さんろく
)
に
208
其
(
その
)
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
人子
(
ひとご
)
の
司
(
つかさ
)
209
高依彦
(
たかよりひこ
)
や
高依姫
(
たかよりひめ
)
の
210
夫婦
(
ふうふ
)
が
情
(
なさけ
)
に
育
(
はぐく
)
まれ
211
十五
(
じふご
)
の
年
(
とし
)
の
春
(
はる
)
までも
212
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
の
如
(
ごと
)
く
労
(
いた
)
はりて
213
育
(
そだ
)
て
玉
(
たま
)
ひし
有難
(
ありがた
)
さ
214
時
(
とき
)
しもあれや
真夜中
(
まよなか
)
頃
(
ごろ
)
215
覆面
(
ふくめん
)
頭巾
(
づきん
)
の
黒装束
(
くろしやうぞく
)
216
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
は
表戸
(
おもてど
)
を
217
蹴
(
け
)
やぶり
座敷
(
ざしき
)
へ
侵入
(
しんにふ
)
し
218
有無
(
うむ
)
を
云
(
い
)
はせず
両親
(
りやうしん
)
を
219
高手
(
たかて
)
や
小手
(
こて
)
に
縛
(
いまし
)
めて
220
凱歌
(
がいか
)
を
奏
(
そう
)
して
帰
(
かへ
)
り
往
(
ゆ
)
く
221
吾
(
われ
)
は
子供
(
こども
)
の
痩力
(
やせぢから
)
222
山
(
やま
)
より
高
(
たか
)
く
海
(
うみ
)
よりも
223
深
(
ふか
)
き
恵
(
めぐみ
)
を
蒙
(
かかぶ
)
りし
224
育
(
そだ
)
ての
親
(
おや
)
の
危難
(
きなん
)
をば
225
眺
(
なが
)
めて
居
(
ゐ
)
たる
苦
(
くる
)
しさに
226
父
(
ちち
)
の
秘蔵
(
ひざう
)
の
守
(
まも
)
り
刀
(
がたな
)
227
取
(
と
)
るより
早
(
はや
)
く
荒男
(
あらをとこ
)
が
228
群
(
むれ
)
に
向
(
むか
)
つて
斬
(
き
)
り
込
(
こ
)
めど
229
何条
(
なんでう
)
もつて
耐
(
たま
)
るべき
230
あなたも
強者
(
しれもの
)
隼
(
はやぶさ
)
の
231
爪
(
つめ
)
磨澄
(
とぎす
)
まし
小雀
(
こすずめ
)
を
232
掴
(
つか
)
みし
如
(
ごと
)
く
吾
(
わが
)
体
(
からだ
)
233
又
(
また
)
もや
高手
(
たかて
)
に
縛
(
しば
)
りつけ
234
山奥
(
やまおく
)
さして
親子
(
おやこ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
あへなくも
235
連
(
つ
)
れ
往
(
ゆ
)
かれたる
悲
(
かな
)
しさよ
236
吾
(
われ
)
は
隙
(
すき
)
をば
窺
(
うかが
)
ひて
237
高井
(
たかゐ
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
山寨
(
さんさい
)
を
238
後
(
あと
)
に
見捨
(
みす
)
てて
逃
(
に
)
げ
出
(
いだ
)
し
239
父母
(
ちちはは
)
二人
(
ふたり
)
を
救
(
すく
)
はむと
240
心
(
こころ
)
を
千々
(
ちぢ
)
に
配
(
くば
)
る
折
(
をり
)
241
二人
(
ふたり
)
の
義親
(
おや
)
は
木
(
こ
)
の
花
(
はな
)
の
242
姫
(
ひめ
)
の
命
(
みこと
)
に
助
(
たす
)
けられ
243
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
無事
(
ぶじ
)
に
居
(
ゐ
)
ますぞと
244
聞
(
き
)
いたる
時
(
とき
)
の
嬉
(
うれ
)
しさよ
245
高井
(
たかゐ
)
の
村
(
むら
)
に
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
り
246
高依彦
(
たかよりひこ
)
や
母君
(
ははぎみ
)
に
247
出会
(
であ
)
ひて
無事
(
ぶじ
)
を
祝
(
しゆく
)
しつつ
248
暫
(
しばら
)
く
此処
(
ここ
)
に
居
(
ゐ
)
る
中
(
うち
)
に
249
二人
(
ふたり
)
の
仲
(
なか
)
に
生
(
あ
)
れませる
250
玉
(
たま
)
をあざむく
男
(
をとこ
)
の
子
(
こ
)
251
玉春別
(
たまはるわけ
)
と
命名
(
めいめい
)
し
252
いよいよ
茲
(
ここ
)
に
育
(
そだ
)
ての
親
(
おや
)
は
253
誠
(
まこと
)
の
御子
(
みこ
)
を
生
(
う
)
みしより
254
両親
(
りやうしん
)
様
(
さま
)
の
許
(
ゆる
)
し
得
(
え
)
て
255
真
(
まこと
)
の
父母
(
ふぼ
)
を
探
(
さぐ
)
らむと
256
フサの
国
(
くに
)
より
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
257
漸
(
やうや
)
く
越
(
こ
)
えて
自凝
(
おのころ
)
の
258
島
(
しま
)
にいつしか
漂
(
ただよ
)
ひつ
259
人
(
ひと
)
の
情
(
なさけ
)
に
助
(
たす
)
けられ
260
宇都山
(
うづやま
)
村
(
むら
)
の
春助
(
はるすけ
)
が
261
子無
(
こな
)
きを
幸
(
さいは
)
ひ
養子
(
やうし
)
となり
262
土
(
つち
)
かい
草切
(
くさき
)
り
稲麦
(
いねむぎ
)
を
263
作
(
つく
)
りて
其
(
その
)
日
(
ひ
)
を
暮
(
く
)
らす
中
(
うち
)
264
天
(
あめ
)
の
真浦
(
まうら
)
や
宗彦
(
むねひこ
)
が
265
此処
(
ここ
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
りまし
266
不思議
(
ふしぎ
)
の
縁
(
えにし
)
の
廻
(
めぐ
)
り
合
(
あ
)
ひ
267
妹
(
いも
)
のお
勝
(
かつ
)
を
吾
(
わが
)
妻
(
つま
)
に
268
娶
(
めと
)
りて
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
に
入
(
い
)
り
269
玉治別
(
たまはるわけ
)
と
宣伝使
(
せんでんし
)
270
清
(
きよ
)
けき
御名
(
みな
)
を
授
(
さづ
)
けられ
271
三五教
(
あななひけう
)
を
遠近
(
をちこち
)
に
272
開
(
ひら
)
き
伝
(
つた
)
ふる
折
(
をり
)
もあれ
273
三十五
(
さんじふご
)
年
(
ねん
)
の
時津風
(
ときつかぜ
)
274
吹
(
ふ
)
き
廻
(
めぐ
)
り
来
(
き
)
て
村肝
(
むらきも
)
の
275
心筑紫
(
こころつくし
)
の
火
(
ひ
)
の
国
(
くに
)
で
276
真
(
まこと
)
の
母
(
はは
)
に
廻
(
めぐ
)
り
遇
(
あ
)
ひ
277
天
(
てん
)
にも
昇
(
のぼ
)
る
心地
(
ここち
)
して
278
今日
(
けふ
)
の
生日
(
いくひ
)
を
祝
(
いは
)
へども
279
まだ
気
(
き
)
にかかる
垂乳根
(
たらちね
)
の
280
父
(
ちち
)
の
命
(
みこと
)
は
今
(
いま
)
いづこ
281
遇
(
あ
)
はま
欲
(
ほ
)
しやと
朝夕
(
あさゆふ
)
に
282
祈
(
いの
)
る
吾
(
われ
)
こそ
悲
(
かな
)
しけれ
283
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
284
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましまして
285
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
吾
(
わが
)
父
(
ちち
)
に
286
遇
(
あ
)
はせ
玉
(
たま
)
へよ
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
287
国治立
(
くにはるたちの
)
大御神
(
おほみかみ
)
288
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
の
289
御前
(
みまへ
)
に
畏
(
かしこ
)
み
願
(
ね
)
ぎまつる
290
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
291
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましませよ』
292
と、
293
母
(
はは
)
に
遇
(
あ
)
うた
嬉
(
うれ
)
しさと、
294
父
(
ちち
)
に
遇
(
あ
)
はれぬ
苦
(
くる
)
しさと
悲喜
(
ひき
)
交々
(
こもごも
)
混
(
まじ
)
はりたる
一種
(
いつしゆ
)
異様
(
いやう
)
の
声調
(
せいてう
)
にて
歌
(
うた
)
ひ
了
(
をは
)
り、
295
悄然
(
せうぜん
)
として
項垂
(
うなだ
)
れ
居
(
ゐ
)
たりける。
296
(
大正一一・九・一九
旧七・二八
加藤明子
録)
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