霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 婆(ばば)論議(ろんぎ)〔九三〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻 篇:第3篇 時節到来 よみ(新仮名遣い):じせつとうらい
章:第15章 婆論議 よみ(新仮名遣い):ばばろんぎ 通し章番号:930
口述日:1922(大正11)年08月28日(旧07月6日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年11月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
高姫一行は清子姫・照子姫と別れて、ハラの港を目指して行く。
清子姫と照子姫は琉球を出て高砂島にやってきたとき、言依別命の命によって三倉山の谷川に進んで国魂神・竜世姫命の宮に詣で、国人たちを教え導いていたのであった。
そしてヒル、カル、間の国を経て常世の国にわたり、鬼武彦ら白狐神たちに守られてロッキー山の鬼城山に至り三五の道を宣伝した。その後清子姫は日の出神の命によりヒルの都の楓別命の妻となり、照子姫とともにこの瀑布にやってきて百日百夜の修行をしようとしていたところに、高姫一行に出会ったのであった。
後に照子姫は国依別の媒酌によって石熊の妻となった。石熊は国依別から光国別という名を授かり、高照山の館に三五教を開いた。そして楓別命夫婦と合い協力して、ヒル、カルの国にまだ残っていた大蛇を退治する大神業に奉仕することとなった。
ウヅの国に残った春彦は、タルチールとともに常世の国を越えて北方の雪国まで進み、抜群の功名を立てたが、その物語はまた後日とする。
高姫たちはハラの港から高島丸に乗り込んだ。高姫は船中の人々の雑談を聞くともなしに聞いている。松公と鶴公は、高姫が高砂島にやってきたときの無茶な振る舞いを話のネタにして、わざと船中の人々に聞こえよがしに高姫を非難している。
テーリスタンが話に割ってはいると、二人は実はウヅの館の松若彦の命で、高姫を追ってきた三五教の宣伝使だと明かした。二人は、神素盞嗚大神様の御内命で、高姫たちに麻邇の宝珠の誠の御用がさせたいために、付いて教訓を垂れていたのだと語った。
そしてまた、自転倒島に着いたらさらに明かす秘密があると言い、一行は道中を共にすることとなった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:松公(松彦)、鶴公(鶴彦) データ凡例: データ最終更新日:2022-08-25 23:03:08 文字数:4676 OBC :rm3315
愛善世界社版:164頁 八幡書店版:第6輯 311頁 修補版: 校定版:171頁 普及版:61頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)一行(いつかう)六(ろく)人(にん)はタルチール、002清子姫(きよこひめ)、003照子姫(てるこひめ)の三(さん)人(にん)に袂(たもと)を分(わか)ち、004ハラの港(みなと)を指(さ)して進(すす)み行(ゆ)く。
005 因(ちなみ)に清子姫(きよこひめ)は妹(いもうと)照子姫(てるこひめ)と共(とも)に言依別(ことよりわけの)命(みこと)の命(めい)に依(よ)り、006三倉山(みくらやま)の谷川(たにがは)に進(すす)み、007国魂神(くにたまがみ)の竜世姫(たつよひめの)命(みこと)の宮(みや)に詣(まう)で、008数多(あまた)の国人(くにびと)を教(をし)へ導(みちび)き、009それよりヒル、010カル、011間(はざま)の国(くに)を経(へ)て、012常世(とこよ)の国(くに)に渡(わた)り、013ロツキー山(ざん)に進(すす)み、014鬼城山(きじやうざん)に到(いた)り、015鬼武彦(おにたけひこ)以下(いか)の白狐神(びやくこしん)に守(まも)られ、016三五(あななひ)の道(みち)を宣伝(せんでん)し、017清子姫(きよこひめ)は日(ひ)の出神(でのかみ)の命(めい)に依(よ)りて、018ヒルの都(みやこ)の楓別(かへでわけの)命(みこと)の妻(つま)となり、019ヒルの館(やかた)を立出(たちい)で、020妹(いもうと)照子姫(てるこひめ)と共(とも)に此(この)瀑布(ばくふ)[※前章に出た「乾の滝」のこと]に立向(たちむか)ひ、021山中(さんちう)の玉(たま)の池(いけ)の中心(ちうしん)に屹立(きつりつ)せる岩石(がんせき)の上(うへ)に小(ちひ)さき亭(ちん)を建(た)て、022百(ひやく)日(にち)百夜(ひやくや)の修行(しうぎやう)をせむとしてゐたのであつた。023又(また)照子姫(てるこひめ)は国依別(くによりわけの)命(みこと)の媒酌(ばいしやく)に依(よ)つて、024バラモン教(けう)の教主(けうしゆ)たりし石熊(いしくま)の妻(つま)となり、025高照山(たかてるやま)の館(やかた)に於(おい)て三五教(あななひけう)を開(ひら)く事(こと)となつた。026さうして石熊(いしくま)は国依別(くによりわけの)命(みこと)より、027光国別(てるくにわけ)と云(い)ふ神名(しんめい)を頂(いただ)き、028夫婦(ふうふ)相和(あひわ)して大蛇(をろち)退治(たいぢ)の大神業(だいしんげふ)に奉仕(ほうし)する事(こと)となつた。
029 アマゾン河(がは)の魔神(まがみ)及(および)時雨(しぐれ)の森(もり)の猛獣(まうじう)は鷹依姫(たかよりひめ)等(ら)の尽力(じんりよく)に依(よ)りて、030何(いづ)れも神(かみ)の道(みち)に救(すく)はれたれ共(ども)、031未(いま)だヒルの国(くに)の一部(いちぶ)及(および)カルの国(くに)の森林(しんりん)には、032八岐(やまた)の大蛇(をろち)の系統(けいとう)の邪神(じやしん)数多(あまた)棲息(せいそく)して暴威(ばうゐ)を揮(ふる)ひ、033人民(じんみん)を苦(くる)しめ居(ゐ)たれば、034茲(ここ)に光国別(てるくにわけ)、035楓別(かへでわけの)命(みこと)の両(りやう)夫婦(ふうふ)は神(かみ)の力(ちから)を得(え)て、036苦心(くしん)惨憺(さんたん)の結果(けつくわ)、037漸(やうや)く邪神(じやしん)を言向和(ことむけやは)すことが出来(でき)たのである。038さうして高姫(たかひめ)に従(したが)ひ来(きた)りし春彦(はるひこ)は、039タルチールと共(とも)に常世(とこよ)の国(くに)を乗(の)り越(こ)え、040遠(とほ)く北方(ほくぱう)の雪国(ゆきぐに)に進(すす)み、041抜群(ばつぐん)の功名(こうみやう)を立(た)てたのである。042此(この)物語(ものがたり)は後日(ごじつ)更(あらた)めて述(の)ぶることに致(いた)しませう。
043 高姫(たかひめ)一行(いつかう)はハラの港(みなと)より又(また)もや都合(つがふ)よく高島丸(たかしままる)に乗(の)り込(こ)み、044自転倒(おのころ)島(じま)に向(むか)つて帰(かへ)る事(こと)となつた。045海上(かいじやう)波(なみ)静(しづ)かにして、046さしもに広(ひろ)き大西洋(たいせいやう)も鏡(かがみ)の如(ごと)く凪(な)ぎわたつて居(ゐ)る。047船中(せんちう)の無聊(むれう)を慰(なぐさ)むる為(ため)、048あちらの隅(すみ)にも、049こちらの隅(すみ)にも雑談(ざつだん)が始(はじ)まつて居(ゐ)る。
050 高姫(たかひめ)一行(いつかう)は静(しづ)かに諸人(もろびと)の雑談(ざつだん)をゆかしげに聞(き)いて居(ゐ)た。051高姫(たかひめ)の傍(かたはら)に座(ざ)を占(し)めた三人(さんにん)連(づ)れの男(をとこ)、052チビリチビリと瓢(ひさご)の酒(さけ)を呑(の)み乍(なが)ら、053雑談(ざつだん)に耽(ふけ)りゐたり。
054甲(かふ)(松公)『先(さき)の年(とし)、055竜宮(りうぐう)の一(ひと)つ島(じま)からテルの国(くに)へ帰(かへ)つて来(く)る途中(とちう)、056ヤツパリ此(この)高島丸(たかしままる)に乗(の)つて帰(かへ)つたが、057其(その)時(とき)に妙(めう)なことがあつたよ。058小(ちひ)さい舟(ふね)に婆(ばば)が一人(ひとり)、059屈強(くつきやう)な男(をとこ)が二人(ふたり)乗(の)つて来(き)て暗礁(あんせう)に舟(ふね)を当(あ)て、060止(や)むを得(え)ず、061大胆(だいたん)至極(しごく)にも波(なみ)の上(うへ)を歩(ある)き出(だ)した所(ところ)、062俄(にはか)の暴風(ばうふう)で波(なみ)は高(たか)くなり、063困(こま)つて居(ゐ)る所(ところ)へ、064高島丸(たかしままる)がそこを通(とほ)り合(あは)せ、065救(すく)ひ上(あ)げた事(こと)がある。066其(その)時(とき)に何(なん)でも、067高姫(たかひめ)とか云(い)ふ名(な)だと記憶(きおく)して居(ゐ)るが、068舟(ふね)の上(うへ)から真逆(まつさか)さまに海中(かいちう)へ墜落(つゐらく)し、069連(つ)れの男(をとこ)に助(たす)けられて、070反対(はんたい)に理屈(りくつ)を言(い)うた悪垂婆(あくたればば)アが乗(の)つてゐた。071随分(ずゐぶん)世(よ)の中(なか)には妙(めう)な婆(ばば)アもあるものぢやないか』
072乙(おつ)(鶴公)『高姫(たかひめ)に限(かぎ)らず、073どこの婆(ばば)アでも中々(なかなか)意地(いぢ)の悪(わる)いものだよ。074それだから老婆心(らうばしん)と云(い)うて人(ひと)が厭(いや)がるのだ。075婆(ばば)アに碌(ろく)な奴(やつ)ア一人(ひとり)もありやしない。076俺(おれ)んとこも女房(にようばう)が来(き)てから、077今迄(いままで)大切(たいせつ)にしてくれた内(うち)の母者人(ははじやしと)も俄(にはか)に心機(しんき)一転(いつてん)して、078一人(ひとり)息子(むすこ)の俺(おれ)に対(たい)してさへ、079何(なん)とか彼(かん)とか云(い)つて強(つよ)く当(あた)るのだものなア。080嫁(よめ)と名(な)がつきや吾(わが)子(こ)も憎(にく)いとか云(い)つて婆(ばば)アのつむじ曲(まが)りは、081如何(どう)にも斯(か)うにも仕方(しかた)がないものだ。082余(あま)り内(うち)の婆(ばば)アが嫁(よめ)につらく当(あた)つて苛(いぢ)め散(ち)らすものだから、083俺(おれ)も見(み)るに見(み)かねて……婆(ばあ)さま、084まだ年(とし)の若(わか)い嫁(よめ)だから、085経験(けいけん)がないのは無理(むり)はない。086これからボツボツと教(をし)へ込(こ)んで、087家風(かふう)に合(あ)ふ様(やう)に、088婆(ば)アさまのお気(き)に入(い)るやうにさすから、089暫(しばら)く女房(にようばう)のする事(こと)は、090うるさくても目(め)をつぶつてゐて下(くだ)さい……と頼(たの)み込(こ)んだ所(ところ)、091婆(ば)アさまの怒(おこ)るの怒(おこ)らないのつて、092忽(たちま)ち目(め)を縦(たて)にして了(しま)ひ……お前(まへ)は今迄(いままで)私(わし)に随分(ずゐぶん)孝行(かうかう)にして呉(く)れたが、093あのお亀(かめ)が来(き)てから、094俄(にはか)に了見(りやうけん)が悪(わる)くなり、095親不孝(おやふかう)になりよつた。096これと云(い)ふのも、097決(けつ)してお前(まへ)が悪(わる)いのぢやない。098あのお亀(かめ)奴(め)が此(この)年老(としより)を邪魔者(じやまもの)扱(あつか)ひにして、099早(はや)くあの婆(ばば)アが死(し)んでくれれば良(い)いがと毎朝(まいあさ)神(かみ)様(さま)に祈願(きぐわん)をこめて居(ゐ)やがる。100私(わたし)の血統(ちすぢ)にはそんな不孝(ふかう)な子(こ)は生(うま)れる気遣(きづか)ひはない、101鶴公(つるこう)は性来(しやうらい)がおとなしい孝行者(かうかうもの)だ。102兎(と)も角(かく)女房(にようばう)が悪(わる)いのだ……などと、103勝手(かつて)な理屈(りくつ)を云(い)つて、104俺(おれ)も実(じつ)は困(こま)つて居(ゐ)るのだ。105婆(ばば)アになるとなぜあの様(やう)に、106奴根性(どこんじやう)が悪(わる)くなるのかなア』
107甲(かふ)(松公)『其(その)位(くらゐ)な無理(むり)云(い)ふ婆(ばば)は別(べつ)に珍(めづら)しい事(こと)はないワ。108村中(むらぢう)九分(くぶ)通(どほり)まで其(その)式(しき)の婆(ばば)ばかりだ。109併(しか)し婆(ばば)は家(いへ)の宝(たから)だから先(ま)づ尊敬(そんけい)を払(はら)はねばなるまい、110が、111俺(おれ)の云(い)ふ高姫婆(たかひめばば)と云(い)ふ奴(やつ)ア、112又(また)特別製(とくべつせい)の代物(しろもの)でそんなヘドロイ婆(ばあ)さまぢやないワ。113八岐(やまた)の大蛇(をろち)か金毛(きんまう)九尾(きうび)か、114モールバンドかと云(い)ふ様(やう)なエグイ婆(ばば)アだと云(い)ふ事(こと)だよ。115何(なん)でも金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)とか、116其(その)外(ほか)いろいろの立派(りつぱ)な玉(たま)を呑(の)んだり吐(は)いたりする、117鵜(う)の如(や)うな婆(ばば)アださうぢや。118其奴(そいつ)が貴様(きさま)、119高砂島(たかさごじま)まではるばるやつて来(き)よつて時雨(しぐれ)の森(もり)のモールバンドに出会(でくわ)し、120其奴(そいつ)と角力(すまふ)とつて、121彼奴(あいつ)の尻(しり)の剣(けん)を持(も)つて帰(かへ)り、122自転倒(おのころ)島(じま)とかで威張(ゐば)り散(ち)らさうと云(い)ふ途方(とはう)途轍(とてつ)もない悪垂婆(あくたればば)アの鬼婆(おにばば)だからなア』
123鶴公(つるこう)『オイ松公(まつこう)、124世(よ)の中(なか)は広(ひろ)い様(やう)でも狭(せま)いものだぞ。125そんなこと言(い)ふとると、126其(その)御(ご)本人(ほんにん)が若(も)しや此(この)船(ふね)にでも乗(の)つて居(を)らうものなら、127サツパリ始末(しまつ)に終(を)へぬぞ。128チト気(き)をつけぬかい』
129松公(まつこう)『何(いづ)れ此(この)船(ふね)には人間(にんげん)計(ばか)りが乗(の)つて居(ゐ)るのだから、130婆(ばば)だつて、131一人(ひとり)や二人(ふたり)は居(を)るだらう。132高姫(たかひめ)に能(よ)う似(に)た面(つら)した奴(やつ)も俺(おれ)の近所(きんじよ)に居(ゐ)る様(やう)な気(き)がするのだ。133それだから高姫(たかひめ)類似者(るゐじしや)の霊(れい)が俺(おれ)に憑(うつ)りよつて、134高姫(たかひめ)の事(こと)を思(おも)はせ、135已(や)むを得(え)ず、136話(はな)さなければならなくなつたのだ。137言依別(ことよりわけ)の神(かみ)さまも、138良(い)い加減(かげん)に意茶(いちや)つかさずに、139其(その)玉(たま)を高姫(たかひめ)に呑(の)ましてやると、140根性(こんじやう)が直(なほ)るのだけれどなア。141虎(とら)でも狼(おほかみ)でも腹(はら)がふくれて居(を)れば、142メツタに人間(にんげん)にかぶりつくものぢやない。143人(ひと)を見(み)たら直(すぐ)にカブリついて、144ワンワン吐(ぬか)す痩犬(やせいぬ)でも腹(はら)さへふくらしてやれば、145すぐに尾(を)を振(ふ)つておとなしくなる様(やう)なもので、146高姫(たかひめ)だつて、147金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を腹(はら)に詰(つ)め込(こ)んでおきさへすりや、148おとなしうなつて、149言依別(ことよりわけ)さまとやらを、150夜叉(やしや)の様(やう)に、151こんな所(ところ)まで追(お)ひかけて来(き)やしようまいになア』
152鶴公(つるこう)『まるで人間(にんげん)を四(よ)つ足(あし)に譬(たと)へとるぢやないか。153高姫(たかひめ)が聞(き)いたら、154人(ひと)を馬鹿(ばか)にすると云(い)うて怒(おこ)るだらうよ』
155松公(まつこう)『ナーニ、156高姫(たかひめ)だつて、157四(よ)つ足(あし)のサツクだ。158宣伝使(せんでんし)とか云(い)ふ雅号(ががう)を持(も)つてるだけで、159何(なに)か変(かは)つた奴(やつ)の様(やう)に思(おも)へるだけだ。160宣伝服(せんでんふく)を脱(ぬ)がし赤裸(まつぱだか)にして見(み)よ。161俺(おれ)んとこのお竹(たけ)よりも年(とし)が老(よ)つとるだけ値打(ねうち)がなくて、162おまけに見(み)つともない。163尊敬(そんけい)の念(ねん)はチツトも起(おこ)りやしないよ。164男(をとこ)でも女(をんな)でも赤裸(まつぱだか)にして見(み)なくちや、165本当(ほんたう)の価値(かち)は分(わか)るものぢやない。166大将(たいしやう)だとか頭(かしら)だとか偉相(えらさう)に言(い)つて、167立派(りつぱ)な風呂敷(ふろしき)を被(かぶ)つて居(ゐ)るから、168大将(たいしやう)らしう見(み)えたり、169頭(かしら)らしう見(み)えるのだが、170裸(はだか)にすりや俺(おれ)たちと別(べつ)にどこも変(かは)つたところはありやアしない。171どうぞ赤裸(まつぱだか)な人間(にんげん)ばかり住(す)んで居(ゐ)る、172誠(まこと)一(ひと)つの世(よ)の中(なか)が来(き)て欲(ほ)しいものだなア』
173鶴公(つるこう)『鷹依姫(たかよりひめ)とか云(い)ふ婆(ばば)アも、174アリナの滝(たき)で甘(うま)い事(こと)云(い)つて、175沢山(たくさん)の玉(たま)を集(あつ)め、176終局(しまひ)の果(は)てにや、177ヒルの国(くに)のテーナの里(さと)から納(をさ)まつた黄金(わうごん)の玉(たま)をチヨロまかし、178夜裏(よさり)の間(ま)に同類(どうるゐ)四(よ)人(にん)が、179随徳寺(ずゐとくじ)をきめこみ、180荒野(あらの)ケ原(はら)で神(かみ)さまに散々(さんざん)に膏(あぶら)を絞(しぼ)られ、181とうとう改心(かいしん)とか安心(あんしん)とかしよつて、182アマゾン河(がは)の畔(ほとり)で兎(うさぎ)の王(わう)になつたとか云(い)ふ噂(うはさ)があるが、183貴様(きさま)聞(き)いて居(ゐ)るか』
184松公(まつこう)『ソラ聞(き)いて居(ゐ)る。185何程(なにほど)大(おほ)きうても、186牛(うし)の尻尾(しつぽ)になるよりも、187鶏(にはとり)の頭(あたま)になる方(はう)が人間(にんげん)としての理想(りさう)だから、188鷹依姫(たかよりひめ)は余程(よほど)偉(えら)い奴(やつ)だと、189俺(おれ)は何時(いつ)も感心(かんしん)して居(ゐ)るのだ。190あの婆(ばば)アも、191ヤツパリ自転倒(おのころ)島(じま)から高姫(たかひめ)の無理(むり)難題(なんだい)に依(よ)つて逃(に)げて来(き)たと云(い)ふ話(はなし)だ。192本当(ほんたう)に高姫(たかひめ)と云(い)ふ奴(やつ)は、193他人(たにん)が聞(き)いても、194向(むか)つ腹(ぱら)の立(た)つ悪垂婆(あくたればば)アだなア』
195鶴公(つるこう)『オイ余(あま)り大(おほ)きな声(こゑ)で言(い)ふない。196お前(まへ)の後(うしろ)に居(ゐ)る二人(ふたり)の婆(ばば)アが、197妙(めう)な顔(かほ)して、198ベソをかきかけて居(ゐ)るぢやないか』
199 斯(か)かる所(ところ)へ、200テーリスタンはスタスタとやつて来(き)て、
201テーリスタン『松公(まつこう)、202鶴公(つるこう)とやら、203随分(ずゐぶん)婆論(ばばろん)がはづんで居(を)りますな』
204松公(まつこう)『オー、205はづんで居(ゐ)る。206随分(ずゐぶん)威張(ゐば)り散(ち)らす高姫(たかひめ)の噂(うはさ)を摘発(てきはつ)して罵詈(ばり)ついて居(ゐ)るのだ。207そこに居(ゐ)る婆々(ババ)ンツは、208昨年(さくねん)此(この)船(ふね)で見(み)た高姫(たかひめ)にどつか似(に)たやうな気(き)がするが、209併(しか)しあんな白(しろ)い顔(かほ)ぢやなかつた。210お前(まへ)は一体(いつたい)其(その)高姫(たかひめ)に関係(くわんけい)のある代物(しろもの)かなア』
211テーリスタン『関係(くわんけい)があるでもなし、212ないでもなし、213お前(まへ)達(たち)が妙(めう)な話(はなし)を面白(おもしろ)さうにやつてるから、214俺(おれ)も一(ひと)つ聞(き)かして貰(もら)ひたいと思(おも)つて、215チツト耳(みみ)が遠(とほ)いものだから、216近(ちか)う寄(よ)せて貰(もら)うたのだ』
217鶴公(つるこう)『マア一杯(いつぱい)やれ、218酒(さけ)もなしに此(この)長(なが)の道中(だうちう)、219勤(つと)まりつこはない』
220と瓢(ひさご)をさし出(だ)す。
221テーリスタン『ソリヤ有難(ありがた)う。222併(しか)し折角(せつかく)だが、223私(わたし)は下戸(げこ)だから一滴(いつてき)もいかないのだ』
224鶴公(つるこう)『ナヽ何(なん)だ、225ここは下戸(げこ)共(ども)の来(く)る所(ところ)ぢやない。226折角(せつかく)の興味(きようみ)が醒(さ)めて了(しま)ふワイ』
227テーリスタン『ナイスの話(はなし)なれば、228酒(さけ)の味(あぢ)も甘(うま)からうが、229婆(ばば)ア話(ばなし)では根(ね)つから酒(さけ)も甘(うま)くはありますまいなア』
230松公(まつこう)『甘(うま)くないのは承知(しようち)だが、231一遍(いつぺん)高姫(たかひめ)オツトドツコイ、232そこらの婆(ばば)アに、233聞(き)けよがしに云(い)うておかねばならぬ事(こと)があるからなア』
234鶴公(つるこう)『そんな事(こと)、235誰(たれ)から頼(たの)まれたのだい』
236松公(まつこう)『松若彦(まつわかひこ)、237オツトドツコイ、238此(この)松(まつ)さまが若(わか)い時(とき)から、239婆(ばば)アが嫌(きら)ひでなア、240そこへ婆(ばば)アの海(うみ)へおちたのを、241去年(きよねん)此(この)船(ふね)で見(み)たものだから、242今日(けふ)は又(また)其(その)時(とき)の光景(くわうけい)が記憶(きおく)に浮(うか)んで来(き)て、243いつとはなしに婆(ばあ)さま話(ばなし)にバサンと深(ふか)みへ落(お)ち込(こ)んで了(しま)つたのだ。244モウ斯(こ)んなババイ話(はなし)はこれ限(かぎ)りやめにしようかい』
245テーリスタン『コレ松公(まつこう)、246お前(まへ)はレコの間者(まはしもの)ぢやなア』
247松公(まつこう)『バカ言(い)つて呉(く)れない。248まはし者(もの)なんて、249お前(まへ)の方(はう)が気(き)をまはし者(もの)だ。250人(ひと)の褌(まはし)で相撲(すまふ)とるよなズルイ事(こと)をする松公(まつこう)とは、251チツト違(ちが)ひますワイ……ナア鶴公(つるこう)、252お前(まへ)私(わし)の平常(へいぜい)を知(し)つとるぢやらう』
253鶴公(つるこう)『貴様(きさま)は服(ふく)をつけて、254ウヅの都(みやこ)の宣伝使(せんでんし)だと威張(ゐば)つて居(ゐ)やがるが、255酒(さけ)を喰(くら)ふとサツパリ駄目(だめ)だな。256ヤツパリ元(もと)がウラル教(けう)だから、257其(その)癖(くせ)が直(なほ)らぬと見(み)えるワイ』
258松公(まつこう)『コリヤ、259人(ひと)の秘密(ひみつ)をあばく奴(やつ)があるか、260宣(の)り直(なほ)せ』
261鶴公(つるこう)『モシモシ高姫(たかひめ)さまに能(よ)う似(に)たお方(かた)、262其(その)他(た)の御(ご)一行(いつかう)様(さま)、263此(この)松公(まつこう)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)で御座(ござ)いますが、264酒(さけ)を喰(くら)ふとサツパリ地金(ぢがね)が現(あら)はれ駄目(だめ)だと云(い)ふ意味(いみ)の事(こと)を申上(まをしあ)げましたが、265松公(まつこう)の請求(せいきう)に依(よ)つて、266更(あらた)めて宣(の)り直(なほ)します、267決(けつ)して宣伝使(せんでんし)ではないと思(おも)うて下(くだ)さい。268アハヽヽヽ』
269テーリスタン『アハー、270ヤツパリ、271デモ宣伝使(せんでんし)だな。272一体(いつたい)どこへ行(ゆ)く積(つも)りだ。273何(なん)と云(い)つても最早(もはや)かくすのは駄目(だめ)だ、274サア事実(じじつ)を言(い)つて貰(もら)はう、275私(わたし)もウヅの都(みやこ)から此処(ここ)迄(まで)やつて来(き)た者(もの)でヤツパリ三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の端(はし)くれだ』
276松公(まつこう)『そんなら、277白状(はくじやう)しませう。278実(じつ)の所(ところ)は松若彦(まつわかひこ)さまに命令(めいれい)を受(う)けて、279お前(まへ)さま一行(いつかう)の後(あと)をつけて来(き)たのだ。280決(けつ)して悪(わる)い考(かんが)へを持(も)つて来(き)たのぢやない。281神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)内命(ないめい)に依(よ)つて高姫(たかひめ)さまや鷹依姫(たかよりひめ)、282竜国別(たつくにわけ)様(さま)に、283麻邇(まに)の宝珠(ほつしゆ)の誠(まこと)の御用(ごよう)がさせたいから、284同(おな)じ船(ふね)に乗(の)つて高姫(たかひめ)の慢心(まんしん)をせない様(やう)、285いろいろとそれとはなしに、286教訓(けうくん)をしてくれよとの事(こと)で、287選(えら)まれて、288多勢(おほぜい)の中(なか)からやつて来(き)たのだよ』
289テーリスタン『さうか、290それは大(おほ)いに御(ご)苦労(くらう)だ。291併(しか)しそれ計(ばか)りぢやあるまい。292何(なに)か外(ほか)に折入(をりい)つて大切(だいじ)な使命(しめい)を帯(お)びてゐるのだらう。293否(いや)秘密(ひみつ)の鍵(かぎ)を握(にぎ)つて居(ゐ)るのだらう。294それを今(いま)ここでソツと俺(おれ)に言(い)つてくれる訳(わけ)には行(ゆ)かぬか』
295松公(まつこう)『秘密(ひみつ)はどこ迄(まで)も秘密(ひみつ)だ。296自転倒(おのころ)島(じま)に着(つ)く迄(まで)は、297これ計(ばか)りは言(い)ふ事(こと)は出来(でき)ない。298併(しか)し今(いま)之(これ)を言(い)ふと、299お前(まへ)達(たち)の手柄(てがら)が出来(でき)ないから、300後(あと)の楽(たのし)みに除(の)けておかう』
301テーリスタン『秘密(ひみつ)とあれば、302どこ迄(まで)も追求(つゐきう)する訳(わけ)にも行(ゆ)くまい。303兎(と)に角(かく)同(おな)じ神(かみ)さまの道(みち)を歩(あゆ)む宣伝使(せんでんし)だから、304互(たがひ)に気(き)をつけあうて、305仲良(なかよ)くして行(ゆ)かうぢやないか』
306松公(まつこう)『お前(まへ)と俺(おれ)とは仲良(なかよ)うしよう。307また鷹依姫(たかよりひめ)、308竜国別(たつくにわけ)の宣伝使(せんでんし)が、309若(も)しや此(この)船(ふね)に居(を)られたら、310これは仲良(なかよ)うして貰(もら)ひたいものだ。311併(しか)し乍(なが)ら高姫婆(たかひめばあ)さまだけは、312マア一寸(ちよつと)暫(しば)らく御免(ごめん)蒙(かうむ)りたいなア』
313テーリスタン『オイ、314大(おほ)きな声(こゑ)で言(い)ふな。315そこに本当(ほんたう)の高姫(たかひめ)さまが目(め)を塞(ふさ)いで居眠(ゐねむ)つたやうな顔(かほ)して聞(き)いて御座(ござ)るぞ』
316と耳(みみ)に口(くち)あて、317小声(こごゑ)にささやく。318船(ふね)は順風(じゆんぷう)に帆(ほ)を孕(はら)み、319勢(いきほひ)よく海上(かいじやう)を辷(すべ)り行(ゆ)く。
320(大正一一・八・二八 旧七・六 松村真澄録)
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