玉国別は、旅の途上バラモン軍の襲撃を受けて行方がわからなくなってしまった三千彦を尋ねて、真純彦、伊太彦を伴いようやくテルモン山麓にやってきて、アンブラック川を渡り一二丁前進した。
すると悪酔怪の会長ワックスが数多の無頼漢を引率して現れ、三五教の宣伝使を排除しようと立ちはだかった。無頼漢たちは三方から取り囲み、小石を掴んで宣伝使たちに投げつけた。
三人は岩陰にかくれてしのいでいたが、伊太彦はつぶてを向う脛に受けて倒れてしまった。真純彦は伊太彦を介抱し、玉国別は泰然自若として天の数歌を奏上している。
数百人の荒くれ男たちはじりじりを包囲を狭めてくる。玉国別は覚悟を決め、伊太彦を真純彦に背負わせて重囲を突破しようと突進したが、三人はすぐに打ち据えられてしまった。
そこへ猛犬スマートが宙を飛んで駆けてきて吠え叫んだ。悪酔怪員たちはたちまち恐れをなして三人を打ち捨てて館に退却してしまった。
玉国別はスマートに謝辞を述べ、頭をなで背をなでて謝意を表した。スマートは嬉しげに尾を振り、伊太彦の傷書をなめると、たちまち血は止まり苦痛は去り、立つことができるようになった。三人はスマートと共に神館を指して、宣伝歌を歌いながら登って行く。
敗走したワックスは館の前のバラモン軍に助けを求めた。外にいたバラモン軍の軍曹イールは承諾し、五十の軍人を引き連れてテルモン山を降り、玉国別たちを迎え撃つことになった。
伊太彦は勇ましい行軍の宣伝歌を歌いながら館を指して進んで行く。宮町の十字街頭に着くと、にわかに左右の家の中から矢が射掛けられ、三人は進退きわまって街頭で一生懸命数歌を歌っている。
前方からはバラモン軍の兵士たちが長槍をしごきながら進んでくる。後ろからは老若男女が鬨の声を造って押し寄せてくる。スマートがウワッウワッと吠え猛ると、その声は狼のごとく戸障子を振動させ、一同の肝を麻痺させた。
矢玉はピタッと止まり、鬨の声も聞こえなくなった。バラモン軍の兵士たちは何を思ったか、馬場をさして一目散に駆けて逃げて行った。スマートはどこともなく姿を隠した。玉国別一行はバラモン軍の後を追って進んで行った。
ワックスは驢馬にまたがって大音声を張り上げ、悪酔怪員たちを鞭撻して三人の後を追っかけてきた。馬場の前では、なぜか悪酔怪員たちとバラモン軍が大衝突を始め、阿鼻叫喚の声、剣戟の音、見るに忍びざる惨状を呈した。
玉国別たちはこの争いを後に表門から悠々と進んで行った。スマートはどこともなく現れ来たり、門口から一生懸命にウワッウワッとわめきたてた。