霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 神船(しんせん)〔一四八二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻 篇:第2篇 湖上神通 よみ(新仮名遣い):こじょうじんつう
章:第7章 神船 よみ(新仮名遣い):しんせん 通し章番号:1482
口述日:1923(大正12)年03月28日(旧02月12日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
玉国別一行は洋々たる湖面を眺めて互いに述懐の歌を歌った。そして五人は湖畔に立ち、いかにしてこの湖水を渡ろうかと当惑していた。
すると一艘の漁船がやってきた。船頭は、三五教徒は乗せてはならいと大黒主のお達しだが、二百両の金をくれるなら渡してやろう、と一向に持ちかけた。一行は仕方なく承諾し、乗船した。
船が岸を離れると、船の底から武装したワックス、エキス、ヘルマン、エルが現れた。彼らは三千彦たちに怨みをはらそうと船頭を買収して計略を企んだのであった。
ワックスは居丈高に、湖上では魔法もきくまいと啖呵をきった。玉国別は平然として天の数歌を奏上し始めた。するとにわかに暴風が起こり、山岳のような波が猛って、敵も味方も船内をごろつきはじめてしまった。
船頭はもんどり打って荒波に投げつけられ、そのまま湖底に沈んで行ってしまった。そこへ一艘の船が近づいてきた。それは三五教の初稚姫が玉国別一行を救うべく用意して駆けつけた船であった。
玉国別一行は、初稚姫の船に手早く乗り移った。初稚姫は船を渡すと、自分はスマートに乗って湖水に飛び込んだ。たちまち湖水は静けさを取り戻し、初稚姫はどこかへ去って行った。ワックスたちの船は船頭を失い、水面にキリキリ舞いをしている(この後ワックス一味が乗った船の話は第59巻第1章「逆艪」へ続く)。
三千彦、伊太彦は船端を叩きながら愉快気に歌い、意気揚々としてへさきを南に向けて船を走らせる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-12-04 16:50:25 文字数:4371 OBC :rm5807
愛善世界社版:85頁 八幡書店版:第10輯 402頁 修補版: 校定版:92頁 普及版:33頁 初版: ページ備考:
001 玉国別(たまくにわけ)の一行(いつかう)はテルモン湖(こ)の辺(ほとり)に着(つ)いた。002万波(まんぱ)洋々(やうやう)たる紫(むらさき)の水面(すいめん)を或(あるひ)は高(たか)く或(あるひ)は低(ひく)く、003アンボイナが翼(つばさ)を逆八(さかはち)の字(じ)に拡(ひろ)げて「大鳥(おほとり)は羽(はね)を急(いそ)がぬ」と云(い)ふやうな、004鷹揚(おうやう)ぶりを見(み)せ滑走(くわつそう)して居(ゐ)る。005信天翁(あはうどり)、006鵜(う)の群(むれ)は東西(とうざい)南北(なんぼく)に或(あるひ)は百羽(ひやつぱ)、007或(あるひ)は二百羽(にひやつぱ)密集(みつしふ)して羽(はね)を忙(いそが)しさうに一直線(いつちよくせん)に飛(と)んで居(ゐ)る。008水面(すいめん)は凪(ない)だとは云(い)へ、009名(な)に負(お)ふ大湖水(だいこすい)、010幽(かす)かに吹(ふ)く北風(きたかぜ)に煽(あふ)られて七五三(しちごさん)の浪(なみ)が磯辺(いそべ)に鼓(つづみ)をうつて居(ゐ)る。011遠(とほ)く目(め)を放(はな)てば、012白砂(はくしや)青松(せいしよう)の浜(はま)、013左(ひだり)の方(はう)や右(みぎ)の方(はう)に輪廓(りんくわく)正(ただ)しく線(せん)を揃(そろ)へて断(き)りたてたやうに並(なら)んで居(ゐ)る壮絶(さうぜつ)快絶(くわいぜつ)、014心胆(しんたん)を洗(あら)ふが如(ごと)く、015一(ひと)つ島(じま)の諏訪(すは)の湖(みづうみ)もかくやと思(おも)ふ許(ばか)りであつた。016玉国別(たまくにわけ)は万波(まんぱ)洋々(やうやう)たる湖面(こめん)を眺(なが)めて、
017玉国別(たまくにわけ)『打(う)ちよする波(なみ)の鼓(つづみ)の音(ね)も清(きよ)く
018響(ひび)き渡(わた)れり玉国別(たまくにわけ)の耳(みみ)に。
019湖面(うなばら)を右(みぎ)や左(ひだり)に飛(と)びかひつ
020魚(うを)を漁(あさ)るか鵜(う)の鳥(とり)幾群(いくむれ)』
021三千彦(みちひこ)『湖(みづうみ)の岸辺(きしべ)に匂(にほ)ふ燕子花(かきつばた)
022打(う)つ白浪(しらなみ)に擬(まが)ふべらなり』
023真純彦(ますみひこ)『大空(おほぞら)も湖(うみ)の面(おもて)も澄(す)みわたる
024潮(しほ)三千彦(みちひこ)の合(あは)せ鏡(かがみ)か』
025伊太彦(いたひこ)『見渡(みわた)せば雲(くも)か霞(かすみ)か白浪(しらなみ)の
026彼方(あなた)に見(み)ゆる珍(うづ)の松原(まつばら)』
027デビス姫(ひめ)『水(みづ)の面(おも)に浮(うか)びて遊(あそ)ぶ鴛鴦(をしどり)の
028姿(すがた)眺(なが)めて心(こころ)轟(とどろ)く』
029真純彦(ますみひこ)『千代(ちよ)迄(まで)と契(ちぎ)る言葉(ことば)も口籠(くちごも)る
030鴛鴦(をし)の番(つがひ)の若夫婦(わかふうふ)かな』
031玉国別(たまくにわけ)『斎苑(いそ)館(やかた)立(た)ち出(い)でしより山野原(やまのはら)
032のみ渉(わた)りたる目(め)には珍(めづら)し。
033この湖(うみ)の広(ひろ)く深(ふか)くて清(きよ)らけき
034姿(すがた)は瑞(みづ)の御霊(みたま)なるらむ。
035素盞嗚(すさのを)の神(かみ)の尊(みこと)に今(いま)一度(いちど)
036これの景色(けしき)をお目(め)にかけたし。
037村肝(むらきも)の心(こころ)のままになるならば
038この湖(みづうみ)を家苞(いへづと)にせむ。
039皇神(すめかみ)の恵(めぐみ)は深(ふか)し八千尋(やちひろ)の
040底(そこ)ひも知(し)れぬこれの湖(みづうみ)』
041デビス姫(ひめ)『如何(いか)にして此(この)湖水(みづうみ)を渡(わた)らむか
042頼(たよ)る船(ふね)なき今日(けふ)の旅立(たびだち)』
043真純彦(ますみひこ)『唯(ただ)一人(ひとり)玉(たま)の御船(みふね)を抱(かか)へつつ
044現(あ)れます女神(めがみ)のデビス姫(ひめ)あはれ』
045デビス姫(ひめ)『此(この)船(ふね)は世人(よびと)を乗(の)する船(ふね)ならず
046吾(わが)背(せ)の君(きみ)の専有物(せんいうぶつ)ぞや。
047湖(みづうみ)の辺(ほとり)を漁(あさ)り烏貝(からすがひ)
048拾(ひろ)ひて船(ふね)にかへむとぞ思(おも)ふ』
049三千彦(みちひこ)『アンボイナ翼(つばさ)に乗(の)りて易々(やすやす)と
050神(かみ)のまにまに過(よぎ)り行(ゆ)かまし』
051伊太彦(いたひこ)『いつ迄(まで)か心(こころ)を苦(くる)しめ悩(なや)むとも
052渡(わた)る術(すべ)なし遠(とほ)き浪路(なみぢ)を』
053 かく一行(いつかう)五(ご)人(にん)は湖畔(こはん)に立(た)つて下(くだ)らぬ歌(うた)を詠(よ)み乍(なが)ら、054如何(いか)にしてこの湖水(こすい)を渡(わた)らむかと稍(やや)当惑(たうわく)の体(てい)であつた。055かかる処(ところ)へ一艘(いつさう)の漁船(ぎよせん)、056矢(や)を射(い)る如(ごと)く走(はし)り来(きた)る。057一行(いつかう)は救(すく)ひの船(ふね)の到来(たうらい)と、058望(のぞ)みを抱(いだ)いて船(ふね)の此方(こなた)に到着(たうちやく)するを待(ま)つて居(ゐ)た。059船頭(せんどう)は、060拍子(ひやうし)の抜(ぬ)けた声(こゑ)で、
061船頭(せんどう)『オイ、062お前(まへ)達(たち)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)と見(み)えるが、063此(この)湖(みづうみ)を渡(わた)る積(つも)りか。064ハルナの都(みやこ)の大黒主(おほくろぬし)の神(かみ)様(さま)から、065吾々(われわれ)は沢山(たくさん)のお手当(てあて)を頂(いただ)いて……三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が此処(ここ)へ来(き)たならば決(けつ)して渡(わた)してはならない……と厳(きび)しき命令(めいれい)を受(う)けて居(ゐ)るのだ。066渡(わた)し度(た)うても渡(わた)してやる事(こと)は出来(でき)ない。067ぢやと云(い)ふて一(いち)枚(まい)の紙(かみ)にも裏表(うらおもて)があるものだ。068海(うみ)には船(ふね)、069水(みづ)には空気(くうき)、070男(をとこ)には女(をんな)だ、071鑿(のみ)には槌(つち)、072硯(すずり)には墨(すみ)と昔(むかし)からちやんと定(きま)つて居(ゐ)る。073お前(まへ)の出(で)やうによつては渡(わた)してやらぬ事(こと)もない事(こと)もない。074どうする積(つ)もりだ。075いつ迄(まで)も溺死(できし)よけの石地蔵(いしぢざう)のやうに湖水(こすい)を眺(なが)めて永久(えいきう)に立(た)つて居(を)る積(つもり)か。076返答(へんたふ)が無(な)ければこの船(ふね)を又(また)彼方(あつち)に持(も)つて行(ゆ)くから、077何(なん)とか考(かんが)へたがよからうぞ』
078伊太彦(いたひこ)『オイ船頭(せんどう)、079そんな事(こと)云(い)つても要領(えうりやう)が分(わか)らぬぢやないか。080表向(おもてむき)渡(わた)す事(こと)は出来(でき)ないが、081沢山(たくさん)の金(かね)を呉(く)れたら、082渡(わた)さうと云(い)ふのだらう、083そんなら分(わか)つて居(ゐ)る。084幾何(いくら)でもやるから向岸(むかふぎし)迄(まで)早(はや)く渡(わた)して呉(く)れ』
085船頭(せんどう)『何(なん)と云(い)つてもこの湖水(こすい)は南北(なんぽく)二百(にひやく)里(り)もあるのだから、086ちよつくら一寸(ちよつと)渡(わた)る訳(わけ)には行(ゆ)かぬ。087お前(まへ)達(たち)を乗(の)せた以上(いじやう)は、088飯(めし)も食(く)はしてやらねばならず、089何程(なにほど)急(いそ)いでも十日(とをか)はかかるのだから、090余程(よつぽど)沢山(たくさん)貰(もら)はなければ引(ひ)き合(あ)はないのだ。091後(あと)の喧嘩(けんくわ)を前(さき)にして置(お)かなくつては、092向(むか)ふへ着(つ)いてから、093高(たか)いの安(やす)いのと云(い)はれては詮(つま)らぬからのう[※「詮」は底本通り。「詰」の誤字か?]』
094玉国別(たまくにわけ)『幾何(いくら)でもやるから、095早(はや)く船(ふね)を出(だ)して呉(く)れ』
096船頭(せんどう)『そんなら百(ひやく)両(りやう)呉(く)れますか、097五(ご)人(にん)さまと犬(いぬ)一匹(いつぴき)だから平均(へいきん)二十(にじふ)両(りやう)にもなりませぬ。098安(やす)いものでせう』
099玉国(たまくに)『一(いち)両(りやう)出(だ)せばお米(こめ)が一石(いつこく)あるぢやないか、100百(ひやく)両(りやう)とはちと高(たか)いぢやないか』
101船頭(せんどう)『高(たか)けりや止(や)めとこかい、102左様(さやう)なら』
103と早(はや)くも櫓(ろ)を漕(こ)いで立(た)ち去(さ)る勢(いきほひ)を見(み)せる。104デビス姫(ひめ)は逃(に)げられては大変(たいへん)と気(き)を焦(いら)ち、
105デビス『船頭(せんどう)さま、106望(のぞ)み通(どほ)り百(ひやく)両(りやう)上(あ)げます。107何卒(どうぞ)早(はや)く向(むかふ)へ渡(わた)して下(くだ)さい』
108船頭(せんどう)『ヤ有難(ありがた)い、109お前(まへ)は神館(かむやかた)のお姫(ひめ)さまだな。110こんな好(よ)い男(をとこ)と、111どこかへ駆落(かけおち)をするのだらう。112百(ひやく)両(りやう)は安(やす)いものだ。113もう百(ひやく)両(りやう)出(だ)しなさい。114さうすれば、115お前(まへ)さまがこの湖(みづうみ)を渡(わた)つて駆落(かけおち)をしたと云(い)ふ事(こと)を隠(かく)して上(あ)げる。116口止料(くちどめれう)として百(ひやく)両(りやう)は安(やす)いものだらう』
117デビス『エエ仕方(しかた)が厶(ござ)いませぬ、118望(のぞ)み通(どほ)り上(あ)げるから早(はや)く乗(の)せて下(くだ)さい』
119 船頭(せんどう)はニコニコし乍(なが)ら船(ふね)を横付(よこづけ)にした。120五(ご)人(にん)はスマートと共(とも)に早(はや)くも飛(と)びのつた。
121 折(をり)しもそよそよと吹(ふ)く北風(きたかぜ)に白帆(しらほ)をあげ、122少時(しばし)湖面(こめん)をスルスルと辷(すべ)つて行(ゆ)く。123船頭(せんどう)は艫(とも)に立(た)ち櫓(ろ)を手(て)に握(にぎ)りながら、124風(かぜ)に破(やぶ)つた太(ふと)い喉(のど)から、125透通(すきとほ)るやうな声(こゑ)を出(だ)して欵乃(ふなうた)を唄(うた)ひ出(だ)した。
126『此処(ここ)はアーエー
127天竺(あまぎ)のーテルモン湖水(こすい)
128渡(わた)るもー嬉(うれ)しいーやあ、夫婦(めをと)連(づ)れエー
129月(つき)のオーエー
130国(くに)にはア、名所(めいしよ)がアー厶(ござ)るウー
131ハルナーアのーエー
132都(みやこ)のオーー、蓮(はす)の池(いけ)
133浪(なみ)はアー、うつうつー、鼓(つづみ)のオー音(ね)か
134但(ただ)し竜宮(りうぐう)のオー、乙姫(おとひめ)かアー』
135と唄(うた)ひ乍(なが)ら、136追々(おひおひ)岸(きし)を離(はな)れて、137南(みなみ)へ南(みなみ)へと一直線(いつちよくせん)に進(すす)んで行(ゆ)く。138次第(しだい)々々(しだい)に乗(の)り場(ば)の老松(おいまつ)は姿(すがた)小(ちひ)さくなり、139テルモン山(ざん)の頂(いただ)きは却(かへつ)て高(たか)く見(み)えて来(き)た。140此(この)時(とき)船(ふね)の底(そこ)より現(あら)はれ出(い)でた四(よ)人(にん)の荒男(あらをとこ)、141体(からだ)一面(いちめん)網襦袢(あみじゆばん)や網(あみ)ズボンを着(ちやく)し、142大刀(だいたう)を提(ひつさ)げて五(ご)人(にん)の前(まへ)に進(すす)み来(きた)り、143嫌(いや)らしき笑(ゑみ)を浮(うか)べ睨(ね)めつけて居(ゐ)る。144これはワックス、145エキス、146ヘルマン、147エルの四(よ)人(にん)がこの湖上(こじやう)にて恨(うらみ)を晴(は)らさむと、148故意(わざ)とに船頭(せんどう)に沢山(たくさん)の金(かね)を与(あた)へ湖水(こすい)の中央(まんなか)にて五(ご)人(にん)の男女(なんによ)を斬(き)り殺(ころ)さむと企(たく)んだ仕事(しごと)である。
149ワックス『ヤア珍(めづ)らしや三千彦(みちひこ)、150其(その)外(ほか)三五教(あななひけう)の魔法使(まはふづかひ)、151並(ならび)に吾々(われわれ)に恥(はぢ)を掻(か)かしたデビス姫(ひめ)の阿魔(あま)つ女(ちよ)。152よくまア吾々(われわれ)の計略(けいりやく)に釣(つ)られよつたな。153最早(もはや)此処(ここ)迄(まで)釣(つ)り出(だ)した以上(いじやう)は、154如何(いか)に神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の魔法(まはふ)を使(つか)ふとも逃(のが)るる事(こと)は出来(でき)まい。155サア是(これ)から吾々(われわれ)四(よ)人(にん)が汝(きさま)等(たち)を青竜刀(せいりようとう)の錆(さび)となし呉(く)れむ。156又(また)この犬畜生(いぬちくしやう)も湖(みづうみ)の上(うへ)では如何(いかん)ともする事(こと)が出来(でき)まい。157何(いづ)れも観念(くわんねん)を致(いた)したがよからう。158此(この)船底(ふなぞこ)には数十(すうじふ)人(にん)の荒男(あらをとこ)が隠(かく)してあれば、159ヂタバタ致(いた)してももう駄目(だめ)だ。160デビス姫(ひめ)を潔(いさぎよ)く此(この)方(はう)に渡(わた)して、161其(その)方(はう)はこの湖水(こすい)に身(み)を投(な)げて往生(わうじやう)いたすか。162左(さ)もなければ気(き)の毒(どく)ながら吾々(われわれ)が刀(かたな)の錆(さび)にして呉(く)れる。163ても、164さても鈍馬(とんま)野郎(やらう)だなア』
165 玉国別(たまくにわけ)は平然(へいぜん)として些(すこし)も騒(さわ)がず、166天(あま)の数歌(かずうた)を奏上(そうじやう)し始(はじ)めた。167如何(いかが)はしけむ、168俄(にはか)に暴風(ばうふう)吹(ふ)き来(きた)り、169山岳(さんがく)のやうな浪(なみ)猛(たけ)り狂(くる)ひ、170船(ふね)は木(こ)の葉(は)を散(ち)らすが如(ごと)く、171前後(ぜんご)左右(さいう)に動揺(どうえう)し初(はじ)めた。172遉(さすが)のワックス以下(いか)の悪人(あくにん)も身(み)の置所(おきどころ)なき船(ふね)の動揺(どうえう)につれて右(みぎ)にコロコロ、173左(ひだり)にコロコロ、174きねぐそを糠(ぬか)にまぶしたやうにごろつき初(はじ)めた。175遉(さすが)の玉国別(たまくにわけ)も余(あま)り激(はげ)しき船(ふね)の動揺(どうえう)に眼(まなこ)眩(くら)みむかづきさうになつて来(き)た。176敵味方(てきみかた)の区別(くべつ)なく一生(いつしやう)懸命(けんめい)に叶(かな)はぬ時(とき)の神頼(かみだの)み、177口(くち)の奥(おく)にて祈(いの)つて居(ゐ)る。178船頭(せんどう)は船(ふね)の動揺(どうえう)した機(はづみ)に櫓(ろ)のつかに撥(はね)られ、179もんどり打(う)つて荒狂(あれくる)ふ荒浪(あらなみ)の中(なか)にドンブと許(ばか)り投(な)げつけられ、180石(いし)の地蔵(ぢざう)を投(ほ)り込(こ)んだやうに、181ブルブルとも何(なん)とも云(い)はずに湖底(こてい)深(ふか)く沈(しづ)んで仕舞(しま)つた。182斯(かか)る所(ところ)へ一艘(いつさう)の船(ふね)、183七八(しちはち)人(にん)の若者(わかもの)一生(いつしやう)懸命(けんめい)に櫂(かい)を漕(こ)ぎながら、184此方(こなた)を目蒐(めが)けて馳来(はせきた)る。185見(み)れば三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)初稚姫(はつわかひめ)が、186斯(か)くあらむ事(こと)を予期(よき)し、187島陰(しまかげ)に隠(かく)れて待(ま)つて居(ゐ)たのである。188初稚姫(はつわかひめ)は舷頭(げんとう)に立(た)ち現(あら)はれ、
189初稚(はつわか)『玉国別(たまくにわけ)さま、190御(ご)一同(いちどう)さま、191サア早(はや)く此(この)船(ふね)にお乗(の)り下(くだ)さい、192此(この)船(ふね)なれば如何(いか)なる荒浪(あらなみ)も大丈夫(だいぢやうぶ)です』
193 一同(いちどう)は、194救(すく)ひの船(ふね)と拍手(はくしゆ)感謝(かんしや)し乍(なが)ら手早(てばや)く乗(の)り移(うつ)つた。195八(はち)人(にん)の水夫(かこ)は荒浪(あらなみ)を乗(の)り切(き)り、196驀地(まつしぐら)にすうすうと進(すす)み行(ゆ)く。197スマートはザンブと許(ばか)り飛(と)び込(こ)んだ。198初稚姫(はつわかひめ)も亦(また)ザンブと許(ばか)り飛(と)び込(こ)み、199スマートに跨(またが)り湖面(こめん)を泳(およ)ぎ出(だ)した。200忽(たちま)ち荒波(あらなみ)は鎮(おさ)まり、201油(あぶら)を流(なが)したる如(ごと)き鏡(かがみ)の湖(みづうみ)と化(くわ)して仕舞(しま)つた。202初稚姫(はつわかひめ)は矢(や)を射(い)る如(ごと)くスマートに跨(またが)り、203見(み)る見(み)る其(その)姿(すがた)は一行(いつかう)の視線(しせん)を離(はな)れて仕舞(しま)つた。204ワックスの乗(の)つて居(ゐ)た大船(おほふね)は肝腎(かんじん)の船頭(せんどう)を失(うしな)ひ、205櫓(ろ)を操(あやつ)る事(こと)を知(し)らず、206歯(は)がみをしながら水面(すいめん)にキリキリ舞(まひ)をやつて居(ゐ)る。207三千彦(みちひこ)、208伊太彦(いたひこ)は舷(ふなばた)を叩(たた)き愉快(ゆくわい)げに歌(うた)ひ乍(なが)ら舳(へさき)を南(みなみ)に向(む)け微風(びふう)に帆(ほ)を孕(はら)ませ走(はし)り行(ゆ)く。
209三千彦(みちひこ)『此処(ここ)は名(な)に負(お)ふテルモン湖(こ)
210東西(とうざい)百(ひやく)里(り)南北(なんぽく)は
211二百(にひやく)里(り)ありと聞(き)き及(およ)ぶ
212神(かみ)の使(つかひ)の宣伝使(せんでんし)
213テルモン館(やかた)を後(あと)にして
214足許(あしもと)辷(すべ)る坂道(さかみち)を
215漸(やうや)う下(くだ)り来(き)て見(み)れば
216金波(きんぱ)銀波(ぎんぱ)の漂(ただよ)へる
217大海原(おほうなばら)の右左(みぎひだり)
218パインの林(はやし)は立(た)ち並(なら)び
219金砂(きんしや)銀砂(ぎんしや)は日光(につくわう)に
220輝(かがや)きわたる麗(うるは)しさ
221静(しづ)かな浪(なみ)は舷(ふなばた)に
222押(お)し寄(よ)せ来(きた)り鼓(つづみ)打(う)つ
223ああ天国(てんごく)か楽園(らくゑん)か
224譬(たとへ)がたなき風景(ふうけい)ぞ
225待(ま)つ間(ま)程(ほど)なく一艘(いつさう)の
226老朽船(らうきうせん)が現(あら)はれて
227吾(われ)等(ら)一行(いつかう)を乗(の)せながら
228南(みなみ)へ南(みなみ)へと進(すす)む折(をり)
229忽(たちま)ちワックス船底(せんてい)より
230現(あら)はれ来(きた)り大刀(だいたう)を
231引(ひ)き抜(ぬ)き吾(われ)等(ら)一行(いつかう)を
232力(ちから)限(かぎ)りに脅迫(けふはく)し
233暴逆(ばうぎやく)無道(ぶだう)の手(て)を下(くだ)し
234恋(こひ)の恨(うらみ)を晴(は)らさむと
235湖(みづうみ)の如(ごと)き巻舌(まきじた)を
236並(なら)べてゴロつく折(をり)もあれ
237俄(にはか)に吹(ふ)き来(く)る湖嵐(うなあらし)
238前後(ぜんご)左右(さいう)に吹(ふ)きまくり
239小山(こやま)のやうな浪(なみ)を立(た)て
240瞬(またた)く中(うち)に船体(せんたい)は
241風(かぜ)に木(こ)の葉(は)の散(ち)る如(ごと)く
242危(あやふ)さ刻々(こくこく)増(まし)来(きた)り
243櫓(ろ)を操(あやつ)りし船頭(せんどう)は
244撥(は)ね飛(と)ばされて無慙(むざん)にも
245湖(うみ)の藻屑(もくづ)となり果(は)てぬ
246遉(さすが)無道(ぶだう)のワックスや
247其(その)他(た)三人(みたり)の悪漢(わるもの)も
248激(はげ)しき颶風(ぐふう)に敵(てき)しかね
249右(みぎ)や左(ひだり)にヨロヨロと
250転(ころ)げ廻(まは)りしおかしさよ
251吾(わが)師(し)の君(きみ)を初(はじめ)とし
252吾(われ)等(ら)一行(いつかう)も船体(せんたい)を
253揺(ゆ)られて苦(くる)しむ時(とき)もあれ
254左手(ゆんで)に浮(うか)ぶ島(しま)の陰(かげ)
255現(あら)はれ来(きた)る一艘(いつさう)の
256船(ふね)は此方(こなた)に竜(りう)の如(ごと)く
257進(すす)み来(きた)るぞ不思議(ふしぎ)なれ
258吾(われ)等(ら)は愁眉(しうび)を開(ひら)きつつ
259こは何人(なにびと)の船(ふね)なると
260瞳(ひとみ)を据(す)ゑてよく見(み)れば
261豈(あに)計(はか)らむや三五(あななひ)の
262教(をしへ)の道(みち)に名(な)も高(たか)き
263初稚姫(はつわかひめ)の御(おん)姿(すがた)
264吾(われ)等(ら)が危難(きなん)を救(すく)はむと
265目無(めなし)堅間(かたま)の御船(みふね)をば
266用意(ようい)遊(あそ)ばし玉(たま)ひしと
267聞(き)くより嬉(うれ)しさ限(かぎ)りなく
268感謝(かんしや)の涙(なみだ)止(と)めあへず
269ヒラリと船(ふね)に飛(と)び乗(の)れば
270今(いま)迄(まで)吾(われ)等(ら)を助(たす)けたる
271神(かみ)の司(つかさ)のスマートは
272ザンブと許(ばか)り浪(なみ)の上(うへ)
273身(み)を躍(をど)らして飛(と)び込(こ)みぬ
274あはやと思(おも)ふ暇(ひま)もなく
275初稚姫(はつわかひめ)は忽(たちま)ちに
276其(その)身(み)を湖面(こめん)に投(な)げながら
277スマートの背(せな)に跨(またが)りて
278矢(や)を射(い)る如(ごと)く出(い)でたまふ
279ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
280神(かみ)の変化(へんげ)か神人(しんじん)か
281唯(ただ)しは誠(まこと)の三五(あななひ)の
282初稚姫(はつわかひめ)のお姿(すがた)か
283合点(がてん)の行(ゆ)かぬ御(おん)救(すく)ひ
284嬉(うれ)しく感謝(かんしや)し奉(たてまつ)る
285後(あと)振(ふ)り返(かへ)り眺(なが)むれば
286今(いま)迄(まで)乗(の)り来(き)しぼろ船(ふね)は
287肝腎要(かんじんかなめ)の船頭(せんどう)を
288浪(なみ)に呑(の)まれて操縦(さうじう)の
289機関(きくわん)を失(うしな)ひ浪(なみ)の上(うへ)
290クルクルクルと回転(くわいてん)し
291進(すす)みなやむぞ可笑(をか)しけれ
292旭(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
293月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
294仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
295如何(いか)なる嵐(あらし)が吹(ふ)くとても
296誠(まこと)一(ひと)つの三五(あななひ)の
297神(かみ)に任(まか)せし吾々(われわれ)は
298まさかの時(とき)の救(たす)け舟(ぶね)
299天(てん)より下(くだ)し玉(たま)ふなり
300ああ尊(たふと)しや有難(ありがた)や
301神(かみ)は汝(なんぢ)と共(とも)にあり
302人(ひと)は神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
303恐(おそ)るるためしは要(い)らないと
304諭(さと)し給(たま)ひし三五(あななひ)の
305教(をしへ)を今更(いまさら)目(ま)の当(あた)り
306知(し)るぞ嬉(うれ)しき湖(うみ)の上(うへ)
307千尋(ちひろ)の深(ふか)き御(おん)恵(めぐみ)
308必(かなら)ず忘(わす)れまつらむや
309弘誓(ぐぜい)の船(ふね)に帆(ほ)を上(あ)げて
310涼(すず)しき風(かぜ)に吹(ふ)かれつつ
311夏(なつ)の央(なかば)と云(い)ひ乍(なが)ら
312ハルナの都(みやこ)に進(すす)み行(ゆ)く
313ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
314御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
315と歌(うた)ひ乍(なが)ら意気(いき)揚々(やうやう)として際限(さいげん)もなき湖水(こすい)を進(すす)み行(ゆ)く。316ああ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
317(大正一二・三・二八 旧二・一二 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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