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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第58巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 玉石混淆
第1章 神風
第2章 多数尻
第3章 怪散
第4章 銅盥
第5章 潔別
第2篇 湖上神通
第6章 茶袋
第7章 神船
第8章 孤島
第9章 湖月
第3篇 千波万波
第10章 報恩
第11章 欵乃
第12章 素破抜
第13章 兎耳
第14章 猩々島
第15章 哀別
第16章 聖歌
第17章 怪物
第18章 船待
第4篇 猩々潔白
第19章 舞踏
第20章 酒談
第21章 館帰
第22章 獣婚
第23章 昼餐
第24章 礼祭
第25章 万歳楽
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霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
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第58巻(酉の巻)
> 第2篇 湖上神通 > 第7章 神船
<<< 茶袋
(B)
(N)
孤島 >>>
第七章
神船
(
しんせん
)
〔一四八二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻
篇:
第2篇 湖上神通
よみ(新仮名遣い):
こじょうじんつう
章:
第7章 神船
よみ(新仮名遣い):
しんせん
通し章番号:
1482
口述日:
1923(大正12)年03月28日(旧02月12日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玉国別一行は洋々たる湖面を眺めて互いに述懐の歌を歌った。そして五人は湖畔に立ち、いかにしてこの湖水を渡ろうかと当惑していた。
すると一艘の漁船がやってきた。船頭は、三五教徒は乗せてはならいと大黒主のお達しだが、二百両の金をくれるなら渡してやろう、と一向に持ちかけた。一行は仕方なく承諾し、乗船した。
船が岸を離れると、船の底から武装したワックス、エキス、ヘルマン、エルが現れた。彼らは三千彦たちに怨みをはらそうと船頭を買収して計略を企んだのであった。
ワックスは居丈高に、湖上では魔法もきくまいと啖呵をきった。玉国別は平然として天の数歌を奏上し始めた。するとにわかに暴風が起こり、山岳のような波が猛って、敵も味方も船内をごろつきはじめてしまった。
船頭はもんどり打って荒波に投げつけられ、そのまま湖底に沈んで行ってしまった。そこへ一艘の船が近づいてきた。それは三五教の初稚姫が玉国別一行を救うべく用意して駆けつけた船であった。
玉国別一行は、初稚姫の船に手早く乗り移った。初稚姫は船を渡すと、自分はスマートに乗って湖水に飛び込んだ。たちまち湖水は静けさを取り戻し、初稚姫はどこかへ去って行った。ワックスたちの船は船頭を失い、水面にキリキリ舞いをしている。
三千彦、伊太彦は船端を叩きながら愉快気に歌い、意気揚々としてへさきを南に向けて船を走らせる。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5807
愛善世界社版:
85頁
八幡書店版:
第10輯 402頁
修補版:
校定版:
92頁
普及版:
33頁
初版:
ページ備考:
001
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
はテルモン
湖
(
こ
)
の
辺
(
ほとり
)
に
着
(
つ
)
いた。
002
万波
(
まんぱ
)
洋々
(
やうやう
)
たる
紫
(
むらさき
)
の
水面
(
すいめん
)
を
或
(
あるひ
)
は
高
(
たか
)
く
或
(
あるひ
)
は
低
(
ひく
)
く、
003
アンボイナが
翼
(
つばさ
)
を
逆八
(
さかはち
)
の
字
(
じ
)
に
拡
(
ひろ
)
げて「
大鳥
(
おほとり
)
は
羽
(
はね
)
を
急
(
いそ
)
がぬ」と
云
(
い
)
ふやうな、
004
鷹揚
(
おうやう
)
ぶりを
見
(
み
)
せ
滑走
(
くわつそう
)
して
居
(
ゐ
)
る。
005
信天翁
(
あはうどり
)
、
006
鵜
(
う
)
の
群
(
むれ
)
は
東西
(
とうざい
)
南北
(
なんぼく
)
に
或
(
あるひ
)
は
百羽
(
ひやつぱ
)
、
007
或
(
あるひ
)
は
二百羽
(
にひやつぱ
)
密集
(
みつしふ
)
して
羽
(
はね
)
を
忙
(
いそが
)
しさうに
一直線
(
いつちよくせん
)
に
飛
(
と
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
008
水面
(
すいめん
)
は
凪
(
ない
)
だとは
云
(
い
)
へ、
009
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふ
大湖水
(
だいこすい
)
、
010
幽
(
かす
)
かに
吹
(
ふ
)
く
北風
(
きたかぜ
)
に
煽
(
あふ
)
られて
七五三
(
しちごさん
)
の
浪
(
なみ
)
が
磯辺
(
いそべ
)
に
鼓
(
つづみ
)
をうつて
居
(
ゐ
)
る。
011
遠
(
とほ
)
く
目
(
め
)
を
放
(
はな
)
てば、
012
白砂
(
はくしや
)
青松
(
せいしよう
)
の
浜
(
はま
)
、
013
左
(
ひだり
)
の
方
(
はう
)
や
右
(
みぎ
)
の
方
(
はう
)
に
輪廓
(
りんくわく
)
正
(
ただ
)
しく
線
(
せん
)
を
揃
(
そろ
)
へて
断
(
き
)
りたてたやうに
並
(
なら
)
んで
居
(
ゐ
)
る
壮絶
(
さうぜつ
)
快絶
(
くわいぜつ
)
、
014
心胆
(
しんたん
)
を
洗
(
あら
)
ふが
如
(
ごと
)
く、
015
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
の
諏訪
(
すは
)
の
湖
(
みづうみ
)
もかくやと
思
(
おも
)
ふ
許
(
ばか
)
りであつた。
016
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
万波
(
まんぱ
)
洋々
(
やうやう
)
たる
湖面
(
こめん
)
を
眺
(
なが
)
めて、
017
玉国別
(
たまくにわけ
)
『
打
(
う
)
ちよする
波
(
なみ
)
の
鼓
(
つづみ
)
の
音
(
ね
)
も
清
(
きよ
)
く
018
響
(
ひび
)
き
渡
(
わた
)
れり
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
耳
(
みみ
)
に。
019
湖面
(
うなばら
)
を
右
(
みぎ
)
や
左
(
ひだり
)
に
飛
(
と
)
びかひつ
020
魚
(
うを
)
を
漁
(
あさ
)
るか
鵜
(
う
)
の
鳥
(
とり
)
幾群
(
いくむれ
)
』
021
三千彦
(
みちひこ
)
『
湖
(
みづうみ
)
の
岸辺
(
きしべ
)
に
匂
(
にほ
)
ふ
燕子花
(
かきつばた
)
022
打
(
う
)
つ
白浪
(
しらなみ
)
に
擬
(
まが
)
ふべらなり』
023
真純彦
(
ますみひこ
)
『
大空
(
おほぞら
)
も
湖
(
うみ
)
の
面
(
おもて
)
も
澄
(
す
)
みわたる
024
潮
(
しほ
)
三千彦
(
みちひこ
)
の
合
(
あは
)
せ
鏡
(
かがみ
)
か』
025
伊太彦
(
いたひこ
)
『
見渡
(
みわた
)
せば
雲
(
くも
)
か
霞
(
かすみ
)
か
白浪
(
しらなみ
)
の
026
彼方
(
あなた
)
に
見
(
み
)
ゆる
珍
(
うづ
)
の
松原
(
まつばら
)
』
027
デビス
姫
(
ひめ
)
『
水
(
みづ
)
の
面
(
おも
)
に
浮
(
うか
)
びて
遊
(
あそ
)
ぶ
鴛鴦
(
をしどり
)
の
028
姿
(
すがた
)
眺
(
なが
)
めて
心
(
こころ
)
轟
(
とどろ
)
く』
029
真純彦
(
ますみひこ
)
『
千代
(
ちよ
)
迄
(
まで
)
と
契
(
ちぎ
)
る
言葉
(
ことば
)
も
口籠
(
くちごも
)
る
030
鴛鴦
(
をし
)
の
番
(
つがひ
)
の
若夫婦
(
わかふうふ
)
かな』
031
玉国別
(
たまくにわけ
)
『
斎苑
(
いそ
)
館
(
やかた
)
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
でしより
山野原
(
やまのはら
)
032
のみ
渉
(
わた
)
りたる
目
(
め
)
には
珍
(
めづら
)
し。
033
この
湖
(
うみ
)
の
広
(
ひろ
)
く
深
(
ふか
)
くて
清
(
きよ
)
らけき
034
姿
(
すがた
)
は
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
なるらむ。
035
素盞嗚
(
すさのを
)
の
神
(
かみ
)
の
尊
(
みこと
)
に
今
(
いま
)
一度
(
いちど
)
036
これの
景色
(
けしき
)
をお
目
(
め
)
にかけたし。
037
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
のままになるならば
038
この
湖
(
みづうみ
)
を
家苞
(
いへづと
)
にせむ。
039
皇神
(
すめかみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
は
深
(
ふか
)
し
八千尋
(
やちひろ
)
の
040
底
(
そこ
)
ひも
知
(
し
)
れぬこれの
湖
(
みづうみ
)
』
041
デビス
姫
(
ひめ
)
『
如何
(
いか
)
にして
此
(
この
)
湖水
(
みづうみ
)
を
渡
(
わた
)
らむか
042
頼
(
たよ
)
る
船
(
ふね
)
なき
今日
(
けふ
)
の
旅立
(
たびだち
)
』
043
真純彦
(
ますみひこ
)
『
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
玉
(
たま
)
の
御船
(
みふね
)
を
抱
(
かか
)
へつつ
044
現
(
あ
)
れます
女神
(
めがみ
)
のデビス
姫
(
ひめ
)
あはれ』
045
デビス
姫
(
ひめ
)
『
此
(
この
)
船
(
ふね
)
は
世人
(
よびと
)
を
乗
(
の
)
する
船
(
ふね
)
ならず
046
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
の
専有物
(
せんいうぶつ
)
ぞや。
047
湖
(
みづうみ
)
の
辺
(
ほとり
)
を
漁
(
あさ
)
り
烏貝
(
からすがひ
)
048
拾
(
ひろ
)
ひて
船
(
ふね
)
にかへむとぞ
思
(
おも
)
ふ』
049
三千彦
(
みちひこ
)
『アンボイナ
翼
(
つばさ
)
に
乗
(
の
)
りて
易々
(
やすやす
)
と
050
神
(
かみ
)
のまにまに
過
(
よぎ
)
り
行
(
ゆ
)
かまし』
051
伊太彦
(
いたひこ
)
『いつ
迄
(
まで
)
か
心
(
こころ
)
を
苦
(
くる
)
しめ
悩
(
なや
)
むとも
052
渡
(
わた
)
る
術
(
すべ
)
なし
遠
(
とほ
)
き
浪路
(
なみぢ
)
を』
053
かく
一行
(
いつかう
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
湖畔
(
こはん
)
に
立
(
た
)
つて
下
(
くだ
)
らぬ
歌
(
うた
)
を
詠
(
よ
)
み
乍
(
なが
)
ら、
054
如何
(
いか
)
にしてこの
湖水
(
こすい
)
を
渡
(
わた
)
らむかと
稍
(
やや
)
当惑
(
たうわく
)
の
体
(
てい
)
であつた。
055
かかる
処
(
ところ
)
へ
一艘
(
いつさう
)
の
漁船
(
ぎよせん
)
、
056
矢
(
や
)
を
射
(
い
)
る
如
(
ごと
)
く
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
る。
057
一行
(
いつかう
)
は
救
(
すく
)
ひの
船
(
ふね
)
の
到来
(
たうらい
)
と、
058
望
(
のぞ
)
みを
抱
(
いだ
)
いて
船
(
ふね
)
の
此方
(
こなた
)
に
到着
(
たうちやく
)
するを
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
059
船頭
(
せんどう
)
は、
060
拍子
(
ひやうし
)
の
抜
(
ぬ
)
けた
声
(
こゑ
)
で、
061
船頭
(
せんどう
)
『オイ、
062
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
と
見
(
み
)
えるが、
063
此
(
この
)
湖
(
みづうみ
)
を
渡
(
わた
)
る
積
(
つも
)
りか。
064
ハルナの
都
(
みやこ
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から、
065
吾々
(
われわれ
)
は
沢山
(
たくさん
)
のお
手当
(
てあて
)
を
頂
(
いただ
)
いて……
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
此処
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
たならば
決
(
けつ
)
して
渡
(
わた
)
してはならない……と
厳
(
きび
)
しき
命令
(
めいれい
)
を
受
(
う
)
けて
居
(
ゐ
)
るのだ。
066
渡
(
わた
)
し
度
(
た
)
うても
渡
(
わた
)
してやる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
067
ぢやと
云
(
い
)
ふて
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
の
紙
(
かみ
)
にも
裏表
(
うらおもて
)
があるものだ。
068
海
(
うみ
)
には
船
(
ふね
)
、
069
水
(
みづ
)
には
空気
(
くうき
)
、
070
男
(
をとこ
)
には
女
(
をんな
)
だ、
071
鑿
(
のみ
)
には
槌
(
つち
)
、
072
硯
(
すずり
)
には
墨
(
すみ
)
と
昔
(
むかし
)
からちやんと
定
(
きま
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
073
お
前
(
まへ
)
の
出
(
で
)
やうによつては
渡
(
わた
)
してやらぬ
事
(
こと
)
もない
事
(
こと
)
もない。
074
どうする
積
(
つ
)
もりだ。
075
いつ
迄
(
まで
)
も
溺死
(
できし
)
よけの
石地蔵
(
いしぢざう
)
のやうに
湖水
(
こすい
)
を
眺
(
なが
)
めて
永久
(
えいきう
)
に
立
(
た
)
つて
居
(
を
)
る
積
(
つもり
)
か。
076
返答
(
へんたふ
)
が
無
(
な
)
ければこの
船
(
ふね
)
を
又
(
また
)
彼方
(
あつち
)
に
持
(
も
)
つて
行
(
ゆ
)
くから、
077
何
(
なん
)
とか
考
(
かんが
)
へたがよからうぞ』
078
伊太彦
(
いたひこ
)
『オイ
船頭
(
せんどう
)
、
079
そんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
つても
要領
(
えうりやう
)
が
分
(
わか
)
らぬぢやないか。
080
表向
(
おもてむき
)
渡
(
わた
)
す
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないが、
081
沢山
(
たくさん
)
の
金
(
かね
)
を
呉
(
く
)
れたら、
082
渡
(
わた
)
さうと
云
(
い
)
ふのだらう、
083
そんなら
分
(
わか
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
084
幾何
(
いくら
)
でもやるから
向岸
(
むかふぎし
)
迄
(
まで
)
早
(
はや
)
く
渡
(
わた
)
して
呉
(
く
)
れ』
085
船頭
(
せんどう
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つてもこの
湖水
(
こすい
)
は
南北
(
なんぽく
)
二百
(
にひやく
)
里
(
り
)
もあるのだから、
086
ちよつくら
一寸
(
ちよつと
)
渡
(
わた
)
る
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かぬ。
087
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
を
乗
(
の
)
せた
以上
(
いじやう
)
は、
088
飯
(
めし
)
も
食
(
く
)
はしてやらねばならず、
089
何程
(
なにほど
)
急
(
いそ
)
いでも
十日
(
とをか
)
はかかるのだから、
090
余程
(
よつぽど
)
沢山
(
たくさん
)
貰
(
もら
)
はなければ
引
(
ひ
)
き
合
(
あ
)
はないのだ。
091
後
(
あと
)
の
喧嘩
(
けんくわ
)
を
前
(
さき
)
にして
置
(
お
)
かなくつては、
092
向
(
むか
)
ふへ
着
(
つ
)
いてから、
093
高
(
たか
)
いの
安
(
やす
)
いのと
云
(
い
)
はれては
詮
(
つま
)
らぬからのう
[
※
「詮」は底本通り。「詰」の誤字か?
]
』
094
玉国別
(
たまくにわけ
)
『
幾何
(
いくら
)
でもやるから、
095
早
(
はや
)
く
船
(
ふね
)
を
出
(
だ
)
して
呉
(
く
)
れ』
096
船頭
(
せんどう
)
『そんなら
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
呉
(
く
)
れますか、
097
五
(
ご
)
人
(
にん
)
さまと
犬
(
いぬ
)
一匹
(
いつぴき
)
だから
平均
(
へいきん
)
二十
(
にじふ
)
両
(
りやう
)
にもなりませぬ。
098
安
(
やす
)
いものでせう』
099
玉国
(
たまくに
)
『
一
(
いち
)
両
(
りやう
)
出
(
だ
)
せばお
米
(
こめ
)
が
一石
(
いつこく
)
あるぢやないか、
100
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
とはちと
高
(
たか
)
いぢやないか』
101
船頭
(
せんどう
)
『
高
(
たか
)
けりや
止
(
や
)
めとこかい、
102
左様
(
さやう
)
なら』
103
と
早
(
はや
)
くも
櫓
(
ろ
)
を
漕
(
こ
)
いで
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
る
勢
(
いきほひ
)
を
見
(
み
)
せる。
104
デビス
姫
(
ひめ
)
は
逃
(
に
)
げられては
大変
(
たいへん
)
と
気
(
き
)
を
焦
(
いら
)
ち、
105
デビス『
船頭
(
せんどう
)
さま、
106
望
(
のぞ
)
み
通
(
どほ
)
り
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
上
(
あ
)
げます。
107
何卒
(
どうぞ
)
早
(
はや
)
く
向
(
むかふ
)
へ
渡
(
わた
)
して
下
(
くだ
)
さい』
108
船頭
(
せんどう
)
『ヤ
有難
(
ありがた
)
い、
109
お
前
(
まへ
)
は
神館
(
かむやかた
)
のお
姫
(
ひめ
)
さまだな。
110
こんな
好
(
よ
)
い
男
(
をとこ
)
と、
111
どこかへ
駆落
(
かけおち
)
をするのだらう。
112
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
は
安
(
やす
)
いものだ。
113
もう
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
出
(
だ
)
しなさい。
114
さうすれば、
115
お
前
(
まへ
)
さまがこの
湖
(
みづうみ
)
を
渡
(
わた
)
つて
駆落
(
かけおち
)
をしたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
隠
(
かく
)
して
上
(
あ
)
げる。
116
口止料
(
くちどめれう
)
として
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
は
安
(
やす
)
いものだらう』
117
デビス『エエ
仕方
(
しかた
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬ、
118
望
(
のぞ
)
み
通
(
どほ
)
り
上
(
あ
)
げるから
早
(
はや
)
く
乗
(
の
)
せて
下
(
くだ
)
さい』
119
船頭
(
せんどう
)
はニコニコし
乍
(
なが
)
ら
船
(
ふね
)
を
横付
(
よこづけ
)
にした。
120
五
(
ご
)
人
(
にん
)
はスマートと
共
(
とも
)
に
早
(
はや
)
くも
飛
(
と
)
びのつた。
121
折
(
をり
)
しもそよそよと
吹
(
ふ
)
く
北風
(
きたかぜ
)
に
白帆
(
しらほ
)
をあげ、
122
少時
(
しばし
)
湖面
(
こめん
)
をスルスルと
辷
(
すべ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
123
船頭
(
せんどう
)
は
艫
(
とも
)
に
立
(
た
)
ち
櫓
(
ろ
)
を
手
(
て
)
に
握
(
にぎ
)
りながら、
124
風
(
かぜ
)
に
破
(
やぶ
)
つた
太
(
ふと
)
い
喉
(
のど
)
から、
125
透通
(
すきとほ
)
るやうな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して
欵乃
(
ふなうた
)
を
唄
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
126
『
此処
(
ここ
)
はアーエー
127
天竺
(
あまぎ
)
のーテルモン
湖水
(
こすい
)
128
渡
(
わた
)
るもー
嬉
(
うれ
)
しいーやあ、
夫婦
(
めをと
)
連
(
づ
)
れエー
129
月
(
つき
)
のオーエー
130
国
(
くに
)
にはア、
名所
(
めいしよ
)
がアー
厶
(
ござ
)
るウー
131
ハルナーアのーエー
132
都
(
みやこ
)
のオーー、
蓮
(
はす
)
の
池
(
いけ
)
133
浪
(
なみ
)
はアー、うつうつー、
鼓
(
つづみ
)
のオー
音
(
ね
)
か
134
但
(
ただ
)
し
竜宮
(
りうぐう
)
のオー、
乙姫
(
おとひめ
)
かアー』
135
と
唄
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
136
追々
(
おひおひ
)
岸
(
きし
)
を
離
(
はな
)
れて、
137
南
(
みなみ
)
へ
南
(
みなみ
)
へと
一直線
(
いつちよくせん
)
に
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
138
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
乗
(
の
)
り
場
(
ば
)
の
老松
(
おいまつ
)
は
姿
(
すがた
)
小
(
ちひ
)
さくなり、
139
テルモン
山
(
ざん
)
の
頂
(
いただ
)
きは
却
(
かへつ
)
て
高
(
たか
)
く
見
(
み
)
えて
来
(
き
)
た。
140
此
(
この
)
時
(
とき
)
船
(
ふね
)
の
底
(
そこ
)
より
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でた
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
、
141
体
(
からだ
)
一面
(
いちめん
)
網襦袢
(
あみじゆばん
)
や
網
(
あみ
)
ズボンを
着
(
ちやく
)
し、
142
大刀
(
だいたう
)
を
提
(
ひつさ
)
げて
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
り、
143
嫌
(
いや
)
らしき
笑
(
ゑみ
)
を
浮
(
うか
)
べ
睨
(
ね
)
めつけて
居
(
ゐ
)
る。
144
これはワックス、
145
エキス、
146
ヘルマン、
147
エルの
四
(
よ
)
人
(
にん
)
がこの
湖上
(
こじやう
)
にて
恨
(
うらみ
)
を
晴
(
は
)
らさむと、
148
故意
(
わざ
)
とに
船頭
(
せんどう
)
に
沢山
(
たくさん
)
の
金
(
かね
)
を
与
(
あた
)
へ
湖水
(
こすい
)
の
中央
(
まんなか
)
にて
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男女
(
なんによ
)
を
斬
(
き
)
り
殺
(
ころ
)
さむと
企
(
たく
)
んだ
仕事
(
しごと
)
である。
149
ワックス『ヤア
珍
(
めづ
)
らしや
三千彦
(
みちひこ
)
、
150
其
(
その
)
外
(
ほか
)
三五教
(
あななひけう
)
の
魔法使
(
まはふづかひ
)
、
151
並
(
ならび
)
に
吾々
(
われわれ
)
に
恥
(
はぢ
)
を
掻
(
か
)
かしたデビス
姫
(
ひめ
)
の
阿魔
(
あま
)
つ
女
(
ちよ
)
。
152
よくまア
吾々
(
われわれ
)
の
計略
(
けいりやく
)
に
釣
(
つ
)
られよつたな。
153
最早
(
もはや
)
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
釣
(
つ
)
り
出
(
だ
)
した
以上
(
いじやう
)
は、
154
如何
(
いか
)
に
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
魔法
(
まはふ
)
を
使
(
つか
)
ふとも
逃
(
のが
)
るる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
まい。
155
サア
是
(
これ
)
から
吾々
(
われわれ
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
が
汝
(
きさま
)
等
(
たち
)
を
青竜刀
(
せいりようとう
)
の
錆
(
さび
)
となし
呉
(
く
)
れむ。
156
又
(
また
)
この
犬畜生
(
いぬちくしやう
)
も
湖
(
みづうみ
)
の
上
(
うへ
)
では
如何
(
いかん
)
ともする
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
まい。
157
何
(
いづ
)
れも
観念
(
くわんねん
)
を
致
(
いた
)
したがよからう。
158
此
(
この
)
船底
(
ふなぞこ
)
には
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
が
隠
(
かく
)
してあれば、
159
ヂタバタ
致
(
いた
)
してももう
駄目
(
だめ
)
だ。
160
デビス
姫
(
ひめ
)
を
潔
(
いさぎよ
)
く
此
(
この
)
方
(
はう
)
に
渡
(
わた
)
して、
161
其
(
その
)
方
(
はう
)
はこの
湖水
(
こすい
)
に
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
往生
(
わうじやう
)
いたすか。
162
左
(
さ
)
もなければ
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ながら
吾々
(
われわれ
)
が
刀
(
かたな
)
の
錆
(
さび
)
にして
呉
(
く
)
れる。
163
ても、
164
さても
鈍馬
(
とんま
)
野郎
(
やらう
)
だなア』
165
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
平然
(
へいぜん
)
として
些
(
すこし
)
も
騒
(
さわ
)
がず、
166
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
始
(
はじ
)
めた。
167
如何
(
いかが
)
はしけむ、
168
俄
(
にはか
)
に
暴風
(
ばうふう
)
吹
(
ふ
)
き
来
(
きた
)
り、
169
山岳
(
さんがく
)
のやうな
浪
(
なみ
)
猛
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
ひ、
170
船
(
ふね
)
は
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
を
散
(
ち
)
らすが
如
(
ごと
)
く、
171
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
動揺
(
どうえう
)
し
初
(
はじ
)
めた。
172
遉
(
さすが
)
のワックス
以下
(
いか
)
の
悪人
(
あくにん
)
も
身
(
み
)
の
置所
(
おきどころ
)
なき
船
(
ふね
)
の
動揺
(
どうえう
)
につれて
右
(
みぎ
)
にコロコロ、
173
左
(
ひだり
)
にコロコロ、
174
きねぐそを
糠
(
ぬか
)
にまぶしたやうにごろつき
初
(
はじ
)
めた。
175
遉
(
さすが
)
の
玉国別
(
たまくにわけ
)
も
余
(
あま
)
り
激
(
はげ
)
しき
船
(
ふね
)
の
動揺
(
どうえう
)
に
眼
(
まなこ
)
眩
(
くら
)
みむかづきさうになつて
来
(
き
)
た。
176
敵味方
(
てきみかた
)
の
区別
(
くべつ
)
なく
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
叶
(
かな
)
はぬ
時
(
とき
)
の
神頼
(
かみだの
)
み、
177
口
(
くち
)
の
奥
(
おく
)
にて
祈
(
いの
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
178
船頭
(
せんどう
)
は
船
(
ふね
)
の
動揺
(
どうえう
)
した
機
(
はづみ
)
に
櫓
(
ろ
)
の
つか
に
撥
(
はね
)
られ、
179
もんどり
打
(
う
)
つて
荒狂
(
あれくる
)
ふ
荒浪
(
あらなみ
)
の
中
(
なか
)
にドンブと
許
(
ばか
)
り
投
(
な
)
げつけられ、
180
石
(
いし
)
の
地蔵
(
ぢざう
)
を
投
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んだやうに、
181
ブルブルとも
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
はずに
湖底
(
こてい
)
深
(
ふか
)
く
沈
(
しづ
)
んで
仕舞
(
しま
)
つた。
182
斯
(
かか
)
る
所
(
ところ
)
へ
一艘
(
いつさう
)
の
船
(
ふね
)
、
183
七八
(
しちはち
)
人
(
にん
)
の
若者
(
わかもの
)
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
櫂
(
かい
)
を
漕
(
こ
)
ぎながら、
184
此方
(
こなた
)
を
目蒐
(
めが
)
けて
馳来
(
はせきた
)
る。
185
見
(
み
)
れば
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
初稚姫
(
はつわかひめ
)
が、
186
斯
(
か
)
くあらむ
事
(
こと
)
を
予期
(
よき
)
し、
187
島陰
(
しまかげ
)
に
隠
(
かく
)
れて
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
たのである。
188
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
舷頭
(
げんとう
)
に
立
(
た
)
ち
現
(
あら
)
はれ、
189
初稚
(
はつわか
)
『
玉国別
(
たまくにわけ
)
さま、
190
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
さま、
191
サア
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
船
(
ふね
)
にお
乗
(
の
)
り
下
(
くだ
)
さい、
192
此
(
この
)
船
(
ふね
)
なれば
如何
(
いか
)
なる
荒浪
(
あらなみ
)
も
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
です』
193
一同
(
いちどう
)
は、
194
救
(
すく
)
ひの
船
(
ふね
)
と
拍手
(
はくしゆ
)
感謝
(
かんしや
)
し
乍
(
なが
)
ら
手早
(
てばや
)
く
乗
(
の
)
り
移
(
うつ
)
つた。
195
八
(
はち
)
人
(
にん
)
の
水夫
(
かこ
)
は
荒浪
(
あらなみ
)
を
乗
(
の
)
り
切
(
き
)
り、
196
驀地
(
まつしぐら
)
にすうすうと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
197
スマートはザンブと
許
(
ばか
)
り
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ。
198
初稚姫
(
はつわかひめ
)
も
亦
(
また
)
ザンブと
許
(
ばか
)
り
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み、
199
スマートに
跨
(
またが
)
り
湖面
(
こめん
)
を
泳
(
およ
)
ぎ
出
(
だ
)
した。
200
忽
(
たちま
)
ち
荒波
(
あらなみ
)
は
鎮
(
おさ
)
まり、
201
油
(
あぶら
)
を
流
(
なが
)
したる
如
(
ごと
)
き
鏡
(
かがみ
)
の
湖
(
みづうみ
)
と
化
(
くわ
)
して
仕舞
(
しま
)
つた。
202
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
矢
(
や
)
を
射
(
い
)
る
如
(
ごと
)
くスマートに
跨
(
またが
)
り、
203
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
其
(
その
)
姿
(
すがた
)
は
一行
(
いつかう
)
の
視線
(
しせん
)
を
離
(
はな
)
れて
仕舞
(
しま
)
つた。
204
ワックスの
乗
(
の
)
つて
居
(
ゐ
)
た
大船
(
おほふね
)
は
肝腎
(
かんじん
)
の
船頭
(
せんどう
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
205
櫓
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
る
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
らず、
206
歯
(
は
)
がみをしながら
水面
(
すいめん
)
にキリキリ
舞
(
まひ
)
をひをやつて
居
(
ゐ
)
る。
207
三千彦
(
みちひこ
)
、
208
伊太彦
(
いたひこ
)
は
舷
(
ふなばた
)
を
叩
(
たた
)
き
愉快
(
ゆくわい
)
げに
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
舳
(
へさき
)
を
南
(
みなみ
)
に
向
(
む
)
け
微風
(
びふう
)
に
帆
(
ほ
)
を
孕
(
はら
)
ませ
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
209
三千彦
(
みちひこ
)
『
此処
(
ここ
)
は
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふテルモン
湖
(
こ
)
210
東西
(
とうざい
)
百
(
ひやく
)
里
(
り
)
南北
(
なんぽく
)
は
211
二百
(
にひやく
)
里
(
り
)
ありと
聞
(
き
)
き
及
(
およ
)
ぶ
212
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
213
テルモン
館
(
やかた
)
を
後
(
あと
)
にして
214
足許
(
あしもと
)
辷
(
すべ
)
る
坂道
(
さかみち
)
を
215
漸
(
やうや
)
う
下
(
くだ
)
り
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
216
金波
(
きんぱ
)
銀波
(
ぎんぱ
)
の
漂
(
ただよ
)
へる
217
大海原
(
おほうなばら
)
の
右左
(
みぎひだり
)
218
パインの
林
(
はやし
)
は
立
(
た
)
ち
並
(
なら
)
び
219
金砂
(
きんしや
)
銀砂
(
ぎんしや
)
は
日光
(
につくわう
)
に
220
輝
(
かがや
)
きわたる
麗
(
うるは
)
しさ
221
静
(
しづ
)
かな
浪
(
なみ
)
は
舷
(
ふなばた
)
に
222
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
り
鼓
(
つづみ
)
打
(
う
)
つ
223
ああ
天国
(
てんごく
)
か
楽園
(
らくゑん
)
か
224
譬
(
たとへ
)
がたなき
風景
(
ふうけい
)
ぞ
225
待
(
ま
)
つ
間
(
ま
)
程
(
ほど
)
なく
一艘
(
いつさう
)
の
226
老朽船
(
らうきうせん
)
が
現
(
あら
)
はれて
227
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
一行
(
いつかう
)
を
乗
(
の
)
せながら
228
南
(
みなみ
)
へ
南
(
みなみ
)
へと
進
(
すす
)
む
折
(
をり
)
229
忽
(
たちま
)
ちワックス
船底
(
せんてい
)
より
230
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り
大刀
(
だいたう
)
を
231
引
(
ひ
)
き
抜
(
ぬ
)
き
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
一行
(
いつかう
)
を
232
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに
脅迫
(
けふはく
)
し
233
暴逆
(
ばうぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
手
(
て
)
を
下
(
くだ
)
し
234
恋
(
こひ
)
の
恨
(
うらみ
)
を
晴
(
は
)
らさむと
235
湖
(
みづうみ
)
の
如
(
ごと
)
き
巻舌
(
まきじた
)
を
236
並
(
なら
)
べてゴロつく
折
(
をり
)
もあれ
237
俄
(
にはか
)
に
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
湖嵐
(
うなあらし
)
238
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
吹
(
ふ
)
きまくり
239
小山
(
こやま
)
のやうな
浪
(
なみ
)
を
立
(
た
)
て
240
瞬
(
またた
)
く
中
(
うち
)
に
船体
(
せんたい
)
は
241
風
(
かぜ
)
に
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
散
(
ち
)
る
如
(
ごと
)
く
242
危
(
あやふ
)
さ
刻々
(
こくこく
)
増
(
まし
)
来
(
きた
)
り
243
櫓
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
りし
船頭
(
せんどう
)
は
244
撥
(
は
)
ね
飛
(
と
)
ばされて
無慙
(
むざん
)
にも
245
湖
(
うみ
)
の
藻屑
(
もくづ
)
となり
果
(
は
)
てぬ
246
遉
(
さすが
)
無道
(
ぶだう
)
のワックスや
247
其
(
その
)
他
(
た
)
三人
(
みたり
)
の
悪漢
(
わるもの
)
も
248
激
(
はげ
)
しき
颶風
(
ぐふう
)
に
敵
(
てき
)
しかね
249
右
(
みぎ
)
や
左
(
ひだり
)
にヨロヨロと
250
転
(
ころ
)
げ
廻
(
まは
)
りしおかしさよ
251
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
を
初
(
はじめ
)
とし
252
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
一行
(
いつかう
)
も
船体
(
せんたい
)
を
253
揺
(
ゆ
)
られて
苦
(
くる
)
しむ
時
(
とき
)
もあれ
254
左手
(
ゆんで
)
に
浮
(
うか
)
ぶ
島
(
しま
)
の
陰
(
かげ
)
255
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
る
一艘
(
いつさう
)
の
256
船
(
ふね
)
は
此方
(
こなた
)
に
竜
(
りう
)
の
如
(
ごと
)
く
257
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
るぞ
不思議
(
ふしぎ
)
なれ
258
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
愁眉
(
しうび
)
を
開
(
ひら
)
きつつ
259
こは
何人
(
なにびと
)
の
船
(
ふね
)
なると
260
瞳
(
ひとみ
)
を
据
(
す
)
ゑてよく
見
(
み
)
れば
261
豈
(
あに
)
計
(
はか
)
らむや
三五
(
あななひ
)
の
262
教
(
をしへ
)
の
道
(
みち
)
に
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
263
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
御
(
おん
)
姿
(
すがた
)
264
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
はむと
265
目無
(
めなし
)
堅間
(
かたま
)
の
御船
(
みふね
)
をば
266
用意
(
ようい
)
遊
(
あそ
)
ばし
玉
(
たま
)
ひしと
267
聞
(
き
)
くより
嬉
(
うれ
)
しさ
限
(
かぎ
)
りなく
268
感謝
(
かんしや
)
の
涙
(
なみだ
)
止
(
と
)
めあへず
269
ヒラリと
船
(
ふね
)
に
飛
(
と
)
び
乗
(
の
)
れば
270
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
助
(
たす
)
けたる
271
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
のスマートは
272
ザンブと
許
(
ばか
)
り
浪
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
273
身
(
み
)
を
躍
(
をど
)
らして
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
みぬ
274
あはやと
思
(
おも
)
ふ
暇
(
ひま
)
もなく
275
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
忽
(
たちま
)
ちに
276
其
(
その
)
身
(
み
)
を
湖面
(
こめん
)
に
投
(
な
)
げながら
277
スマートの
背
(
せな
)
に
跨
(
またが
)
りて
278
矢
(
や
)
を
射
(
い
)
る
如
(
ごと
)
く
出
(
い
)
でたまふ
279
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
280
神
(
かみ
)
の
変化
(
へんげ
)
か
神人
(
しんじん
)
か
281
唯
(
ただ
)
しは
誠
(
まこと
)
の
三五
(
あななひ
)
の
282
初稚姫
(
はつわかひめ
)
のお
姿
(
すがた
)
か
283
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
御
(
おん
)
救
(
すく
)
ひ
284
嬉
(
うれ
)
しく
感謝
(
かんしや
)
し
奉
(
たてまつ
)
る
285
後
(
あと
)
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
り
眺
(
なが
)
むれば
286
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
乗
(
の
)
り
来
(
き
)
しぼろ
船
(
ふね
)
は
287
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
船頭
(
せんどう
)
を
288
浪
(
なみ
)
に
呑
(
の
)
まれて
操縦
(
さうじう
)
の
289
機関
(
きくわん
)
を
失
(
うしな
)
ひ
浪
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
290
クルクルクルと
回転
(
くわいてん
)
し
291
進
(
すす
)
みなやむぞ
可笑
(
をか
)
しけれ
292
旭
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
293
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
294
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
295
如何
(
いか
)
なる
嵐
(
あらし
)
が
吹
(
ふ
)
くとても
296
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つの
三五
(
あななひ
)
の
297
神
(
かみ
)
に
任
(
まか
)
せし
吾々
(
われわれ
)
は
298
まさかの
時
(
とき
)
の
救
(
たす
)
け
舟
(
ぶね
)
299
天
(
てん
)
より
下
(
くだ
)
し
玉
(
たま
)
ふなり
300
ああ
尊
(
たふと
)
しや
有難
(
ありがた
)
や
301
神
(
かみ
)
は
汝
(
なんぢ
)
と
共
(
とも
)
にあり
302
人
(
ひと
)
は
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
神
(
かみ
)
の
宮
(
みや
)
303
恐
(
おそ
)
るるためしは
要
(
い
)
らないと
304
諭
(
さと
)
し
給
(
たま
)
ひし
三五
(
あななひ
)
の
305
教
(
をしへ
)
を
今更
(
いまさら
)
目
(
ま
)
の
当
(
あた
)
り
306
知
(
し
)
るぞ
嬉
(
うれ
)
しき
湖
(
うみ
)
の
上
(
うへ
)
307
千尋
(
ちひろ
)
の
深
(
ふか
)
き
御
(
おん
)
恵
(
めぐみ
)
308
必
(
かなら
)
ず
忘
(
わす
)
れまつらむや
309
弘誓
(
ぐぜい
)
の
船
(
ふね
)
に
帆
(
ほ
)
を
上
(
あ
)
げて
310
涼
(
すず
)
しき
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれつつ
311
夏
(
なつ
)
の
央
(
なかば
)
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
312
ハルナの
都
(
みやこ
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
313
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
314
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましませよ』
315
と
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
として
際限
(
さいげん
)
もなき
湖水
(
こすい
)
を
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
316
ああ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
317
(
大正一二・三・二八
旧二・一二
於皆生温泉浜屋
加藤明子
録)
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