霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第八章 孤島(こたう)〔一四八三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻 篇:第2篇 湖上神通 よみ(新仮名遣い):こじょうじんつう
章:第8章 孤島 よみ(新仮名遣い):ことう 通し章番号:1483
口述日:1923(大正12)年03月28日(旧02月12日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
テルモン湖には、バラモン教で罪を犯した者を流罪にするツミの島があった。ここは波が逆巻く孤島であり、罪人は食物も与えられずにここに捨てられるのであった。
バラモンの荒くれ男、ハール、ヤッコス、サボールの三人は船が難破して、ツミの島に打ち上げられた。そこには殺人罪で島に捨てられ、露命をつないでいたダルとメートがいた。ハールたち三人は食糧難の飢えに堪えかねて、ダルとメートを殺して食べようと付け狙った。
ダルとメートは激しく抵抗し、その勢いに辟易した三人の隙を狙って逃げ出した。ちょうど玉国別たちの船がツミの島に近づいたとき、五人は食うか食われるかの死闘を磯端に繰り広げていた。
玉国別たちが近づいてみると、五人は死闘の末に息も絶え絶えになってそれぞれ倒れていた。船頭は人食いの罪人たちを助けて罪になることに反対したが、玉国別は自分が責任を負うと請け負って船をつけさせた。
玉国別たちは島に上陸し、五人が倒れている磯端にやってきた。ヤッコスとメートはこれまでの経緯を語り、助けてほしいと玉国別たちに懇願した。一行は五人に食料を与えて船に乗せ、介抱しつつ船を出した。
真純彦、伊太彦は舟歌に述懐を乗せながら歌い、船は進んで行く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-12-05 20:24:36 文字数:4358 OBC :rm5808
愛善世界社版:99頁 八幡書店版:第10輯 407頁 修補版: 校定版:107頁 普及版:39頁 初版: ページ備考:
001テルモン湖水(こすい)の真中(まんなか)に
002波(なみ)に漂(ただよ)ふ一(ひと)つ島(じま)
003全島(ぜんたう)巌(いはほ)に包(つつ)まれて
004少(すこ)しばかりの笹草(ささぐさ)が
005彼方(あなた)此方(こなた)に点々(てんてん)と
006僅(わづ)かに生(は)えしツミの島(しま)
007周回(しうくわい)一(いち)里(り)磯辺(いそばた)に
008いつも荒波(あらなみ)噛(か)みつきて
009さも凄惨(せいさん)の気(き)に充(み)ちぬ
010そも此(この)島(しま)は罪人(つみびと)を
011自(みづか)ら命(いのち)終(をは)るまで
012食物(しよくもつ)さへも与(あた)へずに
013流(なが)し捨(す)つべき地獄(ぢごく)なり
014此(この)鬼島(おにじま)に現(あら)はれし
015憐(あは)れな人(ひと)は磯辺(いそばた)の
016逆捲(さかま)く波(なみ)に飛(と)び込(こ)みて
017貝(かひ)をば拾(ひろ)ひ蟹(かに)を採(と)り
018僅(わづ)かに露命(ろめい)をつなぎつつ
019骨(ほね)と皮(かは)とになり果(は)てて
020恰(あたか)も餓鬼(がき)の如(ごと)くなり
021折(をり)から来(きた)るバラモンの
022四五(しご)の勇士(ゆうし)は船(ふね)を漕(こ)ぎ
023傍(かたへ)の沖(おき)を通(とほ)る折(をり)
024忽(たちま)ち吹(ふ)き来(く)る荒風(あらかぜ)に
025無慙(むざん)や船(ふね)を暗礁(あんせう)に
026突(つ)き当(あ)て忽(たちま)ちパリパリと
027木端(こつぱ)微塵(みぢん)に船体(せんたい)を
028打挫(うちくだ)きたる悲(かな)しさに
029五(ご)人(にん)の男(をとこ)はツミの島(しま)
030目当(めあて)に漸(やうや)く泳(およ)ぎ着(つ)き
031二人(ふたり)は水(みづ)に呑(の)まれつつ
032どこともなしに隠(かく)れける
033後(あと)に残(のこ)りし三(さん)人(にん)は
034ハール、ヤッコス、サボールの
035バラモン教(けう)で名(な)も高(たか)き
036荒(あら)くれ男(をとこ)のヤンチヤ者(もの)
037漸(やうや)くここに来(き)て見(み)れば
038殺人罪(さつじんざい)の廉(かど)により
039此(この)ツミ島(じま)に捨(す)てられし
040ダルとメートの両人(りやうにん)が
041巌(いはほ)の穴(あな)に身(み)を潜(ひそ)め
042衣(ころも)も着(つ)けず真裸(まつぱだか)
043髯(ひげ)蓬々(ばうばう)と猿(さる)の如(ごと)
044髪(かみ)は鳶(とんび)の巣(す)の様(やう)に
045縺(もつ)れからみし穴棲居(あなずまゐ)
046かかる所(ところ)へ船(ふね)を割(わ)り
047漂(ただよ)ひ来(きた)りし三(さん)人(にん)は
048先(ま)づ第一(だいいち)に食糧(しよくりやう)を
049探(さぐ)らむものと磯辺(いそばた)を
050彼方(かなた)此方(こなた)と探(さが)せども
051寄(よ)せては返(かへ)す荒波(あらなみ)の
052危(あや)ふき状(さま)に辟易(へきえき)し
053空(むな)しき腹(はら)を抱(かか)へつつ
054島(しま)の遠近(をちこち)ウロウロと
055尋(たづ)ね逍遙(さまよ)ひ漸(やうや)くに
056此(この)岩窟(がんくつ)を見付(みつ)け出(だ)し
057二人(ふたり)の男(をとこ)の姿(すがた)をば
058見(み)るより早(はや)く三(さん)人(にん)は
059此(この)罪人(ざいにん)を打殺(うちころ)し
060当座(たうざ)の餌(ゑじき)にせむものと
061顔(かほ)見合(みあは)して嫌(いや)らしく
062笑(ゑみ)を漏(もら)すぞ恐(おそ)ろしき。
063 三(さん)人(にん)の男(をとこ)は漸(やうや)く此(この)島(しま)に命(いのち)からがら辿(たど)り着(つ)いた。064往来(ゆきき)の船(ふね)も少(すくな)く、065いつ迄(まで)待(ま)つても大陸(たいりく)へ帰(かへ)る見込(みこみ)がない。066山(やま)一面(いちめん)岩(いは)だらけで草(くさ)の根(ね)を掘(ほ)つて喰(く)ふ事(こと)もならず、067磯辺(いそばた)の貝(かひ)や蟹(かに)を漁(あさ)らむとすれども、068ここは殊更(ことさら)湖中(こちう)の波(なみ)荒(あら)き所(ところ)、069到底(たうてい)一匹(いつぴき)の蟹(かに)も一芥(いつかい)の貝(かひ)も手(て)に入(い)れる事(こと)が出来(でき)ぬ。070三(さん)人(にん)は餓死(がし)する外(ほか)なき破目(はめ)に陥(おちい)つた。071何(なに)か獲物(えもの)もがなと[※「もがな」は「~あるといいなあ」という意味。]、072彼方(あなた)此方(こなた)と小(ちひ)さき島(しま)を隈(くま)なく探(さが)し廻(まは)り、073漸(やうや)く此(この)岩窟(いはや)の中(なか)に二人(ふたり)の罪人(ざいにん)が痩(やせ)こけて忍(しの)んで居(を)るのに気(き)がついた。074三(さん)人(にん)は空腹(くうふく)に堪(た)へ兼(か)ね此(この)二人(ふたり)の男(をとこ)を当座(たうざ)の餌(ゑじき)にせむものと恐(おそ)ろしき心(こころ)を起(おこ)し、075二人(ふたり)の前(まへ)にツカツカと立寄(たちよ)り、076矢庭(やには)に一人(ひとり)を引掴(ひつつか)み、077双方(さうはう)より両(りやう)の腕(うで)を以(もつ)てメリメリと力(ちから)限(かぎ)りにむしり取(と)らうとした。078一人(ひとり)の男(をとこ)は岩窟(いはや)に隠(かく)しあつた鋭利(えいり)な石刀(いしがたな)を揮(ふる)つて一人(ひとり)の友(とも)を救(すく)はむと立向(たちむか)ふた。079三(さん)人(にん)は此(この)権幕(けんまく)に恐(おそ)れてパツと手(て)を放(はな)した途端(とたん)に、080さしもに険峻(けんしゆん)な岩山(いはやま)を兎(うさぎ)の如(ごと)く逃(に)げ登(のぼ)り、081頭上(づじやう)より岩石(がんせき)の片(かけ)を拾(ひろ)つては三(さん)人(にん)目蒐(めが)けて投(な)げつける。082三(さん)人(にん)は止(や)むを得(え)ず、083此(この)危険(きけん)を免(まぬが)れむために二人(ふたり)の潜(ひそ)んで居(ゐ)た岩窟(いはや)の中(なか)へ身(み)を隠(かく)した。084二人(ふたり)の男(をとこ)は、085最早(もはや)三(さん)人(にん)の人喰(ひとく)ひ人種(じんしゆ)が吾(わ)が投(な)げ下(おろ)す数多(あまた)の岩石(がんせき)に打(う)たれて一人(ひとり)も残(のこ)らず倒(たふ)れたるならむ、086久振(ひさしぶ)りにて人肉(にんにく)の暖(あたたか)き奴(やつ)を鱈腹(たらふく)喰(く)つて元気(げんき)をつけむものと色々(いろいろ)廻(まは)り道(みち)して、087稍(やや)緩(ゆる)き山腹(さんぷく)を下(くだ)り磯辺(いそばた)を伝(つた)ふて吾(わが)住(すま)ひたる岩窟(いはや)の側(そば)へ寄(よ)つて来(き)た。088見(み)れば三(さん)人(にん)は少(すこ)しの怪我(けが)もなく穴(あな)の中(なか)に鼎坐(かなへざ)となつて胡床(あぐら)をかき、089何事(なにごと)か話(はな)して居(ゐ)る。090二人(ふたり)はこれを見(み)るより『やア、091まだピチピチして居(ゐ)る。092こりや大変(たいへん)だ』と磯端(いそばた)を伝(つた)ひ、093一生(いつしやう)懸命(けんめい)に逃(に)げ出(いだ)す。094その足音(あしおと)にハツと気(き)がつき三(さん)人(にん)は『さア、095今(いま)の間(うち)に取掴(とつつか)まへて口腹(こうふく)を充(み)たさむもの』と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に二人(ふたり)の後(あと)を追(お)ふた。096二人(ふたり)は小石(こいし)を拾(ひろ)ひ投(な)げつけ乍(なが)ら逃(に)げて行(ゆ)く。097三(さん)人(にん)は『己(おの)れ逃(に)がしてなるものか、098山(やま)へ上(あ)げては大変(たいへん)』と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に追(お)ふて行(ゆ)く。099メート、100ダルの両人(りやうにん)は磯端(いそばた)の簫(せう)を立(た)てた様(やう)な岩(いは)の前(まへ)に追(お)ひ捲(まく)られ、101進退(しんたい)維(これ)谷(きは)まり、102死物狂(しにものぐるひ)となつて三(さん)人(にん)に向(むか)ひ組(く)みついた。103ここに三(さん)人(にん)の空腹者(くうふくしや)と、104痩(やせ)た乍(なが)ら蟹(かに)や貝(かひ)に腹(はら)を拵(こしら)へ、105饑餓(きが)に慣(な)れて居(ゐ)る二人(ふたり)の男(をとこ)と組(く)んず組(く)まれつ、106磯端(いそばた)に餓鬼(がき)同士(どうし)の大活劇(だいくわつげき)を演(えん)じて居(ゐ)る。
107 玉国別(たまくにわけ)の乗(の)れる船(ふね)は四五丁(しごちやう)許(ばか)り沖(おき)の方(はう)を白帆(しらほ)に風(かぜ)を孕(はら)ませ乍(なが)ら走(はし)つて居(ゐ)る。108舳(へさき)に立(た)つて居(ゐ)た伊太彦(いたひこ)は不思議(ふしぎ)な島(しま)が湖中(こちう)に浮(う)かんで居(ゐ)ると、109よくよく見(み)れば磯端(いそばた)に四五(しご)人(にん)の男(をとこ)が明瞭(はつき)り分(わか)らねど、110何(なに)か格闘(かくとう)をやつてる様(やう)に見(み)える。111直(ただ)ちに苫葺(とまぶき)の中(なか)に潜(もぐ)り込(こ)み、
112伊太(いた)『もし先生(せんせい)、113彼処(あそこ)に不思議(ふしぎ)な島(しま)が浮(うか)んで居(ゐ)ます。114そして人間(にんげん)の影(かげ)らしい者(もの)が磯端(いそばた)で大喧嘩(おほげんくわ)をして居(を)る様(やう)ですが一寸(ちよつと)御覧(ごらん)なさいませ』
115玉国(たまくに)『うん、116大方(おほかた)有名(いうめい)なツミの島(しま)の側(そば)へ近寄(ちかよ)つて来(き)たのだらう、117彼処(あこ)には大罪人(だいざいにん)が押込(おしこ)めてあると云(い)ふ事(こと)だ、118可憐(かはい)さうなものだな』
119伊太(いた)『どうでせう、120一(ひと)つ船(ふね)を寄(よ)せて罪人(ざいにん)ならば尚(なほ)の事(こと)、121大神(おほかみ)様(さま)の教(をしへ)を説(と)き諭(さと)し、122助(たす)けてやらうぢやありませぬか。123現在(げんざい)人(ひと)の難儀(なんぎ)を見(み)て通(とほ)り越(こ)すと云(い)ふ事(こと)は吾々(われわれ)宣伝使(せんでんし)の勤(つと)めでは厶(ござ)いますまいがな』
124玉国(たまくに)『うん、125さうだ。126助(たす)けてやりたいものだ。127おい船頭(せんどう)、128どうか彼(あ)の島(しま)へ船(ふね)を着(つ)けて呉(く)れまいか』
129船頭(せんどう)の一人(ひとり)『はい、130仰(おほ)せとあれば近(ちか)く迄(まで)は船(ふね)を寄(よ)せて見(み)ませうが、131彼処(あそこ)には大変(たいへん)な悪人(あくにん)ばかりで、132うつかり船(ふね)でも寄(よ)せやうものなら喰(く)はれて了(しま)ひますよ。133先繰(せんぐ)り先繰(せんぐ)り送(おく)られて行(ゆ)く奴(やつ)が食物(しよくもつ)がない為(ため)、134弱(よわ)い奴(やつ)から喰(く)はれて了(しま)ひ、135後(あと)に残(のこ)つて居(ゐ)る奴(やつ)は手(て)にも足(あし)にも合(あ)はぬ人鬼(ひとおに)ばかりだと云(い)ふ事(こと)です。136上陸(じやうりく)さへなさらねば近(ちか)く迄(まで)船(ふね)を寄(よ)せて見(み)ませう』
137 伊太彦(いたひこ)は又(また)もや舷頭(げんとう)に立(た)ち現(あら)はれ、
138伊太(いた)『おい、139船頭(せんどう)大変(たいへん)な活劇(くわつげき)が演(えん)ぜられて居(ゐ)る様(やう)だ。140一(ひと)つ見物(けんぶつ)して行(ゆ)かうぢやないか』
141船頭(せんどう)『そんなら近(ちか)くまで寄(よ)せて見(み)ませう。142随分(ずいぶん)恐(おそ)ろしい処(ところ)ですよ』
143と云(い)ひ乍(なが)ら八挺櫓(はつちやうろ)を漕(こ)いで矢(や)を射(い)る如(ごと)く島(しま)の近辺(きんぺん)まで船(ふね)を寄(よ)せた。144島(しま)の近(ちか)く四五十(しごじつ)間(けん)の間(あひだ)は、145どうしたものか非常(ひじやう)に波(なみ)高(たか)く且(か)つ暗礁(あんせう)点綴(てんてつ)して実(じつ)に危険(きけん)極(きは)まる場所(ばしよ)である。146船頭(せんどう)は巧(たくみ)に暗礁(あんせう)をくぐり、147漸(やうや)くにして十間(じつけん)ばかり磯端(いそばた)の手前(てまへ)に近(ちか)づいた。148五(ご)人(にん)の男(をとこ)は何(いづ)れもヘタヘタになつて息(いき)も絶(た)え絶(だ)えに倒(たふ)れて居(ゐ)る。
149玉国(たまくに)『やア、150船頭(せんどう)、151御(ご)苦労(くらう)だがソツと船(ふね)を着(つ)けて呉(く)れ。152どうやら五(ご)人(にん)の男(をとこ)が互(たがひ)に争(あらそ)ふた結果(けつくわ)、153息(いき)も絶(た)え絶(だ)えになつてる様(やう)だ。154何(なん)とかして助(たす)けてやらねばならぬ』
155船頭(せんどう)『もし、156お客様(きやくさま)、157あの様(やう)な者(もの)を助(たす)けやうものなら大変(たいへん)、158此方(こちら)が罪人(ざいにん)になり、159此(この)島(しま)へ数多(あまた)の兵士(へいし)に送(おく)られて永遠(えいゑん)に捨(す)てられねばなりませぬ。160それはお止(よ)しになつたが宜(よろ)しう厶(ござ)いませう』
161玉国(たまくに)『何(なに)、162構(かま)ふものか。163人(ひと)の難儀(なんぎ)を見(み)て吾々(われわれ)は見逃(みのが)す訳(わけ)には行(ゆ)かぬ。164さア早(はや)く船(ふね)を着(つ)けて呉(く)れ。165万一(まんいち)お前(まへ)が船(ふね)を着(つ)けた為(ため)、166罪人(ざいにん)になる様(やう)な事(こと)があつたら、167私(わし)が弁解(べんかい)してやらう。168そして屹度(きつと)助(たす)けるから安心(あんしん)して磯端(いそばた)に寄(よ)せて呉(く)れ』
169船頭(せんどう)の一人(ひとり)『そんなら仰(おほ)せに従(したが)ひ、170兎(と)も角(かく)船(ふね)を着(つ)けて見(み)ませう』
171と稍(やや)湾形(わんけい)になつた波(なみ)の低(ひく)き岩蔭(いはかげ)に船(ふね)を寄(よ)せた。172ここに船頭(せんどう)は船(ふね)を固(かた)く磯端(いそばた)の岩(いは)に縛(しば)りつけ、173波(なみ)に攫(さら)はれて漂流(へうりう)する憂(うれ)ひなき様(やう)、174幾筋(いくすぢ)も綱(つな)を曳(ひ)いて繋(つな)ぎつけた。
175 玉国別(たまくにわけ)一行(いつかう)は磯端(いそばた)を伝(つた)ひ乍(なが)ら、176五(ご)人(にん)が倒(たふ)れて居(ゐ)る側(そば)に荒石(あらいし)を跳(と)び越(こ)え跳(と)び越(こ)え進(すす)み寄(よ)つた。177五(ご)人(にん)は宣伝使(せんでんし)の姿(すがた)を眺(なが)めて怪訝(けげん)な顔(かほ)して居(ゐ)る。
178 伊太彦(いたひこ)は先(ま)づ五(ご)人(にん)の側(そば)に寄(よ)り、
179伊太(いた)『お前(まへ)達(たち)五(ご)人(にん)は斯(こ)んな離(はな)れ島(じま)に何(なに)をして居(ゐ)るのだ。180見(み)れば各自(めいめい)に顔(かほ)から血(ち)を出(だ)して居(ゐ)るぢやないか。181斯様(かやう)な島(しま)へ罪(つみ)あつて流(なが)された上(うへ)は、182互(たがひ)に仲良(なかよ)く暮(くら)したら如何(どう)だ』
183 バラモン軍(ぐん)のヤッコスはムクムクと起(お)き上(あが)り、184顔(かほ)の血糊(ちのり)を手(て)にて拭(ぬぐ)ひ乍(なが)ら、
185ヤッコス『私(わたくし)はハルナの都(みやこ)の大黒主(おほくろぬし)様(さま)から或(ある)使命(しめい)を帯(お)びて此(この)湖水(こすい)を渡(わた)り、186北(きた)に向(むか)つて進(すす)む折(をり)しも暴風(ばうふう)に遭(あ)ひ暗礁(あんせう)に衝突(しようとつ)し船体(せんたい)は木端(こつぱ)微塵(みぢん)となり、187二人(ふたり)の同僚(どうれう)は逆巻(さかま)く波(なみ)に呑(の)まれ行衛(ゆくゑ)不明(ふめい)となり、188吾々(われわれ)三(さん)人(にん)此(この)島(しま)に漸(やうや)く漂着(へうちやく)致(いた)しました。189別(べつ)に怪(あや)しいものでは厶(ござ)いませぬから、190何卒(どうぞ)お助(たす)けを願(ねが)ひます』
191メート『貴方(あなた)は神(かみ)様(さま)のお使(つかひ)と見(み)えますが、192何卒(どうぞ)私(わたし)等(ら)二人(ふたり)をお助(たす)け下(くだ)さいませ。193此(この)三(さん)人(にん)が二時(ふたとき)ばかり以前(いぜん)に此処(ここ)へ漂着(へうちやく)し、194吾々(われわれ)二人(ふたり)の命(いのち)をとり、195餌食(ゑじき)にせむと追(お)ひ駆(か)けますので、196逃(に)げ場(ば)を失(うしな)ひ死物狂(しにものぐるひ)となつて防(ふせ)ぎ戦(たたか)ふて居(ゐ)ましたが、197最早(もはや)力(ちから)尽(つ)き手(て)も足(あし)も云(い)ふ事(こと)を聞(き)かなくなりました。198何卒(なにとぞ)憐(あは)れに思(おも)ひ命(いのち)をお助(たす)け願(ねが)ひます。199そして三(さん)人(にん)は何処(どこ)かへ連(つ)れてお帰(かへ)り下(くだ)さいませ。200斯様(かやう)な人喰(ひとくひ)人種(じんしゆ)が此(この)島(しま)へ居(を)りましては吾々(われわれ)は堪(たま)りませぬから』
201と嫌(いや)らしい飛(と)び出(だ)した目(め)から涙(なみだ)をハラハラと流(なが)し水鼻汁(みづばな)を垂(た)らして悲(かな)しげに頼(たの)み入(い)る。
202 玉国別(たまくにわけ)は船中(せんちう)に貯(たくは)へあるパンを取(と)り出(いだ)し、203言葉(ことば)優(やさ)しく五(ご)人(にん)に取(と)らせ、204且(か)つ種々(いろいろ)と一同(いちどう)が心(こころ)を籠(こ)めて介抱(かいはう)した。205五(ご)人(にん)はパンを与(あた)へられ、206又(また)久振(ひさしぶ)りでダル、207メートは真水(まみづ)を与(あた)へられ、208嬉(うれ)し泣(な)きに泣(な)き乍(なが)ら、209一生(いつしやう)懸命(けんめい)に掌(て)を合(あは)せて拝(をが)み倒(たふ)して居(ゐ)る。
210 三千彦(みちひこ)、211デビス姫(ひめ)は言葉(ことば)優(やさし)く五(ご)人(にん)を労(いたは)り、212足(あし)の弱(よわ)つたものは手(て)を曳(ひ)き、213或(あるひ)は肩(かた)にかけ等(など)して乗(の)り来(きた)りし船(ふね)の側(そば)近(ちか)く誘(いざな)ひ来(きた)り、214各自(めいめい)五(ご)人(にん)の体(からだ)を舁(か)く様(やう)にして船(ふね)の中(なか)へ救(すく)ひ入(い)れ、215横(よこ)に寝(ね)させ又(また)もや帆(ほ)を上(あげ)て南(みなみ)へ南(みなみ)へと進(すす)み行(ゆ)く。
216 真純彦(ますみひこ)は舷頭(げんとう)に立(た)ち歌(うた)を歌(うた)ふ。217三千彦(みちひこ)、218伊太彦(いたひこ)は舷(ふなばた)を叩(たた)いて潔(いさぎよ)く拍子(ひやうし)を取(と)る。
219真純彦(ますみひこ)『テルモン湖水(こすい)の真中(まんなか)に
220波(なみ)を浴(あ)びつつ衝(つ)つ立(た)てる
221名(な)も恐(おそ)ろしきツミの島(しま)
222人喰(ひとくひ)人種(じんしゆ)か知(し)らねども
223五(ご)人(にん)の姿(すがた)を見(み)るよりも
224いとど憐(あは)れを催(もよほ)して
225見捨(みす)て兼(か)ねたる吾(わが)一行(いつかう)
226危(あやふ)き暗礁(あんせう)潜(くぐ)りぬけ
227漸(やうや)く船(ふね)を磯端(いそばた)に
228繋(つな)ぎてここに上陸(じやうりく)し
229五(ご)人(にん)の男(をとこ)を相救(あひすく)ひ
230目無(めなし)堅間(かたま)の船(ふね)に乗(の)せ
231折(をり)から吹(ふ)き来(く)る順風(じゆんぷう)に
232帆(ほ)を孕(はら)ませて波(なみ)の上(うへ)
233船(ふね)辷(すべ)らして進(すす)み行(ゆ)く
234如何(いか)なる罪(つみ)を犯(をか)せしか
235事(こと)の次第(しだい)は知(し)らねども
236人(ひと)は天地(てんち)の分霊(わけみたま)
237ムザムザ殺(ころ)すものならず
238バラモン国(ごく)の掟(おきて)とし
239罪人(ざいにん)なりと憎(にく)しみて
240鳥(とり)も通(かよ)はぬ此(この)島(しま)に
241情(つれ)なく捨(す)てて自滅(じめつ)をば
242待(ま)たすと云(い)ふは何(なん)の事(こと)
243呆(あき)れ果(は)てたる制度(せいど)なり
244神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
245如何(いか)なる罪(つみ)も宣(の)り直(なほ)し
246悪(あし)き心(こころ)や行(おこな)ひを
247改(あらた)めしめて天国(てんごく)の
248神苑(みその)に救(すく)ふ三五(あななひ)の
249神(かみ)の教(をしへ)の宣伝使(せんでんし)
250心(こころ)安(やす)かれメート、ダル
251二人(ふたり)の男(を)の子(こ)は三五(あななひ)の
252神(かみ)の司(つかさ)が預(あづか)りて
253身(み)を安全(あんぜん)に何処(どこ)迄(まで)も
254心(こころ)を籠(こ)めて守(まも)るべし
255さはさり乍(なが)ら両人(りやうにん)よ
256今日(けふ)を境(さかひ)に村肝(むらきも)の
257心(こころ)の底(そこ)より改(あらた)めて
258悪(あく)と虚偽(きよぎ)との行(おこな)ひを
259一(いち)時(じ)も早(はや)く悔悟(くわいご)して
260誠(まこと)の道(みち)に適(かな)へかし
261神(かみ)は汝(なんぢ)と倶(とも)にあり
262神(かみ)に任(まか)せし人(ひと)の身(み)は
263世(よ)に恐(おそ)るべきものはなし
264ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
265神(かみ)の恵(めぐ)みを朝夕(あさゆふ)に
266心(こころ)に深(ふか)く刻(きざ)み込(こ)み
267束(つか)の間(あひだ)も忘(わす)れなよ
268朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
269月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
270荒波(あらなみ)猛(たけ)り狂(くる)ふとも
271仮令(たとへ)神船(みふね)は覆(かへ)るとも
272仁慈(じんじ)の神(かみ)の在(ま)す限(かぎ)り
273恐(おそ)るる事(こと)はあらざらめ
274勇(いさ)めよ勇(いさ)め皆(みな)勇(いさ)め
275バラモン軍(ぐん)に仕(つか)へたる
276ヤッコス、ハール、サボールよ
277汝(なんぢ)も今(いま)より心(こころ)をば
278よく改(あらた)めて三五(あななひ)の
279誠(まこと)の教(をしへ)を聞(き)くがよい
280汝(なんぢ)等(ら)三(さん)人(にん)月(つき)の国(くに)
281大黒主(おほくろぬし)の命(めい)を受(う)け
282これの湖水(こすい)を渡(わた)りしは
283三五教(あななひけう)の神軍(しんぐん)を
284途中(とちう)に喰(く)ひとめ進路(しんろ)をば
285妨(さまた)げせむとの企(たく)みぞと
286吾(われ)等(ら)は早(はや)くも覚(さと)りけり
287さはさりながら世(よ)の中(なか)に
288敵(てき)もなければ仇(あだ)もない
289天地(てんち)の間(あひだ)に人(ひと)となり
290同(おな)じ月日(つきひ)の光(ひかり)をば
291浴(あ)びて此(この)世(よ)にある限(かぎ)り
292互(たがひ)に助(たす)け睦(むつ)び合(あ)ひ
293誠(まこと)一(ひと)つを楯(たて)として
294互(たがひ)に手(て)を曳(ひ)き現世(うつしよ)を
295楽(たの)しく嬉(うれ)しく面白(おもしろ)く
296渡(わた)るが人(ひと)の務(つと)めぞや
297必(かなら)ず悪(あく)に迷(まよ)ふなよ
298三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
299神(かみ)の司(つかさ)の真純彦(ますみひこ)が
300荒波(あらなみ)猛(たけ)る湖(うみ)の上(うへ)
301神(かみ)に代(かは)りて説(と)き諭(さと)す
302ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
303御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
304と歌(うた)ひ乍(なが)ら船底(せんてい)にコトコトと鼓(つづみ)を拍(う)たせ乍(なが)ら際限(さいげん)なき湖上(こじやう)を辷(すべ)り行(ゆ)く。
305(大正一二・三・二八 旧二・一二 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→