霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 多数尻(たすうけつ)〔一四七七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻 篇:第1篇 玉石混淆 よみ(新仮名遣い):ぎょくせきこんこう
章:第2章 多数尻 よみ(新仮名遣い):たすうけつ 通し章番号:1477
口述日:1923(大正12)年03月28日(旧02月12日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
奥の一間には小国姫、ニコラス、三千彦ほか一同が打ち解けて神徳話に余念なく、茶をすすりながら懇親を結んでいる。そこへ門前が騒がしくなり、猛犬の叫び声が聞こえた。三千彦は悪酔怪員の暴動と見て、様子を見に表に駆け出した。
ニコラスはハンナを三千彦と共に向かわせた。すると三千彦が昼夜念頭を離れなかった恋しい師の君玉国別が、良友の真純彦、伊太彦とともにニコニコとして門内に入ってくるところに出くわした。
三千彦は声も出ないばかりに驚いた。伊太彦に呼びかけられてようやく三千彦は胸をなでおろし、涙を流しながら、一行に分かれてからバラモン教の聖場に入り込んで種々雑多の苦労をしたことを報告した。
玉国別はバラモン軍と悪酔怪員の同士討ちを鎮めなければと心配したが、ここはスマートに一任することにして、三千彦に案内されて館の奥の間に進んで行った。
バラモン軍の副官ハンナは部下たちが味方と戦闘しているのを見逃すわけにも行かず、驢馬にまたがって混戦の中に入り、声をからして鎮まるように下知を下した。この声に敵味方ともに水を打ったようにぴたっと戦闘は停止した。
スマートは駆けてきてワックス、エキス、ヘルマン、エルの四人を引き倒してハンナの前に引き出し来て、これらを縛れ、とワンワン吠えたてた。ハンナは四人を縛り上げて馬場の前の大杭にしばりつけた。悪酔怪員は弱きをくじき強気に従う会則を順守し、一人も残さずこそこそと家路についた。
トンクは驢馬にまたがり、十字街頭の鐘路に現れ、臆病風に吹かれた数多の男女を集めて一場の訓戒演説をはじめた。そして、三五教は三千彦に加えて三人の宣伝使が加わり、またニコラスも三五教と同盟した上に猛犬スマートが付いている以上、悪酔怪会則にしたがって降参して三五教側につくべきだと説いた。
多数決を取ったトンクに対し、人々を黒い尻をまくって否決の意を表した。そこへタンクが現れて金銀をまき散らし、自分を会長に推挙するよう人々に呼びかけた。タンクが新会長に選ばれ、トンクは副会長になりそこねてすごすとと姿を隠した。
タンクは強きについて三五教に従うのだと滑稽な歌を歌いながら、群衆の先頭に立って門内に進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-04-12 12:55:14 文字数:4559 OBC :rm5802
愛善世界社版:18頁 八幡書店版:第10輯 379頁 修補版: 校定版:19頁 普及版:7頁 初版: ページ備考:
001 奥(おく)の一間(ひとま)には小国姫(をくにひめ)、002ニコラス、003三千彦(みちひこ)、004其(その)外(ほか)一同(いちどう)が打解(うちと)けて神徳話(しんとくばなし)に余念(よねん)なく、005茶(ちや)を啜(すす)り乍(なが)ら懇親(こんしん)を結(むす)んでゐる。
006 かかる処(ところ)へ門前(もんぜん)俄(にはか)に騒(さわ)がしく猛犬(まうけん)の叫(さけ)び声(ごゑ)、007合点(がてん)行(ゆ)かぬと何(いづ)れも耳(みみ)を欹(そばだ)てたが、008三千彦(みちひこ)は一同(いちどう)に向(むか)ひ、
009三千(みち)『皆(みな)さま、010どうやら悪酔怪(あくすゐくわい)員(ゐん)の暴動(ばうどう)と見(み)えます。011私(わたし)が一寸(ちよつと)調(しら)べて参(まゐ)りますから御(ご)休息(きうそく)して居(ゐ)て下(くだ)さいませ』
012といひ捨(す)てて表(おもて)に駆(か)け出(だ)す。
013 ニコラスはハンナに命(めい)じ三千彦(みちひこ)と共(とも)に表門(おもてもん)に向(むか)はしめた。014表門(おもてもん)に行(い)つて見(み)れば三千彦(みちひこ)が昼夜(ちうや)念頭(ねんとう)を離(はな)れざりし恋(こひ)しき師(し)の君(きみ)玉国別(たまくにわけ)、015良友(りやういう)の真純彦(ますみひこ)、016伊太彦(いたひこ)が莞爾(にこにこ)として門内(もんない)に潜(くぐ)り来(きた)るにパツと出会(でつくは)した。017三千彦(みちひこ)は倒(たふ)れぬばかりに且(か)つ驚(おどろ)きかつ喜(よろこ)び、018アツと云(い)つたきり暫(しば)らくは言葉(ことば)も出(で)なかつた。
019伊太(いた)『やア、020お前(まへ)は三千彦(みちひこ)ぢやないか。021俺(おれ)等(たち)はお師匠(ししやう)様(さま)と共(とも)に、022どれ丈(だ)けお前(まへ)を探(さが)して居(を)つたか知(し)れないのだ。023処(ところ)もあらうにバラモン教(けう)の聖場(せいぢやう)に納(をさ)まりかへつて居(ゐ)るとは合点(がてん)が行(ゆ)かぬ。024これは何(なに)か様子(やうす)があるのだらう。025さア早(はや)くお師匠(ししやう)様(さま)に申上(まをしあ)げぬか』
026 三千彦(みちひこ)は胸(むね)撫(な)で下(おろ)し、027涙(なみだ)を流(なが)し乍(なが)ら、
028三千(みち)『御(お)師匠(ししやう)様(さま)、029よう無事(ぶじ)で居(ゐ)て下(くだ)さいました。030貴方(あなた)の所在(ありか)を尋(たづ)ねむものと、031バラモン教(けう)の聖場(せいぢやう)に入(い)り込(こ)み、032種々(しゆじゆ)雑多(ざつた)と苦労(くらう)を致(いた)しました。033斯様(かやう)な所(ところ)でお目(め)にかかるとは全(まつた)く神(かみ)様(さま)の御(お)引合(ひきあは)せで厶(ござ)います。034さア奥(おく)へお通(とほ)り下(くだ)さいませ』
035玉国(たまくに)『あ、036三千彦(みちひこ)殿(どの)、037まア結構(けつこう)だつたな。038随分(ずいぶん)吾々(われわれ)三(さん)人(にん)はお前(まへ)の身(み)の上(うへ)を案(あん)じて居(ゐ)たのだ。039只今(ただいま)無事(ぶじ)な顔(かほ)を見(み)て、040こんな嬉(うれ)しい事(こと)はない。041然(しか)し此(この)通(とほ)りバラモン軍(ぐん)と無頼漢(ぶらいかん)との同士打(どうしう)ちが初(はじ)まつてるが、042もとは吾々(われわれ)一行(いつかう)に対(たい)しての挑戦(てうせん)であつたが、043何時(いつ)の間(ま)にか相手(あひて)が変(かは)つて味方(みかた)の同士打(どうしう)ちとなつた。044実(じつ)に気(き)の毒(どく)だから之(これ)を一先(ひとま)づ鎮撫(ちんぶ)せなくてはなるまい。045緩(ゆつく)り奥(おく)で休息(きうそく)する訳(わけ)にも行(ゆ)かぬぢやないか』
046三千(みち)『決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。047スマートさまに一任(いちにん)して置(お)けば大丈夫(だいぢやうぶ)ですよ。048アハハハハ』
049真純(ますみ)『うん、050そらさうだ。051吾々(われわれ)四(よ)人(にん)の宣伝使(せんでんし)よりも余程(よほど)神力(しんりき)が備(そな)はつて居(ゐ)るのだからな、052四足(よつあし)だつて余(あんま)り馬鹿(ばか)に出来(でき)ぬぢやないか。053吾々(われわれ)はスマート大明神(だいみやうじん)のお蔭(かげ)で命(いのち)が助(たす)かつたのだ。054アハハハハハ』
055と笑(わら)ひ乍(なが)ら三千彦(みちひこ)に案内(あんない)されて奥(おく)の間(ま)を指(さ)して進(すす)み入(い)る。
056 ハンナは部下(ぶか)の兵士(へいし)が無頼漢(ぶらいかん)と入(い)り乱(みだ)れて戦(たたか)つて居(ゐ)るのを見逃(みのが)す訳(わけ)にも行(ゆ)かず、057直(ただ)ちに驢馬(ろば)に跨(またが)り両方(りやうはう)混戦(こんせん)の中(なか)に駆(か)け入(い)つて声(こゑ)を嗄(か)らし『鎮(しづ)まれ鎮(しづ)まれ』と厳(きび)しき下知(げち)を伝(つた)へた。
058 此(この)声(こゑ)を聞(き)くより敵味方(てきみかた)ともに水(みづ)を打(う)つたる如(ごと)くピタンと戦闘(せんとう)は停止(ていし)された。059スマートは忽(たちま)ち駆(か)け来(きた)り、060ワックス、061エキス、062ヘルマン、063エルの四(よ)人(にん)を探(さが)し索(もと)めて引倒(ひきたふ)し、064ハンナの前(まへ)に一々(いちいち)引(ひ)き来(きた)りワンワンと叫(さけ)んで、065之(これ)を縛(しば)れよとの意(い)を示(しめ)した。066ハンナは四(よ)人(にん)を手早(てばや)く縛(ばく)し上(あ)げ、067馬場(ばんば)の前(まへ)の大杭(おほぐひ)にシカと縛(しば)りつけた。068弱(よわ)きを挫(くじ)き強(つよ)きに従(したが)ふ悪酔怪(あくすゐくわい)員(ゐん)は、069会則(くわいそく)を遵守(じゆんしゆ)して一人(ひとり)も残(のこ)さず、070コソコソと己(おの)が家路(いへぢ)に帰(かへ)り行(ゆ)く。071トンクは驢馬(ろば)に跨(またが)つた儘(まま)、072十字(じふじ)街頭(がいとう)の鐘路(しようろ)に現(あら)はれ、073臆病風(おくびやうかぜ)に誘(さそ)はれた数多(あまた)の老若(らうにやく)男女(なんによ)を集(あつ)めて一場(いちぢやう)の訓戒(くんかい)演説(えんぜつ)をはじめて居(ゐ)る。
074トンク『御(ご)一同(いちどう)様(さま)の中(なか)には悪酔怪(あくすゐくわい)員(ゐん)も水平怪(すいへいくわい)員(ゐん)も、075其(その)他(た)町内(ちやうない)有志(いうし)諸君(しよくん)も居(を)られますが、076よくまア会則(くわいそく)を遵守(じゆんしゆ)し、077一(いち)人(にん)も残(のこ)らず退却(たいきやく)して下(くだ)さいました。078実(じつ)に幹部(かんぶ)たる吾々(われわれ)は、079諸君(しよくん)の行動(かうどう)に対(たい)し、080欣幸(きんかう)措(お)く能(あた)はざる所(ところ)で厶(ござ)います。081今日(こんにち)迄(まで)は神館(かむやかた)には只(ただ)一人(ひとり)の魔法使(まはふづかひ)三千彦(みちひこ)と云(い)ふ大先生(だいせんせい)、082並(なら)びに求道(きうだう)居士(こじ)の二人(ふたり)の魔法使(まはふづかひ)、083それ故(ゆゑ)吾々(われわれ)一同(いちどう)に比較(ひかく)すれば先方(せんぱう)は弱者(じやくしや)で厶(ござ)いました。084併(しか)し乍(なが)らもはや今日(こんにち)は新(あらた)に三(さん)人(にん)の魔法使(まはふづかひ)の大先生(だいせんせい)が御(ご)出現(しゆつげん)遊(あそ)ばされ、085又(また)武器(ぶき)を携(たづさ)へたニコラスキャプテンが五十(ごじふ)の兵士(へいし)を引率(いんそつ)して館(やかた)を固(かた)くお守(まも)りになり、086三五教(あななひけう)の魔法使(まはふづかひ)と同盟(どうめい)遊(あそ)ばした上(うへ)は、087忽(たちま)ち地位(ちゐ)転倒(てんたう)して先方(せんぱう)は強者(きやうしや)となり、088吾々(われわれ)は弱者(じやくしや)の地位(ちゐ)に立(た)たねばならなくなりました。089加(くは)ふるにスマートと云(い)ふ、090あの猛犬(まうけん)大明神(だいみやうじん)は中々(なかなか)の強者(きやうしや)で厶(ござ)います。091併(しか)し乍(なが)ら弱者(じやくしや)は弱者(じやくしや)として独立(どくりつ)する訳(わけ)にはゆきませぬ。092会則(くわいそく)にある通(とほ)り、093弱(よわ)きを挫(くじ)き、094強(つよ)きに従(したが)ふのが吾々(われわれ)の本領(ほんりやう)で厶(ござ)います。095それ故(ゆゑ)吾々(われわれ)一同(いちどう)は神館(かむやかた)に至(いた)り心(こころ)から帰順(きじゆん)致(いた)し、096馬場(ばんば)に繋(つな)ぎあるワックス等(たち)に大痛棒(だいつうぼう)を加(くは)へ天晴(あつぱれ)融通(ゆうづう)を利(き)かし、097三五教(あななひけう)及(およ)びバラモン軍(ぐん)に帰順(きじゆん)の誠(まこと)を現(あら)はし、098身(み)の安全(あんぜん)を図(はか)るを以(もつ)て第一(だいいち)と心得(こころえ)ます。099皆(みな)さまの御(ご)意見(いけん)は如何(いかが)で厶(ござ)いますか』
100と呼(よば)はつた。101悪酔怪(あくすゐくわい)員(ゐん)を初(はじ)め、102その他(た)の連中(れんちう)はトンクの詭弁(きべん)に何(いづ)れも感心(かんしん)し、103一(いち)も二(に)もなく手(て)を拍(う)つて賛意(さんい)を表(へう)した。104トンクは此(この)態(てい)を見(み)て威猛高(ゐたけだか)になり、
105トンク『皆(みな)さま、106早速(さつそく)の御(ご)承知(しようち)、107トンク身(み)にとり満足(まんぞく)に存(ぞん)じます。108就(つい)てはワックスの会長(くわいちやう)を皆様(みなさま)より免(めん)じ、109新(あらた)に強者(きやうしや)を会長(くわいちやう)に任命(にんめい)されむ事(こと)を希望(きばう)致(いた)します。110その強者(きやうしや)とは申(まを)す迄(まで)もなく私(わたし)はトンクだと思(おも)ひます。111トンクに御(ご)賛成(さんせい)の方(かた)は手(て)を拍(う)つて下(くだ)さい。112不賛成(ふさんせい)の方(かた)は背(せな)を向(む)けて尻(しり)を捲(まく)つて下(くだ)さい。113何事(なにごと)も多数決(たすうけつ)で厶(ござ)いますから』
114 手(て)を拍(う)つもの半分(はんぶん)、115尻(しり)を捲(まく)つて背(せ)をそむけるもの半分(はんぶん)、116トンクは馬上(ばじやう)より之(これ)を眺(なが)めて、
117トンク『皆(みな)さま、118手(て)を拍(う)つて下(くだ)さる方(かた)が半分(はんぶん)、119尻(けつ)を捲(まく)つて反対(はんたい)を表(へう)する方(かた)が半分(はんぶん)と見(み)えます。120これではハンケツがつきませぬ。121何(なん)とか、122も一度(いちど)考(かんが)へ直(なほ)して頂(いただ)き度(た)う厶(ござ)います』
123 此(この)声(こゑ)と共(とも)に今度(こんど)は一人(ひとり)も残(のこ)らず黒(くろ)い尻(しり)を捲(まく)つてトンクの方(はう)に向(む)けた。124さうして群集(ぐんしふ)の中(なか)より『即(そく)ケツ否(ひ)ケツ』と叫(さけ)ぶものがある。125トンクは馬上(ばじやう)より歯(は)ぎしりをし乍(なが)ら、
126トンク『エー、127尻太異(けつたい)な事(こと)だな』
128 斯(か)かる所(ところ)へ驢馬(ろば)に跨(またが)りチヨク チヨクと此(この)場(ば)に現(あら)はれ来(き)たのはタンクであつた。129タンクはトランクの口(くち)を開(ひら)き、130金銀(きんぎん)の小玉(こだま)を掴(つか)んでは投(な)げ、131掴(つか)んでは投(な)げ、
132タンク『皆(みな)さま、133私(わたし)が悪酔怪(あくすゐくわい)の怪長(くわいちやう)の候補者(こうほしや)で厶(ござ)います。134今(いま)黄白(くわうはく)を斯(か)くの通(とほ)り撒(ま)き散(ち)らしますから十分(じふぶん)拾得(しふとく)競争(きやうさう)をやつて下(くだ)さい。135拾得(しふとく)された方(かた)は其(その)方(かた)の所有(しよいう)で厶(ござ)います。136其(その)代(かは)り神聖(しんせい)なる一票(いつぺう)を此(この)タンクにお与(あた)へ下(くだ)されむ事(こと)を希望(きばう)致(いた)します』
137と掴(つか)んでは投(な)げ、138掴(つか)んでは投(な)げ、139前後(ぜんご)左右(さいう)に駒(こま)を進(すす)めて残(のこ)らず万遍(まんべん)なく撒(ま)き散(ち)らして了(しま)つた。140トンクも手早(てばや)く馬(うま)から下(お)り、141矢庭(やには)に金銀(きんぎん)の小玉(こだま)を拾(ひろ)つては懐中(ふところ)につつ込(こ)み、142再(ふたた)び馬上(ばじやう)につつ立(た)ち選挙(せんきよ)の様子(やうす)を観望(くわんばう)して居(ゐ)る。143タンクは全部(ぜんぶ)黄白(くわうはく)を撒(ま)き散(ち)らし、144もはや欠(か)けたカンツも無(な)くなつて居(ゐ)た。145タンクは馬上(ばじやう)より雷声(らいせい)を張(は)り上(あ)げ、
146タンク『皆(みな)さま、147私(わたし)を怪長(くわいちやう)に選挙(せんきよ)して下(くだ)さいますまいか。148賛成(さんせい)の方(かた)は手(て)を拍(う)つて下(くだ)さい。149万一(まんいち)不賛成(ふさんせい)のお方(かた)は尻(しり)を捲(まく)つて屁(へ)を一発(いつぱつ)手向(たむ)けて頂(いただ)き度(た)い。150何程(なにほど)お尻(しり)を捲(まく)られても、151屁(へ)の出(で)ない方(かた)は賛成(さんせい)と認(みと)めます』
152とうまく孫呉(そんご)の屁法(へいはふ)で予防線(よばうせん)を張(は)つて了(しま)つた。153ここに半分(はんぶん)は手(て)を拍(う)ち半分(はんぶん)は尻(しり)を捲(まく)らず、154手(て)も拍(う)たず、155茫然(ばうぜん)として控(ひか)へて居(ゐ)る。156タンクは怪訝(けげん)な顔(かほ)して馬上(ばじやう)より様子(やうす)を窺(うかが)つて居(ゐ)た。157此(この)時(とき)トンクはタンクの撒(ま)いた金銀(きんぎん)を馬上(ばじやう)より見(み)せびらかし乍(なが)ら、
158トンク『皆(みな)さま、159最前(さいぜん)手(て)を拍(う)つて下(くだ)さつたお方(かた)は私(わたし)の賛成者(さんせいしや)と認(みと)めます。160今(いま)タンクさまに対(たい)して手(て)を拍(う)たず、161尻(しり)を向(む)けない方(かた)は中立者(ちうりつしや)と認(みと)めます。162その方(かた)に対(たい)して此(この)黄白(くわうはく)を撒(さん)ずる考(かんが)へですから賛成(さんせい)の方(かた)は手(て)を拍(う)つて下(くだ)さい。163今(いま)ここで撒(ま)き散(ち)らしますと、164二重取(にぢうど)りされると折角(せつかく)の賛成者(さんせいしや)の手(て)に入(い)りませぬから、165私(わたし)の宅(たく)でお渡(わた)ししませう。166少(すくな)くとも千(せん)両(りやう)の金(かね)はありますから百(ひやく)人(にん)に分配(ぶんぱい)しても十(じふ)両(りやう)づつは確(たしか)で厶(ござ)います。167さア一(いち)、168二(に)、169三(さん)で願(ねが)ひます』
170 今度(こんど)は如何(どう)したものか、171一人(ひとり)も残(のこ)らず尻(しり)を捲(まく)つて口屁(くちべ)をプウプウと鳴(な)らして居(ゐ)る。172中(なか)には尻(けつ)から黒(くろ)い湿(しめ)つぽい輪廓(りんくわく)の不完全(ふくわんぜん)な煙(けむり)を吐(は)き出(だ)す奴(やつ)も少(すこ)しはあつた。
173トンク『然(しか)らば拙者(せつしや)が副怪長(ふくくわいちやう)となり、174タンクさまを怪長(くわいちやう)に選(えら)んで下(くだ)さい。175さうすれば双方(さうはう)共(とも)顔(かほ)が立(た)ちますから』
176 大勢(おほぜい)の中(なか)から、
177『オーイ、178トンク、179貴様(きさま)の今(いま)持(も)つてる金(かね)は皆(みんな)タンクさまの撒(ま)いた金(かね)だ。180副怪長(ふくくわいちやう)に任(にん)じて欲(ほ)しけりや皆(みな)バラ撒(ま)くのだ。181そしたら副怪長(ふくくわいちやう)にしてやろう』
182トンク『成程(なるほど)然(しか)らば皆(みな)さまに撒(ま)き散(ち)らしますから、183よう拾(ひろ)はない人(ひと)は運命(うんめい)だと諦(あきら)めて下(くだ)さい。184兎(と)も角(かく)半数者(はんすうしや)以上(いじやう)の賛成(さんせい)があれば可(い)いのです』
185と懐(ふところ)より一(ひと)つも残(のこ)らず取(と)り出(いだ)し、186前後(ぜんご)左右(さいう)にまき散(ち)らして了(しま)つた。187此(この)潮時(しほどき)を見済(みす)まし、188タンクは大音声(だいおんじやう)、
189タンク『皆(みな)さま、190私(わたし)を怪長(くわいちやう)に選(えら)んで下(くだ)さつた事(こと)を有難(ありがた)く感謝(かんしや)します。191何(なん)と云(い)つても運動費(うんどうひ)が無(な)くては今日(こんにち)の世(よ)の中(なか)は駄目(だめ)です。192墓標(ぼへう)議員(ぎゐん)の事故(じこ)議員(ぎゐん)、193妥協(だけふ)議員(ぎゐん)にならうと思(おも)つても、194五万(ごまん)や十万(じふまん)の金(かね)が入(い)る時節(じせつ)ですから、195無一文(むいちもん)で議員(ぎゐん)にならう等(など)とは余(あま)り虫(むし)が良(よ)すぎます。196私(わたし)は副怪長(ふくくわいちやう)なんかは必要(ひつえう)はないと思(おも)ひます。197官(くわん)の為(ため)人(ひと)を選(えら)むのではなく、198人(ひと)の為(ため)に官(くわん)を作(つく)ると云(い)ふ事(こと)は最(もつと)も不利益(ふりえき)且(か)つ不経済(ふけいざい)、199秩序(ちつじよ)紊乱(ぶんらん)の端緒(たんちよ)を開(ひら)くもの私(わたし)は副怪長(ふくくわいちやう)の必要(ひつえう)はないと思(おも)ひます。200皆(みな)さま、201必要(ひつえう)と認(みと)めた方(かた)は手(て)を拍(う)つて下(くだ)さい、202不必要(ふひつえう)と認(みと)めた方(かた)は、203も一度(いちど)尻(しり)を捲(まく)つてトンクさまの方(はう)へ見(み)せて下(くだ)さい。204それを以(もつ)て貴方(あなた)等(がた)の意志(いし)を明(あきら)かに致(いた)します』
205 一同(いちどう)は一人(ひとり)も残(のこ)らず真黒(まつくろ)の尻(しり)を捲(まく)つてトンクの方(はう)へ尻(しり)をさし向(む)け、206御(ご)叮嚀(ていねい)にピシヤ ピシヤと黒(くろ)い臀肉(でんにく)を叩(たた)いて見(み)せた。207トンクはスゴスゴと驢馬(ろば)の尻(しり)を無性(むしやう)矢鱈(やたら)に叩(たた)き、208業腹(ごふばら)煮(に)やして何処(どこ)ともなく姿(すがた)を隠(かく)した。
209 これよりタンクは大勢(おほぜい)の前(まへ)に立(た)ち凱旋歌(がいせんか)を歌(うた)ひ乍(なが)ら神館(かむやかた)をさして練(ね)り込(こ)んで行(ゆ)く。210大勢(おほぜい)は擦鉦(すりがね)を叩(たた)き、211歌(うた)に合(あは)せて拍子(ひやうし)をとり跟(つ)いて行(ゆ)く。
212『扨(さ)ても悪酔怪(あくすゐくわい)員(ゐん)は
213弱(よわ)きを挫(くじ)き強者(きやうしや)には
214恐(おそ)れて従(したが)ふ卑怯者(ひけふもの)
215平安(へいあん)無事(ぶじ)が第一(だいいち)だ
216強(つよ)い奴(やつ)にはドツと逃(に)げ
217弱(よわ)い奴(やつ)にはドツと行(ゆ)け
218これが軍(いくさ)の駆引(かけひき)だ
219チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
220いやいや軍(いくさ)のみでない
221万事(ばんじ)万端(ばんたん)その通(とほ)り
222どんな商売(しやうばい)致(いた)しても
223小(ちひ)さい店(みせ)を踏(ふ)み倒(たふ)し
224小(ちひ)さい資本(しほん)の会社(くわいしや)をば
225片(かた)ツ端(ぱし)から押(お)し倒(たふ)し
226大(おほ)きな奴(やつ)には尾(を)を巻(ま)いて
227暫(しば)らく忍(しの)び時(とき)を待(ま)ち
228いつとはなしに強(つよ)くなり
229大(おほ)きくなつたその時(とき)に
230己(おの)が所信(しよしん)を貫徹(くわんてつ)し
231世界(せかい)の強者(きやうしや)と崇(あが)められ
232優勝(いうしよう)劣敗(れつぱい)経(たて)となし
233弱肉(じやくにく)強食(きやうしよく)緯(ぬき)として
234此(この)世(よ)を渡(わた)るが利口者(りこうもの)
235チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
236神(かみ)の館(やかた)に現(あれ)ませる
237三五教(あななひけう)の魔法使(まはふづかひ)
238三千彦(みちひこ)さまは弱(よわ)いとは
239云(い)へど其(その)実(じつ)強(つよ)い人(ひと)
240神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の魔法(まはふ)をば
241使(つか)つて吾(われ)等(ら)を苦(くる)しめつ
242何処(どこ)々々(どこ)迄(まで)もやり通(とほ)す
243こんなお方(かた)に逆(さか)らうて
244どうして吾(わが)身(み)が立(た)つものか
245チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
246弱(よわ)きを挫(くじ)き強(つよ)きをば
247助(たす)ける吾々(われわれ)怪員(くわいゐん)は
248ワックス、エキス、ヘルマンや
249エルの司(つかさ)を虐(しへた)げて
250悪酔怪(あくすゐくわい)の至誠(しせい)をば
251現(あら)はし館(やかた)に立向(たちむか)ひ
252そこはそれそれ都合(つがふ)よく
253頭(あたま)を下(さ)げて胡麻(ごま)を摺(す)り
254身(み)の安全(あんぜん)を図(はか)るのだ
255こんな神謀(しんぼう)鬼策(きさく)をば
256もしもトンクが怪長(くわいちやう)なら
257どうして捻(ひね)り出(だ)されよか
258智慧(ちゑ)の袋(ふくろ)のタンクさま
259神謀(しんぼう)鬼策(きさく)の妙案(めうあん)は
260胸(むね)の袋(ふくろ)にタンク山(さん)に
261蔵(しま)つて厶(ござ)るぞ皆(みな)さまよ
262心(こころ)を丈夫(ぢやうぶ)に持(も)つが良(よ)い
263チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
264早(はや)くも馬場(ばんば)に近(ちか)づいた
265皆(みな)さま声(こゑ)を打揃(うちそろ)へ
266三五教(あななひけう)やバラモンの
267神(かみ)の司(つかさ)の万歳(ばんざい)を
268ここから唱(とな)へ上(あ)げませう
269それに続(つづ)いてスマートの
270犬(いぬ)大明神(だいみやうじん)の万歳(ばんざい)を
271三唱(さんしやう)し乍(なが)ら進(すす)みませう
272チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
273ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
274叶(かな)はぬから叶(かな)はぬから
275目玉(めだま)飛(と)び出(だ)しましませよ
276朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
277月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
278仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
279強(つよ)きを助(たす)け弱(よわ)きをば
280挫(くじ)くが天地(てんち)の道理(だうり)ぞや
281大魚(たいぎよ)は小魚(せうぎよ)を呑(の)み喰(くら)ひ
282大獣(たいじう)は小獣(せうじう)を噛(か)み喰(くら)ひ
283強者(きやうしや)は弱者(じやくしや)を虐(しへた)げる
284富者(ふうしや)は貧者(ひんじや)をこき使(つか)ひ
285役人(やくにん)さまは平民(へいみん)を
286奴隷(どれい)の如(ごと)く足(あし)にかけ
287腮(あご)をしやくつて使(つか)ふのだ
288これが天地(てんち)の道理(だうり)ぞや
289必(かなら)ず迷(まよ)ふちやならないぞ
290チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン』
291と勝手(かつて)な熱(ねつ)を吹(ふ)き悠々(いういう)として驢馬(ろば)に跨(またが)り、292先頭(せんとう)に立(た)ち早(はや)くも門内(もんない)に進(すす)み入(い)る。
293(大正一二・三・二八 旧二・一二 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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