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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第58巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 玉石混淆
第1章 神風
第2章 多数尻
第3章 怪散
第4章 銅盥
第5章 潔別
第2篇 湖上神通
第6章 茶袋
第7章 神船
第8章 孤島
第9章 湖月
第3篇 千波万波
第10章 報恩
第11章 欵乃
第12章 素破抜
第13章 兎耳
第14章 猩々島
第15章 哀別
第16章 聖歌
第17章 怪物
第18章 船待
第4篇 猩々潔白
第19章 舞踏
第20章 酒談
第21章 館帰
第22章 獣婚
第23章 昼餐
第24章 礼祭
第25章 万歳楽
余白歌
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第58巻(酉の巻)
> 第3篇 千波万波 > 第13章 兎耳
<<< 素破抜
(B)
(N)
猩々島 >>>
第一三章
兎耳
(
うさぎみみ
)
〔一四八八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻
篇:
第3篇 千波万波
よみ(新仮名遣い):
せんぱばんぱ
章:
第13章 兎耳
よみ(新仮名遣い):
うさぎみみ
通し章番号:
1488
口述日:
1923(大正12)年03月29日(旧02月13日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ヤッコスはダルの耳を引っ張りながら、弁解を歌に乗せて述べ立てる。ダルは耳を放せとヤッコスに怒鳴りたてた。ヤッコスがダルの耳を放さないので、メートが助けに入った。するとハールがヤッコスの助太刀に入る。
伊太彦は見かねて大喝一声、ヤッコスに耳を放すように促し、やっとヤッコスは話した。今度はメートがヤッコスの耳を掴んで引っ張る。伊太彦がまたしてもメートをなだめてようやく離れ、喧嘩が終わった。
ダルとヤッコスは不機嫌な顔をして黙り込んでいる。船頭のイールは流ちょうな声で、今の喧嘩のありさまを歌いだした。船は波を分けて進んで行く。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5813
愛善世界社版:
157頁
八幡書店版:
第10輯 426頁
修補版:
校定版:
168頁
普及版:
61頁
初版:
ページ備考:
001
ヤッコスは
自分
(
じぶん
)
の
弁解
(
べんかい
)
を
兼
(
か
)
ね、
002
且
(
か
)
つダルが
自分
(
じぶん
)
の
内心
(
ないしん
)
を
素破
(
すつぱ
)
抜
(
ぬ
)
いた
其
(
その
)
恨
(
うらみ
)
に
報
(
むく
)
いむと、
003
下女
(
げぢよ
)
が
鍋
(
なべ
)
の
耳
(
みみ
)
を
掴
(
つか
)
んだやうな
調子
(
てうし
)
で
抱
(
かか
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
004
歌
(
うた
)
の
節
(
ふし
)
につれ、
005
ダルの
首
(
くび
)
を
しやくり
つつ
臭
(
くさ
)
い
息
(
いき
)
を
顔
(
かほ
)
に
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もなく
吹
(
ふ
)
きかけ
呶鳴
(
どな
)
り
初
(
はじ
)
めた。
006
ヤッコス『エーエ、
007
憚
(
はばか
)
り
乍
(
なが
)
ら
一寸
(
ちよつと
)
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
りまして、
008
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の、
009
大神徳
(
だいしんとく
)
に
帰順
(
きじゆん
)
した、
010
ヤッコス
司
(
つかさ
)
が
一場
(
いちぢやう
)
の、
011
お
経
(
きやう
)
の
文句
(
もんく
)
を
唱
(
とな
)
へ
上
(
あ
)
げますならば、
012
チヤカポコ チヤカポコ ポコポコポコ』
013
ダル『こりやこりや、
014
さう
耳
(
みみ
)
をしやくつては
痛
(
いた
)
いぢやないか、
015
放
(
はな
)
さぬかい』
016
ヤッコス『エー、
017
なかなかなかなか、
018
此
(
この
)
耳
(
みみ
)
放
(
はな
)
してなりませうか。
019
ズ
蟹
(
がに
)
のやうに
泡
(
あわ
)
をふくの、
020
目玉
(
めだま
)
が
一寸
(
いつすん
)
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
したのと、
021
善言
(
ぜんげん
)
美辞
(
びじ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の、
022
教
(
をしへ
)
を
罵
(
ののし
)
り
聞
(
き
)
き
乍
(
なが
)
ら、
023
悪言
(
あくげん
)
暴語
(
ばうご
)
のダルの
口
(
くち
)
、
024
一
(
ひと
)
つ
懲
(
こら
)
してやらなけりや、
025
私
(
わたし
)
の
男
(
をとこ
)
が
立
(
た
)
ちませぬ、
026
自分
(
じぶん
)
の
心
(
こころ
)
に
引
(
ひ
)
き
比
(
くら
)
べ、
027
正真
(
しやうしん
)
正銘
(
しやうめい
)
正直
(
しやうぢき
)
の、
028
ヤッコスを
捉
(
つか
)
まへて、
029
大勢
(
おほぜい
)
さまの
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
で、
030
讒言
(
ざんげん
)
するとは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
、
031
決
(
けつ
)
して
許
(
ゆる
)
しはせぬほどに、
032
こりやこりや がりぼし
瘠
(
やせ
)
つぽし、
033
バツチヨ
笠
(
がさ
)
のやうな
態
(
ざま
)
をして、
034
骨
(
ほね
)
と
皮
(
かは
)
とになり
乍
(
なが
)
ら、
035
腮
(
あご
)
を
叩
(
たた
)
くも
程
(
ほど
)
がある、
036
貴様
(
きさま
)
の
耳
(
みみ
)
は
兎耳
(
うさぎみみ
)
、
037
握
(
にぎ
)
つた
上
(
うへ
)
は
中々
(
なかなか
)
に、
038
放
(
はな
)
しはせぬぞこりやどうだ、
039
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まぬ
事
(
こと
)
許
(
ばか
)
り、
040
申
(
まを
)
しましたと
皆
(
みな
)
さまの、
041
お
前
(
まへ
)
でお
詫
(
わび
)
をすればよし、
042
性懲
(
しやうこり
)
もなく
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も、
043
頑張
(
ぐわんば
)
り
散
(
ち
)
らす
其
(
その
)
時
(
とき
)
は、
044
俺
(
おれ
)
も
承知
(
しようち
)
をせぬ
程
(
ほど
)
に、
045
サアサアどうだ
がりつぽし
、
046
貴様
(
きさま
)
の
目玉
(
めだま
)
は
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
、
047
道案内
(
みちあんない
)
の
表札
(
へうさつ
)
を、
048
立
(
た
)
てて
置
(
お
)
かねば
分
(
わか
)
らない、
049
目玉
(
めだま
)
が
奥
(
おく
)
に
引
(
ひ
)
つ
込
(
こ
)
んで、
050
おまけに
白眼
(
しろめ
)
が
七八分
(
しちはちぶ
)
、
051
これでも
矢張
(
やはり
)
人間
(
にんげん
)
の、
052
面
(
つら
)
ぢやと
思
(
おも
)
ふて
居
(
ゐ
)
よるのか、
053
大化物
(
おほばけもの
)
か
馬鹿者
(
ばかもの
)
か、
054
合点
(
がつてん
)
のゆかぬ
馬鹿者
(
ばかもの
)
ぢや、
055
貴様
(
きさま
)
の
眉
(
まゆ
)
は
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
、
056
千切
(
ちぎ
)
れ
千切
(
ちぎ
)
れのベラサク
眉
(
まゆ
)
、
057
毛虫
(
けむし
)
のとまつたやうぢやぞや、
058
鼻
(
はな
)
の
柱
(
はしら
)
は
胡坐
(
あぐら
)
かき、
059
不整頓
(
ふせいとん
)
なる
小鼻
(
こばな
)
奴
(
め
)
が、
060
眼鏡
(
めがね
)
のやうについて
居
(
ゐ
)
る、
061
口
(
くち
)
は
鰐口
(
わにぐち
)
歯
(
は
)
は
出歯
(
でば
)
で、
062
加之
(
おまけ
)
に
前歯
(
まへば
)
が
欠
(
か
)
げて
居
(
ゐ
)
る、
063
腮
(
あご
)
の
短
(
みじか
)
いこの
面
(
つら
)
は、
064
譬方
(
たとへがた
)
ない
畜生面
(
ちくしやうづら
)
、
065
こんな
口
(
くち
)
からベラベラと、
066
何
(
なん
)
の
誠
(
まこと
)
が
喋舌
(
しやべら
)
りよか、
067
身
(
み
)
の
程
(
ほど
)
知
(
し
)
らぬもあんまりぢや、
068
こりやこりやも
一
(
ひと
)
つ
揺
(
ゆす
)
らうか、
069
痛
(
いた
)
いと
云
(
い
)
つても
俺
(
おれ
)
の
耳
(
みみ
)
、
070
決
(
けつ
)
して
痛
(
いた
)
くはない
程
(
ほど
)
に、
071
アハハハハツハ、
072
アハハハハ、
073
呆
(
あき
)
れて
物
(
もの
)
が
云
(
い
)
はれない、
074
イヒヒヒヒツヒ、
075
イヒヒヒヒ。
076
歪
(
ゆが
)
み
面
(
づら
)
陰気
(
いんき
)
な
顔
(
かほ
)
の
真中
(
まんなか
)
に、
077
歪
(
ゆが
)
んだ
鼻
(
はな
)
がドツカリと、
078
胡床
(
あぐら
)
をかいて
居
(
ゐ
)
やがるわ、
079
ウフフフフツフ
兎耳
(
うさぎみみ
)
、
080
驢馬
(
ろば
)
の
土産
(
みやげ
)
にやつたなら、
081
定
(
さだ
)
めし
満足
(
まんぞく
)
するだらう、
082
エヘヘヘヘツヘ、
083
エヘヘヘヘ、
084
偉相
(
えらさう
)
に
吐
(
ぬか
)
す
減
(
へら
)
ず
口
(
ぐち
)
、
085
四角
(
しかく
)
い
口
(
くち
)
を
不行儀
(
ふぎやうぎ
)
に、
086
厚
(
あつ
)
い
唇
(
くちびる
)
つき
出
(
だ
)
して、
087
馬来
(
マレー
)
人種
(
じんしゆ
)
がやつて
来
(
き
)
て、
088
運上
(
うんじやう
)
とるやうな
妙
(
めう
)
な
口
(
くち
)
、
089
オホホホホツホ、
090
オホホホホ、
091
おづおづ
致
(
いた
)
して
慄
(
ふる
)
うてる、
092
骨
(
ほね
)
と
皮
(
かは
)
との
がり
坊子
(
ばうし
)
、
093
どこを
押
(
お
)
したらあんな
事
(
こと
)
、
094
ようまあ
吐
(
ぬか
)
せたものだなア、
095
貴様
(
きさま
)
は
人
(
ひと
)
に
禍
(
わざはひ
)
を、
096
被
(
き
)
せて
喜
(
よろこ
)
ぶ
曲津
(
まがつ
)
神
(
かみ
)
、
097
滅多
(
めつた
)
な
事
(
こと
)
を
喋舌
(
しやべ
)
りよると、
098
此
(
この
)
儘
(
まま
)
承知
(
しようち
)
しはせぬぞ、
099
俺
(
おれ
)
でも
矢張
(
やつぱり
)
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
だ。
100
一時
(
いつとき
)
雲
(
くも
)
に
包
(
つつ
)
まれて、
101
悪魔
(
あくま
)
の
擒
(
とりこ
)
となつたとて、
102
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
それで
居
(
ゐ
)
るものか、
103
馬鹿
(
ばか
)
にするのも
程
(
ほど
)
がある、
104
ま
一度
(
いちど
)
腮
(
あご
)
を
叩
(
たた
)
いて
見
(
み
)
よれ、
105
此
(
この
)
儘
(
まま
)
許
(
ゆる
)
しはせぬ
程
(
ほど
)
に、
106
チヤカポコ チヤカポコ』
107
ダル『こりや、
108
よい
加減
(
かげん
)
に
放
(
はな
)
さぬかい、
109
耳
(
みみ
)
が
千切
(
ちぎ
)
れるぢやないか。
110
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
企
(
たく
)
みを
云
(
い
)
ひ
当
(
あて
)
られて
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つのも
最
(
もつと
)
もだが、
111
貴様
(
きさま
)
も
茲
(
ここ
)
が
好
(
よ
)
い
改心
(
かいしん
)
のし
時
(
どき
)
だ。
112
これ
痛
(
いた
)
いわい、
113
何
(
なに
)
しやがるのだ、
114
放
(
はな
)
さぬかい』
115
ヤッコス『
放
(
はな
)
さぬ
放
(
はな
)
さぬ
放
(
はな
)
さぬぞ、
116
このヤッコスはどこ
迄
(
まで
)
も、
117
耳
(
みみ
)
の
千切
(
ちぎれ
)
る
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
、
118
因縁
(
いんねん
)
説
(
と
)
いて
聞
(
き
)
かさねば、
119
どうしても
胸
(
むね
)
が
治
(
おさ
)
まらぬ、
120
これや これや どうだダルの
奴
(
やつ
)
、
121
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
申
(
まをし
)
た
悪垂口
(
あくたれぐち
)
、
122
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まぬ
嘘
(
うそ
)
許
(
ばか
)
り、
123
申
(
まをし
)
ましたと
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
し、
124
玉国別
(
たまくにわけ
)
や
其
(
その
)
外
(
ほか
)
の、
125
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
の
疑
(
うたがひ
)
を、
126
晴
(
は
)
らして
呉
(
く
)
れよ
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も、
127
俺
(
おれ
)
は
此
(
この
)
耳
(
みみ
)
放
(
はな
)
さない、
128
何
(
なん
)
だい
涙
(
なみだ
)
を
出
(
だ
)
しやがつて、
129
貴様
(
きさま
)
は
卑怯
(
ひけふ
)
な
奴
(
やつ
)
だなア』
130
側
(
そば
)
に
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
た、
131
メートは
耐
(
たま
)
り
兼
(
か
)
ね、
132
又
(
また
)
後
(
うしろ
)
から、
133
ヤッコスの
両方
(
りやうはう
)
の
耳
(
みみ
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り、
134
メート『こりやこりや
悪漢
(
わるもの
)
ヤッコスよ、
135
乱暴
(
らんばう
)
な
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
すなよ、
136
吾
(
わが
)
身
(
み
)
を
抓
(
つめ
)
つて
人
(
ひと
)
の
痛
(
いた
)
さを
知
(
し
)
れと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
137
昔
(
むかし
)
の
聖者
(
せいじや
)
の
御教
(
みをしへ
)
だ、
138
俺
(
おれ
)
も
貴様
(
きさま
)
の
両耳
(
りやうみみ
)
を、
139
握
(
にぎ
)
つて
思
(
おも
)
ひ
知
(
し
)
らしてやる、
140
これやこれや
痛
(
いた
)
いか
痛
(
いた
)
いだらう、
141
貴様
(
きさま
)
がダルの
耳朶
(
みみたぶ
)
を、
142
謝
(
あやま
)
り
入
(
い
)
つて
放
(
はな
)
す
迄
(
まで
)
、
143
此
(
この
)
耳
(
みみ
)
はどうしても
放
(
はな
)
さない、
144
痛
(
いた
)
いか
痛
(
いた
)
いかこれやどうだ、
145
貴様
(
きさま
)
の
耳
(
みみ
)
は
驢馬
(
ろば
)
の
耳
(
みみ
)
、
146
内耳
(
うちみみ
)
も
外耳
(
そとみみ
)
もむしやむしやと、
147
獣
(
けもの
)
のやうな
毛
(
け
)
が
生
(
は
)
へて、
148
気分
(
きぶん
)
のよくない
手触
(
てざは
)
りだ、
149
胡麻煎
(
ごまいり
)
頭
(
あたま
)
を
持
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら、
150
口
(
くち
)
の
先
(
さき
)
にて
胡麻
(
ごま
)
を
摺
(
す
)
り、
151
一時逃
(
いちじのが
)
れに
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
、
152
吐
(
ぬか
)
した
所
(
ところ
)
で
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は、
153
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
迄
(
まで
)
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
だぞ』
154
ヤッコスはメートに
背
(
せな
)
から
耳
(
みみ
)
を
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
握
(
にぎ
)
られ
頭
(
あたま
)
をしやくられ、
155
涙
(
なみだ
)
を
流
(
なが
)
し
乍
(
なが
)
ら
猶
(
なほ
)
も
執念深
(
しふねんぶか
)
く、
156
ダルの
両耳
(
りやうみみ
)
を
握
(
にぎ
)
つて
放
(
はな
)
さない。
157
見
(
み
)
るに
見兼
(
みかね
)
て、
158
ハールは
又
(
また
)
両耳
(
りやうみみ
)
を
掴
(
つか
)
もうとする。
159
伊太彦
(
いたひこ
)
は
大喝
(
だいかつ
)
一声
(
いつせい
)
、
160
伊太
(
いた
)
『こりやこりや、
161
ヤッコス、
162
何
(
なに
)
乱暴
(
らんばう
)
な
事
(
こと
)
をするのだ、
163
さう
耳
(
みみ
)
を
掴
(
つか
)
まなくても
話
(
はなし
)
は
出来
(
でき
)
るぢやないか、
164
サア
早
(
はや
)
く
放
(
はな
)
さないか』
165
ヤッコスは
不承
(
ふしよう
)
無精
(
ぶしよう
)
に『ハイ』と
云
(
い
)
つたきりダルの
耳
(
みみ
)
を
放
(
はな
)
した。
166
ダル『アハハハハハ、
167
態
(
ざま
)
見
(
み
)
い、
168
痛
(
いた
)
からう。
169
オイ、
170
メート
確
(
しつか
)
り
引張
(
ひつぱ
)
つてやつて
呉
(
く
)
れ、
171
大分
(
だいぶん
)
此奴
(
こいつ
)
の
耳
(
みみ
)
は
金挺
(
かなてこ
)
だから、
172
少々
(
せうせう
)
片
(
かた
)
つ
方
(
ぱう
)
位
(
ぐらゐ
)
ちぎつたつて、
173
神経
(
しんけい
)
が
通
(
かよ
)
つて
居
(
ゐ
)
ないから、
174
痛
(
いた
)
がる
気遣
(
きづか
)
ひは
無
(
な
)
からうよ』
175
メート『よし、
176
お
前
(
まへ
)
の
命令
(
めいれい
)
だ、
177
どうしても
放
(
はな
)
すものか、
178
もう
斯
(
か
)
うなれば
蟹
(
かに
)
に
手
(
て
)
を
挟
(
はさ
)
まれたも
同様
(
どうやう
)
だ。
179
鼈
(
すつぽん
)
に
噛
(
か
)
まれたも
同様
(
どうやう
)
だ、
180
千切
(
ちぎ
)
れる
所
(
ところ
)
まで
放
(
はな
)
すものか』
181
ヤッコス『アイタタタタ、
182
これメート、
183
俺
(
おれ
)
も
放
(
はな
)
したのだから、
184
貴様
(
きさま
)
も
放
(
はな
)
して
呉
(
く
)
れ』
185
メート『
痛
(
いた
)
むやうに
引
(
ひ
)
つぱつて
居
(
ゐ
)
るのだ。
186
未
(
ま
)
だ
宣伝使
(
せんでんし
)
の
命令
(
めいれい
)
が
下
(
くだ
)
らないから
命令
(
めいれい
)
の
下
(
くだ
)
るまで、
187
がりぼし
の
手
(
て
)
で
引
(
ひ
)
つ
張
(
ぱ
)
つてやる』
188
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
引張
(
ひつぱ
)
る。
189
其
(
その
)
度
(
たび
)
毎
(
ごと
)
に
鮒
(
ふな
)
が
泥
(
どろ
)
に
酔
(
よ
)
うたやうに、
190
パクパクと
歯並
(
はなみ
)
の
悪
(
わる
)
い
口
(
くち
)
を
開閉
(
かいへい
)
して
居
(
ゐ
)
る。
191
伊太
(
いた
)
『オイ、
192
メート、
193
もうよい
加減
(
かげん
)
に
放
(
はな
)
してやれ、
194
此奴
(
こいつ
)
は
吾
(
わが
)
身
(
み
)
知
(
し
)
らずぢやない、
195
耳
(
みみ
)
知
(
し
)
らずだから、
196
人
(
ひと
)
の
耳
(
みみ
)
を
直
(
すぐ
)
に
狙
(
ねら
)
ふのだ。
197
耳
(
みみ
)
ばかりかと
思
(
おも
)
へば
睾丸
(
きんたま
)
狙
(
ねら
)
ひだ。
198
皆
(
みな
)
よく
気
(
き
)
をつけたらよからうぞ』
199
メート『そんなら
放
(
はな
)
してやりませうか。
200
大分
(
だいぶ
)
に
耳
(
みみ
)
が、
201
伊太彦
(
いたひこ
)
さまだと
見
(
み
)
えますわい、
202
アハハハハハ』
203
伊太
(
いた
)
『
傍
(
はた
)
の
見
(
み
)
る
目
(
め
)
もいたいたしい、
204
まア
見直
(
みなほ
)
し
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
して
許
(
ゆる
)
してやるがよからう』
205
メート『ヤッコスが
耳
(
みみ
)
引張
(
ひつぱ
)
られ
顔
(
かほ
)
しかめ
206
ああ
伊太彦
(
いたひこ
)
に
救
(
すく
)
はれにける。
207
伊太
(
いた
)
々々
(
いた
)
し
伊太彦
(
いたひこ
)
さまのお
情
(
なさけ
)
を
208
守
(
まも
)
りて
耳
(
みみ
)
を
放
(
はな
)
す
惜
(
をし
)
さよ』
209
と
歌
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
つて
耳
(
みみ
)
をパツと
放
(
はな
)
した。
210
ヤッコスの
耳
(
みみ
)
はメートの
堅
(
かた
)
い
爪
(
つめ
)
が
深
(
ふか
)
く
這入
(
はい
)
り
込
(
こ
)
んだと
見
(
み
)
えて、
211
血
(
ち
)
をぼとりぼとりと
滴
(
た
)
らしながら、
212
残念
(
ざんねん
)
さうにメートの
横顔
(
よこがほ
)
を
睨
(
ね
)
めつけて
居
(
ゐ
)
る。
213
伊太彦
(
いたひこ
)
『ヤッコスに
耳
(
みみ
)
つかまれたダルさまは
214
目
(
め
)
口
(
くち
)
鼻
(
はな
)
迄
(
まで
)
ゆがめつるかも。
215
渋面
(
じうめん
)
を
作
(
つく
)
つて
涙
(
なみだ
)
ぽろぽろと
216
腮辺
(
しへん
)
にダルの
顔
(
かほ
)
の
憐
(
あはれ
)
さ。
217
後
(
うしろ
)
から
二
(
ふた
)
つの
耳
(
みみ
)
を
引
(
ひ
)
つ
張
(
ぱ
)
られ
218
メート
鼻
(
はな
)
とをむけむけとする』
219
メート『
此
(
この
)
男
(
をとこ
)
メートの
旅
(
たび
)
に
送
(
おく
)
らむと
220
思
(
おも
)
ふ
矢先
(
やさき
)
に
伊太彦
(
いたひこ
)
の
声
(
こゑ
)
。
221
伊太彦
(
いたひこ
)
の
鶴
(
つる
)
の
一声
(
ひとこゑ
)
拒
(
こば
)
まれず
222
無念
(
むねん
)
ながらも
耳
(
みみ
)
放
(
はな
)
しけり』
223
ヤッコス『
人
(
ひと
)
の
耳
(
みみ
)
掴
(
つか
)
んで
見
(
み
)
ても
痛
(
いた
)
くなし
224
されどヤッコス
耳
(
みみ
)
は
痛
(
いた
)
かり。
225
神経
(
しんけい
)
の
通
(
かよ
)
はぬ
耳
(
みみ
)
か
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
り
226
ダルを
引
(
ひ
)
けども
痛
(
いた
)
くなかりし。
227
吾
(
わが
)
耳
(
みみ
)
は
温
(
ぬく
)
い
血潮
(
ちしほ
)
が
通
(
かよ
)
つて
居
(
ゐ
)
る
228
引
(
ひ
)
かれた
時
(
とき
)
の
耳
(
みみ
)
の
痛
(
いた
)
さよ』
229
耳
(
みみ
)
の
喧嘩
(
けんくわ
)
は
漸
(
やうや
)
く
済
(
す
)
んだ。
230
ダル、
231
ヤッコス
両人
(
りやうにん
)
は、
232
不機嫌
(
ふきげん
)
な
顔
(
かほ
)
して
黙
(
だま
)
り
込
(
こ
)
んで
仕舞
(
しま
)
つた。
233
船頭
(
せんどう
)
のイールは、
234
広
(
ひろ
)
き
湖原
(
うなばら
)
の
風
(
かぜ
)
に
曝
(
さら
)
された
流暢
(
りうちやう
)
な
声
(
こゑ
)
で
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
235
イール『ダルとヤッコス
二人
(
ふたり
)
の
喧嘩
(
けんくわ
)
236
耳兎
(
みみづく
)
兎
(
うさぎ
)
のゆがみ
合
(
あ
)
い
237
浪
(
なみ
)
はどんどん
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
る
238
耳
(
みみ
)
の
鼓膜
(
こまく
)
をひびかせて
239
聞
(
き
)
くも
怖
(
おそ
)
ろしヤッコスの
企
(
たく
)
み
240
ばらすダルさまは
面白
(
おもしろ
)
い
241
痛
(
いた
)
い
痛
(
いた
)
いと
互
(
たがひ
)
に
耳
(
みみ
)
を
242
引
(
ひ
)
いて
苦
(
くる
)
しむ
浪
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
243
耳
(
みみ
)
の
痛
(
いた
)
いよな
小言
(
こごと
)
を
聞
(
き
)
いて
244
又
(
また
)
もや
痛
(
いた
)
い
程
(
ほど
)
耳
(
みみ
)
ひかれ
245
目
(
め
)
鼻
(
はな
)
口
(
くち
)
耳
(
みみ
)
眉毛
(
まゆげ
)
のおきば
246
並
(
なら
)
べ
立
(
た
)
てたる
面黒
(
おもくろ
)
さ
247
顔
(
かほ
)
はお
猿
(
さる
)
で
心
(
こころ
)
は
鬼
(
おに
)
よ
248
やがて
鴉
(
からす
)
が
婿
(
むこ
)
にとる
249
長
(
なが
)
い
船路
(
ふなぢ
)
を
辷
(
すべ
)
りて
行
(
ゆ
)
けば
250
船
(
ふね
)
の
中
(
うち
)
にもおとし
穴
(
あな
)
251
人
(
ひと
)
を
陥
(
おとし
)
て
自分
(
じぶん
)
の
望
(
のぞ
)
み
252
経
(
たて
)
と
緯
(
よこ
)
との
悪企
(
わるだく
)
み
253
百
(
ひやく
)
里
(
り
)
二百
(
にひやく
)
里
(
り
)
遠
(
とほ
)
くはないが
254
神
(
かみ
)
の
御国
(
みくに
)
は
近
(
ちか
)
くない
255
西
(
にし
)
は
照国
(
てるくに
)
東
(
ひがし
)
は
木国
(
きくに
)
256
北
(
きた
)
はテルモン
南
(
みなみ
)
はイヅミ
257
中
(
なか
)
に
漂
(
ただよ
)
ふキヨの
湖
(
うみ
)
』
258
と
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
259
湧
(
わ
)
き
返
(
かへ
)
るやうな、
260
暑
(
あつ
)
い
浪
(
なみ
)
を
分
(
わ
)
けて
行
(
ゆ
)
く。
261
(
大正一二・三・二九
旧二・一三
於皆生温泉浜屋
加藤明子
録)
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