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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第58巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 玉石混淆
第1章 神風
第2章 多数尻
第3章 怪散
第4章 銅盥
第5章 潔別
第2篇 湖上神通
第6章 茶袋
第7章 神船
第8章 孤島
第9章 湖月
第3篇 千波万波
第10章 報恩
第11章 欵乃
第12章 素破抜
第13章 兎耳
第14章 猩々島
第15章 哀別
第16章 聖歌
第17章 怪物
第18章 船待
第4篇 猩々潔白
第19章 舞踏
第20章 酒談
第21章 館帰
第22章 獣婚
第23章 昼餐
第24章 礼祭
第25章 万歳楽
余白歌
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霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
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第58巻(酉の巻)
> 第2篇 湖上神通 > 第6章 茶袋
<<< 潔別
(B)
(N)
神船 >>>
第六章
茶袋
(
ちやぶくろ
)
〔一四八一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻
篇:
第2篇 湖上神通
よみ(新仮名遣い):
こじょうじんつう
章:
第6章 茶袋
よみ(新仮名遣い):
ちゃぶくろ
通し章番号:
1481
口述日:
1923(大正12)年03月28日(旧02月12日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
三千彦は先に立ってテルモン山の中腹を南へ下って行く。比較的険峻な坂道を拍子をとって下って行く。三千彦は一同に気を付けるよう促す宣伝歌を歌う。真純彦と伊太彦は、三千彦が妻を同道していることをからかう歌を歌ってなごませる。
デビス姫は、これから悪魔の征討に向かう神業に夫と共に参加することの決意を歌に歌い、真純彦と伊太彦のからかいに釘を刺した。こうして、さすがの坂道もにぎにぎしく笑いに興じながら下って行った。
ようやくにして三里の急坂を越えてテルモン湖のほとりについた。ここは東西百里、南北二百里の大湖水で、魚鱗の波をたたえて洋々として静かに横たわっている。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5806
愛善世界社版:
73頁
八幡書店版:
第10輯 398頁
修補版:
校定版:
79頁
普及版:
29頁
初版:
ページ備考:
001
三千彦
(
みちひこ
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ちテルモン
山
(
ざん
)
の
中腹
(
ちうふく
)
を
南
(
みなみ
)
へ
南
(
みなみ
)
へと
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
002
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
嶮峻
(
けんしゆん
)
な
坂道
(
さかみち
)
で
足許
(
あしもと
)
に
少
(
すこ
)
しも
目放
(
めはな
)
しが
出来
(
でき
)
ぬ。
003
金剛杖
(
こんがうづゑ
)
を
力
(
ちから
)
に
指
(
ゆび
)
の
先
(
さき
)
に
全身
(
ぜんしん
)
の
重味
(
おもみ
)
を
集中
(
しふちう
)
し
乍
(
なが
)
ら
拍子
(
ひやうし
)
をとつて
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
004
三千彦
(
みちひこ
)
『
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
005
如何
(
いか
)
なる
敵
(
てき
)
も
恐
(
おそ
)
れねど
006
板
(
いた
)
を
立
(
た
)
てたる
坂道
(
さかみち
)
の
007
ヌルリヌルリと
辷
(
すべ
)
るのは
008
誠
(
まこと
)
に
閉口
(
へいこう
)
仕
(
つかまつ
)
る
009
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
よ
010
デビスの
姫
(
ひめ
)
よ
気
(
き
)
をつけて
011
転倒
(
てんたう
)
せぬ
様
(
やう
)
になされませ
012
月
(
つき
)
の
都
(
みやこ
)
に
立向
(
たちむか
)
ふ
013
神力
(
しんりき
)
無双
(
むさう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
014
其
(
その
)
首途
(
かどいで
)
に
過
(
あやま
)
つて
015
もしも
転倒
(
てんたう
)
したならば
016
それこそ
前途
(
ぜんと
)
が
気
(
き
)
にかかる
017
御幣
(
ごへい
)
を
担
(
かつ
)
ぐぢやなけれども
018
今日
(
けふ
)
は
大切
(
だいじ
)
の
出陣
(
しゆつぢん
)
も
019
変
(
かは
)
らぬ
様
(
やう
)
な
旅
(
たび
)
の
空
(
そら
)
020
天津
(
あまつ
)
御空
(
みそら
)
に
目
(
め
)
をやらず
021
暫
(
しば
)
らく
足
(
あし
)
の
爪先
(
つまさき
)
に
022
眼
(
まなこ
)
を
注
(
そそ
)
ぎ
気
(
き
)
を
配
(
くば
)
り
023
ウントコドツコイ、ズウズウズウ
024
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
足
(
あし
)
滑
(
すべ
)
り
025
ドスンと
搗
(
つ
)
いた
尻餅
(
しりもち
)
は
026
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
前途
(
ぜんと
)
を
祝
(
しゆく
)
すべく
027
空
(
そら
)
に
輝
(
かがや
)
く
望月
(
もちづき
)
の
028
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
御
(
おん
)
守
(
まも
)
り
029
前途
(
ぜんと
)
必
(
かなら
)
ず
吉祥
(
きつしやう
)
と
030
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
し
031
足
(
あし
)
もワナワナ
下
(
くだ
)
り
坂
(
ざか
)
032
面白
(
おもしろ
)
をかしく
脛
(
すね
)
笑
(
わら
)
ふ
033
今日
(
けふ
)
の
旅出
(
たびで
)
の
勇
(
いさ
)
ましさ
034
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
035
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
036
梢
(
こずゑ
)
に
蝉
(
せみ
)
は
吠
(
ほえ
)
るとも
037
汗
(
あせ
)
は
何程
(
なにほど
)
出
(
で
)
るとても
038
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
からカンカンと
039
日
(
ひ
)
の
大神
(
おほかみ
)
が
照
(
て
)
らすとも
040
神
(
かみ
)
に
任
(
まか
)
せし
此
(
この
)
体
(
からだ
)
041
岩
(
いは
)
より
固
(
かた
)
い
魂
(
たましひ
)
は
042
常磐
(
ときは
)
の
松
(
まつ
)
の
岩
(
いは
)
の
上
(
へ
)
に
043
生茂
(
おひしげ
)
りたる
如
(
ごと
)
くなり
044
ウントコドツコイ ドツコイシヨ
045
よくまあ
辷
(
すべ
)
る
坂
(
さか
)
だなア
046
赭土
(
あかつち
)
許
(
ばか
)
りがピカピカと
047
光
(
ひか
)
つた
上
(
うへ
)
に
湿
(
しめ
)
りをば
048
帯
(
おび
)
て
居
(
ゐ
)
るのでよく
辷
(
すべ
)
る
049
誰
(
たれ
)
が
通
(
とほ
)
つたか
知
(
し
)
らないが
050
こりや
又
(
また
)
えらい
磨
(
みが
)
けよう
051
流石
(
さすが
)
のスマートさまでさへ
052
四
(
よつ
)
つの
足
(
あし
)
を
持
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら
053
あれ、あの
通
(
とほ
)
りチガチガと
054
体
(
からだ
)
を
斜
(
はす
)
に
構
(
かま
)
へつつ
055
下
(
くだ
)
つて
行
(
ゆ
)
くのを
眺
(
なが
)
むれば
056
余程
(
よつぽど
)
きつい
坂道
(
さかみち
)
だ
057
これから
先
(
さき
)
はテルモンの
058
音
(
おと
)
に
名高
(
なだか
)
き
湖
(
みづうみ
)
だ
059
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
一行
(
いつかう
)
宣伝使
(
せんでんし
)
060
この
湖
(
みづうみ
)
を
渡
(
わた
)
らねば
061
月
(
つき
)
の
御国
(
みくに
)
にや
行
(
ゆ
)
かれない
062
ウントコドツコイ、ズウズウズウ
063
ほんに
危険
(
きけん
)
な
辷
(
すべ
)
り
坂
(
ざか
)
064
坊主頭
(
ばうずあたま
)
を
瓢箪
(
へうたん
)
で
065
撫
(
な
)
でてる
様
(
やう
)
な
足具合
(
あしぐあひ
)
066
うつかりすると
転倒
(
てんたう
)
し
067
天狗
(
てんぐ
)
の
面
(
めん
)
やお
多福
(
たふく
)
の
068
玉
(
たま
)
の
御舟
(
みふね
)
を
雨曝
(
あまざら
)
し
069
せなくちやならぬ
恐
(
こは
)
い
道
(
みち
)
070
気
(
き
)
をつけなされ
皆
(
みな
)
さまよ
071
ウントコドツコイ ドツコイシヨ
072
どうやら
坂
(
さか
)
が
緩
(
ゆる
)
うなつた
073
ここで
油断
(
ゆだん
)
をしちやならぬ
074
バラモン
教
(
けう
)
の
悪神
(
あくがみ
)
が
075
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
一行
(
いつかう
)
の
前途
(
ぜんと
)
をば
076
擁
(
よう
)
して
待
(
ま
)
ちさうな
処
(
ところ
)
だぞ
077
何程
(
なにほど
)
敵
(
てき
)
が
来
(
きた
)
るとも
078
腕
(
うで
)
に
覚
(
おぼ
)
えのある
上
(
うへ
)
は
079
決
(
けつ
)
して
怯
(
ひる
)
まぬ
大和魂
(
やまとだま
)
080
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
081
神
(
かみ
)
のまにまに
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く』
082
真純彦
(
ますみひこ
)
は
亦
(
また
)
歌
(
うた
)
ふ。
083
『テルモン
山
(
ざん
)
の
南坂
(
みなみざか
)
084
鰻
(
うなぎ
)
の
様
(
やう
)
に
辷
(
すべ
)
る
道
(
みち
)
085
三千彦
(
みちひこ
)
さまが
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち
086
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
と
若草
(
わかくさ
)
の
087
妻
(
つま
)
の
命
(
みこと
)
のデビス
姫
(
ひめ
)
088
二人
(
ふたり
)
の
名
(
な
)
をば
呼
(
よ
)
び
乍
(
なが
)
ら
089
真純彦
(
ますみひこ
)
とも
伊太公
(
いたこう
)
とも
090
仰有
(
おつしや
)
らないのは
何事
(
なにごと
)
だ
091
ほんにお
前
(
まへ
)
は
水臭
(
みづくさ
)
い
092
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
の
093
御
(
おん
)
名
(
な
)
を
呼
(
よ
)
んで
親切
(
しんせつ
)
に
094
注意
(
ちうい
)
をしたのは
表向
(
おもてむ
)
き
095
実地
(
じつち
)
誠
(
まこと
)
の
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
096
新婚
(
しんこん
)
旅行
(
りよかう
)
のデビス
姫
(
ひめ
)
097
その
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
が
気
(
き
)
にかかり
098
義理
(
ぎり
)
か
妬
(
や
)
くかで
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
の
099
お
名
(
な
)
を
呼
(
よ
)
んだに
違
(
ちが
)
ひない
100
アハハハハツハ、アハハハハ
101
現銀
(
げんぎん
)
至極
(
しごく
)
の
男
(
をとこ
)
だな
102
それだによつて
宣伝
(
せんでん
)
の
103
途中
(
とちう
)
に
於
(
おい
)
て
若者
(
わかもの
)
に
104
女房
(
にようばう
)
を
持
(
も
)
たすと
魂
(
たましひ
)
が
105
砕
(
くだ
)
けて
誠
(
まこと
)
の
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
はぬ
106
女
(
をんな
)
に
心
(
こころ
)
引
(
ひ
)
かされて
107
大切
(
だいじ
)
の
大切
(
だいじ
)
の
使命
(
しめい
)
をば
108
怠
(
おこた
)
る
事
(
こと
)
があるものだ
109
さはさり
乍
(
なが
)
ら
三千彦
(
みちひこ
)
の
110
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
は
格別
(
かくべつ
)
だ
111
案
(
あん
)
ずる
事
(
こと
)
はなけれども
112
第一
(
だいいち
)
女
(
をんな
)
に
気
(
き
)
をとられ
113
魂
(
たま
)
は
中有
(
ちうう
)
に
飛
(
と
)
び
散
(
ち
)
りて
114
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
足許
(
あしもと
)
が
115
目
(
め
)
につかないか
二度
(
にど
)
三度
(
さんど
)
116
スウ スウ スウと
辷
(
すべ
)
りよつた
117
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つ
118
道案内
(
みちあんない
)
の
三千彦
(
みちひこ
)
が
119
辷
(
すべ
)
つて
転
(
こ
)
けて
吾々
(
われわれ
)
が
120
無事
(
ぶじ
)
に
此
(
この
)
坂
(
さか
)
下
(
くだ
)
るのは
121
何
(
なに
)
か
一
(
ひと
)
つの
原因
(
げんいん
)
が
122
なければならぬ
道理
(
だうり
)
ぞや
123
省
(
かへり
)
み
玉
(
たま
)
へ
三千彦
(
みちひこ
)
よ
124
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
125
神
(
かみ
)
に
代
(
かは
)
りて
気
(
き
)
をつける』
126
伊太彦
(
いたひこ
)
は
亦
(
また
)
歌
(
うた
)
ふ。
127
伊太彦
(
いたひこ
)
『ウントコドツコイ ドツコイシヨ
128
悪魔
(
あくま
)
は
出
(
で
)
るとも
逃
(
に
)
ぐるとも
129
憑物
(
つきもの
)
皆
(
みんな
)
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
すも
130
此
(
この
)
坂道
(
さかみち
)
になつたなら
131
どうしても
体
(
からだ
)
が
草臥
(
くたびれ
)
る
132
さはさり
乍
(
なが
)
ら
最愛
(
さいあい
)
の
133
女房
(
にようばう
)
を
連
(
つ
)
れた
三千彦
(
みちひこ
)
は
134
嘸
(
さぞ
)
や
楽
(
たの
)
しい
事
(
こと
)
だらう
135
元気
(
げんき
)
日頃
(
ひごろ
)
に
百倍
(
ひやくばい
)
し
136
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
と
肱
(
ひぢ
)
を
張
(
は
)
り
137
六方
(
ろくぱう
)
を
踏
(
ふ
)
んで
坂道
(
さかみち
)
を
138
八王神
(
やつこす
)
歩
(
あゆ
)
みそのままに
139
エンヤラ エンヤラ エンヤラと
140
そのスタイルは
蟷螂
(
かまきり
)
か
141
但
(
ただし
)
は
蛙
(
かはづ
)
の
手踊
(
てをどり
)
か
142
又
(
また
)
も
違
(
ちが
)
ふたら
山猿
(
やまざる
)
の
143
ステテコ
踊
(
をど
)
りと
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
144
さても
怪
(
あや
)
しきスタイルだ
145
アハハハハツハ、ズウズウズウ
146
オツトドツコイ
足
(
あし
)
辷
(
すべ
)
り
147
お
尻
(
しり
)
をドンと
打
(
う
)
ちました
148
天狗
(
てんぐ
)
の
面
(
めん
)
も
茶袋
(
ちやぶくろ
)
も
149
神
(
かみ
)
の
御
(
お
)
蔭
(
かげ
)
で
御
(
ご
)
安全
(
あんぜん
)
150
二
(
ふた
)
つの
玉
(
たま
)
は
完全
(
くわんぜん
)
に
151
お
腹
(
なか
)
の
中
(
なか
)
へ
舞
(
ま
)
ひ
上
(
あが
)
り
152
大急行
(
だいきふかう
)
で
洋行
(
やうかう
)
した
153
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
154
目玉
(
めだま
)
のとび
出
(
で
)
るきつい
坂
(
さか
)
155
土蟹
(
づがに
)
ぢやないが
横歩
(
よこある
)
き
156
正面
(
まとも
)
に
足
(
あし
)
が
運
(
はこ
)
べない
157
三千彦
(
みちひこ
)
さまの
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
158
転
(
こ
)
けよと
倒
(
たふ
)
れよと
構
(
かま
)
はぬが
159
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
よ
真純彦
(
ますみひこ
)
よ
160
何卒
(
なにとぞ
)
用心
(
ようじん
)
遊
(
あそ
)
ばして
161
此
(
この
)
坂
(
さか
)
無事
(
ぶじ
)
に
下
(
くだ
)
りませ
162
夏
(
なつ
)
の
木立
(
こだち
)
に
鳴
(
な
)
く
蝉
(
せみ
)
の
163
声
(
こゑ
)
はミンミン
眠
(
ねむ
)
たげに
164
寝言交
(
ねごとまじ
)
りに
歌
(
うた
)
ふて
居
(
ゐ
)
る
165
そんな
陽気
(
やうき
)
な
事
(
こと
)
かいな
166
此
(
この
)
坂道
(
さかみち
)
は
命懸
(
いのちが
)
け
167
どうして
之
(
これ
)
が
眠
(
ねむ
)
られよか
168
足
(
あし
)
のこぶらがブクブクと
169
酒徳利
(
さけどつくり
)
の
様
(
やう
)
になつた
170
ズウズウズウズウ アイタタツタ
171
ヤツパリ
坂
(
さか
)
を
下
(
くだ
)
るのは
172
口
(
くち
)
を
噤
(
つま
)
へて
俯向
(
うつむ
)
いて
173
下
(
くだ
)
らにやならぬと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
174
初
(
はじ
)
めて
体得
(
たいとく
)
致
(
いた
)
しました
175
三千彦
(
みちひこ
)
司
(
つかさ
)
が
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち
176
くだらぬ
歌
(
うた
)
を
喋
(
しやべ
)
る
故
(
ゆゑ
)
177
真純
(
ますみ
)
の
彦
(
ひこ
)
も
伊太彦
(
いたひこ
)
も
178
つひ
釣
(
つ
)
り
出
(
だ
)
されウツカリと
179
退屈
(
たいくつ
)
紛
(
まぎ
)
れに
喋
(
しやべ
)
つたが
180
それが
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
仇
(
あだ
)
となり
181
デツカイお
尻
(
しり
)
を
打
(
う
)
ちました
182
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
183
こんな
事
(
こと
)
だと
知
(
し
)
つたなら
184
ワックスさまが
馬場
(
ばんば
)
にて
185
笞刑
(
ちけい
)
を
受
(
う
)
けた
時
(
とき
)
のやうに
186
銅盥
(
あかがねだらひ
)
を
尻
(
しり
)
につけ
187
下
(
くだ
)
つて
来
(
く
)
れば
宜
(
よ
)
かつたに
188
下司
(
げす
)
の
知識
(
ちしき
)
は
後
(
あと
)
からと
189
人
(
ひと
)
が
云
(
い
)
ふのも
無理
(
むり
)
は
無
(
な
)
い
190
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
191
これこれデビスのお
姫
(
ひめ
)
さま
192
お
前
(
まへ
)
も
一
(
ひと
)
つ
附合
(
つきあ
)
ひに
193
此
(
この
)
坂道
(
さかみち
)
を
下
(
くだ
)
りつつ
194
下坂
(
げはん
)
の
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ひませ
195
三千彦
(
みちひこ
)
さまの
機嫌
(
きげん
)
のみ
196
とらず
吾々
(
われわれ
)
一行
(
いつかう
)
の
197
チツとは
心
(
こころ
)
を
慰
(
なぐさ
)
めて
198
平和
(
へいわ
)
の
女神
(
めがみ
)
の
本領
(
ほんりやう
)
を
199
発揮
(
はつき
)
し
玉
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
200
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
201
伊太彦
(
いたひこ
)
さまが
頼
(
たの
)
みます
202
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
203
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
204
デビス
姫
(
ひめ
)
『
妾
(
わらは
)
は
三千彦
(
みちひこ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
205
夫
(
をつと
)
に
持
(
も
)
つたデビス
姫
(
ひめ
)
206
神
(
かみ
)
のお
道
(
みち
)
に
仕
(
つか
)
ふ
身
(
み
)
は
207
夫婦
(
ふうふ
)
ありては
肝腎
(
かんじん
)
の
208
御用
(
ごよう
)
が
出来
(
でき
)
ぬと
聞
(
き
)
きました
209
兎
(
と
)
は
云
(
い
)
ふものの
玉
(
たま
)
の
緒
(
を
)
の
210
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さつた
211
大恩
(
たいおん
)
深
(
ふか
)
き
神司
(
かむづかさ
)
212
悪魔
(
あくま
)
の
猛
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
ふなる
213
荒野
(
あらの
)
ケ
原
(
はら
)
を
打渉
(
うちわた
)
り
214
雲霞
(
うんか
)
の
如
(
ごと
)
き
敵軍
(
てきぐん
)
の
215
中
(
なか
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
216
その
雄々
(
をを
)
しさを
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
し
217
女
(
をんな
)
乍
(
なが
)
らもジツとして
218
どうして
館
(
やかた
)
に
居
(
を
)
られませう
219
婦
(
をんな
)
は
夫
(
をつと
)
に
従
(
したが
)
ひて
220
力
(
ちから
)
を
尽
(
つく
)
し
身
(
み
)
を
庇
(
かば
)
ひ
221
マサカの
時
(
とき
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たら
222
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
吾
(
わが
)
夫
(
つま
)
の
223
使命
(
しめい
)
を
全
(
まつた
)
く
遂
(
と
)
げさせて
224
女
(
をんな
)
の
道
(
みち
)
を
尽
(
つく
)
さねば
225
済
(
す
)
まぬ
事
(
こと
)
だと
覚悟
(
かくご
)
して
226
住
(
す
)
み
心地
(
ここち
)
よき
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
227
後
(
あと
)
に
眺
(
なが
)
めて
遥々
(
はるばる
)
と
228
踏
(
ふ
)
みも
習
(
なら
)
はぬ
旅枕
(
たびまくら
)
229
苦労
(
くらう
)
を
覚悟
(
かくご
)
で
行
(
ゆ
)
きまする
230
陽気
(
やうき
)
浮気
(
うはき
)
で
斯
(
こ
)
んな
事
(
こと
)
231
どうして
繊弱
(
かよわ
)
き
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
232
出来
(
でき
)
そな
事
(
こと
)
がありませうか
233
揶揄
(
からか
)
ひなさるも
程
(
ほど
)
がある
234
妾
(
わらは
)
の
心
(
こころ
)
は
真剣
(
しんけん
)
だ
235
人
(
ひと
)
が
笑
(
わら
)
ふが
譏
(
そし
)
らうが
236
一旦
(
いつたん
)
夫
(
をつと
)
に
魂
(
たましひ
)
も
237
体
(
からだ
)
も
共
(
とも
)
に
任
(
まか
)
したら
238
決
(
けつ
)
して
中途
(
ちうと
)
に
怯
(
ひる
)
まない
239
女
(
をんな
)
乍
(
なが
)
らも
天晴
(
あつぱれ
)
と
240
貴方
(
あなた
)
に
劣
(
おと
)
らぬ
功績
(
いさをし
)
を
241
立
(
た
)
てて
御
(
おん
)
目
(
め
)
にかけまする
242
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
よ
243
真純
(
ますみ
)
の
彦
(
ひこ
)
の
神司
(
かむつかさ
)
244
伊太彦
(
いたひこ
)
司
(
つかさ
)
も
諸共
(
もろとも
)
に
245
妾
(
わらは
)
の
心
(
こころ
)
の
清
(
きよ
)
きをば
246
真面目
(
まじめ
)
に
覚
(
さと
)
らせ
玉
(
たま
)
へかし
247
決
(
けつ
)
して
色
(
いろ
)
や
恋
(
こひ
)
のため
248
菊石
(
あばた
)
の
出来
(
でき
)
た
宣伝使
(
せんでんし
)
249
三千彦
(
みちひこ
)
さまに
惚
(
ほ
)
れませう
250
何程
(
なにほど
)
顔
(
かほ
)
は
醜
(
みにく
)
ても
251
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
魂
(
たましひ
)
は
252
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
の
姿
(
すがた
)
より
253
百倍
(
ひやくばい
)
増
(
ま
)
して
美
(
うつく
)
しく
254
心
(
こころ
)
の
鏡
(
かがみ
)
に
映
(
うつ
)
りしゆ
255
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
ため
)
世
(
よ
)
の
為
(
ため
)
に
256
かかる
健気
(
けなげ
)
な
武士
(
もののふ
)
と
257
一度
(
ひとたび
)
腕
(
うで
)
に
撚
(
より
)
かけて
258
世界
(
せかい
)
の
為
(
ため
)
に
尽
(
つく
)
さむと
259
思
(
おも
)
ふばかりの
真心
(
まごころ
)
が
260
凝
(
こ
)
り
固
(
かた
)
まりし
今日
(
けふ
)
の
旅
(
たび
)
261
笑
(
わら
)
はせ
玉
(
たま
)
ふ
事
(
こと
)
もなく
262
繊弱
(
かよわ
)
き
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
なれども
263
許
(
ゆる
)
させ
玉
(
たま
)
へ
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
264
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
夫婦
(
ふうふ
)
を
従
(
したが
)
へて
265
進
(
すす
)
ませ
玉
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
266
神
(
かみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
誠心
(
まごころ
)
を
267
誓
(
ちか
)
ひて
告白
(
こくはく
)
仕
(
つかまつ
)
る
268
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
269
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
270
と
歌
(
うた
)
ひ
了
(
をは
)
り
流石
(
さすが
)
の
坂道
(
さかみち
)
も
賑々
(
にぎにぎ
)
しく
笑
(
わら
)
ひ
興
(
きよう
)
じ
乍
(
なが
)
ら、
271
揶揄
(
からか
)
ひ
半分
(
はんぶん
)
に
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
272
漸
(
やうや
)
くにして
下
(
くだ
)
り
三
(
さん
)
里
(
り
)
の
急坂
(
きふはん
)
を
越
(
こ
)
えテルモン
湖
(
こ
)
の
辺
(
ほとり
)
に
着
(
つ
)
いた。
273
坂道
(
さかみち
)
で
絞
(
しぼ
)
つた
汗
(
あせ
)
は
湖面
(
こめん
)
を
吹
(
ふ
)
く
涼風
(
りやうふう
)
に
吹
(
ふ
)
き
払
(
はら
)
はれ、
274
得
(
え
)
も
云
(
い
)
はれぬ
爽快
(
さうくわい
)
の
気分
(
きぶん
)
に
漂
(
ただよ
)
ふた。
275
東西
(
とうざい
)
百
(
ひやく
)
里
(
り
)
南北
(
なんぽく
)
二百
(
にひやく
)
里
(
り
)
の
大湖水
(
だいこすい
)
は
金銀色
(
きんぎんしよく
)
の
魚鱗
(
ぎよりん
)
の
波
(
なみ
)
を
湛
(
たた
)
へ、
276
洋々
(
やうやう
)
として
静
(
しづ
)
かに
横
(
よこ
)
たはつて
居
(
ゐ
)
る。
277
(
大正一二・三・二八
旧二・一二
於皆生温泉浜屋
北村隆光
録)
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