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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第58巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 玉石混淆
第1章 神風
第2章 多数尻
第3章 怪散
第4章 銅盥
第5章 潔別
第2篇 湖上神通
第6章 茶袋
第7章 神船
第8章 孤島
第9章 湖月
第3篇 千波万波
第10章 報恩
第11章 欵乃
第12章 素破抜
第13章 兎耳
第14章 猩々島
第15章 哀別
第16章 聖歌
第17章 怪物
第18章 船待
第4篇 猩々潔白
第19章 舞踏
第20章 酒談
第21章 館帰
第22章 獣婚
第23章 昼餐
第24章 礼祭
第25章 万歳楽
余白歌
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(B)
(N)
船待 >>>
第一七章
怪物
(
くわいぶつ
)
〔一四九二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻
篇:
第3篇 千波万波
よみ(新仮名遣い):
せんぱばんぱ
章:
第17章 怪物
よみ(新仮名遣い):
かいぶつ
通し章番号:
1492
口述日:
1923(大正12)年03月29日(旧02月13日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
初稚丸はフクの島に着いた。荒波が岸を噛み、剣呑にして寄りつくことができない大難関である。山の中腹に大きな岩窟が自然にうがたれており、その中に何かが動いているように見えた。
バーチルは岩窟に動く影が、三年前に行方不明になった僕のアンチーの人影に似ているのに驚いて、玉国別に報告した。玉国別は確認のために島に上陸することとした。
船を海中の岩島に寄せ、伊太彦、バーチル、メート、ダルの四人が上陸した。船を認めて岩窟から駆け降りてきた男は、間違いなくバーチルの僕アンチーであった。
アンチーは主人との再会に涙を流し、この島に打ち上げられてから、初稚姫という女神に助けられて命をつないだことを明かした。初稚姫は三日ほど前にもアンチーの前に現れ、三年の修業ができたから、これでアンチーも立派な人間になるだろうとのお告げを残して、犬に乗って南の方に去って行ったことを語った。
一行はアンチーを船に助け上げて出航した。船中ではアンチーの漂流譚に花が咲いている。アンチーは助け出された嬉しさに、島で一人作っていた唄を織り交ぜて舟歌を披露した。
伊太彦は独り者同士仲良くしようとアンチーに呼びかけ、笑っている。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2016-09-02 19:39:14
OBC :
rm5817
愛善世界社版:
205頁
八幡書店版:
第10輯 443頁
修補版:
校定版:
217頁
普及版:
81頁
初版:
ページ備考:
001
初稚丸
(
はつわかまる
)
は、
002
漂渺
(
へうべう
)
たる
海路
(
うなぢ
)
を
渡
(
わた
)
つて
漸
(
やうや
)
く
周囲
(
しうゐ
)
二十五
(
にじふご
)
町
(
ちやう
)
ばかりのフクの
島
(
しま
)
についた。
003
非常
(
ひじやう
)
に
荒波
(
あらなみ
)
岸
(
きし
)
を
噛
(
か
)
み
剣呑
(
けんのん
)
にして
寄
(
よ
)
りつく
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ない
大難関
(
だいなんくわん
)
である。
004
見
(
み
)
れば
山
(
やま
)
の
中腹
(
ちうふく
)
に
非常
(
ひじやう
)
に
大
(
おほ
)
きい
岩窟
(
がんくつ
)
が
自然
(
しぜん
)
に
穿
(
うが
)
たれて
其
(
その
)
中
(
なか
)
に
何
(
なに
)
か
動
(
うご
)
いて
居
(
ゐ
)
るやうに
見
(
み
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
005
伊太彦
(
いたひこ
)
は
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
るより、
006
伊太
(
いた
)
『
猩々
(
しやうじやう
)
だ
猩々
(
しやうじやう
)
だ、
007
これバーチルさまお
前
(
まへ
)
の
御
(
ご
)
親類
(
しんるい
)
かも
知
(
し
)
れないよ。
008
一
(
ひと
)
つ
何
(
なん
)
とかして
島
(
しま
)
に
漕
(
こぎ
)
つけ、
009
正体
(
しやうたい
)
を
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
たいものだなア』
010
バーチルは
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
るより、
011
アツと
叫
(
さけ
)
んで
倒
(
たふ
)
れむ
許
(
ばか
)
りになつた。
012
伊太
(
いた
)
『ア、
013
此奴
(
こいつ
)
は
不思議
(
ふしぎ
)
だ。
014
バーチルさま、
015
彼
(
あ
)
の
怪物
(
くわいぶつ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
てお
前
(
まへ
)
さまはアツと
云
(
い
)
つて
倒
(
たふ
)
れかけたが
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
だ。
016
何
(
なに
)
か
心当
(
こころあた
)
りがあるのかなア』
017
バーチル『ハイ、
018
どうも
明瞭
(
はつきり
)
は
致
(
いた
)
しませぬが、
019
何
(
なん
)
だか
見
(
み
)
たやうな
男
(
をとこ
)
の
姿
(
すがた
)
に
見
(
み
)
えましたから
思
(
おも
)
はず
叫
(
さけ
)
んだので
厶
(
ござ
)
います』
020
伊太
(
いた
)
『
矢張
(
やつぱ
)
り
別世界
(
べつせかい
)
に
棲
(
す
)
んで
居
(
ゐ
)
ただけあつて、
021
神経
(
しんけい
)
過敏
(
くわびん
)
になつて
居
(
ゐ
)
るのだ。
022
併
(
しか
)
しこんな
離
(
はな
)
れ
島
(
じま
)
に
人間
(
にんげん
)
のやうなものが
棲
(
す
)
んで
居
(
ゐ
)
るとは
不思議
(
ふしぎ
)
だよ。
023
矢張
(
やつぱり
)
難破船
(
なんぱせん
)
に
遇
(
あ
)
つたものが、
024
こんな
島
(
しま
)
に
打
(
う
)
ち
上
(
あ
)
げられて
居
(
ゐ
)
るのかも
知
(
し
)
れない。
025
ヤヤ
好奇心
(
かうきしん
)
が
起
(
おこ
)
つて
仕様
(
しやう
)
がない、
026
危険
(
きけん
)
でも
上
(
あが
)
つて
正体
(
しやうたい
)
を
調
(
しら
)
べようぢやないか。
027
一
(
ひと
)
つ
先生
(
せんせい
)
私
(
わたし
)
に
魔窟
(
まくつ
)
の
探険
(
たんけん
)
を
仰
(
おほ
)
せつけ
下
(
くだ
)
さるまいかなア』
028
玉国
(
たまくに
)
『ウン、
029
一
(
ひと
)
つやつて
見
(
み
)
たがよからう。
030
バーチルさまは
随分
(
ずゐぶん
)
島
(
しま
)
になれて
居
(
ゐ
)
るから、
031
探険
(
たんけん
)
には
適任
(
てきにん
)
だらう』
032
バーチル『ハイ、
033
何卒
(
どうぞ
)
私
(
わたくし
)
にもお
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さい。
034
どうしても
調
(
しら
)
べなければならないやうな
気
(
き
)
がします』
035
怪物
(
くわいぶつ
)
は
此
(
この
)
船
(
ふね
)
を
見
(
み
)
るより
慌
(
あわ
)
ただしく
岩窟
(
がんくつ
)
を
出
(
い
)
で
険阻
(
けんそ
)
な
岩角
(
いはかど
)
を
猿
(
ましら
)
の
如
(
ごと
)
く
下
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
り、
036
毛
(
け
)
だらけの
顔
(
かほ
)
をさらし
乍
(
なが
)
ら、
037
『オーイ、
038
オーイ』
039
と
手招
(
てまね
)
きして
居
(
ゐ
)
る。
040
此
(
この
)
時
(
とき
)
船
(
ふね
)
は
一町
(
いつちやう
)
許
(
ばか
)
り
手前
(
てまへ
)
迄
(
まで
)
進
(
すす
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
041
漸
(
やうや
)
くにして
海中
(
かいちう
)
に
突出
(
とつしゆつ
)
して
居
(
ゐ
)
る
岩島
(
いはじま
)
に
船
(
ふね
)
を
寄
(
よ
)
せ、
042
辛
(
から
)
うじて、
043
伊太彦
(
いたひこ
)
、
044
バーチル、
045
メート、
046
ダルの
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
島
(
しま
)
に
駆
(
か
)
けつけた。
047
実
(
じつ
)
に
危険
(
きけん
)
極
(
きは
)
まる
芸当
(
げいたう
)
である。
048
一丈
(
いちぢやう
)
許
(
ばか
)
りの
玉
(
たま
)
となつて
竜
(
りう
)
の
天上
(
てんじやう
)
する
如
(
ごと
)
く、
049
落
(
お
)
ち
来
(
く
)
る
浪飛沫
(
なみしぶき
)
は
実
(
じつ
)
に
悽惨
(
せいさん
)
の
気
(
き
)
に
打
(
う
)
たれざるを
得
(
え
)
なかつた。
050
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
屈
(
くつ
)
せず
男
(
をとこ
)
の
傍
(
そば
)
に
走
(
はし
)
り
寄
(
よ
)
り、
051
不思議
(
ふしぎ
)
さうに
顔
(
かほ
)
を
覗
(
のぞ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
052
怪
(
あや
)
しの
男
(
をとこ
)
は
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
顔
(
かほ
)
をつくづくと
眺
(
なが
)
め、
053
男
(
をとこ
)
『あ、
054
貴方
(
あなた
)
は
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか、
055
ようまア
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました』
056
バーチル『やア、
057
お
前
(
まへ
)
は
僕
(
しもべ
)
のアンチーであつたか。
058
どうしてこんな
所
(
ところ
)
に
助
(
たす
)
かつて
居
(
ゐ
)
たのだ。
059
あの
荒波
(
あらなみ
)
に
呑
(
の
)
まれて
水
(
みづ
)
の
藻屑
(
もくづ
)
になり、
060
最早
(
もはや
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
では
会
(
あ
)
へないものと
覚悟
(
かくご
)
して
居
(
ゐ
)
た、
061
ようまア
生
(
いき
)
て
居
(
ゐ
)
て
呉
(
く
)
れた。
062
私
(
わたし
)
も
今
(
いま
)
此
(
この
)
船
(
ふね
)
に
助
(
たす
)
けられ
帰
(
かへ
)
る
途中
(
とちう
)
、
063
潮流
(
てうりう
)
の
都合
(
つがふ
)
でこんな
所
(
ところ
)
へやつて
来
(
き
)
たのだ。
064
これも
矢張
(
やつぱり
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
引
(
ひ
)
き
合
(
あは
)
せであつたか』
065
アンチーは、
066
髯
(
ひげ
)
だらけの
顔
(
かほ
)
に
涙
(
なみだ
)
をハラハラと
流
(
なが
)
し、
067
男泣
(
をとこな
)
きに
泣
(
な
)
き
出
(
だ
)
した。
068
伊太
(
いた
)
『これアンチーさま、
069
何
(
なに
)
を
泣
(
な
)
くのだ。
070
確
(
しつか
)
りせないか、
071
サアこれからお
前
(
まへ
)
を
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
るのだから、
072
何
(
なに
)
も
アンチル
事
(
こと
)
は
要
(
い
)
らぬ、
073
安心
(
あんしん
)
して
跟
(
つ
)
いて
来
(
く
)
るのだ。
074
併
(
しか
)
し
俺
(
おれ
)
も
何
(
なん
)
だか
涙
(
なみだ
)
のやつ、
075
無断
(
むだん
)
で
両眼
(
りやうがん
)
から
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
して
来
(
く
)
る』
076
と、
077
はや
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
になつて
居
(
ゐ
)
る。
078
アンチーは
涙
(
なみだ
)
を
手
(
て
)
にて
拭
(
ぬぐ
)
ひながら、
079
アンチー『
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
080
私
(
わたし
)
は
貴方
(
あなた
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
浪
(
なみ
)
に
呑
(
の
)
まれ、
081
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
に
陥
(
おちい
)
り
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
打
(
う
)
ち
上
(
あ
)
げられて
居
(
ゐ
)
ました
処
(
ところ
)
へ、
082
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
とか
云
(
い
)
ふ
綺麗
(
きれい
)
な
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
がお
越
(
こ
)
しになり、
083
いろいろ
介抱
(
かいはう
)
して
下
(
くだ
)
さいました。
084
其
(
その
)
お
蔭
(
かげ
)
で
今日
(
けふ
)
迄
(
まで
)
命
(
いのち
)
を
保
(
たも
)
つて
居
(
を
)
りました。
085
幸
(
さいはひ
)
此
(
この
)
島
(
しま
)
には
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り
沢山
(
たくさん
)
の
鳥
(
とり
)
が
居
(
ゐ
)
ますなり、
086
又
(
また
)
少
(
すこ
)
しの
果物
(
くだもの
)
も
実
(
み
)
のり、
087
夫
(
それ
)
故
(
ゆゑ
)
どうなりかうなり
一人
(
ひとり
)
の
食料
(
しよくれう
)
は
与
(
あた
)
へられました』
088
伊太
(
いた
)
『ハテ、
089
合点
(
がてん
)
のゆかぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないか。
090
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
は
昨日
(
きのふ
)
此方
(
こちら
)
へお
通
(
とほ
)
りになつた
許
(
ばか
)
りだ。
091
さうして、
092
船
(
ふね
)
にでも
乗
(
の
)
つてお
出
(
いで
)
になつたか、
093
但
(
ただし
)
は、
094
犬
(
いぬ
)
にでも
乗
(
の
)
つて
来
(
こ
)
られたか、
095
合点
(
がてん
)
のゆかぬ
事
(
こと
)
だなア』
096
アンチー『いえいえ
船
(
ふね
)
も
持
(
も
)
たず
犬
(
いぬ
)
も
連
(
つ
)
れず、
097
何処
(
どこ
)
ともなくお
出
(
いで
)
になり、
098
又
(
また
)
何処
(
どこ
)
ともなく
姿
(
すがた
)
をお
消
(
け
)
し
遊
(
あそ
)
ばしました。
099
夫
(
それ
)
から
二三
(
にさん
)
日前
(
にちまへ
)
にも
立派
(
りつぱ
)
な
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はし、
100
お
前
(
まへ
)
を
迎
(
むか
)
ひに
来
(
き
)
てやるからと
仰有
(
おつしや
)
いました、
101
「お
前
(
まへ
)
も
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
の
修業
(
しふげふ
)
が
出来
(
でき
)
たから、
102
これで
立派
(
りつぱ
)
な
人間
(
にんげん
)
になるであらう、
103
夢々
(
ゆめゆめ
)
疑
(
うたが
)
ふな」と
仰有
(
おつしや
)
つたきり
今度
(
こんど
)
は
犬
(
いぬ
)
に
乗
(
の
)
り
荒浪
(
あらなみ
)
を
渡
(
わた
)
り、
104
南
(
みなみ
)
の
方
(
はう
)
を
指
(
さ
)
して
帰
(
かへ
)
つて
仕舞
(
しま
)
はれました。
105
本当
(
ほんたう
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
のことで
厶
(
ござ
)
います』
106
伊太
(
いた
)
『
成程
(
なるほど
)
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
は
生神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
だと
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
たが
偉
(
えら
)
いものだなア。
107
第一
(
だいいち
)
天国
(
てんごく
)
の
天人
(
てんにん
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だが、
108
さうでなければこんな
離
(
はな
)
れ
業
(
わざ
)
が
出来
(
でき
)
るものでない。
109
これを
思
(
おも
)
へば
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
のお
師匠
(
ししやう
)
さまもまだまだ
修業
(
しふげふ
)
をせねば
駄目
(
だめ
)
だなア。
110
何
(
なに
)
はさて
置
(
お
)
き、
111
いつ
風
(
かぜ
)
が
荒
(
あら
)
うなるかも
知
(
し
)
れないから、
112
この
危険
(
きけん
)
区域
(
くゐき
)
を
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
去
(
さ
)
りませう』
113
と
鬣
(
たてがみ
)
を
振
(
ふる
)
ふて
猛
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
ふ
白浪
(
しらなみ
)
の
中
(
なか
)
を
潜
(
くぐ
)
り
抜
(
ぬ
)
け、
114
茲
(
ここ
)
に
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
無事
(
ぶじ
)
に
船中
(
せんちう
)
の
人
(
ひと
)
となり、
115
急
(
いそ
)
ぎ
舳先
(
へさき
)
を
転
(
てん
)
じ、
116
櫓櫂
(
ろかい
)
を
操
(
あやつ
)
り、
117
潮流
(
てうりう
)
に
従
(
したが
)
うて、
118
西南
(
せいなん
)
さして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
となつた。
119
船中
(
せんちう
)
にはアンチーの
漂流談
(
へうりうだん
)
に
種々
(
いろいろ
)
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
いた。
120
伊太
(
いた
)
『もし
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
さま、
121
何
(
なん
)
と
不思議
(
ふしぎ
)
の
事
(
こと
)
があるものですなア。
122
此
(
この
)
方
(
かた
)
はバーチルさまの
僕
(
しもべ
)
だつたさうです。
123
三年前
(
さんねんまへ
)
に
難船
(
なんせん
)
して
主従
(
しゆじう
)
が
何
(
いづ
)
れも
無人島
(
むじんたう
)
に
命
(
いのち
)
を
保
(
たも
)
ち、
124
又
(
また
)
吾々
(
われわれ
)
の
船
(
ふね
)
に
一時
(
いつとき
)
に
助
(
たす
)
けらるるとは
実
(
じつ
)
に
奇中
(
きちう
)
の
奇
(
き
)
ぢやありませぬか。
125
こんな
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ふと、
126
吾々
(
われわれ
)
は
一挙
(
いつきよ
)
一動
(
いちどう
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
綱
(
つな
)
に
操
(
あやつ
)
られて
居
(
ゐ
)
るやうな
心持
(
こころもち
)
が
致
(
いた
)
しますなア』
127
玉国
(
たまくに
)
『
何事
(
なにごと
)
も
人間
(
にんげん
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
道具
(
だうぐ
)
だから
唯
(
ただ
)
惟神
(
かむながら
)
にお
任
(
まか
)
せするより
外
(
ほか
)
、
128
道
(
みち
)
はないのだ。
129
何事
(
なにごと
)
も
皆
(
みな
)
神業
(
かむわざ
)
だから、
130
是
(
これ
)
からお
前
(
まへ
)
もどんな
事
(
こと
)
があつても
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
のやうにブツブツ
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
つたり
理窟
(
りくつ
)
を
並
(
なら
)
べたりするものぢやありませぬよ。
131
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
がよい
実物
(
じつぶつ
)
教育
(
けういく
)
をして
下
(
くだ
)
さつたのだからなア』
132
伊太
(
いた
)
『
成程
(
なるほど
)
、
133
実
(
じつ
)
に
有難
(
ありがた
)
いもので
厶
(
ござ
)
いますなア。
134
オイ、
135
真純彦
(
ますみひこ
)
、
136
三千彦
(
みちひこ
)
の
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
、
137
こんな
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ふと、
138
ゾツとするやうだなア、
139
私
(
わたし
)
はもう
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
恐
(
おそ
)
ろしくなつて
来
(
き
)
た』
140
三千
(
みち
)
『
如何
(
いか
)
にもお
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
りだ。
141
何事
(
なにごと
)
も
人間
(
にんげん
)
の
考
(
かんが
)
へではいくものでない。
142
夫
(
それ
)
だから
私
(
わたし
)
も
御用
(
ごよう
)
の
途中
(
とちう
)
にデビス
姫
(
ひめ
)
を
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
くものではないと、
143
一度
(
いちど
)
は
拒
(
こば
)
んで
見
(
み
)
たが、
144
これも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめし
)
だと
思
(
おも
)
ふて
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
たのだよ』
145
伊太
(
いた
)
『アハハハハ。
146
何
(
なん
)
とまア、
147
えらい
所
(
ところ
)
へロジツクが
当
(
あ
)
て
箝
(
は
)
まつたものだなア。
148
これも
皆
(
みな
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
かなア、
149
エヘヘヘヘ』
150
三千
(
みち
)
『
伊太彦
(
いたひこ
)
さま、
151
エヘヘヘヘ、
152
と
云
(
い
)
ふ
其
(
その
)
言霊
(
ことたま
)
の
色
(
いろ
)
には
大
(
おほい
)
に
吾々
(
われわれ
)
夫婦
(
ふうふ
)
を
悔蔑
(
ぶべつ
)
嘲笑
(
てうせう
)
して
居
(
ゐ
)
る
形跡
(
けいせき
)
が
見
(
み
)
えるぢや
無
(
な
)
いか。
153
本当
(
ほんたう
)
に
冗談
(
じやうだん
)
ぢやない。
154
私
(
わたし
)
は
真剣
(
しんけん
)
だからなア』
155
伊太
(
いた
)
『プツフフフフ、
156
それや
真剣
(
しんけん
)
だらう。
157
私
(
わたし
)
だつてこんなナイスと
道連
(
みちづ
)
れになるのなら、
158
真剣
(
しんけん
)
も
真剣
(
しんけん
)
、
159
大真剣
(
だいしんけん
)
になるのだがなア』
160
三千
(
みち
)
『エエどこ
迄
(
まで
)
も
馬鹿
(
ばか
)
にしたものだなア。
161
併
(
しか
)
し
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふても
足弱
(
あしよわ
)
の
女
(
をんな
)
を
連
(
つ
)
れて
居
(
ゐ
)
るのだから
負
(
まけ
)
て
置
(
お
)
きませう。
162
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
行
(
い
)
つたら
分
(
わか
)
りませうかい。
163
万一
(
まんいち
)
女
(
をんな
)
を
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
くが
悪
(
わる
)
いのなら、
164
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
先生
(
せんせい
)
がお
留
(
と
)
めなさるに
違
(
ちが
)
ひない、
165
黙
(
だま
)
つていらつしやる
所
(
ところ
)
を
見
(
み
)
れば
何
(
なに
)
か
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
のある
事
(
こと
)
だらう。
166
なア
真純彦
(
ますみひこ
)
さま、
167
貴方
(
あなた
)
はどう
思
(
おも
)
ひます』
168
真純
(
ますみ
)
『
私
(
わたし
)
は
何
(
なん
)
とも
申
(
まをし
)
ませぬ。
169
よいとか
悪
(
わる
)
いとか
云
(
い
)
ふだけの
知識
(
ちしき
)
も
無
(
な
)
ければ
権能
(
けんのう
)
もありませぬ。
170
何事
(
なにごと
)
も
惟神
(
かむながら
)
だとお
蔭
(
かげ
)
を
頂
(
いただ
)
いて
居
(
を
)
ります』
171
伊太
(
いた
)
『ハハハハハ。
172
さうすると
伊太彦
(
いたひこ
)
さまの
敗北
(
はいぼく
)
かな、
173
ヤ
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りました。
174
到底
(
たうてい
)
寡
(
くわ
)
を
以
(
もつ
)
て
衆
(
しう
)
に
敵
(
てき
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
175
もう
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
謹
(
つつし
)
んで
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
前途
(
ぜんと
)
を
祝
(
しゆく
)
します。
176
そして
悋気
(
りんき
)
がましい
事
(
こと
)
はこれより
止
(
や
)
めますから、
177
何卒
(
どうぞ
)
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
しを
願
(
ねが
)
ひませう』
178
玉国
(
たまくに
)
『まアまアこれで
内訌
(
ないこう
)
も
治
(
をさ
)
まり、
179
一先
(
ひとま
)
づ
安心
(
あんしん
)
だ』
180
アンチーは
嬉
(
うれ
)
しさの
余
(
あま
)
り、
181
無雑作
(
むざふさ
)
に
生
(
は
)
えた
髯
(
ひげ
)
を
撫
(
な
)
で
乍
(
なが
)
ら、
182
島
(
しま
)
で
作
(
つく
)
つて
歌
(
うた
)
つて
居
(
ゐ
)
た
歌
(
うた
)
を
交
(
まじ
)
へて
船唄
(
ふなうた
)
を
歌
(
うた
)
ひ、
183
一同
(
いちどう
)
の
御
(
ご
)
愛嬌
(
あいけう
)
に
供
(
きよう
)
した。
184
アンチー『イヅミの
国
(
くに
)
のスマの
里
(
さと
)
185
バーチルさまの
家
(
いへ
)
の
子
(
こ
)
と
186
仕
(
つか
)
へて
茲
(
ここ
)
に
二十
(
にじふ
)
年
(
ねん
)
187
日日
(
ひにち
)
毎日
(
まいにち
)
主従
(
しうじゆう
)
が
188
月夜
(
つきよ
)
と
暗
(
やみ
)
の
隔
(
へだ
)
てなく
189
キヨメの
湖
(
うみ
)
の
魚
(
うろくず
)
を
190
掻
(
か
)
きまはしつつ
殺生
(
せつしやう
)
した
191
其
(
その
)
天罰
(
てんばつ
)
が
報
(
むく
)
い
来
(
き
)
て
192
漁舟
(
すなどりぶね
)
は
沈没
(
ちんぼつ
)
し
193
力
(
ちから
)
と
思
(
おも
)
ふ
吾
(
わが
)
主人
(
あるじ
)
194
行衛
(
ゆくゑ
)
も
知
(
し
)
れずなり
給
(
たま
)
ひ
195
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
つたアンチーは
196
人
(
ひと
)
無
(
な
)
き
島
(
しま
)
に
助
(
たす
)
けられ
197
鳥
(
とり
)
の
卵
(
たまご
)
や
果物
(
くだもの
)
を
198
取
(
と
)
りて
漸
(
やうや
)
く
生命
(
せいめい
)
を
199
保
(
たも
)
ち
居
(
ゐ
)
るこそ
果敢
(
はか
)
なけれ
200
沖
(
おき
)
を
遙
(
はるか
)
に
見渡
(
みわた
)
せば
201
幽
(
かす
)
かに
白帆
(
しらほ
)
の
影
(
かげ
)
見
(
み
)
ゆる
202
呼
(
よ
)
べど
叫
(
さけ
)
べど
此
(
この
)
島
(
しま
)
は
203
危険
(
きけん
)
区域
(
くゐき
)
と
知
(
し
)
る
故
(
ゆゑ
)
に
204
鳥
(
とり
)
の
外
(
ほか
)
より
近寄
(
ちかよ
)
らぬ
205
声
(
こゑ
)
を
嗄
(
から
)
して
叫
(
さけ
)
べども
206
打
(
う
)
ち
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
る
波
(
なみ
)
の
音
(
ね
)
に
207
呑
(
の
)
まれて
声
(
こゑ
)
は
響
(
ひび
)
かない
208
八千八
(
はつせんや
)
声
(
こゑ
)
の
時鳥
(
ほととぎす
)
209
この
岩洞
(
いはあな
)
に
姿
(
すがた
)
をば
210
隠
(
かく
)
して
朝夕
(
あさゆふ
)
泣
(
な
)
くばかり
211
もう
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
因果腰
(
いんぐわごし
)
212
定
(
さだ
)
めて
島
(
しま
)
の
王
(
わう
)
となり
213
いや
永久
(
とこしへ
)
にセリバシー
214
生涯
(
しやうがい
)
此処
(
ここ
)
に
送
(
おく
)
らむと
215
思
(
おも
)
ひ
定
(
さだ
)
めし
苦
(
くる
)
しさよ
216
朝日
(
あさひ
)
は
空
(
そら
)
に
煌々
(
くわうくわう
)
と
217
輝
(
かがや
)
きたまひ
夜
(
よ
)
を
守
(
まも
)
る
218
月
(
つき
)
の
姿
(
すがた
)
はテラテラと
219
昼
(
ひる
)
と
夜
(
よる
)
との
隔
(
へだ
)
てなく
220
恵
(
めぐみ
)
の
露
(
つゆ
)
を
垂
(
た
)
れたまひ
221
果敢
(
はか
)
なき
身
(
み
)
をば
守
(
まも
)
ります
222
此
(
この
)
フク
島
(
じま
)
につきしより
223
長
(
なが
)
の
年月
(
としつき
)
人
(
ひと
)
の
声
(
こゑ
)
224
一度
(
いちど
)
も
聞
(
き
)
いた
事
(
こと
)
はない
225
鴎
(
かもめ
)
の
声
(
こゑ
)
や
鵜
(
う
)
の
鳥
(
とり
)
が
226
夕
(
ゆふべ
)
の
空
(
そら
)
に
帰
(
かへ
)
り
来
(
き
)
て
227
翼
(
つばさ
)
をやすめ
朝
(
あさ
)
まだき
228
朝日
(
あさひ
)
の
登
(
のぼ
)
るを
待
(
ま
)
ちかねて
229
チンチン チユンチユン
騒
(
さわ
)
がしく
230
さながら
天女
(
てんによ
)
の
音楽
(
おんがく
)
を
231
奏
(
そう
)
する
如
(
ごと
)
く
聞
(
きこ
)
え
来
(
く
)
る
232
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
こそは
吾
(
わが
)
身
(
み
)
をば
233
慰
(
なぐさ
)
めたまふ
神
(
かみ
)
の
声
(
こゑ
)
234
忝
(
かたじけ
)
なしと
伏
(
ふ
)
し
拝
(
をが
)
み
235
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれ
雨
(
あめ
)
に
濡
(
ぬ
)
れ
236
漸
(
やうや
)
く
茲
(
ここ
)
迄
(
まで
)
ながらへぬ
237
明日
(
あす
)
をも
知
(
し
)
らぬ
人
(
ひと
)
の
身
(
み
)
の
238
人
(
ひと
)
なき
島
(
しま
)
に
斃
(
たふ
)
れなば
239
吾
(
わが
)
遺骸
(
なきがら
)
を
如何
(
いか
)
にせむ
240
せめて
命
(
いのち
)
のある
中
(
うち
)
に
241
身
(
み
)
を
躍
(
をど
)
らして
水底
(
みなそこ
)
へ
242
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
み
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
苦
(
くる
)
しみを
243
逃
(
のが
)
れむものと
幾度
(
いくたび
)
か
244
思
(
おも
)
ひ
煩
(
わづら
)
ひ
居
(
ゐ
)
たりしが
245
ハツと
心
(
こころ
)
を
取
(
と
)
り
直
(
なほ
)
し
246
斯
(
か
)
くも
月日
(
つきひ
)
の
御
(
おん
)
守
(
まも
)
り
247
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
に
照
(
て
)
る
上
(
うへ
)
は
248
いつかは
海路
(
かいろ
)
の
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
き
249
助
(
たす
)
けの
船
(
ふね
)
の
現
(
あら
)
はれて
250
恋
(
こひ
)
しきスマの
故郷
(
ふるさと
)
へ
251
帰
(
かへ
)
られる
事
(
こと
)
もあらうかと
252
気
(
き
)
を
取
(
と
)
り
直
(
なほ
)
し
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて
253
天地
(
てんち
)
の
御恩
(
ごおん
)
を
感謝
(
かんしや
)
しつ
254
際限
(
さいげん
)
もなき
海原
(
うなばら
)
を
255
眺
(
なが
)
めて
又
(
また
)
もや
生
(
いき
)
かへり
256
いつしか
淋
(
さび
)
しさ
悲
(
かな
)
しさも
257
歓喜
(
くわんき
)
の
涙
(
なみだ
)
となりかはる
258
人
(
ひと
)
は
心
(
こころ
)
の
持
(
も
)
ちやうで
259
安全
(
あんぜん
)
地帯
(
ちたい
)
の
此
(
この
)
島
(
しま
)
も
260
地獄
(
ぢごく
)
の
底
(
そこ
)
と
感
(
かん
)
じたり
261
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
と
感
(
かん
)
じつつ
262
悲喜
(
ひき
)
交々
(
こもごも
)
の
生涯
(
しやうがい
)
を
263
送
(
おく
)
りし
吾
(
われ
)
ぞ
奇
(
くし
)
びなれ
264
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
265
神
(
かみ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
幸倍
(
さちはへ
)
て
266
今日
(
けふ
)
の
生日
(
いくひ
)
の
生時
(
いくとき
)
に
267
三五教
(
あななひけう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
268
初稚姫
(
はつわかひめ
)
のお
弟子
(
でし
)
なる
269
数多
(
あまた
)
の
司
(
つかさ
)
に
助
(
たす
)
けられ
270
又
(
また
)
もや
恋
(
こひ
)
しき
御
(
おん
)
主
(
あるじ
)
271
無事
(
ぶじ
)
なお
顔
(
かほ
)
を
伏
(
ふ
)
し
拝
(
をが
)
み
272
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
にて
故郷
(
ふるさと
)
に
273
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
くこそ
嬉
(
うれ
)
しけれ
274
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
は
胸
(
むね
)
に
満
(
み
)
ち
275
心
(
こころ
)
はいそいそ
飛
(
と
)
び
立
(
た
)
つ
思
(
おも
)
ひ
276
夢
(
ゆめ
)
か
現
(
うつつ
)
か
幻
(
まぼろし
)
か
277
吾
(
われ
)
と
吾
(
わ
)
が
身
(
み
)
がはかられぬ
278
深
(
ふか
)
き
恵
(
めぐみ
)
のキヨの
湖
(
うみ
)
279
浪間
(
なみま
)
を
辷
(
すべ
)
り
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く
280
スマの
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
りなば
281
主人
(
あるじ
)
の
妻
(
つま
)
のサーベルさま
282
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
を
湛
(
たた
)
へつつ
283
手足
(
てあし
)
に
取
(
と
)
りつきし
噛
(
が
)
みつき
284
喜
(
よろこ
)
びたまふ
事
(
こと
)
だらう
285
私
(
わたし
)
は
元
(
もと
)
より
独身者
(
ひとりもの
)
286
ようまアお
帰
(
かへ
)
りなさつたと
287
訪
(
おと
)
のう
妻
(
つま
)
は
有
(
あ
)
りませぬ
288
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
味気
(
あぢき
)
なき
289
憂世
(
うきよ
)
を
渡
(
わた
)
る
独身者
(
ひとりもの
)
290
憫
(
あはれ
)
みたまへ
惟神
(
かむながら
)
291
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
292
心
(
こころ
)
に
積
(
つも
)
りしありたけを
293
一
(
ひと
)
つも
残
(
のこ
)
さず
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
して
294
救
(
すく
)
ひを
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
る
295
三年振
(
さんねんぶり
)
にて
海
(
うみ
)
の
上
(
うへ
)
296
目無
(
めなし
)
堅間
(
かたま
)
の
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
り
297
帰
(
かへ
)
りて
行
(
ゆ
)
くぞ
有難
(
ありがた
)
き
298
主従
(
しゆじゆう
)
二人
(
ふたり
)
が
謹
(
つつし
)
みて
299
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ
大神
(
おほかみ
)
の
300
御前
(
みまへ
)
に
感謝
(
かんしや
)
し
奉
(
たてまつ
)
る
301
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
302
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましませよ』
303
伊太
(
いた
)
『アハハハハ、
304
矢張
(
やつぱり
)
アンチーさまも
一人
(
ひとり
)
は
淋
(
さび
)
しいと
見
(
み
)
えるな、
305
家
(
いへ
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
精
(
せ
)
の
無
(
な
)
い
私
(
わたし
)
306
門
(
かど
)
に
迎
(
むか
)
へる
妻
(
つま
)
はない。
307
と
云
(
い
)
ふ
筆法
(
ひつぱふ
)
ぢやな。
308
それや
私
(
わたし
)
も
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
だ。
309
折角
(
せつかく
)
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
のお
伴
(
とも
)
して、
310
功名
(
こうみやう
)
手柄
(
てがら
)
を
現
(
あら
)
はし
家
(
いへ
)
に
帰
(
かへ
)
つた
所
(
ところ
)
で、
311
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
れば
妻
(
つま
)
もなし、
312
ほんに
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
淋
(
さび
)
しいものだよ。
313
お
前
(
まへ
)
も
三千彦
(
みちひこ
)
さまの
夫婦
(
ふうふ
)
連
(
づ
)
れを
見
(
み
)
て
羨
(
けなり
)
うなつて
来
(
き
)
たのだな。
314
併
(
しか
)
しこの
伊太彦
(
いたひこ
)
双手
(
もろて
)
を
上
(
あ
)
げて
賛成
(
さんせい
)
だ。
315
ヤア
是
(
これ
)
で
俺
(
おれ
)
も
一人
(
ひとり
)
の
知己
(
ちき
)
を
得
(
え
)
たものだ。
316
同病
(
どうびやう
)
相憐
(
あひあは
)
れむと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるからアンチーさま
今後
(
こんご
)
は
私
(
わたし
)
と
堅
(
かた
)
い
握手
(
あくしゆ
)
をして
互
(
たがひ
)
に
力
(
ちから
)
にならうぢやないか。
317
お
前
(
まへ
)
と
私
(
わたし
)
の
私交
(
しかう
)
上
(
じやう
)
の
事
(
こと
)
だから
別
(
べつ
)
に
先生
(
せんせい
)
の
許
(
ゆる
)
しを
受
(
う
)
ける
必要
(
ひつえう
)
もなし、
318
三千彦
(
みちひこ
)
さまや、
319
真純彦
(
ますみひこ
)
さまに
気兼
(
きがね
)
も
要
(
い
)
らぬ。
320
一
(
ひと
)
つ
日英
(
にちえい
)
同盟
(
どうめい
)
でもやらうぢやないか。
321
なあアンチーさま』
322
アンチー『ハイ、
323
有難
(
ありがた
)
う、
324
何分
(
なにぶん
)
宜敷
(
よろし
)
く
願
(
ねが
)
ひます。
325
私
(
わたし
)
も
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
の
家
(
うち
)
に
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
になつて
居
(
ゐ
)
るのも
詮
(
つま
)
りませぬから、
326
何
(
なん
)
とか
国
(
くに
)
へ
帰
(
かへ
)
つたら
身
(
み
)
の
振
(
ふ
)
り
方
(
かた
)
を
考
(
かんが
)
へねばならないと
思
(
おも
)
ふて
居
(
ゐ
)
ます』
327
伊太
(
いた
)
『ヤア、
328
そりや
感心
(
かんしん
)
だ、
329
さうなくてはならぬ。
330
もし
三千彦
(
みちひこ
)
さま、
331
私
(
わたし
)
は
同性
(
どうせい
)
の
女房
(
にようばう
)
を
持
(
も
)
ちましたから、
332
何卒
(
どうぞ
)
宜敷
(
よろし
)
く
御
(
ご
)
交際
(
かうさい
)
を
願
(
ねが
)
ひます、
333
アハハハハ』
334
(
大正一二・三・二九
旧二・一三
於皆生温泉浜屋
加藤明子
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
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【第17章 怪物|第58巻|真善美愛|霊界物語|/rm5817】
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