霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 素破抜(すつぱぬき)〔一四八七〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm5812
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 南北(なんぽく)二百(にひやく)里(り)の航路(かうろ)にはそろそろ退屈(たいくつ)気分(きぶん)が漂(ただよ)ひ、002いろいろと腮(あご)を解(と)く雑談(ざつだん)が初(はじ)まつて来(き)た。003彼方(あちら)にも此方(こちら)にも欠伸(あくび)に節(ふし)をつけたり放屁(はうひ)を刻(きざ)んだり、004他愛(たあい)もなく笑(わら)ひ狂(くる)ふて居(ゐ)る。005ダルは船中(せんちう)の無聊(ぶれう)を慰(なぐさ)むる為(た)め、006骨(ほね)と皮(かは)との餓鬼(がき)のやうな体(からだ)を前後(ぜんご)左右(さいう)に揺(ゆす)り阿保陀羅(あほだら)文句(もんく)を並(なら)べだした。
007ダル『カカポコカカポコ、008ポコポコポコ。009──エー憚(はばか)り乍(なが)ら、010所(ところ)は何処(いづく)と尋(たづ)ねましたら、011愛想(あいさう)もこそも月(つき)の国(くに)、012人(ひと)を取(と)り食(く)ふ曲津(まがつ)神(かみ)八岐(やまた)の大蛇(をろち)の住家(すみか)なる、013大雲山(だいうんざん)の岩窟(がんくつ)に、014後前(あとさき)バラバラ バラモンの、015神(かみ)を祭(まつ)つた洞(ほら)の中(なか)、016中(うち)はホラホラ外(そと)はスブスブと、017焼野(やけの)の鼠(ねずみ)ぢやないけれど、018この世(よ)を乱(みだ)すバラモンの、019ガラクタ神(がみ)が巣(す)をくんで、020彼方(あなた)此方(こなた)と駆(か)け廻(めぐ)り、021人(ひと)の女房(にようばう)を誘拐(かどはか)し、022汗水(あせみづ)垂(た)らして儲(まう)けた金(かね)を、023スツカリコンのコンコロコンと、024引(ひ)つたくり、025六百六(ろくぴやくろく)号(がう)の御(ご)開山(かいさん)、026鼻落(はなお)ち女(をんな)に現(うつつ)をぬかし、027終(しまひ)の果(はて)にはフガフガフガと、028鼻声(はなごゑ)交(まじ)りに、029痘痕(あばた)の面(つら)を曝(さら)しつつ、030人(ひと)には嫌(きら)はれ鬼(おに)や悪魔(あくま)と厭(いや)がられ、031一人(ひとり)よがりのヒヨツトコ男(をとこ)、032此処(ここ)にも一人(ひとり)や三(さん)人(にん)は、033あるかも知(し)れないバラモンの、034泥棒(どろばう)上(あが)りの目付役(めつけやく)、035おつとどつこい間違(まちが)つた。036泥棒(どろばう)やめて神(かみ)様(さま)の、037誠(まこと)の教(をしへ)にコツクリコツと帰順(きじゆん)をなされました。038それは誠(まこと)に誠(まこと)に御(ご)結構(けつこう)とは云(い)ふものの行先(ゆくさき)が、039私(わたし)は案(あん)じられてなりませぬ。040キヨの港(みなと)に着(つ)いたなら、041ウンバラサンバラ、042バラバラバラバラ バラモンの、043捕吏(とりて)の奴(やつ)等(ら)がやつて来(き)て、044玉国別(たまくにわけ)の宣伝使(せんでんし)、045神(かみ)の使(つかひ)を初(はじ)めとし、046俺(おれ)達(たち)二人(ふたり)を引(ひ)んづかみ、047惨(むご)い目(め)見(み)せて呉(く)れむずと、048心(こころ)の鬼(おに)が角(つの)生(は)やし、049待(ま)つて居(ゐ)るのに違(ちが)ひない、050カカポコカカポコ、051ポコポコポコ。052人(ひと)の心(こころ)は分(わか)らない、053改心(かいしん)したと見(み)せかけて、054これの湖水(こすい)をまんまと渡(わた)り、055岸(きし)へヒヨツクリコと登(のぼ)るや否(いな)や、056又(また)もや地金(ぢがね)を現(あら)はして、057目付(めつけ)の役(やく)を振(ふ)り廻(まは)し、058難(むつかし)い顔(かほ)をして居(ゐ)るだらう。059何程(なにほど)改心(かいしん)したとても、060瓦(かはら)は黄金(こがね)になりはせぬ。061身魂(みたま)の悪(わる)い曲津(まがつ)神(かみ)、062何(なに)を云(い)ふやら蜜柑(みかん)やら、063金柑(きんかん)桝(ます)で量(はか)るやら、064橙(だいだい)だいの厄介物(やくかいもの)よ、065これを思(おも)へば迂(う)つかりと、066温(ぬく)い夢(ゆめ)みてネーブルと、067云(い)ふよな訳(わけ)には参(まゐ)らない。068罪(つみ)の島(しま)へとやつて来(き)て、069蟹(かに)や貝(かひ)をば漁(あさ)りつつ、070寄(よ)せ来(く)る浪(なみ)にも怯(お)ぢ怖(おそ)れ、071腹(はら)はペコペコ胃袋(ゐぶくろ)を、072充実(じゆうじつ)させむと穴(あな)さがし、073岩窟(いはや)の口(くち)へとやつて来(き)て、074俺(おれ)等(ら)の両腕(りやううで)引掴(ひつつか)み、075バラバラバラと引(ひ)き裂(さ)いて、076頭(あたま)からかぶらうとした奴(やつ)は、077矢張(やつぱ)り鬼(おに)の性来(しやうらい)だ。078これを思(おも)へば怖(おそ)ろしや、079チヤカポコチヤカポコ、080ポコポコポコ。081これこれ申(まを)し皆(みな)さまよ、082随分(ずいぶん)用心(ようじん)なさいませ、083虎(とら)狼(おほかみ)を船(ふね)に乗(の)せ、084虎穴(こけつ)に入(い)つてやすやすと、085睡(ねむ)つて居(ゐ)るよな剣呑(けんのん)さ、086それより一層(いつそう)今(いま)此処(ここ)で、087同盟軍(どうめいぐん)を組織(そしき)して、088改心(かいしん)したと見(み)せかけて、089猫(ねこ)を被(かぶ)つて居(ゐ)る狸(たぬき)、090成敗(せいばい)したらどうでしよか、091後(あと)の後悔(こうくわい)間(ま)に合(あ)はぬ、092こんな奴(やつ)等(ら)の命(いのち)をば、093助(たす)けた所(ところ)で世(よ)の為(ため)に、094一(ひと)つもなるでは有(あ)らうまい、095お米(こめ)が高(たか)うなる許(ばか)り、096製糞(せいふん)機械(きかい)がウヨウヨと、097辛(から)い時節(じせつ)に迂路(うろ)づいて、098コソコソコソと暗(くら)いとこ、099穴(あな)のありかを嗅(かぎ)つけて、100スパイの役(やく)をする餓鬼(がき)は、101人間姿(にんげんすがた)の犬畜生(いぬちくしやう)、102仇(あだ)を打(う)つなら今(いま)ぢやぞや、103チヤカポコチヤカポコ、104ポコポコポコ、105骨(ほね)と皮(かは)とになり果(は)てた、106ばつちよ笠(がさ)見(み)たよな俺(おれ)等(たち)の、107肉(にく)でも叩(たた)いて喰(くら)はうと、108企(たく)んだ餓鬼(がき)は怖(おそ)ろしい、109因縁(いんねん)悪(わる)い生(うま)れつき、110可愛(かあい)さうだと思(おも)へども、111吾(わが)身(み)が可愛(かあい)と思(おも)ふたら、112敵(てき)をムザムザ許(ゆる)せない、113悪人輩(あくにんばら)を平(たひら)げて、114根底(ねそこ)の国(くに)へ追(お)ひやれば、115キツと世界(せかい)の為(ため)となる、116杢平(もくべい)も助(すけ)も、117田吾作(たごさく)も喜(よろこ)んで、118お前(まへ)は世界(せかい)の救(すく)ひ主(ぬし)、119偉(えら)い手柄(てがら)をして呉(く)れた、120餅(もち)でもついて祝(いは)はうと、121近所(きんじよ)合壁(がつぺき)呼(よ)び集(つど)へ、122疳瘡(かんさう)や痒癬(ひぜん)の親方(おやかた)を、123ようま殺(ころ)して下(くだ)さつた、124なぞと云(い)ひ云(い)ひ手(て)を拍(う)つて、125踊(をど)り狂(くる)ふに違(ちが)ひない、126ああ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、127バラモン軍(ぐん)の目付役(めつけやく)、128ヤッコス、129ハール、130サボールの、131贋改心(にせかいしん)の御(おん)大将(たいしやう)、132茲(ここ)に本音(ほんね)を吹(ふ)くがよい、133海賊船(かいぞくせん)に出会(であ)つた時(とき)、134お前(まへ)の視線(しせん)が何(なん)となく、135奇妙(きめう)奇怪(きくわい)にキラキラと、136光(ひか)つて居(ゐ)たのを一寸(ちよつと)見(み)た。137あの八艘(はつそう)の賊船(ぞくせん)は、138初稚丸(はつわかまる)が安々(やすやす)と、139キヨの港(みなと)へ着(つ)いた時(とき)、140関守(せきもり)さまと腹(はら)合(あは)せ、141先(さき)へ帰(かへ)つて待(ま)つて居(ゐ)て、142苦労(くらう)もなしに吾々(われわれ)を、143一網(いちまう)打尽(だじん)にふん縛(じば)り、144甘(うま)く目的(もくてき)達成(たつせい)し、145ハルナの都(みやこ)の鬼神(おにがみ)の、146前(まへ)に手柄(てがら)を立(た)てやうと、147深(ふか)く企(たく)んで厶(ござ)ろがな、148そんな企(たく)みの分(わか)らない、149玉国別(たまくにわけ)の神司(かむつかさ)、150神(かみ)の使(つかひ)ぢやない程(ほど)に、151改心(かいしん)するのがお身(み)の徳(とく)、152ダルに的切(てつき)り図星(づぼし)をば、153指(さ)されて胸(むね)が痛(いた)からう、154仮令(たとへ)天地(てんち)は変(かは)るとも、155ダルの言葉(ことば)は変(かは)らない、156俺(おれ)の眼(まなこ)で睨(にら)んだら、157決(けつ)して間違(まちが)ひ無(な)い程(ほど)に、158コラコラどうだバラモンの、159悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の目付役(めつけやく)、160もう斯(か)うなつた上(うへ)からは、161お前(まへ)の心(こころ)の黒幕(くろまく)を、162薩張(さつぱり)こんと打(う)ちあけて、163心(こころ)の底(そこ)のどん底(ぞこ)の、164暗(くら)い穴(あな)迄(まで)見(み)て置(お)いた。165これに間違(まちが)ひあるまいぞ、166これこれ皆(みな)さまこのダルが、167申(まを)す言葉(ことば)を疑(うたが)はず、168固(かた)く信(しん)じて下(くだ)さんせ、169私(わたし)は観相(くわんそう)に妙(めう)を得(え)た、170イヅミの国(くに)で名(な)の高(たか)い、171ダルのシヤンクと云(い)ふ男(をとこ)、172天眼力(てんがんりき)で調(しら)べました、173この大湖(おほうみ)の中央(まんなか)で、174一(ひと)つの成敗(せいばい)なされませ、175後(あと)で後悔(こうくわい)せぬやうに、176夫(そ)れ夫(そ)れ御覧(ごらん)それ御覧(ごらん)、177心(こころ)の色(いろ)が現(あら)はれた、178青(あを)い顔(かほ)してビリビリと、179手足(てあし)はワナワナ慄(ふる)ひ出(だ)す、180これが外(はづ)れぬ証拠(しようこ)です、181ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)、182叶(かな)はぬからとて涙(なみだ)ぐみ、183魂(たま)は中空(ちうくう)に飛(と)び散(ち)つて、184ズ蟹(がに)のやうに目玉(めだま)迄(まで)、185一寸先(いつすんさき)へつん出(で)てる、186さても愚僧(ぐそう)が三千(さんぜん)世界(せかい)を遍歴(へんれき)し、187数千万(すうせんまん)の人相(にんさう)を、188取(と)り調(しら)べたる経験(けいけん)上(じやう)、189どうしても此奴(こいつ)は悪人(あくにん)だ、190芝(しば)をかぶらにや直(なほ)らない、191地獄(ぢごく)に籍(せき)をおいて居(ゐ)る、192奸怪(えうくわい)変化(へんげ)の容器(いれもの)だ、193ああ惟神(かむながら)、194あのまア目玉(めだま)の飛(と)び出(で)やう、195アハハハハツハ、196アハハハハ。197呆(あき)れて物(もの)が云(い)はれない、198頭(あたま)を掻(か)いて俯向(うつむ)いて、199青(あを)い顔(かほ)して泡(あわ)を吹(ふ)く、200イヒヒヒヒツヒイヒヒヒヒ。201種々(いろいろ)雑多(ざつた)と言葉(ことば)を構(かま)へ佯(いつは)り並(なら)べて肝腎要(かんじんかなめ)の命(いのち)をば、202暫(しば)しながらへ、203陸(くが)に登(のぼ)つた其(その)上(うへ)で、204以心(いしん)伝心(でんしん)関守(せきもり)と、205異様(いやう)な眼(まなこ)を交換(かうくわん)し、206威張(ゐば)り散(ち)らしてインチキに、207かけて吾(われ)等(ら)を縛(しば)らむと、208企(たく)む心(こころ)は顔色(かほいろ)に、209すつかり見(み)えて居(を)りますぞ、210ウフフフフツフ、211ウフフフフ。212うかうか致(いた)して居(を)りたなら、213動(うご)きの取(と)れぬ事(こと)になる、214甘(うま)い言葉(ことば)を並(なら)べたて、215甘(うま)い汁(しる)をば絞(しぼ)らうと、216甘(うま)く企(たく)んだ大泥棒(おほどろばう)、217バラモン教(けう)の目付役(めつけやく)、218ヤッコス、219ハール、220サボールの、221迂散(うさん)な顔(かほ)を見(み)なされや、222うるさい奴(やつ)が乗(の)つたものだ。223エヘヘヘヘツヘ、224エヘヘヘヘ。225えぐいと云(い)つてもこれ位(くらゐ)、226えぐたらしい、227餓鬼(がき)どもが又(また)と世界(せかい)に有(あ)りませうか、228遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)はいらないで、229今(いま)から師弟(してい)の縁(えん)を切(き)り、230えたいの知(し)れぬ餓鬼(がき)共(ども)を、231一(ひと)つ成敗(せいばい)なされませ、232オホホホホツホ、233オホホホホ。234怖(おそ)ろし企(たく)みを懐(いだ)いてる、235鬼(おに)か大蛇(をろち)か曲神(まがかみ)の、236お化(ばけ)に等(ひと)しき横道(わうど)もの、237心(こころ)の底(そこ)が現(あら)はれて、238思(おも)へば思(おも)へばお気(き)の毒(どく)、239恐(おそ)れ入(い)つたかバラモンの、240海賊(かいぞく)上(あが)りの目付役(めつけやく)、241俺(おれ)の言葉(ことば)が違(ちが)ふたら、242お前(まへ)の前(まへ)で尻(しり)まくり、243犬蹲(いぬつくばひ)になつてやろ、244カカカカカツカ、245カカカカカ。246叶(かな)はぬ時(とき)の神頼(かみだの)み、247蟹(かに)のやうなる泡(あわ)吹(ふ)ひて、248悲(かな)しみ歎(なげ)いて見(み)た所(とこ)で、249もう勘忍(かんにん)は出来(でき)ないで、250観念(くわんねん)するのが第一(だいいち)だ、251チヤカポコチヤカポコ、252ポコポコポコ、253未(ま)だ未(ま)だ先(さき)はあるけれど、254頂(いただ)くお金(かね)の愛想(あいそ)だけ、255此(この)先(さき)聞(きこ)うと思(おも)ふたら、256お金(かね)を沢山(どつさり)下(くだ)しやんせ、257肝腎要(かんじんかなめ)の正念場(しやうねんば)、258供養(くやう)の為(ため)にダルさまが、259ゆるゆる申(まを)し述(の)べませう、260カカポコ カカポコ ポコポコポコ』
261 ダルに素(す)ツ破(ぱ)抜(ぬ)かれて、262ヤッコス外(ほか)二人(ふたり)は顔色(がんしよく)を変(か)へ、263肩(かた)で息(いき)をして船底(ふなぞこ)へ小(ちひ)さくなつて踞(しやがん)で居(ゐ)る、264伊太彦(いたひこ)は三(さん)人(にん)の前(まへ)に進(すす)み寄(よ)り、
265伊太(いた)『オイ、266ヤッコス、267お前(まへ)達(たち)は何(なに)さう鬱(ふさ)いで居(ゐ)るのだ。268滑稽(こつけい)交(まじ)りの阿呆(あほ)陀羅(だら)がお前(まへ)達(たち)は気分(きぶん)が悪(わる)いのか、269誰(たれ)があんな事(こと)本当(ほんたう)にするものか、270間違(まちが)つて、271よしやお前(まへ)達(たち)がダルの云(い)つた通(とほ)りの悪人(あくにん)であつたにせよ、272酷(ひど)い事(こと)はしないよ。273そんな事(こと)をする位(くらゐ)なら、274罪(つみ)の島(しま)へ残(のこ)して置(お)くのだ。275吾々(われわれ)は紳士(しんし)的(てき)態度(たいど)を取(と)るものだ。276決(けつ)して卑怯(ひけふ)な事(こと)はしないよ。277夫(それ)よりも歌(うた)でも歌(うた)つて機嫌(きげん)を直(なほ)したまへ。278玉国別(たまくにわけ)の先生(せんせい)だつて些(ちつ)とも気(き)にかけて厶(ござ)るやうな方(かた)ではないからなア』
279ヤッコス『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)います。280それを承(うけたま)はつて安心(あんしん)致(いた)しました。281ダルの奴(やつ)どこ迄(まで)も私(わたし)を恨(うら)んであんな讒言(ざんげん)するのです。282何卒(どうぞ)御(ご)推量(すいりやう)下(くだ)さいませ』
283伊太(いた)『ヨシヨシ、284誰(たれ)も彼(か)れもみんな、285心(こころ)の盲(めくら)は居(ゐ)ないから、286腹(はら)のどん底(ぞこ)迄(まで)分(わか)つて居(ゐ)るのだ。287仮令(たとへ)仮(かり)にお前(まへ)がダルの云(い)つたやうな事(こと)を企(たく)んで居(を)つたつて、288そんな事(こと)にびくつくやうなものは一人(ひとり)も居(ゐ)ないのだから、289安心(あんしん)したがよからう。290お前(まへ)も一(ひと)つ歌(うた)でも歌(うた)つて船中(せんちう)の無聊(ぶれう)を慰(なぐさ)めたらどうだ』
291ヤッコス『ハイ、292有難(ありがた)う厶(ござ)います。293そんならお言葉(ことば)に甘(あま)へ長(なが)の航路(かうろ)で厶(ござ)いますから、294不調法(ぶてうはふ)ながら歌(うた)はして頂(いただ)きませう』
295伊太(いた)『ヨシヨシ、296何(なん)でも構(かま)はぬ、297一(ひと)つ機嫌(きげん)を直(なほ)して歌(うた)つてくれ』
298ヤッコス『ハイ有難(ありがた)う、299御免(ごめん)下(くだ)さい』
300と云(い)ひ乍(なが)ら、301ダルの前(まへ)にツカツカと進(すす)み、302ダルが左右(さいう)の耳(みみ)を自分(じぶん)の両手(りやうて)でグツと握(にぎ)り、303顔(かほ)を前(まへ)へ突(つ)き出(だ)して、304一口(ひとくち)歌(うた)つては、305首(くび)をしやくり、306一口(ひとくち)歌(うた)つては首(くび)をしやくり乍(なが)ら弁解(べんかい)的(てき)阿呆駄羅(あほうだら)経(きやう)を喋(しやべ)り出(だ)した。
307(大正一二・三・二九 旧二・一三 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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