祭典の準備の間、三千彦は神饌物の調理をしながらバーチルと改宗の話をした。バーチルは三五教の神様を第一に祀り、先祖の霊も三五教式で祭りたいので、玉国別に伺ってもらいたいと三千彦にたのんだ。
三千彦は玉国別に尋ねる中で、玉国別は祭礼について教示を垂れた。祖霊祭については、子孫の真心よりする供物や祭典は、霊界にあるものを歓喜せしめ、子孫の幸福を守るという。
中有界にある精霊は、なにほど遅くても三十年以上はいないが、その精霊が現世に人間として再生して霊界にいなくなっても、祭祀を厚くされた人の霊は現界でもその供物の歓喜を受けるものであるという。
地獄に堕ちていれば子孫の祭祀の善徳によって中有界に進んで天国に昇ることを得る。また天国にあっても、祖霊祭によって極めて安逸な生涯を得られ、その歓喜が子孫に伝わって繁栄を守るという。
改宗したとしても、人の精霊や天人は、霊界に在って絶えず智慧・正覚・善真を得て向上しようと望んでいるので、現界の子孫が最も善と真とに透徹した宗教を信じて、その教えに準拠して祭祀を行ってくれることを非常に歓喜するものであるという。
また祠の森の聖場でさえも大自在天様を祀ってあるのだから、三五教に改宗しても、引き続き大自在天様を祀り続けるようにするのが良いと教示した。
アヅモス山には大自在天のお宮が立っているが、そこも祠の森のように合祀するかどうかについては、建造が必要になるので、玉国別はバーチルと直々に相談したいと三千彦に伝えた。
やってきたバーチルは、アヅモス山は先祖代々お祀りしてきたなり、猩々の眷属たちが守ってきた聖地であるので、にわかに三五教に祀り変えることはどうかと思うと答えた。玉国別は、大自在天のお宮はそのまま残し、新たに三五教の大神を祀るお宮を建造することにしたらどうかと提案した。
そして猩々ヶ島の子猿たちを迎えに行ってアヅモス山に返し、また島に置いてきたバラモンの三人を助けに船を出すようにと勧めた。
アヅモス山のお宮の建築は準備に取り掛かることとして、当面はこの家に三五教の大神とバラモンの大神を並べて祭り、家の者たちを参拝に与らせることになった。
祭典の準備は整い、玉国別は祭主となって天津祝詞を奏上し、感謝の歌を奉った。感謝祭は無事に終了し、玉国別一行は閑静な離れ座敷を与えられ、海上の長旅の疲労を癒すべく休養した。