霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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野天狗放言

インフォメーション
題名:野天狗放言 著者:出口王仁三郎
ページ:523
概要: 備考: タグ: データ凡例:旧仮名遣いを新仮名遣いに改めた。 データ最終更新日:2021-04-20 13:37:50 OBC :B121805c236
初出[?]この文献の初出または底本となったと思われる文献です。[×閉じる]神霊界 > 大正7年1月1日号(第55号) > 野天狗放言
 今や全世界の大乱は、人生天与の福祉を蹂躙し、無辜(むこ)の民をして惨禍のうちに投ぜしめているのである。思うにこれ全く世に人倫無く、国に治道無きがためなのである。我が皇朝は道を混沌未剖の初めに伝え国を群類未成の際に起こし、歴世の祖宗は徳を施し、化を布き、万代不変の臣民忠を尽くし、孝を(つく)し、上下(しょうか)一致、忠孝不二、もって国体の精華を養うたのである。故に世に隆替(りゅうたい)あり、時に晦否(かいひ)無きにしも非ざりしとはいえ、極天の大道は照々(しょうしょう)()として(かわ)ることはなかったのである。これ実に金甌無欠(きんおうむけつ)の神国として万邦に範を垂るる所以である。近時において我が国の御稜威(みいづ)はますます揚がり、外人一斉に(ひとみ)を集め耳を(そばだ)て競って我が国の美風に習わんとするに至ったのである。我が国民たるものよろしく祖宗のご精神を継承して、よく皇国天賦の使命に服膺(ふくよう)し、()りては()く孝に、出でては克く忠に誠実(ぎょう)(つと)め、諄厚(じゅんこう)俗を()し、君臣一体、神人合一、もって天業を恢弘(かいこう)すべきの秋である。されどひるがえって我が国現今の情態をかえりみれば聖代の裡面はなはだしく妖乱の兆を(きざ)し、明治維新の盛業もまさにその跡を没せんとする有様である。見よ宗教ますます多くして迷信の暗雲天地を蔽い、哲学盛んにして懐疑の念波全国に(みなぎ)り、刑政美を成して礼俗廃れ、智育発達して至情いよいよ衰うという現状である。故に臣として忠君の大道を疑い、子として慈父と権を争い、利を見ては進み、義を聞きては退き、荒淫(こういん)相耽り、奢侈(しゃし)互いに競い、終わりに臨んで人生の不可解を叫び、泣きて妄教の救済を求むる弱虫ばかりが発生し、皇道の大本(たいほん)ここに影を没し、国粋の俗ほとんど絶えんとするは、実に国民として悲憤の情に堪えられないのである。(ひそ)かに(おもんみ)るに、国家救済の事業たるその(しな)多しといえども、我輩は皇祖皇宗の御遺訓即ち皇道の大義、大本(たいほん)に則り、有為の人材を養成するより先なるは無く、人材を養成するは国体の御本義を明らかにして、忠孝義烈の士を養成するより急なるは無いと信ずるのである。我輩は国家の前途を考え、世界の大勢に照らして、あくまでも敬神尊皇愛国の精神を涵養するため、寝食を忘れ、皇道大本の宣伝に心身を集注しているのであるが、腐敗堕落の極に達した現代の鼻高は盲目(めくら)も同様であるから、我輩の事業を評して山子が当たって成功したとか、うまく世人を釣るとか、愚民を惑わして(われ)の私腹を肥やすとか、何とかかんとか、勝手次第の熱を吹く、実に困ったものである。先年も亡父の霊祭のため郷里へ帰ったときに、青年時代の旧友や村内の歴々と云われている田紳君(でんしんくん)が我輩を訪問して妙なことを云った。野天狗さん、貴下(あなた)は成功しましたね─。遊んで楽して喰って行けるのは何と結構な商売ですな。マアこんな挨拶である。我輩は呆然(あぜん)として答うる(ことば)も出なかった。今の人間は衣食住のほかには何にもないのだから、禽獣のようにただただ食と色とを漁って体的欲望さえ満足なれば、人間の本職を全うしたもののように思っているのが多い。アア実にナサケないではないか。
 我輩が皇道大本の神旗をひるがえしているのは、根本的に謬れる現今の政治、教育、宗教、実業、科学、哲学等の革正のためである。したがって根本誤解を正さんとすれば、第一着手として精神界から直して行かねばならぬ、日本神国天賦の使命を世人に覚らしめねばならぬ。そこで我輩は神を祭る教理も説く、教会場も建設せなくてはならぬようになるのである。帝国の憲法の精神を知らない田舎の警官は、今までに幾度となく我輩に向かって圧迫を加えたものである。その度ごとに我輩は勉めて憲法の講義をして聞かしてやった。今日では警察官もよほど法律の知識が進んだとみえて、あまり何事も言わないようになった。また我輩の事業に向かってグズグズ言う資格はないのである。畏くも明治天皇より賜った信教自由の特権を蹂躙することは出来ないはずであり、また吾々も蹂躙されて黙していては、陛下に対して申し訳がないことになる。信教自由の特権は明治二十三年に国民に与えられたのではないか。それに今年はもはや大正七年である。三十年も経ているのに未だ信教自由の精神が判らないとみえて、神道教導職とかいう営業宗教屋が、神道十三派の管長に雌伏して、免状を戴いて義務金とか幣帛料とかを徴収されて、随喜の涙をコボしている人物ばかり、一人も覚醒したものがないとは、法律思想に乏しいと云ってもあまり文盲すぎるではないか。その選に漏れない一人があって、背の細長い、色の黒い、眼の大きい、鼻の高い教導職兼某神社社掌があるが、郡吏員や神職、教職集会の席上で云うには、郡役所や警察署のある綾部において、皇道大本のような、官の許可も得ずに宮殿を建てたり、教会場を建てて、数多の信者を集めさしておくのは、チトその筋の注意が足らぬ。今後は大本に対して何とか制裁を加えて貰いたいものだと郡尹(ぐんい)に忠告して、一言の下に叱りつけられ、悄然として罷り下がった立派な神職兼教導職があるということだ。こんな男が神職会支部の理事とかになっているのを見ると、何鹿郡(いかるがぐん)斯会(しかい)も人物の乏しきを歎かずにおられないのである。
 朝寝坊の我輩がちょっと玄関先へ出ると、そこに色の黒い背の低い丸顔の男が、この寒いのに単衣二枚着て、地震の孫かこんにゃくの幽霊のようにガタガタ震うているから、我輩は怪しんで、あなたは何国(どこ)のお方ですかと尋ねてみるとその男は、(おれ)かい、己は日本一の()の先生じゃ、世に落ちてこんなふうをしているから、今の人間は盲目(めくら)ばかりで、日本一の画の先生をよう見届ける奴がないわい。ここは大分色々の人間が来るようだが、ドウジャ一つ日本一の画をかいてやろか。世界の奴は己を画師(えし)だの画工(がこう)だのと沢山そうに(ぬか)すから描かぬのだよ。先生と吐かしたら直ぐに金のことは百円でも一銭でも構わぬ、描いてやる、と酒気を帯びて気焔を吐くのである。我輩は好奇心に駆られて、面白い先生、先ずお上がり下さいと言った。ヨシ上がってやろうと横柄に我輩の居間へやってきた。我輩は、先生、君は日本一かい、僕は天下一の画の先生だよとカラカってみると、ソリャ面白い、ソンナラ描き比べをやろうかい、しかし寒くって手が震えて仕方がない。古着でも善い、一枚日本一に献上してくれと云う。我輩は洗濯したところの古着を出して、先生これはお気に入りますかと差し出す。画の先生は、ウンこれで辛抱しとこかい、ソシテ二、三日宿(とま)ってやるから、酒三合だけは朝晩に飲ましてくれ、酒が無けりゃ画は描けぬからね。五、六枚三日の間に南画を絹本(けんぽん)に書いた。我輩が手に取って見て、なるほど日本一の下手だねーと冷評(ひやか)すと、下手でも何でも日本一でさえあれば好いじゃないかい、気に入らなみな持って帰って途中で破って捨ててしまう。天下一の画も下手なことは天下一だねー。我輩も傍らで紙に二、三十枚、絹本に三枚ほど書いてみた。日本一に一枚くれ、コリャ面白い、こんな下手な画は如何な日本一でもよう書かんでのー。三日目の朝になると先生起きてきて、天下一の先生、今から日本一は帰りますよ、絹本二、三枚分と旅費として五円我輩に献じてくれ、ヨシ十円ほどやろうと思うていたのに、君五円でよいのか。ウン五円で結構だ、後の五円はご縁つなぎに預けておくよ。
 郡長の主宰で何鹿郡(いかるがぐん)修養会が一週間ばかり、中筋村(なかすじむら)の八幡神社境内で行われた。その時の講師として前内務省嘱託講師たりし留岡幸助氏は、報徳教で名高い人であるが、綾部の丹陽基督教会の開祖である。今は東京や北海道で家庭学校を興してその校長さまである。当地の基督教会執事高倉平兵衛さんの案内で大本へ来られ、王仁に面会して教理が聞きたいと、一葉の名刺を受付へ渡された。我輩は一月号神霊界の起稿中でたいていの来訪者なら謝絶したいのであるが、名高い留岡さんのことだから寸暇を割いて統務閣で面会した。我輩は氏の基督信者なるを知っているから、大本言霊学の上から無遠慮にも基督教徒の誤解を力説した。キリスト教も今日のような宣教者の態度では自滅するより道は無い。キリストは誰をさすか、天国とは何国(どこ)をさすか、全然今日の牧師では解っていないなぞと、色々の談話を試みた。両氏はただウナヅクばかりで一つも反問せられなかった。それから金竜海の小舟に、○○氏と我輩と両氏と四人が乗り出し、島々を一周して終わりに大八州へ上陸した。神殿の前で留岡、高倉両氏は謹粛の態度で拝礼せられ、次に天の岩戸へ参り、前同様神前に拍手礼拝せられた。
 たいていの牧師は神社や祭壇を見て、偶像だ、拝すべからずと頑固張るものであるが、基督の大精神を体得しておられる大人(たいじん)となると、(ごう)偏頗(へんぱ)な態度がないのに感心したのである。
 大本発行の敷島新報は一ヶ月十銭のところ、昨年一月から金十二銭に値上げして神霊界と改称した。専売局の敷島煙草も昨年十二月から金十二銭に値上げしたのに、政府は何故神霊煙草と改称せぬのであろうと、ある人が真面目な顔して尋ねていた。丹波児(たばこ)の怪気煙に吾輩は捲かれてしまった。
 外教に心酔した牧師や信徒の頑迷狭量度し難き人間になると、日本国体の淵源どころか、我が国の神社を見て偶像だなぞと唱えて、国家の崇祀を厄介視しているのである。また彼ら牧師の徒は口癖のように、日本人は迷信が強いから偶像を崇拝していると吐くのである。外教の輩、チト考えてみよ。日本人には汝ら非国民の徒を除くほかは、一人も汝らの云う如き馬鹿者は無いのだ。たとえば神戸湊川(みなとがわ)神社の祭神楠公(なんこう)さんの前に行っては、日本人は必ず敬礼をするが、東京の二重橋前にある楠公の銅像には一人も敬礼する者は無い。京都豊国(ほうこく)神社の豊公の社前に行っては、日本人は一人として敬拝せないものは無いが、大阪中の島の豊公の銅像に向かっては、狂人を除くのほかは一人も敬拝する者が無いのを考えてみよ。これ神社にはその神霊を祭りてあるから、その尊霊に敬拝するのである。銅像は汝らのいわゆる偶像だから、訳の判った神洲臣民は敬拝せないのである。先年伊藤公の銅像を倒して(まわし)で縛って、街路を引きずり回したことさえある。日本人は霊と体との区別は自然にチャンと心得ているのだ。神社の祭神を偶像などと云う外教徒の不明には呆れてしまうじゃないか。
 大本の裏の神諭は新約全書に酷似しているから面白くないと云った人がある。厭なら別に読んで貰わいでも構わぬ。キリスト教でも仏教でも儒教でも真理はどこまでも真理だ。幾万年以前から火は今に熱いもの、水は冷たいものと云うことは変わらぬのだ。つまり真理だから変わらぬのだ。大本の神諭が万々一キリストの教えに似たとすればなおさら結構ではないか。我が惟神の大道を研究しつつキリスト教が解って、いわゆる一挙両得と云うものだ。人間の心の狭い雅量に乏しいものはとうてい神界の経綸の判るものではない。またキリストの教典は必ずしも欧米の特産物ではない。東洋の古文書を詳細に調べてみたら、皇国の大道に淵源を発しているということが判るのである。
(大正七・一・一号 神霊界誌)
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