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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第13巻(子の巻)
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総説
第1篇 勝利光栄
第1章 言霊開
第2章 波斯の海
第3章 波の音
第4章 夢の幕
第5章 同志打
第6章 逆転
第2篇 洗礼旅行
第7章 布留野原
第8章 醜の窟
第9章 火の鼠
第3篇 探険奇聞
第10章 巌窟
第11章 怪しの女
第12章 陥穽
第13章 上天丸
第4篇 奇窟怪巌
第14章 蛙船
第15章 蓮花開
第16章 玉遊
第17章 臥竜姫
第18章 石門開
第19章 馳走の幕
第20章 宣替
第21章 本霊
第5篇 膝栗毛
第22章 高加索詣
第23章 和解
第24章 大活躍
信天翁(三)
余白歌
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> 第1篇 勝利光栄 > 第3章 波の音
<<< 波斯の海
(B)
(N)
夢の幕 >>>
第三章
波
(
なみ
)
の
音
(
おと
)
〔五二九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第13巻 如意宝珠 子の巻
篇:
第1篇 勝利光栄
よみ(新仮名遣い):
しょうりこうえい
章:
第3章 波の音
よみ(新仮名遣い):
なみのおと
通し章番号:
529
口述日:
1922(大正11)年03月16日(旧02月18日)
口述場所:
筆録者:
藤津久子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年10月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
またしても船が暴風に襲われ、岩彦は仲間から、お前が改心しないから神の戒めにあうのだ、と責められる。
しかしいよいよもうだめだというときに、一同は変な刹那心を発揮して逆に勇気を奮い、日の出別宣伝使に対抗しようと、しどろもどろにウラル教の宣伝歌を歌い始めた。
そうするうちに船は暴風に流されて波斯の海岸のタルの港に着いた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-11-26 16:44:15
OBC :
rm1303
愛善世界社版:
46頁
八幡書店版:
第3輯 48頁
修補版:
校定版:
47頁
普及版:
18頁
初版:
ページ備考:
001
颶風
(
ぐふう
)
は
忽
(
たちま
)
ち
西北
(
せいほく
)
に
変
(
へん
)
じ、
002
鶴山丸
(
つるやままる
)
は
逆流
(
ぎやくりう
)
して
再
(
ふたた
)
び
元来
(
もとき
)
し
海路
(
かいろ
)
に
漂
(
ただよ
)
ひにける。
003
猛
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
ふ
飛沫
(
ひまつ
)
に、
004
寿司詰
(
すしづめ
)
になつた
船中
(
せんちう
)
の
人々
(
ひとびと
)
は
頭上
(
づじやう
)
より
塩水
(
しほみづ
)
を
浴
(
あ
)
び、
005
誕生
(
たんじやう
)
の
釈迦像
(
しやかざう
)
の
様
(
やう
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
006
ウラル
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
007
音彦
(
おとひこ
)
は
猛
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
ふ
海
(
うみ
)
を
眺
(
なが
)
めて、
008
音彦
『それ
見
(
み
)
ろ、
009
岩公
(
いはこう
)
が
偉
(
えら
)
さうに
大将
(
たいしやう
)
面
(
づら
)
を
振
(
ふ
)
り
廻
(
まは
)
し
頑張
(
ぐわんば
)
るものだから、
010
再
(
ふたた
)
び
天道
(
てんだう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
損
(
そこ
)
ねて
二度
(
にど
)
驚愕
(
びつくり
)
しやつくり
な
目
(
め
)
に
合
(
あ
)
ふのだよ。
011
貴様
(
きさま
)
の
改心
(
かいしん
)
が
足
(
た
)
らぬから
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
が
御
(
ご
)
招伴
(
せうばん
)
をさされるのだ。
012
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
の
御
(
ご
)
招伴
(
せうばん
)
なら
宜
(
よ
)
いが
命
(
いのち
)
からがら
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
013
何時
(
なんどき
)
船
(
ふね
)
は
奈落
(
ならく
)
の
底
(
そこ
)
に
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
むか
分
(
わか
)
らない
危急
(
ききふ
)
存亡
(
そんばう
)
のこの
場合
(
ばあひ
)
だ。
014
はやく
改心
(
かいしん
)
して
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけの
)
命
(
みこと
)
にお
詫
(
わび
)
をせい。
015
時化
(
しけ
)
の
景物
(
けいぶつ
)
に
頭
(
あたま
)
から
塩水
(
しほみづ
)
を
浴
(
あ
)
びせられて、
016
辛
(
から
)
い
目
(
め
)
に
合
(
あ
)
つて
苦
(
くる
)
しむのは
貴様
(
きさま
)
計
(
ばか
)
りぢやない、
017
一同
(
いちどう
)
の
迷惑
(
めいわく
)
だよ』
018
岩彦
(
いはひこ
)
『
改心
(
かいしん
)
せいと
云
(
い
)
つた
処
(
ところ
)
でこの
頃
(
ごろ
)
は
手元
(
てもと
)
不如意
(
ふによい
)
で
改心
(
かいしん
)
の
原料
(
げんれう
)
が
無
(
な
)
いのだ。
019
何
(
ど
)
うなるも
斯
(
か
)
うなるも
船
(
ふね
)
のまにまに
行
(
ゆ
)
く
処
(
ところ
)
まで
行
(
ゆ
)
かな
仕方
(
しかた
)
がないわ』
020
音彦
(
おとひこ
)
『
音
(
おと
)
に
名高
(
なだか
)
い、
021
波斯
(
フサ
)
の
荒海
(
あらうみ
)
だ。
022
都合
(
つがふ
)
よく
何
(
いづ
)
れの
湊
(
みなと
)
かに
漂着
(
へうちやく
)
すれば
宜
(
よ
)
いが、
023
海底
(
かいてい
)
の
竜宮
(
りうぐう
)
へでもやられて
見
(
み
)
よ、
024
何
(
ど
)
うする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
やしない』
025
岩彦
(
いはひこ
)
『ソンナ
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
はすな。
026
寸善
(
すんぜん
)
尺魔
(
しやくま
)
、
027
この
瞬間
(
しゆんかん
)
が
吾々
(
われわれ
)
の
自由
(
じいう
)
意志
(
いし
)
を
発揮
(
はつき
)
する
時
(
とき
)
だ。
028
一尺先
(
いつしやくさき
)
の
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
るものか。
029
それだからウラル
教
(
けう
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
に「
一寸先
(
いつすんさき
)
は
闇
(
やみ
)
よ」と
云
(
い
)
ふのだ。
030
「
波
(
なみ
)
よ
騒
(
さわ
)
げよ
一寸先
(
いつすんさき
)
は
闇
(
やみ
)
よ、
031
波
(
なみ
)
の
中
(
なか
)
から
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
る」
032
と
云
(
い
)
ふのだ。
033
たとへ
船
(
ふね
)
が
沈没
(
ちんぼつ
)
して
竜宮
(
りうぐう
)
へ
行
(
い
)
つた
処
(
ところ
)
で
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
の
様
(
やう
)
に
暫
(
しば
)
らく
雌伏
(
しふく
)
して
居
(
ゐ
)
ると、
034
待
(
ま
)
てば
海路
(
かいろ
)
の
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
く、
035
そこへ
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
が
現
(
あら
)
はれて、
036
吾々
(
われわれ
)
を
助
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れると
云
(
い
)
ふ
段取
(
だんどり
)
だ。
037
莫迦
(
ばか
)
らしい、
038
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけ
)
なんてソンナ
偽者
(
にせがみ
)
にこの
尊
(
たふと
)
い
頭
(
あたま
)
を
安売
(
やすうり
)
して
堪
(
たま
)
るかい』
039
梅彦
(
うめひこ
)
『オイオイ
岩彦
(
いはひこ
)
、
040
お
前
(
まへ
)
がさう
頑張
(
ぐわんば
)
る
為
(
ため
)
に
一同
(
いちどう
)
の
迷惑
(
めいわく
)
だ。
041
現当
(
げんたう
)
利益
(
りやく
)
を
現
(
あら
)
はした
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
兜
(
かぶと
)
を
脱
(
ぬ
)
いで、
042
今
(
いま
)
一度
(
いちど
)
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
つたら
何
(
ど
)
うだ』
043
岩彦
(
いはひこ
)
『
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
ぢやないが、
044
「たとへ
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
誠
(
まこと
)
の
力
(
ちから
)
は
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ」
045
吾々
(
われわれ
)
はウラル
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
となつて
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つを
立
(
た
)
て
通
(
とほ
)
して
来
(
き
)
たものだ。
046
たとヘウラル
教
(
けう
)
が
善
(
ぜん
)
にせよ
悪
(
あく
)
にせよ、
047
白鷺
(
しらさぎ
)
の
子
(
こ
)
は
白
(
しろ
)
い、
048
烏
(
からす
)
の
子
(
こ
)
は
黒
(
くろ
)
いと
定
(
き
)
まつて
居
(
ゐ
)
る。
049
ウラル
教
(
けう
)
が
烏
(
からす
)
なら
烏
(
からす
)
で
宜
(
よ
)
い。
050
身魂
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
に
依
(
よ
)
つて、
051
烏
(
からす
)
に
生
(
うま
)
れた
者
(
もの
)
だから
遽
(
にはか
)
に
白鷺
(
しらさぎ
)
にならうたつて、
052
なれさうな
事
(
こと
)
はない。
053
下
(
くだ
)
らぬ
心配
(
しんぱい
)
するよりも、
054
宣伝歌
(
せんでんか
)
でも
歌
(
うた
)
つた
方
(
はう
)
がよからう』
055
音彦
(
おとひこ
)
『いくら
云
(
い
)
つてもこの
大将
(
たいしやう
)
は
駄目
(
だめ
)
だ。
056
エヽ
仕方
(
しかた
)
がない。
057
一寸先
(
いつすんさき
)
は
闇
(
やみ
)
だから
心残
(
こころのこ
)
りのない
様
(
やう
)
に
持合
(
もちあは
)
せの
酒
(
さけ
)
でも
飲
(
の
)
んだらどうだい』
058
亀彦
(
かめひこ
)
『
下地
(
したぢ
)
は
好
(
す
)
きなり、
059
御意
(
ぎよい
)
は
良
(
よ
)
し。
060
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
忘
(
わす
)
れる
為
(
た
)
めに
酒
(
さけ
)
でも
沢山
(
どつさり
)
飲
(
の
)
んで
新規
(
しんき
)
蒔直
(
まきなほ
)
しの
管
(
くだ
)
でも
巻
(
ま
)
かうかい』
061
音彦
(
おとひこ
)
『アヽアヽ
五月蝿
(
うるさい
)
奴
(
やつ
)
だナア。
062
之
(
これ
)
丈
(
だ
)
けものの
解
(
わか
)
らぬ
宣伝使
(
せんでんし
)
では
竜宮
(
りうぐう
)
の
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
でも
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
せないのは
道理
(
だうり
)
だ』
063
岩彦
(
いはひこ
)
『
貴様
(
きさま
)
は
落着
(
おちつ
)
きのない
奴
(
やつ
)
だ。
064
これ
位
(
くらゐ
)
の
時化
(
しけ
)
が
恐
(
こは
)
くてどうして
天下
(
てんか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
勤
(
つと
)
まらうかい』
065
梅彦
(
うめひこ
)
『
貴様
(
きさま
)
でも
勤
(
つと
)
まつたと
思
(
おも
)
ふか。
066
頻
(
しき
)
りに
作戦
(
さくせん
)
の
領分
(
りやうぶん
)
を
拡張
(
くわくちやう
)
する
計
(
ばか
)
りで、
067
腮
(
あご
)
の
先
(
さき
)
計
(
ばか
)
りで
吾々
(
われわれ
)
を
指揮
(
しき
)
したつて
罰
(
ばち
)
は
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
、
068
頭
(
かしら
)
が
廻
(
まは
)
らな
尾
(
を
)
が
廻
(
まは
)
らぬと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある。
069
よく
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
よ。
070
帰
(
かへ
)
つて
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんわう
)
にお
目玉
(
めだま
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
するより
此処
(
ここ
)
で
直
(
すぐ
)
に、
071
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけの
)
命
(
みこと
)
に
謝罪
(
あやま
)
つて
助
(
たす
)
かる
方
(
はう
)
が
利巧
(
りかう
)
なやり
方
(
かた
)
だぞ』
072
とウラル
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
一行
(
いつかう
)
は、
073
大
(
だい
)
恐怖
(
きようふ
)
落胆
(
らくたん
)
の
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
、
074
ザツト
半打
(
はんダース
)
斗
(
ばか
)
りも
陳列
(
ちんれつ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
075
風
(
かぜ
)
は
益々
(
ますます
)
激
(
はげ
)
しくなつて
来
(
き
)
た。
076
船頭
(
せんどう
)
は
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて、
077
船頭
(
せんどう
)
『オイオイ
皆
(
みな
)
のお
客
(
きやく
)
たち、
078
最
(
も
)
う
駄目
(
だめ
)
だぞ。
079
用意
(
ようい
)
をなされ』
080
岩彦
(
いはひこ
)
『オイ
船頭
(
せんどう
)
、
081
用意
(
ようい
)
をなされと
云
(
い
)
つたつて
何
(
なに
)
を
用意
(
ようい
)
するのだい』
082
船頭
(
せんどう
)
『
叶
(
かな
)
はぬ
時
(
とき
)
の
神頼
(
かみだの
)
みだ。
083
この
風
(
かぜ
)
に
向
(
むか
)
つて
負
(
ま
)
けず
劣
(
おと
)
らず
言霊
(
ことたま
)
を
発射
(
はつしや
)
するのだよ。
084
サアサア
俺
(
おれ
)
の
後
(
あと
)
に
付
(
つ
)
いて
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
呶鳴
(
どな
)
るのだ』
085
と
云
(
い
)
ひながら、
086
船頭
(
せんどう
)
は
櫂
(
かい
)
や
艪
(
ろ
)
の
手
(
て
)
を
止
(
や
)
めて、
087
臍下
(
せいか
)
丹田
(
たんでん
)
に
息
(
いき
)
を
詰
(
つ
)
め、
088
船頭
『アー、
089
オー、
090
ウー、
091
エー、
092
イー、
093
』
094
と
呶鳴
(
どな
)
り
出
(
だ
)
したれば、
095
船客
(
せんきやく
)
一同
(
いちどう
)
は
怖
(
こは
)
さに
震
(
ふる
)
ひながら
声
(
こゑ
)
を
揃
(
そろ
)
へてアヽオヽウヽエヽイヽと
複数
(
ふくすう
)
的
(
てき
)
に
言霊
(
ことたま
)
を
発射
(
はつしや
)
するのであつた。
096
岩彦
(
いはひこ
)
は
盥伏
(
たらひぶ
)
せに
合
(
あ
)
つた
泥棒猫
(
どろぼうねこ
)
の
様
(
やう
)
な
狡猾
(
かうくわつ
)
な
面
(
つら
)
を
薄暗
(
うすぐら
)
い
闇
(
やみ
)
に
曝
(
さら
)
して
目玉
(
めだま
)
をギヨロギヨロさせ
何
(
なん
)
となく
不安
(
ふあん
)
の
面色
(
おももち
)
にて
手足
(
てあし
)
をヂタバタさせて
居
(
ゐ
)
る。
097
音彦
(
おとひこ
)
『オイ
大将
(
たいしやう
)
、
098
その
狼狽
(
うろた
)
へ
加減
(
かげん
)
は
何
(
なん
)
だ。
099
強
(
つよ
)
さうな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つても、
100
矢張
(
やつぱり
)
まさか
の
時
(
とき
)
になれば
弱
(
よわ
)
い
者
(
もの
)
だなア』
101
岩彦
(
いはひこ
)
『
斯
(
こ
)
うなつては
吾々
(
われわれ
)
の
刹那
(
せつな
)
の
権利
(
けんり
)
と
云
(
い
)
ふものは
只
(
ただ
)
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
の
自由
(
じいう
)
を
有
(
いう
)
するのみだ。
102
自分
(
じぶん
)
の
権利
(
けんり
)
を
充分
(
じうぶん
)
自由
(
じいう
)
に
発揮
(
はつき
)
して
居
(
ゐ
)
るのに、
103
貴様
(
きさま
)
が
干渉
(
かんせふ
)
する
権利
(
けんり
)
があるか。
104
オイ
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
モウ
駄目
(
だめ
)
だ、
105
俺
(
おれ
)
は
覚悟
(
かくご
)
がある。
106
たとへ
海
(
うみ
)
の
藻屑
(
もくづ
)
になるとも
三五教
(
あななひけう
)
には
降伏
(
かうふく
)
せない。
107
よく
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
よ、
108
鶴山丸
(
つるやままる
)
が
沈没
(
ちんぼつ
)
すれば、
109
三五教
(
あななひけう
)
の
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけ
)
も
矢張
(
やつぱり
)
共
(
とも
)
に
溺死
(
できし
)
する
丈
(
だ
)
けの
可能性
(
かのうせい
)
は
充分
(
じうぶん
)
に
具備
(
ぐび
)
して
居
(
ゐ
)
るのだよ。
110
放
(
ほ
)
つとけ
放
(
ほ
)
つとけ。
111
自分
(
じぶん
)
が
怖
(
こは
)
かつたら
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
願
(
ねが
)
つて
波風
(
なみかぜ
)
を
止
(
と
)
めるだらう。
112
吾々
(
われわれ
)
はその
景物
(
けいぶつ
)
をソツト
占領
(
せんりやう
)
すればよいのだ』
113
梅彦
(
うめひこ
)
『さうだな。
114
船
(
ふね
)
が
沈没
(
ちんぼつ
)
すれば
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
も
沈没
(
ちんぼつ
)
せずには
居
(
を
)
るまい。
115
貴様
(
きさま
)
の
今
(
いま
)
云
(
い
)
つた
言葉
(
ことば
)
は
真
(
しん
)
に
天来
(
てんらい
)
の
妙音
(
めうおん
)
だ』
116
岩彦
(
いはひこ
)
『
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つた
処
(
ところ
)
で
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い。
117
空
(
そら
)
を
仰
(
あふ
)
いで
見
(
み
)
よ、
118
真黒
(
まつくろ
)
けな
顔
(
かほ
)
をして
今
(
いま
)
にも
泣
(
な
)
き
出
(
だ
)
しさうな
暗澹
(
あんたん
)
至極
(
しごく
)
の
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
だ。
119
世
(
よ
)
の
終
(
をは
)
りと
云
(
い
)
ふものは、
120
天
(
てん
)
の
力
(
ちから
)
も
如何共
(
いかんとも
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないと
見
(
み
)
える。
121
船頭
(
せんどう
)
の
奴
(
やつ
)
、
122
吾々
(
われわれ
)
にまで
言霊
(
ことたま
)
の
発射
(
はつしや
)
を
強圧
(
きやうあつ
)
的
(
てき
)
に
勧
(
すす
)
めよつて、
123
発言
(
はつげん
)
機関
(
きくわん
)
を
虐使
(
ぎやくし
)
するものだから
言霊
(
ことたま
)
の
停電
(
ていでん
)
を
来
(
きた
)
して
声
(
こゑ
)
も
何
(
なに
)
も
かすれ
て
了
(
しま
)
つた。
124
折角
(
せつかく
)
胃
(
ゐ
)
の
腑
(
ふ
)
に
格納
(
かくなふ
)
して
置
(
お
)
いた
酒
(
さけ
)
迄
(
まで
)
が
逆流
(
ぎやくりう
)
して、
125
八百屋
(
やほや
)
店
(
みせ
)
を
開店
(
かいてん
)
する。
126
本当
(
ほんたう
)
にこれくらゐ
雑閙
(
ざつたう
)
を
極
(
きは
)
めた
事
(
こと
)
はありやしない。
127
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
ソレ
船
(
ふね
)
が
沈
(
しづ
)
むとか、
128
死
(
し
)
ぬとか、
129
弱音
(
よわね
)
を
吹
(
ふ
)
きよつたが
何
(
ど
)
うだい、
130
時節
(
じせつ
)
と
云
(
い
)
ふものは
偉
(
えら
)
いものだらう。
131
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
、
132
余程
(
よほど
)
弱
(
よわ
)
つたと
見
(
み
)
えて
沈黙
(
ちんもく
)
しかけたぢやないか。
133
モウ
心配
(
しんぱい
)
するな。
134
さしもに
猛
(
たけ
)
き
荒
(
あれ
)
の
神
(
かみ
)
も「ヤア
長々
(
ながなが
)
お
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
ませました、
135
ウラル
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
136
また
御縁
(
ごえん
)
があつたら
陸上
(
りくじやう
)
でお
目
(
め
)
に
掛
(
かか
)
りませう、
137
アリヨース」と
云
(
い
)
つて、
138
尻
(
しり
)
に
帆
(
ほ
)
かけて、
139
スタコラヨイヤサと、
140
アーメニヤの
都
(
みやこ
)
をさして
予定
(
よてい
)
の
御
(
ご
)
退却
(
たいきやく
)
だ。
141
何
(
ど
)
うだ
俺
(
おれ
)
の
刹那心
(
せつなしん
)
には
閉口
(
へいこう
)
しただらう』
142
亀彦
(
かめひこ
)
『さうだ、
143
余
(
あんま
)
りの
偉
(
えら
)
い
時化
(
しけ
)
で
咫尺
(
しせき
)
暗澹
(
あんたん
)
、
144
吾身
(
わがみ
)
の
進路
(
しんろ
)
を
誤
(
あやま
)
つて
居
(
ゐ
)
たが、
145
最
(
も
)
う
斯
(
か
)
うなる
上
(
うへ
)
は
何
(
なに
)
を
苦
(
くる
)
しむで
三五教
(
あななひけう
)
に
降伏
(
かうふく
)
する
必要
(
ひつえう
)
があるか。
146
すんで
の
事
(
こと
)
で
鶴山丸
(
つるやままる
)
が
大
(
おほ
)
タンクになる
処
(
ところ
)
だつた。
147
サア
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
勇気
(
ゆうき
)
を
鼓
(
こ
)
して、
148
こちらは
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
向
(
むか
)
ふは
一人
(
ひとり
)
だ。
149
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
つてやらうかい。
150
今
(
いま
)
の
風
(
かぜ
)
ぢやないが、
151
吹
(
ふ
)
いて
吹
(
ふ
)
いて
吹
(
ふ
)
き
廻
(
まは
)
し、
152
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
の
胆玉
(
きもたま
)
を
転宅
(
てんたく
)
させるのだよ。
153
風力
(
ふうりよく
)
七十五
(
しちじふご
)
メートルの
勢
(
いきほ
)
いでナ』
154
一同
(
いちどう
)
は、
155
一同
『
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い』
156
と
喉元
(
のどもと
)
過
(
す
)
ぐれば
熱
(
あつ
)
さ
忘
(
わす
)
れるとかや、
157
妙
(
めう
)
な
処
(
ところ
)
へ
刹那心
(
せつなしん
)
を
発揮
(
はつき
)
して
声調
(
せいてう
)
も
整
(
ととの
)
はぬ
複数
(
ふくすう
)
的
(
てき
)
のシドロモドロの
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
めたり。
158
一同
『
波
(
なみ
)
よ
騒
(
さわ
)
げよ
一寸先
(
いつすんさき
)
や
闇
(
やみ
)
よ
159
闇
(
やみ
)
の
後
(
あと
)
には
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
る
160
月
(
つき
)
は
月
(
つき
)
ぢやが
盃
(
さかづき
)
ぢや
161
飲
(
の
)
んで
酔
(
よ
)
へ
酔
(
よ
)
へ
酔
(
よ
)
うたら
踊
(
をど
)
れ
162
酔
(
よ
)
へと
云
(
い
)
つても
船
(
ふね
)
には
酔
(
よ
)
ふな
163
踊
(
をど
)
れと
云
(
い
)
つても
波
(
なみ
)
の
奴
(
やつ
)
164
船
(
ふね
)
のかへる
様
(
やう
)
な
踊
(
をど
)
りをするな
165
アンナ
悪戯
(
いたづら
)
ちよこちよこやると
166
俺
(
おい
)
等
(
ら
)
の
胸
(
むね
)
迄
(
まで
)
踊
(
をど
)
り
出
(
だ
)
す
167
飲
(
の
)
めよ
飲
(
の
)
め
飲
(
の
)
め
心地
(
ここち
)
よく
飲
(
の
)
めよ
168
飲
(
の
)
めと
云
(
い
)
つても
船
(
ふね
)
ではないぞ
169
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
別
(
わけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
170
波
(
なみ
)
の
鬘
(
たてがみ
)
ふり
立
(
た
)
てて
171
グツト
一口
(
ひとくち
)
飲
(
の
)
んで
了
(
しま
)
へ
172
俺
(
おれ
)
はウラル
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
173
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
暗
(
くら
)
くとも
174
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
の
酒
(
さけ
)
飲
(
の
)
めば
175
顔
(
かほ
)
の
色
(
いろ
)
まで
赤
(
あか
)
くなる
176
曇
(
くも
)
つた
顔
(
かほ
)
して
天道
(
てんたう
)
様
(
さん
)
177
難
(
むづ
)
かし
顔
(
かほ
)
して
睨
(
にら
)
むより
178
飲
(
の
)
めば
栄
(
さか
)
えるこの
酒
(
さけ
)
を
179
一寸
(
ちよつと
)
一杯
(
いつぱい
)
食召
(
きこしめ
)
せ
180
酒
(
さけ
)
と
女
(
をんな
)
は
世
(
よ
)
の
宝
(
たから
)
181
酒
(
さけ
)
でなければ
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けぬ
182
酒
(
さけ
)
でなければ
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けぬ
183
酒
(
さけ
)
から
日
(
ひ
)
が
出
(
で
)
る
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
る
184
酒
(
さけ
)
から
日
(
ひ
)
が
出
(
で
)
る
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
る』
185
とシドロモドロの
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ひ
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
潰
(
つぶ
)
して
了
(
しま
)
つた。
186
斯
(
か
)
くする
中
(
うち
)
、
187
船
(
ふね
)
は
漸
(
やうや
)
く
波斯
(
フサ
)
の
海岸
(
かいがん
)
タルの
湊
(
みなと
)
に
安着
(
あんちやく
)
したりける。
188
(
大正一一・三・一六
旧二・一八
藤津久子
録)
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