霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 布留野(ふるの)原(はら)〔五三三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第13巻 如意宝珠 子の巻 篇:第2篇 洗礼旅行 よみ(新仮名遣い):せんれいりょこう
章:第7章 布留野原 よみ(新仮名遣い):ふるのはら 通し章番号:533
口述日:1922(大正11)年03月17日(旧02月19日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年10月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
一行七人は北へ北へと進み、フル野ケ原に進み入ってきた。ここで一行は野宿をすることになった。日の出別命はすぐにごろりと横になり、寝についてしまう。
一同は日の出別命の豪胆さと刹那心に感心していたが、言い争っているうちに日の出別命の姿は消えてしまった。六人は騒いでいると、血なまぐさい風がさっと吹いてきた。
生い茂る茅の中から、黒い顔がぬっと現れて六人に笑い、吠えだした。岩彦は化け物に対して憎まれ口をたたき、尻を叩いて挑発する。
化け物は、岩彦の尻に食いつこうと言うと、岩彦は腰を抜かして動けなくなってしまう。鷹彦は岩彦をたしなめてからかっている。そのうちに、化け物は挨拶をして消えてしまった。
化け物が去ったので、腰が立った岩彦はまた調子に乗って法螺を吹いている。どこからともなく、化け物が三五教の宣伝歌で、またしても岩彦の脂を絞ってやろうか、と歌っている。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-12-03 17:47:04 文字数:5137 OBC :rm1307
愛善世界社版:85頁 八幡書店版:第3輯 62頁 修補版: 校定版:85頁 普及版:35頁 初版: ページ備考:
001誠(まこと)の神(かみ)の言霊(ことたま)に
002雲霧(くもきり)開(ひら)く日(ひ)の出別(でわけ)
003珎(ウヅ)の御言(みこと)の宣伝使(せんでんし)
004天教山(てんけうざん)を立出(たちい)でて
005遠(とほ)き海原(うなばら)うち渡(わた)り
006いよいよここにフサの海(うみ)
007タルの港(みなと)に上陸(じやうりく)し
008心(こころ)も漸(や)つとシヅの森(もり)
009木蔭(こかげ)に憩(いこ)ふ折柄(をりから)に
010闇(やみ)に聞(きこ)ゆる人(ひと)の声(こゑ)
011眠(ねむり)覚(さ)ませば岩彦(いはひこ)が
012部下(ぶか)に仕(つか)ふる宣伝使(せんでんし)
013一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)つ六(む)つ
014むつみ合(あ)うたる其(その)仲(なか)も
015時(とき)に浪風(なみかぜ)立騒(たちさわ)ぎ
016黒白(あやめ)も分(わか)ぬ暗(くら)まぎれ
017闘(たたか)ふ間(うち)に日(ひ)の出別(でわけ)
018神(かみ)の真道(まみち)を言別(ことわ)けて
019漸(やうや)く一同(いちどう)シヅの森(もり)
020岩(いは)に等(ひと)しき岩彦(いはひこ)の
021固(かた)き心(こころ)をなごめつつ
022一度(いちど)に開(ひら)く梅ケ香(うめがか)の
023神(かみ)の教(をしへ)に服従(まつろ)はせ
024音(おと)に名高(なだか)きフル野原(のはら)
025さやる魔神(まがみ)を言向(ことむ)けて
026亀(かめ)の齢(よはひ)の何時(いつ)までも
027動(うご)かぬ神代(かみよ)を築(きづ)かむと
028心(こころ)の駒(こま)に鞭(むちう)ちて
029雀(すずめ)の群(むれ)に翔(か)け下(くだ)る
030鷹(たか)の勢(いきほひ)勇(いさ)ましく
031草(くさ)生(お)ひ茂(しげ)る広野原(ひろのはら)
032タルの大河(おほかは)右(みぎ)に見(み)て
033北(きた)へ北(きた)へと進(すす)み行(ゆ)く。
034 一行(いつかう)七(しち)人(にん)は脚(あし)に任(まか)せてフル野ケ原(のがはら)を奥深(おくふか)く進(すす)み入(い)る。035又(また)もや真黒(しんこく)の暗(やみ)の帳(とばり)はおろされて、036四辺(しへん)暗澹(あんたん)たる光景(くわうけい)となりて来(き)たりぬ。037東北(とうほく)の風(かぜ)はヒユーヒユーと草野(くさの)を撫(な)でて吹(ふ)き来(きた)り小雨(こあめ)さへ混(まじ)り居(ゐ)る。
038鷹彦(たかひこ)『昨夜(ゆふべ)は、039シヅの森(もり)で、040乱痴気(らんちき)騒(さわ)ぎをおつぱじめ、041日(ひ)の出別(でわけ)の宣伝使(せんでんし)の居中(きよちう)調停(てうてい)の効果(かうくわ)によりて、042まづ平和(へいわ)克復(こくふく)の曙光(しよくわう)を認(みと)め、043今日(けふ)は天地(てんち)にかはる大変動(だいへんどう)、044三五教(あななひけう)を仇敵(きうてき)の如(ごと)く見做(みな)して居(ゐ)た、045ウラル教(けう)のヘボ宣伝使(せんでんし)は、046今日(けふ)は同行(どうぎやう)七(しち)人(にん)の三五教(あななひけう)、047変(かは)れば替(かは)るものだワイ。048サア今晩(こんばん)は、049このフル野ケ原(のがはら)の草(くさ)を衾(しとね)に、050平和(へいわ)の夢(ゆめ)を結(むす)ばうぢやないか。051モシモシ日(ひ)の出別(でわけ)の宣伝使(せんでんし)様(さま)、052此(この)フル野ケ原(のがはら)は、053一時(ひととき)雨(あめ)が降(ふ)つては、054また一時(ひととき)晴(は)れるといふ芸当(げいたう)を繰返(くりかへ)すのですから漫然(うつかり)安眠(あんみん)も出来(でき)ますまいが、055蓑笠(みのかさ)を被(かぶ)つて、056一夜(いちや)を明(あ)かす事(こと)に致(いた)しませうか』
057日の出別『アヽそれも宜(よ)からう。058先(ま)づ今晩(こんばん)はゆつくりと足(あし)を伸(の)ばして寝(ね)ませう』
059岩彦(いはひこ)『それは有難(ありがた)い、060併(しか)し乍(なが)らこのフル野ケ原(のがはら)は、061妖怪(えうくわい)変化(へんげ)の隠顕(いんけん)出没(しゆつぼつ)常(つね)ならざる、062魔窟(まくつ)ケ原(はら)であるから、063あまり安眠(あんみん)も出来(でき)ますまい。064併(しか)しコンパスを休養(きうやう)させる為(ため)に、065横(よこ)に立(た)てつて、066空(そら)の黒雲(くろくも)と睨(にら)みつこでも致(いた)しませうか』
067梅彦(うめひこ)『アヽモウ草臥(くたび)れた。068タルの河(かは)の河縁(かはべり)を伝(つた)うて来(き)たお蔭(かげ)で、069草鞋(わらぢ)に泥埃(どろぼこり)の寄生虫(きせいちう)が群生(ぐんせい)して、070十足(じつそく)ぶりの重(おも)みを感(かん)じた。071アーア疲労(くたび)れた時(とき)に休(やす)む程(ほど)楽(らく)なものはない。072可愛(かあい)い子(こ)には旅(たび)をさせとやら、073本当(ほんたう)に、074風(かぜ)吹(ふ)き荒(すさ)ぶ埃道(ほこりみち)を、075目的場所(あてど)もなしにテクツク位(くらゐ)苦(くる)しい事(こと)はない。076其(その)苦(くる)しみを癒(い)やす為(ため)に、077足(あし)を伸(の)ばして休(やす)む時(とき)の楽(たの)しさ、078少々(せうせう)小雨(こあめ)が降(ふ)つた位(くらゐ)はナンの苦(く)にもなるものでないわ』
079亀彦(かめひこ)『わしも一(ひと)つ島(じま)から長(なが)い間(あひだ)、080船(ふね)に揺(ゆ)られて、081サツパリ足(あし)の魂(たましひ)が、082どつかへ移住(いぢゆう)したと見(み)えて、083ナンダか、084他人(ひと)の足(あし)の様(やう)な心持(こころもち)がして仕方(しかた)がない。085マアゆつくりと今夜(こんや)は此処(ここ)で休息(きうそく)さして貰(もら)はう』
086日の出別『サアサア皆(みな)の者(もの)、087休眠(やす)まうぢやないか』
088と言(い)ひ乍(なが)ら、089日(ひ)の出別(でわけ)は雑草(ざつさう)の上(うへ)にコロリと横(よこ)たはり、090鼾声(かんせい)雷(らい)の如(ごと)く、091忽(たちま)ち華胥(くわしよ)の国(くに)に遊楽(いうらく)するものの如(ごと)くなりけり。
092鷹彦(たかひこ)『アア、093何(なん)と罪(つみ)のない豪胆(がうたん)な宣伝使(せんでんし)だらう。094昨日(きのふ)まで極力(きよくりよく)反対(はんたい)して居(ゐ)た吾々(われわれ)を側(そば)に置(お)いて、095何(なん)の懸念(けねん)もなく、096率先(そつせん)して他念(たあい)もなく寝(しん)に就(つ)く。097其(その)度量(どりやう)の大(おほ)きいのには、098吾々(われわれ)も舌(した)を巻(ま)かねばならぬ。099人間(にんげん)は斯(こ)うなくてはならない、100猜疑心(さいぎしん)や、101嫉妬心(しつとしん)や、102疑惑(ぎわく)があると、103つひ他人(ひと)の事(こと)が気(き)になつて、104安心(あんしん)の出来(でき)ぬものだ。105疑心(ぎしん)暗鬼(あんき)を生(しやう)ずと言(い)つて、106人(ひと)は自分(じぶん)の心(こころ)で自分(じぶん)を苦(くるし)めるのだ。107ウラル教(けう)は六(ろく)人(にん)連(づれ)で旅(たび)をしても、108夜中(やちう)に何(なに)が襲来(しふらい)するか知(し)れないと云(い)つて、109交代(かうたい)で一人(ひとり)宛(づつ)、110其(その)傍(そば)に哨兵(せうへい)を立(た)たせて置(お)く。111之(これ)れを思(おも)へば、112実(じつ)に三五教(あななひけう)は淡泊(たんぱく)なものだ。113博愛(はくあい)の教(をしへ)だ。114……オイ貴様(きさま)達(たち)も安心(あんしん)して寝(ね)たがよからう』
115駒彦(こまひこ)『ソラさうだ、116昨日(きのふ)の敵(てき)は今日(けふ)の味方(みかた)、117鬼(おに)の囁(ささや)き、118虎(とら)の嘯(うそぶ)きと聞(きこ)えしは、119松(まつ)吹(ふ)く風(かぜ)となりにけりだ。120サアサア皆(みな)一同(いちどう)に心(こころ)のキルクを抜(ぬ)いて、121今日(けふ)は一蓮(いちれん)托生(たくしやう)、122枕(まくら)を並(なら)べて討死(うちじに)……オツトドツコイ打揃(うちそろ)ひ寝(しん)に就(つ)かうぢやないか』
123岩彦(いはひこ)『サアお前(まへ)達(たち)は皆(みな)寝(やす)め、124この岩彦(いはひこ)は日(ひ)の出別(でわけ)の宣伝使(せんでんし)の保護(ほご)の任(にん)にあたらねばならぬ。125是(これ)が俺(おれ)の真心(まごころ)だから……』
126鷹彦(たかひこ)『真心(まごころ)とは真赤(まつか)な詐(いつは)りだらう。127マ心(こころ)のマは悪魔(あくま)の魔(ま)だらう。128貴様(きさま)はまだ安心(あんしん)が出来(でき)ないと見(み)えて、129熟睡(じゆくすい)して居(ゐ)る間(ま)に、130日(ひ)の出別(でわけの)命(みこと)に喉笛(のどぶえ)でもかかれはせぬかといふ猜疑心(さいぎしん)があるのだよ』
131岩彦(いはひこ)『ナニ決(けつ)して決(けつ)して、132さうではないよ。133此(この)フル野ケ原(のがはら)には、134沢山(たくさん)の大蛇(をろち)が居(を)るといふ事(こと)だ。135人(ひと)の匂(にほひ)がすれば嗅(か)ぎつけて、136何時(なんどき)やつて来(く)るか知(し)れぬ。137それだから拙者(せつしや)が保護(ほご)の任(にん)に当(あた)るのだよ』
138鷹彦(たかひこ)『ナニソンナ心配(しんぱい)は要(い)らぬ。139早(はや)く寝(やす)んだがよからうぞ』
140梅彦(うめひこ)『オイオイ、141大変(たいへん)だ大変(たいへん)だ』
142鷹彦(たかひこ)『何(なに)が大変(たいへん)だ』
143梅彦(うめひこ)『日(ひ)の出別(でわけ)の宣伝使(せんでんし)のお姿(すがた)が見(み)えぬぢやないか』
144 此(この)一言(いちごん)に『アツ』と言(い)ひ乍(なが)ら、145附近(あたり)を見(み)れば影(かげ)もない。
146岩彦(いはひこ)『それ見(み)ろ、147やつぱりフル野ケ原(のがはら)は妖怪窟(えうくわいくつ)だ。148日(ひ)の出別(でわけ)の宣伝使(せんでんし)を、149大蛇(をろち)の奴(やつ)、150忍術(にんじゆつ)を使(つか)つて、151そつと呑(の)んで仕舞(しまひ)よつたのだらうも知(し)れぬぞ』
152鷹彦(たかひこ)『ナーニ、153ソンナ事(こと)があるものか。154あの方(かた)は神(かみ)様(さま)の化身(けしん)だから、155変幻(へんげん)出没(しゆつぼつ)自由(じいう)自在(じざい)だ。156吾々(われわれ)の様(やう)な罪悪(ざいあく)の凝結(かたまり)とは違(ちが)つて、157浄化(じやうくわ)して御座(ござ)るのだから、158透(すきとほ)つて見(み)えないのだらう』
159 此(この)時(とき)何(なん)とも知(し)れぬ血腥(ちなまぐさ)き、160湿潤(しめり)ある、161蒸暑(むしあつ)い風(かぜ)がサツと吹(ふ)いて来(き)た。
162音彦(おとひこ)『ヤア此(この)風(かぜ)はナンダ、163怪体(けつたい)な調子(てうし)だぞ。164どうしてもフル野ケ原(のがはら)式(しき)だ』
165鷹彦(たかひこ)『恐怖心(きようふしん)に駆(か)られて、166全身(ぜんしん)細(こま)かく、167ブルブルブル野ケ原(のがはら)の野宿(のじゆく)といふ体裁(ていさい)だ。168アハヽヽヽ、169臆病風(おくびやうかぜ)がソロソロ吹(ふ)き出(だ)したワイ』
170音彦(おとひこ)『向(むか)うから悪魔(あくま)の奴(やつ)、171魔風(まかぜ)を吹(ふ)かしよるから、172此方(こちら)も負(ま)けぬ気(き)になつて、173言霊(ことたま)の一(いち)二(に)三(さん)四(し)五(ご)六(ろく)七(しち)八(はち)九(く)十(じふ)百(ひやく)千(せん)万(まん)億病風(おくびやうかぜ)だ』
174鷹彦(たかひこ)『何(なに)を洒落(しやれ)るのだ、175それそれ又(また)雨(あめ)だ』
176音彦(おとひこ)『あめが下(した)に住居(すまゐ)する吾々(われわれ)が、177雨(あめ)が怖(こは)くて此(この)世(よ)に居(を)れるか。178雨(あめ)より恐(こは)いは、179アーメニヤのウラル彦(ひこ)様(さま)だ。180吾々(われわれ)が斯(か)うして、181飛行(ひかう)宣伝中(せんでんちう)に宙返(ちうがへり)をうつたと云(い)ふことが聞(きこ)えたら、182それこそ大変(たいへん)だ。183到底(たうてい)旧(もと)のアーメニヤの城内(じやうない)に、184格納(かくなふ)して貰(もら)ふ事(こと)は最大(さいだい)難事(なんじ)だよ』
185鷹彦(たかひこ)『まだ貴様(きさま)は、186アーメニヤが恋(こひ)しいのか』
187音彦(おとひこ)『ナーニ、188アーメニヤが恋(こひ)しいのぢやない、189肝腎(かんじん)の力(ちから)に思(おも)うた日(ひ)の出別(でわけの)神(かみ)様(さま)が、190雲煙(くもけむり)となつて磨滅(まめつ)して了(しま)つたものだから、191心細(こころぼそ)くなつて来(き)たのだ。192それで今度(こんど)はアーメニヤの盤古(ばんこ)神王(しんわう)のお咎(とがめ)が恐(おそ)ろしくなつて来(き)たのだ。193俺(おれ)だつて日(ひ)の出別(でわけ)の宣伝使(せんでんし)にしやツついてさへ居(を)れば、194心(こころ)が大丈夫(だいぢやうぶ)だが、195コンナ魔窟(まくつ)に放擲(はうてき)されて、196チツトは愚痴(ぐち)も出(で)ようまいものでもなからうぢやないか』
197亀彦(かめひこ)『さうぢや、198同感(どうかん)々々(どうかん)、199誰(たれ)だつて人(ひと)の心(こころ)は九合(ぐがふ)八合(はちがふ)だ。200今(いま)此処(ここ)で捨(す)てられたら、201それこそ一升(いつしよう)の恨(うらみ)だ。202オイオイ一斗(いつと)の者(もの)、203一石(いつこく)も早(はや)く在処(ありか)を探(たづ)ねて見(み)ようぢやないか。204桝々(ますます)斗(はか)り知(し)られぬ宣伝使(せんでんし)の変幻(へんげん)出没(しゆつぼつ)、205こりやマア、206どうしたら宜(よ)からうかな』
207 此(この)時(とき)ボンヤリとした、208薄暗(うすぐら)い、209生茂(おひしげ)る茅(かや)の中(なか)から、210ズズ黒(ぐろ)い大(おほ)きな顔(かほ)がヌツと現(あら)はれて、
211化物(ばけもの)『キエーヘヽヽヽ、212キヤーハヽヽヽ、213キヨーホヽヽヽ、214キューヽヽヽヽ』
215音彦(おとひこ)『音高(おとたか)し音高(おとたか)し、216静(しづ)かにめされ化物(ばけもの)殿(どの)』
217化物(ばけもの)『キヤーヽヽヽヽ、218キユーヽヽヽヽ』
219音彦(おとひこ)『オイオイ皆(みな)の奴(やつ)、220呪文(じゆもん)を唱(とな)へるのだ。221向(むか)うがキユーキユーだから、222此方(こつち)は窮々(きうきう)如律令(によりつれい)だ。223サア言(い)うたり言(い)うたり』
224 一同(いちどう)声(こゑ)を揃(そろ)へて、
225一同『窮々(きうきう)如律令(によりつれい)、226窮々(きうきう)如律令(によりつれい)』
227化物(ばけもの)『ワハヽヽヽ、228苦(くる)しいか、229恐(おそ)ろしいか、230キユーキユー言(い)つてゐよるナア。231キヤヽヽヽヽ、232キヤハヽヽヽヽキヨホヽヽヽ』
233岩彦(いはひこ)『ナーンダ、234脱線(だつせん)だらけの鵺的(ぬえてき)言霊(ことたま)を陳列(ちんれつ)しよつて、235……ソンナものは何時迄(いつまで)置(お)いといても、236売約済(ばいやくずみ)の札(ふだ)は付(つ)かんぞ。237モツト舶来(はくらい)の精巧(せいかう)無比(むひ)、238天下(てんか)一品(いつぴん)といふ言霊(ことたま)を陳列(ちんれつ)せぬかい』
239化物(ばけもの)『ウーン、240ウンウン』
241梅彦(うめひこ)『ナアーンダ、242屈(かが)みよつたな』
243岩彦(いはひこ)『どうだ、244俺(おれ)の言霊(ことたま)には、245化(ばけ)チヤン往生(わうじやう)しただらう。246それだから此(この)方(はう)が、247ウラル教(けう)の宣伝使(せんでんし)長(ちやう)に選(えら)ばれたのだ。248ウラル彦(ひこ)の眼力(がんりき)は実(じつ)に天晴(あつぱ)れなものだらう』
249音彦(おとひこ)『あまり吹(ふ)くない。250何時(いつ)だつて尻(しり)の約(つづま)りが合(あ)うた事(こと)が、251一度(いちど)でもあるかい。252貴様(きさま)の言霊(ことたま)で化物(ばけもの)が閉息(へいそく)したと思(おも)へば当(あて)が違(ちが)うぞ。253あの声(こゑ)を聞(き)いたか、254ウンウンウンといつただらう、255萱(かや)ん穂(ぼ)の中(なか)で、256団尻(だんじり)を引捲(ひきまく)つて、257ウンと瓦斯(ガス)や残滓物(ざんさぶつ)を放出(はうしゆつ)して、258それから第二(だいに)の作戦(さくせん)計画(けいくわく)にかからうと云(い)ふ手段(しゆだん)だよ』
259岩彦(いはひこ)『何程(なにほど)ウンウン言(い)つたつて、260運(うん)は天(てん)に在(あ)りだ、261一(ひと)つ是(これ)から運比(うんくら)べをやるのだ』
262 と言(い)ひ乍(なが)ら、263岩彦(いはひこ)は尻(しり)ひきまくり、264化物(ばけもの)の屈(かが)んだ方(はう)に向(むか)つて、
265岩彦(いはひこ)『ヤア、266折悪(をりあ)しくウンの持合(もちあは)せがない、267仕方(しかた)がないワ、268此(この)方(はう)の臀肉(でんにく)を喰(くら)へ、269お尻(しり)が呆(あき)れるワ』
270と三(み)つ四(よ)つ叩(たた)いて見(み)せる。
271音(おと)、272梅(うめ)『アハヽヽヽ、273こいつあ面白(おもしろ)い、274洒落(しやれ)てけつかるワイ』
275 草原(くさはら)より再(ふたた)び化物(ばけもの)はニユーツと首(くび)を出(だ)し、
276化物『ヤア岩彦(いはひこ)、277有難(ありがた)い、278お前(まへ)の尻(けつ)を是(これ)から頂戴(ちやうだい)する。279そこ動(うご)くな』
280岩彦(いはひこ)『ヤア、281バババケ公(こう)、282嘘(うそ)だ嘘(うそ)だ、283一寸(ちよつと)愛想(あいそ)に行(や)つて見(み)たのだ。284お前(まへ)はウンウンと言(い)つて糞(くそ)をこいたが、285俺(おれ)は嘘(うそ)をこいたのだ。286コンナ事(こと)を、287真面目(まじめ)に聞(き)く不風流(ぶふうりう)な奴(やつ)があるかい。288お前(まへ)もよつぽど原始(げんし)的(てき)な化(ばけ)チヤンだナア』
289化物(ばけもの)『オ……オ……俺(おれ)は原始(げんし)的(てき)だから、290お前(まへ)の様(やう)な風流(ふうりう)の持合(もちあは)せはないワイ。291何事(なにごと)も神(かみ)の道(みち)は正直(しやうぢき)が一番(いちばん)だ。292お前(まへ)も苟(いやし)くも天下(てんか)の宣伝使(せんでんし)、293滅多(めつた)に戯談(じやうだん)や嘘偽(うそ)を云(い)ふ筈(はず)はあるまい。294言行(げんかう)一致(いつち)だ。295サアサア宣言(せんげん)を履行(りかう)して貰(もら)はうかい』
296鷹彦(たかひこ)『アハヽヽヽ、297此(この)化州(ばけしう)、298あぢな事(こと)を言(い)ひよる。299オイオイ化州(ばけしう)、300コンナ岩公(いはこう)の様(やう)な分(わか)らずやに相手(あひて)になるな、301見逃(みのが)せ見逃(みのが)せ』
302化物(ばけもの)『それでも岩公(いはこう)の奴(やつ)、303確(たしか)に尻(しり)をまくつて、304喰(くら)へと言(い)つたのだ。305お前(まへ)たちの耳(みみ)にも新(あらた)なる所(ところ)、306斯(か)く的確(てきかく)な意思(いし)表示(へうじ)をやつた以上(いじやう)は、307何処(どこ)までも強制(きやうせい)執行(しつかう)をやるのだ』
308岩彦(いはひこ)『執行(しつかう)とはナンダ、309執拗(しつこい)ぢやないか、310良(い)い加減(かげん)に砕(くだ)けぬかい』
311化物(ばけもの)『砕(くだ)ける砕(くだ)ける、312お前(まへ)の骨(ほね)が、313木葉(こつぱ)微塵(みぢん)に砕(くだ)けるぞ。314当(あた)つて砕(くだ)けと云(い)ふことがあるぢやないか、315お前(まへ)も立派(りつぱ)な一人前(いちにんまへ)の男(をとこ)だらう。316当(あた)つて砕(くだ)けたらどうだい』
317岩彦(いはひこ)『イヤ俺(おれ)は一人前(いちにんまへ)ぢやない、318四人前(よにんまへ)だ』
319化物(ばけもの)『四人前(よにんまへ)なら猶更(なほさら)の事(こと)だ、320余人(よにん)はいざ知(し)らず、321汝(なんぢ)一人(ひとり)に限(かぎ)つて絶対(ぜつたい)的(てき)に実行(じつかう)をするのだ。322そこ動(うご)くな』
323岩彦(いはひこ)『動(うご)けと云(い)つたつて、324動(うご)くものかい。325岩(いは)サンは其(その)名(な)の如(ごと)く、326恬(てん)として動(うご)からざる事(こと)、327磐石(いはじやく)の如(ごと)しだ』
328化物(ばけもの)『さうだらう、329腰(こし)を抜(ぬ)かしよつて、330減(へ)らず口(ぐち)を叩(たた)くない』
331鷹彦(たかひこ)『アーア、332此(この)睡(ねむ)たいのに、333気楽(きらく)な化(ばけ)奴(め)がやつて来(き)よつて、334種々(いろいろ)の余興(よきよう)をやるものだから可笑(おか)しくつて、335碌(ろく)に眠(ねむ)る事(こと)も出来(でき)やしないワ』
336岩彦(いはひこ)『オイオイ鷹彦(たかひこ)、337何(なに)が余興(よきよう)だ。338俺(おれ)の身(み)にも一(ひと)つなつて見(み)い』
339鷹彦(たかひこ)『アハヽヽヽ、340貴様(きさま)あまり頑固(ぐわんこ)だつたから、341一寸(ちよつと)神(かみ)様(さま)に釘(くぎ)を打(う)たれて居(ゐ)るのだ。342ナアモシ、343化神(ばけがみ)さま……』
344化物(ばけもの)『さうだ、345鷹彦(たかひこ)の仰有(おつしや)る通(とほり)、346俺(おれ)の聞(き)く通(とほ)りだ。347一分(いちぶ)一厘(いちりん)間違(まちがひ)のない話(はなし)だ』
348岩彦(いはひこ)『オイ鷹彦(たかひこ)、349岩(いは)いでもよい事(こと)を言(い)ふな、350貴様(きさま)は化(ばけ)の奴(やつ)に共鳴(きようめい)しよつて、351本当(ほんたう)に怪(け)しからぬ奴(やつ)ぢや』
352鷹彦(たかひこ)『アハヽヽヽ、353貴様(きさま)又(また)昨夜(ゆふべ)の様(やう)に夢(ゆめ)でも見(み)とるのぢやないか』
354岩彦(いはひこ)『さうかなア、355夢(ゆめ)なら結構(けつこう)だが……ヤアどうしても夢(ゆめ)の様(やう)に思(おも)はれぬぞ。356起(お)きてはテクテクと曠野(くわうや)を渉(わた)り、357寝(ね)てはコンナ恐(おそ)ろしい夢(ゆめ)を見(み)せられては堪(たま)つたものぢやないワ』
358化物(ばけもの)『ヤア岩(いは)チヤン、359永々(ながなが)お邪魔(じやま)を致(いた)しました。360夢(ゆめ)でもない、361現(うつつ)でもない、362本当(ほんたう)のフル野ケ原(のがはら)の化(ばけ)チヤンだ。363ユメユメ疑(うたが)ふこと勿(なか)れ、364アリヨース』
365と云(い)つた限(き)り、366『ブスツ』と屁(へ)の様(やう)な怪(あや)しき音(おと)と共(とも)に消(き)えて了(しま)つた。
367音彦(おとひこ)『ヤアヤア怪(け)つ体(たい)な事(こと)があつたものだ。368今(いま)の出(で)よつたお化(ばけ)は、369ナンデも雪隠(せつちん)のお化(ばけ)と見(み)える。370糞(くそ)を垂(た)れる終局(しまひ)の果(は)てには鼬(いたち)の最期屁(さいごぺ)ぢやないが、371ブスツと音(おと)をさせて屁古垂(へこた)れよつた』
372岩彦(いはひこ)『ワハヽヽヽ、373妙(めう)なものだ。374俺(おれ)の腰(こし)もモウ大丈夫(だいぢやうぶ)だ。375オイどうだ、376貴様(きさま)、377俺(おれ)が腰(こし)を抜(ぬ)かしたと本当(ほんたう)に思(おも)うて居(を)つたのだらう、378ソンナ弱(よわ)い事(こと)で宣伝使(せんでんし)が勤(つと)まるかい。379キヤハヽヽヽ、380キユフヽヽヽ、381キヨホヽヽヽ』
382鷹彦(たかひこ)『オイオイ岩公(いはこう)、383ソンナ言霊(ことたま)を使(つか)うと、384第二(だいに)の妖怪(えうくわい)変化(へんげ)のお見舞(みまひ)だぞ』
385岩彦(いはひこ)『ようかいも神界(しんかい)もあつたものかい。386吾輩(わがはい)の勢力(せいりよく)範囲(はんゐ)内(ない)に立入(たちい)つて、387何(なに)をようかい(容喙(ようかい))するのぢや、388権利(けんり)侵害罪(しんがいざい)で起訴(きそ)するぞ』
389鷹彦(たかひこ)『起訴(きそ)するとは、390奇想(きそう)天外(てんぐわい)だ、391天涯(てんがい)万里(ばんり)の雨(あめ)がフル野ケ原(のがはら)、392どうで碌(ろく)な事(こと)はないからマアマア楽(たのし)んで、393ゆつくりと夜(よ)を日(ひ)に継(つ)いで旅行(りよかう)するのだなア』
394 此(この)時(とき)何処(いづく)ともなく、395化物(ばけもの)の声(こゑ)にて、
396化物『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
397善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける
398化物(ばけもの)此処(ここ)に現(あら)はれて
399嘘(うそ)と糞(くそ)とを立別(たてわ)ける
400嘘(うそ)で固(かた)めた岩公(いはこう)の
401岩(いは)より固(かた)い頑固者(ぐわんこもの)
402荒肝(あらぎも)取(と)られて腰(こし)打(う)つて
403骨(ほね)を一々(いちいち)刻(きざ)まれた
404様(やう)な苦(くる)しい思(おも)ひして
405涙(なみだ)をソツと押隠(おしかく)し
406泰平楽(たいへいらく)の減(へ)らず口(ぐち)
407此(この)行先(ゆくさき)の荒屋(あばらや)に
408又(また)もや俺(おれ)が待受(まちう)けて
409どつと脂(あぶら)を搾(しぼ)つてやろか
410アハヽヽヽ、オホヽヽヽ、イヒヽヽヽ』
411岩彦(いはひこ)『エヽ、412五月蝿(うるさ)い、413又(また)しても又(また)しても。414併(しか)し今度(こんど)の笑方(わらひかた)は正式(せいしき)だ、415最前(さいぜん)の様(やう)な、416キューキューキューと吐(ぬ)かしよると気持(きもち)が悪(わる)い……オイ化(ばけ)チヤン、417笑(わら)ふなら、418今(いま)の流儀(りうぎ)だよ』
419 再(ふたた)び中空(ちうくう)より、420化物(ばけもの)の声(こゑ)、
421化物『岩(いは)に松(まつ)さへ生(は)えるぢやないか、422喰(く)つて喰(く)はれぬ事(こと)はない。423アハヽヽヽ、424ウフヽヽヽ、425マハヽヽヽ、426イヒヽヽヽ』
427鷹彦(たかひこ)『オイ岩公(いはこう)、428喜(よろこ)べ、429あの笑声(わらひごゑ)は何(なん)と思(おも)ふ、430アーウマイ、431アウマイと笑(わら)つただらう、432巧妙(うま)いこと吐(ぬ)かしよるナア』
433岩彦(いはひこ)『アーア、434ウン……ウン、435マーマ、436イーイ、437イーワイ』
438(大正一一・三・一七 旧二・一九 松村真澄録)
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