霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 夢(ゆめ)の幕(まく)〔五三〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第13巻 如意宝珠 子の巻 篇:第1篇 勝利光栄 よみ(新仮名遣い):しょうりこうえい
章:第4章 夢の幕 よみ(新仮名遣い):ゆめのまく 通し章番号:530
口述日:1922(大正11)年03月16日(旧02月18日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年10月30日
概要: 舞台:シヅの森 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
日の出別宣伝使は上陸し、フサの都さして出発した。ウラル教の六人の宣伝使たちはその後をそっとつけていく。
砂塵を浴びながら原野を進み、日の出別命はシヅの森に着いて、一夜を明かすことになった。
ウラル教の宣伝使たちも到着し、点呼をするが、肝心の岩公がはぐれてしまったことに気づく。仲間たちは、岩公は普段いばっているからその報いだ、と話あっていたが、そこへ闇の中から大きな声が聞こえてきた。
暗がりの大声は、アーメニヤの神都は荒廃し、ウラル教にもはや勢いはないとして、三五教への改心を迫った。
化け物のような声にどう対処しようかと一同が相談していると、巨大な光が現れて、その中から恐ろしい朱色の顔をした怪物が、舌先に人の首を乗せている。よく見れば、岩彦の首であった。
鷹彦は怒って、岩彦の敵とばかりにウラル教の宣伝歌を歌って化け物をやっつけようとするが、化け物は、ウラル教の宣伝歌を聞くとかえって気分がよくなる、と言う。
仕方がないので、三五教の宣伝歌をうろ覚えで歌うが、それは梅彦、亀彦、駒彦、音彦に食いつけよ、というおかしな歌であった。
仲間は鷹彦を責めるが、鷹彦は、実は自分は三五教の宣伝使であり、今までウラル教に潜伏して布教の妨害をしていたのだ、と正体を明かす。
と、化け物の口から岩彦が落ちてきた。そこで一同は目を覚ます。シヅの森でみな夢を見ていたのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:サルヂニヤ島(サルジニヤ) データ凡例: データ最終更新日:2020-11-26 16:48:29 文字数:4602 OBC :rm1304
愛善世界社版:54頁 八幡書店版:第3輯 51頁 修補版: 校定版:55頁 普及版:22頁 初版: ページ備考:
001 鶴山丸(つるやままる)は、002ペルシャ湾(わん)のタルの港(みなと)に寄港(きかう)した。003日(ひ)の出別(でわけ)の宣伝使(せんでんし)は、004此処(ここ)に上陸(じやうりく)してフサの国(くに)の都(みやこ)を指(さ)して宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら進(すす)み行(ゆ)く。
005 ウラル教(けう)の宣伝使(せんでんし)、006岩彦(いはひこ)、007梅彦(うめひこ)、008音彦(おとひこ)、009亀彦(かめひこ)、010駒彦(こまひこ)、011鷹彦(たかひこ)の六(ろく)人(にん)は互(たがひ)に目配(めくば)せしながらタルの港(みなと)に上陸(じやうりく)し、012足(あし)を早(はや)めて進(すす)み行(ゆ)く。
013 折(をり)から吹(ふ)き来(く)る強風(きやうふう)の景物(けいぶつ)砂塵(さぢん)を浴(あ)び、014灰泥餅(はいどろもち)のやうになつて、015最大(さいだい)急行(きふかう)の突喊(とつかん)命令(めいれい)を下(くだ)しつつ、016シヅの森(もり)に向(むか)つて電光(でんくわう)の如(ごと)く疾走(しつそう)する。
017 日(ひ)の出別(でわけの)命(みこと)は、018暴風(ばうふう)強雨(きやうう)我不関(われくわんせず)焉(えん)といつたやうな調子(てうし)で悠々(いういう)として原野(げんや)に遊(あそ)べる野馬(やば)を御(ぎよ)し、019チヨクチヨクと進(すす)み行(ゆ)く。020日(ひ)は漸(やうや)くに黄昏(たそが)れたと見(み)え、021暗(くら)さは一(ひと)しきり暗(くら)くなつて来(き)た。022もはや一寸(いつすん)も進(すす)むことが出来(でき)ない。
023 ここに日(ひ)の出別(でわけ)は馬(うま)を乗(の)り捨(す)て、024親譲(おやゆづ)りの交通(かうつう)機関(きくわん)に砂煙(すなけむり)を立(た)てながら、025シヅの森(もり)指(さ)して進(すす)み来(きた)り、026一夜(いちや)を明(あか)さむと簑(みの)を木蔭(こかげ)に敷(し)いて眠(ねむり)につく。
027 岩(いは)、028梅(うめ)、029音(おと)、030亀(かめ)、031駒(こま)、032鷹(たか)のウラル教(けう)の宣伝使(せんでんし)は、033タルの港(みなと)に上陸(じやうりく)し足(あし)を早(はや)めてシヅの森(もり)に進(すす)み来(き)たり。
034梅彦(うめひこ)『ヤア、035漸(やうや)く此処(ここ)がシヅの森(もり)だ。036サア人員(じんゐん)点呼(てんこ)だ、037一(いち)、038二(に)、039三(さん)、040四(し)、041五(ご)、042』
043梅彦(うめひこ)『六(ろく)は無(な)いのか、044オイ誰(たれ)だ、045途中(とちう)落伍(らくご)した奴(やつ)がありさうだナア』
046音彦(おとひこ)『闇(くら)がり道(みち)を強行(きやうかう)的(てき)行進(かうしん)を続(つづ)けたものだから、047岩公(いはこう)の奴(やつ)たうとう落伍(らくご)しよつたな。048口程(くちほど)にもない奴(やつ)だ。049空虚(くうきよ)なる器物(きぶつ)は強大(きやうだい)なる音響(おんきやう)を発(はつ)すと云(い)うて、050実力(じつりよく)のないものだ。051言葉(ことば)多(おほ)ければ品(しな)少(すくな)しだ。052吾々(われわれ)は三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)しようと思(おも)つて居(ゐ)たのに、053岩公(いはこう)の奴(やつ)、054減(へ)らず口(ぐち)を叩(たた)きよつて、055たうとう議会(ぎくわい)の停会(ていくわい)と来(き)たものだから、056一(いち)も取(と)らず二(に)も取(と)らず、057その間(あひだ)に日(ひ)の出別(でわけ)の宣伝使(せんでんし)は、058この広(ひろ)いフサの国(くに)に上陸(じやうりく)して仕舞(しま)はれた』
059亀彦(かめひこ)『彼奴(あいつ)は何(なに)を云(い)つたところうでモウ駄目(だめ)だよ。060自分(じぶん)ほど偉(えら)い者(もの)は無(な)いと定(き)めて居(ゐ)るのだから馬耳(ばじ)東風(とうふう)、061余程(よほど)酷(きつ)い目(め)に遇(あ)はねば、062免疫性(めんえきせい)の無感覚(むかんかく)者(しや)だから目(め)が覚(さ)めないよ。063多分(たぶん)タルの川(かは)の崖道(がけみち)の断巌(だんがん)絶壁(ぜつぺき)から空中(くうちう)滑走(くわつそう)をやつてタルの川(かは)の川底(かはぞこ)へでも有事(いうじ)着陸(ちやくりく)したのだらう。064今頃(いまごろ)にはプロペラーが折(を)れたので谷底(たにそこ)で進退(しんたい)谷(きは)まつて岩彦(いはひこ)が岩(いは)を抱(かか)へてアヽいはぬは云(い)ふに弥勝(いやまさ)る、065鶴山丸(つるやままる)の中(なか)で、066あんないはいでもよい事(こと)をいはなかつたらよかつたになぞと云(い)つてこうかいして居(ゐ)るだらう』
067駒彦(こまひこ)『航海(かうかい)は吾々(われわれ)もして来(き)たぢやないか。068後(あと)の後悔(こうくわい)先(さき)に立(た)たず、069ぢやない役(やく)に立(た)たずだ。070併(しか)し乍(なが)ら此処(ここ)はシヅの森(もり)と云(い)ふて、071バの字(じ)とケの字(じ)の出(で)る処(ところ)と云(い)ふ有名(いうめい)な妖怪窟(ようくわいくつ)だ。072オイ確(しつ)かりせぬと、073トンダ目(め)に遇(あ)ふか知(し)れやしないぞ。074岩彦(いはひこ)は云(い)はひこで好(よ)いと云(い)ふ訳(わけ)に行(い)かない、075吾々(われわれ)も極力(きよくりよく)捜索(そうさく)をやつて彼(かれ)の潜伏所(せんぷくしよ)を突(つ)き留(と)めねば宣伝使(せんでんし)の役(やく)が勤(つと)まらない。076アーメニヤに帰(かへ)つて、077あの大(おほ)きな岩公(いはこう)をまさか紛失(ふんしつ)したとも、078途中(とちう)で遺失(ゐしつ)したとも、079また磨滅(まめつ)して仕舞(しま)つたとも云(い)ふ訳(わけ)には行(い)かぬからなア』
080梅彦(うめひこ)『何(なん)だ。081遺失(ゐしつ)だの磨滅(まめつ)だのと、082恰(まる)で手荷物(てにもつ)のやうに云(い)つて居(ゐ)るじやないか、083些(ち)と言霊(ことたま)を慎(つつし)まむかい』
084駒彦(こまひこ)『マア、085マア、086今晩(こんばん)はこれで打切(うちき)りとして、087明朝(みやうてう)早々(さうさう)捜索(そうさく)兼(けん)探険(たんけん)と出(で)かけよう。088鼻(はな)を摘(つま)まれても分(わか)らぬやうな此(この)暗夜(やみよ)にどうして居所(ゐどころ)が分(わか)るものか。089木乃伊(みいら)取(と)りが木乃伊(みいら)になるやうな慘虐事(ざんぎやくじ)が継続(けいぞく)しては堪(たま)らぬからなア』
090鷹彦(たかひこ)『君(きみ)達(たち)は随分(ずゐぶん)冷淡(れいたん)な男(をとこ)だなア。091人情(にんじやう)軽薄(けいはく)なる事(こと)紙(かみ)の如(ごと)しだよ』
092梅彦(うめひこ)『それや貴様(きさま)、093神(かみ)様(さま)の使(つかひ)だもの、094紙(し)辺(へん)暗雲(あんうん)に包(つつ)まれ咫尺(しせき)も弁(べん)ぜざる深夜(しんや)に、095どう心配(しんぱい)したつて進退(しんたい)谷(きは)まつた此(この)場(ば)の光景(くわうけい)、096否(いな)暗景(あんけい)だ。097如何(どう)とも策(さく)の施(ほどこ)す余地(よち)が無(な)いぢやないか』
098鷹彦(たかひこ)『何(なに)、099暗(くら)くつても矢張(やつぱ)り神(かみ)の造(つく)つた神国(しんこく)の地(つち)の上(うへ)に居(ゐ)る吾々(われわれ)だ。100如何(いか)に妖怪(えうくわい)が現(あら)はれるシヅの森(もり)だと云(い)つても、101これも矢張(やつぱ)り神国(しんこく)の断片(だんぺん)だ。102誰(たれ)か一人(ひとり)此処(ここ)に待(ま)つ事(こと)にして後(あと)四(し)人(にん)は岩公(いはこう)の捜索(そうさく)だよ』
103音彦(おとひこ)『おとましい、104この深夜(しんや)に縁起(えんぎ)の悪(わる)い四(し)人(にん)とはどうだ。105何故(なぜ)四(よ)人(にん)と云(い)はないのだ』
106駒彦(こまひこ)『言霊(ことたま)と云(い)ふものは妙(めう)なものだ。107まかり間違(まちが)へば岩彦(いはひこ)は死人(しにん)になつて居(ゐ)るかも知(し)れやしないぞ、108よい辻占(つじうら)だ。109マア如何(どう)でも好(い)いぢやないか、110明日(あす)は明日(あす)の事(こと)だ』
111鷹彦(たかひこ)『たかが知(し)れた宣伝使(せんでんし)の一羽(いちは)や二羽(には)、112無(な)くなつたつて構(かま)ふものかい。113彼奴(あいつ)は余(あんま)り自負心(じふしん)が強(つよ)いから、114神(かみ)様(さま)の懲罰(ちようばつ)に遇(あ)うて居(ゐ)るのだ。115何時(いつ)も豪(えら)さうに聖人(せいじん)振(ぶ)つて、116宇宙(うちう)間(かん)の無限(むげん)絶対(ぜつたい)なる不可解(ふかかい)的(てき)な事実(じじつ)を道破(だうは)したものは此(この)岩彦(いはひこ)だ……ナンテ駄法螺(だぼら)を吹(ふ)きよつて吾々(われわれ)を煙(けむ)に巻(ま)いて居(ゐ)たが、117フサの海(うみ)の暴風雨(しけ)に出遇(であ)つた時(とき)は随分(ずゐぶん)六ケ敷(むつかしい)顔(かほ)をしとつたよ。118負惜(まけをし)みで声(こゑ)を立(た)ててオイオイと吠(ほ)えはせなかつたが、119力(ちから)一ぱい気張(きば)つて涙(なみだ)と泣面(なきづら)の保留(ほりう)をして居(ゐ)たのは確(たしか)な事実(じじつ)だよアハヽヽヽ』
120 斯(か)く話(はな)す時(とき)しも鼓膜(こまく)の運命(うんめい)を危殆(きたい)ならしむる如(ごと)きドラ声(こゑ)が暗中(あんちう)より聞(きこ)えて来(き)た。
121梅彦(うめひこ)『ヤア唸(うな)るぞ、122唸(うな)るぞ、123大変(たいへん)だぞ』
124音彦(おとひこ)『ヤイ、125何者(なにもの)なればこの深夜(しんや)に唸(うな)るのだ。126この方(はう)はウナル教(けう)の宣伝使(せんでんし)、127ウナル彦(ひこ)様(さま)の御(ご)家来(けらい)だぞ。128何(なん)ぼなと法螺(ほら)を吹(ふ)け、129太鼓(たいこ)を打(う)て、130もつともつと馬力(ばりき)を出(だ)して喉(のど)が裂(さ)ける程(ほど)呶鳴(どな)つたがよいわ。131シヅの森(もり)は静(しづか)な処(ところ)だと思(おも)へば、132反対(あべこべ)に喧(やかま)しの森(もり)の、133騒(さわ)がしの森(もり)の、134呶鳴(どな)りの森(もり)だ。135呶鳴(どな)るなら呶鳴(どな)れ、136どうなりても構(かま)はぬ、137命(いのち)知(し)らずの宣伝使(せんでんし)の音(おと)さまだ。138オイオイ梅(うめ)、139亀(かめ)、140鷹(たか)、141駒(こま)、142貴様(きさま)達(たち)も何(なん)とか防戦(ばうせん)せむかい。143大(おほ)きな言霊(げんれい)を出(だ)しよつて、144吾々(われわれ)の耳(みみ)の鼓膜(こまく)を破裂(はれつ)させようとかかつて居(ゐ)やがるのだよ』
145暗中(あんちう)より一層(いつそう)大(おほ)きな声(こゑ)で、
146(化物)『オヽヽー音公(おとこう)、147駒(こま)の鼓膜(こまく)が破(やぶ)れるどころか、148鷹(たか)のやうな高声(たかごゑ)で呶鳴(どな)つてやるから、149胆(きも)が破裂(はれつ)せぬやうに用心(ようじん)を致(いた)せ』
150鷹彦(たかひこ)『何(なん)ぢや、151ケ、152ケ、153怪体(けつたい)な奴(やつ)が、154飛(と)んで出(で)よつたものだ。155オイ、156ドラ声(ごゑ)先生(せんせい)、157俺(おれ)を誰人(どなた)と心得(こころえ)て居(を)る』
158暗(くら)がりの大声(おほごゑ)、
159(化物)『ウラル教(けう)の腰抜(こしぬけ)野郎(やらう)、160よつく聞(き)け。161アーメニヤの神都(しんと)は殆(ほとん)ど零敗(れいはい)に帰(き)し。162今(いま)は僅(わづか)に美山彦(みやまひこ)、163国照姫(くにてるひめ)の曲津見(まがつみ)が弧塁(こるゐ)を死守(ししゆ)するのみ、164実(じつ)に惨(みぢめ)なものだ。165アーメニヤの城壁(じやうへき)は所々(ところどころ)くたぶれ果(は)て、166穴(あな)だらけ、167貴様(きさま)達(たち)はコーカス山(ざん)に帰(かへ)つて往(ゆ)くつもりであらうが、168コーカス山(ざん)は、169もはや三五教(あななひけう)の勢力(せいりよく)範囲(はんゐ)に帰(き)して了(しま)つたぞ。170今(いま)の間(うち)に改心(かいしん)いたせばよし、171違背(ゐはい)に及(およ)ばば汝(なんぢ)が生命(いのち)は風前(ふうぜん)の灯火(ともしび)、172また岩彦(いはひこ)のやうな運命(うんめい)に陥(おちい)るぞ。173アハヽヽヽ、174オホヽヽヽ、175ウフヽヽヽ、176イヒヽヽヽ、177エヘヽヽヽ』
178と五韻(ごゐん)を離(はな)れた鶴(つる)のやうな笑(わら)ひ声(ごゑ)が聞(きこ)え来(き)たる。
179亀彦(かめひこ)『オイ皆(みな)の奴(やつ)、180これや一(ひと)つ作戦(さくせん)計画(けいくわく)を遣(や)り直(なほ)さねばならなくなつたぞ。181新規(しんき)蒔直(まきなほ)し、182吾々(われわれ)は兎角(とかく)善(ぜん)と信(しん)じた事(こと)は飽迄(あくまで)も決行(けつかう)せなくてはならないのだ。183どうだ岩公(いはこう)は今(いま)のバーとケーサンの言葉(ことば)によれば、184どうやら寂滅(じやくめつ)為楽(ゐらく)疑(うたが)ひなしだ。185吾々(われわれ)も一(ひと)つ我(が)を折(を)らねばなるまい、186アヽ困(こま)つた事(こと)だワイ』
187音彦(おとひこ)『何(なん)だ、188弱々(よわよわ)しい亡国(ばうこく)的(てき)の哀音(あいおん)を吐(は)き、189絶望(ぜつばう)的(てき)悲調(ひてう)を帯(お)びたその世迷言(よまひごと)は、190貴様(きさま)は宣伝使(せんでんし)の天職(てんしよく)を忘(わす)れたのか』
191亀彦(かめひこ)『宣伝(せんでん)万化(ばんくわ)、192隠顕(いんけん)出没(しゆつぼつ)極(きは)まり無(な)きが、193宣伝使(せんでんし)の正(まさ)に用(もち)ふべき神秘(しんぴ)だよ。194貴様(きさま)のやうな杓子(しやくし)定規(ぢやうぎ)でこの世(よ)の中(なか)が渡(わた)れるものか。195郷(がう)に入(い)つては郷(がう)に従(したが)へ、196時(とき)の力(ちから)には抵抗(ていかう)する事(こと)は出来(でき)ない。197この頃(ごろ)は桜(さくら)のシーズンだと云(い)ふのに如何(どう)だ。198花(はな)もなければ葉(は)も萎(しほ)れ、199山野(さんや)はほとんど冬(ふゆ)のやうだ。200これも天(てん)の時(とき)だ、201何時(いつ)までも春(はる)は花(はな)が咲(さ)く、202秋(あき)は紅葉(もみぢ)が照(て)ると思(おも)つて居(ゐ)ると訳(わけ)が違(ちが)ふぞ』
203 かく雑談(ざつだん)に耽(ふけ)る折(をり)しも、204俄(にはか)にクワツと明(あか)くなつて来(き)た。205五(ご)人(にん)は驚(おどろ)いて空(そら)を見上(みあ)ぐる途端(とたん)に、206アツと一声(ひとこゑ)大地(だいち)に打(う)ち倒(たふ)れたり。
207 巨大(きよだい)なる光(ひか)り物(もの)の中(なか)より、208得(え)も云(い)はれぬ恐(おそ)ろしき朱色(しゆいろ)の顔色(がんしよく)に、209アーク灯(とう)のやうに光(ひか)つた目玉(めだま)を剥(む)いた怪物(くわいぶつ)、210五六(ごろく)尺(しやく)もあるやうな舌(した)の先(さき)に何(なん)だか人(ひと)の首(くび)のやうな物(もの)を乗(の)せてペロペロさして居(ゐ)る。211よくよく見(み)れば岩彦(いはひこ)の首(くび)である。
212梅彦(うめひこ)『アヽ、213岩々(いはいは)、214岩公(いはこう)がいはされた』
215音彦(おとひこ)『ヤア、216モシモシ赤(あか)い顔(かほ)の白(しろ)い目玉(めだま)サン、217それや余(あんま)り胴欲(どうよく)だ。218その首(くび)は岩彦(いはひこ)の首(くび)ぢやないか、219あまりだよ』
220化物(ばけもの)『余(あま)り退屈(たいくつ)なのでア首(くび)が出(で)たのだよ。221人肉(じんにく)の温(あたたか)い奴(やつ)を食(く)ひ度(た)いと思(おも)つて居(ゐ)たら、222此処(ここ)に四(よつ)つ五(いつ)つ転(ごろ)ついて居(ゐ)るワイ、223ヤア甘(うま)い甘(うま)い、224天道(てんだう)は人(ひと)を殺(ころ)さず、225化物(ばけもの)は人(ひと)を食(く)ふ、226美味(うま)さうな奴(やつ)が来(き)たものだワイ。227アハヽヽ、228イヒヽヽ、229ウフヽヽ、230エヘヽヽ、231オホヽヽ』
232鷹彦(たかひこ)『コラ、233バヽバケモノ、234了見(れうけん)せないぞ。235今(いま)待(ま)つて居(を)れ、236俺(おれ)がウラル教(けう)の宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)つてやるわ』
237化物(ばけもの)『ウラル教(けう)の宣伝歌(せんでんか)を聞(き)かして貰(もら)うと気分(きぶん)が好(よ)くなつて、238益々(ますます)貴様(きさま)等(ら)が食(く)ひ度(た)くなつて来(く)る。239食(く)はれぬ前(まへ)にこの世(よ)の歌(うた)ひ納(をさ)め、240一(ひと)つ歌(うた)つて呉(く)れまいか』
241鷹彦(たかひこ)『ヨー、242此奴(こいつ)は零敗(れいはい)の大当違(おほあてちが)ひだ。243ソンナラ三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)はう』
244化物(ばけもの)『ウン、245そいつは困(こま)る。246しかし貴様(きさま)はウラル教(けう)だ。247三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)を知(し)らう筈(はず)が無(な)い。248マアマア大丈夫(だいぢやうぶ)だ。249歌(うた)ふなら歌(うた)つて見(み)よ、250アハヽヽ、251イヒヽヽ、252ウフヽヽ』
253鷹彦(たかひこ)『何(なに)を吐(ぬ)かしよるのだ。254不完全(ふくわんぜん)な奇数(きすう)的(てき)の馬鹿(ばか)笑(わら)ひをしよつて、255俺(おれ)の宣伝歌(せんでんか)を聞(き)いて胆(きも)を潰(つぶ)すな。256オイ梅公(うめこう)、257音公(おとこう)、258亀公(かめこう)、259駒公(こまこう)、260鷹(たか)サンと一緒(いつしよ)に宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ふのだ。261サア今度(こんど)は三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)だぞ』
262亀彦(かめひこ)『三五教(あななひけう)は一向(いつかう)不案内(ふあんない)だ。263まして宣伝歌(せんでんか)なぞはサツパリ分(わか)らないよ』
264鷹彦(たかひこ)『貴様(きさま)はウラル教(けう)の宣伝使(せんでんし)であつて不心得(ふこころえ)な奴(やつ)だ。265三五教(あななひけう)を征服(せいふく)しようと思(おも)へば、266敵(てき)の総(すべ)ての教理(けうり)を呑(の)み込(こ)んで置(お)いて、267ウラル教(けう)との優劣(いうれつ)を判断(はんだん)し、268ウラル教(けう)が三五教(あななひけう)と、269どの辺(へん)が勝(まさ)つて居(を)ると云(い)ふ点(てん)を宣伝(せんでん)するのが、270宣伝使(せんでんし)の役(やく)ぢやないか。271俺(おれ)はウラル教(けう)だから三五教(あななひけう)の教理(けうり)は研究(けんきう)するのも汚(けが)らはしいと云(い)ふやうな事(こと)で、272どうして敵(てき)に向(むか)つて勝利(しようり)を得(う)る事(こと)が出来(でき)ようか、273エヽ仕方(しかた)がないデモ宣伝使(せんでんし)ばかりだナア。274サアこの鷹(たか)サンが俄(にはか)に三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)と宙返(ちうがへ)り飛行(ひかう)をやつて御覧(ごらん)に入(い)れる。275化物(ばけもの)の奴(やつ)、276今(いま)くたばるか、277くたばらぬか、278試(ため)して見(み)るのだ。279もし三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)で化物(ばけもの)が滅(ほろ)びたら矢張(やつぱ)り三五教(あななひけう)が豪(えら)いのだから、280そこで貴様(きさま)達(たち)も決心(けつしん)するのだぞ。281サア俺(おれ)の宣伝歌(せんでんか)を聴(き)いて見(み)ろ』
282と云(い)ひながら怪(あや)しき化物(ばけもの)の顔(かほ)をグツと睨(にら)み付(つ)け、
283鷹彦『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて お膳(ぜん)と箸(はし)とを立別(たてわ)ける
284 この世(よ)の中(なか)に化物(ばけもの)が あつて耐(たま)るかシヅの森(もり)
285 静(しづか)になれよ静(しづか)になれよ 三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)
286 宣伝(せんでん)万化(ばんくわ)に曲津見(まがつみ)の 向(むか)ふを張(は)つて跳(は)ね廻(まは)る
287 梅彦(うめひこ)、288亀彦(かめひこ)、289駒彦(こまひこ)や おとなしうない音彦(おとひこ)の
290 頭(あたま)を目蒐(めが)けて食(く)ひつけよ』
291音、292亀『コラコラ鷹公(たかこう)、293何(なに)を吐(ぬ)かしよるのだ。294貴様(きさま)は極端(きよくたん)な個人(こじん)主義(しゆぎ)だなア。295一連(いちれん)托生(たくしやう)、296無我(むが)平等(びやうどう)のウラル教(けう)、297オツトどつこい三五教(あななひけう)の精神(せいしん)を知(し)つて居(ゐ)るか』
298鷹彦(たかひこ)『アハヽヽヽ、299馬鹿(ばか)な奴(やつ)だなア、300俺(おれ)を一体(いつたい)誰(だれ)だと考(かんが)へて居(ゐ)る。301抑々(そもそも)アーメニヤを出立(しゆつたつ)するその時(とき)より、302吾(われ)は三五教(あななひけう)の鷹彦(たかひこ)と云(い)ふサルジニヤの一(ひと)つ島(じま)に居(を)つた宣伝使(せんでんし)だ。303猫(ねこ)を被(かぶ)つてウラル教(けう)に這入(はい)り、304貴様(きさま)等(ら)五(ご)人(にん)の中(なか)に加(くは)はりて竜宮(りうぐう)の一(ひと)つ島(じま)に渡(わた)り、305飯依彦(いひよりひこ)と以心(いしん)伝心(でんしん)的(てき)作戦(さくせん)計画(けいくわく)をやつて居(ゐ)るのも気(き)がつかず、306悪(あく)の企(たくみ)は注意(ちうい)周到(しうたう)にして水(みづ)も漏(も)らさぬやうに見(み)えるが、307肝腎(かんじん)の身魂(みたま)に執着(しふちやく)があるから足許(あしもと)が真暗(まつくら)がり、308この鷹(たか)サンの化物(ばけもの)に気(き)が付(つ)かなかつたのだよ。309アハヽヽヽ、310オホヽヽヽ、311イヒヽヽヽ、312ウフヽヽヽ、313エヘヽヽヽ』
314梅、315駒『何(なん)だ、316貴様(きさま)までが俄(にはか)に化物(ばけもの)の後継(あとつぎ)をしよつて、317頭(あたま)の上(うへ)からと下(した)からと、318化物(ばけもの)の包囲(はうゐ)攻撃(こうげき)をやられて耐(たま)つたものぢやないワイ』
319 頭(あたま)の化物(ばけもの)、320大(おほ)きな舌(した)を出(だ)して、
321化物『アハヽヽー、322イヒヽヽー』
323亀、324音『ヤア、325又(また)やりよつた。326上下(じやうげ)挟撃(けふげき)、327えらい敵(てき)の術策(じゆつさく)に陥(おちい)つたものだワイ』
328 頭(あたま)の化物(ばけもの)、
329化物(ばけもの)『オホヽヽー』
330と笑(わら)つた途端(とたん)に、331舌(した)の先(さき)からつるつると空中(くうちう)滑走(くわつそう)をしながら五(ご)人(にん)の前(まへ)に着陸(ちやくりく)した男(をとこ)がある。
332一同(いちどう)『ヤア岩(いは)、333岩(いは)、334岩彦(いはひこ)か、335貴様(きさま)は一体(いつたい)どうして居(ゐ)たのだ。336化物(ばけもの)の喉(のど)から出(で)て来(き)よつて、337恰(まる)で、338飴(あめ)の中(なか)からお多(た)ヤンと金太(きんた)サンが飛(と)んで出(で)たやうな曲芸(きよくげい)だ。339誰(たれ)にソンナ手品(てじな)を教(をし)へて貰(もら)ひよつたのだい』
340岩彦(いはひこ)『オイ皆(みな)の奴(やつ)、341よい加減(かげん)に目(め)を醒(さ)まさぬかい。342何(なに)をウンウンと唸(うな)つて居(ゐ)るのだ、343此処(ここ)はシヅの森(もり)だぞ、344静(しづか)にせないと化物(ばけもの)が出(で)ると云(い)ふ事(こと)だよ』
345一同(いちどう)『ムニヤ ムニヤ、346アーアー恐(こは)かつた、347エライ夢(ゆめ)を見(み)たワイ』
348岩彦(いはひこ)『アハヽヽヽ』
349(大正一一・三・一六 旧二・一八 加藤明子録)
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