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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第13巻(子の巻)
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凡例
総説
第1篇 勝利光栄
第1章 言霊開
第2章 波斯の海
第3章 波の音
第4章 夢の幕
第5章 同志打
第6章 逆転
第2篇 洗礼旅行
第7章 布留野原
第8章 醜の窟
第9章 火の鼠
第3篇 探険奇聞
第10章 巌窟
第11章 怪しの女
第12章 陥穽
第13章 上天丸
第4篇 奇窟怪巌
第14章 蛙船
第15章 蓮花開
第16章 玉遊
第17章 臥竜姫
第18章 石門開
第19章 馳走の幕
第20章 宣替
第21章 本霊
第5篇 膝栗毛
第22章 高加索詣
第23章 和解
第24章 大活躍
信天翁(三)
余白歌
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> 第4篇 奇窟怪巌 > 第14章 蛙船
<<< 上天丸
(B)
(N)
蓮花開 >>>
第一四章
蛙船
(
かへるふね
)
〔五四〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第13巻 如意宝珠 子の巻
篇:
第4篇 奇窟怪巌
よみ(新仮名遣い):
きくつかいがん
章:
第14章 蛙船
よみ(新仮名遣い):
かえるふね
通し章番号:
540
口述日:
1922(大正11)年03月20日(旧02月22日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年10月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高照姫命が鎮まり、三十三相に身を変じて教えを明かすのが醜の巌であった。しかし未だ信仰の弱い音彦、亀彦、駒彦の三人は鳥船に救われたのも束の間、気がつくと身は雨の降る布留野ケ原に放り出されていた。
三人は仕方なくタカオ山脈を越えて徒歩で都に向かおうとするが、夜になってしまう。そして、沼の手前で巨大な大蛙に出くわす。
音彦は呑気にも、乗り物ができたと喜んで蛙に乗る。蛙は人語を話し、この先の行く手をふさいでいる古池を泳いで渡ってあげよう、というが、亀彦と駒彦は気味悪がって乗らない。
大きな古池は断崖に囲まれているが、蛙は音彦を乗せたまま、下に飛び込んだ。音彦は助けを求めるが、亀彦・駒彦は音彦の軽率を責めるばかりで喧嘩している。蛙が仲裁しようとするが、三人は言い争いをやめない。
蛙は向こう岸にさっさと上がって池を越えてしまった。今度は亀彦と駒彦が慌て出すが、よくよく見れば大道が続いていて、苦もなく池の向こう岸に行くことができた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-11-26 18:01:19
OBC :
rm1314
愛善世界社版:
169頁
八幡書店版:
第3輯 92頁
修補版:
校定版:
169頁
普及版:
72頁
初版:
ページ備考:
001
神
(
かみ
)
の
御稜威
(
みいづ
)
も
高照姫
(
たかてるひめ
)
の
002
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
常永
(
とことは
)
に
003
鎮
(
しづ
)
まりまして
木
(
こ
)
の
花
(
はな
)
の
004
姫
(
ひめ
)
の
命
(
みこと
)
の
御教
(
みをしへ
)
を
005
三十三
(
さんじふさん
)
相
(
さう
)
に
身
(
み
)
を
変
(
へん
)
じ
006
醜
(
しこ
)
の
窟
(
いはや
)
のそれよりも
007
玉
(
たま
)
の
礎
(
いしづゑ
)
弥堅
(
いやかた
)
く
008
築
(
きづ
)
き
固
(
かた
)
めて
暗
(
やみ
)
の
世
(
よ
)
の
009
神
(
かみ
)
の
経綸
(
しぐみ
)
の
宝庫
(
はうこ
)
を
010
拓
(
ひら
)
かむとする
時
(
とき
)
もあれ
011
八十
(
やそ
)
の
猛
(
たけ
)
びの
強
(
つよ
)
くして
012
道
(
みち
)
にさやりて
神言
(
かみごと
)
を
013
一言
(
ひとこと
)
さへも
磐船
(
いはふね
)
の
014
雲
(
くも
)
に
隠
(
かく
)
れて
今
(
いま
)
は
唯
(
ただ
)
015
布留野
(
ふるの
)
ケ
原
(
はら
)
の
深霧
(
ふかぎり
)
に
016
包
(
つつ
)
まれけるぞ
是非
(
ぜひ
)
なけれ
017
天空
(
てんくう
)
轟
(
とどろ
)
く
雷
(
いかづち
)
に
018
胸
(
むね
)
を
打
(
う
)
たれて
起上
(
おきあが
)
り
019
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
ればこは
如何
(
いか
)
に
020
荒野
(
あれの
)
をわたる
俄雨
(
にはかあめ
)
021
身
(
み
)
はびしよ
濡
(
ぬ
)
れの
釈迦
(
しやか
)
の
像
(
ざう
)
。
022
音彦
(
おとひこ
)
『オイ
亀公
(
かめこう
)
、
023
駒公
(
こまこう
)
、
024
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
迎
(
むか
)
へられ、
025
九天
(
きうてん
)
の
上
(
うへ
)
まで
上
(
のぼ
)
りつめて
居
(
を
)
つた
筈
(
はず
)
だのに、
026
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
又
(
また
)
もや
此
(
こ
)
の
茫々
(
ばうばう
)
たる
草原
(
さうげん
)
に
雨風
(
あめかぜ
)
に
曝
(
さら
)
され
眠
(
ねむ
)
つてゐたとは、
027
何
(
ど
)
う
考
(
かんが
)
へても
腑
(
ふ
)
に
落
(
おち
)
ぬぢやないか。
028
それにしても
鷹彦
(
たかひこ
)
、
029
岩彦
(
いはひこ
)
、
030
梅彦
(
うめひこ
)
は
如何
(
どう
)
なつただらう』
031
亀彦
(
かめひこ
)
『
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
が
自分
(
じぶん
)
に
判
(
わか
)
らない
吾々
(
われわれ
)
、
032
他人
(
ひと
)
の
事
(
こと
)
を
考
(
かんが
)
へる
余裕
(
よゆう
)
があるものか。
033
これや
何
(
ど
)
うしても
腹帯
(
はらおび
)
を
締
(
しめ
)
ねばなるまい』
034
駒彦
(
こまひこ
)
『
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
天
(
あま
)
の
鳥船
(
とりふね
)
から、
035
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
振
(
ふ
)
り
落
(
おと
)
されたのだ。
036
それにしても
余
(
あんま
)
り
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけの
)
神
(
かみ
)
も
莫迦
(
ばか
)
にして
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
037
此処
(
ここ
)
はタカオ
山脈
(
さんみやく
)
の
手前
(
てまへ
)
だ。
038
此
(
こ
)
の
下
(
した
)
辺
(
あた
)
りを
醜
(
しこ
)
の
巌窟
(
がんくつ
)
が
貫通
(
くわんつう
)
して
居
(
ゐ
)
るのぢやが、
039
斯
(
か
)
う
外
(
そと
)
へ
抛
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
されて
了
(
しま
)
つては、
040
最早
(
もはや
)
探険
(
たんけん
)
も
何
(
なに
)
もあつたものぢやない。
041
エー
仕方
(
しかた
)
がない、
042
西北
(
せいほく
)
指
(
さ
)
して
星
(
ほし
)
の
光
(
ひかり
)
を
目標
(
めあて
)
に
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
けば、
043
終
(
つひ
)
にはフサの
都
(
みやこ
)
に
着
(
つ
)
くであらう。
044
吾々
(
われわれ
)
も
此
(
こ
)
の
辺
(
あた
)
りは
幼少
(
ちいさ
)
い
時
(
とき
)
に
一度
(
いちど
)
通
(
とほ
)
つたことがあるのだから、
045
運
(
うん
)
を
天
(
てん
)
に
任
(
まか
)
して
徒歩
(
てく
)
ることにしようかい』
046
音彦
(
おとひこ
)
『タカオ
山脈
(
さんみやく
)
の
近
(
ちか
)
くになると
大変
(
たいへん
)
大
(
おほ
)
きな
蟇蛙
(
ひきがへる
)
が
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふことだ。
047
何
(
なん
)
だか
足
(
あし
)
も
草臥
(
くたび
)
れたし、
048
蛙
(
かへる
)
が
出居
(
でを
)
つたら
飛行機
(
ひかうき
)
の
代
(
かは
)
りに、
049
それにでも
乗
(
の
)
つてアーメニヤ
方面
(
はうめん
)
指
(
さ
)
して、
050
かへる
と
云
(
い
)
ふことにしようかな』
051
亀彦
(
かめひこ
)
『ヤー
大変
(
たいへん
)
だ。
052
音公
(
おとこう
)
、
053
駒公
(
こまこう
)
、
054
向方
(
むかう
)
を
見
(
み
)
よ、
055
夜目
(
よめ
)
に
確乎
(
しつかり
)
とはわからぬが、
056
何
(
なん
)
でも
沼
(
ぬま
)
か、
057
池
(
いけ
)
のやうなものがあつて
吾々
(
われわれ
)
の
進路
(
しんろ
)
を
拘塞
(
こうそく
)
してゐるやうに
見
(
み
)
ゆるぢやないか』
058
駒彦
(
こまひこ
)
『マア
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
まで
行進
(
かうしん
)
を
続
(
つづ
)
けるのだナア』
059
一行
(
いつかう
)
は
仄暗
(
ほのぐら
)
き
原野
(
げんや
)
を
足
(
あし
)
に
任
(
まか
)
せて、
060
西北
(
せいほく
)
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
061
音彦
(
おとひこ
)
『ヤー
妙
(
めう
)
な
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
がするぞ。
062
大方
(
おほかた
)
例
(
れい
)
の
先生
(
せんせい
)
が
出
(
で
)
たのだらう』
063
と
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
る
処
(
ところ
)
へ
牛
(
うし
)
のやうな
蟇蛙
(
ひきがへる
)
、
064
ノサリノサリと
這
(
は
)
ひ
出
(
い
)
で
一行
(
いつかう
)
の
前
(
まへ
)
に
塞
(
ふさ
)
がり、
065
斗箕
(
とみの
)
のやうな
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
けてパクついて
居
(
ゐ
)
る。
066
音彦
(
おとひこ
)
『ヨー
天道
(
てんだう
)
は
人
(
ひと
)
を
殺
(
ころ
)
さずぢや。
067
好
(
よ
)
い
乗物
(
のりもの
)
が
出来
(
でき
)
た。
068
鳥船
(
とりふね
)
から
蛙船
(
かへるぶね
)
に
乗
(
の
)
り
替
(
かへ
)
ると
云
(
い
)
ふ
洒落
(
しやれ
)
だ。
069
此
(
この
)
船
(
ふね
)
はモー
かへる
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
らない。
070
初
(
はじめ
)
から
かへる
だから』
071
亀彦
(
かめひこ
)
『この
魔
(
ま
)
の
原野
(
げんや
)
には
何
(
なに
)
が
化
(
ばけ
)
て
居
(
ゐ
)
るか
分
(
わか
)
つたものぢやない、
072
先
(
ま
)
づ
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
して
正体
(
しやうたい
)
を
現
(
あら
)
はし、
073
果
(
はた
)
して
真
(
しん
)
の
蛙
(
かへる
)
先生
(
せんせい
)
なれば
乗
(
の
)
つてもよからうが、
074
又
(
また
)
しても
蛙然
(
あぜん
)
とするやうなことが
無
(
な
)
いやうに
注意
(
ちうい
)
せねばいかないぞ』
075
音彦
(
おとひこ
)
『ナニ
構
(
かま
)
ふものか。
076
馬
(
うま
)
には
乗
(
の
)
つて
見
(
み
)
よ、
077
蛙
(
かへる
)
には
跨
(
またが
)
つて
見
(
み
)
いだ』
078
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
079
音公
(
おとこう
)
は
蛙
(
かへる
)
の
背
(
せな
)
にヒラリと
飛
(
と
)
び
乗
(
の
)
り、
080
音彦
(
おとひこ
)
『ヤア
大変
(
たいへん
)
乗心地
(
のりごこち
)
がよい。
081
亀
(
かめ
)
、
082
駒
(
こま
)
、
083
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
も
乗
(
の
)
つたら
何
(
ど
)
うだい』
084
亀、駒
『
吾々
(
われわれ
)
は
経験
(
けいけん
)
が
無
(
な
)
いから、
085
マア
暫
(
しば
)
らく
執行
(
しつかう
)
猶予
(
いうよ
)
をして
貰
(
もら
)
はうかい』
086
音彦
(
おとひこ
)
『
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
だな。
087
それでは
音
(
おと
)
サンが
御
(
お
)
先
(
さき
)
へ
失敬
(
しつけい
)
を
致
(
いた
)
しませう。
088
オイ
蛙
(
かはず
)
先生
(
せんせい
)
。
089
音彦
(
おとひこ
)
だというても、
090
おと
しちやいかぬよ。
091
おと
さぬやうにして
大切
(
たいせつ
)
に
のたくる
のだ。
092
蛙
(
かはず
)
の
行列
(
ぎやうれつ
)
向
(
むか
)
ふ
見
(
み
)
ずと
云
(
い
)
ふことがあるから、
093
充分
(
じうぶん
)
注意
(
ちうい
)
して
行
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れ
給
(
たま
)
へ。
094
賃銭
(
ちんせん
)
は
又
(
また
)
追加
(
つゐか
)
をするから』
095
大蛙
(
おほがへる
)
『ハイハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
096
吾々
(
われわれ
)
の
背中
(
せなか
)
に
乗
(
の
)
つて
居
(
を
)
れば、
097
坐
(
ゐ
)
ながらにして
故郷
(
ふるさと
)
へ
かへる
だ。
098
のんこ
の
洒蛙
(
しやあー
)
つく
洒蛙
(
しやあー
)
々々
(
しやあー
)
然
(
ぜん
)
と
鼻唄
(
はなうた
)
でも
歌
(
うた
)
つて
此
(
この
)
行
(
かう
)
を
賑
(
にぎは
)
して
下
(
くだ
)
さい。
099
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけの
)
命
(
みこと
)
には
捨
(
す
)
てられても、
100
亦
(
また
)
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
救
(
たす
)
ける
神
(
かみ
)
が
現
(
あら
)
はれるものだ。
101
捨
(
す
)
てる
神
(
かみ
)
もあれば
拾
(
ひろ
)
ふ
蛙
(
かへる
)
もあるアハヽヽヽ』
102
と
蛙
(
かへる
)
は
口
(
くち
)
から
欠伸
(
あくび
)
と
共
(
とも
)
に、
103
ノサリノサリと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
104
亀彦
(
かめひこ
)
『ヤア、
105
音公
(
おとこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
106
うまいことをしよつた。
107
オイオイ
蛙
(
かはず
)
サン。
108
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つた
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つた。
109
音公
(
おとこう
)
ばつかり
先
(
さき
)
へ
往
(
い
)
つたところで、
110
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
が
随
(
つ
)
いて
往
(
ゆ
)
かねば、
111
ナンニもなりはしない。
112
乗
(
の
)
せるのが
嫌
(
いや
)
ならモツト
徐々
(
そろそろ
)
歩
(
ある
)
いて
呉
(
く
)
れないか』
113
大蛙
(
おほがへる
)
『この
先
(
さき
)
には
大変
(
たいへん
)
な
広
(
ひろ
)
い
古池
(
ふるいけ
)
がございます。
114
其処
(
そこ
)
を
渡
(
わた
)
つてから、
115
あなた
方
(
がた
)
を
乗
(
の
)
せて
上
(
あ
)
げませうかい』
116
駒彦
(
こまひこ
)
『ヤーその
池
(
いけ
)
を
渡
(
わた
)
るために
蛙
(
かへる
)
の
行列
(
ぎやうれつ
)
向
(
むか
)
ふ
見
(
み
)
ずだから、
117
みづ
の
上
(
うへ
)
を
船
(
ふね
)
の
代
(
かは
)
りになつて
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いのだ』
118
音彦
(
おとひこ
)
『
亀
(
かめ
)
は
池
(
いけ
)
の
中
(
なか
)
が
得意
(
とくい
)
だらう。
119
駒公
(
こまこう
)
も
水馬
(
すゐば
)
と
云
(
い
)
つて
水
(
みづ
)
の
中
(
なか
)
は
上手
(
じやうず
)
に
違
(
ちが
)
ひ
無
(
な
)
い。
120
水
(
みづ
)
の
中
(
なか
)
に
困
(
こま
)
るのは
音
(
おと
)
サンばかりだ。
121
古池
(
ふるいけ
)
や
蛙
(
かはず
)
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
む
水
(
みづ
)
の
音
(
おと
)
サンといふことを、
122
知
(
し
)
つてゐるかい』
123
亀彦
(
かめひこ
)
『アハヽヽヽ、
124
うまいことを
云
(
い
)
ひよる、
125
ナア
駒公
(
こまこう
)
、
126
屹度
(
きつと
)
彼奴
(
あいつ
)
は
失策
(
しくじ
)
つて
巌窟
(
がんくつ
)
の
中
(
なか
)
の
亀
(
かめ
)
サンのやうな
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はねばよいがな』
127
蛙
(
かはず
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
そく
を
出
(
だ
)
して
一足飛
(
いつそくと
)
びにホイホイと
跳
(
と
)
び
始
(
はじ
)
めた。
128
忽
(
たちま
)
ちドブンと
水煙
(
みづけむり
)
が
立
(
た
)
つた。
129
亀彦
(
かめひこ
)
『ヤア
蟇蛙
(
ひきがへる
)
の
奴
(
やつ
)
、
130
到頭
(
たうとう
)
闇
(
くらやみ
)
の
池
(
いけ
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
ひよつた。
131
思
(
おも
)
つたよりは
深
(
ふか
)
い
池
(
いけ
)
だ。
132
此
(
この
)
池
(
いけ
)
の
周囲
(
まはり
)
は
草
(
くさ
)
ばつかりかと
思
(
おも
)
へば、
133
断巌
(
だんがん
)
絶壁
(
ぜつぺき
)
で
囲
(
かこ
)
まれてゐる。
134
音公
(
おとこう
)
の
奴
(
やつ
)
蛙
(
かはず
)
と
共
(
とも
)
に
沈没
(
ちんぼつ
)
し
居
(
を
)
つたな』
135
駒彦
(
こまひこ
)
『オーイオーイ、
136
音公
(
おとこう
)
ヤーイ』
137
亀彦
(
かめひこ
)
『オイ
音公
(
おとこう
)
、
138
未
(
ま
)
だ
池
(
いけ
)
の
底
(
そこ
)
に
沈澱
(
ちんでん
)
するのは
早
(
はや
)
いぞ』
139
蛙
(
かはず
)
は
音公
(
おとこう
)
を
乗
(
の
)
せたまま
水面
(
すゐめん
)
にポカリと
浮
(
う
)
き
上
(
あが
)
つた。
140
亀彦
(
かめひこ
)
『ヤー
音公
(
おとこう
)
、
141
醜態
(
ざま
)
を
見
(
み
)
やがれ。
142
それだから
蛙
(
かはず
)
の
行列
(
ぎやうれつ
)
向
(
むか
)
ふ
見
(
み
)
ずと
云
(
い
)
ふのだ。
143
モー
斯
(
か
)
うなつては
高処
(
たかみ
)
から
見物
(
けんぶつ
)
だ』
144
音彦
(
おとひこ
)
『
危急
(
ききふ
)
存亡
(
そんばう
)
一命
(
いちめい
)
にもかかはる
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
に、
145
何
(
なに
)
を
安閑
(
あんかん
)
として
居
(
を
)
るのか、
146
早
(
はや
)
くデレツクでも
用意
(
ようい
)
して
音
(
おと
)
サン
蛙
(
かへる
)
サンを
釣
(
つ
)
り
上
(
あ
)
げぬかい』
147
駒彦
(
こまひこ
)
『デレツクとは
何
(
なん
)
だい。
148
グレンのことだらう。
149
此処
(
ここ
)
は
陸上
(
りくじやう
)
だぞ。
150
陸上
(
りくじやう
)
で
釣
(
つ
)
れるのはグレンだ。
151
グレンと
音
(
おと
)
立
(
た
)
てて
ひつくりかへる
の
此
(
こ
)
の
憐
(
あは
)
れさ。
152
眼
(
め
)
なつとグレングレンと
剥
(
む
)
いて
居
(
を
)
れ。
153
さうすれば
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか、
154
よい
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
くだらう』
155
音彦
(
おとひこ
)
『ソンナ
議論
(
ぎろん
)
は
如何
(
どう
)
でも
好
(
よ
)
い。
156
デレツクであらうが、
157
グレンであらうが
問
(
と
)
ふ
所
(
ところ
)
に
非
(
あら
)
ずだ。
158
貴様
(
きさま
)
もよつぽど
融通
(
ゆうづう
)
の
利
(
き
)
かぬ
奴
(
やつ
)
だ』
159
亀彦
(
かめひこ
)
『
所
(
ところ
)
変
(
かは
)
れば
品
(
しな
)
代
(
かは
)
る、
160
御
(
お
)
家
(
いへ
)
変
(
かは
)
れば
風
(
ふう
)
代
(
かは
)
る、
161
嬶
(
かか
)
ア
代
(
かは
)
れば
顔
(
かほ
)
変
(
かは
)
る。
162
浪速
(
なには
)
の
葦
(
あし
)
も
伊勢
(
いせ
)
の
浜荻
(
はまをぎ
)
、
163
貴様
(
きさま
)
のやうに
八釜敷
(
やかましう
)
囀
(
さへづ
)
る
百千鳥
(
ももちどり
)
も
都
(
みやこ
)
へ
行
(
ゆ
)
けば
粋
(
すゐ
)
に
代
(
かは
)
つて
都鳥
(
みやこどり
)
。
164
マア
悠々
(
ゆつくり
)
と
蛙
(
かはず
)
の
背
(
せ
)
で
遊山
(
ゆさん
)
でもしたらよからう。
165
吾々
(
われわれ
)
もこれからお
前
(
まへ
)
の
沈澱
(
ちんでん
)
するまで、
166
悠々
(
いういう
)
と
休息
(
きうそく
)
でもして、
167
それから
起重機
(
きぢゆうき
)
を
措置
(
そち
)
して
救
(
たす
)
けてやると
好
(
い
)
いけれど、
168
生憎
(
あひにく
)
便利
(
べんり
)
が
悪
(
わる
)
くつて
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い。
169
マアマア
蛙
(
かへる
)
と
共
(
とも
)
にグレンとやるのぢやな』
170
大蛙
(
おほがへる
)
『モシモシ
亀
(
かめ
)
よ、
171
亀
(
かめ
)
サンよ。
172
駒
(
こま
)
よ、
173
駒
(
こま
)
サンよ。
174
くだらぬ
喧嘩
(
けんくわ
)
を
買
(
か
)
はずと
大人
(
おとな
)
しく、
175
友達
(
ともだち
)
甲斐
(
がひ
)
に
救
(
たす
)
けて
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さいや』
176
亀彦
(
かめひこ
)
『サテモ
気楽
(
きらく
)
な
奴
(
やつ
)
だナア。
177
奈落
(
ならく
)
の
底
(
そこ
)
へ
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んで
踊
(
をど
)
つて
居
(
ゐ
)
る
奴
(
やつ
)
があるものかい。
178
音公
(
おとこう
)
貴様
(
きさま
)
も
今迄
(
いままで
)
の
罪悪
(
ざいあく
)
の
決算期
(
けつさんき
)
が
来
(
き
)
たのだ。
179
何事
(
なにごと
)
も
因縁
(
いんねん
)
づくぢやと
諦
(
あきら
)
めたがよからう。
180
此
(
こ
)
の
辛
(
つら
)
い
時節
(
じせつ
)
に
やすい
賃銀
(
ちんぎん
)
で
誰
(
たれ
)
が
就業
(
しうげふ
)
するものがあるか。
181
先
(
ま
)
づ
労働
(
らうどう
)
争議
(
さうぎ
)
の
解決
(
かいけつ
)
がつく
迄
(
まで
)
、
182
ゆつくりと
待
(
ま
)
つてゐるがよからう』
183
音彦
(
おとひこ
)
『オイオイ
蛙公
(
かはずこう
)
、
184
モーアンナ
奴
(
やつ
)
に
相手
(
あひて
)
になつたところが、
185
解決
(
かいけつ
)
のつく
筈
(
はず
)
はない。
186
上
(
うへ
)
に
立
(
た
)
つて
居
(
を
)
る
奴
(
やつ
)
と
池
(
いけ
)
の
底
(
そこ
)
へ
落
(
おち
)
て
苦
(
くる
)
しんで
居
(
を
)
る
人間
(
にんげん
)
とだから、
187
到底
(
たうてい
)
上
(
うへ
)
の
奴
(
やつ
)
は
彼
(
あ
)
の
通
(
とほ
)
り
乱暴
(
らんばう
)
だから、
188
百姓
(
ひやくしやう
)
の
蛙切
(
かはずき
)
りぢやないが、
189
蛙
(
かはず
)
と
音
(
おと
)
サンとが
悠然
(
ゆつくり
)
協議
(
けふぎ
)
を
開
(
ひら
)
いて、
190
労働
(
らうどう
)
同盟
(
どうめい
)
でもやつて
自
(
みづか
)
ら
活路
(
くわつろ
)
を
求
(
もと
)
めるより
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いわ、
191
亀
(
かめ
)
、
192
駒
(
こま
)
、
193
大
(
おほ
)
きに
憚
(
はばか
)
りさまだ。
194
モー
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
の
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
にはならぬ。
195
自由
(
じいう
)
行動
(
かうどう
)
を
執
(
と
)
るから、
196
さう
思
(
おも
)
へ』
197
亀
(
かめ
)
、
198
駒
(
こま
)
『アハヽヽヽ、
199
強
(
つよ
)
い
者
(
もの
)
勝
(
がち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ、
200
上
(
うへ
)
から
下
(
した
)
へ
落
(
お
)
ちるのは
一足跳
(
いつそくと
)
びに
容易
(
ようい
)
だが
下
(
した
)
から
上
(
うへ
)
に
上
(
あが
)
るのは
大変
(
たいへん
)
だぞ。
201
上
(
あが
)
れるなら
自由
(
じいう
)
に
上
(
あが
)
つて
見
(
み
)
よ』
202
大蛙
(
おほがへる
)
『
美事
(
みごと
)
上
(
あが
)
つて
見
(
み
)
せう。
203
アフンとするな』
204
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
広
(
ひろ
)
き
水面
(
すゐめん
)
を
浮游
(
ふいう
)
し、
205
ある
上陸
(
じやうりく
)
地点
(
ちてん
)
を
求
(
もと
)
めてガサガサと
無事
(
ぶじ
)
に
這
(
は
)
ひ
上
(
あが
)
つた。
206
亀彦
(
かめひこ
)
『ヤー
音
(
おと
)
の
奴
(
やつ
)
、
207
到頭
(
たうとう
)
無事
(
ぶじ
)
着陸
(
ちやくりく
)
しよつた。
208
オイ
駒
(
こま
)
サン、
209
吾々
(
われわれ
)
は
何
(
ど
)
うして
此
(
この
)
古池
(
ふるいけ
)
を
渡
(
わた
)
つたらよからうな』
210
駒彦
(
こまひこ
)
『アーさうだつたな。
211
渡
(
わた
)
るには
恐
(
こは
)
し、
212
渡
(
わた
)
らねば
女房
(
にようばう
)
の
国
(
くに
)
へは
帰
(
かへ
)
れないといふ
場面
(
ばめん
)
だ。
213
オイ
音
(
おと
)
サン、
214
迎
(
むか
)
ひに
来
(
きた
)
り
迎
(
むか
)
ひに
来
(
きた
)
り』
215
音
(
おと
)
は
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
き、
216
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
217
音彦
『アカと
云
(
い
)
へ、
218
アカと
云
(
い
)
つたら
迎
(
むか
)
ひに
往
(
い
)
つてやる』
219
亀彦
(
かめひこ
)
『エー
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い。
220
莫迦
(
ばか
)
にしよる。
221
これだからアカの
他人
(
たにん
)
は
水臭
(
みづくさ
)
いと
云
(
い
)
ふのだ。
222
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い。
223
背
(
せ
)
に
腹
(
はら
)
は
換
(
か
)
へられぬ。
224
言
(
い
)
はうかい』
225
駒彦
(
こまひこ
)
『アカ』
226
亀彦
(
かめひこ
)
『アカ』
227
音彦
(
おとひこ
)
(
両手
(
りやうて
)
の
指
(
ゆび
)
で
臉
(
まぶた
)
を
押
(
おさ
)
へ
乍
(
なが
)
ら)『ベー』
228
駒彦
(
こまひこ
)
『
大方
(
おほかた
)
コンナことだと
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
つた。
229
アカの
言
(
い
)
ひ
損
(
ぞん
)
をしたワイ。
230
これがアカの
別
(
わか
)
れと
云
(
い
)
ふのだ。
231
モー
仕方
(
しかた
)
がない、
232
予定
(
よてい
)
の
退却
(
たいきやく
)
だ』
233
音彦
(
おとひこ
)
『オイオイ
貴様
(
きさま
)
早
(
はや
)
く
来
(
こ
)
んかい。
234
ソンナ
処
(
ところ
)
に
何時
(
いつ
)
まで
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
してゐるのだ』
235
駒彦
(
こまひこ
)
『ヤーナアンだ。
236
坦々
(
たんたん
)
たる
大道
(
だいだう
)
が
通
(
つう
)
じてゐるぢやないか』
237
亀彦
(
かめひこ
)
『ヤー
布留野
(
ふるの
)
ケ
原
(
はら
)
のコンコンさまだな。
238
アハヽヽヽ』
239
(
大正一一・三・二〇
旧二・二二
外山豊二
録)
240
(昭和一〇・三・二八 於吉野丸船室 王仁校正)
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