霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 妻(つま)の選挙(せんきよ)〔八七三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻 篇:第2篇 紅裙隊 よみ(新仮名遣い):こうくんたい
章:第7章 妻の選挙 よみ(新仮名遣い):つまのせんきょ 通し章番号:873
口述日:1922(大正11)年08月18日(旧06月26日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-03-13 20:01:01 文字数:5934 OBC :rm3107
愛善世界社版:73頁 八幡書店版:第6輯 68頁 修補版: 校定版:75頁 普及版:33頁 初版: ページ備考:
001ヒルの館(やかた)にゆくりなく
002現(あら)はれ来(きた)りて諸人(もろびと)を
003救(すく)ひ助(たす)けし国依別(くによりわけ)は
004楓別(かへでのわけの)の懇篤(こんとく)なる
005特別(とくべつ)待遇(たいぐう)に思(おも)はずも
006あらぬ月日(つきひ)を送(おく)りつつ
007醜(しこ)の魔風(まかぜ)に襲(おそ)はれて
008紅井姫(くれなゐひめ)の執拗(しつえう)なる
009恋(こひ)の情(なさけ)の手(て)に囚(とら)へられ
010進退(しんたい)ここに谷(きは)まりて
011苦(くるし)み悶(もだ)ゆる折柄(をりから)に
012アラシカ山(やま)の麓(ふもと)なる
013エリナの尋(たづ)ね来(きた)りしゆ
014ヤツサモツサの騒動(さうだう)も
015漸(やうや)く幕(まく)を切上(きりあ)げて
016紅井姫(くれなゐひめ)やエリナをば
017教(をしへ)の道(みち)の弟子(でし)となし
018館(やかた)の主(あるじ)に慇懃(いんぎん)に
019暇(いとま)を告(つ)げて宣伝歌(せんでんか)
020歌(うた)ひて此処(ここ)を立出(たちい)づる
021一男(いちなん)二女(にぢよ)の一行(いつかう)は
022ヒルの都(みやこ)の人々(ひとびと)に
023行手(ゆくて)を塞(ふさ)がれ一々(いちいち)に
024病(や)めるを癒(い)やし助(たす)けつつ
025知(し)らず知(し)らずに日(ひ)を重(かさ)ね
026ヒルの都(みやこ)を後(あと)にして
027アラシカ峠(たうげ)の山麓(さんろく)に
028心(こころ)欣々(いそいそ)着(つ)きにける。
029国依別『サア姫(ひめ)様(さま)、030あなたは始(はじ)めての御(ご)旅行(りよかう)と云(い)ひ、031是(これ)から先(さき)は大変(たいへん)な急坂(きふはん)で御座(ござ)いますから、032ボツボツとお登(のぼ)り下(くだ)さいませ。033国依別(くによりわけ)もお附合(つきあひ)にゆるゆる登(のぼ)りませう。034男(をとこ)の足(あし)が先(さき)へ行(ゆ)くと、035知(し)らず知(し)らずに早(はや)くなるものですから、036ここは最(もつと)も足(あし)の弱(よわ)い貴女(あなた)が先(さき)へお登(のぼ)り下(くだ)さいませ』
037紅井姫『足弱(あしよわ)を御(お)連(つ)れ下(くだ)さいまして、038さぞ御(ご)迷惑(めいわく)で御座(ござ)いませう。039あなたの御(お)言葉(ことば)に甘(あま)え、040駄々(だだ)を捏(こ)ねる女(をんな)と御(お)さげすみで御座(ござ)いませうが、041私(わたし)も斯(こ)うなつた以上(いじやう)は、042決(けつ)して妙(めう)な考(かんが)へは起(おこ)しませぬから、043御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
044国依別『此(この)坂(さか)をズツと登(のぼ)りつめると、045樟(くす)の大木(たいぼく)の森(もり)があつて、046そこには常世(とこよ)神王(しんわう)の古(ふる)ぼけた祠(ほこら)が建(た)つてゐます。047どうかそこ迄(まで)登(のぼ)つて休息(きうそく)をする事(こと)に致(いた)しませう』
048 エリナは言葉(ことば)やさしく、
049エリナ『姫(ひめ)様(さま)、050随分(ずいぶん)険(けは)しい坂道(さかみち)で御座(ござ)いますが、051私(わたし)は何時(いつ)もここを通(とほ)り慣(な)れて居(を)りますから、052左程(さほど)苦痛(くつう)には存(ぞん)じませぬ。053坂(さか)でさぞ御(お)困(こま)りでせう。054後(あと)からお腰(こし)を押(お)してあげますから、055後(うしろ)へもたれる様(やう)にして御(お)登(のぼ)りなされませ』
056紅井姫『ハイ、057御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う御座(ござ)います。058今(いま)の処(ところ)ではどうなり登(のぼ)れ相(さう)に御座(ござ)いますから、059到底(たうてい)叶(かな)はない様(やう)になりましたら、060どうぞ御(お)世話(せわ)をお願(ねが)ひ申(まを)します』
061 エリナは気軽相(きがるさう)に、
062エリナ『ハイ、063何時(いつ)でも押(お)して上(あ)げます。064キツと御(ご)心配(しんぱい)なさいますなや』
065と路々(みちみち)いたはり乍(なが)ら登(のぼ)り行(ゆ)く。
066 話(はなし)変(かは)つて、067常世(とこよ)神王(しんわう)の祠(ほこら)の建(た)つた樟(くす)の大木(たいぼく)の根(ね)に、068ヒソヒソ話(ばなし)に耽(ふけ)つてゐる二人(ふたり)の男(をとこ)あり。
069甲(秋山別)『オイ、070モリス、071馬鹿(ばか)にしよつたぢやないか。072今(いま)となればお前(まへ)も俺(おれ)も、073同病(どうびやう)相憐(あひあは)れむ連中(れんちう)だから、074別(べつ)に内訌(ないこう)の起(おこ)る筈(はず)もなし、075暗中(あんちう)飛躍(ひやく)を試(こころ)みる必要(ひつえう)もなくなつたのだから、076どうかして無念(むねん)晴(ば)らしに、077二人(ふたり)の奴(やつ)を此方(こつち)の者(もの)にしてやらうぢやないか。078アタ阿呆(あほ)らしい、079国依別(くによりわけ)の奴(やつ)が来(き)よつた計(ばか)りで、080俺(おれ)達(たち)二人(ふたり)は免(めん)の字(じ)を頂戴(ちやうだい)し、081今(いま)は殆(ほとん)ど野良犬(のらいぬ)の境遇(きやうぐう)だ。082犬(いぬ)も歩(ある)けば棒(ぼう)に当(あた)るといふ事(こと)がある。083一(ひと)つ雪隠(せつちん)の火事(くわじ)ぢやないが焼糞(やけくそ)で、084ウラル教(けう)の本山(ほんざん)へでも、085甘(うま)く這入(はい)り込(こ)み使(つか)つて貰(もら)はふぢやないか』
086モリス『さうだ、087貴様(きさま)も恋(こひ)の仇敵(かたき)の国依別(くによりわけ)に肝腎(かんじん)の目的物(もくてきぶつ)をぼつたくられ、088国依別(くによりわけ)の奴(やつ)、089二人(ふたり)の女(をんな)を両手(りやうて)に花(はな)と云(い)ふやうな調子(てうし)で、090大(おほ)きな面(つら)をして連(つ)れ出(だ)しよつた時(とき)のムカついた事(こと)、091是(これ)が何(ど)うして睾丸(きんたま)をさげとる男子(だんし)として、092看過(かんくわ)する事(こと)が出来(でき)ようかい。093彼奴(きやつ)等(ら)三(さん)人(にん)は道々(みちみち)宣伝(せんでん)し乍(なが)らやつて来(く)るのだから、094何(いづ)れ暇(ひま)が要(い)るに違(ちがひ)ない。095併(しか)し此処(ここ)へやつて来(き)よつた位(くらゐ)なら、096此(この)谷底(たにそこ)へ国依別(くによりわけ)を矢庭(やには)につき落(おと)し、097二人(ふたり)の女(をんな)を自由(じいう)自在(じざい)に此(この)方(はう)の要求(えうきう)に応(おう)じさせ、098天下(てんか)の色男(いろをとこ)は此(この)通(とほ)りだと云(い)つて、099あンな絶世(ぜつせい)のナイスやシヤンと手(て)を引(ひ)いて、100天下(てんか)の大道(だいだう)を濶歩(くわつぽ)したら、101どうだ。102さうなりとせなくては、103腹(はら)の虫(むし)が得心(とくしん)せぬぢやないか。104併(しか)し後(あと)の喧嘩(けんくわ)を先(さき)にせいと云(い)ふ事(こと)がある、105甘(うま)く目的(もくてき)を達(たつ)した上(うへ)で、106自分(じぶん)の女房(にようばう)に選定(せんてい)する段(だん)になつてから、107選挙(せんきよ)競争(きやうそう)でも起(おこ)ると大変(たいへん)だから、108今(いま)の中(うち)に予選(よせん)でもやつて置(お)かうぢやないか』
109秋山別『予選(よせん)なンか俺(おれ)はヨセンわい、110俺(おれ)は紅井姫(くれなゐひめ)を女房(にようばう)にする特権(とくけん)が先天(せんてん)的(てき)に具備(ぐび)してるのだ。111貴様(きさま)はエリナを女房(にようばう)にすれば良(い)いよ。112彼奴(あいつ)だつて満更(まんざら)捨(す)てたものぢやないからなア。113チツとばかし日(ひ)に焼(や)けとると云(い)ふが、114欠点(けつてん)位(くらゐ)なものだ。115中々(なかなか)スタイルには甲乙(かふおつ)はないからのう、116モリス』
117モリス『そんならお前(まへ)がエリナのレコになつたら良(い)いぢやないか。118俺(おれ)はどこ迄(まで)も初心(しよしん)を貫徹(くわんてつ)せなくてはならないのだ。119紅井姫(くれなゐひめ)を女房(にようばう)にせうと思(おも)つて、120どれ丈(だけ)今迄(いままで)骨(ほね)を折(を)つたか知(し)れやしない。121永(なが)らくの苦心(くしん)を水泡(すゐほう)に帰(き)するのは、122男子(だんし)として忍(しの)ぶ可(べか)らざる恥辱(ちじよく)だからなア、123秋公(あきこう)』
124秋山別『俺(おれ)だつて貴様(きさま)以上(いじやう)に骨(ほね)を折(お)つたのだよ。125そんなお添物(そへもの)のエリナを鼻塞(はなふさ)ぎか何(な)ンぞの様(やう)に差向(さしむ)けられてたまるものかい。126貴様(きさま)のスタイルにエリナの方(はう)が能(よ)く合(あ)つてゐるワ。127烏(からす)の夫(をつと)に孔雀(くじやく)の女房(にようばう)とは、128チツと無理(むり)だよ。129孔雀(くじやく)は孔雀(くじやく)同志(どうし)夫婦(ふうふ)になり、130烏(からす)は烏(からす)同志(どうし)夫婦(ふうふ)になれば、131それこそ家庭(かてい)円満(ゑんまん)福徳(ふくとく)成就(じやうじゆ)疑(うたが)ひなしだ。132孔雀(くじやく)の俺(おれ)は孔雀(くじやく)の女房(にようばう)を持(も)つて、133孔雀(くじやく)(不惜(ふじやく))身命(しんめい)的(てき)神界(しんかい)の為(ため)活動(くわつどう)をするなり、134お前(まへ)はモリスだから、135森(もり)に巣(す)を作(つく)るのは烏(からす)にきまつてゐる。136烏(からす)の女房(にようばう)を持(も)つて、137オイオイ カカア嬶村屋(かかむらや)、138腰(こし)もめ肩(かた)打(う)て、139カアカアと気楽相(きらくさう)に簡易(かんい)生活(せいくわつ)をやるのも一寸(ちよつと)乙(おつ)だぜ。
140 楽(たのし)さは夕顔棚(ゆふがほだな)の下涼(したすず)み
141とか云(い)つて、142平民(へいみん)生活(せいくわつ)が最(もつと)も理想(りさう)的(てき)だ。143提灯(ちやうちん)に釣鐘(つりがね)、144釣合(つりあ)はぬやうな女房(にようばう)を持(も)つたつて、145苦(くる)しい計(ばつか)りだよ。146第一(だいいち)教育(けういく)の程度(ていど)と云(い)ひ、147智識(ちしき)と云(い)ひ、148家柄(いへがら)と云(い)ひ、149雲泥(うんでい)の懸隔(けんかく)ある女房(にようばう)を持(も)たうとするのが第一(だいいち)謬(あやま)つた了見(れうけん)だ。150さうでなくても、151男女(だんぢよ)同権(どうけん)だとか、152女権(ぢよけん)拡張(くわくちやう)だとか、153新(あたら)しい女(をんな)の騒(さわ)ぐ世(よ)の中(なか)だから、154釣合(つりあ)うた女(をんな)を持(も)つが貴様(きさま)の将来(しやうらい)の為(ため)だよ。155俺(おれ)は親密(しんみつ)な友人(いうじん)として、156貴様(きさま)の将来(しやうらい)の為(ため)に、157熱涙(ねつるい)を呑(の)むで忠告(ちうこく)するのだよ、158モリ公(こう)』
159モリス『ヘン、160甘(うま)い事(こと)仰有(おつしや)りますワイ。161其(その)手(て)は桑名(くはな)の焼蛤(やきはまぐり)だ。162蛤(はまぐり)からでも蜃気楼(しんきろう)が立上(たちあが)りますよ。163お前(まへ)こそ蜃気楼(しんきろう)的(てき)空想(くうさう)を画(えが)いて、164あンな高尚(かうしやう)な御(お)姫(ひめ)さまを自分(じぶん)の女房(にようばう)にせうなンて、165余(あま)り懸隔(けんかく)が取(と)れなさ過(す)ぎるぢやないか。166チツとお前(まへ)のサツクと相談(さうだん)して見(み)い』
167秋山別『コリヤ俺(おれ)を何(なん)と心得(こころえ)てゐる。168俺(おれ)は秋山別(あきやまわけ)と云(い)つて天孫(てんそん)人種(じんしゆ)だぞ。169貴様(きさま)は土人(どじん)ぢやないか。170チツと身分(みぶん)を考(かんが)へて見(み)い』
171モリス『人種(じんしゆ)無差別(むさべつ)論(ろん)の高潮(かうてう)した今日(こんにち)、172時代(じだい)遅(おく)れな事(こと)を言(い)ふない。173そンなことで、174世界(せかい)同胞(どうはう)主義(しゆぎ)が何時迄(いつまで)も成就(じやうじゆ)すると思(おも)ふか。175是(これ)だけ社会(しやくわい)は人種(じんしゆ)無差別(むさべつ)論(ろん)の盛(さかん)なのを貴様(きさま)は知(し)らぬのか。176どこ迄(まで)も昔(むかし)の家閥(かばつ)を振(ふ)りまはし、177貴族面(きぞくづら)をしやがつて威張(ゐば)つたつて、178昔(むかし)なら通用(つうよう)するか知(し)らぬが、179文明(ぶんめい)開化(かいくわ)の今日(こんにち)は、180そンな古(ふる)い頭(あたま)は買手(かひて)がないぞ。181文化(ぶんくわ)生活(せいくわつ)と云(い)ふ事(こと)を貴様(きさま)は何(なん)と心得(こころえ)とるかい、182秋公(あきこう)』
183秋山別『ヘン、184文化(ぶんくわ)生活(せいくわつ)が聞(き)いて呆(あき)れるワイ。185今(いま)の奴(やつ)の吐(ぬか)す文化(ぶんくわ)生活(せいくわつ)と云(い)ふのは、186人(ひと)の女房(にようばう)と手(て)を取(と)り、187キツスをして妙(めう)なダンスをやつたり、188仕舞(しまひ)の果(はて)にや役者(やくしや)の部屋(へや)へ女房(にようばう)がへたり込(こ)ンだり、189お転婆(てんば)主義(しゆぎ)を発揮(はつき)したり、190爺(おやぢ)はおやぢで良(よ)い気(き)になり、191うちの女王(ぢよわう)さまは余程(よほど)新(あたら)しいと云(い)つて喜(よろこ)ンでる風俗(ふうぞく)壊乱(くわいらん)生活(せいくわつ)を云(い)ふのだらう。192そンな事(こと)で如何(どう)して社会(しやくわい)の秩序(ちつじよ)が保(たも)たれるか。193モリス、194貴様(きさま)の思想(しさう)は余程(よほど)怪(あや)しいものだなア』
195モリス『そんなこたア、196如何(どう)でもよいワ。197サアサア、198女房(にようばう)の選挙(せんきよ)だ。199早(はや)くやらうぢやないか。200貴重(きちよう)な一票(いつぺう)を何卒(なにとぞ)入(い)れて下(くだ)さいと云(い)つて、201戸別(こべつ)訪問(はうもん)をする訳(わけ)にも行(ゆ)かず、202被(ひ)選挙人(せんきよにん)が二人(ふたり)選挙人(せんきよにん)が二人(ふたり)だから、203自由(じいう)選挙(せんきよ)にしたらどうだ』
204秋山別『そンなら俺(おれ)は紅井姫(くれなゐひめ)を秋山別(あきやまわけ)の妻(つま)に選挙(せんきよ)する』
205モリス『俺(おれ)は紅井姫(くれなゐひめ)をモリスの奥(おく)さまに選挙(せんきよ)する、206又(また)俺(おれ)の副(ふく)守護神(しゆごじん)も同様(どうやう)、207モリスの妻(つま)に紅井姫(くれなゐひめ)を選挙(せんきよ)する、208モウ一票(いつぺう)は本(ほん)守護神(しゆごじん)も同様(どうやう)だ。209サア三票(さんぺう)と一票(いつぺう)だ。210お気(き)の毒(どく)乍(なが)ら、211当選(たうせん)の栄(えい)を得(え)まして有難(ありがた)う御座(ござ)います。212あなたは運動(うんどう)が足(た)らないから、213とうとう次点者(じてんしや)になりましたねい。214どうで秋山別(あきやまわけ)だから、215先方(せんぱう)がアキが来(き)ました、216イヤマア、217別(わか)れて下(くだ)さい秋山別(あきやまわけ)さま……なンとか云(い)つて、218秋波(しうは)を送(おく)つて紅井姫(くれなゐひめ)だ。219アハヽヽヽ』
220 秋山別(あきやまわけ)は腹(はら)を立(た)て『ナアニ』と言(い)ひ乍(なが)ら、221モリスの横(よこ)つ面(つら)を鬼(おに)の蕨(わらび)をふり上(あ)げて、222首(くび)も飛(と)べよと計(ばか)り擲(なぐ)りつくれば、223モリスは、
224モリス『ナアに喧嘩(けんくわ)か、225喧嘩(けんくわ)なら俺(おれ)も負(まけ)はせぬぞ』
226と鉄拳(てつけん)をふつて飛(と)びかかり、227遂(つひ)には組(く)ンづ組(く)まれつ、228一生(いつしやう)懸命(けんめい)格闘(かくとう)を始(はじ)め、229夕暮(ゆふぐ)れの帳(とばり)のさがる迄(まで)力(ちから)一杯(いつぱい)血(ち)みどろになつて掴(つか)み合(あ)ひ居(ゐ)る。230その所(ところ)へ悠々(いういう)として一男(いちなん)二女(にぢよ)は登(のぼ)り来(き)たり、
231国依別『アヽ、232此処(ここ)が印象(いんしやう)の深(ふか)い常世(とこよ)神王(しんわう)の祀(まつ)られた楠(くす)の森(もり)の祠(ほこら)だ。233大分(だいぶ)に皆(みな)さま足(あし)も疲労(くたびれ)たでせう。234一(ひと)つ立寄(たちよ)つて休息(きうそく)せうぢやありませぬか。235都合(つがふ)に依(よ)れば、236此(この)森(もり)で一夜(いちや)を明(あ)かし、237新(あたら)しい日輪(にちりん)様(さま)の光(ひか)りを浴(あ)びて日暮(ひぐら)シ山(やま)に立向(たちむか)ふことに致(いた)しませうよ』
238と言(い)ひ乍(なが)ら国依別(くによりわけ)は先(さき)に立(た)つて、239森蔭(もりかげ)に進(すす)む。240二人(ふたり)の女(をんな)も、241同(おな)じく森蔭(もりかげ)に静(しづ)かに身(み)を横(よこた)へて、242疲労(くたびれ)た足(あし)をさすつてゐる。243何(なん)だか暗(くら)がりでシツカリとは分(わか)らぬが、244二(ふた)つの黒(くろ)い影(かげ)が『フーフー』と息(いき)を喘(はず)ませ、245上(うへ)になり下(した)になり転(ころ)げて居(ゐ)る。246国依別(くによりわけ)は、
247国依別『ハテ不思議(ふしぎ)な者(もの)が居(ゐ)るワイ。248山犬(やまいぬ)の子(こ)でもざれよつて居(を)るのではあるまいか』
249と足音(あしおと)を忍(しの)ばせ、250側近(そばちか)く寄(よ)つて暗(やみ)にすかし見(み)れば、251どうやら二人(ふたり)の男(をとこ)が喧嘩(けんくわ)をして居(ゐ)るらしい。252国依別(くによりわけ)は……此奴(こいつ)一(ひと)つおどかして、253此(この)喧嘩(けんくわ)を止(や)めさしてやらう……と心(こころ)の中(なか)でうち諾(うな)づき、254俄(にはか)に作(つく)り声(ごゑ)、255落雷(らくらい)の様(やう)な大声(おほごゑ)で、
256国依別『此(この)方(はう)は、257常世(とこよ)神王(しんわう)の祠(ほこら)に守護(しゆご)致(いた)す大天狗(だいてんぐ)であるぞよ! 汝(なんぢ)不届(ふとど)き千万(せんばん)にも此(この)霊場(れいぢやう)に来(きた)り、258喧嘩(けんくわ)を致(いた)すとは怪(け)しからぬ奴(やつ)……待(ま)て、259今(いま)此(この)大天狗(だいてんぐ)が其方(そのはう)等(ら)二人共(ふたりとも)、260股(また)から引裂(ひきさ)いて、261楠木(くすのき)の枝(えだ)にかけ、262烏(からす)にこつかしてやらうぞ!』
263と呶(ど)なりつくれば、264二人(ふたり)は思(おも)はぬ天狗(てんぐ)と聞(き)いてパツと左右(さいう)に離(はな)れ、265大地(だいち)に傷(きず)だらけの手(て)を仕(つか)へ、266血(ち)だらけの顔(かほ)を俯(うつ)むけ乍(なが)ら、
267秋山別『ハイ、268私(わたくし)は秋山別(あきやまわけ)と申(まを)す者(もの)で御座(ござ)いますが、269一方(いつぱう)の男(をとこ)はモリスと申(まを)す悪戯者(いたづらもの)で御座(ござ)います。270女房(にようばう)の選挙(せんきよ)に付(つ)きまして、271激烈(げきれつ)なる運動(うんどう)を開始(かいし)致(いた)しまして、272遂(つひ)には血(ち)を見(み)る所(ところ)まで参(まゐ)りました。273今後(こんご)は心得(こころえ)ますから、274どうぞ股(また)から引裂(ひきさ)くの丈(だけ)は御(ご)勘弁(かんべん)を願(ねが)ひます』
275モリス『大天狗(だいてんぐ)様(さま)、276どうか、277秋山別(あきやまわけ)を能(よ)く御(お)戒(いまし)め下(くだ)さいまして、278紅井姫(くれなゐひめ)を思(おも)ひ切(き)り、279此(この)モリスの女房(にようばう)に首尾(しゆび)よく渡(わた)します様(やう)にして下(くだ)さいませ、280これが一生(いつしやう)の御(お)願(ねがひ)で御座(ござ)います。281それが叶(かな)はぬ様(やう)な事(こと)なれば仮令(たとへ)引裂(ひきさ)かれても構(かま)ひませぬ。282此(この)世(よ)に生(いき)てる甲斐(かひ)が御座(ござ)いませぬ。283秋山別(あきやまわけ)にはエリナを女房(にようばう)にしてやつて下(くだ)さいますれば、284三(み)つ口(ぐち)に新粉(しんこ)、285四(よ)つ口(ぐち)に羊羹(やうかん)で、286本当(ほんたう)に都合(つがふ)の良(よ)い縁(えん)で御座(ござ)います』
287秋山別『どうぞ、288私(わたくし)に紅井姫(くれなゐひめ)を御(お)授(さづ)け下(くだ)さいませ。289モリスはエリナで結構(けつこう)で御座(ござ)います。290さうして下(くだ)さいますれば、291天下(てんか)は太平(たいへい)、292無事(ぶじ)長久(ちやうきう)疑(うたがひ)なしで御座(ござ)います』
293 国依別(くによりわけ)は可笑(をか)しさを怺(こら)へて、
294国依別『其(その)方(はう)の申(まを)す紅井姫(くれなゐひめ)、295エリナの両人(りやうにん)はどこに居(を)るか』
296 秋山別(あきやまわけ)は声(こゑ)を震(ふる)はせ乍(なが)ら、
297秋山別『ハイ、298三五教(あななひけう)の馬鹿(ばか)宣伝使(せんでんし)の女殺(をんなごろ)しの後家倒(ごけだを)し、299家破(いへやぶ)りの国依別(くによりわけ)と云(い)ふ、300それはそれは酢(す)でも蒟蒻(こんにやく)でもいかぬ悪(わる)い奴(やつ)で御座(ござ)いますが、301其奴(そいつ)が二人(ふたり)の女(をんな)を、302アタ欲(よく)どしい、303ひつさらへて、304ヒルの都(みやこ)の神館(かむやかた)を出立(しゆつたつ)いたし、305天下(てんか)の色男(いろをとこ)はこンなものだい、306両手(りやうて)に花(はな)とは此(この)事(こと)だ、307二(に)人(にん)の妻(つま)に手(て)を引(ひ)かれ黄金(こがね)の橋(はし)を渡(わた)るとは、308俺(おれ)の事(こと)だと言(い)はぬ計(ばか)りに、309そこらうろつき乍(なが)ら、310やがてここへ登(のぼ)つて来(く)るでせう。311どうぞ天狗(てんぐ)さま、312国依別(くによりわけ)をグツとさらへて楠(くすのき)の上(うへ)へ連(つ)れて上(あが)り、313股(また)から引裂(ひきさ)いてやつて下(くだ)されませ、314これが一生(いつしやう)の御(お)願(ねが)ひで御座(ござ)います』
315国依別『其(その)紅井姫(くれなゐひめ)と云(い)ふのは、316其(その)方(はう)に対(たい)して恋慕(れんぼ)の心(こころ)を持(も)つて居(ゐ)る女(をんな)であるか』
317秋山別『ハイ、318何分(なにぶん)おボコ娘(むすめ)の事(こと)とて、319ハツキリとは申(まを)しませぬが、320大抵(たいてい)意思(いし)を忖度(そんたく)する事(こと)は出来(でき)ます。321キツと私(わたくし)に恋着(れんちやく)して居(ゐ)るに相違(さうゐ)ありませぬ、322一寸(ちよつと)触(さわ)つてもピンとはねたり、323三番叟(さんばさう)の様(やう)に、324あゝイヤイヤイヤと肱(ひぢ)を振(ふ)りますが、325私(わたくし)も若(わか)い時(とき)に覚(おぼ)えが御座(ござ)います。326好(すき)な人(ひと)に袖(そで)でも引(ひ)つぱられると、327恥(はづ)かしくなつて、328一旦(いつたん)は厭(いや)相(さう)に見(み)せて撥(はね)まはし、329後(あと)からあゝあンな事(こと)をせなかつたら良(よ)かつたに……と惜(をし)がつたことも御座(ござ)いますれば、330秋山別(あきやまわけ)には十分(じふぶん)に脈(みやく)は御座(ござ)います』
331モリス『モシ天狗(てんぐ)様(さま)、332秋山別(あきやまわけ)の言(い)ふ事(こと)は、333アリヤ違(ちが)ひます。334自分(じぶん)一人(ひとり)きめてゐるので御座(ござ)いますから堪(たま)りませぬワ。335鮑(あはび)の貝(かひ)の片思(かたおも)ひ、336長持(ながもち)の蓋(ふた)で此方(こちら)があいても向方(むかふ)が根(ね)つからあきませぬワイ。337併(しか)しエリナなれば、338どうにか斯(こ)うにか、339天狗(てんぐ)様(さま)が御(ご)紹介(せうかい)下(くだ)さいましたなれば、340女房(にようばう)に厭々(いやいや)なるでせう。341どうぞ神聖(しんせい)な一票(いつぺう)を、342天狗(てんぐ)様(さま)、343此(この)モリスにお与(あた)へ下(くだ)さいませ』
344国依別『さうして国依別(くによりわけ)を亡(な)き者(もの)に致(いた)して呉(く)れいと申(まを)すのか』
345モリス『ハイ、346天則(てんそく)違反(ゐはん)の男(をとこ)で御座(ござ)います。347鶏(にはとり)か何(なに)かの様(やう)に三羽番(さんばつが)ひで天下(てんか)をうろつきますると、348第一(だいいち)神(かみ)様(さま)の教(をしへ)の名(な)を汚(けが)します。349教(をしへ)の為(ため)にも、350秩序(ちつじよ)維持(ゐぢ)の上(うへ)にも、351最(もつと)も必要(ひつえう)な事(こと)だとモリスは信(しん)じます』
352国依別『それなら、353此(この)天狗(てんぐ)が許(ゆる)して遣(つか)はすによつて、354早(はや)く此(この)坂(さか)を下(くだ)つて行(ゆ)け。355一足(ひとあし)でも先(さき)に掴(つか)まへた者(もの)の女房(にようばう)にしてやらう。356大天狗(だいてんぐ)が是(これ)から守護(しゆご)を致(いた)して、357掴(つか)まへた者(もの)の女房(にようばう)に喜(よろこ)びてなるやうに守(まも)つてやらうぞ。358今(いま)三人(さんにん)連(づ)れにて此(この)坂(さか)の三合目(さんがふめ)あたり迄(まで)登(のぼ)つて来(き)て居(ゐ)る程(ほど)に、359サア早(はや)く行(ゆ)け、360早(はや)い者(もの)勝(が)ちだ。361マラソン競争(きやうそう)を致(いた)して決勝点(けつしようてん)を取(と)つた者(もの)に紅井姫(くれなゐひめ)をくれない事(こと)ないくれてやる。362次点者(じてんしや)にはエリナ姫(ひめ)を与(あた)へてやる、363一(いち)二(に)三(さん)、364ソラ行(ゆ)け……』
365モリス、秋山別『ハイ有難(ありがた)う』
366と二人(ふたり)は真暗(まつくら)がりの中(なか)を、367石(いし)ころをころがした様(やう)にガラガラと音(おと)をさせて坂道(さかみち)を韋駄天(ゐだてん)走(ばし)りに降(くだ)り行(ゆ)く。
368国依別『アハヽヽヽ何(なん)と面白(おもしろ)い余興(よきよう)を、369神(かみ)様(さま)から見(み)せて頂(いただ)いたものだ。370……モシ御(お)二人(ふたり)さま、371どうでしたなア』
372 紅井姫(くれなゐひめ)はおづおづし乍(なが)ら、
373紅井姫『ハイどうも恐(おそ)ろしうて、374胸騒(むなさわ)ぎが致(いた)しましたワ。375マアマア天狗(てんぐ)様(さま)が現(あら)はれて、376甘(うま)く追(お)ひ帰(かへ)して下(くだ)さいまして、377こんな有難(ありがた)い事(こと)は御座(ござ)いませぬ、378国依別(くによりわけ)さま、379あなたはどうおなりやしたかと思(おも)うて心配(しんぱい)でしたワ。380どうも御座(ござ)りませぬでしたか』
381エリナ『ホヽヽヽヽ、382姫(ひめ)様(さま)、383アリヤ天狗(てんぐ)ぢや御座(ござ)いませぬよ。384国依別(くによりわけ)さまがあンな声(こゑ)をお使(つか)ひになつて、385甘(うま)く二人(ふたり)をまかれたのですよ。386私(わたくし)は余(あま)り可笑(おか)しうて臍(へそ)がお茶(ちや)を沸(わ)かしかけましたワ』
387 紅井姫(くれなゐひめ)不思議(ふしぎ)相(さう)な声(こゑ)で、
388紅井姫『あゝさう、389して又(また)エリナさま、390お腹(なか)に土瓶(どびん)でも乗(の)せてゐらしたの……』
391国依別『アハヽヽヽ、392流石(さすが)はヤツパリ深窓(しんそう)に育(そだ)つたお姫(ひめ)さまだワイ。393紅井姫(くれなゐひめ)様(さま)、394皆(みな)うそですよ、395余(あま)り可笑(おか)しいから、396一(ひと)つ大天狗(だいてんぐ)の声色(こわいろ)を使(つか)つておどし、397まいてやつたのですよ、398アハヽヽヽ』
399紅井姫『どうもあなたはお人(ひと)が悪(わる)いですな。400そんな嘘(うそ)を言(い)つても神(かみ)様(さま)の御(お)咎(とが)めは御座(ござ)いませぬか』
401国依別『人(ひと)は見(み)かけによらぬ者(もの)、402今迄(いままで)正直(しやうぢき)な国依別(くによりわけ)と思(おも)つてゐられた貴女(あなた)は、403さぞお驚(おどろ)きになつたでせう。404酢(す)でも蒟蒻(こんにやく)でも、405挺(てこ)でも棒(ぼう)でも喰(く)へぬ、406スレツカラシの国依別(くによりわけ)ですからなア、407アハヽヽヽ』
408紅井姫『あなた、409蒟蒻(こんにやく)やお酢(す)、410デコ芋(いも)、411棒芋(ぼういも)などは御(お)嫌(きら)ひで御座(ござ)いますか。412私(わたし)は蒟蒻(こんにやく)にお芋(いも)は大(だい)の好物(かうぶつ)で御座(ござ)います』
413国依別『アハヽヽヽ、414どこまでも可愛(かあい)らしい御(お)姫(ひめ)さまだなア』
415エリナ『ホヽヽヽヽ、416お優(やさ)しいお方(かた)、417私(わたし)も姫(ひめ)さまの様(やう)な産(うぶ)な心(こころ)になつて見(み)とう御座(ござ)いますワ』
418国依別『もしも二人(ふたり)の奴(やつ)が後戻(あともど)りをして来(く)ると、419又(また)天狗(てんぐ)が一骨(ひとほね)折(を)らねばならぬし、420うるさいですから、421ここを立去(たちさ)つて、422モ少(すこ)し往(い)つた所(ところ)で、423適当(てきたう)な場所(ばしよ)を考(かんが)へて休息(きうそく)することに致(いた)しませう。424エリナさま、425姫(ひめ)様(さま)に気(き)をつけて、426足許(あしもと)の辷(すべ)らない様(やう)に手(て)を曳(ひ)いて上(あ)げて下(くだ)さいナ』
427エリナ『サアお姫(ひめ)さま参(まゐ)りませう』
428と三(さん)人(にん)は雲(くも)の綻(ほころ)びより、429所々(ところどころ)に星(ほし)の見(み)えてゐる暗(やみ)の空(そら)をスタスタと頂上(ちやうじやう)目(め)がけて登(のぼ)り行(ゆ)く。430流石(さすが)の高山(かうざん)、431夜嵐(よあらし)ザワザワとあたりの木(き)の枝(えだ)をゆすり、432何(なん)とはなしに、433そこら中(ぢう)が物凄(ものすご)く感(かん)じられける。
434(大正一一・八・一八 旧六・二六 松村真澄録)
435(昭和九・一二・一七 王仁校正)
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