霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一八章 シーズンの流(ながれ)〔八八四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻 篇:第3篇 千里万行 よみ(新仮名遣い):せんりばんこう
章:第18章 シーズンの流 よみ(新仮名遣い):しーずんのながれ 通し章番号:884
口述日:1922(大正11)年08月20日(旧06月28日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:[[シーズン河]]に[[紅井姫]]が身を投げた後、[[エリナ]]は[[秋山別]]に対し、本当に紅井姫を愛しているなら、なぜ川に飛び込んで救おうとしなかったのかと非難する。さらに女性解放や女権拡張を唱え、男性の身勝手さを批判する。秋山別と[[モリス]]は、エリナまで「新しい女」になったと驚き、悪霊に憑依されたのではないかと疑う。

やがてエリナは以前のしとやかな態度に戻り、紅井姫の死を嘆く二人に、紅井姫への愛情が本物だったのかと問いただす。秋山別は紅井姫が死んだと信じながらも、今度はエリナを妻にしようと言い寄る。しかしエリナは、紅井姫を救おうとも遺体を捜そうともせず、すぐに別の女性を求める秋山別の薄情さを厳しく非難する。

さらにエリナは、モリスも自分を紅井姫の代用品程度に考えていたことを指摘し、女性を軽んじる二人の態度を戒める。貴族と平民という身分の違いだけで女性の価値を判断することも批判し、神業に励む立派な男になるよう忠告して立ち去ろうとする。

怒った二人が左右から殴りかかると、エリナは軽々と身をかわし、秋山別とモリスを次々にシーズン河の激流へ投げ込む。そしてエリナ自身も煙のように姿を消し、二人は濁流に呑まれて見えなくなってしまう(このエリナは白狐が化けた偽者)。

(AIによる要約)
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-04-12 18:52:19 文字数:4172 OBC :rm3118
愛善世界社版:213頁 八幡書店版:第6輯 121頁 修補版: 校定版:219頁 普及版:101頁 初版: ページ備考:
001 エリナはモリスの暗祈(あんき)黙祷(もくたう)せる姿(すがた)を嘲笑(てうせう)的(てき)に流(なが)し目(め)に見(み)やりつつ、002秋山別(あきやまわけ)に向(むか)ひ、
003エリナ『オイ秋山(あきやま)君(くん)、004君(きみ)は紅井(くれなゐ)君(くん)を如何(どう)したのだイ。005まさか君(きみ)の云(い)ふ様(やう)に、006シーズン河(がは)へ投身(とうしん)する様(やう)な馬鹿(ばか)な女(をんな)でもあるまいがねー。007もし僕(ぼく)だつたら、008君(きみ)の様(やう)な蜥蜴(とかげ)君(くん)には命(いのち)をすてる様(やう)なこたア、009馬鹿(ばか)らしくて出来(でき)ないね、010又(また)君(きみ)も君(きみ)ぢやないか、011あれ程(ほど)スヰートハートしてゐた紅井(くれなゐ)君(くん)が水中(すゐちう)に陥没(かんぼつ)したのだから、012此(この)際(さい)対岸(たいがん)の火災視(くわさいし)して居(ゐ)る訳(わけ)にも行(ゆ)かぬぢやないか。013男子(だんし)と云(い)ふ者(もの)は随分(ずいぶん)無情(むじやう)冷酷(れいこく)なものだね、014それだから吾々(われわれ)目(め)ざめた婦人(ふじん)達(たち)は、015婦人(ふじん)開放論(かいはうろん)を唱(とな)へたり、016女権(ぢよけん)拡張(くわくちやう)を高唱(かうしやう)したり、017婦主(ふしゆ)夫従(ふうじゆう)の法律(はふりつ)を制定(せいてい)せむと躍起(やくき)運動(うんどう)をやらなくちやならないやうになつて来(き)たのだ。018君(きみ)も真(しん)に紅井(くれなゐ)君(くん)に同情(どうじやう)をよせてゐるのならば、019なぜ身(み)を挺(てい)して水中(すゐちう)に飛込(とびこ)み救(すく)ひ上(あ)げないのかイ。020此(この)渓流(ながれ)を眺(なが)めて恐(おそ)ろしくなつたのだなア。021実(じつ)に卑怯(ひけふ)な男(をとこ)だね。022こンな男(をとこ)に狙(ねら)はれた紅井(くれなゐ)君(くん)も迷惑(めいわく)だ。023僕(ぼく)だつて、024こンな男子(だんし)と一(いち)日(にち)でも添(そ)はねばならぬと思(おも)や、025紅井(くれなゐ)君(くん)ぢやないが、026僕(ぼく)も一層(いつそう)の事(こと)淵川(ふちがは)へ身(み)を投(な)げて死(し)の神(かみ)の手(て)にキツスをしたくなつて来(く)るよ。027君(きみ)も余程(よほど)デレ助(すけ)の割(わり)には、028物(もの)の分(わか)らぬ人物(じんぶつ)だね』
029秋山別『ヤア又(また)妙(めう)な事(こと)を口走(くちばし)り出(だ)したぞ。030何(なん)でも此(この)辺(へん)には悪霊(あくれい)が沢山(たくさん)居(ゐ)ると云(い)ふ事(こと)だから、031可愛相(かあいさう)に、032憑依(ひようい)されたのだなア。033オイオイ モリス君(くん)、034君(きみ)もちつと心配(しんぱい)してやつたらどうだイ。035何程(なにほど)拝(をが)ンで居(を)つたつて、036此(この)発動(はつどう)は容易(ようい)に停電(ていでん)する気遣(きづか)ひはないよ。037君(きみ)と僕(ぼく)と相提携(あひていけい)してエリナ君(くん)を説服(せつぷく)し、038元(もと)のエリナの精神(せいしん)に立直(たてなほ)してやらうぢやないか』
039モリス『オイ、040秋山別(あきやまわけ)、041お前(まへ)もヤツパリ感染(かんせん)して居(ゐ)るようだぞ。042エリナさまと同(おな)じ様(やう)に君(きみ)だの僕(ぼく)だのと、043そンな言(ことば)を使(つか)うない。044今迄(いままで)の様(やう)に俺(おれ)とか、045わしとか、046お前(まへ)とか、047貴様(きさま)とか云(い)つたら如何(どう)だい。048そンな言(ことば)を使(つか)ふと、049俄(にはか)に何(なん)だか二十(にじつ)世紀(せいき)とか云(い)ふ世(よ)の中(なか)が思(おも)ひ出(だ)されて来(く)るワ』
050秋山別『あゝさうだつたなア。051ウツカリして居(を)つて類焼(るゐせう)の厄(やく)に会(あ)う所(ところ)だつた。052幸(さいは)ひお前(まへ)の蒸気(じやうき)ポンプがあつた為(ため)に延焼(えんせう)の害(がい)を免(まぬが)れてマア結構(けつこう)だ。053併(しか)しエリナさまの此(この)発動(はつどう)は困(こま)つたものだね』
054エリナ『皆(みな)さま、055御(ご)心配(しんぱい)して下(くだ)さいますな。056妾(わたし)はおかげに依(よ)つて、057精神(せいしん)快活(くわいくわつ)になりましたよ。058如何(どう)して今(いま)の様(やう)なハイカラな御(お)転婆(てんば)になつたのでせうか。059わたし、060お二人(ふたり)さまのお顔(かほ)を見(み)るのも恥(はづ)かしうなつて来(き)ましたワ。061ホヽヽヽヽ』
062と赤(あか)い顔(かほ)をし乍(なが)ら、063袖(そで)にてかくす其(その)殊勝(しゆしよう)さ、064何(なん)とも云(い)へぬ趣(おもむき)がある。065二人(ふたり)は恍惚(くわうこつ)として、066エリナ姫(ひめ)を眺(なが)め居(ゐ)る。
067 モリスは秋山別(あきやまわけ)に向(むか)ひ、068一寸(ちよつと)腰(こし)を屈(かが)め、069いと叮嚀(ていねい)な言葉(ことば)で、
070モリス『秋山(あきやま)さま、071今日(けふ)は存(ぞん)じも寄(よ)らぬ事(こと)が出来(でき)まして、072さぞさぞ御(ご)愁歎(しうたん)で御座(ござ)いませう、073御(お)察(さつ)し申上(まをしあ)げます。074折角(せつかく)茲(ここ)まで漕(こ)ぎつけて、075いよいよ夫婦(ふうふ)結婚(けつこん)の式(しき)をあげようと云(い)ふ間際(まきは)になり、076紅井姫(くれなゐひめ)さまは無情(むじやう)の風(かぜ)に誘(さそ)はれて遠(とほ)い国(くに)へ御(お)旅立(たびだち)、077さぞ御(お)淋(さび)しう御座(ござ)いませう。078身(み)につまされて同情(どうじやう)の涙(なみだ)に堪(た)へませぬ』
079秋山別『ハイ有難(ありがた)う存(ぞん)じます。080紅井(くれなゐ)の花(はな)も半開(はんかい)にして散(ち)りました。081無情(むじやう)の嵐(あらし)に吹(ふ)かれて、082手(て)もなく打(うち)おとされ、083実(じつ)に残念(ざんねん)で御座(ござ)います』
084と鼻(はな)をすする。
085エリナ『モシ秋山(あきやま)さま、086あなた紅井姫(くれなゐひめ)様(さま)を本当(ほんたう)に女房(にようばう)にする御(お)考(かんが)へでしたか』
087秋山別『ハイ寝(ね)ても醒(さ)めても吾(わが)目(め)にちらつき、088一刻(いつこく)も忘(わす)れた事(こと)のない紅井姫(くれなゐひめ)さま、089実(じつ)に残念(ざんねん)な事(こと)を致(いた)しました。090ヒルの都(みやこ)の楓別(かへでわけ)さまが此(この)事(こと)をお聞(き)き遊(あそ)ばしたら、091嘸(さぞ)お歎(なげ)き遊(あそ)ばす事(こと)で御座(ござ)いませう』
092エリナ『あの方(かた)を本当(ほんたう)の紅井姫(くれなゐひめ)様(さま)と秋山(あきやま)さまは思(おも)つてゐらつしやいますのですか。093あの方(かた)は旭(あさひ)……否々(いないな)旭(あさひ)の直刺(たださ)す、094夕日(ゆふひ)の日(ひ)照(て)らすヒルの国(くに)の紅井姫(くれなゐひめ)によく似(に)た御(お)方(かた)で御座(ござ)いますが、095妾(わたし)の考(かんが)へでは少(すこ)しくお背(せ)が高(たか)い様(やう)な気(き)が致(いた)しまして、096どうも合点(がてん)が参(まゐ)りませぬワ』
097秋山別『ハイ何分(なにぶん)十九(じふく)の花盛(はなざか)り、098背(せ)の伸(の)びる最中(さいちう)ですからなア。099若(わか)い女(をんな)と云(い)ふ者(もの)は、100三日(みつか)見(み)ぬ間(ま)に桜(さくら)哉(かな)で、101見違(みちが)へるように変(かは)るもので御座(ござ)います。102私(わたし)は決(けつ)して外(ほか)の方(かた)とは思(おも)ひませぬワ』
103エリナ『そんならエリナの私(わたし)はどう見(み)えますか』
104秋山別『秋山(あきやま)の目(め)にはどうも見(み)えませぬな。105別(べつ)に変(かは)つた所(ところ)もない様(やう)です』
106エリナ『折角(せつかく)此処(ここ)まで御(お)伴(とも)願(ねが)ひましたが、107これで妾(わらは)はお暇(いとま)致(いた)します。108お二人共(ふたりとも)、109御(ご)機嫌(きげん)よく御(ご)修業(しうげふ)遊(あそ)ばし、110天晴(あつぱ)れ立派(りつぱ)な男(をとこ)となつて、111ヒルの国(くに)へ帰(かへ)り、112元(もと)の如(ごと)く神界(しんかい)の御用(ごよう)を勤(つと)めて下(くだ)さいませ、113左様(さやう)ならば……』
114と足早(あしばや)に立(た)つて行(ゆ)かうとするのを、115モリスは周章(あわ)てて、
116モリス『モシモシ、117エリナさま、118一寸(ちよつと)待(ま)つて下(くだ)さい。119私(わたし)が此処迄(ここまで)はるばるやつて来(き)たのは、120何(なん)の為(ため)か、121貴女(あなた)御存(ごぞん)じでせうなア』
122エリナ『ハイよく存(ぞん)じて居(を)ります。123あなた方(がた)御(お)二人(ふたり)様(さま)は恋(こひ)の虜(とりこ)となつて、124紅井姫(くれなゐひめ)様(さま)を女房(にようばう)にせうと、125昼(ひる)も夜(よる)も争(あらそ)ひ、126修羅(しうら)をもやして御座(ござ)つたのぢや御座(ござ)いませぬか。127私(わたし)はホンのあなたの目(め)から副産物(ふくさんぶつ)位(くらゐ)に見做(みな)されて居(を)つたはした女(をんな)で御座(ござ)いますよ。128あなた方(がた)も当(たう)の目的物(もくてきぶつ)たる紅井姫(くれなゐひめ)様(さま)が、129斯(こ)うお成(な)り遊(あそ)ばした以上(いじやう)は、130最早(もはや)女(をんな)に対(たい)する執着心(しふちやくしん)も離(はな)れたでせう。131妾(わらは)はあなた方(がた)に対(たい)して何(なん)の関係(くわんけい)もない者(もの)で御座(ござ)いますから、132お先(さき)へ、133すまぬ事(こと)乍(なが)ら、134御免(ごめん)を蒙(かうむ)りませう。135男(をとこ)の方(かた)と伴(つ)らつて歩(ある)いて居(ゐ)ると、136又(また)世間(せけん)が何(なん)とかかとか噂(うはさ)を立(た)て、137うるさくて堪(たま)りませぬから、138浮名(うきな)を立(た)てられ濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)を着(き)せられない中(うち)に、139茲(ここ)を妾(わらは)が立去(たちさ)つた方(はう)が、140双方(さうはう)の利益(りえき)で御座(ござ)いませう』
141秋山別『エヽ一寸(ちよつと)待(ま)つて下(くだ)さい。142秋山別(あきやまわけ)も茲(ここ)まで斯(こ)うして参(まゐ)りましたのも、143あなた方(がた)のお後(あと)を慕(した)ひ、144夫婦(ふうふ)の約束(やくそく)を結(むす)び、145円満(ゑんまん)なる家庭(かてい)を作(つく)り、146神業(しんげふ)を勤(つと)めようと思(おも)つて、147参(まゐ)つたので厶(ござ)いますから、148ここで御(お)別(わか)れするのは、149実(じつ)に本意(ほんい)なう厶(ござ)います。150サア、151エリナさま是(これ)からあなたは秋山別(あきやまわけ)の宿(やど)の妻(つま)、152余(あま)り悪(わる)うも厶(ござ)いますまいなア』
153エリナ『ホヽヽヽヽ、154おいて下(くだ)さいませ。155あなたは紅井姫(くれなゐひめ)様(さま)に一生(いつしやう)懸命(けんめい)におなり遊(あそ)ばし、156死(し)ねば諸共(もろとも)死出(しで)の山(やま)、157三途(さんづ)の川(かは)も手(て)を引(ひ)いてなぞと、158仰有(おつしや)つて、159姫(ひめ)様(さま)をお口説(くど)き遊(あそ)ばした事(こと)が御座(ござ)いませう。160それ丈(だけ)思(おも)ひ込(こ)ンだ姫(ひめ)様(さま)が現在(げんざい)、161此(この)谷川(たにがは)に身(み)を投(な)げてお死(な)くなり遊(あそ)ばしたのを、162救(すく)ひ上(あ)げるといふ親切(しんせつ)も無(な)ければ、163遺骸(なきがら)を捜(さが)し出(だ)して叮嚀(ていねい)に葬(ほうむ)ると云(い)ふ誠(まこと)もなく、164今(いま)お死(な)くなりになつた計(ばか)りの最中(さいちう)に、165私(わたし)に向(むか)つて何(なん)と云(い)ふ事(こと)を仰有(おつしや)るのですか。166それだから男(をとこ)と云(い)ふ奴(やつ)は仕方(しかた)のないものだ……と云(い)つて女(をんな)の方(はう)から注意(ちうい)人物視(じんぶつし)されるのですよ。167ヘン阿呆(あほ)らしい、168当座(たうざ)の花(はな)にしておいて、169妾(わたし)を玩弄物(おもちや)になさらうと、170御(お)考(かんが)へになつても、171そンな馬鹿(ばか)な女(をんな)は広(ひろ)い世界(せかい)に半人(はんにん)だつてありさうな事(こと)は御座(ござ)いませぬよ。172そンな馬鹿(ばか)な事(こと)は言(い)はずにおきなさいませ。173紅井姫(くれなゐひめ)様(さま)に対(たい)してもお気(き)の毒(どく)ですワ』
174秋山別『決(けつ)して決(けつ)して、175左様(さやう)な水臭(みづくさ)い心(こころ)では御座(ござ)いませぬが、176何程(なにほど)悔(くや)みたとて、177焦(あせ)つたとても、178一旦(いつたん)死(し)ンだ人(ひと)は帰(かへ)つて来(く)る道理(だうり)も御座(ござ)いませぬ。179私(わたし)が涙(なみだ)をこぼして泣(な)かうものなら、180それこそ紅井姫(くれなゐひめ)の魂(たましひ)は宙宇(ちうう)に迷(まよ)うて、181行(ゆ)くべき所(ところ)へも能(よ)う行(ゆ)かず、182苦労(くらう)をなさるのが気(き)の毒(どく)で御座(ござ)います。183それ故(ゆゑ)私(わたし)がフツツリと思(おも)ひ切(き)つて上(あ)げた方(はう)が、184姫(ひめ)様(さま)の執着(しふちやく)が残(のこ)らないで、185早(はや)く成仏(じやうぶつ)遊(あそ)ばす事(こと)だらうと思(おも)ひ余(あま)つての親切(しんせつ)、186腹(なか)の中(なか)で涙(なみだ)を流(なが)して表面(うはべ)は斯(こ)う綺麗(きれい)に賑(にぎ)やかさうに言(い)つて居(を)るのですよ。187どうぞ恋(こひ)しい女(をんな)に別(わか)れた私(わたし)の心(こころ)、188推量(すいりやう)なさつて下(くだ)さい』
189と涙(なみだ)をふき、
190秋山別『これ程(ほど)心底(しんてい)の深(ふか)い男(をとこ)を夫(をつと)に持(も)つ女房(にようばう)はさぞさぞ幸福(かうふく)でせう。191エリナさま私(わたし)の心(こころ)が分(わか)りましたら、192一滴(いつてき)同情(どうじやう)の涙(なみだ)を注(そそ)いで下(くだ)さい。193そして私(わたし)の此(この)悲(かな)しみを慰(なぐさ)める為(ため)に、194二世(にせ)も三世(さんせ)も変(かは)らぬ夫婦(ふうふ)ぢやと、195一口(ひとくち)仰有(おつしや)つて下(くだ)さいませ。196さうすれば私(わたし)は申(まを)すに及(およ)ばず、197紅井姫(くれなゐひめ)様(さま)が何程(なにほど)お喜(よろこ)びなさるか知(し)れませぬ。198エヽ悲(かな)しくなつて来(き)た。199あゝどうせうぞいなア』
200とワザと泣(な)いて見(み)せる。
201 エリナは冷(ひや)やかに笑(わら)ひ乍(なが)ら、
202エリナ『それだから腰抜(こしぬけ)男(をとこ)は困(こま)るのですよ。203女(をんな)一人(ひとり)位(くらゐ)に其(その)態(ざま)は何(なん)ですか。204本当(ほんたう)に厭(いや)になつて了(しま)つた。205モリスさま、206お前(まへ)さまも、207こンな腰抜(こしぬけ)男(をとこ)と何時迄(いつまで)も一所(いつしよ)に歩(ある)いてゐると馬鹿(ばか)にせられますよ。208いい加減(かげん)に思(おも)ひ切(き)つて大活動(だいくわつどう)をなされませ。209何(なん)ですか紅井姫(くれなゐひめ)様(さま)に現(うつつ)を抜(ぬ)かし、210二人(ふたり)の男(をとこ)が恋(こひ)を争(あらそ)ひ、211終局(しまひ)の果(はて)には、212秋山別(あきやまわけ)に甘(うま)く丸(まる)めこまれ、213エヽそンなら一人(ひとり)の女(をんな)に二人(ふたり)の男(をとこ)、214体(からだ)を割(わ)つて分(わ)ける訳(わけ)にも行(ゆ)かないから、215当座(たうざ)の鼻塞(はなふさ)ぎに、216エリナでも女房(にようばう)にせうか、217そして暫(しばら)く辛抱(しんばう)をするのだ、218などと虫(むし)のよい考(かんが)へを以(もつ)て、219能(よ)うマアはるばると、220阿呆(あほ)らしうもない、221こンな所迄(とこまで)お出(い)でになりましたなア。222何程(なにほど)エリナが馬鹿(ばか)な女(をんな)だつて、223そンな間(ま)に合(あ)ひに使(つか)はれてなりますか。224余(あま)り馬鹿(ばか)にして下(くだ)さるなや。225エリナだつて矢張(やつぱり)性念(しやうねん)もありますよ。226紅井姫(くれなゐひめ)様(さま)とどれ丈(だけ)、227どこが違(ちが)つて居(を)りますか。228只(ただ)人間(にんげん)のきめた貴族(きぞく)とか平民(へいみん)とかの階級(かいきふ)に高下(かうげ)がある丈(だけ)ぢやありませぬか。229いい加減(かげん)に目(め)を醒(さ)まして、230こンな馬鹿(ばか)な事(こと)はおよしなさいませ。231まだ女(をんな)に対(たい)して云々(うんぬん)する丈(だけ)の、232あなたの体(からだ)に資格(しかく)が付(つ)いてゐませぬよ。233エリナが別(わか)れに臨(のぞ)ンで、234お前(まへ)さま達(たち)の前途(ぜんと)の為(ため)に訓戒(くんかい)しておきますワ』
235 モリスはあはてて、
236モリス『モシモシあなた俄(には)かに御(お)心変(こころがは)はりがしたのですか。237そンな筈(はず)ぢやなかつたになア』
238エリナ『モリスさまの勝手(かつて)に御(お)定(き)めになつた夢(ゆめ)の中(なか)のエリナは女房(にようばう)だつたさうですねエ』
239モリス『イエ、240どうしてどうして夢(ゆめ)所(どころ)か一生(いつしやう)懸命(けんめい)ですよ。241さう悪(わる)く取(と)つて貰(もら)つちや困(こま)ります。242どうぞ私(わたし)の女房(にようばう)になつて下(くだ)さいな』
243エリナ『男(をとこ)の方(はう)から女房(にようばう)になつて下(くだ)さいな……などと頼(たの)む様(やう)な腰抜(こしぬけ)男(をとこ)は、244頭(あたま)から嫌(きら)ひですわいな』
245秋山別『コレコレ エリナ殿(どの)、246其(その)方(はう)は吾々(われわれ)の眼鏡(めがね)にかなつた女(をんな)だから、247秋山別(あきやまわけ)が抜擢(ばつてき)して、248吾(わが)宿(やど)の妻(つま)にして遣(つか)はす。249一旦(いつたん)女房(にようばう)と致(いた)した以上(いじやう)は、250少々(せうせう)の瑕瑾(かきん)や失敗(しつぱい)位(くらゐ)は、251神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し宣(の)り直(なほ)す位(くらゐ)の雅量(がりやう)を持(も)つて居(ゐ)る此(この)秋山別(あきやまわけ)、252実(じつ)にエリナ姫(ひめ)殿(どの)も仕合(しあは)せで御座(ござ)らうなア』
253エリナ『えゝおきなさいよ。254ヒヨツトコ男(をとこ)の腰抜(こしぬけ)野郎(やらう)計(ばか)りが、255二人(ふたり)も斯(こ)ンな処(ところ)に迷(まよ)ひ込(こ)ンで来(き)て、256アタ態(ざま)の悪(わる)い、257いい加減(かげん)に恥(はぢ)を知(し)りなさい、258馬鹿(ばか)だなア。259君(きみ)もモチと気(き)の利(き)いた男(をとこ)だと思(おも)つてゐたのに、260余(あま)りの腰抜(こしぬけ)野郎(やらう)で、261僕(ぼく)も愛想(あいさう)がつきた。262川(かは)の中(なか)へなと、263身(み)を投(な)げて死(し)ンだ方(はう)が、264社会(しやくわい)の為(ため)だらうよ』
265 秋山別(あきやまわけ)、266モリス両人(りやうにん)はムツと腹(はら)を立(た)て、
267秋山別、モリス『言(い)はしておけば、268際限(さいげん)もなく、269裸一貫(はだかいつくわん)の丈夫(ますらを)に向(むか)つて、270罵詈(ばり)雑言(ざふごん)、271モウ此(この)上(うへ)は了見(れうけん)致(いた)さぬ。272二人(ふたり)の男(をとこ)に一人(ひとり)の女(をんな)だ。273サア覚悟(かくご)せよ』
274と鉄拳(てつけん)を固(かた)めて左右(さいう)より打(う)つてかかるを、275エリナは右(みぎ)にすかし、276左(ひだり)に避(さ)け、277遂(つひ)には秋山別(あきやまわけ)の首筋(くびすぢ)を掴(つか)むでシーズン河(がは)の激流(げきりう)へザンブと計(ばか)り投(な)げ込(こ)みにけり。
278モリス『何(なに)、279猪口才(ちよこざい)な』
280とモリスは力限(ちからかぎ)りに打(う)つてかかるを、281エリナは、282『エヽ面倒(めんだう)なり』と又(また)もや首筋(くびすぢ)を引掴(ひつつか)み、283激流(げきりう)目(め)がけて、284ザンブと計(ばか)り投(な)げ込(こ)み、285煙(けぶり)となつて、286自分(じぶん)も其(その)場(ば)に消(き)え失(う)せにけり。
287 二人(ふたり)は激流(げきりう)に呑(の)まれ、288其(その)姿(すがた)さへ見(み)えず只(ただ)激流(げきりう)の音(おと)のみ聞(きこ)へける。
289(大正一一・八・二〇 旧六・二八 松村真澄録)
290(昭和九・一二・一九 於富山市 王仁校正)
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