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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第31巻(午の巻)
序歌
総説
第1篇 千状万態
第1章 主一無適
第2章 大地震
第3章 救世神
第4章 不知恋
第5章 秋鹿の叫
第6章 女弟子
第2篇 紅裙隊
第7章 妻の選挙
第8章 人獣
第9章 誤神託
第10章 噂の影
第11章 売言買辞
第12章 冷い親切
第13章 姉妹教
第3篇 千里万行
第14章 樹下の宿
第15章 丸木橋
第16章 天狂坊
第17章 新しき女
第18章 シーズンの流
第19章 怪原野
第20章 脱皮婆
第21章 白毫の光
第4篇 言霊将軍
第22章 神の試
第23章 化老爺
第24章 魔違
第25章 会合
余白歌
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海洋万里(第25~36巻)
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第31巻(午の巻)
> 第3篇 千里万行 > 第20章 脱皮婆
<<< 怪原野
(B)
(N)
白毫の光 >>>
第二〇章
脱皮婆
(
だつぴばば
)
〔八八六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
篇:
第3篇 千里万行
よみ(新仮名遣い):
せんりばんこう
章:
第20章 脱皮婆
よみ(新仮名遣い):
だっぴばば
通し章番号:
886
口述日:
1922(大正11)年08月20日(旧06月28日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
秋山別とモリスは、炎を避けて川辺にやってきたが、川幅が広く急流で渡ることができない。炎に追われて地団太を踏んでいると、おぞましいガリガリ亡者がやってきた。
秋山別はぞっとしたが、わけのわからないところへ来てしまって気を弱くしてはつけこまれると思い直し、強い口調で亡者にお前は誰かと問いかけた。
亡者たちは、現世では色と金にはまってこのような姿となり、河にはまった秋山別とモリスの命を奪ったのも自分たちだと答えた。秋山別とモリスは亡者たちと押し問答していたが、亡者たちは、二人が冥途へ来てまで二枚舌を使うと言って、やにわにくぎ抜きを持って二人に襲いかかってきた。
秋山別とモリスは命からがら河に飛び込んで急流を渡り、なんとか亡者たちの襲撃を免れた。二人はかやぶきの粗末な小屋を見つけ、中の婆に声をかけた。婆は、ここは焦熱地獄で自分は二人が来るのを閻魔大王の命で待っていたのだ、と告げた。
焼け野が原の脱皮婆と名乗る婆は、焦熱地獄はよほど罪の重い者がやってくる場所だと言い、鬼が火の車で二人を迎えに来ると告げた。そんな大罪を犯した覚えはないと訴える二人に対して、婆はあきらめるようにと諭す。
そこへガラガラと大きな音を立てて赤鬼と青鬼が二台の火の車を引き連れてやってきた。秋山別とモリスはあっと驚いてその場に倒れ伏した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-04-14 18:22:50
OBC :
rm3120
愛善世界社版:
231頁
八幡書店版:
第6輯 127頁
修補版:
校定版:
238頁
普及版:
109頁
初版:
ページ備考:
001
二人
(
ふたり
)
は
漸
(
やうや
)
く
広
(
ひろ
)
き
河
(
かは
)
の
辺
(
ふち
)
に
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
いた。
002
見
(
み
)
れば
非常
(
ひじやう
)
な
広
(
ひろ
)
い
河
(
かは
)
で
而
(
しか
)
も
急流
(
きふりう
)
である。
003
橋
(
はし
)
もなければ
容易
(
ようい
)
に
渡
(
わた
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
004
後
(
あと
)
へ
引返
(
ひきかへ
)
さむとすれば、
005
岩石
(
がんせき
)
の
炎
(
ほのほ
)
は
盛
(
さかん
)
に
燃
(
も
)
えひろがり、
006
道
(
みち
)
を
塞
(
ふさ
)
ぎ、
007
グヅグヅしてゐると、
008
煙
(
けぶり
)
に
包
(
つつ
)
まれさうな
勢
(
いきほひ
)
である。
009
『アヽ
如何
(
いか
)
にせむ』と
川端
(
かはばた
)
に
二人
(
ふたり
)
は
地団駄
(
ぢだんだ
)
をふみ、
010
遂
(
つひ
)
には
泣声
(
なきごゑ
)
を
出
(
だ
)
して
藻掻
(
もが
)
き
出
(
だ
)
した。
011
どこともなしに
厭
(
いや
)
らしき
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
012
フツと
見
(
み
)
れば、
013
渋紙
(
しぶかみ
)
の
様
(
やう
)
な
肌
(
はだ
)
をした
赤裸
(
まつぱだか
)
の
人間
(
にんげん
)
が
肋骨
(
あばらぼね
)
を
一枚
(
いちまい
)
々々
(
いちまい
)
表
(
あら
)
はしたガリガリ
亡者
(
もうじや
)
である。
014
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
てもゾツとする
様
(
やう
)
な、
015
厭
(
いや
)
な
姿
(
すがた
)
であつた。
016
此
(
この
)
亡者
(
もうじや
)
は
赤裸
(
まつぱだか
)
ではあるが、
017
男
(
をとこ
)
とも
女
(
をんな
)
とも
少
(
すこ
)
しも
見分
(
みわ
)
けがつかなかつた。
018
只
(
ただ
)
骸骨
(
がいこつ
)
の
上
(
うへ
)
に
渋紙
(
しぶかみ
)
の
様
(
やう
)
な
色
(
いろ
)
した
薄
(
うす
)
ツペらな
皮
(
かは
)
が、
019
義理
(
ぎり
)
か
役
(
やく
)
かの
様
(
やう
)
に
包
(
つつ
)
むでゐるのみである。
020
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
に
思
(
おも
)
ふ
様
(
やう
)
……どうせ、
021
こンな
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
所
(
ところ
)
へ
来
(
き
)
たのだから、
022
ロクな
奴
(
やつ
)
は
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
筈
(
はず
)
はない。
023
余
(
あま
)
り
気
(
き
)
を
弱
(
よわ
)
く
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
たならば、
024
先繰
(
せんぐ
)
り
先繰
(
せんぐ
)
りいろいろな
奴
(
やつ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て、
025
何
(
なに
)
をするか
分
(
わか
)
らない、
026
強
(
つよ
)
くなくては……と
俄
(
にはか
)
に
決心
(
けつしん
)
の
臍
(
ほぞ
)
を
固
(
かた
)
め、
027
声
(
こゑ
)
も
高
(
たか
)
らかに、
028
秋山別
『オイ
我利
(
がり
)
坊子
(
ばうし
)
、
029
貴様
(
きさま
)
は
現世
(
げんせ
)
の
奴
(
やつ
)
か
幽界
(
いうかい
)
の
奴
(
やつ
)
か、
030
返答
(
へんたふ
)
をせい。
031
現世
(
げんせ
)
には
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
な
奴
(
やつ
)
はメツタに
見
(
み
)
た
事
(
こと
)
はないが、
032
大方
(
おほかた
)
娑婆
(
しやば
)
に
居
(
を
)
つて
吾
(
わ
)
れよしの
有
(
あ
)
り
丈
(
たけ
)
を
尽
(
つく
)
した
我利
(
がり
)
我利
(
がり
)
亡者
(
もうじや
)
の
連中
(
れんぢう
)
が、
033
欲
(
よく
)
の
川
(
かは
)
へ
落込
(
おちこ
)
み
濁流
(
だくりう
)
を
呑
(
の
)
ンで、
034
こンな
態
(
ざま
)
になつたのだらう。
035
一
(
ひと
)
つ
旅
(
たび
)
の
慰
(
なぐさ
)
みに
貴様
(
きさま
)
の
来歴
(
らいれき
)
を
聞
(
き
)
かしてくれないか』
036
亡者(欲皮)
『
俺
(
おれ
)
は
剛欲
(
がうよく
)
ハルの
国
(
くに
)
、
037
身勝手
(
みかつて
)
郡
(
ぐん
)
、
038
吾
(
わ
)
れよし
村
(
むら
)
の
欲皮
(
よくかは
)
剥右衛門
(
はぎうゑもん
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
だよ。
039
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
は
同国
(
どうこく
)
同郡
(
どうぐん
)
同村
(
どうそん
)
の
金借
(
かねかり
)
踏倒
(
ふみたふ
)
しといふ
亡者
(
もうじや
)
だよ。
040
今
(
いま
)
冥途
(
めいど
)
へ
来
(
き
)
てから、
041
名
(
な
)
を
替
(
か
)
へて、
042
骨皮
(
ほねかは
)
痩右衛門
(
やせうゑもん
)
、
043
墓原
(
はかはら
)
の
骨左衛門
(
こつざゑもん
)
となつたのだ。
044
お
前
(
まへ
)
はアノ
自称
(
じしよう
)
色男
(
いろをとこ
)
の
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
045
モリスの
両人
(
りやうにん
)
に
違
(
ちが
)
いあるまいがな』
046
秋山別
『
貴様
(
きさま
)
どうして
俺
(
おれ
)
の
素性
(
すじやう
)
を
知
(
し
)
つてゐるのだ』
047
欲皮
『きまつた
事
(
こと
)
よ。
048
余
(
あま
)
り
貴様
(
きさま
)
が
此
(
この
)
川上
(
かはかみ
)
で
立派
(
りつぱ
)
なナイスの
様
(
やう
)
な
化者
(
ばけもの
)
を
捉
(
つか
)
まへて、
049
現
(
うつつ
)
を
抜
(
ぬ
)
かしてゐるから、
050
俺
(
おれ
)
も
金
(
かね
)
と
色
(
いろ
)
とにかけては、
051
現界
(
げんかい
)
に
居
(
を
)
つた
時
(
とき
)
から、
052
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
の
豪傑
(
がうけつ
)
だつたが、
053
俺
(
おれ
)
の
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
で、
054
余
(
あま
)
り
巫山戯
(
ふざけ
)
たことをしよるものだから、
055
チツと
計
(
ばか
)
り
癪
(
しやく
)
にさはり、
056
ナイスが
川
(
かは
)
の
中
(
なか
)
へとつて
放
(
ほ
)
つたのを
幸
(
さいは
)
ひ、
057
河童
(
がたらう
)
となつて、
058
貴様
(
きさま
)
の
睾丸
(
きんたま
)
を
引
(
ひき
)
ちぎり、
059
冥途
(
めいど
)
の
旅
(
たび
)
をさしてやつたのだ。
060
アツハヽヽヽ』
061
秋山別
『オイ、
062
モリス、
063
此奴
(
こいつ
)
が
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
つた
餓鬼
(
がき
)
だと
見
(
み
)
えるワイ。
064
サウもう
斯
(
こ
)
う
白状
(
はくじやう
)
致
(
いた
)
した
以上
(
いじやう
)
は、
065
了見
(
れうけん
)
ならぬ。
066
バツチヨ
笠
(
かさ
)
のやうな、
067
骨
(
ほね
)
と
皮
(
かは
)
との
体
(
からだ
)
をしよつて、
068
洒落
(
しやれ
)
たことを
致
(
いた
)
す
亡者
(
もうじや
)
だナア。
069
これから
両人
(
りやうにん
)
が
踏
(
ふ
)
みにじつて
呉
(
く
)
れるから
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
せ』
070
欲皮
『アツハヽヽヽ、
071
女
(
をんな
)
に
捨
(
すて
)
られ、
072
命
(
いのち
)
迄
(
まで
)
棄
(
す
)
てた
腰抜
(
こしぬけ
)
亡者
(
もうじや
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として、
073
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すのだイ。
074
コリヤ
此
(
この
)
欲皮
(
よくかは
)
は
貴様
(
きさま
)
の
見
(
み
)
る
通
(
とほ
)
り、
075
壁下地
(
かべしたぢ
)
が
表
(
あら
)
はれて、
076
ニク
もない
可愛
(
かあい
)
い
男
(
をとこ
)
だが、
077
併
(
しか
)
し
俺
(
おれ
)
の
体
(
からだ
)
は
満身
(
まんしん
)
骨
(
ほね
)
を
以
(
もつ
)
て
固
(
かた
)
めてあるのだぞ。
078
亡者
(
もうじや
)
なぶりの
骨
(
ほね
)
なぶり、
079
見事
(
みごと
)
相手
(
あひて
)
になるなら、
080
なつて
見
(
み
)
よ』
081
モリス
始
(
はじ
)
めて
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
き、
082
モリス
『コリヤ、
083
我利
(
がり
)
々々
(
がり
)
亡者
(
もうじや
)
、
084
欲皮
(
よくかは
)
剥右衛門
(
はぎうゑもん
)
とやら、
085
俺
(
おれ
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
てゐるか』
086
欲皮
『
何
(
なん
)
とも
心得
(
こころえ
)
て
居
(
を
)
らぬワイ。
087
失恋狂
(
しつれんきやう
)
の
川
(
かは
)
はまり、
088
土左衛門
(
どざゑもん
)
の
成
(
な
)
れの
果
(
は
)
て、
089
恋
(
こひ
)
の
焔
(
ほのほ
)
におひかけられて、
090
其
(
その
)
情熱
(
じやうねつ
)
を
消
(
け
)
すべく、
091
此
(
この
)
川辺
(
かはべ
)
迄
(
まで
)
逃
(
に
)
げて
来
(
き
)
よつたモリスぢやない、
092
亡者
(
まうじや
)
だらう。
093
亡者
(
もじや
)
々々
(
もじや
)
致
(
いた
)
して
居
(
ゐ
)
ると、
094
此
(
この
)
欲川
(
よくかは
)
はモウ
容赦
(
ようしや
)
はならぬぞ。
095
女
(
をんな
)
の
手
(
て
)
を
引張
(
ひつぱ
)
つて、
096
都
(
みやこ
)
見物
(
けんぶつ
)
の
亡者引
(
もさひき
)
の
様
(
やう
)
に、
097
見
(
み
)
つともない
何
(
なん
)
の
態
(
ざま
)
だイ。
098
チツとは
恥
(
はぢ
)
を
知
(
し
)
つたが
良
(
よ
)
からうぞ』
099
モリス
『
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しよるのだイ。
100
貴様
(
きさま
)
は
欲
(
よく
)
の
皮
(
かは
)
を
剥
(
は
)
いで、
101
現界
(
げんかい
)
に
居
(
を
)
つた
時
(
とき
)
は、
102
人鬼
(
ひとおに
)
と
云
(
い
)
はれて
来
(
き
)
た
代物
(
しろもの
)
ぢやないか。
103
其
(
その
)
天罰
(
てんばつ
)
が
廻
(
めぐ
)
つて
来
(
き
)
て、
104
河鹿
(
かじか
)
か
何
(
なん
)
ぞの
様
(
やう
)
に、
105
川住居
(
かはずまゐ
)
をしよつて、
106
ガアガア
吐
(
ぬか
)
すと、
107
本当
(
ほんたう
)
の
蛙
(
かわづ
)
になつて
了
(
しま
)
うぞ。
108
蛙
(
かわず
)
の
行列
(
ぎやうれつ
)
向
(
むか
)
う
見
(
み
)
ずと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるぢやないか。
109
蒸
(
む
)
せ
損
(
ぞこな
)
ひの
饅頭
(
まんぢう
)
の
様
(
やう
)
に、
110
かは
許
(
ばか
)
りにへばりつきよつて、
111
現界
(
げんかい
)
でも
喰
(
く
)
へぬ
奴
(
やつ
)
だつたが、
112
ヤツパリ
茲
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
ても
骨
(
ほね
)
だらけで、
113
味
(
あぢ
)
もシヤシヤリもない
喰
(
く
)
へぬ
代物
(
しろもの
)
だなア。
114
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
貴様
(
きさま
)
も
何時迄
(
いつまで
)
もこンな
所
(
ところ
)
に
居
(
を
)
つても
仕方
(
しかた
)
がないぢやないか。
115
モリスさまに
従
(
つ
)
いて
来
(
こ
)
ないか。
116
結構
(
けつこう
)
な
結構
(
けつこう
)
な
針
(
はり
)
の
山
(
やま
)
か、
117
血
(
ち
)
の
池
(
いけ
)
か、
118
茨
(
いばら
)
の
林
(
はやし
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて、
119
蜥蜴
(
とかげ
)
の
丸焼
(
まるやき
)
でも
振
(
ふ
)
れ
舞
(
ま
)
うてやるからのウ』
120
金借
『そんならこの
金借
(
かねかり
)
も
伴
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つてくれないか。
121
只
(
ただ
)
で
貰
(
もら
)
う
事
(
こと
)
なら
蜥蜴
(
とかげ
)
だつて、
122
蛙
(
かへる
)
だつて
構
(
かま
)
うものか、
123
又
(
また
)
只
(
ただ
)
で
案内
(
あんない
)
してくれるのなら、
124
仮令
(
たとへ
)
針
(
はり
)
の
山
(
やま
)
でも
血
(
ち
)
の
池
(
いけ
)
地獄
(
ぢごく
)
でも
構
(
かま
)
やせぬワイ。
125
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
俺
(
おれ
)
は
貰
(
もら
)
ふ
事
(
こと
)
が
好
(
す
)
きな
性分
(
しやうぶん
)
だい。
126
出
(
だ
)
す
事
(
こと
)
なら
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
すのも
手
(
て
)
を
出
(
だ
)
すのも
嫌
(
きら
)
ひな
亡者
(
もうじや
)
さまだよ。
127
サア
早
(
はや
)
く
行
(
い
)
かう』
128
モリス
『こりや
嘘
(
うそ
)
だ、
129
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
な
者
(
もの
)
を
道伴
(
みちづ
)
れにして
如何
(
どう
)
なるものかい。
130
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
がシーズン
河
(
がは
)
へ
飛込
(
とびこ
)
ンで、
131
冥途
(
めいど
)
の
道
(
みち
)
に
待
(
ま
)
つてゐるのだから、
132
其
(
その
)
様
(
やう
)
な
者
(
もの
)
を
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
かうものなら、
133
それこそモリスの
男前
(
をとこまへ
)
が
下
(
さ
)
がつて
了
(
しま
)
うワイ』
134
金借
『
貴様
(
きさま
)
は
冥途
(
めいど
)
へ
来
(
き
)
て
迄
(
まで
)
二枚舌
(
にまいじた
)
を
使
(
つか
)
うのだな。
135
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
な
大悪人
(
だいあくにん
)
だ。
136
ヨシ
今
(
いま
)
金借
(
かねかり
)
さまが
其
(
その
)
二枚舌
(
にまいじた
)
を
抜
(
ぬ
)
いてやらう』
137
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
138
川縁
(
かはべり
)
の
手頃
(
てごろ
)
の
石
(
いし
)
をクレツとめくると、
139
其
(
その
)
下
(
した
)
から、
140
沢山
(
たくさん
)
の
釘抜
(
くぎぬき
)
がガチヤガチヤする
程
(
ほど
)
現
(
あら
)
はれて
来
(
き
)
た。
141
金借
(
かねかり
)
亡者
(
もうじや
)
は、
142
矢庭
(
やには
)
に
之
(
これ
)
を
手
(
て
)
に
取
(
と
)
り、
143
モリスに
向
(
むか
)
つて
襲
(
おそ
)
ひ
来
(
きた
)
る
猛烈
(
まうれつ
)
な
勢
(
いきほひ
)
に、
144
流石
(
さすが
)
のモリスも
堪
(
たま
)
りかね、
145
忽
(
たちま
)
ちザンブと
激流
(
げきりう
)
に
飛込
(
とびこ
)
み、
146
モリス
『
秋山別
(
あきやまわけ
)
早
(
はや
)
く
来
(
きた
)
れ』
147
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
148
抜手
(
ぬきで
)
を
切
(
き
)
つて、
149
流
(
なが
)
れ
渡
(
わた
)
りに
向
(
むか
)
う
岸
(
ぎし
)
へヤツと
取
(
と
)
りつき、
150
着物
(
きもの
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎ
棄
(
す
)
て、
151
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
圧搾
(
あつさく
)
し
始
(
はじ
)
めた。
152
秋山別
(
あきやまわけ
)
も
辛
(
から
)
うじて
泳
(
およ
)
ぎ
着
(
つ
)
き、
153
之
(
こ
)
れ
亦
(
また
)
衣類
(
いるゐ
)
を
絞
(
しぼ
)
り、
154
二人
(
ふたり
)
は
川向
(
かはむか
)
うの
二人
(
ふたり
)
の
亡者
(
もうじや
)
に、
155
腮
(
あご
)
をつき
出
(
だ
)
し
拳骨
(
げんこつ
)
を
固
(
かた
)
めて
空
(
くう
)
をなぐり、
156
十分
(
じふぶん
)
に
嘲弄
(
てうろう
)
し
乍
(
なが
)
ら、
157
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
何者
(
なにもの
)
にか
引
(
ひ
)
かるる
様
(
やう
)
な
心地
(
ここち
)
して、
158
北
(
きた
)
へ
北
(
きた
)
へと
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
159
何
(
なん
)
とも
譬
(
たと
)
へ
様
(
やう
)
のない
不快
(
ふくわい
)
な
血腥
(
ちなまぐさ
)
い
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
いて
来
(
く
)
る。
160
油
(
あぶら
)
で
煮
(
に
)
られる
様
(
やう
)
な
熱
(
あつ
)
さを
感
(
かん
)
じて
来
(
き
)
た。
161
二人
(
ふたり
)
はヘタヘタになつて、
162
どつか
木
(
き
)
の
蔭
(
かげ
)
があれば、
163
休
(
やす
)
まうと、
164
目
(
め
)
をキヨロつかせ、
165
そこらあたりを
眺
(
なが
)
めて
居
(
ゐ
)
ると、
166
何
(
なん
)
とも
形容
(
けいよう
)
の
出来
(
でき
)
ない
一本
(
いつぽん
)
の
木
(
き
)
が
枯葉
(
かれは
)
を
淋
(
さび
)
しげに
宿
(
やど
)
して
立
(
た
)
つて
居
(
を
)
る。
167
せめては
此
(
この
)
木蔭
(
こかげ
)
にと
立寄
(
たちよ
)
つて
見
(
み
)
れば、
168
厭
(
いや
)
らしい
種々
(
いろいろ
)
の
毛虫
(
けむし
)
がウジヤつてゐる。
169
二人
(
ふたり
)
は
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
170
又
(
また
)
もや
焼
(
や
)
きつく
様
(
やう
)
な
大地
(
だいち
)
の
上
(
うへ
)
を
歩
(
あゆ
)
み
出
(
だ
)
した。
171
少
(
すこ
)
しく
前方
(
ぜんぱう
)
に
萱
(
かや
)
を
以
(
もつ
)
て
葺
(
ふ
)
いた
小
(
ちい
)
さい
家
(
いへ
)
が、
172
珍
(
めづら
)
しくも
只
(
ただ
)
一軒
(
いつけん
)
建
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
173
これ
幸
(
さいは
)
ひと
立寄
(
たちよ
)
つてソツと
草
(
くさ
)
で
編
(
あ
)
ンだ
戸
(
と
)
の
隙間
(
すきま
)
から、
174
中
(
なか
)
を
覗
(
のぞ
)
くと、
175
爺
(
ぢい
)
とも
婆
(
ばば
)
とも
見当
(
けんたう
)
のつかぬ
老人
(
らうじん
)
が
唯一人
(
ただひとり
)
、
176
水涕
(
みづばな
)
をズーズーと
垂
(
た
)
らし
乍
(
なが
)
ら、
177
切
(
しき
)
りに
草鞋
(
わらぢ
)
を
作
(
つく
)
つてゐる。
178
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
外
(
そと
)
から、
179
秋山別
『モシモシお
爺
(
ぢ
)
イさまかお
婆
(
ば
)
アさまか、
180
どちらかは
知
(
し
)
りませぬが、
181
吾々
(
われわれ
)
は
旅人
(
たびびと
)
で
御座
(
ござ
)
います。
182
余
(
あま
)
り
暑
(
あつ
)
いので、
183
最早
(
もはや
)
やり
切
(
き
)
れなくなりました。
184
どうぞあなたの
涼
(
すず
)
しい
御
(
お
)
宅
(
うち
)
で、
185
暫
(
しばら
)
く
休
(
やす
)
まして
下
(
くだ
)
さいな』
186
小屋
(
ごや
)
の
中
(
なか
)
より
皺枯
(
しわが
)
れた
声
(
こゑ
)
で、
187
(脱皮婆)
『ここは
焦熱
(
せうねつ
)
地獄
(
ぢごく
)
の
八丁目
(
はつちやうめ
)
だ。
188
能
(
よ
)
うマア
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
うて
御座
(
ござ
)
つた。
189
閻魔
(
えんま
)
大王
(
だいわう
)
様
(
さま
)
から、
190
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
が
茲
(
ここ
)
へ
来
(
く
)
るから、
191
茲
(
ここ
)
に
待伏
(
まちぶ
)
せして
居
(
を
)
れと
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
を
受
(
う
)
けて、
192
二三
(
にさん
)
日前
(
にちまへ
)
から
待
(
ま
)
つてゐたのだよ。
193
好
(
よ
)
い
所
(
ところ
)
へ
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れた。
194
サアゆつくりと
這入
(
はい
)
つて
休息
(
きうそく
)
さつしやい。
195
やがて
赤鬼
(
あかおに
)
や
黒鬼
(
くろおに
)
が
火
(
ひ
)
の
車
(
くるま
)
を
持
(
も
)
つて、
196
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
を
迎
(
むか
)
へに
来
(
く
)
るから、
197
マア
楽
(
たのし
)
みて
待
(
ま
)
つてゐるがよからう。
198
一度
(
いちど
)
は
火
(
ひ
)
の
車
(
くるま
)
に
乗
(
の
)
つて
見
(
み
)
るのも
面白
(
おもしろ
)
からうぞや』
199
秋山別
『モシモシそりやちつと
困
(
こま
)
るぢやありませぬか。
200
如何
(
どう
)
して
吾々
(
われわれ
)
がそンな
火
(
ひ
)
の
車
(
くるま
)
に
乗
(
の
)
らねばならぬ
様
(
やう
)
な
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しましたか。
201
そりや
大方
(
おほかた
)
人違
(
ひとちが
)
ひぢや
御座
(
ござ
)
いますまいかなア』
202
(脱皮婆)
『
儂
(
わし
)
は
焼野
(
やけの
)
ケ
原
(
はら
)
の
脱皮婆
(
だつぴばば
)
アと
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
だ。
203
三途
(
さんづ
)
の
川
(
かは
)
には
脱衣婆
(
だついばば
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
が
居
(
を
)
つて
着物
(
きもの
)
を
脱
(
ぬ
)
がすが、
204
そこを
通
(
とほ
)
る
奴
(
やつ
)
は
罪
(
つみ
)
の
軽
(
かる
)
い
連中
(
れんぢう
)
だよ。
205
この
焦熱
(
せうねつ
)
地獄
(
ぢごく
)
の
旅行
(
りよかう
)
する
奴
(
やつ
)
は
最
(
もつと
)
も
悪
(
わる
)
い
罪人
(
つみびと
)
が
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
所
(
ところ
)
だ。
206
それだから、
207
お
前
(
まへ
)
の
肉
(
にく
)
の
皮
(
かは
)
をスツカリ
剥
(
は
)
ぎ
取
(
と
)
つて、
208
剥製
(
はくせい
)
にして
黄泉
(
よみぢ
)
の
都
(
みやこ
)
の
博物館
(
はくぶつくわん
)
に
陳列
(
ちんれつ
)
し、
209
皮
(
かは
)
を
剥
(
む
)
いだ
後
(
あと
)
の
肉体
(
にくたい
)
は
火
(
ひ
)
の
車
(
くるま
)
に
乗
(
の
)
せて、
210
閻魔
(
えんま
)
の
庁
(
ちやう
)
へ
送
(
おく
)
り、
211
鬼
(
おに
)
共
(
ども
)
が
喜
(
よろこ
)
びて、
212
塩焼
(
しほやき
)
にして
食
(
く
)
て
了
(
しま
)
うのだから、
213
心配
(
しんぱい
)
することはない。
214
今
(
いま
)
となつて
心配
(
しんぱい
)
した
所
(
ところ
)
で
駄目
(
だめ
)
だよ。
215
チヤンときまり
切
(
き
)
つた
運命
(
うんめい
)
だから……』
216
モリス
『お
婆
(
ば
)
アさま、
217
そりや
本当
(
ほんたう
)
ですかい。
218
チツとモリスには
合点
(
がてん
)
が
往
(
ゆ
)
きませぬがなア』
219
脱皮婆
『
合点
(
がてん
)
が
往
(
ゆ
)
かぬ
筈
(
はず
)
だよ。
220
合点
(
がてん
)
の
往
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
計
(
ばか
)
りやつて
来
(
き
)
たのだから、
221
無理
(
むり
)
はなけね
共
(
ども
)
、
222
もういい
加減
(
かげん
)
に
因縁
(
いんねん
)
づくぢやと
合点
(
がてん
)
をせなきやならなくなつて
来
(
き
)
たよ。
223
お
前
(
まへ
)
を
迎
(
むか
)
へに
来
(
く
)
る
火
(
ひ
)
の
車
(
くるま
)
は
自惚車
(
うぬぼれぐるま
)
といふ
妙
(
めう
)
な
脱線
(
だつせん
)
し
転覆
(
てんぷく
)
する
車
(
くるま
)
で
危
(
あぶ
)
ないものだが、
224
紅井
(
くれなゐ
)
の
様
(
やう
)
な
赤
(
あか
)
い
顔
(
かほ
)
をして、
225
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
いた
女
(
をんな
)
の
鬼
(
おに
)
が
一人
(
ひとり
)
、
226
又
(
また
)
少
(
すこ
)
し
年増
(
としま
)
のエリナと
云
(
い
)
ふ
女鬼
(
めおに
)
が
一人
(
ひとり
)
、
227
火
(
ひ
)
の
車
(
くるま
)
を
二
(
ふた
)
つ
持
(
も
)
つて、
228
お
前
(
まへ
)
を
迎
(
むか
)
へに
来
(
く
)
る
段取
(
だんどり
)
がチヤンと
出来
(
でき
)
てゐるのだから、
229
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
なりと
気楽
(
きらく
)
に
歌
(
うた
)
でも
唄
(
うた
)
つておかつしやい。
230
火
(
ひ
)
の
車
(
くるま
)
が
来
(
き
)
たが
最後
(
さいご
)
、
231
お
前
(
まへ
)
の
体
(
からだ
)
は
不動
(
ふどう
)
さまのように、
232
恋
(
こひ
)
の
情火
(
じやうくわ
)
が
燃
(
も
)
え
立
(
た
)
つて、
233
熱
(
あつ
)
い
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はねばならぬのだからな。
234
あゝ
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
不愍
(
ふびん
)
なものだワイ。
235
火
(
ひ
)
の
車
(
くるま
)
別
(
べつ
)
に
地獄
(
ぢごく
)
にやなけれ
共
(
ども
)
236
己
(
おの
)
が
作
(
つく
)
つて
己
(
おの
)
が
乗
(
の
)
り
行
(
ゆ
)
く
237
とか
云
(
い
)
つて、
238
お
前
(
まへ
)
が
作
(
つく
)
つた
完全
(
くわんぜん
)
無欠
(
むけつ
)
な
火
(
ひ
)
の
車
(
くるま
)
だから、
239
誰
(
たれ
)
に
遠慮
(
ゑんりよ
)
も
要
(
い
)
らぬ。
240
ドンドンと
乗
(
の
)
つて
行
(
ゆ
)
かつしやれや。
241
何事
(
なにごと
)
も
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
自業
(
じごう
)
自得
(
じとく
)
だ。
242
善因
(
ぜんいん
)
善果
(
ぜんぐわ
)
、
243
悪因
(
あくいん
)
悪果
(
あくくわ
)
、
244
蒔
(
ま
)
かぬ
種
(
たね
)
は
生
(
は
)
えぬとやら、
245
自分
(
じぶん
)
が
蒔
(
ま
)
いた
種
(
たね
)
が
成長
(
せいちやう
)
して、
246
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
き
実
(
み
)
がのり、
247
又
(
また
)
自分
(
じぶん
)
が
収穫
(
しうくわく
)
をせなくちやならぬ
天地
(
てんち
)
自然
(
しぜん
)
の
法則
(
はふそく
)
だからなア』
248
秋山別
『エー、
249
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
別
(
べつ
)
に
女
(
をんな
)
に
対
(
たい
)
し、
250
恋慕
(
れんぼ
)
は
致
(
いた
)
しましたが、
251
まだ
生
(
うま
)
れてから、
252
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
犯
(
をか
)
したことは
御座
(
ござ
)
りませぬ。
253
何
(
なに
)
が
為
(
ため
)
にそれ
程
(
ほど
)
重
(
おも
)
い
罪
(
つみ
)
を
科
(
くわ
)
せられるのでせうか。
254
是
(
こ
)
れ
位
(
くらゐ
)
な
微罪
(
びざい
)
を、
255
さう
喧
(
や
)
かましく
詮議
(
せんぎ
)
立
(
た
)
てをし、
256
処罰
(
しよばつ
)
をして
居
(
を
)
つたならば、
257
地獄
(
ぢごく
)
の
牢屋
(
らうや
)
もやり
切
(
き
)
れますまい』
258
脱皮婆
『
軽
(
かる
)
い
罪
(
つみ
)
は
皆
(
みな
)
見
(
み
)
のがして、
259
三途
(
さんづ
)
の
川
(
かは
)
で
衣
(
ころも
)
を
脱
(
ぬ
)
がし、
260
それから
生
(
うま
)
れ
赤子
(
あかご
)
の
赤裸
(
まつぱだか
)
にして、
261
霊
(
みたま
)
の
故郷
(
こきやう
)
へ
帰
(
かへ
)
してやるのだが、
262
お
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
な
罪人
(
ざいにん
)
は
何
(
ど
)
うしても
帰
(
かへ
)
す
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないよ。
263
又
(
また
)
何程
(
なにほど
)
立派
(
りつぱ
)
な
審判
(
さには
)
の
鬼
(
おに
)
だとて、
264
中
(
なか
)
には
盲
(
めくら
)
もあるから、
265
お
前
(
まへ
)
の
罪
(
つみ
)
は
俺
(
おれ
)
が
聞
(
き
)
いても、
266
ホンの
軽
(
かる
)
い
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
ふが、
267
火
(
ひ
)
の
車
(
くるま
)
に
乗
(
の
)
せられて、
268
焦熱
(
せうねつ
)
地獄
(
ぢごく
)
へ
落
(
おと
)
してやらうと
判決
(
はんけつ
)
されたのだから、
269
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
アの
力
(
ちから
)
ぢや
如何
(
どう
)
する
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ない。
270
閻魔
(
えんま
)
さまだつて
直接
(
ちよくせつ
)
に
調
(
しら
)
べるのぢやないから、
271
疎漏
(
そろう
)
もあるだらうし、
272
無実
(
むじつ
)
の
罪
(
つみ
)
で
来
(
き
)
て
居
(
を
)
る
憐
(
あは
)
れな
人間
(
にんげん
)
もチヨイチヨイあるやうだ。
273
何程
(
なにほど
)
冥途
(
めいど
)
の
規則
(
きそく
)
が
立派
(
りつぱ
)
に
出来上
(
できあが
)
つて
居
(
を
)
つても、
274
それを
運用
(
うんよう
)
する
審判
(
さには
)
の
鬼
(
おに
)
が
盲
(
めくら
)
だつたら
駄目
(
だめ
)
だからな。
275
マア
諦
(
あきら
)
めるより
仕方
(
しかた
)
があるまいぞよ。
276
上
(
うへ
)
の
大将
(
たいしやう
)
からして、
277
盲
(
めくら
)
の
幽霊
(
いうれい
)
計
(
ばか
)
りだから
困
(
こま
)
つたものだよ。
278
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
アもお
前
(
まへ
)
には
満腔
(
まんくう
)
の
同情
(
どうじやう
)
を
表
(
へう
)
してゐるけれど、
279
上
(
うへ
)
から
押
(
おさ
)
へられるのだから、
280
どうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
やしない。
281
お
前
(
まへ
)
の
言訳
(
いひわけ
)
を
一
(
ひと
)
つでもせうものなら、
282
それこそ
大変
(
たいへん
)
だ。
283
下
(
した
)
の
役
(
やく
)
の
癖
(
くせ
)
に
上役
(
うはやく
)
の
裁
(
さば
)
いた
事
(
こと
)
を、
284
何
(
なに
)
ゴテゴテ
言
(
い
)
ふかと
云
(
い
)
つて、
285
一遍
(
いつぺん
)
に
免職
(
めんしよく
)
さされて
了
(
しま
)
うのだ。
286
さうすればお
前
(
まへ
)
が
今
(
いま
)
渡
(
わた
)
つて
来
(
き
)
た
欲
(
よく
)
の
川
(
かは
)
に
居
(
を
)
つた
我利
(
がり
)
々々
(
がり
)
亡者
(
もうじや
)
の
様
(
やう
)
に
骨
(
ほね
)
と
皮
(
かは
)
とになつて
了
(
しま
)
はねばならぬ。
287
アーア
暗
(
くら
)
がりの
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
と
云
(
い
)
ふものは
情
(
なさけ
)
ないものだわい』
288
と
婆
(
ば
)
アさまは
鼻
(
はな
)
をすすり、
289
そろそろと
泣
(
な
)
き
出
(
だ
)
した。
290
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へガラガラガラとけたたましき
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
て、
291
いかめしき
面
(
つら
)
した
赤鬼
(
あかおに
)
、
292
青鬼
(
あをおに
)
、
293
金平糖
(
こんぺいたう
)
を
長
(
なが
)
うした
様
(
やう
)
な
金棒
(
かなぼう
)
を
携
(
たづさ
)
へ、
294
二台
(
にだい
)
の
火
(
ひ
)
の
車
(
くるま
)
を
引
(
ひき
)
つれて、
295
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
向
(
むか
)
つて
勢
(
いきほひ
)
よく
駆
(
か
)
けつけ
来
(
きた
)
る。
296
二人
(
ふたり
)
は『アツ』と
驚
(
おどろ
)
き
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
倒
(
たふ
)
れ
伏
(
ふ
)
しける。
297
(
大正一一・八・二〇
旧六・二八
松村真澄
録)
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(B)
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【第20章 脱皮婆|第31巻|海洋万里|霊界物語|/rm3120】
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