霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二三章 化老爺(ばけおやぢ)〔八八九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻 篇:第4篇 言霊将軍 よみ(新仮名遣い):ことたましょうぐん
章:第23章 化老爺 よみ(新仮名遣い):ばけおやじ 通し章番号:889
口述日:1922(大正11)年08月20日(旧06月28日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
秋山別は烈風に吹き飛ばされ、モリスと別れてしまい、やむを得ずただ一人山頂に向けて歩き始めていた。満点の星光のもと、天を仰いで神徳を賛美しつつあった。
すると突如大音響がして、たちまち一天かき曇り大粒の雨がバラバラと降り出した。秋山別が老木の陰に雨を避けようとすると、突然白髪異様の怪物が現れて、秋山別に掴みかかろうとした。
秋山別はとっさに大神と諸神を念じた。怪物はアマゾン川に永住する八岐大蛇の化身であると名乗った。そしてここから引き返すようにと秋山別を脅しにかかった。秋山別が三五教の宣伝使として不退転の決意を示すと、怪物は言霊歌で三五教を威喝・罵倒した。
秋山別は臍下丹田に息を込めて天の数歌を歌った。すると怪物の顔が少しく和らいだ。怪物は誠の言霊に弱いとうっかり口をすべらせた。秋山別はそれを力に、怪物の言霊歌を受けて、返歌を歌った。
怪物は、これまでの秋山別の悪行を並べ立てたが、秋山別は動じずに怪物に応答し、さらに天の数歌を繰り返すと、怪物は次第に小さくなって、二三尺の童子の姿となってしまった。怪物は捨て台詞を吐くと、秋山別の前から消えてしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-07-14 04:53:04 文字数:3376 OBC :rm3123
愛善世界社版:262頁 八幡書店版:第6輯 139頁 修補版: 校定版:270頁 普及版:123頁 初版: ページ備考:
001 秋山別(あきやまわけ)は烈風(れつぷう)に吹(ふ)き散(ち)らされ、002力(ちから)と頼(たの)みしモリスには別(わか)れ、003止(や)むを得(え)ず只一人(ただひとり)、004屏風(びやうぶ)山脈(さんみやく)の帽子(ぼうし)ケ岳(だけ)を目当(めあ)てに登(のぼ)りつつ、005又(また)もや日(ひ)を暮(く)らして、006老木(らうぼく)茂(しげ)る木蔭(こかげ)に立寄(たちよ)り、007身(み)を横(よこ)たへて茲(ここ)に夜(よ)の明(あ)くるを待(ま)つ事(こと)とせり。
008 満天(まんてん)の星光(せいくわう)は燦然(さんぜん)として金色(こんじき)の光(ひかり)を放(はな)ち、009紺碧(こんぺき)の空(そら)は、010何(なん)となく爽快(さうくわい)を覚(おぼ)え、011天(てん)を仰(あふ)いで神徳(しんとく)を讃美(さんび)しつつありし折(をり)、012俄(にはか)に山岳(さんがく)も崩(くづ)るる計(ばか)りの大音響(だいおんきやう)聞(きこ)え来(きた)り、013一天(いつてん)忽(たちま)ち曇(くも)りて、014大粒(おほつぶ)の雨(あめ)バラバラと降(ふ)り出(い)でぬ。
015 秋山別(あきやまわけ)は止(や)むを得(え)ず、016老木(らうぼく)の蔭(かげ)に立寄(たちよ)り雨(あめ)を避(さ)けむとする折(をり)しも、017忽然(こつぜん)として現(あら)はれたる白髪(はくはつ)異様(いやう)の大怪物(だいくわいぶつ)、018鏡(かがみ)の如(ごと)き巨眼(きよがん)を剥(む)き出(いだ)し、019鼻(はな)高(たか)く、020口(くち)大(おほ)きく、021銅(あかがね)の如(ごと)き面相(めんさう)にて、022秋山別(あきやまわけ)を睨(ね)めつけにける。023秋山別(あきやまわけ)は轟(とどろ)く胸(むね)を押(おさ)へ、024臍下(さいか)丹田(たんでん)に神(しん)を納(をさ)め、025怪物(くわいぶつ)の顔(かほ)を瞬(またた)きもせず睨(ね)めつけゐたり。026怪物(くわいぶつ)も又(また)、027ビクともせず、028地上(ちじやう)より生(は)えたる樹木(じゆもく)の如(ごと)く突立(つつた)つて、029赤(あか)、030青(あを)、031白(しろ)、032黒(くろ)、033黄(き)、034紫(むらさき)と幾度(いくど)も顔色(かほいろ)を変(へん)じ、035爪(つめ)の長(なが)き毛(け)だらけの巨腕(きよわん)をヌツと前(まへ)につき出(だ)し、036今(いま)や秋山別(あきやまわけ)を、037一掴(ひとつか)みにひン握(にぎ)り、038投(な)げ捨(す)てむとするの勢(いきほひ)を示(しめ)しけるにぞ、039秋山別(あきやまわけ)は心(こころ)の中(うち)にて……国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)、040豊国姫(とよくにひめの)大神(おほかみ)、041国大立(くにひろたちの)大神(おほかみ)、042日(ひ)の出神(でのかみ)、043木(こ)の花姫(はなひめの)神(かみ)、044金勝要(きんかつかねの)大神(おほかみ)、045守(まも)り玉(たま)へ幸(さち)はひ玉(たま)へ……と祈願(きぐわん)をこらし居(ゐ)たりしが、046怪物(くわいぶつ)は大口(おほぐち)をあけて、047雷(らい)の如(ごと)き巨声(きよせい)にて笑(わら)ひ出(だ)しぬ。
048怪物『アツハヽヽヽ、049秋山別(あきやまわけ)の宣伝使(せんでんし)、050能(よ)つく聞(き)け! 吾(われ)こそはアマゾン河(がは)の森林(しんりん)に永住(えいぢう)致(いた)す八岐(やまた)大蛇(をろち)の化身(けしん)であるぞ。
051イヽヽー如何(いか)に汝(なんぢ)、052勇猛(ゆうもう)なりとて吾(われ)等(ら)が一族(いちぞく)に向(むか)つて言霊線(ことたません)を発射(はつしや)し、053吾(われ)等(ら)が永年(ながねん)の棲処(すみか)を荒(あら)さむと致(いた)す憎(につく)き奴原(やつばら)、
054ウヽヽーうつかり森林(しんりん)に向(むか)うものならば、055某(それがし)が神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の術(わざ)を以(もつ)て、056汝(なんぢ)が身体(からだ)を寸断(すんだん)し呉(く)れむ。057万一(まんいち)汝(なんぢ)改心(かいしん)をなし、058是(これ)より引返(ひきかへ)すに於(おい)ては、059汝(なんぢ)が罪(つみ)を許(ゆる)し、060生命(いのち)を助(たす)け遣(つか)はすべし。061返答(へんたふ)は如何(いか)に』
062と呶鳴(どな)り立(た)てけるを、063秋山別(あきやまわけ)は不退転(ふたいてん)の信念(しんねん)を固(かた)め、
064秋山別『エヽヽー面倒(めんだう)な、065某(それがし)は国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)の教(をしへ)の御子(みこ)、066三五教(あななひけう)の神司(かむづかさ)、067汝(なんぢ)が如(ごと)き曲神(まがかみ)の言(げん)を用(もち)ゐて、068のめのめ引返(ひきかへ)す様(やう)な腰抜(こしぬけ)武士(ぶし)ではないぞ。
069オヽヽー恐(おそ)ろしき其(その)面構(つらがま)へを致(いた)し、070活神(いきがみ)の宣伝使(せんでんし)を脅(おど)しつけようと致(いた)しても到底(たうてい)駄目(だめ)だ。071早(はや)く姿(すがた)を隠(かく)せ』
072怪物『ヤイ秋山別(あきやまわけ)、073良(よ)つく聴(き)け。
074カヽヽー神々(かみがみ)と申(まを)すが、075国治立(くにはるたちの)尊(みこと)が神(かみ)ならば、076八岐(やまた)大蛇(おろち)も亦(また)神(かみ)であるぞよ。077神(かみ)と云(い)ふ点(てん)に於(おい)て何処(どこ)に違(ちが)つた所(ところ)があるか。078此(この)方(はう)はウラル教(けう)を守護(しゆご)致(いた)す元(もと)の神(かみ)にして、079世界(せかい)の先祖(せんぞ)と聞(きこ)えたるアダム、080エバの霊(みたま)より現(あら)はれ出(い)でたる者(もの)なるぞ。081言(い)はば汝(なんぢ)ら人民(じんみん)の祖神(おやがみ)である。082子(こ)が親(おや)に対(たい)してたてつくと云(い)ふ道理(だうり)は何処(どこ)にあるか、
083キヽヽ鬼門(きもん)の金神(こんじん)とはそりや何(なん)の囈言(たはごと)、084八岐(やまた)大蛇(おろち)が悪神(わるがみ)なれば、085鬼門(きもん)の鬼(き)の字(じ)は又(また)鬼(おに)ではないか、
086クヽヽ下(くだ)らぬ事(こと)を申(まを)すより、087早(はや)く往生(わうじやう)致(いた)せば、088苦労(くらう)なしに神徳(しんとく)が頂(いただ)けるではないか、
089ケヽヽ見当(けんたう)の取(と)れぬ神界(しんかい)の模様(もやう)、090人間(にんげん)の分際(ぶんざい)として如何(どう)して分(わか)らうぞ、
091コヽヽ是(これ)位(くらゐ)神(かみ)が言葉(ことば)を分(わ)けて申(まを)したら、092如何(いか)な頑迷(ぐわんめい)な其(その)方(はう)でも、093合点(がてん)が往(い)つたであらう。
094サヽヽさつぱりと今迄(いままで)の心(こころ)を取直(とりなほ)し、095大蛇(をろち)の神(かみ)に帰順(きじゆん)致(いた)すか、
096シヽヽしぶとう致(いた)して居(ゐ)ると最早(もはや)量見(れうけん)はならぬぞ、
097スヽヽ好(すき)だ嫌(きら)ひだと、098神(かみ)に区別(くべつ)を立(た)て、099世界(せかい)をうろたへまはる腰抜共(こしぬけども)、
100セヽヽせせこましい事(こと)を思(おも)はずに、101天地(てんち)一体(いつたい)の真理(しんり)を弁(わきま)へ、102早(はや)く此(この)方(はう)に帰順(きじゆん)せよ、
103ソヽヽそれが其(その)方(はう)に取(と)つて最(もつと)も安全(あんぜん)な道(みち)であるぞ、
104タヽヽ高天原(たかあまはら)の聖地(せいち)錦(にしき)の宮(みや)の神司(かむづかさ)だとか、105イソの館(やかた)に鎮(しづ)まる素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の部下(ぶか)だとか、
106チヽヽ小(ちい)さき隔(へだ)てを立(た)てて、107自(みづか)ら小(ちい)さき穴(あな)に迷(まよ)ひ込(こ)み、
108ツヽヽ月(つき)の大神(おほかみ)許(ばか)りを持(も)て囃(はや)し、
109テヽヽ天(てん)に輝(かがや)く日(ひ)の大神(おほかみ)を次(つぎ)に致(いた)し、
110トヽヽ十曜(とえう)の神紋(しんもん)を閃(ひらめ)かし、111世界(せかい)を宣伝使(せんでんし)面(づら)さげて、112うろたへ廻(まは)るとは何(なん)のたわ事(ごと)、113早(はや)く此(この)方(はう)の傘下(さんか)に集(あつ)まり来(きた)つて、114吾(わが)神業(しんげふ)に奉仕(ほうし)するか、115さもなくば汝(なんぢ)が身体(しんたい)は風前(ふうぜん)の燈火(ともしび)だ。116ハヽヽヽヽ』
117と四辺(あたり)に響(ひび)く高笑(たかわら)ひ。118秋山別(あきやまわけ)は暗夜(あんや)、119此(この)深山(しんざん)に於(おい)て、120斯(か)かる怪物(くわいぶつ)に出会(であ)ひ、121胸(むね)轟(とどろ)き、122身(み)の毛(け)もよだつ計(ばか)りに恐(おそ)ろしくなり来(き)たりぬ。123されど飽(あ)く迄(まで)も、124一旦(いつたん)心(こころ)にきめた信仰(しんかう)を翻(ひるがへ)さじと、125臍下(さいか)丹田(たんでん)に息(いき)をこめ『一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)百(もも)千(ち)万(よろづ)』と辛(から)うじて、126天(あま)の数歌(かずうた)を奏上(そうじやう)すれば、127怪物(くわいぶつ)の顔(かほ)は漸(やうや)くに和(やはら)ぎ少(すこ)しく笑(ゑみ)を湛(たた)へ居(ゐ)るにぞ、128秋山別(あきやまわけ)は吾(わが)言霊(ことたま)の非常(ひじやう)に効力(かうりよく)ありしことを心中(しんちう)に打喜(うちよろこ)び、129怪物(くわいぶつ)に向(むか)つて、
130秋山別『オイお爺(ぢ)イさま、131随分(ずいぶん)偉(えら)い勢(いきほひ)で、132吾々(われわれ)を威喝(ゐかつ)したぢやないか。133そンな事(こと)を怖(こわ)がる様(やう)な者(もの)は只(ただ)の一人(ひとり)もないぞよ。134俺(おれ)の怖(こわ)いと云(い)ふのはそンな化州(ばけしう)でも何(なん)でもないワ』
135怪物『ワツハヽヽヽ、136それなら其(その)方(はう)は何(なに)が一番(いちばん)怖(こわ)いと思(おも)ふか。137此(この)爺(おやぢ)は恐(おそ)ろしくないか』
138秋山別『ヘン、139何(なに)が恐(おそ)ろしいのだ。140夜(よる)になればそンな偉相(えらさう)な面(つら)をして出(で)て来(く)るが、141お日様(ひさま)がお出(で)ましになると、142すぐに消(き)えて了(しま)ふ代物(しろもの)が恐(おそ)ろしくて、143此(この)世(よ)の中(なか)が生(い)きて行(い)けるかい。144コリヤ此(この)方(はう)は三途(さんづ)の川(かは)を渡(わた)り、145焦熱(せうねつ)地獄(ぢごく)へ往(ゆ)き、146地獄(ぢごく)の底(そこ)まで探険(たんけん)して、147実地(じつち)修養(しうやう)を経(へ)た秋山別(あきやまわけ)の宣伝使(せんでんし)だぞ。148お前(まへ)達(たち)が怖(こわ)くて堪(たま)らうかい』
149怪物『そンなら、150一(ひと)つ怖(こわ)い者(もの)があると云(い)つたのは何(なん)の事(こと)だい。151俺(おれ)の怖(こわ)いと云(い)ふのは誠(まこと)と云(い)ふ一字(いちじ)許(ばか)りだ』
152とウツカリ怪物(くわいぶつ)は口(くち)を辷(すべ)らしたるを、153秋山別(あきやまわけ)は之(これ)を聞(き)いて、
154秋山別『ハヽー此奴(こいつ)、155誠(まこと)が怖(こわ)いと云(い)ひよつたなア。156大方(おほかた)言霊(ことたま)に恐(おそ)れてゐるのだらう。157ヨシ、158之(これ)からグヅグヅ吐(ぬか)しよつたら、159言霊(ことたま)を連発(れんぱつ)してやるのだナア』
160と腹(はら)の中(なか)で決定(きめ)て了(しま)つた。
161秋山別『オイ爺(ぢぢ)、162モウしめたものだ。163貴様(きさま)は誠(まこと)が一番(いちばん)怖(こわ)いと云(い)ひよつた。164誠生粋(まこときつすゐ)の大和(やまと)魂(だましひ)の言霊(ことたま)をこれから発射(はつしや)してやるから、165其(その)積(つも)りで居(を)れ。
166ナヽヽ何(なん)と申(まを)しても、167此(この)言霊(ことたま)は俺(おれ)の口(くち)から出(で)るのだから、168貴様(きさま)の力(ちから)でとめる訳(わけ)にも行(ゆ)こまい、169早(はや)く改心(かいしん)を致(いた)さぬと、
170ニヽヽ二進(につち)も三進(さつち)も行(い)かさぬ様(やう)に、171秋山別(あきやまわけ)がここで封(ふう)じて了(しま)つてやるぞ』
172怪物『ヌヽヽ吐(ぬか)すな吐(ぬか)すな。173強盗(ぬすびと)猛々(たけだけ)しいとは其(その)方(はう)の事(こと)だぞ。174主人(しゆじん)の娘(むすめ)を盗(ぬす)み出(だ)さうと致(いた)した痴者(しれもの)奴(め)、
175ネヽヽ佞(ねぢ)け曲(まが)つた其(その)方(はう)の言霊(ことたま)が、176此(この)方(はう)に対(たい)して応用(おうよう)が出来(でき)て堪(たま)るものかい、
177ノヽヽ野天狗(のてんぐ)、178野狸(のだぬき)、179野狐(のぎつね)の様(やう)な厄雑神(やくざがみ)の容物(いれもの)となり、180言霊(ことたま)を発射(はつしや)するのなンのと、
181ハヽヽ腹(はら)が撚(よ)れるワイ、182余(あま)り可笑(をか)しうてのウ。
183ヒヽヽ姫(ひめ)の後(あと)を野良犬(のらいぬ)の様(やう)に嗅(か)ぎまはる、
184フヽヽ不束者(ふつつかもの)奴(め)が、
185ヘヽヽ屁(へ)でも喰(くら)つたがよからうぞ、
186ホヽヽ呆(はう)け野郎(やらう)奴(め)、
187マヽヽ誠(まこと)が怖(こわ)いと申(もう)せば直(すぐ)に附(つ)け上(あが)り、188言霊(ことたま)を発射(はつしや)してやらうなどと、189心(こころ)の中(なか)で北叟笑(ほくそゑ)みを致(いた)して居(ゐ)るぞよ。190この方(はう)は余(あま)りの可笑(をか)しさに、
191ミヽヽ見(み)つともない、192其(その)面付(つらつき)で女(をんな)に対(たい)し、193恋(こひ)の鮒(ふな)のと、194ソリヤ何(なん)のたわ事(ごと)。
195ムヽヽ昔(むかし)から無理(むり)往生(わうじやう)の恋(こひ)が遂(と)げられた例(ため)しはないぞ。
196メヽヽ盲(めくら)滅法界(めつぽふかい)に、
197モヽヽ盲目(まうもく)的(てき)に、
198ヤヽヽやり切(き)らうと思(おも)うても、
199イヽイ行(い)きは致(いた)さぬぞよ。
200ユヽヽ幽冥界(いうめいかい)へ落(おと)されて、201焦熱(せうねつ)地獄(ぢごく)に迷(まよ)ひ込(こ)み、202火(ひ)の車(くるま)に乗(の)せられ、
203エヽヽえぐい、204熱(あつ)い苦(くるし)みに会(あ)ひ、
205ヨヽヽヨウもヨウも幽界(いうかい)の探険(たんけん)をして来(き)たなどと、206口幅(くちはば)の広(ひろ)い事(こと)を云(い)はれたものだ、
207ラヽヽらつちもない、
208リヽヽ悋気(りんき)喧嘩(げんくわ)を致(いた)したり、
209ルヽヽ坩堝(るつぼ)の様(やう)な黒(くろ)い洒(しや)つ面(つら)をして、
210レヽヽ恋愛(れんあい)の恋慕(れんぼ)のと、211ソリヤ何(なに)を吐(ほざ)くのだい、
212ロヽヽ碌(ろく)でなし奴(め)。
213ワヽヽ吾(わ)れの身分(みぶん)を考(かんが)へて見(み)よ。
214ヰヽヽいたづら小僧(こぞう)の分際(ぶんざい)として、
215ウヽヽ囈言(うさごと)のような恋(こひ)を語(かた)り、
216ヱヽヽ縁(えん)があるの、217ないのと、
218ヲヽヽ可笑(おか)しいワイ。219貴様(きさま)の怖(こわ)いのは大方(おほかた)女(をんな)だらう。220女(をんな)の為(ため)に、221シーズン河(がは)へ投込(なげこ)まれ、222有(あ)るに有(あ)られぬ苦労(くらう)を致(いた)し、223地獄(ぢごく)の八丁目(はつちやうめ)迄(まで)落(おと)されて来(き)よつたのだから、224女(をんな)にはコリコリ致(いた)したと見(み)えて、225元気(げんき)のない其(その)面付(つらつき)は何(なん)だい』
226秋山別『ヨシ待(ま)て、227糞爺(くそぢぢ)、228今(いま)に秋山別(あきやまわけ)が神力(しんりき)無双(むさう)、229円満(ゑんまん)清朗(せいらう)なる生言霊(いくことたま)の弾丸(だんぐわん)を其(その)方(はう)の面体(めんてい)に向(むか)つて乱射(らんしや)してやるから覚悟(かくご)を致(いた)せ。230コリヤ取(と)つときの言霊(ことたま)だぞ。231最前(さいぜん)のは鉛(なまり)の玉(たま)だつたが、232今度(こんど)は銀(ぎん)の玉(たま)と金(きん)の玉(たま)だ。233化物(ばけもの)に向(むか)つて金(きん)の玉(たま)を発射(はつしや)すれば、234化者(ばけもの)は滅亡(めつぼう)するのは昔(むかし)から定(き)まつてゐる。235サア良(い)いか』
236怪物『アハヽヽヽ、237睾玉(きんたま)を発射(はつしや)するのも面白(おもしろ)からう。238其(その)方(はう)は最早(もはや)女(をんな)に絶縁(ぜつえん)し来(き)た以上(いじやう)は、239睾玉(きんたま)は不必要(ふひつえう)だ。240サア何(なん)ぼなと発射(はつしや)せい。241受取(うけと)つてやらう。242併(しかし)乍(なが)ら只(ただ)の二(ふた)つより有(あ)ろまい。243其(その)代(かは)り、244其(その)二(ふた)つを発射(はつしや)したが最後(さいご)、245其(その)方(はう)の勇気(ゆうき)はなくなり、246言霊戦(ことたません)はモウ駄目(だめ)だぞ』
247秋山別『馬鹿(ばか)だなア。248そんな睾(きん)の玉(たま)とは違(ちが)うのだ。249一言(いちげん)天地(てんち)を震憾(しんかん)し、250一声(いつせい)よく風雨(ふうう)雷霆(らいてい)を叱咤(しつた)する黄金(わうごん)の言霊(ことたま)だ』
251と云(い)ひ乍(なが)ら、
252秋山別『一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)百(もも)千(ち)万(よろづ)』
253と四五回(しごくわい)も繰返(くりかへ)せば、254流石(さすが)の怪物(くわいぶつ)も追々(おひおひ)其(その)容積(ようせき)を減(げん)じ、255遂(つひ)には二三尺(にさんじやく)の童子(どうじ)の姿(すがた)となり、256小(ちい)さき声(こゑ)にて、
257童子(怪物)『コリヤ秋山別(あきやまわけ)、258其(その)方(はう)は俺(おれ)の一番(いちばん)怖(こわ)がる誠(まこと)の言霊(ことたま)を発射(はつしや)して攻(せ)めよつたな。259ヨシ此(この)方(はう)にも考(かんが)へがある。260今日(けふ)はこれで別(わか)れてやるが、261明晩(みやうばん)キツと仇(かたき)を打(う)つてやるから其(その)積(つも)りで居(を)れ。262ウーーツ』
263と唸(うな)りを立(た)ててパツと其(その)儘(まま)消(き)え失(う)せにけり。
264(大正一一・八・二〇 旧六・二八 松村真澄録)
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