霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二二章 神(かみ)の試(ためし)〔八八八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻 篇:第4篇 言霊将軍 よみ(新仮名遣い):ことたましょうぐん
章:第22章 神の試 よみ(新仮名遣い):かみのためし 通し章番号:888
口述日:1922(大正11)年08月20日(旧06月28日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
国依別一行は、シーズン川を渡りアマゾン川上流を目指した。一行の行く手には、数百里にわたる山脈が横たわっていた。屏風ケ岳というその山は海抜二万五千尺にのぼり、アマゾン川を一望できる景勝地であった。
国依別はこの山を越えるにあたり、秋山別とモリスを南のルートから登らせ、自分たちは北のルートを取った。この山脈の中央の峰・帽子山山頂で合流することを約して、一行はそれぞれ四五日を要する山道を登って行った。
秋山別とモリスは宣伝歌を歌いながら登って行ったが、野宿する間に猛烈な山おろしが吹き、秋山別は暗闇の中、どこかへ吹き飛ばされてしまった。岩の根にしがみついていたモリスは、夜明けとともに一人不安を感じながら、秋山別との再会を念じつつ山道を進んだ。
にわかに女の叫び声が聞こえてきた。モリスが近寄ると、そこには妙齢の女性が縛られて苦しんでいた。モリスが助け起こすと、女は荒男たちにさらわれて来て乱暴されそうになっていたが、男たちは宣伝歌が聞こえてくると逃げてしまったのだ、とモリスに語った。
モリスがよくよく女の顔をみると、それは不思議にも、日暮シ山に居るはずの紅井姫であった。屏風ケ岳に突然現れた紅井姫は、実は自分はモリスに恋心を抱いていたのだと言い、モリスに言い寄ってきた。
紅井姫はあの手この手でモリスの情を惹こうと言い寄るが、モリスは自分の改心の決心を明かして頑なに拒み、姫に宣伝使としての自分の使命の理解を求めた。
紅井姫と見えた女性は厳然として立ち上がり、自分は旭日明神であると明かし、モリスの心底確かに見届けたと告げ、国依別を助け神業に参加するようにと言い残して消えてしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-04-18 18:07:57 文字数:3244 OBC :rm3122
愛善世界社版:253頁 八幡書店版:第6輯 136頁 修補版: 校定版:261頁 普及版:119頁 初版: ページ備考:
001国依別(くによりわけ)の一行(いつかう)は
002シーズン河(がは)を打渡(うちわた)り
003荒野(あらの)を駆(か)けり山(やま)を越(こ)え
004夜(よ)を日(ひ)についでアマゾンの
005上流(じやうりう)さして進(すす)み行(ゆ)く。
006 忽(たちま)ち前方(ぜんぱう)に屏風(びやうぶ)の如(ごと)き、007余(あま)り高(たか)からず、008低(ひく)からざる延長(えんちやう)数百(すうひやく)里(り)に渡(わた)る山脈(さんみやく)の横(よこ)たはるを見(み)る。009此(この)山(やま)は屏風(べうぶ)ケ岳(だけ)と云(い)ひ、010海抜(かいばつ)二万(にまん)五千(ごせん)尺(しやく)、011山頂(さんちやう)の横巾(よこはば)は五十(ごじふ)里(り)に及(およ)ぶ。012此(この)山脈(さんみやく)上(じやう)より東南(とうなん)を広(ひろ)く観望(くわんばう)すれば、013アマゾン河(がは)は銀河(ぎんが)の如(ごと)くに流(なが)れ、014鬱蒼(うつさう)たる森林(しんりん)は雲(くも)の如(ごと)く、015目(め)に入(い)る景勝(けいしよう)の地点(ちてん)なりける。
016 国依別(くによりわけ)は此(この)山(やま)に登(のぼ)るに就(つ)いて、017左右(さいう)に分(わか)れ絶頂(ぜつちやう)に達(たつ)したる上(うへ)、018作戦(さくせん)計画(けいくわく)を定(さだ)むる事(こと)とし、019秋山別(あきやまわけ)、020モリスを南(みなみ)より登(のぼ)らしめ、021自分(じぶん)は北(きた)の谷(たに)から安彦(やすひこ)、022宗彦(むねひこ)と共(とも)に宣伝歌(せんでんか)を唄(うた)ひ、023屏風(べうぶ)山脈(さんみやく)の中央(ちうおう)に帽子(ばうし)の如(ごと)く突出(とつしゆつ)せる峰(みね)を出会所(であひしよ)と定(さだ)めて登(のぼ)ることとせり。024此(この)山上(さんじやう)に達(たつ)するには如何(どう)しても、025徒歩(とほ)にて、026四五(しご)日(にち)を要(えう)する丈(だけ)の距離(きより)がある。
027 秋山別(あきやまわけ)、028モリスの両人(りやうにん)は南(みなみ)の谷(たに)より、029宣伝歌(せんでんか)を唄(うた)ひ乍(なが)ら、030標的(へうてき)の帽子山(ぼうしやま)を目(め)がけて進(すす)み行(ゆ)く。031日(ひ)は漸(やうや)くにして山(やま)に隠(かく)れ、032暗黒(あんこく)の幕(まく)は次第(しだい)々々(しだい)に濃厚(のうこう)に二人(ふたり)の身辺(しんぺん)を包(つつ)み来(き)たるにぞ、033二人(ふたり)は止(や)むを得(え)ず、034坂道(さかみち)の傍(かたはら)に草(くさ)を布(し)き、035横臥(わうぐわ)し、036夜(よ)を明(あ)かさむとするや、037俄(にはか)に猛烈(まうれつ)なる山颪(やまおろし)吹(ふ)き来(きた)り、038二人(ふたり)の体(からだ)は殆(ほとん)ど中天(ちうてん)に飛(と)ばさるる如(ごと)き勢(いきほひ)となりぬ。039二人(ふたり)は『惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』を一生(いつしやう)懸命(けんめい)に称(とな)へたれども、040七十(しちじふ)米(メートル)の猛烈(まうれつ)なる風力(ふうりよく)は容易(ようい)に止(や)まず、041終(つひ)に秋山別(あきやまわけ)は風(かぜ)に吹(ふ)き飛(と)ばされて、042暗夜(あんや)の空(そら)を何処(どこ)ともなく、043散(ち)り失(う)せにける。
044 モリスは幸(さいは)ひ岩(いは)の根(ね)に喰(く)ひつきて此(この)難(なん)を免(まぬが)れける。045漸(やうや)くにして風(かぜ)は歇(や)み、046夜明(よあ)けとなりて四辺(あたり)を見(み)れば、047秋山別(あきやまわけ)の姿(すがた)無(な)し。048……大方(おほかた)夜前(やぜん)の烈風(れつぷう)に吹(ふ)き散(ち)らされて、049どつかの谷底(たにそこ)にでも落(お)ちて居(ゐ)るのだらう、050あの風(かぜ)は追風(おひかぜ)であつたからよもや西北(せいほく)の方(はう)へ散(ち)つて居(ゐ)る筈(はず)はない、051キツと東南(とうなん)へ散(ち)つたであらう、052さうすれば是(これ)から宣伝歌(せんでんか)を高(たか)らかに唄(うた)ひ進(すす)み行(ゆ)かば、053秋山別(あきやまわけ)が吾(わが)声(こゑ)を聞(き)きつけて来(く)るだらう……などと心(こころ)の中(なか)に思(おも)ひ乍(なが)ら、054宣伝歌(せんでんか)を唄(うた)ひ唄(うた)ひ山(やま)と山(やま)とに囲(かこ)まれた谷道(たにみち)をトボトボと登(のぼ)り行(ゆ)く。
055 俄(にはか)に聞(きこ)ゆる女(をんな)の叫(さけ)び声(ごゑ)、056何事(なにごと)ならむと足(あし)を早(はや)め、057声(こゑ)する方(かた)に近(ちか)より見(み)れば、058妙齢(めうれい)の女(をんな)、059手足(てあし)を縛(しば)られ、060髪(かみ)ふり乱(みだ)し、061そこに倒(たふ)れ居(ゐ)たり。062モリスは驚(おどろ)きて、063手早(てばや)く手足(てあし)の縛(いましめ)を解(と)き、064言葉(ことば)静(しづ)かに、
065モリス『モシモシ、066どこの御(お)女中(ぢよちう)かは存(ぞん)じませぬが、067何者(なにもの)に斯様(かやう)な残酷(ざんこく)な目(め)に会(あ)はされたのですか。068是(これ)にも何(なに)か深(ふか)い様子(やうす)のある事(こと)で御座(ござ)いませう』
069女(紅井姫)『ハイ、070有難(ありがた)う御座(ござ)います。071妾(わたし)はシーズン河(がは)を渡(わた)り、072此方(こちら)へ参(まゐ)ります折(を)り、073四五(しご)人(にん)の荒(あら)くれ男(をとこ)に捉(とら)へられ、074ドンドンドンドンと手足(てあし)を括(くく)られた儘(まま)、075ここまで担(かつ)がれて、076夢(ゆめ)の如(ごと)く連(つ)れて来(こ)られました。077さうして今(いま)の先(さき)、078妾(わたし)に向(むか)ひ五(ご)人(にん)の男(をとこ)が交(かは)る交(がは)る無理(むり)難題(なんだい)を吹(ふ)きかけまするので、079妾(わたし)は余(あま)りの悲(かな)しさ、080何事(なにごと)にも応(おう)じませなかつた。081さうした所(ところ)、082五(ご)人(にん)の荒男(あらをとこ)は腹(はら)を立(た)て、083鋭利(えいり)な剣(けん)を引抜(ひきぬ)き、084一度(いちど)により集(あつ)まつて、085妾(わたし)を嬲殺(なぶりごろ)しにしてくれむと申(まを)し、086今(いま)や彼(かれ)等(ら)に嬲殺(なぶりごろ)しにされようとする刹那(せつな)、087有難(ありがた)き宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)が聞(きこ)えて来(き)ましたので、088曲者(くせもの)は其(その)声(こゑ)に辟易(へきえき)して一人(ひとり)も残(のこ)らず、089雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ散(ち)つた所(ところ)で御座(ござ)います。090あなたは何(いづ)れの方(かた)かは存(ぞん)じませぬが、091かよわき女(をんな)の一人旅(ひとりたび)、092行(ゆ)きもならず、093帰(かへ)りもならず、094実(じつ)に険呑(けんのん)で御座(ござ)います。095誠(まこと)に御(お)邪魔(じやま)で御座(ござ)いませうが、096何卒(どうぞ)御(お)伴(とも)をさして下(くだ)さいませぬか』
097モリス『それは大変(たいへん)に危(あぶな)い事(こと)で御座(ござ)いました。098併(しか)し乍(なが)ら私(わたし)は神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)に依(よ)つて、099アマゾン河(がは)の上流(じやうりう)迄(まで)参(まゐ)らねばならぬ者(もの)、100女(をんな)の方(かた)と道伴(みちづ)れになることは、101到底(たうてい)出来(でき)ませぬから、102是(これ)計(ばか)りは平(ひら)に御(お)断(ことわ)り申(まを)します』
103と女(をんな)の顔(かほ)を覗(のぞ)き込(こ)めば、104不思議(ふしぎ)や紅井姫(くれなゐひめ)にてありける。
105モリス『オー、106貴女(あなた)は紅井姫(くれなゐひめ)様(さま)ぢや御座(ござ)いませぬか? どうしてマアこンな所(ところ)に連(つ)れられて御(お)出(い)でなさいましたのかなア。107サアどうぞ一(いち)時(じ)も早(はや)く立去(たちさ)り、108元来(もとき)し路(みち)へ御(お)引返(ひきかへ)し下(くだ)さりませ。109かような所(ところ)に長坐(ながゐ)をして居(を)れば、110又候(またぞろ)悪者(わるもの)が引返(ひきかへ)して来(き)て、111如何(いか)なる事(こと)を仕出(しで)かすか分(わか)りませぬ』
112紅井姫『お情(なさけ)ないモリスさまの其(その)御(お)言葉(ことば)、113妾(わたし)はあなたの内事司(ないじつかさ)として、114ヒルの館(やかた)にお仕(つか)へ遊(あそ)ばす砌(みぎり)より、115朝夕(あさゆふ)お顔(かほ)を拝(はい)し、116何時(いつ)とはなしに恋路(こひぢ)に心(こころ)を曇(くも)らせ、117日(ひ)に日(ひ)に身体(からだ)は痩(やせ)おとろへて、118重(おも)き病(やまひ)の身(み)となりました。119そこへ、120秋山別(あきやまわけ)の嫌(いや)な男(をとこ)、121朝(あさ)な夕(ゆふ)な、122妾(わたし)に寄(よ)り添(そ)ひ、123いろいろと妙(めう)な事(こと)を言(い)ひかけ、124大変(たいへん)な迷惑(めいわく)を致(いた)して居(を)りました。125余(あま)りあなたを思(おも)ふ恋(こひ)の弱味(よわみ)で、126恥(はづ)かしくて、127心(こころ)にもなき情(つれ)ない事(こと)を申(まを)しましたが、128決(けつ)して妾(わたし)の心(こころ)はさうでは御座(ござ)りませぬ。129どうぞモリスさま、130今日(けふ)はあなたと妾(わたし)と只(ただ)二人(ふたり)、131こンな機会(きくわい)は又(また)と御座(ござ)りますまい。132今(いま)でこそ妾(わたし)の腹(はら)の底(そこ)を打明(うちあ)けますから、133どうぞ二世(にせ)も三世(さんせ)も先(さき)の世(よ)かけて可愛(かあい)がつて下(くだ)さいませ』
134と涙(なみだ)を流(なが)し、135真実(しんじつ)を面(おもて)に表(あら)はして、136かきくどく其(その)しほらしさ。137モリスは心(こころ)の中(なか)にて非常(ひじやう)に煩悶(はんもん)したるが思(おも)ひ切(き)つて、
138モリス『これはこれは姫(ひめ)様(さま)、139あなた様(さま)は怪(け)しからぬ事(こと)を仰(あふ)せられます。140如何(どう)して兄上(あにうへ)様(さま)の御(お)許(ゆる)しもなく、141左様(さやう)なみだらな事(こと)が勝手(かつて)に出来(でき)ませうか。142此(この)儀(ぎ)計(ばか)りは平(ひら)に御(お)許(ゆる)し下(くだ)さりませ』
143紅井姫『ホヽヽヽヽ、144これモリスさま、145よう、146そンなことを、147今(いま)になつてようマア仰有(おつしや)いますな。148妾(わたし)はあなたの心(こころ)の底(そこ)の底(そこ)迄(まで)よく窺(うかが)つて居(を)りますよ。149そンなテレ隠(かく)しは仰有(おつしや)らずに、150一時(いつとき)も早(はや)くウンと云(い)つて下(くだ)さい。151妾(わたし)も気(き)が気(き)でなりませぬワ』
152モリス『実(じつ)は御(お)察(さつ)しの通(とほ)り、153寝(ね)ても醒(さ)めても、154道(みち)ならぬ事(こと)とは知(し)り乍(なが)ら、155姫(ひめ)様(さま)の美(うる)はしき姿(すがた)を一目(ひとめ)拝(をが)むで……あゝ可愛(かあい)い女(をんな)だ……と思(おも)ひ込(こ)ンだが病(や)み付(つ)きで、156恋(こひ)の病(やまひ)におち、157それからと云(い)ふものは、158何(なに)を食(く)つても味(あぢ)はなく、159身(み)は次第(しだい)に痩衰(やせおとろ)へ、160煩悶(はんもん)苦悩(くなう)をつづけて居(を)りましたが、161或事(あること)より神(かみ)様(さま)のお戒(いまし)めを受(う)けて翻然(ほんぜん)として悟(さと)り、162今(いま)では、163是迄(これまで)のモリスとは違(ちが)ひますから、164此(この)事(こと)計(ばか)りは御(お)許(ゆる)し下(くだ)さいませ。165モリス、166手(て)をついて御(お)願(ねが)ひ致(いた)します』
167紅井姫『あのマア、168モリスさまの白々(しらじら)しい御(お)言葉(ことば)、169仮令(たとへ)天地(てんち)が覆(かへ)る共(とも)、170一旦(いつたん)痩(やせ)る所(とこ)迄(まで)思(おも)ひつめた女(をんな)、171どうしてさう綺麗(きれい)サツパリと思(おも)ひ切(き)られる道理(だうり)が御座(ござ)いませう。172余(あま)りぢらして下(くだ)さりますな。173恋(こひ)は神聖(しんせい)と云(い)ひまして、174あなたと妾(わたし)が夫婦(ふうふ)になつた所(ところ)で、175夫(それ)がナニ罪(つみ)になりませう。176サア早(はや)く御(ご)返事(へんじ)をして下(くだ)さい。177又(また)実際(じつさい)に嫌(いや)なら、178嫌(いや)とキツパリ言(い)つて下(くだ)さい。179妾(わたし)も一(ひと)つの覚悟(かくご)が御座(ござ)います』
180と云(い)ふより早(はや)く、181懐剣(くわいけん)を取出(とりだ)し、182引抜(ひきぬ)いて、183早(はや)くも喉(のど)にあてむとするを、184モリスはあはてて其(その)手(て)を押(おさ)へ、185涙(なみだ)乍(なが)らに、
186モリス『モシモシお姫(ひめ)様(さま)、187あなたのそこ迄(まで)思(おも)ふて下(くだ)さる御(お)心(こころ)は実(じつ)に勿体(もつたい)なく有難(ありがた)う存(ぞん)じます。188其(その)御(お)志(こころざし)は仮令(たとへ)死(し)ンでも忘(わす)れは致(いた)しませぬ。189併(しか)し乍(なが)ら今日(こんにち)の私(わたし)は、190最早(もはや)神(かみ)の光(ひか)りに照(てら)されて、191国依別(くによりわけ)様(さま)の弟子(でし)となり、192アマゾン河(がは)の森林(しんりん)に言霊戦(ことたません)に参(まゐ)る途中(とちう)で御座(ござ)いますれば、193何卒(どうぞ)ここの所(ところ)を聞分(ききわ)けて、194思(おも)ひとまつて下(くだ)さりませ』
195と声(こゑ)を震(ふる)はせ、196泣(な)き声(ごゑ)になつて諫(いさ)むるにぞ、197紅井姫(くれなゐひめ)は首(くび)をふり、
198紅井姫『イエイエ、199何(なん)と仰有(おつしや)つても、200女(をんな)の一念(いちねん)晴(は)らさねば置(お)きませぬ。201そンなら帰(かへ)つてから夫婦(ふうふ)になつてやらうと、202ここで一事(ひとこと)云(い)つて下(くだ)さい。203それが出来(でき)ぬと云(い)ふことが御座(ござ)いますか』
204モリス『折角(せつかく)乍(なが)ら、205其(その)事(こと)計(ばか)りはどうぞ思(おも)ひとまつて下(くだ)さいませ。206モリス改(あらた)めてお断(こと)わりを申(まを)します』
207紅井姫『あゝ是非(ぜひ)に及(およ)ばぬ。208そンならモリス殿(どの)、209妾(わたし)は冥途(めいど)へ参(まゐ)ります』
210と又(また)もや懐剣(くわいけん)を引(ひき)ぬき首(くび)に当(あ)てがはむとするを、211モリスはあわてて其(その)手(て)を押(おさ)へ、
212モリス『又(また)しても又(また)しても、213御(お)合点(がてん)の悪(わる)い御(お)姫(ひめ)様(さま)、214モリスの様(やう)なヒヨツトコの愚鈍者(ぐどんもの)の分(わか)らずやが、215如何(どう)して尊(たふと)い姫君(ひめぎみ)様(さま)の恋男(こひをとこ)になることが出来(でき)ませう。216あなたの御(お)志(こころざし)は身(み)に代(か)へて有難(ありがた)う御座(ござ)いますが、217どうぞこれ丈(だけ)は許(ゆる)して下(くだ)さいませ。218モウ私(わたし)は女(をんな)に会(あ)ふことは断念(だんねん)して居(を)りますから、219折角(せつかく)の決心(けつしん)を何卒(どうぞ)ゆるめて下(くだ)さいますな。220モリスのお願(ねがひ)で御座(ござ)います』
221と手(て)を合(あは)せ頼(たの)み入(い)る。
222 紅井姫(くれなゐひめ)、223厳然(げんぜん)として立上(たちあが)り、224言葉(ことば)をあらためて、
225紅井姫『我(わ)れこそは大江山(たいこうざん)に守護(しゆご)をいたす、226鬼武彦(おにたけひこ)が幕下(ばくか)旭日(あさひ)明神(みやうじん)と申(まを)す者(もの)、227汝(なんぢ)の心底(しんてい)は最早(もはや)疑(うたが)ふの余地(よち)なし。228いざ是(これ)よりアマゾン河(がは)に向(むか)ひ、229天晴(あつぱ)れ、230言霊戦(ことたません)に功名(こうみやう)手柄(てがら)を現(あらは)せよ。231我(われ)も汝(なんぢ)に力(ちから)を添(そ)へ、232守(まも)り与(あた)ふれば、233如何(いか)なる事(こと)あるとも、234決(けつ)して恐(おそ)るることなく、235撓(たゆ)まず、236屈(くつ)せず、237国依別(くによりわけ)の命(めい)に従(したが)つて、238神界(しんかい)の為(ため)に活動(くわつどう)せよ。239モリス殿(どの)さらば……』
240と言葉(ことば)終(をは)るや、241忽(たちま)ち立(た)ち昇(のぼ)る白煙(はくえん)あたりを包(つつ)み、242紅井姫(くれなゐひめ)と思(おも)ひし美女(びぢよ)の姿(すがた)は此(この)場(ば)より霞(かすみ)の如(ごと)く消(き)え失(う)せにけり。
243(大正一一・八・二〇 旧六・二八 松村真澄録)
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