霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 丸木橋(まるきばし)〔八八一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻 篇:第3篇 千里万行 よみ(新仮名遣い):せんりばんこう
章:第15章 丸木橋 よみ(新仮名遣い):まるきばし 通し章番号:881
口述日:1922(大正11)年08月19日(旧06月27日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
国依別は丸木橋に近づくと、安彦と宗彦に気合を入れ、自ら鶯のような女性の声色で宣伝歌を歌いだした。
その歌は、紅井姫もエリナも国依別に振られたように見せかけ、それぞれ秋山別、モリスに惚れて追ってきたかのように歌っていた。秋山別とモリスは、紅井姫とエリナが自分たちに惚れていたのだと思い込んでしまった。
三人は丸木橋を渡りきると、念入りにも森の木の皮に、紅井姫とエリナから秋山別とモリスに宛てたかのような恋文を書き込んだ。
秋山別とモリスは、国依別たちの偽の歌を聞いて、待ち構えていた橋の下の谷から上がってきた。そして紅井姫とエリナを追いかけ、国依別たちの偽の恋文を見つけ、有頂天になって追いかけ始めた。
国依別たちは、秋山別とモリスが追いかけてくるだろうと踏んで道を急ぎ、大木の上に上って休息した。
秋山別とモリスは、男の足で急いで来たのに女たちに追いつかないことを不審に思い、追い越してしまったのだろうと考えた。そして国依別らが休んでいる木の下にやってきて、そこで休息してしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-04-09 16:14:43 文字数:4115 OBC :rm3115
愛善世界社版:176頁 八幡書店版:第6輯 107頁 修補版: 校定版:181頁 普及版:83頁 初版: ページ備考:
001 三(さん)人(にん)は勢(いきほひ)込(こ)ンで、002秋(あき)、003モリ二人(ふたり)の計略(けいりやく)の裏(うら)をかいてやらむと、004ホクホクし乍(なが)ら進(すす)ンで行(ゆ)く。005此方(こちら)の山裾(やますそ)から向方(むかう)の山裾(やますそ)に渡(わた)る相当(さうたう)に深(ふか)い谷川(たにがは)に、006長(なが)さ四間(よんけん)位(くらゐ)な丸木橋(まるきばし)が架(か)かつてゐる。
007国依別『サア戦場(せんじやう)に近寄(ちかよ)つた。008両人共(りやうにんとも)に、009ここで女(をんな)の声(こゑ)を出(だ)して宣伝歌(せんでんか)を高(たか)らかに歌(うた)うのだぞ』
010安彦『女(をんな)の声(こゑ)を出(だ)さうと思(おも)へば、011自然(しぜん)低(ひく)く細(ほそ)くなるなり、012向方(むかう)の奴(やつ)に聞(きこ)える様(やう)にせうと思(おも)へば地声(ぢごゑ)が出(で)るなり、013安彦(やすひこ)も困(こま)つたものですワ』
014国依別『ナニ、015神(かみ)様(さま)の守護(しゆご)で、016キツと鶯(うぐひす)の谷渡(たにわた)りの様(やう)な声(こゑ)が出(で)て来(く)るよ。017そこが言霊(ことたま)の妙用(めうよう)だ。018……サア行(ゆ)かう、019腹(はら)の底(そこ)から出(だ)さず、020乳(ちち)のあたりから声(こゑ)を出(だ)すのだ』
021と細(ほそ)き涼(すず)しき松虫(まつむし)のやうな作(つく)り声(ごゑ)で、022一本橋(いつぽんばし)の袂(たもと)に差(さし)かかり、
023国依別『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
024善(ぜん)と悪(あく)とを立分(たてわ)ける
025此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
026心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
027只(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
028直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞直(ききなほ)せ
029身(み)の過(あやま)ちは宣(の)り直(なほ)せ
030恋(こひ)しと思(おも)ふ国(くに)さまは
031どこにどうして御座(ござ)るやら
032お前(まへ)等(ら)二人(ふたり)は俺(おれ)よりも
033一足先(ひとあしさき)へと言(い)はしやつた
034さぞ今頃(いまごろ)はどこやらの
035ナイスに袂(たもと)を引(ひ)つぱられ
036放(はな)してお呉(く)れと国(くに)さまは
037紅井姫(くれなゐひめ)やエリナ姫(ひめ)
038天女(てんによ)の様(やう)な妻(つま)がある
039お門(かど)が広(ひろ)い早放(はやはな)せ
040なぞと困(こま)つて御座(ござ)るだらう
041私(わたし)の恋(こひ)は奥山(おくやま)の
042細谷川(ほそたにがは)の丸木橋(まるきばし)
043渡(わた)るはこわし渡(わた)らねば
044心(こころ)の底(そこ)から惚切(ほれき)つた
045秋山別(あきやまわけ)に会(あ)はれない
046秋山(あきやま)さまも情(なさけ)ない
047惚(ほれ)た弱味(よわみ)で厭(いや)さうに
048ピンとはねたら真(ま)にうけて
049怒(おこ)つて御座(ござ)るか自烈(じれつ)たい
050私(わたし)の誠(まこと)の心根(こころね)は
051国依別(くによりわけ)の四十(しじふ)男(をとこ)
052親(おや)と子(こ)程(ほど)違(ちが)ふのに
053どうしてそれが惚(ほれ)られよ
054惚(ほれ)たと云(い)ふは表向(おもてむ)き
055又(また)モリさまも気(き)が利(き)かぬ
056仮令(たとへ)田舎(ゐなか)の娘(むすめ)でも
057エリナと云(い)つたら界隈(かいわい)で
058指(ゆび)をさされた此(この)ナイス
059男心(をとこごころ)と秋(あき)の空(そら)
060私(わたし)の腹(はら)が知(し)らしたい
061秋山(あきやま)さまも余(あんま)りぢや
062モリスさままで私(わたし)をば
063情(つれ)ない女(をなご)と誤解(ごかい)して
064怒(おこ)つて御座(ござ)るか情(なさけ)ない
065天津(あまつ)神(かみ)様(さま)八百万(やほよろづ)
066国津(くにつ)神(かみ)様(さま)八百万(やほよろづ)
067仮令(たとへ)野山(のやま)の果(はて)までも
068秋山(あきやま)さまやモリスさま
069後(あと)を慕(した)うて尋(たづ)ね行(ゆ)き
070嫌(いや)と言(い)はれよが如何(どう)せうが
071思(おも)ひ込(こ)みたる此(この)恋路(こひぢ)
072石(いし)の唐柩(からと)にかくるとも
073捜(さが)し出(だ)さねばおくものか
074あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
075神(かみ)の御霊(みたま)の幸(さち)はひて
076秋山(あきやま)さまやモリスさま
077尊(たふと)き御(お)顔(かほ)を伏(ふ)し拝(をが)み
078手(て)を引合(ひきあ)うて行(い)けるなら
079此(この)橋(はし)無事(ぶじ)にやすやすと
080向方(むかう)へ渡(わた)して下(くだ)されや
081私(わたし)が恋(こひ)を仕遂(しと)げるか
082仕(し)とげられぬか此(この)橋(はし)が
083私(わたし)に取(と)つての辻占(つじうら)ぢや
084もしも渡(わた)れぬ其(その)時(とき)は
085秋山(あきやま)さまに添(そ)はれない
086モリスさまにも会(あ)はれない
087女(をんな)の心(こころ)と云(い)ふものは
088好(す)きで叶(かな)はぬ男(をとこ)をば
089厭(いや)ぢや厭(いや)ぢやとはねつける
090これが私(わたし)の弱点(じやくてん)ぢや
091一(いつ)そ肝玉(きもだま)放(ほ)り出(だ)して
092秋山(あきやま)さまが言(い)ひよつた
093時(とき)に頭(あたま)を縦(たて)に振(ふ)り
094ウンと云(い)ふときやよかつたに
095どうやら男(をとこ)の居(を)りさうな
096香(にほひ)がプンとして来(き)たぞ
097ホンに危(あぶ)ない丸木橋(まるきばし)
098エリナ用心(ようじん)なさりませ』
099 安彦(やすひこ)は又(また)唄(うた)ふ。
100安彦『いえいえ私(わたし)は大丈夫(だいぢやうぶ)
101姫(ひめ)さまあなたは足弱(あしよわ)ぢや
102どうぞ気(き)を付(つ)けなされませ
103もしも誤(あやま)り谷川(たにがは)に
104落(お)ちて生命(いのち)を棄(す)てたなら
105秋山(あきやま)さまに申訳(まをしわけ)
106どうしてどうして立(た)ちませう
107あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
108御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
109 秋(あき)、110モリの二人(ふたり)は丸木橋(まるきばし)に太(ふと)い藤(ふぢ)づるを括(くく)りつけ、111国依別(くによりわけ)の声(こゑ)を合図(あひづ)に『一(ひ)イ二(ふ)ウ三(み)イ』で引張(ひつぱ)りおとさうと、112手具脛(てぐすね)ひいて待(ま)つてゐる。113橋(はし)の袂(たもと)に立(た)ち止(と)まつて女(をんな)の歌(うた)が聞(きこ)えてゐる。114よくよく歌(うた)の文句(もんく)を考(かんが)へて見(み)れば、115思(おも)ひがけなきかぐはしい歌(うた)である。
116秋山別『ヤツパリ女(をんな)はこンなものかいな、117モリス。118モ一(ひと)つ押強(おしつよ)く行(い)けば成功(せいこう)したのだけれど、119余(あんま)りスヰートハートした弱味(よわみ)に、120ヨウ思(おも)ひ切(き)りやらなかつたのが此方(こちら)の不調法(ぶてうほう)だ。121流石(さすが)は俺(おれ)が思(おも)ひ込(こ)む丈(だけ)あつて、122優(やさ)しい姫(ひめ)様(さま)だワイ。123始(はじ)めて美(うる)はしい御(ご)心中(しんちう)を承(うけたま)はり、124これで死(し)ンでも得心(とくしん)だ。125あの歌(うた)の文句(もんく)で考(かんが)へて見(み)ると、126国依別(くによりわけ)の奴(やつ)、127どつかで又(また)道草(みちくさ)を食(く)ひよつて、128スベタ女(をんな)にチヤホヤされて、129涎(よだれ)をくつて、130脂下(やにさ)がつて居(ゐ)よるのだらう。131見切(みき)りのよい、132前(さき)の見(み)えるお姫(ひめ)さまは、133たうとう国依別(くによりわけ)に愛想(あいさう)をつかし、134俺(おれ)達(たち)二人(ふたり)が先(さき)に行(い)つたと云(い)ふ事(こと)を、135誰(たれ)かに聞(き)いて、136はるばるとやつて御座(ござ)つたのだな。137併(しか)しあンな事(こと)を云(い)つて、138国依別(くによりわけ)が交(まじ)つて居(ゐ)るかも知(し)れぬ。139何分(なにぶん)斯(こ)う樹木(じゆもく)が茂(しげ)つて居(を)つては、140声(こゑ)は聞(きこ)えても姿(すがた)は見(み)えぬのだから、141都合(つがふ)の好(よ)い事(こと)がある代(かは)りには、142又(また)都合(つがふ)の悪(わる)い事(こと)があるワイ。143のうモリ公(こう)』
144と小(ちい)さい声(こゑ)でブツブツ囀(さへづ)つて居(ゐ)る。
145 国依別(くによりわけ)は女(をんな)の声(こゑ)にて、
146国依(くにより)『エリナさま、147私(わたし)、148此(この)一本橋(いつぽんばし)、149どうして渡(わた)りませうかね。150足(あし)が慄(ふる)ひますワ』
151安彦(やすひこ)『嬢(ぢやう)さま、152御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。153エリナがついてをります。154此(この)丸木橋(まるきばし)さへ御(お)渡(わた)りになれば、155姫(ひめ)様(さま)の心(こころ)の底(そこ)から御(お)慕(した)ひ遊(あそ)ばす、156秋山(あきやま)さまにキツと会(あ)はれますよ。157私(わたし)だつて一目(ひとめ)見(み)そめたモリスさまに会(あ)うて、158心(こころ)の丈(たけ)を申上(まをしあ)げねば、159どうして此(この)儘(まま)帰(かへ)れませう。160あの好(よ)い男(をとこ)グヅグヅして居(ゐ)て、161外(ほか)の女(をんな)に取(と)られて了(しま)つちや大変(たいへん)ですからねイ』
162国依(くにより)『さうねい、163さうなら、164そつと渡(わた)りませうか。165何(なん)だかグキグキして怖(こわ)い橋(はし)だワ』
166安彦(やすひこ)『御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。167国依別(くによりわけ)のやうな悪人(あくにん)が通(とほ)つたら、168神(かみ)様(さま)が綱(つな)を引(ひつ)ぱつておとし遊(あそ)ばすかも知(し)れませぬが、169女(をんな)が可愛(かあい)い男(をとこ)の後(あと)を追(お)うて行(ゆ)くのですもの、170丸木橋(まるきばし)だつて、171落(おち)さうな事(こと)はありませぬワ。172秋山別(あきやまわけ)さま、173モリスさまの一心(いつしん)でも、174落(おと)さぬやうに守(まも)つて下(くだ)さいますこと分(わか)つて居(ゐ)ますワ』
175国依(くにより)『此(この)橋(はし)渡(わた)ると秋山(あきやま)さまに会(あ)へるの……、176私(わたし)嬉(うれ)しいワ』
177安彦(やすひこ)『それは其(その)筈(はず)で御座(ござ)います。178私(わたし)だつて、179あの色(いろ)の黒(くろ)いモリスさまにさへも是丈(これだけ)こがれて居(ゐ)るのですもの。180秋山(あきやま)さまのやうな立派(りつぱ)な男(をとこ)に御(お)惚(ほれ)遊(あそ)ばしますのは無理(むり)も御座(ござ)いませぬワ。181ホヽヽヽヽ』
182国依(くにより)『ホヽヽヽヽおゝ恥(はづ)かしい、183モシ、184エリナさま、185是(これ)きりで云(い)はないやうにして下(くだ)さいや。186サア早(はや)う参(まゐ)りませう』
187と云(い)ひ乍(なが)ら、188国依別(くによりわけ)一行(いつかう)は恙(つつが)なく橋(はし)を渡(わた)り、189谷路(たにみち)の木(き)の茂(しげ)みにかくれて膝栗毛(ひざくりげ)に鞭(むち)をうち、190四五(しご)丁(ちやう)計(ばか)り駆(か)け出(だ)したり。
191国依別『アハヽヽヽ、192ズイ分(ぶん)甘(うま)く行(い)つたねい。193ヤツパリ吾々(われわれ)を女(をんな)だと思(おも)つて居(ゐ)るらしいよ、194一(ひと)つ此(この)木(き)の皮(かは)を削(けづ)つて、195何(なん)とか印(しるし)をしておかうかいナア、196両人(りやうにん)』
197 安彦(やすひこ)は、198『ハイ、199宜(よろ)しう御座(ござ)います』と短刀(たんたう)を取出(とりいだ)し、200若(わか)き欅(けやき)の皮(かは)を少(すこ)しく削(けづ)り、201あたりに実(みの)つて居(ゐ)る烏羽玉(うばたま)の実(み)を手(て)に取(と)り、202其(その)汁(しる)にて、
203 紅井姫(くれなゐひめ)、204エリナの両人(りやうにん)ここを通(とほ)りました。205万一(まんいち)、206秋山別(あきやまわけ)さま、207モリスさま、208妾(わたし)よりお後(あと)で御座(ござ)いましたら、209どうぞ追(お)つかけて来(き)て下(くだ)さいませ。210さうして橋(はし)を国依別(くによりわけ)の来(こ)ない様(やう)に落(おと)して来(き)て下(くだ)さいますれば、211尚々(なほなほ)安心(あんしん)です。212……御(ご)両人(りやうにん)様(さま)……かよわき女(をんな)より
213と書(か)きしるした。
214国依別『アハー此奴(こいつ)ア面白(おもしろ)い、215国依別(くによりわけ)が先繰(せんぐ)り先繰(せんぐ)り剥(む)き木(ぎ)をして、216至(いた)る所(ところ)に印(しるし)を入(い)れ、217どこ迄(まで)もお伴(とも)をさしてやらうかな。218さうすれば何時(いつ)の間(ま)にかは改心(かいしん)するだらう。219アハヽヽヽ』
220 秋(あき)、221モリの二人(ふたり)はあわてて谷底(たにそこ)より橋(はし)の向(むか)ふ側(がは)にかけ上(のぼ)り、
222秋山別『オイ、223モリス、224確(たしか)に紅井姫(くれなゐひめ)にエリナの声(こゑ)だつたが、225併(しか)しスウスウと渡(わた)つて了(しま)ひ、226何(なん)とはなしに変哲(へんてつ)がないぢやないか。227時鳥(ほととぎす)お声(こゑ)は聞(き)けど姿(すがた)は見(み)えぬ、228秋(あき)モリの金神(こんじん)蔭(かげ)から守(まも)りてをりたぞよ。229此(この)事(こと)分(わか)りて来(き)たら、230いかな紅井姫(くれなゐひめ)も、231エリナもアフンと致(いた)して改心(かいしん)を遊(あそ)ばすぞよ……そないしてまで守(まも)つて下(くだ)さつたか、232ここは世界(せかい)の大橋(おおはし)、233此処(ここ)を渡(わた)らねば誠(まこと)の男(をとこ)には会(あ)へぬぞよ。234西(にし)と東(ひがし)とに立(たて)わけて、235神(かみ)が守護(しゆご)がしてあるぞよ、236神(かみ)は嘘(うそ)を申(まを)さぬぞよと、237三五教(あななひけう)のお筆先(ふでさき)もどきに、238キツとお姫(ひめ)さまが秋(あき)モリの金神(こんじん)の御(ご)神徳(しんとく)を讃歎(さんたん)し、239御(お)喜(よろこ)び遊(あそ)ばすにきまつてるワ、240今(いま)聞(きこ)えた、241あの声(こゑ)、242さう遠(とほ)くは、243女(をんな)の足(あし)で、244行(い)つては居(を)られまい。245サア早(はや)く膝栗毛(ひざくりげ)に鞭(むち)をうつて進(すす)まうぢやないか。246谷間(たにあひ)の一筋道(ひとすぢみち)、247メツタに間違(まちが)う気遣(きづか)ひはあるまいて、
248 君(きみ)はまだ遠(とほ)くは行(ゆ)かじ吾(わが)袖(そで)の 袂(たもと)の涙(なみだ)かわき果(は)てねば
249とか云(い)ふ歌(うた)があるぢやないか。250キツと遠(とほ)くに行(ゆ)くまい。251サア駆足(かけあし)々々(かけあし)』
252 オツチニオツチニと四股(しこ)ふみ乍(なが)ら、253僅(わづか)に足(あし)を入(い)るる計(ばか)り、254細(ほそ)くついた谷道(たにみち)を登(のぼ)り行(ゆ)く。255三(さん)尺(しやく)計(ばか)り廻(まは)つた、256欅(けやき)の若木(わかぎ)の皮(かは)を剥(む)いて、257何(なん)だかしるしてある。258能(よ)く見(み)れば、259案(あん)に違(たが)はず、260紅井姫(くれなゐひめ)、261エリナの二人(ふたり)がここを通(とほ)り、262……どうぞお二人共(ふたりとも)、263まだ後(あと)ならば、264此(この)印(しるし)を見(み)てついて来(き)てくれ……と云(い)ふ意味(いみ)の文面(ぶんめん)を見(み)て、265二人(ふたり)は躍(をど)りあがり、
266秋山別、モリス『ヤア、267有難(ありがた)い有難(ありがた)い、268是(こ)れだから、269どこ迄(まで)もやり通(とほ)さねば、270恋(こひ)の難関(なんくわん)は越(こ)えられぬと云(い)ふのだ。271サア、272グヅグヅしては居(を)られまい、273早(はや)く行(ゆ)かうぢやないか。274モウ一(ひと)きばりだ。275さうすればキツと追(お)ひ付(つ)けるにきまつてるワ』
276と又(また)もや駆出(かけだ)す其(その)可笑(おか)しさ。
277 国依別(くによりわけ)一行(いつかう)は二人(ふたり)の必(かなら)ず後(あと)を追(お)つかけ来(く)るに相違(さうゐ)なしとコンパスに油(あぶら)をさし、278喉(のど)の汽笛(きてき)に水(みづ)をドツサリ注入(ちうにふ)し巴奈馬(パナマ)運河(うんが)を無事(ぶじ)通過(つうくわ)させ乍(なが)ら、279一生(いつしやう)懸命(けんめい)に駆出(かけいだ)し、280コンモリとした山桃(やまもも)の大木(たいぼく)を見(み)つけ、281猿(ましら)の如(ごと)く三(さん)人(にん)は駆(かけ)あがり、282樹上(じゆじやう)に胡坐(あぐら)をかき山桃(やまもも)の水(みづ)の垂(た)る様(やう)なのを、283むしり取(と)つて食(く)つて居(を)る。284枝葉(しよう)密生(みつせい)し、285どうしても下(した)から、286見(み)ることは出来(でき)なかつた。
287 秋(あき)、288モリの二人(ふたり)は喉(のど)をかわかせ、
289秋山別『オイ、290モリス、291是(こ)れ丈(だけ)急速力(きふそくりよく)でやつて来(き)たのに、292追(お)つつかれない筈(はず)はないぢやないか。293俺(おれ)やモウ喉(のど)の汽笛(きてき)が鳴(な)り出(だ)した。294此(この)上(うへ)一(いつ)尺(しやく)だつて歩(ある)けやしない。295幸(さいは)ひそこに山桃(やまもも)の甘(うま)さうな奴(やつ)がなつてるぢやないか。296ここで一(ひと)つ山桃(やまもも)でも取(と)つて喉(のど)をうるほして行(ゆ)かうかい』
297モリス『さうだなア、298秋山別(あきやまわけ)、299随分(ずいぶん)甘(うま)さうだ。300マアゆつくり一服(いつぷく)して往(ゆ)くことにせう。301姫(ひめ)さまだつて足(あし)を痛(いた)め、302傍(かたはら)の森(もり)の中(なか)で休(やす)みて御座(ござ)つたのを知(し)らずに此処(ここ)まで来(き)たのかも知(し)れないよ。303さうでなくては、304俺(おれ)達(たち)が息(いき)が切(き)れる程(ほど)始終苦(四十九)節(ノツト)の大速力(だいそくりよく)大急行(だいきふかう)でやつて来(き)たのに、305追(お)つつかぬ筈(はず)がない。306マアゆつくりと此処(ここ)で待(ま)つことにせうかい。307キツと其(その)間(あひだ)にはお出(いで)遊(あそ)ばすに定(き)まつてゐるワ。308確(たしか)に女(をんな)の手(て)であの通(とほ)り書(か)いてあつたなり、309橋(はし)をお渡(わた)り遊(あそ)ばす時(とき)のあの声(こゑ)つたら、310今(いま)思(おも)ひ出(だ)しても涎(よだれ)が落(お)つるやうだ。311あゝ本当(ほんたう)に可愛(かあい)いお姫(ひめ)様(さま)だなア。312兎(と)も角(かく)ここへお通(とほ)りになる迄(まで)、313此(この)木(き)の下(した)で休(やす)むことにせう。314登(のぼ)つて見(み)たら、315ズイ分(ぶん)甘(うま)いのがあるだらうけれど、316木登(きのぼ)りする奴(やつ)と、317飛行機(ひかうき)に乗(の)る奴(やつ)と広(ひろ)い街道(かいだう)を軒下(のきした)歩(ある)いて看板(かんばん)で頭(あたま)打(う)つ奴(やつ)程(ほど)馬鹿(ばか)はないと云(い)ふから、318マア木登(きのぼ)りは止(や)めにして、319低(ひく)く垂(た)れ下(さが)つた甘(うま)さうな山桃(やまもも)をとつて辛抱(しんばう)せうかい』
320と云(い)ひ乍(なが)ら、321低(ひく)き枝(えだ)の半熟(はんじゆく)の山桃(やまもも)をむしり、322ムシヤムシヤと喉(のど)をしめし、323腹(はら)をふくらせ、324今(いま)か今(いま)かと首(くび)を長(なが)うして待(ま)つて居(ゐ)る。
325 三(さん)人(にん)は樹上(じゆじやう)にて互(たがひ)に顔(かほ)を見合(みあは)せ、326口(くち)を押(おさ)へ、327物(もの)を言(い)ふなとの合図(あひづ)をし乍(なが)ら、328二人(ふたり)の立(た)ち去(さ)るのを、329もどかしげに待(ま)ち居(ゐ)たりける。
330(大正一一・八・一九 旧六・二七 松村真澄録)
331(昭和九・一二・一八 王仁校正)
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