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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第31巻(午の巻)
序歌
総説
第1篇 千状万態
第1章 主一無適
第2章 大地震
第3章 救世神
第4章 不知恋
第5章 秋鹿の叫
第6章 女弟子
第2篇 紅裙隊
第7章 妻の選挙
第8章 人獣
第9章 誤神託
第10章 噂の影
第11章 売言買辞
第12章 冷い親切
第13章 姉妹教
第3篇 千里万行
第14章 樹下の宿
第15章 丸木橋
第16章 天狂坊
第17章 新しき女
第18章 シーズンの流
第19章 怪原野
第20章 脱皮婆
第21章 白毫の光
第4篇 言霊将軍
第22章 神の試
第23章 化老爺
第24章 魔違
第25章 会合
余白歌
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霊界物語
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海洋万里(第25~36巻)
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第31巻(午の巻)
> 第4篇 言霊将軍 > 第24章 魔違
<<< 化老爺
(B)
(N)
会合 >>>
第二四章
魔違
(
まちがひ
)
〔八九〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
篇:
第4篇 言霊将軍
よみ(新仮名遣い):
ことたましょうぐん
章:
第24章 魔違
よみ(新仮名遣い):
まちがい
通し章番号:
890
口述日:
1922(大正11)年08月20日(旧06月28日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
秋山別は樹下に一夜を明かした。すると下の方から宣伝歌の声が聞こえてきた。見ればモリスが登ってくる。秋山別は小躍りして喜び、モリスが来るのを待っていた。
しかしこれは、昨晩の怪物がモリスの姿に化けていたものであった。秋山別はモリスと思い込んで再会の喜びを表したが、モリスに化けた怪物は持っていた幣のようなものを打ち振った。
すると、小さな玉のようなものが幾百ともなく落下して爆発し、中から小さな紅井姫が何百も現れて秋山別に取り付き、一斉に恨み言を浴びせながら秋山別を引き倒し、乱暴した。秋山別は苦しさに昏倒してしまった。
怪物はそのさまを見てあざ笑うと、昨晩の言霊のお返しだと言ってどこかへ消えてしまった。秋山別は気がついて、あたりを見回している。そこへ宣伝歌の声が聞こえてきた。今度は本物のモリスであった。
モリスは秋山別を見つけて声をかけ、無事を祝すと、自分が試練にあったことを話し始めた。しかし秋山別は先ほどモリスに化けた怪物になぶられたので、警戒して言霊を発射し続けている。
秋山別があまりモリスを怪物ではないかと疑ってかかるので、モリスは刺激してはいけないとそのまま二人で山頂まで登ることとした。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-04-20 17:46:59
OBC :
rm3124
愛善世界社版:
272頁
八幡書店版:
第6輯 143頁
修補版:
校定版:
281頁
普及版:
128頁
初版:
ページ備考:
001
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
此
(
この
)
樹下
(
じゆか
)
に
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あ
)
かす
折
(
をり
)
しも、
002
遥
(
はるか
)
の
方
(
かた
)
より
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
るにぞ、
003
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
雀躍
(
こをどり
)
し、
004
後
(
あと
)
ふり
返
(
かへ
)
り
能
(
よ
)
く
見
(
み
)
れば、
005
モリスは
只一人
(
ただひとり
)
何
(
なに
)
か
手
(
て
)
に
采配様
(
さいはいやう
)
の
者
(
もの
)
を
握
(
にぎ
)
り、
006
之
(
これ
)
を
打
(
うち
)
ふり
打
(
うち
)
ふり
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
る。
007
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
地獄
(
ぢごく
)
で
神
(
かみ
)
に
会
(
あ
)
ひし
心地
(
ここち
)
にて、
008
雀躍
(
こをどり
)
しつつ
待
(
ま
)
ちゐたりしが、
009
近寄
(
ちかよ
)
つて
来
(
きた
)
るを、
010
能
(
よ
)
く
能
(
よ
)
く
見
(
み
)
ればモリスにあらで、
011
夜前
(
やぜん
)
の
化爺
(
ばけぢぢ
)
、
012
体
(
からだ
)
を
少
(
すこ
)
し
小
(
ちい
)
さくして、
013
モリスの
声色
(
こはいろ
)
を
使
(
つか
)
ひながら
来
(
きた
)
れるなりけり。
014
されど
秋山別
(
あきやまわけ
)
はモリスとのみ
深
(
ふか
)
く
信
(
しん
)
じて
少
(
すこ
)
しも
疑
(
うたが
)
はず、
015
飛
(
と
)
びつく
様
(
やう
)
に、
016
秋山別
『ヤア、
017
モリスどこへ
往
(
い
)
つて
居
(
を
)
つたのだい、
018
随分
(
ずいぶん
)
待
(
ま
)
ち
詫
(
わ
)
びたよ。
019
夜前
(
やぜん
)
も
夜前
(
やぜん
)
とて、
020
此
(
この
)
木
(
き
)
の
下
(
した
)
に
寝
(
ね
)
て
居
(
を
)
れば、
021
それはそれは
厭
(
いや
)
らしい
化爺
(
ばけぢぢ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
よつてナ、
022
流石
(
さすが
)
の
俺
(
おれ
)
も
荒肝
(
あらぎも
)
を
潰
(
つぶ
)
したよ。
023
併
(
しか
)
し
俺
(
おれ
)
の
取
(
と
)
つときの
言霊
(
ことたま
)
を
発射
(
はつしや
)
したのに
驚
(
おどろ
)
き、
024
小
(
ちい
)
さくなつて
逃
(
に
)
げよつた
時
(
とき
)
の
愉快
(
ゆくわい
)
さと
云
(
い
)
つたら、
025
有
(
あ
)
つたものぢやないワ、
026
アハヽヽヽ』
027
モリスに
見
(
み
)
えた
男
(
をとこ
)
、
028
男
『そうか、
029
ソリヤ
愉快
(
ゆくわい
)
だつたネイ。
030
イヤ
気味
(
きみ
)
が
悪
(
わる
)
かつただらうネ。
031
併
(
しか
)
し
今日
(
けふ
)
はお
前
(
まへ
)
の
一番
(
いちばん
)
怖
(
こわ
)
い
者
(
もの
)
をドツサリ
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
てやつたから、
032
マア
昨夜
(
ゆうべ
)
の
返礼
(
へんれい
)
だ。
033
ゆつくり
楽
(
たのし
)
むがよからうよ』
034
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
035
麻
(
ぬさ
)
の
様
(
やう
)
な
物
(
もの
)
を
左右左
(
さいうさ
)
にプツプツプツと
振
(
ふ
)
りまはす。
036
小
(
ちい
)
さい
玉
(
たま
)
の
様
(
やう
)
な
物
(
もの
)
が、
037
幾百
(
いくひやく
)
ともなく
落
(
お
)
つる
途端
(
とたん
)
に、
038
何
(
いづ
)
れも
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
爆発
(
ばくはつ
)
し、
039
中
(
なか
)
から
桃太郎
(
ももたらう
)
が
生
(
うま
)
れた
様
(
やう
)
に、
040
何百
(
なんびやく
)
とも
知
(
し
)
れぬ
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
が
現
(
あら
)
はれて、
041
秋山別
(
あきやまわけ
)
の
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
取
(
と
)
りつき、
042
女
『コレコレまうし
秋山別
(
あきやまわけ
)
さまお
前
(
まへ
)
は
情
(
つれ
)
ない
人
(
ひと
)
だよ。
043
能
(
よ
)
うマア
私
(
わたし
)
を
見捨
(
みす
)
ててこンな
所迄
(
とこまで
)
逃
(
に
)
げて
来
(
き
)
やしやつたは
本当
(
ほんたう
)
に
憎
(
にく
)
らしいワ』
044
と
云
(
い
)
つて
頬辺
(
ほほべ
)
たをピシヤツと
叩
(
たた
)
き、
045
耳
(
みみ
)
を
引
(
ひつ
)
かき、
046
そこら
中
(
ぢう
)
をひねりまはす。
047
又
(
また
)
同
(
おな
)
じ
姿
(
すがた
)
の
女
(
をんな
)
、
048
秋山別
(
あきやまわけ
)
の
足
(
あし
)
にしがみつき、
049
女
『お
前
(
まへ
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
罪
(
つみ
)
な
人
(
ひと
)
、
050
私
(
わたし
)
が
国依別
(
くによりわけ
)
さまに、
051
あれ
丈
(
だけ
)
恋
(
こひ
)
して
居
(
ゐ
)
るのに、
052
好
(
す
)
かぬたらしい、
053
横恋慕
(
よこれんぼ
)
をして、
054
一
(
いち
)
も
取
(
と
)
らず
二
(
に
)
も
取
(
と
)
らずにして
了
(
しま
)
つたぢやないか。
055
エヽ
恋
(
こひ
)
の
敵
(
かたき
)
ぢや、
056
秋山別
(
あきやまわけ
)
さま!』
057
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
058
拳
(
こぶし
)
を
一口
(
ひとくち
)
クワツとかぶり
取
(
と
)
る。
059
又
(
また
)
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
は
武者
(
むしや
)
振
(
ぶ
)
りつき、
060
女
『エヽ
残念
(
ざんねん
)
々々
(
ざんねん
)
、
061
お
前
(
まへ
)
故
(
ゆゑ
)
に、
062
私
(
わたし
)
はシーズン
河
(
がは
)
へ
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げたのだよ。
063
敵
(
かたき
)
を
討
(
う
)
たずにおくものか!』
064
と
髻
(
たぶさ
)
を
掴
(
つか
)
み、
065
無性
(
むしやう
)
矢鱈
(
やたら
)
に
引
(
ひき
)
まはす
其
(
その
)
痛
(
いた
)
さ。
066
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りに
悲鳴
(
ひめい
)
をあげ、
067
秋山別
『
痛
(
いた
)
い
痛
(
いた
)
い、
068
怺
(
こら
)
へてくれ。
069
モウ
是丈
(
これだけ
)
女
(
をんな
)
攻
(
ぜ
)
めに
会
(
あ
)
うてはやりきれないワ。
070
命
(
いのち
)
がなくなる、
071
どうぞ
助
(
たす
)
けてくれ!』
072
と
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
になつて
呼
(
よ
)
ばはつて
居
(
ゐ
)
る。
073
数多
(
あまた
)
の
女
(
をんな
)
は
又
(
また
)
もや
武者
(
むしや
)
ぶりつき、
074
女
『
女
(
をんな
)
にかけたら、
075
命
(
いのち
)
も
何
(
なん
)
にも
要
(
い
)
らぬと
云
(
い
)
つたぢやないか。
076
お
前
(
まへ
)
の
心
(
こころ
)
が
生
(
う
)
ンだ
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
、
077
サア
命
(
いのち
)
を
貰
(
もら
)
はう。
078
妾
(
わらは
)
の
手
(
て
)
にかかつて
死
(
し
)
ンだら
得心
(
とくしん
)
でせう。
079
コレ
秋山別
(
あきやまわけ
)
さま、
080
黒
(
くろ
)
い
色男
(
いろをとこ
)
には
生
(
うま
)
れて
来
(
こ
)
ぬものぢやなア。
081
ホヽヽヽヽ
痛
(
いた
)
いか
痛
(
いた
)
いか、
082
チト
痛
(
いた
)
いとても
辛抱
(
しんばう
)
なされ。
083
可愛
(
かあい
)
い
女
(
をんな
)
につつかれたり、
084
囓
(
か
)
ぶりつかれたり、
085
体
(
からだ
)
一面
(
いちめん
)
抓
(
つね
)
られるのは、
086
男
(
をとこ
)
として
天下
(
てんか
)
第一
(
だいいち
)
の
光栄
(
くわうゑい
)
でせう。
087
……コレコレ
甲
(
かふ
)
乙
(
おつ
)
丙
(
へい
)
丁
(
てい
)
戊
(
ぼう
)
己
(
き
)
の
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
さま、
088
寄
(
よ
)
つて
集
(
たか
)
つて
此
(
この
)
男
(
をとこ
)
を
苛
(
いぢ
)
めてやらうぢやありませぬか。
089
あゝ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い』
090
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
何百
(
なんびやく
)
人
(
にん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
女
(
をんな
)
が、
091
交
(
かは
)
る
交
(
がは
)
る
頭
(
あたま
)
を
叩
(
たた
)
き、
092
髪
(
かみ
)
をひつたくり、
093
鼻
(
はな
)
を
抓
(
つ
)
まみ、
094
耳
(
みみ
)
を
引
(
ひ
)
つかき、
095
手足
(
てあし
)
にかぢりつく
其
(
その
)
苦
(
くる
)
しさ。
096
遂
(
つひ
)
に
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
堪
(
たま
)
りかねて、
097
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
昏倒
(
こんたう
)
したりける。
098
モリスに
見
(
み
)
えた
男
(
をとこ
)
、
099
大口
(
おほぐち
)
あけて、
100
男
『アハヽヽヽ、
101
偉相
(
えらさう
)
に
昨夜
(
ゆうべ
)
は
俺
(
おれ
)
に
言霊
(
ことたま
)
を
発射
(
はつしや
)
し、
102
苦
(
くるし
)
めよつた
其
(
その
)
返報
(
へんぱう
)
がやしぢや。
103
此奴
(
こいつ
)
は
何
(
なん
)
にも
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
恐
(
こわ
)
いものはないが、
104
女
(
をんな
)
が
一番
(
いちばん
)
恐
(
こわ
)
いと
吐
(
ぬか
)
しよつたので、
105
女
(
をんな
)
で
仇敵討
(
かたきうち
)
をしてやつたのだ。
106
モウ
斯
(
こ
)
うなれば、
107
命
(
いのち
)
もあろまい。
108
ハヽヽヽヽ、
109
好
(
い
)
い
気味
(
きみ
)
だナ。
110
サア
帰
(
かへ
)
らう』
111
と
云
(
い
)
ふや
否
(
いな
)
や、
112
再
(
ふたた
)
び
采配
(
さいはい
)
を
打
(
うち
)
ふれば、
113
数多
(
あまた
)
の
女
(
をんな
)
は
夢
(
ゆめ
)
の
如
(
ごと
)
くに
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せ、
114
怪物
(
くわいぶつ
)
も
亦
(
また
)
何時
(
いつ
)
とはなしに
煙
(
けぶり
)
の
如
(
ごと
)
く
消
(
き
)
えにける。
115
秋山別
(
あきやまわけ
)
はホツと
息
(
いき
)
をつぎ、
116
馬鹿面
(
ばかづら
)
をさらして、
117
そこらをキヨロキヨロ
見
(
み
)
まはし
居
(
ゐ
)
たりしが、
118
又
(
また
)
もや
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
声
(
こゑ
)
聞
(
きこ
)
え
来
(
き
)
たるにぞ、
119
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
再
(
ふたた
)
び
驚
(
おどろ
)
き
立上
(
たちあが
)
り、
120
よくよく
見
(
み
)
ればモリスである。
121
『
又
(
また
)
出
(
で
)
よつたなア』と
目
(
め
)
を
怒
(
いか
)
らし、
122
臍下
(
さいか
)
丹田
(
たんでん
)
に
息
(
いき
)
をつめ、
123
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
みモリスに
向
(
むか
)
つて
身構
(
みがま
)
へなし
居
(
ゐ
)
たりしが、
124
樹下
(
じゆか
)
に
近寄
(
ちかよ
)
り
来
(
きた
)
りしモリスは
此
(
この
)
態
(
さま
)
を
見
(
み
)
て、
125
モリス
『ヤア
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
つたのかい。
126
俺
(
おれ
)
やモウ
貴様
(
きさま
)
が
何処
(
どこ
)
かへ
散
(
ち
)
つて
了
(
しま
)
つたのだと
思
(
おも
)
ひ、
127
心配
(
しんぱい
)
して
居
(
ゐ
)
たよ。
128
マア
無事
(
ぶじ
)
で
結構
(
けつこう
)
だつた。
129
併
(
しか
)
し
俺
(
おれ
)
は
途中
(
とちう
)
に
於
(
おい
)
て
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
の
御
(
お
)
化
(
ばけ
)
に
出会
(
であ
)
ひ、
130
大変
(
たいへん
)
に
試
(
た
)
めされて
来
(
き
)
たよ』
131
と
聞
(
き
)
くに、
132
秋山別
(
あきやまわけ
)
は、
133
秋山別
『オツトドツコイ
化物
(
ばけもの
)
奴
(
め
)
其
(
その
)
手
(
て
)
は
喰
(
く
)
はぬぞ』
134
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
135
身構
(
みがまへ
)
をなし、
136
両手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み、
137
モリスに
向
(
むか
)
ひ、
138
『ウーンウーン』と
力限
(
ちからかぎ
)
りに
唸
(
うな
)
り
立
(
た
)
て、
139
『
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
』を
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
繰返
(
くりかへ
)
す。
140
モリスは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だか
合点
(
がつてん
)
行
(
ゆ
)
かず、
141
モリス
『オイ
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
142
そら
何
(
なん
)
だイ、
143
いい
加減
(
かげん
)
に
言霊
(
ことたま
)
をやめたら
如何
(
どう
)
だい。
144
チツとお
前
(
まへ
)
に
話
(
はな
)
したい
事
(
こと
)
があるのだから』
145
秋山別
『
吐
(
ぬ
)
かすな
吐
(
ぬ
)
かすな。
146
言霊
(
ことたま
)
をいい
加減
(
かげん
)
に
止
(
や
)
めと
吐
(
ぬか
)
すが、
147
之
(
これ
)
を
止
(
や
)
めて
堪
(
たま
)
るかい。
148
益々
(
ますます
)
猛烈
(
まうれつ
)
に
発射
(
はつしや
)
志
(
し
)
てやるぞよ』
149
といひ
乍
(
なが
)
ら、
150
又
(
また
)
もや『
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
』を
繰返
(
くりかへ
)
した。
151
モリス
『オイ、
152
お
前
(
まへ
)
は
気
(
き
)
が
違
(
ちが
)
うたのぢやないか。
153
俺
(
おれ
)
が
分
(
わか
)
らぬか、
154
俺
(
おれ
)
はモリスだよ』
155
秋山別
『
馬鹿
(
ばか
)
にするない。
156
又
(
また
)
女
(
をんな
)
を
振
(
ふ
)
り
出
(
だ
)
して、
157
俺
(
おれ
)
を
責
(
せめ
)
ようと
思
(
おも
)
つたつて、
158
其
(
その
)
手
(
て
)
にや
乗
(
の
)
らないぞ。
159
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
、
160
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
……』
161
と
切
(
しき
)
りに
汗
(
あせ
)
をたらたら
流
(
なが
)
し、
162
数歌
(
かずうた
)
を
唱
(
とな
)
へてゐる。
163
モリスは、
164
モリス
『
此奴
(
こいつ
)
烈風
(
れつぷう
)
にあほられて、
165
肝
(
きも
)
をつぶし
発狂
(
はつきやう
)
してゐるのに
違
(
ちが
)
ひない、
166
一
(
ひと
)
つ
水
(
みづ
)
でも
頭
(
あたま
)
から、
167
ぶつ
掛
(
か
)
けてやれば
気
(
き
)
がつくだろう』
168
と
小声
(
こごゑ
)
に
囁
(
ささや
)
き
乍
(
なが
)
ら、
169
秋山別
(
あきやまわけ
)
の
手
(
て
)
をグツト
握
(
にぎ
)
り、
170
無理
(
むり
)
矢理
(
やり
)
に
谷川
(
たにがは
)
の
流
(
なが
)
れの
傍
(
そば
)
へ
引張
(
ひつぱり
)
行
(
ゆ
)
き、
171
片一方
(
かたいつぱう
)
の
手
(
て
)
にて、
172
頭部
(
とうぶ
)
面部
(
めんぶ
)
の
嫌
(
きら
)
ひなく、
173
切
(
しき
)
りに
谷水
(
たにみづ
)
をブツ
掛
(
かけ
)
るを、
174
秋山別
(
あきやまわけ
)
は、
175
秋山別
『コリヤ
畜生
(
ちくしやう
)
、
176
何
(
なに
)
をしよるのだ。
177
沢山
(
たくさん
)
な
女責
(
をんなぜ
)
めに
会
(
あ
)
はして
置
(
お
)
いて、
178
又
(
また
)
水責
(
みづぜ
)
めに
会
(
あは
)
す
積
(
つも
)
りか。
179
ヨシ、
180
俺
(
おれ
)
にも
了見
(
れうけん
)
がある。
181
今
(
いま
)
に
返報
(
へんぱう
)
がやしをしてやるぞよ。
182
俺
(
おれ
)
の
兄弟分
(
けうだいぶん
)
のモリスがやがて
此処
(
ここ
)
へやつて
来
(
く
)
るから、
183
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
れ、
184
仇
(
かたき
)
を
討
(
う
)
つてやるワ』
185
モリス
『オイ
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
186
確
(
しつか
)
りせぬかい。
187
俺
(
おれ
)
はモリスだよ。
188
トツクリと
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
てくれ、
189
モリスに
間違
(
まちがひ
)
ないのだから……』
190
と
秋山別
(
あきやまわけ
)
の
前
(
まへ
)
に
黒
(
くろ
)
い
顔
(
かほ
)
をニユツと
突出
(
つきだ
)
して
見
(
み
)
せるを、
191
秋山別
(
あきやまわけ
)
はモリスの
顔
(
かほ
)
を
熟視
(
じゆくし
)
して、
192
秋山別
『アハヽヽヽ
能
(
よ
)
く
化
(
ば
)
けよつたな。
193
丸
(
まる
)
でモリスそつくりだ。
194
夫丈
(
それだけ
)
化
(
ば
)
ける
技両
(
ぎりよう
)
があれば、
195
どうだ
一
(
ひと
)
つ
改心
(
かいしん
)
して、
196
俺
(
おれ
)
の
弟子
(
でし
)
になる
気
(
き
)
はないか』
197
モリス
『
今
(
いま
)
更
(
あらた
)
めてそんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
はなくても
良
(
い
)
いぢやないか。
198
兄弟
(
けうだい
)
同様
(
どうやう
)
にしてゐる
仲
(
なか
)
だもの。
199
お
前
(
まへ
)
が
強
(
た
)
つて
弟子
(
でし
)
になれと
云
(
い
)
ふのなら、
200
お
前
(
まへ
)
の
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
く
迄
(
まで
)
なつてやらぬ
事
(
こと
)
はない』
201
秋山別
『モウ
昨夜
(
ゆうべ
)
の
様
(
やう
)
に、
202
白髪
(
はくはつ
)
の
老爺
(
おやぢ
)
には
化
(
ばけ
)
てくれなよ。
203
それから、
204
あれ
丈
(
だけ
)
沢山
(
たくさん
)
に
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
を
出
(
だ
)
されると、
205
俺
(
おれ
)
もお
門
(
かど
)
が
広
(
ひろ
)
すぎて、
206
処置
(
しよち
)
に
困
(
こま
)
るからなア』
207
モリスは
合点
(
がてん
)
の
往
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
だと
思
(
おも
)
ひ
乍
(
なが
)
ら……チト
逆上
(
ぎやくじやう
)
して
居
(
ゐ
)
るのだらう、
208
余
(
あま
)
り
逆
(
さか
)
らつては
能
(
よ
)
くなからう……と
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
に
思
(
おも
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
209
よい
加減
(
かげん
)
にあしらひつつ、
210
帽子
(
ぼうし
)
ケ
岳
(
だけ
)
を
目当
(
めあ
)
てに
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
とはなりける。
211
(
大正一一・八・二〇
旧六・二八
松村真澄
録)
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