霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 天狂坊(てんきやうばう)〔八八二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻 篇:第3篇 千里万行 よみ(新仮名遣い):せんりばんこう
章:第16章 天狂坊 よみ(新仮名遣い):てんきょうぼう 通し章番号:882
口述日:1922(大正11)年08月19日(旧06月27日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
木の下で休息していた秋山別とモリスが木に登って来ようとしたので、国依別はにわかに天狗の声を出して驚かした。
国依別は二人に、紅井姫とエリナは日暮シ山の岩窟に居ると真実を告げるが、以前にやはり天狗の声色でだまされた二人は容易に信用しなかった。
そこへ、紅井姫とエリナがやってきて、秋山別とモリスの手を取ると、恋人気取りで行ってしまった。
安彦と宗彦は、日暮シ山に居るはずの紅井姫とエリナが突然ここにやってきたことを不審がるが、国依別は、あれは白狐の旭明神・月日明神が自分たちを助けてくれたのだ、と教えた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-04-10 18:39:33 OBC :rm3116
愛善世界社版:188頁 八幡書店版:第6輯 112頁 修補版: 校定版:193頁 普及版:89頁 初版: ページ備考:
001 国依別(くによりわけ)一行(いつかう)山桃(やまもも)()頂点(ちやうてん)()(どもへ)となつて(いき)をころし、002(はや)樹下(じゆか)二人(ふたり)此処(ここ)立去(たちさ)れかしと、003心中(しんちう)(ひそ)かに(いの)つて()る。004(さん)(にん)樹上(じゆじやう)(かく)れてゐるとは、005(かみ)ならぬ()()(よし)もなく(あき)006モリ二人(ふたり)は、007()根株(ねかぶ)(こし)(うち)かけ、
008秋山別『オイ、009モリス、010(なん)不思議(ふしぎ)(こと)があればあるものぢやないか。011(げん)丸木橋(まるきばし)(うた)(うた)つたり、012(はなし)()つて(とほ)つたのも確実(かくじつ)だ。013(また)(けやき)()(かき)おきがしてあつたのも、014(また)(ゆめ)でもなければ、015(まぼろし)でもない。016さうすれば()うしても(この)(みち)()なくてはならぬ(はず)だ。017何程(なにほど)(あし)(はや)いと()つても、018(をんな)(あし)でさう(はや)()ける道理(だうり)もなし、019大方(おほかた)天狗(てんぐ)にでも(つま)まれたのではなからうかな』
020モリス『ナアニ秋山別(あきやまわけ)021そンな気遣(きづか)ひがあるものかい。022キツと此処(ここ)()()るに(ちが)ひないワ。023それにしても、024小気味(こきみ)のよい(こと)ぢやないか。025国依別(くによりわけ)(あと)()つかけて()るとうるさいから、026(あき)さま、027モリさま、028あの一本橋(いつぽんばし)(おと)して(くだ)さい……なんて、029()ましやくれた(こと)()いてあつたぢやないか。030(おれ)やモウあの一言(ひとこと)でサツパリ得心(とくしん)して(しま)つたよ。031(しか)(なが)大分(だいぶん)(あきら)めかけて()つた(おれ)(こひ)は、032再燃(さいねん)して炎々(えんえん)(てん)(こが)し、033咫尺(しせき)暗澹(あんたん)034疾風(しつぷう)迅雷(じんらい)()(おほ)はれ、035(みみ)(ろふ)せられ、036精神(せいしん)恍惚(くわうこつ)として、037魔風(まかぜ)恋風(こひかぜ)(つつ)まれて(しま)つたようだ。038それにしてもあの(はし)(くらゐ)(おと)した(ところ)で、039国依別(くによりわけ)(やつ)040二人(ふたり)(あと)()ぎつけてやつて()るに相違(さうゐ)ないワ。041一層(いつそう)(こと)042国依別(くによりわけ)(ここ)()るのを()()けて(おど)かしてボツ(かへ)してやらうか。043それに()いては(さいは)ひ、044(この)山桃(やまもも)()だ。045(この)(うへ)へあがつて天狗(てんぐ)声色(こわいろ)使(つか)ひ、046呶鳴(どな)りつけてやつたら、047流石(さすが)国依別(くによりわけ)(おも)()つて、048引返(ひつかへ)すに(ちがひ)ない。049なンと妙案(めうあん)だらう。050サアやがて()時分(じぶん)だ。051(のぼ)らう(のぼ)らう』
052()(みき)()をかけ、053一間(いつけん)(ばか)(のぼ)りかけた。
054 国依別(くによりわけ)はコリヤ面白(おもしろ)くない。055(おれ)(はう)から(ひと)天狗(てんぐ)になつてやらうと、056(こころ)(うち)決心(けつしん)し、057()(がね)のやうな(こゑ)張上(はりあ)げて、
058国依別『ウー』
059(うな)()し、
060国依別(この)(はう)はブラジル(やま)大天狗(だいてんぐ)061天狂坊(てんきやうばう)であるぞよ。062数万(すうまん)年来(ねんらい)山桃(やまもも)()住家(すみか)(いた)()るにも(かか)はらず、063(けが)()てたる人間(にんげん)()(もつ)て、064(この)()(のぼ)れるなれば、065(のぼ)つて()よ。066(また)から引裂(ひきさ)いて(しま)うぞよ。067ウー』
068 二人(ふたり)(にはか)(かほ)真青(まつさを)にし、
069秋山別『ヤア(この)天狗(てんぐ)神王(しんわう)(もり)天狗(てんぐ)とは余程(よほど)()のある(やつ)だ。070グヅグヅして()るとどンな()()ふか()れぬぞ。071オイ、072モリ(こう)073(わび)をせうぢやないか』
074 モリスは(ふる)(なが)ら、
075モリス『モシモシ天狗(てんぐ)(さま)076秋公(あきこう)(のぼ)らうと()つたので御座(ござ)います。077(わたくし)(けつ)してそンな失礼(しつれい)(こと)(いた)(かんが)へは御座(ござ)いませぬ。078どうぞ(ゆる)して(くだ)さいませ』
079国依別(その)(はう)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)国依別(くによりわけ)が、080一本橋(いつぽんばし)(わた)(すき)(かんが)へ、081(はし)(おと)さうと(いた)した大悪人(だいあくにん)082容赦(ようしや)はならぬぞ』
083秋山別『ハイハイ、084(まこと)()まぬ(こと)(いた)しましたが、085これもヤツパリ秋公(あきこう)(こひ)懸橋(かけはし)をおとした国依別(くによりわけ)御座(ござ)いますから、086仕方(しかた)がなしに(おと)さうと(いた)しました。087(しか)しそれが(ため)国依別(くによりわけ)怪我(けが)をしたのでも、088()ンだのでもありませぬ。089どうぞ神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)して(くだ)さりますよう()(ねがひ)(いた)します』
090国依別(その)(はう)二人(ふたり)(をんな)行方(ゆくへ)()つて()るか』
091秋山別『ハイ、092(たしか)にあの丸木橋(まるきばし)(わた)り、093こちらへ()(はず)御座(ござ)いますが、094どこに沈没(ちんぼつ)(いた)しましたか、095(いま)だに行方(ゆくへ)不明(ふめい)にて捜索(そうさく)最中(さいちう)御座(ござ)います。096どうぞ()慈悲(じひ)(もつ)(かれ)所在(ありか)()()らせ(くだ)さいますれば、097(まこと)(もつ)有難(ありがた)仕合(しあは)せと(ぞん)(たてまつ)ります』
098国依別(なんぢ)(たづ)ぬる二人(ふたり)(をんな)(まを)すのは、099紅井姫(くれなゐひめ)100エリナの(こと)であらう』
101秋山別『ハイ御存(ごぞん)じの(とほ)り、102(その)(をんな)御座(ござ)います。103(いま)はどの(へん)()りますか、104どうぞ()(あが)りました(こと)御座(ござ)いますが、105一寸(ちよつと)()らせ(くだ)さいますれば大変(たいへん)都合(つがふ)()ろしう御座(ござ)ります』
106国依別(その)(をんな)日暮(ひぐら)(やま)山麓(さんろく)107ウラル(けう)(やかた)に、108両人(りやうにん)(とも)機嫌(きげん)よく(くら)して()るぞよ。109(なに)踏迷(ふみまよ)うて斯様(かやう)(ところ)()()たのか。110大盲(おほめくら)()
111モリス『オイ、112ヤツパリ日暮(ひぐら)(やま)岩窟(がんくつ)かも()れぬぞ。113(いま)天狗(てんぐ)さまが、114あゝ仰有(おつしや)ると、115(おれ)矢張(やつぱり)そンな心持(こころもち)がして()だしたよ』
116 (あき)117小声(こごゑ)で、
118秋山別馬鹿(ばか)()ふない、119あの(とほ)立派(りつぱ)(をんな)()書残(かきのこ)しもしてあるなり、120(げん)一本橋(いつぽんばし)(わた)(とき)(こゑ)()いたぢやないか。121(この)天狗(てんぐ)さま、122(なに)()ふか(わか)りやしないぞ。123野天狗(のてんぐ)()(もの)(うそ)(ばか)りいふものだから、124ウツカリ信用(しんよう)出来(でき)ないぞ』
125国依別(この)(はう)(まを)(こと)をまだ(うたが)うて()るか。126それ(ほど)(うたが)ふのなら、127(ゆる)してやるから、128トツトと(この)()(うへ)へあがつて()い、129天狗(てんぐ)正体(しやうたい)をあらはし、130アフンとさしてやらうぞ』
131秋山別『メヽヽ滅相(めつさう)な、132(けつ)してウヽヽ(うたがひ)(いた)しませぬ。133天狗(てんぐ)さまに間違(まちがひ)(ござ)いませぬ』
134国依別(その)(はう)神王(しんわう)(もり)(おい)出会(であ)うた天狗(てんぐ)とは種類(しゆるゐ)(ちが)うぞよ。135天狗(てんぐ)()(もの)千変(せんぺん)万化(ばんくわ)(はたら)きを(いた)すものだ。136(また)(その)国々(くにぐに)の、137(くに)(たま)(より)(わけ)られてあるから、138チツとは調子(てうし)(ちが)うぞよ。139(あま)口答(くちごた)へを(いた)すと、140(ひと)()()ける(やう)()()はしてやらうか。141キジキジも()かねば安彦(やすひこ)とうたれはせうまいぞ。142マチマチに(その)(はう)(こころ)がなつて、143統一(とういつ)(いた)さず(むね)彦々(ひこひこ)144宗彦(むねひこ)(うご)いて()るから、145チツと()(おち)つけて(かんが)へたがよからう。146(この)山桃(やまもも)モリス立寄(たちよ)り、147(くち)(あき)148(やま)をアフンと(いた)して(なが)め、149(わけ)(わか)らぬ面付(かほつき)で、150何程(なにほど)(をんな)(あと)(さが)したとて、151(わか)りさうな(こと)はないぞよ。152サア(はや)(まよ)ひの(ゆめ)()まし、153(いち)()(はや)くヒルの(くに)(かへ)り、154楓別(かえでわけの)(みこと)にお(わび)(いた)して、155帰参(きさん)(ゆる)して(もら)ひ、156神妙(しんめう)神界(しんかい)御用(ごよう)(いた)すがよからうぞ。157ウー』
158 ()かる(ところ)見目(みめ)(かたち)(うる)はしき二人(ふたり)(をんな)159スタスタと(たに)(つた)(きた)り、160森蔭(もりかげ)立寄(たちよ)り、
161女・甲(紅井姫)(たれ)かと(おも)へばお(まへ)さまは、162秋山別(あきやまわけ)さまであつたか。163あゝどれ(だけ)(さが)した(こと)だか(わか)りやしないワ。164マアよう無事(ぶじ)()(くだ)さいました。165(なつ)かしう(ぞん)じます。166(わらは)はヒルの(やかた)(わか)れてより、167今頃(いまごろ)はどうして御座(ござ)るかと、168()ても()めても心配(しんぱい)(いた)して()りました。169(わたくし)秋山別(あきやまわけ)さま、170あなたの()(きら)(あそ)ばす可憐(かれん)(をんな)紅井姫(くれなゐひめ)()(もの)です。171アンアンアン』
172()(そで)をあて、173()()して()せる。
174女・乙(エリナ)(たれ)かと(おも)へばモリスさま、175(わたくし)はエリナで御座(ござ)ります。176一度(いちど)()うた(その)()から、177(まへ)(わたし)生別(いきわか)れ、178(なん)便(たよ)りも内証(ないしよう)の、179(はなし)せうにも(こと)づけせうにも、180人目(ひとめ)(せき)(へだ)てられ、181()ひたい()たいと(あけ)くれに、182こがれ(した)つて()りました。183(まへ)()うてさまざまの、184(うら)みも()はう、185(こころ)(たけ)()いて(もら)はうと、186(おも)ひつめては、187(また)もや(おこ)持病(ぢびやう)(しやく)188アイタタアイタタ()ひたかつたわいなア。189モリスさま、190(まへ)(わたし)(くら)すなら、191仮令(たとへ)アマゾン(がは)(ほとり)でも、192ブラジル(やま)(たに)あひでも、193(いと)ひはせぬ、194どうぞ(わたし)(あは)れの(をんな)と、195可愛(かあい)がつて(くだ)さりませ。196コレのうモシ、197モリスさま』
198モリス『ヤアよう()(くだ)さつた。199モリスとても(おん)()(おも)(こころ)(かは)りのあるべきぞ。200(あめ)のあした、201(かぜ)(ゆふ)べ、202そなたは何処(いづこ)()てにさまよふかと、203(おも)ひつめたるモリスの(あつ)(こころ)204(かなら)(うら)ンでばし、205(くだ)さるなや』
206芝居(しばゐ)気取(きど)りになつて、207やつてゐる。208秋山別(あきやまわけ)(まけ)(おと)らず、
209秋山別『これはしたり()(ひめ)(さま)210チトお(つつし)みなされませ。211不義(ふぎ)()(いへ)()法度(はつと)212何程(なにほど)()れた(をとこ)ぢやとて、213はるばるブラジル(やま)谷底(たにそこ)まで、214(たづ)()るとは、215チと無分別(むふんべつ)では御座(ござ)らぬか。216(それがし)とても木石(ぼくせき)ならぬ青春(せいしゆん)()()ゆる(をとこ)()217無下(むげ)(かへ)したくはなけね(ども)218(ひめ)(さま)行末(ゆくすゑ)(おも)へばこそ、219(つれ)ない(こと)を……(まを)しませぬ。
220ホンに可愛(かあい)(ひめ)ごぜの、221はるばる(ここ)(たづ)()て、222(をつと)(あと)()(ねら)ひ、223()心根(こころね)がいとしいわいのオンオンオンオン、224コレを(おも)へば(さき)()に、225如何(いか)なる(こと)(つみ)せしか、226(せん)()万里(ばんり)山坂(やまさか)()え、227一丈(いちぢやう)()(しやく)(まはし)()めた、228(この)荒男(あらをとこ)()(はぢ)ず、229(ひめ)行方(ゆくへ)(たづ)ねむと、230さまよひ(めぐ)りて(いま)(ここ)に、231(まへ)()うた(うれ)しさは、232コレが(わす)れてなるものか、233金勝要(きんかつかねの)大神(おほかみ)(さま)()(なさけ)(ぶか)縁結(えんむす)び、234あゝ有難(ありがた)勿体(もつたい)なやと、235大地(だいち)にカツパとひれ()()(あは)し、236(をとこ)()きにぞ()きゐたる』
237紅井姫『ホヽヽヽヽ』
238エリナ『ヒヽヽヽヽ』
239モリス『コレコレエリナ殿(どの)240ヒヽヽとは何事(なにごと)御座(ござ)るか、241モツと(ひん)よくお(わら)ひなさらぬか、242()つともなう御座(ござ)るぞや』
243エリナ『ホヽヽヽヽ(はう)けしやますなや』
244モリス(はう)けたればこそ、245(をんな)一人(ひとり)(あと)()うて(はぢ)外聞(ぐわいぶん)打忘(うちわす)れ、246(ここ)まで苦労(くらう)(いた)して()るのでないか、247コレ、248エリナ(ひめ)249野暮(やぼ)(こと)()やるなや』
250 国依別(くによりわけ)樹上(じゆじやう)にて、251こばり()れず、252(おも)はず、253(くち)(ひも)千切(ちぎ)つて、
254国依別『ワツハヽヽヽ』
255(わら)()せば、256安彦(やすひこ)257宗彦(むねひこ)(おな)じく、258(わら)()す。
259 秋山別(あきやまわけ)は、
260秋山別『ヘン野天狗(のてんぐ)さま、261(これ)でも日暮(ひぐら)(やま)岩窟(がんくつ)()りますかい、262()みませぬなア。263色男(いろをとこ)()ふものはマア、264ザツとこンな(もの)ですワイ。265(まへ)さまもチツとやけるでせう。266()(どく)(なが)天狗(てんぐ)()へば(えら)いようだが、267ヤツパリ畜生(ちくしやう)(うち)だ。268(はや)(せん)(ねん)修業(しうげふ)()へて、269人間(にんげん)(うま)れて()さんせ。270こんなローマンスを実地(じつち)にやらうとママだよ。271なア、272モリス、273()んぼ天狗(てんぐ)(をんな)(きら)ひだと(まを)しても、274閻魔(えんま)さまでも(をんな)(しろ)()(かた)をもンで(もら)うて(うれ)しさうにして()るぢやないか。275(あま)岩戸(いはと)(はじ)めより、276(をんな)ならでは()()けぬ(くに)だ。277エツヘヽヽヽ、278ちツと野天狗(のてんぐ)さま、279けなりい(こと)御座(ござ)いませぬか。280(まへ)さまの()(まへ)でこンなお(やす)うない(ところ)をお()にブラ()げて、281()(どく)ですが、282これも因縁(いんねん)づくぢやと(あきら)めさンせ。283サア紅井姫(くれなゐひめ)ここへおぢや』
284モリス『エリナ殿(どの)サアお()でなさいませ。285モリスが案内(あんない)(つかまつ)りませう』
286 『アイ』『アイ』
287(やさ)しき(こゑ)()し、288二人(ふたり)(をとこ)()()かれ、289ドシドシと東南(とうなん)()して()いて()く。
290国依別『サア、291もう好加減(いいかげん)におりようぢやないか、292随分(ずいぶん)迷惑(めいわく)したねー。293今夜(こんや)()(した)()でも()よつた(くらゐ)なら、294()りるにも()りられず、295大変(たいへん)(こま)(ところ)だつた。296結構(けつこう)()手伝(てつだ)ひが(あら)はれて、297()(おれ)(たち)安心(あんしん)だ』
298安彦『どうして(また)紅井姫(くれなゐひめ)さまやエリナさまが、299こンな所迄(ところまで)()いて()て、300あれ(だけ)あなたにホの()とレの()だつたのに、301(にはか)心機(しんき)一転(いつてん)(あそ)ばしたと()え、302あンな(をとこ)意茶(いちや)ついて、303()()いて()くなンて、304合点(がつてん)()かぬぢやありませぬか。305それだから(をんな)化者(ばけもの)だ、306油断(ゆだん)がならぬと(ひと)()ふのですな』
307国依別本当(ほんたう)化者(ばけもの)だよ。308うつかり(はな)(した)(なが)うして(よだれ)をくつてると、309眉毛(まゆげ)をよまれ、310(しり)()(まで)ぬかれてアフンとするのは、311ウスノロ(をとこ)常習(じやうしふ)だよ』
312宗彦(なん)とマア(かは)れば(かは)るものですなア。313この宗彦(むねひこ)今度(こんど)(ばか)りは(あき)れて(しま)ひましたよ。314モウ(をんな)はゾツとしました。315(をんな)(これ)からは何程(なにほど)(うま)(こと)()つたとて、316うつかり()れませぬ(わい)
317安彦『そンな心配(しんぱい)すない。318(まへ)()(うま)(こと)()つてくれる(をんな)があるものかい。319(おれ)だつて、320仮令(たとへ)うそでも()いから、321一口(ひとくち)(くらゐ)()れたやうな(こと)()つて(もら)ひたいと(おも)うのだが、322なかなか()つてくれぬなア。323まだ彼奴(あいつ)ア、324(だま)されてゐるか()うか()らぬけれど、325(おれ)から()ると余程(よつぽど)(をんな)にもてると()えるワイ。326エヽ怪体(けたい)(わる)い、327本当(ほんたう)にのろけを()かしよつて、328彼奴(あいつ)()つた(あと)(とほ)るのも(いや)になつて(しま)つたワイ』
329国依別『アハヽヽヽ矢張(やつぱり)()けると()えるなア。330勝手(かつて)(をとこ)(をんな)とが勝手(かつて)(こと)をして()るのだ。331(べつ)法界(はうかい)悋気(りんき)をする必要(ひつえう)もないぢやないか。332そンな(こと)ではまだ(かみ)(さま)御用(ごよう)をつとめる(ところ)へは()かないぞ』
333安彦『おかみさまの御用(ごよう)なつとさして(いただ)けば結構(けつこう)だが、334(わたし)(やう)(もの)到底(たうてい)駄目(だめ)ですワイ。335(をんな)(きら)はれるやうな(こと)で、336()うして(かみ)さまに()かれる道理(だうり)御座(ござ)いませう』
337国依別『アハヽヽヽ、338ありや(をんな)ぢやない化者(ばけもの)だよ』
339安彦(しち)(にん)()はなす(とも)340(をんな)(こころ)(ゆる)すなとか()ひますなア。341本当(ほんたう)(をんな)()(もの)一寸(ちよつと)(かみ)()ひ、342白粉(おしろい)をつけ、343口紅(くちべに)でもすると、344(おに)(やう)洒面(しやつら)(にはか)天女(てんによ)(やう)()えるのだから、345(たま)りませぬワイ』
346国依別『あれは本当(ほんたう)(をんな)ぢやないよ』
347宗彦『さうでせうなア、348(をとこ)でさへも人三(にんさん)化七(ばけしち)()ひますから、349(いづ)四足(よつあし)容物(いれもの)でせう。350(ひめ)さまもあこ(まで)堕落(だらく)しちや、351モウ駄目(だめ)ですな。352何程(なにほど)(あたら)しい(をんな)流行(りうかう)すると()つても(あま)極端(きよくたん)ぢやありませぬか。353(まる)(きつね)()けとる(やう)なスタイルをしよつて、354吾々(われわれ)(まへ)であのザマは一体(いつたい)(なん)だい』
355国依別『どこ(まで)(わか)らぬ(をとこ)だなア。356あの()(かた)(あさひ)明神(みやうじん)357月日(つきひ)明神(みやうじん)()()二方(ふたかた)だよ。358吾々(われわれ)迷惑(めいわく)をお(たす)(くだ)さつた結構(けつこう)白狐(びやつこ)さまだよ』
359安彦『あゝそれで安彦(やすひこ)(わか)りました。360(なん)だか(しり)(しろ)()のやうなものがブラ()がつてゐましたワ。361(これ)からあの二人(ふたり)()うなるでせうかなア』
362国依別『どうせアフンとするのだらう。363サア()かう』
364国依別(くによりわけ)(ことば)二人(ふたり)(あし)(はや)め、365谷路(たにみち)東南(とうなん)さして(すす)()く。
366大正一一・八・一九 旧六・二七 松村真澄録)

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