霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 売言(ばいげん)買辞(ばいじ)〔八七七〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm3111
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 アナンはハル、002ナイルの両人(りやうにん)を先(さき)に立(た)て、003岩窟(がんくつ)の入口(いりぐち)に悠然(いうぜん)として腰打(こしうち)掛(か)けて待(ま)つて居(ゐ)る国依別(くによりわけ)外(ほか)二人(ふたり)の前(まへ)に来(きた)り、004忽(たちま)ち地(ぢ)ベタに手(て)をつき乍(なが)ら、
005アナン『これはこれは、006国依別(くによりわけ)の宣伝使(せんでんし)様(さま)、007能(よ)くこそ斯様(かやう)な所迄(ところまで)御(ご)入来(じゆらい)下(くだ)さいまして、008岩窟内(がんくつない)一同(いちどう)恐悦(きようえつ)至極(しごく)に存(ぞん)じ奉(たてまつ)ります。009就(つ)いては今迄(いままで)御(ご)無礼(ぶれい)の御(お)咎(とが)めも厶(ござ)りませうなれど、010三五教(あななひけう)の御教(みをしへ)通(どほ)り、011只(ただ)何事(なにごと)も神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し、012吾々(われわれ)の身(み)の過(あやま)ちは宣(の)り直(なほ)し下(くだ)さいまして、013仁慈(じんじ)無限(むげん)の大御心(おほみこころ)を発揮(はつき)し下(くだ)さいまして、014何事(なにごと)もあなた様(さま)の大御心(おほみこころ)によりて寛大(くわんだい)なる御(ご)処置(しよち)を取(と)られむ事(こと)を神(かみ)かけて念(ねん)じ奉(たてまつ)ります。015あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
016と国依別(くによりわけ)を無暗(むやみ)矢鱈(やたら)に拝(をが)み倒(たふ)し、017一口(ひとくち)も不足(ふそく)を言(い)はせない様(やう)に、018大手(おほて)搦手(からめて)より鉄条網(てつでうまう)を張(は)つて了(しま)つたのは、019実(じつ)に狡猾(かうくわつ)至極(しごく)の曲者(くせもの)である。
020国依別『これはこれはアナンさまとやら、021何時(いつ)ぞやらは丸木橋(まるきばし)の畔(ほとり)に於(おい)て、022花々(はなばな)しく御(ご)奮闘(ふんとう)遊(あそ)ばされ、023実(じつ)にあなたの神謀(しんぼう)鬼策(きさく)には国依別(くによりわけ)感嘆(かんたん)の舌(した)を巻(ま)いて厶(ござ)る。024兵法(へいはふ)の奥(おく)の手(て)は三十六(さんじふろく)計(けい)の中(うち)、025逃(に)ぐるを以(もつ)て第一(だいいち)とすとかや、026世(よ)の中(なか)は勝(か)たう勝(か)たうと思(おも)ふに依(よ)つて治(おさ)まらない、027あなた方(がた)の様(やう)に、028少数(せうすう)の敵(てき)に勝(かち)を譲(ゆづ)り、029恥(はづ)かしげもなく算(さん)を乱(みだ)して御(ご)遁走(とんさう)遊(あそ)ばす其(その)御(ご)勇気(ゆうき)には、030吾々(われわれ)も倣(なら)はなくてはなりませぬ。031負(まけ)て勝(かち)取(と)るとやら、032ネツトプライスの掛値(かけね)なしの店(みせ)よりも、033ドツサリと負値(おひね)を吹(ふ)き立(た)て、034客(きやく)に対(たい)しドツサリ負(まけ)てやる店(みせ)の方(はう)が能(よ)く繁昌(はんじやう)致(いた)しますから、035定(さだ)めてウラル教(けう)もよくお負(まけ)遊(あそ)ばしたのでせう。036それ故(ゆゑ)得意(とくい)は億客(おくきやく)兆来(てうらい)の御(ご)繁昌(はんじやう)で厶(ござ)いませう。037イヤもう国依別(くによりわけ)、038側(そば)へも寄(よ)れませぬ。039どうぞ相変(あひかは)らず御(お)店(みせ)の繁昌(はんじやう)する様(やう)に、040今度(こんど)もキレーサツパリと御(お)負(まけ)下(くだ)さいませ。041あなたの方(はう)に於(おい)て、042算盤(そろばん)が合(あ)はないから負(まけ)ないと仰有(おつしや)れば仕方(しかた)がありませぬ。043私(わたし)は漆彦(うるしひこの)命(みこと)となつて負(ま)かしてあげませう。044チツとはうるし、045否(いや)うるさくても、046そこが何事(なにごと)も神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し宣(の)り直(なほ)すので厶(ござ)いますからなア、047ハヽヽヽヽ』
048アナン『ハイハイ、049まだ御(お)取引(とりひき)の御(ご)用命(ようめい)を蒙(かうむ)らぬ中(うち)から、050負(まけ)て負(まけ)てとこ切(ぎ)り御(ご)便利(べんり)を計(はか)つて居(を)りまするから、051何卒(なにとぞ)永当(えいたう)々々(えいたう)御(ご)贔屓(ひいき)の程(ほど)を御(お)願(ねが)ひ申(まを)します』
052国依別『時(とき)に吾々(われわれ)の参(まゐ)りましたのは、053一(ひと)つ売(う)つて貰(もら)ひたい品物(しなもの)が厶(ござ)いまして、054ワザワザ当(たう)商店(しやうてん)へ罷(まか)り越(こ)した、055新得意(しんとくい)で厶(ござ)います。056どうぞ安(やす)く負(まけ)て御(お)譲(ゆづ)り下(くだ)さいませぬか』
057アナン『御(ご)註文(ちうもん)の品物(しなもの)とは一体(いつたい)何物(なにもの)で御座(ござ)いますか。058動物(どうぶつ)か、059植物(しよくぶつ)か、060器具(きぐ)か或(あるひ)は魚類(ぎよるゐ)か、061貝類(かひるゐ)か、062何(なん)なつと御(ご)註文(ちゆうもん)次第(しだい)、063有(あり)さへすれば只(ただ)でも進(しん)ぜませう。064併(しか)し乍(なが)ら無(な)いものは御免(ごめん)を蒙(かうむ)つておかねばなりませぬ』
065国依別『吾々(われわれ)の買(か)ひ求(もと)めに来(き)た者(もの)は動物(どうぶつ)や植物(しよくぶつ)ではありませぬ。066摺出(すりだ)しと、067キギスと住家(すみか)とで御座(ござ)いますよ』
068アナン『へー、069これは又(また)妙(めう)な御(ご)註文(ちゆうもん)ですな。070キギスなどは此(この)館(やかた)には居(を)りませぬ。071摺火(すりび)もなければ売(う)る様(やう)な家(いへ)も生憎(あいにく)仕入(しい)れて居(をり)ませぬので、072どうぞ外(よそ)さまを御(お)尋(たづ)ねなさつて下(くだ)さいませ。073へー毎度(まいど)有難(ありがた)う、074御(ご)贔屓(ひいき)に預(あづか)りまして……』
075国依別『毎度(まいど)御(ご)贔屓(ひいき)と云(い)ふが、076今日(けふ)始(はじ)めて註文(ちうもん)に来(き)たのぢやないか』
077 アナンは切(しき)りに腰(こし)を屈(かが)め、078揉手(もみで)をし乍(なが)ら、
079アナン『へー、080これは商(あきな)ひの習慣(しふくわん)で御座(ござ)いまして、081始(はじ)めての御(お)客(きやく)さまでも、082毎度(まいど)御(ご)ひいきに……と云(い)ふ事(こと)になつて居(を)りまする。083どうぞマア奥(おく)へお這入(はい)り下(くだ)さいまして、084京(きやう)の御(お)茶漬(ちやづ)けでもドツサリ食(あが)つて下(くだ)さつて、085御(お)帰(かへ)り下(くだ)さいませ』
086国依別『最前(さいぜん)の吾々(われわれ)が註文(ちうもん)致(いた)した、087キギスと云(い)ふのは、088三五教(あななひけう)のキジ公(こう)の事(こと)だ。089又(また)摺出(すりだ)しと云(い)ふたのはマチ公(こう)の事(こと)だよ。090住家(すみか)と云(い)ふたのはエスと云(い)ふ事(こと)だ。091何時(いつ)までも穴倉(あなぐら)の中(なか)へ仕舞(しま)ひ込(こ)みておいても、092余(あま)り利益(りえき)にもなりますまい。093新規(しんき)流行(りうかう)の此(この)時節(じせつ)、094寝息物(ねいきもの)になれば売(う)れ行(ゆ)きが悪(わる)くなるから、095買手(かひて)のある中(うち)にお売(う)りになる方(はう)がお店(みせ)のお得(とく)だと考(かんが)へますがなア』
096アナン『コレ計(ばつか)りは親方(おやかた)の意見(いけん)を聞(き)かねば、097番頭(ばんとう)の自由(じいう)にはなりませぬから、098一寸(ちよつと)待(ま)つてゐて下(くだ)さい。099マア奥(おく)に旦那(だんな)様(さま)がお茶(ちや)でも立(た)ててお待受(まちうけ)で御座(ござ)いますから、100どうぞ何(なん)なら御(お)這入(はい)りになつては如何(いかが)で御座(ござ)います。101たつて厭(いや)なお方(かた)に這入(はい)つて貰(もら)ひたい事(こと)も御座(ござ)いませぬ……では御座(ござ)いませぬが』
102国依別『何(なに)は兎(と)もあれ、103奥(おく)へふみ込(こ)み、104ブールの大将(たいしやう)に直接(ちよくせつ)面談(めんだん)を遂(と)げ、105三(さん)人(にん)の男(をとこ)を受取(うけと)つて帰(かへ)りませう。106……サア姫(ひめ)様(さま)、107エリナさま、108私(わたくし)に従(つ)いて御(お)出(い)でなさりませ』
109と無理(むり)に行(ゆ)かうとするを、110アナンは大手(おほで)を拡(ひろ)げて、
111アナン『モシモシそれは余(あま)り理不尽(りふじん)と申(まを)すもの、112暫(しばら)くお待(ま)ち下(くだ)されば、113教主(けうしゆ)の御(お)許(ゆる)しが出(で)ますから、114それ迄(まで)余(あま)り永(なが)くとは申(まを)しませぬ。115暫(しばら)くお待(まち)を願(ねが)ひます』
116 国依別(くによりわけ)は、
117国依別『イヤ、118少(すこ)しも猶予(いうよ)はならぬ。119邪魔(じやま)めさるな』
120と進(すす)み入(い)るを、121又(また)もやアナンは大手(おほで)を拡(ひろ)げて、122『待(ま)つた待(ま)つた』と後退(あとしざ)りし乍(なが)ら、123行手(ゆくて)に塞(ふさ)がり、124過(あやま)つてキジ、125マチの落込(おちこ)める落(おと)し穴(あな)へ真逆(まつさか)様(さま)に自分(じぶん)も落(お)ち込(こ)みにける。
126国依別『ヤア自分(じぶん)の作(つく)つた陥穽(おとしあな)へ自分(じぶん)がはまるとは、127実(じつ)に天罰(てんばつ)と云(い)ふものは恐(おそ)ろしいものだナ。128併(しか)しチツとも油断(ゆだん)は出来(でき)ない。129……紅井姫(くれなゐひめ)様(さま)、130エリナ様(さま)、131国依別(くによりわけ)の歩(ある)いた足跡(あしあと)より外(ほか)を歩(ある)いちや可(い)けませぬよ。132大変(たいへん)な危険(きけん)区域(くゐき)ですから……』
133と云(い)ひ乍(なが)ら、134陥穽(おとしあな)を上(うへ)から覗(のぞ)き込(こ)めば、135穴(あな)の底(そこ)にキジ、136マチの両人(りやうにん)が今(いま)おち込(こ)みしアナンを引捉(ひつとら)へ、
137キジ『サア、138アナン、139貴様(きさま)も此処(ここ)へ落込(おちこ)みし以上(いじやう)は、140最早(もはや)叶(かな)ふまい。141一時(いつとき)も早(はや)く俺(おれ)達(たち)を救(すく)ひ上(あ)げる様(やう)に、142大将(たいしやう)に歎願(たんぐわん)致(いた)せばよし、143グヅグヅ致(いた)すと、144生首(なまくび)を引抜(ひきぬ)いて了(しま)うぞ。145モウ大丈夫(だいぢやうぶ)だ、146上(うへ)から何(なに)を落(お)としよつても、147貴様(きさま)の体(たい)で受(う)ければ好(よ)いなり、148良(よ)いものが降(ふ)つて来(き)たものだ。149万一(まんいち)腹(はら)が減(へ)れば貴様(きさま)の肉(にく)を食(く)つてやるなり、150何(なん)と云(い)つてもモウ此方(こちら)のものだ。151アツハヽヽヽ』
152と笑(わら)ひ乍(なが)ら、153空(そら)を仰(あふ)ぐ途端(とたん)にふと目(め)に付(つ)いたのは国依別(くによりわけ)の宣伝使(せんでんし)であつた。154キジ公(こう)は思(おも)はず、
155キジ『ヤア宣伝使(せんでんし)様(さま)、156能(よ)う来(き)て下(くだ)さいましたナア』
157マチ『今日(けふ)か今日(けふ)かとマチ公(こう)はマチかね山(やま)の時鳥(ほととぎす)、158マチに待(ま)つたる今日(けふ)の吉日(きちじつ)、159アナ有難(ありがた)やアナ尊(たふと)や、160アナ嬉(うれ)しやなア。161穴(あな)の中(なか)へアナンが又(また)降(ふ)つて来(き)ました。162モシ宣伝使(せんでんし)様(さま)、163あなたさへ御(お)越(こ)し下(くだ)さらば最早(もはや)千人力(せんにんりき)です。164どうか、165梯子(はしご)をかけて下(くだ)さいませ。166梯子(はしご)が無(な)ければ、167太(ふと)い綱(つな)を吊(つ)りおろして下(くだ)さらば、168それに縋(すが)つて上(のぼ)ります』
169国依別『永(なが)らくの御(ご)隠居(いんきよ)、170さぞ精神(せいしん)修養(しうやう)が出来(でき)たでせう。171実(じつ)に国依別(くによりわけ)はお羨(うらや)ましう存(ぞん)じますワイ』
172キジ『何事(なにごと)も善意(ぜんい)に解釈(かいしやく)すれば、173陥穽(おとしあな)だつて、174別(べつ)に苦(くる)しいとは思(おも)ひませぬ。175本当(ほんたう)に神(かみ)様(さま)の御(お)蔭(かげ)で、176キジ公(こう)も結構(けつこう)な魂研(たまみが)きをさして頂(いただ)きました』
177国依別『それ程(ほど)結構(けつこう)ならば、178モウ暫(しばら)く御(ご)両人(りやうにん)共(とも)、179そこで徹底(てつてい)的(てき)の修業(しうげふ)を遊(あそ)ばしては如何(いかが)ですか』
180マチ『イヤもう是(こ)れで一寸(ちよつと)一服(いつぷく)さして貰(もら)ひまして、181又(また)更(あらた)めて荒行(あらげう)にかかりますから、182どうぞ一刻(いつこく)も早(はや)く吊(つ)り上(あ)げて下(くだ)さいませ。183併(しか)し、184此(この)アナン殿(どの)は今(いま)這入(はい)つたばかしですから、185上(あ)げては気(き)の毒(どく)です。186せめて四五(しご)年(ねん)も、187実地(じつち)修行(しうげう)の出来(でき)る迄(まで)、188此(この)井(ゐど)の底(そこ)で断食(だんじき)修業(しうげふ)をさしてやりませう。189……なア、190アナン、191それが結構(けつこう)だらう、192吾身(わがみ)を抓(つめ)つて人(ひと)の痛(いた)さを知(し)れ……と云(い)ふ事(こと)がある、193吾々(われわれ)も永(なが)らく結構(けつこう)な深(ふか)い、194冷(つめ)たい陥穽(おとしあな)の御(お)世話(せわ)に預(あづか)つて、195此(この)御恩(ごおん)は忘(わす)れられませぬワイ。196己(おのれ)の欲(ほつ)する所(ところ)は之(これ)を人(ひと)に施(ほどこ)せ、197欲(ほつ)せざる所(ところ)は人(ひと)に施(ほどこ)す勿(なか)れ……と云(い)つて、198吾々(われわれ)は大変(たいへん)に此(この)陥穽(おとしあな)の底(そこ)が気(き)に入(い)つたから、199アナンさまにも御(お)神徳(かげ)の丸取(まるど)りをせずに、200分配(ぶんぱい)してあげませうかい』
201アナン『誠(まこと)に済(す)まぬ事(こと)を致(いた)しました。202どうぞ今迄(いままで)の事(こと)は一条(いちでう)の夢(ゆめ)とお忘(わす)れ下(くだ)さいまして、203此(この)アナンをあなたと一所(いつしよ)に引上(ひきあ)げて貰(もら)ふやうに国依別(くによりわけ)さまに、204お願(ねが)ひ下(くだ)さいな』
205キジ『ヤアそれは願(ねが)つてあげませう。206併(しか)し何時(いつ)上(あ)げて下(くだ)さるかはキジ公(こう)が保証(ほしよう)する事(こと)は出来(でき)ませぬよ。207人間(にんげん)は刹那心(せつなしん)が大切(たいせつ)だ。208マアゆつくりと気(き)を落着(おちつ)けて居(を)られたがよからう。209泰然(たいぜん)自若(じじやく)として山岳(さんがく)の動(うご)かざるが如(ごと)し底(てい)の大度量(だいどりやう)がなくては、210ウラル教(けう)の幹部(かんぶ)は勤(つと)まりますまい、211アハヽヽヽ』
212 斯(か)く云(い)ふ中(うち)、213国依別(くによりわけ)は縄梯子(なはばしご)を捜(さが)し出(だ)し、214パラリと吊(つ)り下(お)ろせば、215一番(いちばん)にキジ公(こう)は、216猿(ましら)の如(ごと)く縄梯子(なはばしご)を伝(つた)ひあがる。217次(つい)で、218マチ公(こう)が上(あ)がつて来(き)た。219今度(こんど)はアナンが一生(いつしやう)懸命(けんめい)に縄梯子(なはばしご)に手(て)をかけ、220二段(にだん)三段(さんだん)上(あ)がつた所(ところ)を、221キジ公(こう)縄梯子(なはばしご)の結(むす)び手(て)をプツツと切(き)つた。222アナンは再(ふたた)び井戸(ゐど)の底(そこ)にドスンと音(おと)を立(た)てて尻餅(しりもち)をつき、
223アナン『助(たす)けて呉(く)れい、224助(たす)けて呉(く)れい』
225と叫(さけ)んで居(ゐ)る。226キジ公(こう)は上(うへ)から、
227キジ『助(たす)けてやらぬ事(こと)はないが、228それには一(ひと)つ註文(ちうもん)がある。229其(その)註文(ちうもん)に応(おう)ずるかどうだ』
230アナン『ハイハイ、231何事(なにごと)も御(ご)註文(ちゆうもん)に応(おう)じます。232最前(さいぜん)も国依別(くによりわけ)様(さま)に無類(むるゐ)飛切(とびき)り、233めちやめちやの投売(なげうり)を致(いた)しますと、234約束(やくそく)しておきました。235ドツと負(まけ)ておきますから、236精々(せいぜい)御(ご)註文(ちうもん)を願(ねが)ひます。237其(その)代(かは)り、238私(わたし)を井戸(ゐど)から上(あ)げて下(くだ)さるでせうなア』
239キジ『負(まけ)る品物(しなもの)を上(あ)げるといふ事(こと)があるかい。240就(つ)いては註文(ちうもん)の次第(しだい)は、241エスの所在(ありか)はどこだ。242それをキツパリと白状(はくじやう)するのだ。243さうせなくてはキジ公(こう)も助(たす)けてやる事(こと)は出来(でき)ぬワイ』
244アナン『エスさまですか、245そりや私(わたし)では分(わか)りませぬ。246ブールの大将(たいしやう)に聞(き)いて下(くだ)さい。247大将(たいしやう)が秘密(ひみつ)にして居(を)りますから、248吾々(われわれ)の窺知(きち)を許(ゆる)しませぬ』
249 国依別(くによりわけ)は言(ことば)も急(いそ)がしげに、
250国依別『キジさま、251マチさま、252サア是(こ)れから気(き)をつけもつて奥(おく)へ参(まゐ)らう。253……アナンさま、254暫(しばら)くそこで修業(しうげふ)をなさいませ。255キツと救(すく)ひ上(あ)げますから、256併(しか)し乍(なが)らエスの所在(ありか)が分(わか)り次第(しだい)助(たす)けますから、257それ迄(まで)そこで御(ご)辛抱(しんぼう)をなさいませや。258何(なに)か御(ご)入用(いりよう)の物(もの)が厶(ござ)いますれば、259何(なん)なりと遠慮(ゑんりよ)なく仰有(おつしや)つて下(くだ)さいませ。260石(いし)の団子(だんご)でも、261砂(すな)の握(にぎ)り飯(めし)でも、262蛔蟲虫(くわいちうむし)の素麺(そうめん)でも、263御(ご)註文(ちうもん)次第(しだい)、264勉強(べんきやう)して御(お)安(やす)く差上(さしあ)げますワ、265アハヽヽヽ』
266と笑(わら)ひ乍(なが)ら、267教主(けうしゆ)の居間(ゐま)を指(さ)して、268三男(さんなん)二女(にぢよ)の一行(いつかう)は足許(あしもと)に気(き)をつけ乍(なが)ら、269進(すす)み行(ゆ)く。
270(大正一一・八・一九 旧六・二七 松村真澄録)
271(昭和九・一二・一七 於七尾市 王仁校正)
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