霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 法螺貝(ほらがひ)〔一五三六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第60巻 真善美愛 亥の巻 篇:第2篇 東山霊地 よみ(新仮名遣い):あづもすれいち
章:第11章 法螺貝 よみ(新仮名遣い):ほらがい 通し章番号:1536
口述日:1923(大正12)年04月07日(旧02月22日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年8月12日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
玉国別一行はバーチル、チルテルそのほか一同に別れを告げて、ハルナの都を指して進むことになった。別れを惜しんでバーチル以下一同は袖にすがりつき、涙をたたえて別離の歌を歌う。
バーチルが述懐を込めた歌を歌い、玉国別一行が和歌で返し、またスマの里人たちが和歌で述懐と別離を歌った。
玉国別一行はスマの里を後にし、晩夏の風を浴びながら進んで行く。日がたそがれ、大原野に人通りも少なく、わずかに道のかたえにある沙羅双樹の森で一夜を過ごそうと入って行く。
この森には小さな祠が建っており、一行五人は祠の前にみのを敷いて笠を顔にかぶり、一夜を明かすことになった。
深夜になると三人組の泥棒が現れ、一行の寝息をうかがっている。泥棒の一人は元バラモン軍のベルであった。泥棒たちは、五人を襲う相談をしている。
玉国別は泥棒たちの話を聞いていたが、祠の後ろから闇夜をつらぬいて法螺の音が響いてきた。泥棒たちは驚き、ベルともう一人は逃げて行ったが、新米の乙はその場に立ちすくんでしまった。
玉国別が法螺貝の吹き主を歌で尋ねると、祠の後ろから答えたのは元バラモン軍将軍鬼春別、今は比丘となた治道居士が名乗り出た。一行は歌で泥棒の一件を述懐し、挨拶をした。
三千彦が枯れ枝に火をつけて明りを取った。治道居士は祠の後ろから現れ、玉国別一行に挨拶をなした。一行はこれまでの経緯をしばし語り合った。
玉国別は、体が休まったから夜中でも先に進もうと提案した。治道居士はしばらく同道することになった。見れば、ひとりの泥棒がしゃがんで震えている。泥棒は、自分は今日初めて、泥棒のベルという男の家来になったところだ、と言うと、こそこそと闇に姿を隠してしまった。
一行六人は法螺貝を吹く治道居士を先頭に立てて東南の方向に進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-09-18 20:16:12 文字数:4227 OBC :rm6011
愛善世界社版:131頁 八幡書店版:第10輯 641頁 修補版: 校定版:139頁 普及版:60頁 初版: ページ備考:
001 玉国別(たまくにわけ)一行(いつかう)はバーチル、002チルテル其(その)外(ほか)一同(いちどう)に暇(いとま)を告(つ)げ003山野(さんや)湖河(こか)を渡(わた)りハルナの都(みやこ)を指(さ)して進(すす)む事(こと)となつた。004別(わか)れを惜(をし)みてバーチル以下(いか)一同(いちどう)は袖(そで)に縋(すが)りつき005涙(なみだ)を湛(たた)へて別離(わかれ)の歌(うた)を歌(うた)ふ。
006バーチル『神(かみ)の任(よ)さしの宣伝使(せんでんし)
007清(きよ)き身魂(みたま)の玉国別(たまくにわけ)は
008天津(あまつ)御神(みかみ)や国津(くにつ)神(かみ)
009百(もも)の神々(かみがみ)勇(いさ)み立(た)ち
010その身辺(しんぺん)を守(まも)ります
011尊(たふと)き珍(うづ)の神司(かむづかさ)
012従(したが)ひ玉(たま)ふ真純彦(ますみひこ)
013三千彦(みちひこ) 伊太彦(いたひこ) デビス姫(ひめ)
014神(かみ)に等(ひと)しき御(おん)身魂(みたま)
015親子(おやこ)の悩(なや)みを救(すく)ひまし
016此(この)里人(さとびと)をよく治(をさ)め
017珍(うづ)の宮居(みやゐ)を建(た)て玉(たま)ひ
018タクシャカ竜王(りうわう)を初(はじ)めとし
019サーガラ竜王(りうわう)言向(ことむ)けて
020世界(せかい)の災(わざはひ)除(のぞ)きまし
021小天国(せうてんごく)を建設(けんせつ)し
022恵(めぐ)みの露(つゆ)を四方(よも)八方(やも)に
023垂(た)れさせ玉(たま)ひし有難(ありがた)さ
024千代(ちよ)も八千代(やちよ)も永久(とこしへ)に
025アヅモス山(さん)の山麓(さんろく)に
026鎮(しづ)まりまして吾々(われわれ)を
027導(みちび)き玉(たま)へと朝夕(あさゆふ)に
028祈(いの)りし甲斐(かひ)もあら悲(かな)し
029教(をしへ)の御子(みこ)を後(あと)にして
030魔神(まがみ)の猛(たけ)る月(つき)の国(くに)
031ハルナの都(みやこ)に出(い)で玉(たま)ふ
032その首途(いでたち)を見送(みおく)りて
033悲(かな)しみ胸(むね)に咽返(むせかへ)り
034涙(なみだ)は滝(たき)と流(なが)れ落(お)つ
035あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
036神(かみ)の任(よ)さしの宣伝使(せんでんし)
037如何(いか)程(ほど)真心(まごころ)現(あら)はして
038頼(たの)むも詮(せん)なき御(おん)体(からだ)
039別(わか)れを惜(をし)むも愚(おろか)なれ
040さはさり乍(なが)ら師(し)の君(きみ)よ
041ハルナの都(みやこ)の神業(しんげふ)を
042無事(ぶじ)に終(を)へさせ玉(たま)ひなば
043これの聖地(せいち)を見捨(みす)てずに
044再(ふたた)び現(あら)はれ来(きた)りまし
045吾(われ)等(ら)に尊(たふと)き御教(みをしへ)を
046完全(うまら)に委曲(つばら)に伝(つた)へませ
047宮(みや)の司(つかさ)のバーチルが
048里人(さとびと)一同(いちどう)になり代(かは)り
049慎(つつし)み願(ねが)ひ奉(たてまつ)る
050あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
051御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
052玉国別(たまくにわけ)『バーチルの清(きよ)き言葉(ことば)を名残(なごり)にて
053いざ立(た)ち行(ゆ)かむ神(かみ)のまにまに』
054真純彦(ますみひこ)『皇神(すめかみ)の任(よ)さしの儘(まま)に吾(われ)は行(ゆ)く
055健(まめや)かなれや百(もも)の人(ひと)等(たち)』
056三千彦(みちひこ)『縁(えにし)あらば再(ふたた)びお目(め)にかかるべし
057神(かみ)の恵(めぐ)みに世(よ)を送(おく)りませ』
058伊太彦(いたひこ)『言葉(ことば)にも尽(つく)され難(がた)き待遇(もてなし)を
059受(う)けし恵(めぐ)みを如何(いか)に返(かへ)さむ』
060デビス姫(ひめ)『いざさらば吾(わが)師(し)の君(きみ)と諸共(もろとも)に
061別(わか)れを告(つ)げむ百人(ももびと)の前(まへ)に』
062アンチー『玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)の親(おや)に果敢(はか)なくも
063生(い)き別(わか)れする吾(われ)ぞ悲(かな)しき』
064チルテル『摩訶(まか)不思議(ふしぎ)深(ふか)き縁(えにし)に包(つつ)まれて
065嬉(うれ)しき夢(ゆめ)を暫(しば)し見(み)しかな』
066サーベル姫(ひめ)『いざさらば真幸(まさき)くハルナに出(い)でませよ
067神(かみ)に祈(いの)りて君(きみ)を守(まも)らむ』
068チルナ姫(ひめ)『師(し)の君(きみ)の諭(さと)しによりて吾(わが)夫(つま)は
069誠(まこと)の道(みち)に帰(かへ)りましけり。
070山(やま)よりも高(たか)き恵(めぐ)みを如何(いか)にして
071報(むく)いむものと心(こころ)苛(いら)ちつ』
072テク『いざさらば御身(みみ)健(すこや)かに出(い)でませよ
073君(きみ)の前(まへ)には敵(てき)もなければ』
074カンナ『思(おも)ひきや思(おも)はぬ人(ひと)に巡(めぐ)り会(あ)ひ
075又(また)も思(おも)はぬ別(わか)れするかな』
076ヘール『何事(なにごと)も神(かみ)の任(よ)さしの儘(まま)なれば
077人(ひと)の言問(ことと)ふ道(みち)にあらまし』
078アキス『吾(わが)主人(あるじ)救(すく)ひ玉(たま)ひし助(たす)け神(がみ)
079別(わか)れむとして涙(なみだ)零(こぼ)るる』
080カール『何事(なにごと)も夢(ゆめ)の浮世(うきよ)と諦(あきら)めて
081思(おも)はざるらむ情(つれ)なき別(わか)れを』
082ワックス『許々多久(ここたく)の罪(つみ)や穢(けがれ)を洗(あら)はれし
083神(かみ)の司(つかさ)に今(いま)別(わか)れむとす。
084惜(をし)めども悔(くや)めど泣(な)けども如何(いか)にせむ
085神(かみ)に任(まか)せし教司(をしへつかさ)を』
086ヘルマン『夢(ゆめ)の世(よ)に不思議(ふしぎ)な夢(ゆめ)を見(み)たりけり
087夢(ゆめ)な忘(わす)れそ神(かみ)の恵(めぐ)みは』
088エキス『ワックスや主人(あるじ)の君(きみ)を悩(なや)めたる
089懺悔(ざんげ)の涙(なみだ)とどめ兼(か)ねつつ。
090玉国別(たまくにわけ)神(かみ)の司(つかさ)よ吾(わが)罪(つみ)を
091神(かみ)に祈(いの)りて払(はら)はせ玉(たま)へ』
092エル『テルモンの山(やま)の麓(ふもと)に立(た)ち別(わか)れ
093又(また)もや神(かみ)に別(わか)れむとぞする』
094玉国別(たまくにわけ)『猩々(しやうじやう)の翁(おきな)媼(おうな)に物(もの)申(まを)す
095弥(いや)永久(とこしへ)に安(やす)くましませ』
096翁(おきな)『スメールのこれの神山(みやま)に永久(とこしへ)に
097ありて御世(みよ)をば守(まも)らむとぞ思(おも)ふ』
098媼(おうな)『背(せ)の君(きみ)のタクシャカ竜王(りうわう)と相並(あひなら)び
099これの聖地(せいち)を永遠(とは)に守(まも)らむ』
100玉国別(たまくにわけ)『いざさらば諸人(もろびと)等(たち)に物申(ものまう)す
101安(やす)くましませ神(かみ)の恵(めぐみ)に』
102○
103玉国別(たまくにわけ)の一行(いつかう)は
104無限(むげん)の神力(しんりき)現(あら)はして
105麻(あさ)の如(ごと)くに乱(みだ)れたる
106諸人(もろびと)等(たち)の心(こころ)をば
107一(ひと)つに治(をさ)め悠々(いういう)と
108スマの里(さと)をば後(あと)にして
109晩夏(ばんか)の風(かぜ)を浴(あ)び乍(なが)ら
110稲葉(いなば)のそよぐ細道(ほそみち)を
111草鞋(わらぢ)脚絆(きやはん)に身(み)を固(かた)め
112二(ふた)つの玉(たま)を捧(ささ)げつつ
113意気(いき)揚々(やうやう)と進(すす)み行(ゆ)く。
114 日(ひ)は漸(やうや)く黄昏(たそが)れて来(き)た。115広袤(くわうぼう)千里(せんり)の大原野(だいげんや)、116人通(ひとどほり)も尠(すく)なく117僅(わづ)かに道(みち)の傍(かたへ)の娑羅(さら)双樹(さうじゆ)の森(もり)を認(みと)めて一夜(いちや)の雨宿(あまやど)りをなさむと足(あし)を速(はや)めたり。
118 此(この)森(もり)には半(なかば)破(やぶ)れた小(ちひ)さき祠(ほこら)が建(た)つて居(ゐ)る。119一行(いつかう)五(ご)人(にん)は祠(ほこら)の前(まへ)に蓑(みの)を布(し)き120笠(かさ)を顔(かほ)に被(かぶ)つて一夜(いちや)を明(あか)す事(こと)とした。121夜(よ)は深々(しんしん)と更渡(ふけわた)り水(みづ)も眠(ねむ)れる丑満(うしみつ)の頃(ころ)となつた。122窺(うかが)ひ寄(よ)つて三(さん)人(にん)の男(をとこ)、123五(ご)人(にん)の寝息(ねいき)を考(かんが)へ、
124甲(かふ)『オイ、125乾児(こぶん)共(ども)、126どうやら此奴(こいつ)ア物(もの)になりさうだぞ。127うまく行(ゆ)けば一生(いつしやう)遊(あそ)んで暮(くら)す事(こと)が出来(でき)る様(やう)にならうも知(し)れぬから、128貴様(きさま)等(ら)も俺(おれ)の指揮(しき)に従(したが)つて捨身(しやしん)的(てき)大活動(だいくわつどう)をやつて呉(く)れ』
129乙(おつ)『ハヽヽヽハイ、130カヽヽヽ畏(かしこ)まりました。131中々(なかなか)鼾(いびき)の高(たか)い連中(れんちう)で……』
132甲(かふ)『馬鹿(ばか)、133寝(ね)て居(ゐ)る人間(にんげん)の鼾(いびき)が怖(こは)うて此(この)商売(しやうばい)が出来(でき)ると思(おも)ふか』
134乙(おつ)『まだシヽヽヽ新米(しんまい)で厶(ござ)いますから135根(ね)つから勝手(かつて)が分(わか)りませぬので……』
136丙(へい)『モシ、137ベルの親方(おやかた)さま、138此奴(こいつ)アまだ間(ま)が厶(ござ)いませぬから仕方(しかた)が厶(ござ)いませぬ。139何(なに)、140これ位(くらゐ)の仕事(しごと)は私(わたし)一人(ひとり)で結構(けつこう)です。141何程(なにほど)新米(しんまい)だつて三月(みつき)すれば古米(こまい)になりますからな』
142乙(おつ)『オイ、143三月(みつき)経(た)つたら古米(こまい)になるとは、144それは何(なん)だ、145米相場(こめさうば)でもしようと云(い)ふのか、146こんな処(ところ)で店屋(みせや)もないぢやないか』
147甲(かふ)『馬鹿(ばか)ぢやな。148貴様(きさま)は乞食(こじき)もようさらさず、149たまたま泥棒(どろばう)に連(つ)れて来(く)れば、150その腰(こし)は何(なん)だ。151痳病患者(りんびやうやみ)か梅毒患者(ひえかき)の様(やう)な態(ざま)しやがつて……見(み)つともない』
152乙(おつ)『ヘヽヽヽヽ痳病(りんびやう)もチツト許(ばか)り患(わづら)うて居(ゐ)ます。153梅毒(ひえ)も漸(やうや)く癒(なほ)りかけた処(ところ)で厶(ござ)います。154アイタヽヽヽ痳病(りんびやう)の話(はなし)すると俄(にはか)に痛(いた)くなつて来(き)ました、155もう動(うご)けませぬ。156アイタヽヽヽ』
157と屁太(へた)る。
158ベル『オイ、159バット、160もう仕方(しかた)が無(な)い、161何程(なにほど)大勢(おほぜい)居(を)つても寝首(ねくび)を締(し)めるのは容易(ようい)なものだ。162サアこんな腰抜(こしぬ)けは放(ほ)つといて163貴様(きさま)と俺(おれ)が両方(りやうはう)から仕事(しごと)に取(と)りかからうぢやないか』
164バット『ハイ、165承知(しようち)しました。166吾々(われわれ)が運(うん)の開(ひら)け時(どき)、167この機会(きくわい)を逸(いつ)して、168どうして頭(あたま)が上(あが)りませう』
169 玉国別(たまくにわけ)は最初(さいしよ)から三(さん)人(にん)の密々話(ひそひそばなし)を一言(いちごん)も洩(も)らさず聞(き)いて居(ゐ)た。
170 かかる所(ところ)へ『ブーブー』と闇(やみ)を貫(つらぬ)く法螺(ほら)の声(こゑ)、171社(やしろ)の後(うしろ)より聞(きこ)え来(きた)る。172泥棒(どろばう)は驚(おどろ)いて乙(おつ)を社前(しやぜん)に残(のこ)し乍(なが)ら闇(やみ)に紛(まぎ)れて逃(に)げ去(さ)つて了(しま)つた。173法螺(ほら)の声(こゑ)は益々(ますます)高(たか)く響(ひび)いて来(く)る。
174 玉国別(たまくにわけ)は法螺(ほら)の音(ね)の静(しづ)まるを待(ま)つて、
175玉国別(たまくにわけ)『山川(やまかは)の枉(まが)拭(ふ)き払(はら)ふ法螺(ほら)の貝(かひ)
176何処(いづく)の人(ひと)の弄(すさ)びなるらむ。
177御社(みやしろ)の傍(かたはら)近(ちか)く聞(きこ)え来(く)る
178この言霊(ことたま)の主(ぬし)は何人(なにびと)』
179 祠(ほこら)の後(うしろ)より、
180『吾(われ)こそは鬼春別(おにはるわけ)のなれの果(はて)
181比丘(びく)と仕(つか)ふる治道(ちだう)居士(こじ)ぞや』
182玉国別(たまくにわけ)『治国別(はるくにわけ)神(かみ)の司(つかさ)に服(まつろ)ひし
183バラモン軍(ぐん)のゼネラルなりしか。
184吾(われ)こそは玉国別(たまくにわけ)の宣伝使(せんでんし)
185思(おも)はぬ所(ところ)に会(あ)ひにけるかな』
186治道(ちだう)『懐(なつか)しや音(おと)に名高(なだか)き玉国別(たまくにわけ)の
187神(かみ)の司(つかさ)か嬉(うれ)し恥(はづか)し』
188三千彦(みちひこ)『泥棒(どろばう)が吾(わが)懐(ふところ)を探(さぐ)らむと
189慄(ふる)ひ戦(をのの)き来(きた)る可笑(をか)しさ』
190伊太彦(いたひこ)『盗人(ぬすびと)を追(お)ひ払(はら)ひたる法螺(ほら)の貝(かひ)
191吹(ふ)き立(た)てたるは神(かみ)にぞ在(ま)さむ』
192三千彦(みちひこ)『聞(き)き及(およ)ぶ治道(ちだう)居士(こじ)とは汝(な)が事(こと)か
193思(おも)はぬ所(ところ)に会(あ)ひにけるかな』
194治道(ちだう)『吾(われ)は今(いま)ビクトル山(さん)の比丘(びく)となり
195四方(よも)を逍遥(さまよ)ふ修験者(しうげんじや)ぞや。
196武士(もののふ)の矢猛心(やたけごころ)を抑(おさ)へつつ
197誠(まこと)の道(みち)に進(すす)み行(ゆ)く身(み)よ』
198デビス姫(ひめ)『神(かみ)の道(みち)唯(ただ)只管(ひたすら)に進(すす)み行(ゆ)く
199比丘(びく)の司(つかさ)の心(こころ)雄々(をを)しき。
200吾(わ)れも亦(また)テルモン山(ざん)の神館(かむやかた)
201バラモン神(がみ)に仕(つか)へし身(み)ぞや』
202治道(ちだう)『テルモンの大海原(おほうなばら)を乗(の)り越(こ)えて
203漸(やうや)くここに吾(われ)は着(つ)きぬる。
204草枕(くさまくら)旅(たび)の疲(つか)れを休(やす)めむと
205祠(ほこら)の蔭(かげ)に憩(いこ)ひ居(ゐ)たりし。
206皇神(すめかみ)の縁(えにし)の糸(いと)につながれて
207神(かみ)の司(つかさ)に会(あ)ふぞ嬉(うれ)しき』
208 三千彦(みちひこ)は燧(ひうち)を取(とり)出(だ)し209闇(やみ)を探(さぐ)つて木(こ)の葉(は)枯枝(かれえだ)の端(はし)を掻(か)き集(あつ)め、210パツと火(ひ)を点(てん)じた。211治道(ちだう)居士(こじ)は祠(ほこら)の後(うしろ)より現(あら)はれ来(きた)り、212一同(いちどう)の顔(かほ)を見(み)て、213さも嬉(うれ)しげに、
214治道(ちだう)『貴方(あなた)は噂(うはさ)に高(たか)き玉国別(たまくにわけ)様(さま)の御(ご)一行(いつかう)で厶(ござ)いましたか、215これは不思議(ふしぎ)な処(ところ)でお目(め)にかかりました。216私(わたし)はバラモン教(けう)のゼネラルで厶(ござ)いましたが、217河鹿(かじか)峠(たうげ)に於(おい)て吾(わが)部下(ぶか)の片彦(かたひこ)、218久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)が治国別(はるくにわけ)様(さま)の言霊(ことたま)に打(うち)悩(なや)まされ、219実(じつ)に見苦(みぐる)しき敗(はい)をとりました。220それに就(つ)いて221私(わたし)は到底(たうてい)武力(ぶりよく)を以(もつ)て神力(しんりき)に勝(か)つ事(こと)の不可能(ふかのう)なるを悟(さと)りました。222併(しか)し乍(なが)ら223数千(すうせん)人(にん)の部下(ぶか)を引率(ひきつ)れ大黒主(おほくろぬし)の命(めい)を受(う)けて征途(せいと)に上(のぼ)るゼネラルの分際(ぶんざい)として、224直(ただ)ちに軍籍(ぐんせき)を捨(す)て、225尊(たふと)き神(かみ)の道(みち)に入(い)らむとするも事情(じじやう)が許(ゆる)しませぬので226止(や)むを得(え)ず、2261ランチ将軍(しやうぐん)と相談(さうだん)の上(うへ)、227浮木(うきき)の森(もり)にて半永久(はんえいきう)的(てき)陣営(ぢんえい)を造(つく)り、228戦(たたか)ふ心(こころ)もなく229徒(いたづら)に光陰(くわういん)を濫費(らんぴ)して居(を)りましたが、230遂(つひ)に軍隊(ぐんたい)を二(ふた)つに分(わか)ち231三千(さんぜん)余(よ)騎(き)を率(ひき)ゐてライオン川(がは)を横断(わうだん)し、232ビクトル山(さん)の麓(ふもと)に陣営(ぢんえい)を構(かま)へ、233ここにても亦(また)思(おも)はぬ失敗(しつぱい)をとり、234再(ふたた)び猪倉山(ゐのくらやま)の山寨(さんさい)に立籠(たてこ)もり235治国別(はるくにわけ)様(さま)の言霊(ことたま)を浴(あ)びせられ、236ここに全(まつた)く菩提心(ぼだいしん)を起(おこ)し、237至善(しぜん)至愛(しあい)の大神(おほかみ)に信従(しんじゆう)する証拠(しようこ)として頭(かしら)を剃(そ)り落(こぼ)ち238円頂(ゑんちやう)緇衣(しえ)の比丘(びく)姿(すがた)となり、239ビクトル山(さん)の傍(かたはら)に草庵(さうあん)を結(むす)び、240吾々(われわれ)同志(どうし)四(よ)人(にん)が交(かは)る交(がは)る神(かみ)の教(をしへ)の宣伝(せんでん)に廻(まは)つて居(を)ります。241玉国別(たまくにわけ)様(さま)御(ご)一行(いつかう)の事(こと)も242治国別(はるくにわけ)様(さま)より詳(くは)しく承(うけたま)はり、243一度(いちど)尊(たふと)き謦咳(けいがい)に接(せつ)し度(た)きものと祈(いの)つて居(を)りましたが、244思(おも)はぬ処(ところ)で面会(めんくわい)を得(え)まして何(なん)とも云(い)へぬ嬉(うれ)しさが漂(ただよ)ひました。245何卒(どうぞ)御(お)見捨(みすて)なく御(ご)懇意(こんい)に願(ねが)ひます』
246玉国別(たまくにわけ)『貴方(あなた)がバラモン軍(ぐん)の鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)様(さま)で厶(ござ)いましたか、247不思議(ふしぎ)の縁(えん)で不思議(ふしぎ)な処(ところ)でお目(め)にかかりました。248これも全(まつた)く大神(おほかみ)様(さま)の御(お)引合(ひきあは)せで厶(ござ)いませう。249此(この)四(よ)人(にん)は真純彦(ますみひこ)、250三千彦(みちひこ)、251伊太彦(いたひこ)、252デビス姫(ひめ)で厶(ござ)います。253何卒(どうぞ)今後(こんご)は御(ご)入魂(じつこん)に願(ねが)ひます』
254治道(ちだう)『網笠(あみがさ)一(ひと)つ、255蓑(みの)一(ひと)つ、256杖(つゑ)一本(いつぽん)の修験者(しうげんじや)、257何卒(なにとぞ)共(とも)に手(て)を引(ひ)き合(あ)うて神業(しんげふ)に参加(さんか)させて頂(いただ)き度(た)う厶(ござ)います』
258真純彦(ますみひこ)『初(はじ)めてお目(め)にかかります。259いやもう何(なん)にも申(まをし)上(あ)げませぬ。260神(かみ)様(さま)の御(おん)為(ため)世(よ)の為(ため)に互(たがひ)に力(ちから)になり合(あ)つて進(すす)む事(こと)に致(いた)しませう』
261伊太彦(いたひこ)『私(わたし)は狼狽者(とばしりもの)の名(な)を売(う)つた伊太彦(いたひこ)で厶(ござ)います』
262三千彦(みちひこ)『私(わたし)は三千彦(みちひこ)夫婦(ふうふ)で厶(ござ)います。263いつも伊太彦(いたひこ)殿(どの)に女(をんな)を連(つ)れて居(を)ると云(い)つて揶揄(からか)はれ通(どほ)しで264閉口(へいこう)致(いた)して居(を)ります』
265治道(ちだう)『ハヽヽヽヽ何分(なにぶん)若(わか)いお方(かた)は元気(げんき)が宜(よろ)しいから面白(おもしろ)いでせう』
266デビス姫(ひめ)『ゼネラル様(さま)、267妾(わたし)はテルモン山(ざん)の神館(かむやかた)の司(つかさ)小国別(をくにわけ)の娘(むすめ)デビス姫(ひめ)で厶(ござ)います。268不思議(ふしぎ)な縁(えん)で此(この)三千彦(みちひこ)様(さま)に命(いのち)を助(たす)けられ、269ハルナの都(みやこ)へお伴(とも)を致(いた)す所(ところ)で厶(ござ)います。270して271之(これ)から貴方(あなた)は何方(どちら)へおいでになりますか』
272治道(ちだう)『これは又(また)不思議(ふしぎ)な御縁(ごえん)で厶(ござ)る。273貴女(あなた)が小国別(をくにわけ)様(さま)の御(お)息女(むすめご)とは思(おも)ひも寄(よ)りませなンだ。274かうなる上(うへ)は275何(いづ)れも三五教(あななひけう)のピュウリタンとして互(たがひ)に打(うち)解(と)け276御(ご)神業(しんげふ)に奉仕(ほうし)させて頂(いただ)きませう』
277玉国別(たまくにわけ)『最早(もはや)体(からだ)も余程(よほど)、278疲(つか)れも休(やす)まつた様(やう)ですから夜中(やちう)なれども大明(おほあか)りがして居(を)りますから、279ボツボツ進(すす)みませう』
280治道(ちだう)『どうか私(わたし)も途中(とちう)迄(まで)なりとお伴(とも)をさして頂(いただ)きませう』
281と立(たち)上(あが)る。282側(そば)を見(み)れば一人(ひとり)の泥棒(どろばう)が踞(しやが)んで慄(ふる)うて居(ゐ)る。
283治道(ちだう)『オ、284お前(まへ)は何者(なにもの)だ。285泥棒(どろばう)の片割(かたわれ)ではないか』
286乙(おつ)『はい、287私(わたし)は乞食(こじき)で厶(ござ)いますが288今日(けふ)初(はじ)めて泥棒(どろばう)のベルと云(い)ふ男(をとこ)の家来(けらい)となり、289三人(さんにん)連(づ)れにて此(この)人々(ひとびと)の跡(あと)をつけ狙(ねら)ひ、290ここ迄(まで)参(まゐ)りましたが法螺貝(ほらがひ)の声(こゑ)で腰(こし)を抜(ぬ)かしました。291二人(ふたり)は何処(どこ)かへ風(かぜ)を喰(くら)つて逃(に)げたで厶(ござ)いませう』
292治道(ちだう)『はてな、293ベルが又(また)泥棒(どろばう)をして居(を)るのかな』
294と頻(しき)りに首(くび)を傾(かたむ)けて居(ゐ)る。295泥棒(どろばう)の乙(おつ)はコソコソと闇(やみ)に紛(まぎ)れて姿(すがた)を隠(かく)した。296一行(いつかう)六(ろく)人(にん)は治道(ちだう)居士(こじ)を先頭(せんとう)に法螺(ほら)を吹(ふ)き立(た)て297東南(とうなん)に道(みち)を転(てん)じて露(つゆ)おく野路(のぢ)を足許(あしもと)忙(いそが)しく進(すす)み行(ゆ)く。
298(大正一二・四・七 旧二・二二 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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