霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
設定
|
ヘルプ
ホーム
霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第65巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 盗風賊雨
第1章 感謝組
第2章 古峽の山
第3章 岩侠
第4章 不聞銃
第5章 独許貧
第6章 噴火口
第7章 反鱗
第2篇 地異転変
第8章 異心泥信
第9章 劇流
第10章 赤酒の声
第11章 大笑裡
第12章 天恵
第3篇 虎熊惨状
第13章 隔世談
第14章 山川動乱
第15章 饅頭塚
第16章 泥足坊
第17章 山颪
第4篇 神仙魔境
第18章 白骨堂
第19章 谿の途
第20章 熊鷹
第21章 仙聖郷
第22章 均霑
第23章 義侠
第5篇 讃歌応山
第24章 危母玉
第25章 道歌
第26章 七福神
余白歌
×
設定
この文献を王仁DBで開く
印刷用画面を開く
[?]
プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。
[×閉じる]
話者名の追加表示
[?]
セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。
[×閉じる]
追加表示する
追加表示しない
【標準】
表示できる章
テキストのタイプ
[?]
ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。
[×閉じる]
通常のテキスト
【標準】
コピー用のテキスト
文字サイズ
S
【標準】
M
L
ルビの表示
通常表示
【標準】
括弧の中に表示
表示しない
アンカーの表示
[?]
本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。
[×閉じる]
左側だけに表示する
【標準】
表示しない
全てのアンカーを表示
宣伝歌
[?]
宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。
[×閉じる]
一段組
【標準】
二段組
脚注[※]用語解説
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
【標準】
脚注マークを表示しない
脚注[*]編集用
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
脚注マークを表示しない
【標準】
外字の外周色
[?]
一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。
[×閉じる]
無色
【標準】
赤色
現在のページには外字は使われていません
表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】
サブスク
のお知らせ
|
サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は
従来バージョン
をお使い下さい
霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第65巻(辰の巻)
> 第1篇 盗風賊雨 > 第4章 不聞銃
<<< 岩侠
(B)
(N)
独許貧 >>>
第四章
不聞銃
(
きかんじゆう
)
〔一六六〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
篇:
第1篇 盗風賊雨
よみ(新仮名遣い):
とうふうぞくう
章:
第4章 不聞銃
よみ(新仮名遣い):
きかんじゅう
通し章番号:
1660
口述日:
1923(大正12)年07月15日(旧06月2日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年4月14日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6504
愛善世界社版:
48頁
八幡書店版:
第11輯 627頁
修補版:
校定版:
50頁
普及版:
24頁
初版:
ページ備考:
001
虎熊山
(
とらくまやま
)
は
昼夜
(
ちうや
)
の
区別
(
くべつ
)
なく
盛
(
さか
)
んに
噴火
(
ふんくわ
)
してゐる。
002
そして
時々
(
ときどき
)
鳴動
(
めいどう
)
を
始
(
はじ
)
め、
003
地
(
ち
)
の
震
(
ふる
)
ふ
事
(
こと
)
も
日
(
ひ
)
に
三四回
(
さんしくわい
)
はあつた。
004
セール、
005
ハールの
両人
(
りやうにん
)
は
旅人
(
たびびと
)
を、
006
乾児
(
こぶん
)
に
命
(
めい
)
じて
甘
(
うま
)
く
此
(
この
)
岩窟
(
いはや
)
に
引
(
ひき
)
ずり
込
(
こ
)
ませ、
007
赤裸
(
まつぱだか
)
にしては
四肢
(
しし
)
五体
(
ごたい
)
を
解
(
と
)
き、
008
此
(
この
)
噴火口
(
ふんくわこう
)
に
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
み
焼
(
や
)
いて
了
(
しま
)
ふのを
例
(
れい
)
としてゐた。
009
セールは
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けてフト
目
(
め
)
をさました
時
(
とき
)
は
既
(
すで
)
に
酔
(
ゑひ
)
は
醒
(
さ
)
めてゐた。
010
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
昨夜
(
さくや
)
ハールに
突
(
つき
)
当
(
あた
)
り、
011
ハールは
九死
(
きうし
)
一生
(
いつしやう
)
の
場合
(
ばあひ
)
になつてゐた
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
し、
012
もしや
蘇生
(
そせい
)
しよつたら
大変
(
たいへん
)
だから、
013
今
(
いま
)
の
内
(
うち
)
に
片付
(
かたづ
)
けて
了
(
しま
)
はむと、
014
自
(
みづか
)
ら
抜身
(
ぬきみ
)
を
提
(
ひつさ
)
げてうす
暗
(
ぐら
)
い
牢獄
(
らうごく
)
の
前
(
まへ
)
に
行
(
い
)
つてみると、
015
ハールの
姿
(
すがた
)
は
影
(
かげ
)
も
形
(
かたち
)
もなくなつてゐた。
016
其
(
その
)
実
(
じつ
)
ハールはセールの
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
うての
独言
(
ひとりごと
)
を
聞
(
き
)
いて「
此奴
(
こいつ
)
ア
大変
(
たいへん
)
だ。
017
かやうな
所
(
ところ
)
に
居
(
を
)
つては
何時
(
いつ
)
自分
(
じぶん
)
の
命
(
いのち
)
が
亡
(
な
)
くなるか
知
(
し
)
れぬ」と、
018
頭
(
かしら
)
に
繃帯
(
はうたい
)
をし
杖
(
つゑ
)
をついて
夜陰
(
やいん
)
に
紛
(
まぎ
)
れ、
019
此
(
この
)
岩窟
(
いはや
)
を
脱
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
して
了
(
しま
)
つたのである。
020
セールは
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
の
牢獄
(
らうごく
)
の
前
(
まへ
)
に
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
進
(
すす
)
みより、
021
顔色
(
がんしよく
)
を
和
(
やは
)
らげて
猫撫声
(
ねこなでごゑ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
022
牢獄
(
らうごく
)
の
扉
(
とびら
)
を
自
(
みづか
)
ら
開
(
ひら
)
き、
023
髯
(
ひげ
)
武者
(
むしや
)
武者
(
むしや
)
の
顔
(
かほ
)
にも
似
(
に
)
ず、
024
セール『ウン、
025
お
前
(
まへ
)
は
淑女
(
しゆくぢよ
)
のデビス
姫
(
ひめ
)
さまであつたか、
026
ホンに
苦労
(
くらう
)
をしただらうな。
027
何分
(
なにぶん
)
ハールの
奴
(
やつ
)
、
028
罪
(
つみ
)
もないお
前
(
まへ
)
たちを
拐
(
かどは
)
かし、
029
かやうな
残酷
(
ざんこく
)
な
事
(
こと
)
を
仕
(
し
)
やがつて、
030
俺
(
おれ
)
も
可哀相
(
かあいさう
)
で、
031
何
(
ど
)
うとかして
助
(
たす
)
けてやりたいと
朝夕
(
あさゆふ
)
心
(
こころ
)
を
砕
(
くだ
)
いてをつたが、
032
何
(
なに
)
しろ
彼奴
(
あいつ
)
は
柔道
(
じうだう
)
百段
(
ひやくだん
)
の
強者
(
つはもの
)
だから、
033
俺
(
おれ
)
が
大将
(
たいしやう
)
となつてゐるものの、
034
其
(
その
)
実権
(
じつけん
)
はハールが
握
(
にぎ
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだから
仕方
(
しかた
)
がなかつた。
035
昨夜
(
ゆうべ
)
は
計
(
はか
)
らずもお
前
(
まへ
)
の
仇
(
あだ
)
をうつてやつたのだから、
036
云
(
い
)
はばお
前
(
まへ
)
の
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
だ、
037
どうだ
嬉
(
うれ
)
しいか。
038
ブラヷーダといふ
女
(
をんな
)
も
可哀相
(
かあいさう
)
だが、
039
彼奴
(
あいつ
)
ア
何
(
なん
)
だかハールの
奴
(
やつ
)
と
甘
(
あま
)
つたるい
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つてゐやがつたやうだから、
040
ひよつとしたら
情意
(
じやうい
)
投合
(
とうがふ
)
でもやつたかも
知
(
し
)
れない。
041
何分
(
なにぶん
)
青白
(
あをじろ
)
い
瓜実顔
(
うりざねがほ
)
だから……それで
先
(
ま
)
づ
彼奴
(
あいつ
)
は
後廻
(
あとまは
)
しとして、
042
最
(
もつと
)
も
愛
(
あい
)
するお
前
(
まへ
)
の
方
(
はう
)
から
助
(
たす
)
けてやらう。
043
どうぢや
嬉
(
うれ
)
しいか。
044
さぞ
嬉
(
うれ
)
しいだらうの』
045
デビス『
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
は
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
いますが、
046
余
(
あま
)
り
嬉
(
うれ
)
しうは
思
(
おも
)
ひませぬ。
047
何
(
なん
)
だか
048
あなたのお
面
(
かほ
)
が
怖
(
おそ
)
ろしうなつて
来
(
き
)
ましたもの』
049
セール『ソリヤお
前
(
まへ
)
050
取違
(
とりちが
)
ひといふものだ。
051
ハールの
様
(
やう
)
な、
052
女
(
をんな
)
か
男
(
をとこ
)
か
分
(
わか
)
らぬやうな
優
(
やさ
)
しい
面
(
つら
)
してゐる
奴
(
やつ
)
に、
053
人
(
ひと
)
を
殺
(
ころ
)
したり、
054
大泥棒
(
おほどろばう
)
のあるものだ。
055
俺
(
おれ
)
のやうな
髯
(
ひげ
)
武者
(
むしや
)
武者
(
むしや
)
の
黒
(
くろ
)
い
面
(
つら
)
してゐるものは
却
(
かへ
)
つて
心
(
こころ
)
が
美
(
うつく
)
しいものだよ。
056
サア、
057
そんな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
はずに、
058
お
前
(
まへ
)
の
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
だから、
059
とつとと
出
(
で
)
たが
可
(
よ
)
からうぞ』
060
デビス『
妾
(
わらは
)
はここを
出
(
で
)
るのは
厭
(
いや
)
で
厶
(
ござ
)
います。
061
万劫
(
まんご
)
末代
(
まつだい
)
永久
(
えいきう
)
に
岩窟姫
(
いはやひめの
)
神
(
かみ
)
となつて、
062
虎熊山
(
とらくまやま
)
の
主
(
ぬし
)
になりますから、
063
どうぞ、
064
そんなせうもない
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
はないでおいて
下
(
くだ
)
さいませ。
065
それよりも
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
妾
(
わらは
)
の
命
(
いのち
)
を
奪
(
うば
)
つて
貰
(
もら
)
へば
満足
(
まんぞく
)
で
厶
(
ござ
)
います。
066
かやうな
所
(
ところ
)
から
引
(
ひき
)
出
(
だ
)
され、
067
あなたの
弄物
(
なぐさみもの
)
になるよりも、
068
此
(
この
)
儘
(
まま
)
死
(
し
)
んだ
方
(
はう
)
がいくらマシだか
知
(
し
)
れませぬワ』
069
セール『これは
又
(
また
)
、
070
悪
(
わる
)
い
了見
(
れうけん
)
と
申
(
まを
)
すもの、
071
命
(
いのち
)
あつての
物種
(
ものだね
)
だ。
072
そんな
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
をいはずに、
073
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いたら
何
(
ど
)
うだ。
074
又
(
また
)
面白
(
おもしろ
)
い
事
(
こと
)
や
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
が、
075
タツプリと
見
(
み
)
られるかも
知
(
し
)
れないぞや』
076
隣
(
となり
)
の
間
(
ま
)
よりブラヷーダは
細
(
ほそ
)
い
声
(
こゑ
)
で、
077
『
姉
(
ねえ
)
さま、
078
デビス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
079
出
(
で
)
ちや
可
(
い
)
けませぬよ。
080
獅子
(
しし
)
の
餌食
(
ゑじき
)
になるよりも、
081
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
にここから
天国
(
てんごく
)
へ
行
(
ゆ
)
かうぢやありませぬか』
082
デビス『あゝブラヷーダ
様
(
さま
)
、
083
あなたも
其
(
その
)
お
考
(
かんが
)
へですか、
084
そんなら
両人
(
りやうにん
)
共
(
とも
)
永久
(
えいきう
)
に
此
(
この
)
岩窟
(
いはや
)
に
鎮
(
しづ
)
まることに
致
(
いた
)
しませう。
085
私
(
わたし
)
は
岩窟姫
(
いはやひめ
)
になりますから、
086
あなたはお
年
(
とし
)
が
若
(
わか
)
いから
木花
(
このはな
)
咲耶姫
(
さくやひめ
)
にお
成
(
な
)
り
遊
(
あそ
)
ばせ。
087
そして
私
(
わたし
)
は
世界
(
せかい
)
人民
(
じんみん
)
の
寿命
(
じゆみやう
)
を
守
(
まも
)
り、
088
あなたは
世界
(
せかい
)
の
平和
(
へいわ
)
を
守
(
まも
)
る
神
(
かみ
)
とおなり
遊
(
あそ
)
ばせ。
089
それが
本望
(
ほんまう
)
ですワ』
090
ブラ『さう
致
(
いた
)
しませう。
091
決
(
けつ
)
して
出
(
で
)
ちや
可
(
い
)
けませぬよ』
092
セール『オオ、
093
きつい
事
(
こと
)
同盟
(
どうめい
)
したものだな。
094
コリヤコリヤ
両人
(
りやうにん
)
、
095
二人
(
ふたり
)
一緒
(
いつしよ
)
に
出
(
だ
)
してやるから、
096
両人
(
りやうにん
)
仲
(
なか
)
よく
一
(
いつ
)
ぺん
面会
(
めんくわい
)
する
気
(
き
)
はないか』
097
ブラ『
私
(
わたし
)
も
一度
(
いちど
)
姉
(
ねえ
)
さまの
顔
(
かほ
)
がみたいから、
098
厭
(
いや
)
だけれ
共
(
ども
)
、
099
お
前
(
まへ
)
さまの
願
(
ねが
)
ひを
許
(
ゆる
)
して、
100
出
(
で
)
てあげまほうかな』
101
セール『エーエ、
102
仕方
(
しかた
)
のない
姫御前
(
ひめごぜ
)
だなア』
103
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
らガタリガタリと
両方
(
りやうはう
)
の
牢獄
(
らうごく
)
の
戸
(
と
)
を
捻
(
ね
)
ぢ
開
(
あ
)
けた。
104
二人
(
ふたり
)
は
飛立
(
とびた
)
つ
許
(
ばか
)
り
喜
(
よろこ
)
んで、
105
牢獄
(
らうごく
)
を
立
(
たち
)
出
(
い
)
で、
106
互
(
たがひ
)
に
抱
(
だ
)
きついて
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
にくれてゐる。
107
ブラ『
姉
(
ねえ
)
さま
108
逢
(
あ
)
ひたう
厶
(
ござ
)
いました』
109
デビス『ブラヷーダさま、
110
お
顔
(
かほ
)
が
見
(
み
)
たう
厶
(
ござ
)
いましたよ』
111
と
絡
(
からみ
)
ついてゐる。
112
セールは
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
て、
113
ワザと
高笑
(
たかわら
)
ひ、
114
『アツハヽヽヽ、
115
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づ
目出
(
めで
)
たい
目出
(
めで
)
たい。
116
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
が
開
(
ひら
)
けたやうだ。
117
あな
面白
(
おもしろ
)
し、
118
あなさやけ、
119
おけ。
120
アテーナの
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
が、
121
セールの
七五三
(
しりくめ
)
縄
(
なは
)
によつて、
122
再
(
ふたた
)
び
世
(
よ
)
にお
出
(
で
)
ましになつたのか、
123
暗澹
(
あんたん
)
たる
天地
(
てんち
)
も
茲
(
ここ
)
に
六合
(
りくがふ
)
晴
(
は
)
れ
渡
(
わた
)
り、
124
光明
(
くわうみやう
)
遍照
(
へんぜう
)
十方
(
じつぱう
)
世界
(
せかい
)
の
光景
(
くわうけい
)
となつて
来
(
き
)
た。
125
謂
(
いは
)
ば
此
(
この
)
セールは
天
(
あめ
)
の
手力男
(
たぢからを
)
の
神
(
かみ
)
さま
同様
(
どうやう
)
だ。
126
サアお
二人
(
ふたり
)
の
姫神
(
ひめがみ
)
様
(
さま
)
、
127
私
(
わたし
)
の
居間
(
ゐま
)
へお
出
(
い
)
で
下
(
くだ
)
さりませ。
128
之
(
これ
)
から
賑
(
にぎは
)
しく、
129
男女
(
だんぢよ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
御
(
お
)
神楽
(
かぐら
)
を
奏
(
あ
)
げませう』
130
両人
(
りやうにん
)
は
目
(
め
)
と
目
(
め
)
を
見合
(
みあ
)
はせ
乍
(
なが
)
ら……
此奴
(
こいつ
)
に
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
ませ、
131
操
(
あやつ
)
つてやらうと
思
(
おも
)
ひ、
132
セールの
居間
(
ゐま
)
に
進
(
すす
)
んでゆく。
133
セールは
満面
(
まんめん
)
に
得意
(
とくい
)
の
色
(
いろ
)
をあらはし、
134
セール『あゝどうも
男
(
をとこ
)
一人
(
ひとり
)
に
女
(
をんな
)
二人
(
ふたり
)
は
都合
(
つがふ
)
の
悪
(
わる
)
い
者
(
もの
)
だ。
135
何
(
なん
)
とか
一人
(
ひとり
)
の
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
に
別室
(
べつしつ
)
に
控
(
ひか
)
へて
貰
(
もら
)
ふ
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
くまいかな』
136
ブラ『
姉
(
ねえ
)
さま、
137
厭
(
いや
)
ですワネ、
138
私
(
わたし
)
とあなたとは
神
(
かみ
)
さまから
結
(
むす
)
んで
下
(
くだ
)
さつたフラチーノですものね。
139
之
(
これ
)
から
二人
(
ふたり
)
が
同盟
(
どうめい
)
して、
140
セールさまを
一
(
ひと
)
つ
包囲
(
はうゐ
)
攻撃
(
こうげき
)
せうぢやありませぬか、
141
砲弾
(
はうだん
)
の
用意
(
ようい
)
は
出来
(
でき
)
ましたかな』
142
デビス『
新式
(
しんしき
)
の
三千彦
(
みちひこ
)
砲
(
はう
)
も
厶
(
ござ
)
いますなり、
143
極堅牢
(
ごくけんらう
)
な
肱鉄砲
(
ひぢでつぱう
)
不聞銃
(
きかんじう
)
も
所持
(
しよぢ
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますわ、
144
ホヽヽヽ』
145
ブラ『
妾
(
あたえ
)
だつて、
146
最新式
(
さいしんしき
)
の
伊太彦
(
いたひこ
)
砲
(
はう
)
やエッパッパ
銃
(
じゆう
)
に、
147
セール
親分
(
おやぶん
)
の
恋
(
こひ
)
は
何
(
ど
)
うしても
不聞銃
(
きかんじう
)
を
沢山
(
たくさん
)
に
用意
(
ようい
)
して
居
(
を
)
りますから
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
ですよ。
148
モシ
泥棒
(
どろばう
)
の
親分
(
おやぶん
)
様
(
さま
)
、
149
あなたの
方
(
はう
)
にも
戦備
(
せんび
)
は
整
(
ととの
)
つて
居
(
を
)
りますかな』
150
セール『
調
(
ととの
)
つて
居
(
を
)
らいでかい。
151
すべて
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
言向和
(
ことむけやは
)
すのが
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
だ。
152
刀剣
(
たうけん
)
を
鋤
(
すき
)
鍬
(
くは
)
に
替
(
か
)
へ、
153
大砲
(
たいはう
)
を
言霊
(
ことたま
)
に
代
(
か
)
へ、
154
爆弾
(
ばくだん
)
の
音
(
おと
)
を
音楽
(
おんがく
)
に
変
(
か
)
へて、
155
世界
(
せかい
)
万民
(
ばんみん
)
を
悦服
(
えつぷく
)
させるバラモン
教
(
けう
)
の
元
(
もと
)
大尉
(
たいゐ
)
だから、
156
モウ
泥棒
(
どろばう
)
の
名称
(
めいしよう
)
は、
157
女将軍
(
ぢよしやうぐん
)
殿
(
どの
)
に
返上
(
へんじやう
)
する。
158
おれは
音楽
(
おんがく
)
の
王
(
わう
)
たる
三味線
(
しやみせん
)
はフエムーロに
挟
(
はさ
)
んでゐる、
159
一寸
(
ちよつと
)
弾
(
だん
)
じてみると、
160
チンチンチンと
味
(
あぢ
)
はひ
良
(
よ
)
くなるのだ。
161
随分
(
ずいぶん
)
可
(
い
)
い
音色
(
ねいろ
)
がするぞ。
162
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
金
(
きん
)
で
面
(
つら
)
を
張
(
は
)
つた
一番
(
いちばん
)
上等
(
じやうとう
)
の○○
紫檀
(
したん
)
の
棹
(
さを
)
だからなア』
163
デビス『ソリヤ
違
(
ちが
)
ひませう。
164
あなたのはツンツンと
浄瑠璃
(
じやうるり
)
三味線
(
しやみせん
)
のやうな
音
(
ね
)
がするでせう。
165
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
166
特製
(
とくせい
)
の
太棹
(
ふとざを
)
ですからね。
167
ホヽヽヽ』
168
セール『アハヽヽヽ
169
そんなら
一
(
ひと
)
つ
太棹
(
ふとざを
)
の
音
(
ね
)
を
聞
(
き
)
いて
貰
(
もら
)
はうかな』
170
ブラ『
姉
(
ねえ
)
さま、
171
太棹
(
ふとざを
)
も
細棹
(
ほそざを
)
も
聞
(
き
)
きたくありませぬね』
172
セール『そんなら
太鼓
(
たいこ
)
のブチにせうか。
173
それが
嫌
(
いや
)
なら
尺八
(
しやくはち
)
は
何
(
ど
)
うだ』
174
デビス『オホヽヽ。
175
すかぬたらしい。
176
あのマア デレた
面
(
かほ
)
ワイの、
177
モシモシ
親分
(
おやぶん
)
さま、
178
涎
(
よだれ
)
が
流
(
なが
)
れますよ。
179
アタみつともない。
180
牛
(
うし
)
の
様
(
やう
)
ですワ』
181
セール『エー、
182
時
(
とき
)
に、
183
冗談
(
じようだん
)
はぬきにして、
184
お
前
(
まへ
)
に
直接
(
ちよくせつ
)
談判
(
だんぱん
)
がある。
185
キツト
聞
(
き
)
いてくれるだらうな』
186
デビス『ソリヤあなたのお
言
(
ことば
)
ですもの、
187
聞
(
き
)
きますとも、
188
其
(
その
)
為
(
ため
)
に
耳
(
みみ
)
があるのですもの』
189
セール『イヤ、
190
其奴
(
そいつ
)
ア
有難
(
ありがた
)
い。
191
キツと
聞
(
き
)
いてくれるな。
192
間違
(
まちが
)
ひはないなア』
193
デビス『キツと
聞
(
き
)
きます』
194
ブラ『ソリヤ
195
あなたのお
言
(
ことば
)
は、
196
聞
(
き
)
かねばなりませぬもの』
197
セールは
面
(
かほ
)
の
紐
(
ひも
)
を
解
(
ほど
)
き
乍
(
なが
)
ら、
198
さも
嬉
(
うれ
)
しげに、
199
セール『ハツハヽヽヽ、
200
イヤ、
201
之
(
これ
)
で
何
(
なに
)
もかも
万事
(
ばんじ
)
解決
(
かいけつ
)
だ。
202
矢張
(
やつぱ
)
り
女
(
をんな
)
は
女
(
をんな
)
だ。
203
ソレぢや
今
(
いま
)
露骨
(
ろこつ
)
にいふが、
204
デビス、
205
お
前
(
まへ
)
は
今日
(
けふ
)
只
(
ただ
)
今
(
いま
)
より
拙者
(
せつしや
)
が
宿
(
やど
)
の
妻
(
つま
)
、
206
またブラヷーダは
第二
(
だいに
)
夫人
(
ふじん
)
として
採用
(
さいよう
)
するから、
207
さう
心得
(
こころえ
)
たが
可
(
よ
)
からうぞ。
208
イヒヽヽヽ』
209
デビス『アレまあ、
210
何事
(
なにごと
)
かと
思
(
おも
)
へば、
211
好
(
す
)
かぬたらしい、
212
誰
(
たれ
)
があなた
方
(
がた
)
の
妻
(
つま
)
になつたりしませうか。
213
ねえ
214
ブラヷーダさま』
215
ブラ『さうです
共
(
とも
)
、
216
貞女
(
ていぢよ
)
両夫
(
りやうふ
)
に
見
(
まみ
)
えずといひますから、
217
何程
(
なにほど
)
男前
(
をとこまへ
)
が
好
(
よ
)
くつても、
218
金持
(
かねもち
)
でも、
219
吾
(
わが
)
夫
(
をつと
)
より
外
(
ほか
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
すことア、
2191
出来
(
でき
)
ませぬワ、
220
ましてこんな
鬼
(
おに
)
のやうなしやつ
面
(
つら
)
した
盗賊
(
どろぼう
)
の
親分
(
おやぶん
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
してたまりませうかねえ』
221
セールは、
2211
不機嫌
(
ふきげん
)
な
顔
(
かほ
)
して、
222
セール『コリヤ
女
(
をんな
)
、
223
俺
(
おれ
)
を
嘲弄
(
てうろう
)
致
(
いた
)
すのか、
224
今
(
いま
)
、
225
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
くと
云
(
い
)
つたぢやないか』
226
デビス『お
約束
(
やくそく
)
通
(
どほ
)
り
聞
(
き
)
いたぢやありませぬか。
227
聞
(
き
)
いたればこそ、
228
応答
(
おうたふ
)
してるのですよ。
229
あなたのお
言葉
(
ことば
)
を
採用
(
さいよう
)
する、
230
せぬは、
231
私
(
わたし
)
たち
両人
(
りやうにん
)
の
自由
(
じいう
)
ですもの、
232
天女
(
てんによ
)
の
様
(
やう
)
な
美人
(
びじん
)
に
対
(
たい
)
し、
2321
恋慕
(
れんぼ
)
するとは、
233
チツト
分
(
ぶん
)
に
過
(
す
)
ぎとるぢやありませぬか。
234
あなたの
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
とチと
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
なさいませ。
235
あのマア
怖
(
こは
)
い
面
(
かほ
)
……。
236
一石
(
いつこく
)
の
米
(
こめ
)
が
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
するやうな
面付
(
つらつき
)
だワ』
237
セール『エー、
238
仕方
(
しかた
)
のない
奴
(
やつ
)
だ。
239
最早
(
もはや
)
堪忍袋
(
かんにんぶくろ
)
の
緒
(
を
)
が
切
(
き
)
れた。
240
恋
(
こひ
)
の
叶
(
かな
)
はぬ
意趣
(
いしゆ
)
返
(
がへ
)
し、
241
再
(
ふたた
)
び
牢獄
(
らうごく
)
へ
打
(
ぶ
)
ち
込
(
こ
)
んで
嬲
(
なぶ
)
り
殺
(
ごろ
)
しにしてやらう………。
242
ヤアヤア
乾児
(
こぶん
)
共
(
ども
)
、
243
此
(
この
)
女
(
をんな
)
両人
(
りやうにん
)
を
引
(
ひつ
)
捉
(
とら
)
へ、
244
牢獄
(
らうごく
)
へ
打
(
ぶ
)
ち
込
(
こ
)
め』
245
と
怒
(
いか
)
り
狂
(
くる
)
うて
牢獄内
(
らうごくない
)
がわれる
程
(
ほど
)
呶鳴
(
どなり
)
立
(
た
)
てた。
246
声
(
こゑ
)
の
下
(
した
)
より
七八
(
しちはち
)
人
(
にん
)
の
乾児
(
こぶん
)
はバラバラと
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
り、
247
矢庭
(
やには
)
に
両人
(
りやうにん
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
り
足
(
あし
)
を
取
(
と
)
り、
248
エツサエツサとかき
込
(
こ
)
んで、
249
旧
(
もと
)
の
牢獄
(
らうごく
)
へブチ
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
250
あとにセールは
吐息
(
といき
)
をつき、
251
「あゝ
恋
(
こひ
)
許
(
ばか
)
りは
暴力
(
ばうりよく
)
でも、
252
金力
(
きんりよく
)
でも、
2521
脅迫
(
けうはく
)
でも、
253
絶対
(
ぜつたい
)
権威
(
けんゐ
)
でも
可
(
い
)
かぬものだなア。
254
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
255
一旦
(
いつたん
)
男
(
をとこ
)
が
言
(
いひ
)
出
(
だ
)
した
事
(
こと
)
、
256
此
(
この
)
儘
(
まま
)
にしては、
257
何
(
なん
)
だか
吾
(
わ
)
れと
吾
(
わが
)
心
(
こころ
)
に
恥
(
はづ
)
かしい。
258
水責
(
みづぜめ
)
火責
(
ひぜめ
)
に
会
(
あ
)
はしても、
259
こちらの
心
(
こころ
)
に
従
(
したが
)
はさねば、
260
親分
(
おやぶん
)
の
権威
(
けんゐ
)
にも
関係
(
くわんけい
)
する。
261
大勢
(
おほぜい
)
の
子分
(
こぶん
)
を
使
(
つか
)
ふ
身
(
み
)
で
居
(
ゐ
)
乍
(
なが
)
ら、
262
かよわい
女
(
をんな
)
二人
(
ふたり
)
位
(
ぐらゐ
)
を
自由
(
じいう
)
にする
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないでは、
263
最早
(
もはや
)
おれも
駄目
(
だめ
)
だ。
264
ヨーシ、
265
一
(
ひと
)
つ
之
(
これ
)
は
食責
(
しよくぜめ
)
に
会
(
あ
)
はすが
一番
(
いちばん
)
だ。
266
獅子
(
しし
)
でも
虎
(
とら
)
でも
狼
(
おほかみ
)
でも
食物
(
くひもの
)
で
責
(
せめ
)
さへすれば、
267
人間
(
にんげん
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
く。
268
コリヤ
食責
(
しよくぜ
)
めに
限
(
かぎ
)
る」
269
と
独言
(
ひとりごと
)
を
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
270
そこへ
慌
(
あわ
)
ただしく
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たのは、
271
乾児
(
こぶん
)
のタールであつた。
272
タール『モシモシ
親方
(
おやかた
)
様
(
さま
)
、
273
今
(
いま
)
よい
鳥
(
とり
)
を
見
(
み
)
つけて
参
(
まゐ
)
りました』
274
セール『
何
(
なに
)
? よい
鳥
(
とり
)
を
見
(
み
)
つけて
来
(
き
)
たとは、
275
一体
(
いつたい
)
、
276
美人
(
びじん
)
か、
277
金持
(
かねもち
)
か、
278
どちらだ』
279
タール『ハイ、
280
ヤク、
281
エールの
両人
(
りやうにん
)
と
腹
(
はら
)
を
合
(
あは
)
せ、
282
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
の
一行
(
いつかう
)
を
巧
(
うま
)
く
引張
(
ひつぱり
)
込
(
こ
)
んで
来
(
き
)
ましたが、
283
何
(
ど
)
う
致
(
いた
)
しませうかな』
284
セール『
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
とは、
285
あの
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
ではないか。
286
あの
男
(
をとこ
)
ならば、
287
定
(
さだ
)
めて
金
(
かね
)
は
持
(
も
)
つてゐるだらうな。
288
中々
(
なかなか
)
智勇
(
ちゆう
)
兼備
(
けんび
)
の
勇将
(
ゆうしやう
)
だから
油断
(
ゆだん
)
はならぬ。
289
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
290
巧
(
うま
)
くだまし
込
(
こ
)
んで、
291
牢獄
(
らうごく
)
へ
打
(
ぶち
)
込
(
こ
)
んでおけ』
292
タール『ハイ、
293
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
294
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
一行
(
いつかう
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
、
295
其
(
その
)
中
(
なか
)
で
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
盗賊
(
たうぞく
)
の
改心
(
かいしん
)
した
奴
(
やつ
)
です。
296
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
も、
297
岩窟
(
いはや
)
の
親分
(
おやぶん
)
セール
大尉
(
たいゐ
)
を
始
(
はじ
)
め、
298
其
(
その
)
外
(
ほか
)
一同
(
いちどう
)
の
奴
(
やつ
)
を、
299
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
とか、
300
間男
(
まをとこ
)
の
法
(
はふ
)
とかで、
301
改心
(
かいしん
)
さしてやると
云
(
い
)
つて、
302
強
(
つよ
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
りますから、
303
どうぞあなた
一寸
(
ちよつと
)
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいませな』
304
セール『イヤ、
305
おれは
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
盗賊
(
どろぼう
)
の
親分
(
おやぶん
)
でも、
306
一旦
(
いつたん
)
主人
(
しゆじん
)
と
仰
(
あふ
)
いだ
将軍
(
しやうぐん
)
を、
307
手
(
て
)
づから
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
む
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬ。
308
乾児
(
こぶん
)
が
全部
(
ぜんぶ
)
集
(
あつ
)
まつて、
309
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
を
皆
(
みな
)
ブチ
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
へ。
310
そして
311
弗々
(
ぼつぼつ
)
と
持物
(
もちもの
)
を
引
(
ひつ
)
たくり、
312
甘
(
うま
)
く
片付
(
かたづ
)
けて
了
(
しま
)
うのだ。
313
可
(
い
)
いか、
314
キツとぬかるでないぞ』
315
タール『ハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
316
そんなら
第一
(
だいいち
)
の
牢獄
(
らうごく
)
へ、
317
五
(
ご
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
ひませうか』
318
セール『ウーン、
319
第一
(
だいいち
)
が
可
(
よ
)
からう。
320
水
(
みづ
)
一杯
(
いつぱい
)
与
(
あた
)
へちやならぬぞ。
321
そしてヤク、
322
エールの
両人
(
りやうにん
)
はどこに
居
(
ゐ
)
るのだ』
323
タール『ハイ、
324
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
の
両側
(
りやうがは
)
について
居
(
を
)
ります』
325
セール『あゝさうか、
326
ソリヤ
可
(
い
)
い
事
(
こと
)
をした。
327
始
(
はじ
)
めての
功名
(
てがら
)
だ。
328
誉
(
ほめ
)
てやらねばなるまい。
329
併
(
しか
)
し
汝
(
きさま
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
行
(
い
)
つたエムは
何
(
ど
)
うなつたか』
330
タール『あのエムですか、
331
彼奴
(
あいつ
)
ア
俄
(
にはか
)
に
善
(
ぜん
)
の
道
(
みち
)
へ
堕落
(
だらく
)
しやがつて、
332
麓
(
ふもと
)
の
森林
(
しんりん
)
で
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
に
道義
(
だうぎ
)
とか、
333
真理
(
しんり
)
とかを
説
(
と
)
き
聞
(
き
)
かされやがつて、
334
涙
(
なみだ
)
を
流
(
なが
)
し、
335
尾
(
を
)
を
振
(
ふ
)
り、
336
首
(
くび
)
をすくめてどつかへ
エム
散
(
さん
)
霧消
(
むせう
)
して
了
(
しま
)
ひました。
337
本当
(
ほんたう
)
に
腑甲斐
(
ふがひ
)
のない
奴
(
やつ
)
ですな。
338
まだ
彼奴
(
あいつ
)
ア
盗賊学
(
どろぼうがく
)
に
達
(
たつ
)
してゐないものですから、
339
たうとうお
蔭
(
かげ
)
を
落
(
おと
)
しました。
340
どうも
助
(
たす
)
けやうがないので
見遁
(
みのが
)
してやりました』
341
セール『ヤア、
342
其奴
(
そいつ
)
ア
大変
(
たいへん
)
だ。
343
エムの
奴
(
やつ
)
、
344
此
(
この
)
団体
(
だんたい
)
を
逃
(
にげ
)
出
(
だ
)
し、
345
そこら
中
(
ぢう
)
へ
廻
(
まは
)
つて
喋
(
しやべ
)
らうものなら、
346
何時
(
いつ
)
捕手
(
とりて
)
が
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るか
知
(
し
)
れたものぢやない。
347
なぜエムをつれて
帰
(
かへ
)
らなかつたか、
348
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
をしたものだのう』
349
タール『それでもあなた、
350
此方
(
こつち
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
351
向方
(
むかう
)
には
豪傑
(
がうけつ
)
が
五
(
ご
)
人
(
にん
)
、
352
エムなんかに
相手
(
あひて
)
になつて
居
(
ゐ
)
れば、
353
肝腎
(
かんじん
)
の
玉
(
たま
)
を
台
(
だい
)
なしにして
了
(
しま
)
ふと
思
(
おも
)
つて、
354
逐
(
お
)
はなかつたので
厶
(
ござ
)
います』
355
セール『
仕方
(
しかた
)
がない。
356
既往
(
きわう
)
は
咎
(
とが
)
めぬから、
357
今後
(
こんご
)
は
心得
(
こころえ
)
たがよからう。
358
サア
早
(
はや
)
く
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
を
打
(
ぶ
)
ち
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
へ』
359
タールは
逸早
(
いちはや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
去
(
さ
)
つて、
360
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
以下
(
いか
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
を、
361
第一
(
だいいち
)
牢獄
(
らうごく
)
へ
巧
(
うま
)
く
打
(
ぶ
)
ち
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
362
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
は
何
(
なに
)
か
心
(
こころ
)
に
期
(
き
)
するものの
如
(
ごと
)
く、
363
さも
愉快気
(
ゆくわいげ
)
に
四
(
よ
)
人
(
にん
)
をつれて
牢獄
(
らうごく
)
へ、
364
何
(
なん
)
の
抵抗
(
ていかう
)
もせずもぐり
込
(
こ
)
んだ。
365
ヤク、
366
エールの
両人
(
りやうにん
)
は
最早
(
もはや
)
今日
(
こんにち
)
では
泥棒心
(
どろばうごころ
)
を
改
(
あらた
)
め、
367
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
の
味方
(
みかた
)
となつてゐた。
368
されどセールを
始
(
はじ
)
めタール
其
(
その
)
他
(
た
)
の
盗人
(
ぬすびと
)
連
(
れん
)
には、
369
一人
(
ひとり
)
も
之
(
これ
)
を
知
(
し
)
るものがなかつた。
370
夫
(
それ
)
故
(
ゆゑ
)
ヤク、
371
エールは
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
牢番
(
らうばん
)
を
命
(
めい
)
ぜらるる
事
(
こと
)
となつたのは、
372
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
にとつて
非常
(
ひじやう
)
な
便宜
(
べんぎ
)
であつた。
373
(
大正一二・七・一五
旧六・二
於祥雲閣
松村真澄
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 岩侠
(B)
(N)
独許貧 >>>
霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第65巻(辰の巻)
> 第1篇 盗風賊雨 > 第4章 不聞銃
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【
メールアドレス
】
【第4章 不聞銃|第65巻|山河草木|霊界物語|/rm6504】
合言葉「みろく」を入力して下さい→