霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 隔世談(かくせいだん)〔一六六九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻 篇:第3篇 虎熊惨状 よみ(新仮名遣い):とらくまさんじょう
章:第13章 隔世談 よみ(新仮名遣い):かくせいだん 通し章番号:1669
口述日:1923(大正12)年07月16日(旧06月3日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年4月14日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-06-11 01:36:26 文字数:4679 OBC :rm6513
愛善世界社版:151頁 八幡書店版:第11輯 664頁 修補版: 校定版:157頁 普及版:71頁 初版: ページ備考:
001伊太彦(いたひこ)『神(かみ)の教(をしへ)の伊太彦(いたひこ)は
002初稚姫(はつわかひめ)の訓戒(いましめ)に
003恋(こひ)しき妻(つま)に生(い)き別(わか)れ
004一人(ひとり)トボトボ山道(やまみち)を
005いとど烈(はげ)しき炎熱(えんねつ)と
006戦(たたか)ひ乍(なが)ら汗水(あせみづ)に
007なりて山野(さんや)を渉(わた)り行(ゆ)く
008心(こころ)淋(さび)しき一人旅(ひとりたび)
009神(かみ)の恵(めぐ)みを力(ちから)とし
010夜光(やくわう)の玉(たま)を杖(つゑ)として
011吾(わが)師(し)の君(きみ)や妻(つま)の身(み)を
012案(あん)じ煩(わづら)ひハルセイの
013沼(ぬま)の畔(ほとり)に来(き)て見(み)れば
014人(ひと)を掠(かす)むる盗人(ぬすびと)の
015二人(ふたり)の男(をとこ)に巡(めぐ)り合(あ)ひ
016神(かみ)の教(をしへ)を説(と)き諭(さと)し
017大泥棒(おほどろばう)の立(たて)籠(こ)もる
018虎熊山(とらくまやま)の岩窟(がんくつ)に
019妻(つま)の命(みこと)やデビス姫(ひめ)
020二人(ふたり)の身(み)をば助(たす)けむと
021登(のぼ)り行(ゆ)く折(をり)傍(かたはら)の
022林(はやし)の中(なか)の呻(うめ)き声(ごゑ)
023何者(なにもの)なるか知(し)らねども
024見捨(みす)てかねたる義侠心(ぎけふしん)
025近付(ちかづ)き見(み)れば暴虐(ばうぎやく)の
026限(かぎ)りを尽(つく)す大泥棒(おほどろばう)
027ハールが頭(かしら)に繃帯(ほうたい)し
028虫(むし)の息(いき)にて呻(うめ)きゐる
029伊太彦(いたひこ)忽(たちま)ち三五(あななひ)の
030神(かみ)の御名(みな)をば奉称(ほうしよう)し
031天(あま)の数歌(かずうた)声(こゑ)高(たか)く
032歌(うた)へば不思議(ふしぎ)や忽(たちま)ちに
033厳(いづ)の神徳(しんとく)現(あら)はれて
034ハールはムツクと起(お)き上(あが)り
035救命(きうめい)謝恩(しやおん)の宣言(のりごと)に
036喜(よろこ)び勇(いさ)む折(をり)もあれ
037エムとタツとの両人(りやうにん)は
038伊太彦(いたひこ)司(つかさ)に打(うち)向(むか)ひ
039ハールの罪悪(ざいあく)一々(いちいち)に
040宣(の)り伝(つた)ふれば伊太彦(いたひこ)は
041誠(まこと)の道(みち)を説(と)き諭(さと)し
042ハールを岩窟(いはや)の案内(あない)とし
043息(いき)もせきせき登(のぼ)り行(ゆ)く
044さしも堅固(けんご)な岩窟(がんくつ)の
045その入口(いりぐち)に来(き)て見(み)れば
046番人(ばんにん)一人(ひとり)居(を)らばこそ
047藻抜(もぬ)けの殻(から)の不思議(ふしぎ)さに
048ドンドンドンと隧道(トンネル)を
049ハール、エム、タツに案内(あない)させ
050牢獄(ひとや)の前(まへ)に来(き)て見(み)れば
051豈計(あにはか)らむや治道(ちだう)居士(こじ)
052デビスの姫(ひめ)やブラヷーダ
053改心組(かいしんぐみ)の一同(いちどう)が
054セールの親分(おやぶん)真中(まんなか)に
055四五(しご)の小頭(こがしら)取(とり)囲(かこ)み
056教(をしへ)を垂(た)るる最中(さいちう)と
057悟(さと)りし時(とき)の嬉(うれ)しさよ
058案(あん)じ過(す)ごした吾(わが)妻(つま)の
059無事(ぶじ)なる顔(かほ)を一目(ひとめ)見(み)て
060抱(だ)きつき度(た)くは思(おも)へども
061初稚姫(はつわかひめ)の御(おん)教(をしへ)
062あたりの人(ひと)の手前(てまへ)をば
063恥(はぢ)らひ苦(くる)しさ相忍(あひしの)び
064ハールを連(つ)れて只(ただ)二人(ふたり)
065虎熊山(とらくまやま)を後(あと)にして
066セルの山辺(やまべ)に来(き)て見(み)れば
067神(かみ)の恵(めぐ)みの百(もも)の花(はな)
068処(ところ)狭(せ)き迄(まで)咲(さ)き匂(にほ)ひ
069蓮(はちす)の花(はな)は殊更(ことさら)に
070白(しろ)青(あを)黄色(きいろ)紫(むらさき)の
071艶(えん)を競(きそ)ひてザワザワと
072涼(すず)しき風(かぜ)に翻(ひるがへ)り
073笑(ゑみ)を湛(たた)へて迎(むか)へゐる
074あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
075吾(われ)は尊(たふと)き大神(おほかみ)の
076御稜威(みいづ)を受(う)けて大野原(おほのはら)
077虎(とら)伏(ふ)す山辺(やまべ)も恙(つつが)なく
078神都(みやこ)をさして進(すす)み来(く)る
079心(こころ)の中(うち)ぞ楽(たの)しけれ
080朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
081月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
082月(つき)落(お)ち星(ほし)は消(き)ゆるとも
083印度(いんど)の海(うみ)はあするとも
084虎熊山(とらくまやま)は破裂(はれつ)して
085熔岩(ようがん)四方(よも)に降(ふ)らすとも
086いかでか恐(おそ)れむ惟神(かむながら)
087神(かみ)に任(まか)せし吾々(われわれ)は
088至(いた)る所(ところ)に青山(せいざん)の
089媚(こ)びを呈(てい)して待(ま)てるあり
090思(おも)へば思(おも)へば有難(ありがた)し
091天国(てんごく)浄土(じやうど)の光景(くわうけい)を
092今(いま)目(ま)の辺(あた)り眺(なが)めつつ
093尊(たふと)き聖(きよ)き三五(あななひ)の
094教(をしへ)の道(みち)に進(すす)み行(ゆ)く
095あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
096御霊(みたま)のふゆを願(ね)ぎ奉(まつ)る』
097 二抱(ふたかか)へもあらうといふパインが、098一方(いつぱう)は山(やま)、099一方(いつぱう)は野辺(のべ)の細道(ほそみち)の傍(かたはら)に、100月(つき)の傘(かさ)を拡(ひろ)げたやうに只(ただ)一本(いつぽん)聳(そび)え立(た)つてゐる。101その松(まつ)の木蔭(こかげ)に、102四五(しご)人(にん)の男(をとこ)が首(くび)を鳩(あつ)めて何事(なにごと)か、103ヒソビソ話(はなし)に耽(ふけ)つてゐた。
104甲(かふ)(オス)『オイ、105そこら中(ぢう)の民家(みんか)を漁(あさ)つて、106葡萄酒(ぶだうしゆ)やいろいろの肴(さかな)を掠奪(りやくだつ)して来(き)たが、107然(しか)し早(はや)く帰(かへ)らないと、108今夜(こんや)の結婚(けつこん)の間(ま)に合(あ)はないかも知(し)れぬぞ。109さうすりや又(また)親分(おやぶん)から叱言(こごと)を頂戴(ちやうだい)せなならぬからのう』
110乙(おつ)『どれ程(ほど)急(いそ)いだ所(ところ)で、111之(これ)丈(だけ)の道程(みちのり)だ。112到底(たうてい)今夜(こんや)の間(ま)に合(あ)ひさうな事(こと)はないわ。113一層(いつそう)の事(こと)、114酒(さけ)も肴(さかな)もここにあるから、115此(この)松(まつ)の木(き)の下(した)で、116一杯(いつぱい)やらうではないか』
117甲(かふ)(オス)『そんな事(こと)したら、118それこそ大変(たいへん)だ。119俺(おれ)等(たち)は直(すぐ)破門(はもん)されて了(しま)ふぞ。120破門(はもん)だけならいいが、121他(よそ)へ出(で)て喋(しや)べると云(い)つて手足(てあし)をフン縛(しば)られ、122噴火口(ふんくわこう)に投(な)げ入(い)れられて見(み)よ。123あつたら命(いのち)が台(だい)なしだ。124貴様(きさま)は酒(さけ)を喰(くら)ふとワヤな事(こと)を云(い)ふから駄目(だめ)だ』
125乙(おつ)『何(なに)、126構(かま)ふものかい。127かうして五(ご)人(にん)居(を)れば、128一(ひと)つの村(むら)でも団体(だんたい)でも作(つく)れるから、129あんな高(たか)い山(やま)に行(ゆ)かずに、130一(ひと)つ新団体(しんだんたい)でも拵(こしら)へて自由(じいう)行動(かうどう)でも採(と)つたらどうだ』
131 丙(へい)、132丁(てい)、133戊(ぼ)の三(さん)人(にん)は手(て)を拍(う)つて、
134三(さん)人(にん)『イヤ、135賛成(さんせい)、136乙(おつ)の言(い)ふ通(とほ)りだ。137別(べつ)にセールの大将(たいしやう)を、138さう恐(こは)がるに及(およ)ばぬぢやないか。139あんな大将(たいしやう)を頭(かしら)に仰(あふ)いでると、140何時(いつ)どんな目(め)に会(あ)はされるか分(わか)りはせぬぞ。141あの副親分(ふくおやぶん)を見(み)い、142あれ丈(だけ)骨(ほね)を折(を)つて基礎(きそ)を固(かた)めたが、143遂(つひ)に暗打(やみうち)にあつて頭(あたま)を割(わ)つて了(しま)つたぢやないか。144俺(おれ)やハールの親分(おやぶん)が気(き)の毒(どく)で堪(たま)らぬわ。145その時(とき)から岩窟(いはや)を飛(と)び出(だ)さう飛(と)び出(だ)さうと思(おも)つて居(を)つたのだが、146今度(こんど)大親分(おほおやぶん)が婚礼(こんれい)の材料(ざいれう)を集(あつ)めて来(こ)いと出(だ)して呉(く)れた時(とき)、147再(ふたた)び岩窟(いはや)に帰(かへ)るまいと覚悟(かくご)をきめた位(くらゐ)だから、148マア一杯(いつぱい)ここでやつて相談(さうだん)をきめようぢやないか』
149甲(かふ)(オス)『トランスの相談(さうだん)をきめると云(い)つても、150別(べつ)に立派(りつぱ)な案(あん)も出(で)まいぢやないか』
151乙(おつ)『喧(やかま)しう云(い)ふな。152俺(おれ)の云(い)ふ通(とほ)りにせい。153俺(おれ)はこう見(み)えても餓鬼(がき)会社(くわいしや)の社長(しやちやう)をやつて居(を)つたものだ。154田舎(いなか)の村(むら)ではあるけれど、155それでも、156ザツと五十軒(ごじつけん)ばかりの戸主(こしゆ)から選(えら)まれて村会(そんくわい)議員(ぎゐん)、157否(いな)村会(そんくわい)代議士(だいぎし)に一度(いちど)は当選(たうせん)した男(をとこ)だぞ。158何(なん)と云(い)つても尋常(じんじやう)大学(だいがく)の出身者(しゆつしんしや)だからな』
159丙(へい)『アハヽヽヽ、160尋常(じんじやう)大学(だいがく)が聞(き)いて呆(あき)れるわい。161村会(そんくわい)代議士(だいぎし)なんてまだ聞(き)き初(はじ)めだ。162戸別(こべつ)巡礼(じゆんれい)をやつて、163ヤツとの事(こと)で村会(そんくわい)議員(ぎゐん)になつたのだらう』
164丁(てい)『何(なに)、165此奴(こいつ)村会(そんくわい)議員(ぎゐん)どころか、166此奴(こいつ)の奉公(ほうこう)して居(を)つた主人(しゆじん)が村会(そんくわい)議員(ぎゐん)になつて居(を)つたのだ。167その事(こと)を云(い)つてるのだよ』
168丙(へい)『アハヽヽヽ、169大方(おほかた)、170そんな事(こと)だらうと思(おも)つて居(を)つた』
171乙(おつ)『馬鹿(ばか)云(い)ふない。172主人(しゆじん)がならうと、173俺(おれ)がならうと、174同(おな)じ一軒(いつけん)の宅(うち)に住居(ぢうきよ)してる以上(いじやう)は同(おな)じ事(こと)ぢやないか。175エー、176奥(おく)さまは村会(そんくわい)代議士(だいぎし)夫人(ふじん)と崇(あが)められてゐる以上(いじやう)は、177俺(おれ)だつて村会(そんくわい)代議士(だいぎし)家僕(かぼく)だ、178主人(しゆじん)の心(こころ)は僕(しもべ)の心(こころ)、179僕(しもべ)の心(こころ)は主人(しゆじん)の心(こころ)と云(い)ふ事(こと)を知(し)らぬかい。180訳(わけ)の分(わか)らぬ奴(やつ)だな』
181丙(へい)『どちらが訳(わけ)が分(わか)らぬか、182本当(ほんたう)に分(わか)らぬわい。183困(こま)つた唐変木(たうへんぼく)だな。184オイ村会(そんくわい)代議士(だいぎし)、185そんなら一(ひと)つ案(あん)を出(だ)して呉(く)れ。186その上(うへ)で賛否(さんぴ)の決(けつ)を与(あた)へねばならぬからのう』
187乙(おつ)『ヨシ、188かう云(い)ふ事(こと)があらうと思(おも)つて、189前(まへ)から腹案(ふくあん)を拵(こしら)へて待(ま)つてゐたのだ。
190○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○[※伏せ字。]
191まア、192こんなものだよ。193どうだ賛成(さんせい)だらうな。194アハヽヽヽ』
195丙(へい)『いや、196大方(おほかた)賛成(さんせい)だ。197然(しか)し、198宣伝使(せんでんし)、199比丘(びく)に対(たい)する条目(でうもく)だけは削除(さくぢよ)して欲(ほ)しいものだな』
200乙(おつ)『そら又(また)何故(なぜ)だ。201怪(あや)しい事(こと)を云(い)ふぢやないか』
202丙(へい)『宣伝使(せんでんし)や比丘(びく)は神仏(しんぶつ)に仕(つか)へるものだ。203あんな者(もの)に向(むか)へば、204忽(たちま)ち罰(ばち)が当(あた)り、205身体(からだ)が動(うご)けぬやうになるからな』
206乙(おつ)『アハヽヽヽ、207気(き)の弱(よわ)いものだな。208宣伝使(せんでんし)が何(なに)が恐(こは)い。209身(み)に寸鉄(すんてつ)を帯(お)びるでなし、210まるで箒(はうき)で蜻蛉(とんぼ)を押(おさ)へるやうなものだ』
211甲(かふ)(オス)『そんな事(こと)云(い)はずに早(はや)く帰(かへ)らうぢやないか』
212乙(おつ)『矢釜(やかま)しう云(い)ふない。213帰(かへ)り度(た)い奴(やつ)はトツトと帰(かへ)れ。214そして親分(おやぶん)が二人(ふたり)のナイスをおいて脂下(やにさが)つてゐる所(ところ)を、215ケナリさうな顔(かほ)して指(ゆび)を喰(くは)へて見(み)せて貰(もら)へ。216それが貴様(きさま)の性(しやう)に合(あ)うてるわい。217ウツフヽヽヽ。218これ丈(だけ)沢山(たくさん)の酒(さけ)や肴(さかな)を盗(と)つて来(き)乍(なが)ら、219又(また)人(ひと)に取(と)られるのも残念(ざんねん)だ。220此(この)松(まつ)の下(した)で鱈腹(たらふく)喰(く)つて、221新団体(しんだんたい)を組織(そしき)して活躍(くわつやく)するのだ。222どうだ丙(へい)、223丁(てい)、224戊(ぼ)、225賛成(さんせい)だらう』
226丙(へい)丁(てい)戊(ぼ)『賛成(さんせい)々々(さんせい)』
227乙(おつ)『これ丈(だ)け四(よ)人(にん)まで大多数(だいたすう)の賛成(さんせい)があるのに、228只(ただ)一人(ひとり)異議(いぎ)を唱(とな)へるのは、229俺(おれ)等(たち)の計画(けいくわく)を裏切(うらぎ)るものだ。230エー面倒(めんだう)臭(くさ)い。231一(ひと)つバラしてやらうかい。232之(これ)も泥棒(どろばう)の練習(れんしふ)になり肝玉(きもだま)が据(すは)つていいぞ』
233甲(かふ)(オス)『オイ、234コラコラそんな無茶(むちや)な事(こと)を云(い)ふない。235俺(おれ)が一口(ひとくち)異見(いけん)を唱(とな)へたと云(い)つて、236バラすの何(なん)のつて、237余(あんま)りぢやないか』
238乙(おつ)『あんまりも糞(くそ)もあつたものかい。239貴様(きさま)は常平生(つねへいぜい)から大将(たいしやう)のお髯(ひげ)の塵(ちり)許(ばか)り払(はら)ひやがつて、240俺(おれ)等(たち)の悪口(わるくち)許(ばか)り告(つ)げた奴(やつ)だ。241サア三(さん)人(にん)の兄弟(きやうだい)、242此奴(こいつ)をヤツつけて了(しま)へ』
243 ここに四(よ)人(にん)は甲(かふ)一(いち)人(にん)を取(と)りまいて、244四辺(あたり)の棒千切(ぼうちぎれ)を拾(ひろ)ひ打(う)ちかかつた。245甲(かふ)は矢庭(やには)に木片(きぎれ)を拾(ひろ)ひ、246力(ちから)限(かぎ)りに防禦(ばうぎよ)に力(つと)めてゐる。
247 かかる所(ところ)へ四辺(あたり)の木精(こだま)を響(ひび)かして聞(きこ)えて来(き)たのは宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)であつた。248五(ご)人(にん)は各自(めいめい)傷(きず)だらけになつたまま、249その場(ば)に平太(へた)つて了(しま)つた。
250 ハールは伊太彦(いたひこ)に従(したが)ひ、251ここ迄(まで)やつて来(き)て五(ご)人(にん)の男(をとこ)が倒(たふ)れてゐるのに不審(ふしん)を起(おこ)し、252わざわざ松(まつ)の木(き)の根元(ねもと)に寄(よ)り道(みち)して調(しら)べて見(み)ると、253今(いま)迄(まで)使(つか)つて居(ゐ)た五(ご)人(にん)の部下(ぶか)であつた。254ハールは大喝(だいかつ)一声(いつせい)、255目(め)を剥(む)き乍(なが)ら、
256ハール『こらツ、257者共(ものども)、258何(なに)を致(いた)して居(を)るか』
259甲(かふ)(オス)『ハイ、260親方(おやかた)、261よう来(き)て下(くだ)さいました。262今(いま)四(よ)人(にん)の奴(やつ)め、263貴方(あなた)や大親分(おほおやぶん)に対(たい)し、264謀反(むほん)の相談(さうだん)致(いた)しましたので、265私(わたし)が意見(いけん)しました所(ところ)、266大変(たいへん)に腹(はら)を立(た)て、267殺(ころ)してやらうと云(い)つて斯(こ)んな目(め)に会(あ)はせました。268私(わたし)も力(ちから)一杯(いつぱい)戦(たたか)ひ、269血(ち)みどろになつて居(を)ります所(ところ)へ、270恐(おそ)ろしい宣伝歌(せんでんか)が聞(きこ)えましたので、271誰(たれ)も尻餅(しりもち)をついて身動(みうご)きが出来(でき)ぬやうになつたのです。272何卒(どうぞ)副親分(ふくおやぶん)様(さま)、273私(わたし)を助(たす)けて下(くだ)さいませ』
274ハール『ア、275お前(まへ)はオスだつたな。276そして其処(そこ)に倒(たふ)れてゐる奴(やつ)は、277メスにキス、278バツタにイナゴだな。279こりやこりやメス、280キス、281バツタにイナゴ、282その顔(かほ)は何(なん)だ。283ヤツパリ貴様(きさま)は相変(あひかは)らず泥棒(どろばう)をやらうとするのか。284もういい加減(かげん)に改心(かいしん)したらどうだ。285オス貴様(きさま)も泥棒(どろばう)なんか、286悪(わる)い事(こと)致(いた)すでないぞ』
287オス『ヘイ、288泥棒(どろばう)はもう出来(でき)ませぬか』
289ハール『ウン、290何(なに)も彼(か)も新規(しんき)蒔(ま)き直(なほ)しだ。291虎熊山(とらくまやま)の岩窟(いはや)は最早(もはや)亡(ほろ)びて了(しま)ふたのだ。292それ故(ゆゑ)俺(おれ)も館(やかた)を焼(や)かれ、293居(を)る所(ところ)が無(な)いので俄(にはか)に改心(かいしん)して宣伝使(せんでんし)のお伴(とも)をして、294誠(まこと)の道(みち)の旅(たび)をしてゐるのだ。295貴様(きさま)もいい加減(かげん)に泥棒(どろばう)商売(しやうばい)は止(や)めたがよからうぞ』
296メス『もしもし副親分(ふくおやぶん)さま、297そりや本当(ほんたう)ですか。298私(わたし)は今(いま)、299貴方(あなた)には済(す)まないが、300あまり親分(おやぶん)が横暴(わうばう)な事(こと)をやるので、301実(じつ)は愛憎(あいそ)をつかし新団体(しんだんたい)を組織(そしき)し、302今(いま)ここで定款(ていくわん)まで拵(こしら)へ、303発会式(はつくわいしき)を終(をは)つた所(ところ)で厶(ござ)います。304そした所(ところ)、305オスの奴(やつ)、306反対(はんたい)を称(とな)へるものだから、307此(この)様(やう)な時勢(じせい)に合(あ)はぬ骨董品(こつとうひん)は片付(かたづ)けた方(はう)がよいと思(おも)ひ、308打(ぶ)ちのめさうとした所(ところ)で厶(ござ)います。309何卒(どうぞ)、310貴方(あなた)、311私(わたし)等(たち)の団長(だんちやう)となつて一旗(ひとはた)挙(あ)げて下(くだ)さいますまいかな』
312ハール『馬鹿(ばか)云(い)ふな。313泥棒(どろばう)はスツカリ廃業(はいげふ)したのだ。314ここに厶(ござ)る宣伝使(せんでんし)は神力(しんりき)無双(むさう)の生神(いきがみ)様(さま)だ。315懐(ふところ)に夜光(やくわう)の玉(たま)を持(も)つて厶(ござ)るから、316貴様(きさま)等(ら)の心(こころ)の底(そこ)は手(て)にとる如(ごと)く御存(ごぞん)じだぞ』
317メス『ハイ、318貴方(あなた)が本当(ほんたう)に廃業(はいげふ)なさつたのなら仕方(しかた)がありませぬ。319私(わたし)等(たち)が勝手(かつて)に小団体(せうだんたい)を作(つく)つて商売(しやうばい)繁昌(はんじやう)のため大活動(だいくわつどう)を致(いた)しますから』
320ハール『オイ、321やめたらどうだ。322そんな事(こと)云(い)ふと虎熊山(とらくまやま)が破裂(はれつ)したらどうする。323破裂(はれつ)の前兆(ぜんてう)として、324あの通(とほ)り噴煙(ふんえん)濛々(もうもう)と立(たち)上(あが)つてるぢやないか。325あの鳴動(めいどう)を聞(き)け。326俺(おれ)等(たち)仲間(なかま)が霊山(れいざん)を汚(けが)したによつて、327山(やま)の神(かみ)様(さま)が立腹(りつぷく)して厶(ござ)るのだ。328貴様(きさま)もここで改心(かいしん)せなくちや虎熊山(とらくまやま)の熔岩(ようがん)に押(おし)潰(つぶ)されて了(しま)ふぞ』
329メス『今更(いまさら)泥棒(どろばう)をやめた所(ところ)で、330之(これ)と云(い)ふ商売(しやうばい)も無(な)し、331仕方(しかた)がありませぬわ。332人間(にんげん)は意志(いし)の自由(じいう)を有(いう)してゐますから、333何卒(どうぞ)私(わたし)の意志(いし)迄(まで)は束縛(そくばく)して下(くだ)さいますな。334のう、335キス、336バツタ、337イナゴ、338さうぢやないか』
339 三(さん)人(にん)一度(いちど)に、
340『ウン、341さうださうだ、342泥棒(どろぼう)三日(みつか)したら味(あぢ)が忘(わす)れられぬと云(い)ふから、343今更(いまさら)やめいと云(い)つても止(や)められるものかい。344俺(おれ)等(たち)も初(はじ)めから泥棒(どろばう)したくはなかつたが、345セール、346ハールの親方(おやかた)がすすめたから初(はじ)めたのだ。347折角(せつかく)乍(なが)ら348ハール親分(おやぶん)の提案(ていあん)には賛成(さんせい)する事(こと)が出来(でき)ませぬわい』
349ハール『左様(さやう)の事(こと)を申(まを)してゐると今(いま)に虎熊山(とらくまやま)が破裂(はれつ)し、350貴様(きさま)等(ら)は滅亡(めつぼう)せなくてはならぬぞ』
351メス『ハヽヽヽ、352虎熊山(とらくまやま)は昔(むかし)古来(こらい)から噴火(ふんくわ)してゐますよ。353唸(うな)るのも鳴動(めいどう)するのも今日(けふ)に初(はじ)まつた事(こと)ぢやありませぬわい。354大(おほ)きにお世話(せわ)さまです。355貴方(あなた)のやうに泥棒心(どろばうごころ)の俄(にはか)に無(な)くなるやうな腰抜(こしぬ)けには、356用(よう)はありませぬわ』
357と身体(からだ)が丈夫(ぢやうぶ)になつたのでソロソロ強(つよ)くなり、358又(また)もや泥棒(どろばう)至上(しじやう)主義(しゆぎ)を盛(さか)んに述(の)べ立(た)てる。359丙(へい)、360丁(てい)、361戊(ぼ)三(さん)人(にん)も川水(かはみづ)の流(なが)るる如(ごと)く泥棒(どろばう)の有益(いうえき)なる事(こと)をまくし立(た)て、362ハールを手古摺(てこず)らしてゐる。363雲(くも)にかすんだ虎熊山(とらくまやま)の鳴動(めいどう)は俄(にはか)に猛烈(まうれつ)となり、364大地(だいち)はビリビリビリと震(ふる)ひ出(だ)して来(き)た。365流石(さすが)の四(よ)人(にん)も真青(まつさを)になつて草(くさ)に噛(か)ぶり付(つ)いてゐる。366轟然(ぐわうぜん)たる一発(いつぱつ)の響(ひびき)と共(とも)に、367虎熊山(とらくまやま)は大爆発(だいばくはつ)を来(き)たし、368黒煙(こくえん)天(てん)に漲(みなぎ)り、369熔岩(ようがん)は雨(あめ)の如(ごと)く、3691四方(しはう)に散乱(さんらん)し370数(すう)里(り)を隔(へだ)てた此(この)地点(ちてん)迄(まで)降(ふ)つて来(き)た。371一同(いちどう)は恐(おそ)れ戦(をのの)いて俄(にはか)に心(こころ)を翻(ひるがへ)し、372改心(かいしん)の祈願(きぐわん)をなし初(はじ)めた。373神(かみ)の御恵(みめぐみ)か、374雨(あめ)の如(ごと)く降(ふ)り来(きた)つた巨大(きよだい)なる熔岩(ようがん)は一人(ひとり)も傷(きず)つけずにをさまつて了(しま)つた。375これより一同(いちどう)は改心(かいしん)の尊(たふと)き事(こと)を悟(さと)り、376伊太彦(いたひこ)の宣伝使(せんでんし)に従(したが)ひお礼(れい)詣(まゐ)りと称(しよう)して聖地(せいち)エルサレムへ向(むか)ふ事(こと)となつた。
377(大正一二・七・一六 旧六・三 於祥雲閣 北村隆光録)
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