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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第65巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 盗風賊雨
第1章 感謝組
第2章 古峽の山
第3章 岩侠
第4章 不聞銃
第5章 独許貧
第6章 噴火口
第7章 反鱗
第2篇 地異転変
第8章 異心泥信
第9章 劇流
第10章 赤酒の声
第11章 大笑裡
第12章 天恵
第3篇 虎熊惨状
第13章 隔世談
第14章 山川動乱
第15章 饅頭塚
第16章 泥足坊
第17章 山颪
第4篇 神仙魔境
第18章 白骨堂
第19章 谿の途
第20章 熊鷹
第21章 仙聖郷
第22章 均霑
第23章 義侠
第5篇 讃歌応山
第24章 危母玉
第25章 道歌
第26章 七福神
余白歌
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霊界物語
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第65巻(辰の巻)
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<<< 義侠
(B)
(N)
道歌 >>>
第二四章
危母玉
(
きもだま
)
〔一六八〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
篇:
第5篇 讃歌応山
よみ(新仮名遣い):
さんかおうさん
章:
第24章 危母玉
よみ(新仮名遣い):
きもだま
通し章番号:
1680
口述日:
1923(大正12)年07月18日(旧06月5日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年4月14日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
シヤーガラ竜王(サーガラ竜王)
データ凡例:
データ最終更新日:
2019-05-05 10:58:36
OBC :
rm6524
愛善世界社版:
269頁
八幡書店版:
第11輯 706頁
修補版:
校定版:
281頁
普及版:
122頁
初版:
ページ備考:
001
玉国別
(
たまくにわけ
)
、
002
真純彦
(
ますみひこ
)
の
二人
(
ふたり
)
はスーラヤの
湖
(
みづうみ
)
の
西岸
(
せいがん
)
に
着
(
つ
)
いた
時
(
とき
)
、
003
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
厳粛
(
げんしゆく
)
なる
訓戒
(
くんかい
)
に
仍
(
よ
)
りて、
004
伴
(
ともな
)
ひ
来
(
きた
)
りし
三千彦
(
みちひこ
)
、
005
伊太彦
(
いたひこ
)
、
006
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
と
別
(
わか
)
れて、
007
逸早
(
いちはや
)
く
聖地
(
せいち
)
に
進
(
すす
)
まむと
夜
(
よ
)
を
日
(
ひ
)
に
継
(
つ
)
いで
旅
(
たび
)
の
疲
(
つか
)
れも
苦
(
く
)
にせず、
008
足
(
あし
)
を
早
(
はや
)
めて
漸
(
やうや
)
くエルサレムに
程近
(
ほどちか
)
き、
009
サンカオの
里
(
さと
)
に
着
(
つ
)
いた。
010
此処
(
ここ
)
にはシオン
山
(
ざん
)
より
流
(
なが
)
れ
来
(
きた
)
る、
011
ヨルダン
河
(
がは
)
が
轟々
(
ぐわうぐわう
)
と
水音
(
みなおと
)
を
立
(
た
)
てて
流
(
なが
)
れてゐる。
012
其
(
その
)
北岸
(
ほくがん
)
の
細道
(
ほそみち
)
をスタスタとやつて
来
(
く
)
ると、
013
俄
(
にはか
)
に
一天
(
いつてん
)
墨
(
すみ
)
を
流
(
なが
)
した
如
(
ごと
)
く
黒雲
(
くろくも
)
塞
(
ふさ
)
がり、
014
えも
云
(
い
)
はれぬ
陰欝
(
いんうつ
)
の
空気
(
くうき
)
が
漂
(
ただよ
)
うて
来
(
き
)
た。
015
そしてあたりは
森閑
(
しんかん
)
として
微風
(
びふう
)
一
(
ひと
)
つ
吹
(
ふ
)
かず、
016
何
(
なん
)
ともなしに
蒸
(
む
)
し
暑
(
あつ
)
く
身体
(
からだ
)
の
各部
(
かくぶ
)
からねばつた
汗
(
あせ
)
が
滲
(
にじ
)
んで
来
(
く
)
る。
017
毒
(
どく
)
ガスにでもあてられた
様
(
やう
)
に
息
(
いき
)
苦
(
くる
)
しくなり、
018
川
(
かは
)
べりの
木蔭
(
こかげ
)
に
二人
(
ふたり
)
は
倒
(
たふ
)
れる
様
(
やう
)
にして
腰
(
こし
)
を
卸
(
おろ
)
し、
019
草
(
くさ
)
の
根
(
ね
)
に
顔
(
かほ
)
を
当
(
あ
)
てて
地中
(
ちちう
)
から
湧
(
わ
)
き
出
(
い
)
づる
生気
(
せいき
)
を
吸
(
す
)
ひ、
020
健康
(
けんかう
)
の
回復
(
くわいふく
)
を
計
(
はか
)
つてゐる。
021
これは
数十
(
すうじふ
)
里
(
り
)
を
隔
(
へだ
)
てた
東方
(
とうはう
)
の
虎熊山
(
とらくまやま
)
が
爆発
(
ばくはつ
)
し、
022
折柄
(
をりから
)
の
東風
(
とうふう
)
に
煽
(
あふ
)
られて、
023
毒
(
どく
)
を
含
(
ふく
)
んだ
灰煙
(
はひけぶり
)
が
谷間
(
たにあひ
)
の
低地
(
ていち
)
へ
向
(
むか
)
つて
集
(
あつ
)
まつて
来
(
き
)
たからである。
024
二人
(
ふたり
)
は
息
(
いき
)
も
絶
(
た
)
え
絶
(
だ
)
えになり、
025
小声
(
こごゑ
)
になつて
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
奏上
(
そうじやう
)
してゐる。
026
真純
(
ますみ
)
『モシ
先生
(
せんせい
)
、
027
モウ
一息
(
ひといき
)
で
聖地
(
せいち
)
エルサレムへ
到着
(
たうちやく
)
するといふ
間際
(
まぎは
)
になつて、
028
俄
(
にはか
)
に
天地
(
てんち
)
が
暗
(
くら
)
くなり、
029
斯様
(
かやう
)
に
息
(
いき
)
が
苦
(
くる
)
しく
最早
(
もはや
)
堪
(
た
)
へ
切
(
き
)
れない
様
(
やう
)
になつたのは、
030
何
(
なに
)
か
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
気障
(
きざは
)
りがあるのでは
厶
(
ござ
)
いますまいか。
031
茲
(
ここ
)
迄
(
まで
)
来
(
き
)
て
不幸
(
ふかう
)
にして
斃
(
たふ
)
れる
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
があれば、
032
千載
(
せんざい
)
の
恨
(
うらみ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
033
何
(
ど
)
う
034
あなたはお
考
(
かんが
)
へですか』
035
玉国
(
たまくに
)
『ウーン、
036
どうも
変
(
へん
)
だなア、
037
私
(
わたし
)
にも
合点
(
がつてん
)
がゆかぬ。
038
併
(
しか
)
し
今日
(
けふ
)
の
昼
(
ひる
)
頃
(
ごろ
)
に
遥
(
はるか
)
東
(
ひがし
)
の
空
(
そら
)
に
当
(
あた
)
つて、
039
不思議
(
ふしぎ
)
な
響
(
ひびき
)
がしたと
思
(
おも
)
へば、
040
それから
天
(
てん
)
が
暗
(
くら
)
くなり、
041
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
迄
(
まで
)
がこんな
空気
(
くうき
)
に
包
(
つつ
)
まれて
了
(
しま
)
つたのだ。
042
大方
(
おほかた
)
どこかの
火山
(
くわざん
)
が
爆発
(
ばくはつ
)
したのではあるまいか……とも
思
(
おも
)
はれる。
043
何分
(
なにぶん
)
此
(
この
)
空気
(
くうき
)
は、
044
微細
(
びさい
)
な
灰
(
はひ
)
の
様
(
やう
)
な
物
(
もの
)
が
交
(
まじ
)
つてゐる。
045
少時
(
しばし
)
ここでお
土
(
つち
)
に
親
(
した
)
しみ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
祈
(
いの
)
つて
046
体
(
からだ
)
の
回復
(
くわいふく
)
を
待
(
ま
)
つより
仕方
(
しかた
)
がない。
047
私
(
わたし
)
も
何
(
なん
)
だか
苦
(
くる
)
しくて、
048
四肢
(
しし
)
五体
(
ごたい
)
がガタガタになつたやうだ。
049
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
050
と
合掌
(
がつしやう
)
してゐる。
051
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ、
052
ワンワンワンワンと
幽
(
かす
)
かに
遠
(
とほ
)
く
犬
(
いぬ
)
の
鳴声
(
なきごゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
053
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
くと
共
(
とも
)
に
両人
(
りやうにん
)
は
夢
(
ゆめ
)
から
醒
(
さ
)
めたやうに、
054
何
(
なん
)
となく
心持
(
こころもち
)
がさえざえして
来
(
き
)
た。
055
真純
(
ますみ
)
『あ、
056
あの
声
(
こゑ
)
はスマートぢや
厶
(
ござ
)
いますまいか、
057
どうも
聞
(
きき
)
覚
(
おぼ
)
えがある
様
(
やう
)
ですな。
058
そしてあの
声
(
こゑ
)
が
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
ると
共
(
とも
)
に
私
(
わたし
)
は
俄
(
にはか
)
に
気分
(
きぶん
)
が
冴
(
さ
)
えて
参
(
まゐ
)
り、
059
血
(
ち
)
の
循環
(
じゆんかん
)
がよくなつたやうで
厶
(
ござ
)
いますワ』
060
玉国
(
たまくに
)
『ウン
成程
(
なるほど
)
、
061
私
(
わたし
)
もあの
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
くと
共
(
とも
)
に
元気
(
げんき
)
が
回復
(
くわいふく
)
して
来
(
き
)
たやうだ。
062
スマートに
間違
(
まちが
)
ひない。
063
さうすれば
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さまも
近
(
ちか
)
くへお
出
(
いで
)
になつてるとみえる。
064
ハテ
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
だな。
065
併
(
しか
)
し
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
がかやうな
所
(
ところ
)
に
へこたれ
てゐる
所
(
ところ
)
を
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
に
見
(
み
)
つけられたら、
066
大変
(
たいへん
)
な
恥
(
はぢ
)
だから、
067
一
(
ひと
)
つ
元気
(
げんき
)
を
出
(
だ
)
して
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひ、
068
ボツボツ
歩
(
あゆ
)
む
事
(
こと
)
にせうか』
069
真純
(
ますみ
)
『
左様
(
さやう
)
なれば
070
行
(
ゆ
)
けるか
行
(
ゆ
)
けぬか
知
(
し
)
りませぬが、
071
ソロソロ
歩
(
ある
)
いてみませう』
072
と
両人
(
りやうにん
)
は
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
に
立
(
たち
)
上
(
あが
)
り、
073
歩
(
あゆ
)
まうとすれ
共
(
ども
)
、
074
膝
(
ひざ
)
の
関節
(
くわんせつ
)
がだるく、
075
且
(
かつ
)
笑
(
わら
)
ふ
様
(
やう
)
で、
076
何
(
ど
)
うしても
足
(
あし
)
を
運
(
はこ
)
ぶ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なかつた。
077
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
矢
(
や
)
を
射
(
い
)
る
如
(
ごと
)
く、
078
東
(
ひがし
)
の
方
(
はう
)
より
走
(
はし
)
つて
来
(
き
)
たのはスマートであつた。
079
スマートは
頻
(
しきり
)
に、
080
頭
(
あたま
)
と
尾
(
を
)
を
振
(
ふ
)
つて
嬉
(
うれ
)
し
相
(
さう
)
な
表情
(
へうじやう
)
を
示
(
しめ
)
し、
081
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
でワンワンと
吠
(
ほえ
)
立
(
た
)
てる。
082
玉国別
(
たまくにわけ
)
は、
083
玉国
(
たまくに
)
『あゝあなたはスマートさま、
084
能
(
よ
)
う
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつた。
085
定
(
さだ
)
めて
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
も
御
(
ご
)
一所
(
いつしよ
)
で
厶
(
ござ
)
いませうなア』
086
と
人間
(
にんげん
)
に
云
(
い
)
ふ
如
(
ごと
)
く
挨拶
(
あいさつ
)
すると、
087
スマートは
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
裾
(
すそ
)
を
喰
(
く
)
はへて、
088
切
(
しき
)
りに
引張
(
ひつぱ
)
る。
089
玉国
(
たまくに
)
『ハテナ、
090
何
(
なに
)
か
吾々
(
われわれ
)
の
身
(
み
)
に
災
(
わざはひ
)
がかからむとしてゐるのだらう。
091
スマートさまは
神
(
かみ
)
のお
使
(
つかひ
)
だから、
092
サア
真純彦
(
ますみひこ
)
、
093
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
つてどこなつと
行
(
ゆ
)
かうぢやないか』
094
真純
(
ますみ
)
『ハイ
095
さう
致
(
いた
)
しませう』
096
と
云
(
い
)
へばスマートは
喰
(
く
)
はへた
裾
(
すそ
)
をはなし、
097
尾
(
を
)
を
振
(
ふ
)
り
乍
(
なが
)
らヨルダン
河
(
がは
)
の
北岸
(
ほくがん
)
なるサンカオの
小高
(
こだか
)
き
峰
(
みね
)
を
指
(
さ
)
して
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
098
七八丁
(
しちはつちやう
)
も
登
(
のぼ
)
つたと
思
(
おも
)
ふ
所
(
ところ
)
に、
099
目立
(
めだ
)
つて
巨大
(
きよだい
)
なる
橄欖
(
かんらん
)
の
樹
(
き
)
や
其
(
その
)
他
(
た
)
の
雑木
(
ざつぼく
)
が
山
(
やま
)
の
二合目
(
にがふめ
)
あたりに、
100
一
(
ひと
)
つの
森
(
もり
)
をなしてゐる。
101
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
れば
102
小
(
ちひ
)
さい
古
(
ふる
)
ぼけた
祠
(
ほこら
)
が
建
(
た
)
つてゐる。
103
玉国
(
たまくに
)
『ハテなア、
104
スマートさまが
茲
(
ここ
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
して
行
(
い
)
けといふ
事
(
こと
)
だらう。
105
これも
何
(
なに
)
か
訳
(
わけ
)
があるに
違
(
ちが
)
ひない』
106
と
両人
(
りやうにん
)
は
自然
(
しぜん
)
に
跪
(
ひざまづ
)
き、
107
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
苦
(
くる
)
しき
息
(
いき
)
の
下
(
した
)
より、
108
千切
(
ちぎ
)
れ
千切
(
ちぎ
)
れに
奏上
(
そうじやう
)
した。
109
祠
(
ほこら
)
の
遥
(
はる
)
か
後方
(
こうはう
)
より
優
(
やさ
)
しき
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
。
110
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
111
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
茲
(
ここ
)
に
在
(
あ
)
り
112
スーラヤ
湖辺
(
こへん
)
に
汝
(
な
)
が
命
(
みこと
)
113
其
(
その
)
他
(
た
)
の
神
(
かみ
)
の
御使
(
みつかひ
)
と
114
袂
(
たもと
)
を
分
(
わか
)
ちスマートに
115
助
(
たす
)
けられつつ
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
116
天
(
てん
)
に
冲
(
ちう
)
する
黒煙
(
くろけぶり
)
117
ハテ
訝
(
いぶ
)
かしやと
大空
(
おほぞら
)
を
118
眺
(
なが
)
め
居
(
ゐ
)
たりし
時
(
とき
)
もあれ
119
幽
(
かす
)
かに
聞
(
きこ
)
ゆる
爆発
(
ばくはつ
)
の
120
声
(
こゑ
)
諸共
(
もろとも
)
に
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
は
121
不快
(
ふくわい
)
の
邪気
(
じやき
)
に
包
(
つつ
)
まれぬ
122
これぞ
全
(
まつた
)
く
虎熊
(
とらくま
)
の
123
山
(
やま
)
の
尾
(
を
)
の
上
(
へ
)
の
崩壊
(
ほうくわい
)
と
124
神
(
かみ
)
の
御告
(
みつ
)
げに
悟
(
さと
)
り
得
(
え
)
て
125
汝
(
なれ
)
等
(
ら
)
が
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
案
(
あん
)
じつつ
126
暫
(
しば
)
し
様子
(
やうす
)
を
伺
(
うかが
)
へば
127
天教山
(
てんけうざん
)
の
太柱
(
ふとばしら
)
128
木花姫
(
このはなひめ
)
の
御
(
ご
)
詫宣
(
たくせん
)
129
八大
(
はちだい
)
竜王
(
りうわう
)
の
其
(
その
)
一
(
ひと
)
つ
130
いよいよ
古巣
(
ふるす
)
を
立
(
たち
)
出
(
い
)
でて
131
カンラン
山
(
ざん
)
を
奪
(
うば
)
はむと
132
三千
(
さんぜん
)
年
(
ねん
)
の
蟄伏
(
ちつぷく
)
を
133
破
(
やぶ
)
りて
来
(
きた
)
る
怖
(
おそ
)
ろしさ
134
意外
(
いぐわい
)
の
教
(
をしへ
)
にスマートと
135
此処
(
ここ
)
に
難
(
なん
)
をば
避
(
さ
)
け
乍
(
なが
)
ら
136
汝
(
なれ
)
が
来
(
きた
)
るを
待
(
ま
)
ちゐたり
137
三千彦
(
みちひこ
)
司
(
つかさ
)
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
138
伊太彦
(
いたひこ
)
デビス、ブラヷーダ
139
其
(
その
)
他
(
た
)
の
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
達
(
たち
)
は
140
何
(
いづ
)
れも
無事
(
ぶじ
)
にましませど
141
汝
(
なれ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
は
142
神
(
かみ
)
の
御告
(
みつげ
)
に
悟
(
さと
)
り
得
(
え
)
て
143
危
(
あやふ
)
くなりしと
聞
(
き
)
きしより
144
スマートさまを
遣
(
つか
)
はして
145
ここにお
招
(
まね
)
き
申
(
まを
)
したり
146
やがて
竜王
(
りうわう
)
ヨルダンの
147
河
(
かは
)
遡
(
さかのぼ
)
り
日向
(
ひむか
)
なる
148
シオンの
山
(
やま
)
に
居
(
きよ
)
を
転
(
てん
)
じ
149
又
(
また
)
も
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
むだう
)
なる
150
行為
(
かうゐ
)
をなして
神界
(
しんかい
)
の
151
大経綸
(
だいけいりん
)
を
妨害
(
ばうがい
)
し
152
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
悪魔
(
あくま
)
の
世
(
よ
)
となして
153
跳梁
(
てうりやう
)
跋扈
(
ばつこ
)
なさむとす
154
暫
(
しばら
)
くすればマナスイン
155
ナーガラシヤーが
出
(
い
)
で
来
(
きた
)
り
156
汝
(
なれ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
の
命
(
いのち
)
をば
157
奪
(
うば
)
ひて
去
(
さ
)
らむは
目
(
ま
)
のあたり
158
九死
(
きうし
)
一生
(
いつしやう
)
の
危難
(
きなん
)
をば
159
のがれし
汝
(
なれ
)
こそ
目出
(
めで
)
たけれ
160
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
161
御霊
(
みたま
)
幸
(
さちは
)
ひましませよ』
162
と
歌
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
り、
163
二人
(
ふたり
)
の
前
(
まへ
)
に
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はし
玉
(
たま
)
ふた。
164
此
(
この
)
時
(
とき
)
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
此
(
この
)
社
(
やしろ
)
より
二三丁
(
にさんちやう
)
も
奥
(
おく
)
の
森
(
もり
)
の
中
(
なか
)
に
165
マナスイン
竜王
(
りうわう
)
の
帰順
(
きじゆん
)
を
祈
(
いの
)
つてゐたが、
166
容易
(
ようい
)
に
効験
(
かうけん
)
の
現
(
あら
)
はれ
難
(
がた
)
きを
知
(
し
)
り、
167
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
二人
(
ふたり
)
の
命
(
いのち
)
を
救
(
すく
)
はむと、
168
神力
(
しんりき
)
をこめ、
1681
赤裸
(
まつぱだか
)
となつて、
169
サンカオの
滝
(
たき
)
に
打
(
う
)
たれてゐた。
170
そしてスマートの
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
いて、
171
二人
(
ふたり
)
が
無事
(
ぶじ
)
に
此
(
この
)
祠
(
ほこら
)
迄
(
まで
)
着
(
つ
)
いた
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
り、
172
滝
(
たき
)
の
麓
(
ふもと
)
より
衣服
(
いふく
)
を
着替
(
きか
)
へて、
173
歌
(
うた
)
をうたひ
乍
(
なが
)
ら
茲
(
ここ
)
へ
現
(
あら
)
はれたのである。
174
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
何
(
なん
)
となく
自然
(
しぜん
)
におつる
涙
(
なみだ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
175
声
(
こゑ
)
をかすめて、
176
玉国
(
たまくに
)
『
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
、
177
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
、
178
神徳
(
しんとく
)
未
(
いま
)
だ
足
(
た
)
らず、
179
殆
(
ほと
)
んど
聖地
(
せいち
)
に
間
(
ま
)
もなき
地点
(
ちてん
)
迄
(
まで
)
近付
(
ちかづ
)
きまして、
180
此
(
この
)
川
(
かは
)
べりを
通
(
とほ
)
る
折
(
をり
)
しも
俄
(
にはか
)
に
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
あし
)
くなり、
181
手足
(
てあし
)
の
自由
(
じいう
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
182
腑甲斐
(
ふがひ
)
なくも
倒
(
たふ
)
れて
居
(
を
)
りました。
183
何
(
なに
)
か
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
をしたので、
184
お
叱
(
しか
)
りを
蒙
(
かうむ
)
つたのではあるまいかと、
185
両人
(
りやうにん
)
が
私
(
ひそ
)
かに
案
(
あん
)
じ
煩
(
わづら
)
ひ、
186
お
詫
(
わび
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますと、
187
あなたのお
遣
(
つかは
)
し
下
(
くだ
)
さいました
此
(
この
)
スマートさまの
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて、
188
俄
(
にはか
)
に
元気
(
げんき
)
回復
(
くわいふく
)
し
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
誘
(
さそ
)
はれて
参
(
まゐ
)
りました。
189
貴女
(
あなた
)
のお
姿
(
すがた
)
を
拝
(
はい
)
するにつけ、
190
嬉
(
うれ
)
しさと、
191
懐
(
なつ
)
かしさとで、
192
自然
(
しぜん
)
に
涙
(
なみだ
)
がこぼれます。
193
私
(
わたくし
)
達
(
たち
)
をお
招
(
まね
)
き
下
(
くだ
)
さつたのは、
194
何
(
なに
)
か
変
(
かは
)
つた
御用
(
ごよう
)
では
厶
(
ござ
)
いますまいか』
195
初稚
(
はつわか
)
『
玉国別
(
たまくにわけ
)
さま、
196
真純彦
(
ますみひこ
)
さま、
197
よく
無事
(
ぶじ
)
で
此処
(
ここ
)
まで
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
198
今
(
いま
)
も
私
(
わたし
)
が
歌
(
うた
)
つた
通
(
とほ
)
り、
199
マナスイン
竜王
(
りうわう
)
がゲッセマネの
苑
(
その
)
を
占領
(
せんりやう
)
し、
200
エデンの
花園
(
はなぞの
)
や
黄金山
(
わうごんざん
)
を
蹂躙
(
じうりん
)
せむと
致
(
いた
)
します
故
(
ゆゑ
)
、
201
スマートさまに
先
(
さき
)
へ
行
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
ひ、
202
竜王
(
りうわう
)
が
占領
(
せんりやう
)
せない
様
(
やう
)
にいろいろと
守護
(
しゆご
)
を
致
(
いた
)
し、
203
あなた
方
(
がた
)
が
此
(
この
)
街道
(
かいだう
)
を
御
(
お
)
通
(
とほ
)
りと
悟
(
さと
)
りました
故
(
ゆゑ
)
、
204
危難
(
きなん
)
の
身
(
み
)
に
及
(
およ
)
ばぬ
事
(
こと
)
を
虞
(
おそれ
)
てお
助
(
たす
)
け
申
(
まを
)
さむと、
205
ここに
待
(
ま
)
つてゐたので
厶
(
ござ
)
います。
206
やがてマナスイン
竜王
(
りうわう
)
は、
207
虎熊山
(
とらくまやま
)
を
立
(
たち
)
出
(
い
)
で、
208
いよいよ
時節
(
じせつ
)
の
到来
(
たうらい
)
とゲッセマネの
苑
(
その
)
を
占領
(
せんりやう
)
すべく、
209
山河
(
さんか
)
草木
(
さうもく
)
を
震憾
(
しんかん
)
させ
乍
(
なが
)
ら、
210
進
(
すす
)
んで
来
(
く
)
るのですが、
211
ゲッセマネの
苑
(
その
)
には、
212
到底
(
たうてい
)
身
(
み
)
を
置
(
お
)
く
所
(
ところ
)
が
無
(
な
)
いので、
213
此
(
この
)
河
(
かは
)
を
遡
(
さかのぼ
)
り、
214
シオン
山
(
ざん
)
へ
参
(
まゐ
)
るでせう。
215
さうすれば
巨大
(
きよだい
)
な
竜体
(
りうたい
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
216
あなた
方
(
がた
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
れば
尾
(
を
)
の
先
(
さき
)
の
剣
(
けん
)
にて、
217
一打
(
ひとうち
)
に
致
(
いた
)
しますは
分
(
わか
)
り
切
(
き
)
つた
事
(
こと
)
と、
218
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
御
(
ご
)
避難
(
ひなん
)
をなさるべく
取
(
とり
)
計
(
はか
)
つたのです。
219
息
(
いき
)
のつまるやうな
空気
(
くうき
)
が、
220
低地
(
ていち
)
にさまようて
居
(
ゐ
)
るのは、
221
やがて
竜王
(
りうわう
)
が
登
(
のぼ
)
つて
来
(
く
)
る
証拠
(
せうこ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
222
竜王
(
りうわう
)
の
頭
(
かしら
)
の
向
(
むか
)
ふ
所
(
ところ
)
は、
223
十
(
じふ
)
里
(
り
)
位
(
くらゐ
)
先
(
さき
)
まで
邪気
(
じやき
)
がただよひますから……
間
(
ま
)
もなく
大
(
おほ
)
きな
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
て、
2231
竜体
(
りうたい
)
が
上
(
のぼ
)
つて
来
(
く
)
るでせう』
224
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
打
(
うち
)
驚
(
おどろ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
225
『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
恵
(
めぐみ
)
は
到底
(
たうてい
)
言
(
ことば
)
にも
尽
(
つく
)
されませぬ。
226
実
(
じつ
)
に
感謝
(
かんしや
)
の
至
(
いた
)
りで
厶
(
ござ
)
います。
227
若
(
も
)
しも
貴女
(
あなた
)
が
居
(
を
)
られなかつたならば、
228
吾々
(
われわれ
)
は
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
を
完全
(
くわんぜん
)
に
勤
(
つと
)
める
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なかつたかも
知
(
し
)
れませぬ』
229
と
又
(
また
)
涙
(
なみだ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ふ。
230
真純彦
(
ますみひこ
)
は
感
(
かん
)
極
(
きは
)
まつて
一言
(
ひとこと
)
も
発
(
はつ
)
し
得
(
え
)
ず、
231
俯
(
うつむ
)
いて
忍
(
しの
)
び
音
(
ね
)
に
泣
(
な
)
いてゐる。
232
折柄
(
をりから
)
西方
(
せいはう
)
より
囂々
(
がうがう
)
と
地響
(
ぢひび
)
きさせ
乍
(
なが
)
ら、
233
中空
(
ちうくう
)
に
黒雲
(
くろくも
)
の
旗
(
はた
)
を
立
(
た
)
てた
様
(
やう
)
にピカピカ
鱗
(
うろこ
)
を
光
(
ひか
)
らせ、
234
山
(
やま
)
の
如
(
ごと
)
き
怪物
(
くわいぶつ
)
が
東
(
ひがし
)
を
指
(
さ
)
して
登
(
のぼ
)
り
来
(
く
)
る。
235
玉国別
(
たまくにわけ
)
、
236
真純彦
(
ますみひこ
)
は
此
(
この
)
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
237
俄
(
にはか
)
に
体
(
たい
)
すくみ
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
跪坐
(
しやが
)
んで
了
(
しま
)
つた。
238
初稚
(
はつわか
)
『お
二人
(
ふたり
)
様
(
さま
)
、
239
モウ
安心
(
あんしん
)
です。
240
竜王
(
りうわう
)
が
通過
(
つうくわ
)
致
(
いた
)
しました。
241
やがて
邪気
(
じやき
)
も
追々
(
おひおひ
)
に
晴
(
は
)
れるでせう』
242
玉国
(
たまくに
)
『ハイ、
243
何
(
ど
)
うも
恐
(
おそ
)
ろしい
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いました。
244
斯様
(
かやう
)
な
者
(
もの
)
が
此
(
この
)
聖地
(
せいち
)
の
近辺
(
きんぺん
)
へやつて
来
(
く
)
るとすれば、
245
埴安彦
(
はにやすひこ
)
、
246
埴安姫
(
はにやすひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
も、
247
並
(
なみ
)
大抵
(
たいてい
)
では
厶
(
ござ
)
いますまいな』
248
初稚
(
はつわか
)
『
中々
(
なかなか
)
並
(
なみ
)
大抵
(
たいてい
)
の
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬ。
249
それ
故
(
ゆゑ
)
ウバナンダ
竜王
(
りうわう
)
の
玉
(
たま
)
や、
250
シヤーガラ
竜王
(
りうわう
)
の
玉
(
たま
)
、
251
並
(
ならび
)
に
水晶
(
すいしやう
)
の
三個
(
さんこ
)
の
玉
(
たま
)
があなた
方
(
がた
)
のお
弟子
(
でし
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
渡
(
わた
)
されてゐるのです。
252
これさへ
聖地
(
せいち
)
へ
納
(
をさ
)
まらば、
253
いかにマナスイン
竜王
(
りうわう
)
が
聖地
(
せいち
)
を
窺
(
うかが
)
へばとて、
254
何
(
ど
)
うする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ませぬ。
255
此
(
この
)
三個
(
さんこ
)
の
玉
(
たま
)
には、
256
不思議
(
ふしぎ
)
な
神力
(
しんりき
)
があります。
257
あなた
方
(
がた
)
のお
手
(
て
)
にあれば
別
(
べつ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
も
現
(
あら
)
はれませぬが、
258
之
(
これ
)
を
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
手
(
て
)
にお
渡
(
わた
)
しになれば、
259
天地
(
てんち
)
を
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
動
(
うご
)
かす
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ます。
260
それ
故
(
ゆゑ
)
、
261
いかにマナスイン
竜王
(
りうわう
)
が
暴威
(
ばうゐ
)
を
振
(
ふる
)
ふとも、
262
如何
(
いかん
)
ともする
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませぬ。
263
真純彦
(
ますみひこ
)
さまは
玉
(
たま
)
を
持
(
も
)
つてお
出
(
い
)
ででせうなア』
264
真純
(
ますみ
)
『ハイ、
265
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
り
保護
(
ほご
)
致
(
いた
)
しまして、
266
一個
(
いつこ
)
丈
(
だけ
)
は
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
送
(
おく
)
つて
参
(
まゐ
)
りました』
267
初稚
(
はつわか
)
『それは
誠
(
まこと
)
に
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
268
定
(
さだ
)
めて
神
(
かみ
)
さまも
御
(
お
)
喜
(
よろこ
)
び
遊
(
あそ
)
ばす
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
269
マナスイン
竜王
(
りうわう
)
があなたの
姿
(
すがた
)
を
認
(
みと
)
めずに
過
(
すぎ
)
去
(
さ
)
つたのは、
270
先
(
ま
)
づ
神界
(
しんかい
)
の
為
(
ため
)
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
結構
(
けつこう
)
だか
分
(
わか
)
りませぬ』
271
真純
(
ますみ
)
『
同
(
おな
)
じ
玉
(
たま
)
でも、
272
神
(
かみ
)
さまがお
持
(
も
)
ちになるのと、
273
吾々
(
われわれ
)
が
持
(
も
)
つのとは
働
(
はたら
)
きが
違
(
ちが
)
ふので
厶
(
ござ
)
いますか』
274
初稚
(
はつわか
)
『それは
違
(
ちが
)
ひます。
275
霊
(
みたま
)
相応
(
さうおう
)
の
力
(
ちから
)
より
出
(
で
)
ぬもので
厶
(
ござ
)
います。
276
何程
(
なにほど
)
宣伝使
(
せんでんし
)
が
神力
(
しんりき
)
があると
云
(
い
)
つても、
277
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
には
及
(
およ
)
びませぬからなア』
278
真純
(
ますみ
)
『
私
(
わたし
)
が
玉
(
たま
)
を
持
(
も
)
つてゐた
為
(
ため
)
に、
279
さうするとあの
川
(
かは
)
べりに
於
(
おい
)
て、
280
あんな
苦
(
くる
)
しい、
281
息
(
いき
)
のつまるやうな
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
うたのですか。
282
つまり
玉
(
たま
)
の
威徳
(
ゐとく
)
に
負
(
まけ
)
たやうなものですな。
283
小人
(
せうじん
)
玉
(
たま
)
を
抱
(
いだ
)
いて
罪
(
つみ
)
あり……とはこんな
時
(
とき
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つたのでせう』
284
初稚
(
はつわか
)
『
猫
(
ねこ
)
に
小判
(
こばん
)
、
285
豚
(
ぶた
)
に
真珠
(
しんじゆ
)
だとか
云
(
い
)
ふ
譬
(
たとへ
)
が
厶
(
ござ
)
いましたなア。
286
ホヽヽヽヽ』
287
と
笑
(
わら
)
ふ。
288
真純彦
(
ますみひこ
)
は
頭
(
あたま
)
をかき
乍
(
なが
)
ら、
289
真純
(
ますみ
)
『さうすると、
290
三千彦
(
みちひこ
)
や
伊太彦
(
いたひこ
)
が
所持
(
しよぢ
)
してる
玉
(
たま
)
も、
291
ヤツパリ
私
(
わたし
)
と
同様
(
どうやう
)
で
厶
(
ござ
)
いますかな』
292
初稚
(
はつわか
)
『
伊太彦
(
いたひこ
)
さまだつて、
293
三千彦
(
みちひこ
)
さまだつて
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
ですワ。
294
結構
(
けつこう
)
な
玉
(
たま
)
を
懐
(
ふところ
)
に
持
(
も
)
つたと
云
(
い
)
ふ
誇
(
ほこ
)
りがありますので、
295
途中
(
とちう
)
に
於
(
おい
)
ていろいろの
苦
(
くる
)
しい
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
つたり、
296
妨害
(
ばうがい
)
に
出会
(
であ
)
つたりしてゐられますが、
297
やがてゲッセマネの
苑
(
その
)
まで
参
(
まゐ
)
る
時
(
とき
)
には、
298
道
(
みち
)
は
変
(
かは
)
つてゐますが、
299
一度
(
いちど
)
に
会
(
あ
)
ふ
事
(
こと
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
仕組
(
しぐ
)
んでゐられますから、
300
ゲッセマネの
苑
(
その
)
迄
(
まで
)
行
(
ゆ
)
けば、
301
スーラヤの
湖辺
(
こへん
)
で
別
(
わか
)
れた
御
(
ご
)
連中
(
れんちう
)
と
無事
(
ぶじ
)
に
面会
(
めんくわい
)
が
出来
(
でき
)
るでせう』
302
真純
(
ますみ
)
『そんなら
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
303
私
(
わたし
)
の
懐
(
ふところ
)
に
預
(
あづ
)
かつて
居
(
を
)
つて、
304
大切
(
たいせつ
)
な
宝玉
(
はうぎよく
)
を
汚
(
けが
)
してはすみませぬから、
305
何卒
(
どうぞ
)
ここで
貴女
(
あなた
)
に
預
(
あづ
)
かつて
戴
(
いただ
)
く
訳
(
わけ
)
には
参
(
まゐ
)
りますまいかな』
306
初稚
(
はつわか
)
『それは
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
りたう
厶
(
ござ
)
います。
307
あなたのお
役目
(
やくめ
)
ですから、
308
役目
(
やくめ
)
以外
(
いぐわい
)
の
事
(
こと
)
は
到底
(
たうてい
)
神界
(
しんかい
)
から
許
(
ゆる
)
されませぬ。
309
すべて
神
(
かみ
)
さまは
順序
(
じゆんじよ
)
ですから、
310
順序
(
じゆんじよ
)
を
誤
(
あやま
)
つては
天地
(
てんち
)
の
経綸
(
けいりん
)
が
破
(
やぶ
)
れます。
311
そして
女
(
をんな
)
が
玉
(
たま
)
を
抱
(
いだ
)
けば、
312
玉照姫
(
たまてるひめ
)
さまのお
母
(
かあ
)
様
(
さま
)
の
様
(
やう
)
に、
313
お
腹
(
なか
)
がふくれますから
困
(
こま
)
りますよ。
314
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
分
(
わか
)
らぬ
人間
(
にんげん
)
から、
315
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
堕落
(
だらく
)
したとみえて、
316
男
(
をとこ
)
が
出来
(
でき
)
たなどと
言
(
い
)
はれては
迷惑
(
めいわく
)
ですからなア、
317
ホヽヽヽ』
318
真純
(
ますみ
)
『お
玉
(
たま
)
さまだつて、
319
夫
(
をつと
)
なしに
結構
(
けつこう
)
なお
子
(
こ
)
さまをお
生
(
う
)
みになつた
例
(
ためし
)
も
厶
(
ござ
)
います。
320
あなたにお
子
(
こ
)
さまが
出来
(
でき
)
たつて、
321
誰
(
たれ
)
がそんな
事
(
こと
)
思
(
おも
)
ひませうか。
322
あなたのお
肉体
(
にくたい
)
は
吾々
(
われわれ
)
の
如
(
ごと
)
き
粗製
(
そせい
)
濫造品
(
らんざうひん
)
とは
違
(
ちが
)
ひますから、
323
そんな
事
(
こと
)
仰有
(
おつしや
)
らずに
御
(
お
)
預
(
あづ
)
かり
下
(
くだ
)
さいませな。
324
何
(
なん
)
だか
恐
(
おそ
)
ろしうなつて
参
(
まゐ
)
りました』
325
初稚
(
はつわか
)
『
其
(
その
)
玉
(
たま
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
りますと、
326
マナスイン
竜王
(
りうわう
)
がつけ
狙
(
ねら
)
ひますから、
327
私
(
わたし
)
は
恐
(
おそ
)
ろしう
厶
(
ござ
)
いますワ。
328
玉
(
たま
)
さへ
持
(
も
)
つてゐなければ
329
竜王
(
りうわう
)
だつて
相手
(
あひて
)
にしませぬ。
330
其
(
その
)
玉
(
たま
)
ある
故
(
ゆゑ
)
に
悪魔
(
あくま
)
が
欲
(
ほ
)
しがつて
覗
(
うかが
)
ふのですからなア』
331
真純
(
ますみ
)
『ハテ、
332
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だなア。
333
結構
(
けつこう
)
な
御用
(
ごよう
)
をさして
頂
(
いただ
)
いたと
思
(
おも
)
ひ、
334
得意
(
とくい
)
になつて
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
たのに、
335
此
(
この
)
玉
(
たま
)
がある
為
(
ため
)
に
最前
(
さいぜん
)
のやうな
苦
(
くる
)
しい
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はねばならぬとは、
336
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
因果
(
いんぐわ
)
な
役
(
やく
)
を
勤
(
つと
)
めたのだらう』
337
初稚
(
はつわか
)
『そこが
霊
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
ですから、
338
之
(
これ
)
は
何
(
ど
)
うしても
人間
(
にんげん
)
の
左右
(
さいう
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないのです。
339
まだ
聖地
(
せいち
)
までは
余程
(
よほど
)
間
(
ま
)
が
厶
(
ござ
)
いますから、
340
余程
(
よほど
)
用心
(
ようじん
)
なさいませぬと、
341
あなたの
懐
(
ふところ
)
に
玉
(
たま
)
の
光
(
ひか
)
つてるのがマナスイン
竜王
(
りうわう
)
の
目
(
め
)
に
入
(
い
)
らうものなら、
342
それこそ
引
(
ひき
)
返
(
かへ
)
して
参
(
まゐ
)
りますよ。
343
御
(
ご
)
用心
(
ようじん
)
なさいませよ、
344
ホヽヽヽヽ』
345
真純
(
ますみ
)
『モシ
先生
(
せんせい
)
、
346
何
(
ど
)
う
致
(
いた
)
しませう。
347
あなた
暫
(
しばら
)
く
御
(
お
)
預
(
あづ
)
かり
下
(
くだ
)
さいますまいか。
348
玉国別
(
たまくにわけ
)
さまと
名
(
な
)
迄
(
まで
)
ついてるのですもの。
349
ここ
迄
(
まで
)
私
(
わたし
)
が
奉持
(
ほうぢ
)
して
来
(
き
)
たのですから、
350
此処
(
ここ
)
から
預
(
あづ
)
かつて
下
(
くだ
)
さつても
宜
(
よ
)
いでせう』
351
玉国
(
たまくに
)
『ハヽア、
352
さうするとお
前
(
まへ
)
は
矢張
(
やつぱり
)
自己愛
(
じこあい
)
におちてゐるのだなア、
353
おれに
玉
(
たま
)
を
持
(
も
)
たして、
354
竜王
(
りうわう
)
の
犠牲
(
ぎせい
)
となし、
355
自分
(
じぶん
)
は
助
(
たす
)
かるといふ
狡猾
(
ずる
)
い
考
(
かんが
)
へだらう。
356
イヤそれでお
前
(
まへ
)
の
心
(
こころ
)
も
分
(
わか
)
つた。
357
ヨシ、
358
犠牲
(
ぎせい
)
になつてやらう』
359
真純
(
ますみ
)
『メヽ
滅相
(
めつさう
)
な、
360
どうしてそんな
薄情
(
はくじやう
)
な
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ひませう。
361
あなたに
持
(
も
)
つて
頂
(
いただ
)
きたいと
申
(
まを
)
したのは、
362
霊
(
みたま
)
相応
(
さうおう
)
だと
思
(
おも
)
つたからです。
363
あなたは
私
(
わたし
)
から
比
(
くら
)
ぶれば、
364
幾層倍
(
いくそうばい
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
のあるお
方
(
かた
)
、
365
それ
故
(
ゆゑ
)
玉
(
たま
)
の
光
(
ひかり
)
も
一層
(
いつそう
)
輝
(
かがや
)
きませうし、
366
あなたがお
持
(
も
)
ちになれば、
367
竜王
(
りうわう
)
も
決
(
けつ
)
して
覗
(
ねら
)
はないと
思
(
おも
)
つたからです。
368
あなたは
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
に
次
(
つ
)
いでの
生神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いますからなア』
369
玉国
(
たまくに
)
『
玉
(
たま
)
を
持
(
も
)
たぬ
私
(
わたし
)
が、
370
お
前
(
まへ
)
の
側
(
そば
)
に
居
(
を
)
つてさへ、
371
あれ
丈
(
だけ
)
竜王
(
りうわう
)
の
毒気
(
どくき
)
に
中
(
あ
)
てられたぢやないか。
372
到底
(
たうてい
)
私
(
わたし
)
の
様
(
やう
)
な
神力
(
しんりき
)
の
足
(
た
)
らぬ
者
(
もの
)
は、
373
玉
(
たま
)
を
預
(
あづ
)
かる
資格
(
しかく
)
がないのだ。
374
それだからお
前
(
まへ
)
に
持
(
も
)
つて
貰
(
もら
)
うたぢやないか』
375
真純
(
ますみ
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
結構
(
けつこう
)
な
玉
(
たま
)
の
光
(
ひかり
)
に
位
(
くらゐ
)
負
(
まけ
)
して、
376
有難
(
ありがた
)
迷惑
(
めいわく
)
だ。
377
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
之
(
これ
)
も
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
だと
思
(
おも
)
へば
結構
(
けつこう
)
です。
378
それぢや
仮令
(
たとへ
)
竜王
(
りうわう
)
が
私
(
わたし
)
を
呑
(
の
)
まうと
構
(
かま
)
ひませぬ。
379
身命
(
しんめい
)
を
賭
(
と
)
して
玉
(
たま
)
の
保護
(
ほご
)
を
致
(
いた
)
し、
380
聖地
(
せいち
)
迄
(
まで
)
参
(
まゐ
)
る
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しませう』
381
初稚
(
はつわか
)
『サア、
382
何
(
ど
)
うやら
邪気
(
じやき
)
も
去
(
さ
)
つた
様
(
やう
)
です。
383
あの
通
(
とほ
)
り
日輪
(
にちりん
)
様
(
さま
)
も
拝
(
をが
)
め
出
(
だ
)
しました。
384
ソロソロ
参
(
まゐ
)
りませう』
385
玉国
(
たまくに
)
『
真純空
(
ますみぞら
)
俄
(
にはか
)
に
曇
(
くも
)
り
四方
(
よも
)
八方
(
やも
)
は
386
黒
(
くろ
)
き
真墨
(
ますみ
)
のさまとなりぬる』
387
真純
(
ますみ
)
『
真
(
ま
)
すみとは
清
(
きよ
)
きたたえにあらずして
388
黒
(
くろ
)
き
身魂
(
みたま
)
の
真墨
(
ますみ
)
なりけり。
389
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
は
力
(
ちから
)
と
頼
(
たの
)
み
来
(
きた
)
りしを
390
恐
(
おそ
)
ろしくなりぬこれの
真玉
(
またま
)
は』
391
初稚
(
はつわか
)
『いざさらば
貴
(
うず
)
の
聖地
(
せいち
)
に
進
(
すす
)
むべし
392
玉国別
(
たまくにわけ
)
よ
玉守彦
(
たまもりひこ
)
よ』
393
かく
歌
(
うた
)
ひ
了
(
をは
)
り、
394
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はスマートに
守
(
まも
)
られて、
395
道々
(
みちみち
)
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
396
ヨルダン
河
(
がは
)
の
河辺
(
かはべ
)
を
伝
(
つた
)
うて、
397
西
(
にし
)
へ
西
(
にし
)
へと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
398
(
大正一二・七・一八
旧六・五
於祥雲閣
松村真澄
録)
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