霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二〇章 熊鷹(くまたか)〔一六七六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻 篇:第4篇 神仙魔境 よみ(新仮名遣い):しんせんまきょう
章:第20章 熊鷹 よみ(新仮名遣い):くまたか 通し章番号:1676
口述日:1923(大正12)年07月17日(旧06月4日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年4月14日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-04-07 14:03:15 文字数:4727 OBC :rm6520
愛善世界社版:218頁 八幡書店版:第11輯 687頁 修補版: 校定版:229頁 普及版:98頁 初版: ページ備考:
001 三千彦(みちひこ)、002スマナー姫(ひめ)の二人(ふたり)は、003黄昏(たそがれ)の暗(やみ)を幸(さいは)ひ、004ソツト家路(いへぢ)に帰(かへ)り、005裏口(うらぐち)から考(かんが)へてゐた。006テーラは二三十(にさんじふ)人(にん)の若(わか)い男(をとこ)を集(あつ)めて、
007テーラ『オイ、008お前(まへ)達(たち)、0081青年隊(せいねんたい)に宣告(せんこく)をしておくが、009此(この)通(とほ)り一家(いつか)断絶(だんぜつ)の厄(やく)に会(あ)ひ、010スマナーが只(ただ)一人(ひとり)残(のこ)つて居(を)つたが、011それも亦(また)何(ど)うしたものか、012行衛(ゆくゑ)が不明(ふめい)となつて了(しま)つた。013斯(か)うなるといふと、014ここの遺産(ゐさん)は法律(はふりつ)上(じやう)親戚(しんせき)の者(もの)が継(つ)がねばならぬ。015ハテ困(こま)つた事(こと)が出来(でき)たものだ。016俺(おれ)は元(もと)より寡欲(くわよく)恬淡(てんたん)だから、017親類(しんるゐ)の財産(ざいさん)を欲(ほ)しいとは夢(ゆめ)にも思(おも)はぬが、018これも天(てん)から降(ふ)つて湧(わ)いた出来事(できごと)だから、019辛抱(しんばう)して遺産(ゐさん)相続(さうぞく)する事(こと)にするから、020青年隊(せいねんたい)の御(ご)連中(れんちう)021何卒(どうぞ)俺(おれ)に同情(どうじやう)してくれ玉(たま)へ。022ホンに困(こま)つた事(こと)がイヒヽヽヽ到来(たうらい)したものだよ。023今日(けふ)お前(まへ)達(たち)に来(き)て貰(もら)うたのは、024一杯(いつぱい)祝(いはひ)……オツトドツコイ、025祝(いはひ)所(どころ)か家内中(かないぢう)全滅(ぜんめつ)したのだから、026亡(な)き人(ひと)の魂(たましひ)を慰(なぐさ)める為(ため)にタラ腹(ふく)飲(の)んで貰(もら)ひたいのだ。027俺(おれ)の拵(こしら)へた財産(ざいさん)ぢやなし、028酒(さけ)位(くらゐ)は充分(じゆうぶん)飲(の)ましてやるから、029ドシドシ飲(の)んでくれよ』
030と得意面(とくいづら)をさらしてゐる。031青年(せいねん)の中(なか)より一人(ひとり)の男(をとこ)、032テーラの前(まへ)に進(すす)み寄(よ)り、
033ターク『オイ、034テーラ、035一家(いつか)全滅(ぜんめつ)とはそら何(なに)を云(い)ふのだ。036ここにはスマナーといふ未亡人(みばうじん)が残(のこ)つてるぢやないか、037未亡人(みばうじん)のある以上(いじやう)は、038汝(きさま)の自由(じいう)にはなるまいぞ。039何程(なにほど)汝(きさま)が自由(じいう)にするといふても、040青年隊(せいねんたい)が承知(しようち)せぬのだ。041何(なん)ぞ又(また)042スマナーさまから財産(ざいさん)管理(くわんり)の依頼状(いらいじやう)でも受(う)けてるのか、043ヨモヤ汝(きさま)のやうな極道(ごくだう)には、044如何(いか)にスマナーさまが血迷(ちまよ)ふたと云(い)つても、045依頼(いらい)する筈(はず)があるまいぞ』
046テーラ『オイ、047ターク、048そら何(なに)を云(い)ふのだ。049已(すで)に已(すで)にスマナーは遺書(かきおき)をおいて家(いへ)を飛(とび)出(だ)し、050自殺(じさつ)をすると書(か)いて居(ゐ)るぞ。051今(いま)頃(ごろ)にはどつかの谷川(たにがは)へでも身(み)を投(な)げて死(し)んでゐるに違(ちがひ)ないワ。052さうすりや無論(むろん)俺(おれ)の財産(ざいさん)だ。053今日(けふ)からここの主人(あるじ)は俺(おれ)だ。054何程(なにほど)村中(むらぢう)の奴(やつ)がゴテゴテ云(い)つても、055切(き)つても切(き)れぬ親戚(しんせき)の端(はし)だから、056仕方(しかた)がないワ』
057ターク『そんなら其(その)遺書(かきおき)を見(み)せて貰(もら)はふかい。058サア皆(みな)の前(まへ)で読(よ)んでくれ』
059 テーラは懐中(ふところ)から遺書(かきおき)を一寸(ちよつと)出(だ)し、060大勢(おほぜい)の前(まへ)にふり廻(まは)し乍(なが)ら、
061テーラ『ソレ、062此(この)通(とほ)りだ』
063と、064はしくれを一寸(ちよつと)まくり、
065テーラ『オイ、066皆(みな)の連中(れんちう)、067此(この)筆跡(ひつせき)はスマナーに間違(まちがひ)あるまいがな。068どうだ069違(ちが)ふと思(おも)ふ者(もの)は違(ちが)ふと云(い)つてくれ』
070ターク『成程(なるほど)、071実(じつ)に麗(うるは)しい水茎(みづくき)の跡(あと)だ。072此(この)村(むら)にこれ丈(だけ)書(か)く者(もの)は、073スマナーさまより外(ほか)にはない筈(はず)だ』
074テーラ『そらみたか。075これで疑(うたがひ)が晴(は)れただろ、076エヘヽヽヽ。077果報(くわはう)は寝(ね)て待(ま)てだ。078一家(いつか)の家宝(かほう)も、079山林(さんりん)田畑(でんぱた)も今日(けふ)から皆(みな)、080此(この)テーラさまの所有品(しよいうひん)だ。081あゝあ、082俄(にはか)に長者(ちやうじや)になると何(なん)だか肩(かた)が重(おも)たいやうだワ。083イヤ体(からだ)が大(おほ)きくなつたやうな気(き)がし出(だ)した。084テモ扨(さて)も煩(うる)さい事(こと)だワイ。085イヒヽヽヽ』
086ターク『オイ、087其(その)遺書(かきおき)を皆(みな)の前(まへ)で一遍(いつぺん)読(よ)んで貰(もら)ひたいのだ。088何(なに)が書(か)いてあるか、089分(わか)らぬからのう』
090テーラ『一寸(ちよつと)お前(まへ)読(よ)んでくれぬか。091俺(おれ)は些(ちつ)と許(ばか)り目(め)が悪(わる)いのだから、092日(ひ)の暮(くれ)と云(い)ひ余(あま)り細(こま)かいので見(み)えにくいワ』
093ターク『ヘーン、094巧(うま)い事(こと)言(い)ふ哩(わい)。095明盲(あきめくら)の癖(くせ)に、096汝(きさま)何時(いつ)やら、097人(ひと)の前(まへ)で新聞(しんぶん)を逆様(さかさま)に読(よ)んで居(を)つたでないか。098……さうすると傍(かたはら)から、099テーラさま、100そら新聞(しんぶん)が逆様(さかさま)ぢやないかと云(い)はれた時(とき)、101汝(きさま)負(まけ)惜(をし)みを出(だ)しやがつて……ナアニお前(まへ)に見(み)せてるのだと言(い)ひやがつた位(くらゐ)だから、102こんな美(うつく)しい字(じ)が汝(きさま)に読(よ)める道理(だうり)がない。103サア玉手箱(たまてばこ)を一(ひと)つあけてやろ。104此(この)文句(もんく)に仍(よ)つて、105汝(きさま)が財産(ざいさん)を相続(さうぞく)するか、106村(むら)の共有物(きよういうぶつ)になるか、107スマナーさまの遺言(ゆいごん)通(どほり)だ』
108 テーラは稍(やや)狼狽(らうばい)の色(いろ)を浮(うか)べ、109タークの耳(みみ)のはたに口(くち)を寄(よ)せ、
110『オイ、111ターク、112俺(おれ)に都合(つがふ)の悪(わる)い所(とこ)があつたら、113そこは巧(うま)く利益(りえき)のやうに読(よ)んでくれよ。114其(その)代(かは)り成功(せいこう)したら汝(きさま)に財産(ざいさん)の十分(じふぶん)の一(いち)位(ぐらゐ)はやるからなア。115さうすりや汝(きさま)も何時(いつ)迄(まで)も難儀(なんぎ)をしてをらいでもよかろ。116其(その)金(かね)を持(も)つて洋行(やうかう)をして博士(はかせ)になつて来(こ)うとママだよ』
117と小声(こごゑ)になつて囁(ささや)く。118タークは何(なん)の頓着(とんちやく)もなく、119巻紙(まきがみ)をくり拡(ひろ)げ、
120ターク『サア、121青年隊(せいねんたい)の御(ご)連中(れんちう)、122今(いま)此(この)遺書(かきおき)を朗読(らうどく)致(いた)します。123テーラの運(うん)不運(ふうん)の之(これ)できまる所(ところ)だ』
124 大勢(おほぜい)は一同(いちどう)に手(て)を拍(う)つて『ヒヤ ヒヤ』と迎(むか)へる。
125ターク『一(ひとつ)、126妾(わらは)事(こと)如何(いか)なる前生(ぜんせい)の罪(つみ)の廻(めぐ)り来(きた)りしや、127親(おや)兄弟(きやうだい)夫(をつと)迄(まで)、128無残(むざん)な最期(さいご)を遂(と)げ、129後(あと)に淋(さび)しく一人(ひとり)空閨(くうけい)を守(まも)り、130亡(な)き両親(りやうしん)に孝養(かうやう)を尽(つく)し、131夫(をつと)に貞節(ていせつ)を守(まも)り居(を)りし所(ところ)、132人(ひと)の悪事(あくじ)を剔抉(てつけつ)し官(くわん)に訴(うつた)ふるを専業(せんげふ)とするテーラの厭(いや)な男(をとこ)、133朝(あさ)から晩(ばん)まで、134晩(ばん)から夜明(よあけ)迄(まで)、135厭(いや)らしく無体(むたい)な恋慕(れんぼ)をなし、136未亡人(みばうじん)と悔(あなど)り、137酒(さけ)を燗(かん)せよ、138肩(かた)を打(う)て、139足(あし)を揉(も)め……は未(ま)だ愚(おろ)か、140身分(みぶん)にも似合(にあ)はぬ不埒(ふらち)な事(こと)を強請(きやうせい)致(いた)し、141立(た)つてもゐても居(ゐ)られなく相(あひ)成(な)りし故(ゆゑ)、142妾(わらは)は覚悟(かくご)をきはめ、143白骨堂(はくこつだう)の前(まへ)にて自刃(じじん)致(いた)し、144夫(をつと)の後(あと)を逐(お)ふ積(つもり)に候(さふらふ)。145就(つい)ては村(むら)の人々(ひとびと)並(ならび)に青年隊(せいねんたい)の皆々(みなみな)様(さま)、146テーラの悪党(あくたう)を糾弾(きうだん)遊(あそ)ばした上(うへ)、147所(ところ)払(ばらひ)になし下(くだ)され度(たく)偏(ひとへ)に願(ねがひ)上(あげ)参(まゐ)らせ候(さふらふ)。148又(また)夫(をつと)の遺産(ゐさん)は残(のこ)らず金(かね)に代(か)へ、149白骨堂(はくこつだう)を立派(りつぱ)に御(お)建(た)て下(くだ)され、150山林(さんりん)田畑(でんぱた)は白骨堂(はくこつだう)の維持費(ゐぢひ)として村人(むらびと)に於(おい)て、151保管(ほくわん)下(くだ)さる様(やう)偏(ひとへ)に念(ねん)じ上(あ)げ参(まゐ)らせ候(さふらふ)。152誠(まこと)に誠(まこと)に厭(いや)らしきテーラの為(ため)に、153此(この)世(よ)を去(さ)る心持(こころもち)に相(あひ)成(なり)候(さふらふ)者(もの)なれば、154彼(か)れテーラは妾(わらは)の為(ため)には不倶(ふぐ)戴天(たいてん)の仇敵(きうてき)にて御座(ござ)候(さふらふ)。155仮(かり)にも村長(むらをさ)の妻(つま)たる妾(わらは)に向(むか)つて、156卑(いや)しき番太(ばんた)の身(み)を以(もつ)て恋慕(れんぼ)するなどとは実(じつ)に言語(ごんご)道断(どうだん)の振舞(ふるまひ)にて、157悔(くや)しく腹立(はらだ)たしく存(ぞん)じ候(さふらふ)。158此(この)村(むら)の古来(こらい)よりの掟(おきて)にてらし、159斯(かく)の如(ごと)き不倫常(ふりんじやう)の人物(じんぶつ)は、160一(いち)時(じ)も早(はや)く叩(たた)き払(ばらひ)になし下(くだ)さらむことを、161懇願(こんぐわん)致(いた)します。
162   仙聖郷(せんせいきやう)の御(ご)一同(いちどう)様(さま)及(および)青年隊(せいねんたい)の御(ご)一同(いちどう)様(さま)へ
163      スマナーより
164      謹言(きんげん)』
165 テーラは眉(まゆ)を逆立(さかだ)て、166面(つら)をふくらせ、167ヤケクソになつて、168尻(しり)ひきまくり、169あぐらをかいて、170悪胴(わるどう)をすゑて了(しま)つた。
171ターク『ハヽヽヽ、172オイ、173テーラ、174汝(きさま)は怪(け)しからぬ奴(やつ)だ。175今(いま)此(この)遺書(かきおき)の文句(もんく)を聞(き)いただらう。176馬鹿(ばか)な奴(やつ)だなア、177サアとつとと此処(ここ)を立(た)つて行(ゆ)け』
178テーラ『ヘン、179何(なん)と云(い)つても親族(しんぞく)の端(はし)だ。180ゴテゴテ吐(ぬか)すと、181裁判(さいばん)してでも取(と)つてみせうぞ。182お前(まへ)達(たち)はバータラ家(け)の財産(ざいさん)を占領(せんりやう)せうと思(おも)うて企(たく)んでゐるのだらう。183何(なん)と云(い)つても相続権(さうぞくけん)は俺(おれ)にあるのだから、184村中(むらぢう)と喧嘩(けんくわ)をしても美事(みごと)取(と)つて見(み)せう。185俺(おれ)は汝(きさま)の知(し)つてる通(とほ)り、186上(うへ)の役人(やくにん)に接近(せつきん)し偵羅(ていら)をやつてるのだから、187俺(おれ)の言(い)ふ事(こと)は何(なん)でもお取(とり)上(あげ)になるのだ。188汝(きさま)の云(い)ふ事(こと)はお取(とり)上(あげ)にならぬのだ。189嘘(うそ)でも何(なん)でも偵羅(ていら)といふ肩書(かたがき)に対(たい)し採用(さいよう)して下(くだ)さるのだ。190俺(おれ)の御(ご)機嫌(きげん)を損(そん)じてみよ。191汝(きさま)等(ら)がバータラ家(け)の財産(ざいさん)の横領(わうりやう)を企(くはだ)てたと訴(うつた)へてみよ。192汝(きさま)等(ら)は横領罪(わうりやうざい)とか騒擾罪(さうぜうざい)とかで、193万古(まんご)末代(まつだい)此(この)世(よ)の明(あか)りの見(み)えぬ所(ところ)へやつて了(しま)ふがそれでもよいか。194第一(だいいち)タークの奴(やつ)、195此奴(こいつ)が張本人(ちやうほんにん)だ。196首魁(しゆくわい)は死刑(しけい)に処(しよ)すといふ刑法(けいはふ)を知(し)つてるか。197お恐(おそ)れ乍(なが)らと、198此(この)テーラさまの三寸(さんずん)の舌(した)が動(うご)くが最後(さいご)、199汝(きさま)の命(いのち)は無(な)いのだから……何(ど)うだ。200それでも俺(おれ)の意志(いし)に反対(はんたい)する積(つも)りか、201エヽーン』
202ターク『どうなつと勝手(かつて)にせい。203善(ぜん)はしまひにや分(わか)るから。204悪(あく)は始(はじ)めは巧(うま)く行(ゆ)きよるが、205九分(くぶ)九厘(くりん)で化(ばけ)が現(あら)はれるからのう』
206テーラ『アハツハ、207それだから汝(きさま)お目出度(めでた)いといふのだ。208今日(こんにち)の制度(せいど)を知(し)つてるか、209今日(こんにち)の世(よ)の中(なか)は紳士(しんし)紳商(しんしやう)官吏(くわんり)の天下(てんか)だぞ。210俺(おれ)達(たち)もヤツパリ官吏(くわんり)の下(した)を働(はたら)いてる者(もの)だ。211人民(じんみん)のクセに何(なに)を云(い)ふのだ。212時勢(じせい)を知(し)らぬと云(い)つても余(あんま)りぢやないか。213何(なに)程(ほど)善(ぜん)な事(こと)でも○○のする事(こと)は打(ぶつ)潰(つぶ)して了(しま)ふのが今日(こんにち)の行(や)り方(かた)だ。214何(なに)程(ほど)悪(わる)い事(こと)でも○○がすれば善(ぜん)となつて通(とほ)るのだ。215些(ちつ)と改心(かいしん)して天下(てんか)の趨勢(すうせい)を考(かんが)へてみたら何(ど)うだい』
216 タークは青年会(せいねんくわい)の会長(くわいちやう)をしてゐる事(こと)とて、217一寸(ちよつと)気骨(きこつ)のある男(をとこ)、218中々(なかなか)テーラのおどしには容易(ようい)には乗(の)らない。
219ターク『ヘン、220バンタのザマして偉(えら)相(さう)に云(い)ふない、221冷飯(ひやめし)奴(め)が。222グヅグヅ吐(ぬか)すと、223村内(そんない)一同(いちどう)に同盟軍(どうめいぐん)を作(つく)り、224汝(きさま)に冷飯(ひやめし)を供給(きようきふ)しない事(こと)にするぞ。225何(なに)程(ほど)官吏(くわんり)の下役(したやく)だと威張(ゐば)つて居(を)つても、226糧道(りやうだう)を絶(た)たれちや駄目(だめ)だらう……。227オイ、228皆(みな)の連中(れんちう)、229心配(しんぱい)するにや及(およ)ばぬから、230此(この)テーラをスマナーさまの遺書(かきおき)の通(とほ)り、231追(お)つ払(ぱら)うて村(むら)に置(お)かないやうにせうぢやないか』
232 青年(せいねん)の中(なか)より少(すこ)し背(せ)の高(たか)い、233インターはつかつかと前(まへ)に進(すす)み来(きた)り、
234インタ『ヤア、235会長(くわいちやう)、236君(きみ)の説(せつ)には賛成(さんせい)だ。237一(いち)百姓(ひやくしやう)、238二(に)宣伝使(せんでんし)、239三(さん)商売(あきなひ)、240四(し)職人(しよくにん)、241五(ご)毘丘(びく)、242六(ろく)巫子(みこ)、243七(しち)乞食(こじき)、244八(はち)バンタ、245九(く)汚家(をげ)、246十(じふ)隠亡(おんぼ)、247と云(い)つて、248社会(しやくわい)の階級(かいきふ)は自然(しぜん)に定(き)まつて居(ゐ)るのだ。249第一(だいいち)に位(くらゐ)するお百姓(ひやくしやう)さまを掴(つか)まへて、250番太(ばんた)が何(なに)を云(い)ふのだ。251野良犬(のらいぬ)奴(め)が。252そんな脅(おど)し文句(もんく)が怖(こは)うて、253此(この)悪(あく)の世(よ)の中(なか)に、254一(いち)日(にち)だつて生活(せいくわつ)がつづけられるかい。255馬鹿(ばか)だなア』
256テーラ『喧(やかま)しい哩(わい)、257番太(ばんた)が何(なに)、258それ程(ほど)卑(いや)しいのだい。259今日(こんにち)は衡平(かうへい)運動(うんどう)さへ起(おこ)つてるぢやないか。260衡平団(かうへいだん)の勢力(せいりよく)を知(し)らぬか。261時勢(じせい)遅(おく)れの頓馬(とんま)野郎(やらう)だな。262今(いま)おれがヒユーと一(ひと)つ笛(ふえ)を吹(ふ)かうものなら、263夫(そ)れこそ捕手(とりて)が裏山(うらやま)にかくしてあるのだ。264何百(なんびやく)人(にん)といふ程(ほど)やつて来(き)て、265村(むら)の奴(やつ)ア一人(ひとり)も残(のこ)らず、266牢(らう)へ打(ぶ)ち込(こ)んで了(しま)ふのだから、267それでも可(い)いか。268仙聖郷(せんせいきやう)の長者(ちやうじや)の財産(ざいさん)は、269百(ひやく)人(にん)や千(せん)人(にん)の家族(かぞく)が一生(いつしやう)遊(あそ)んで暮(くら)しても尽(つ)きない程(ほど)あるのだから、270俺(おれ)達(たち)の上官(じやうくわん)に一寸(ちよつと)申(まをし)上(あ)げ、271財産(ざいさん)没収(ぼつしう)の準備(じゆんび)がしてあるのだ。272マゴマゴしてると汝(きさま)たちの身辺(しんぺん)が危(あぶ)ないぞ。273サア笛(ふえ)を吹(ふ)かうか、274笛(ふえ)を吹(ふ)いたが最後(さいご)、275汝(きさま)たちの命(いのち)は風前(ふうぜん)の燈火(ともしび)だ。276テモさても憐(あはれ)な者(もの)だ哩(わい)。277アツハツハ』
278ターク『オイ青年隊(せいねんたい)、279此奴(こいつ)ア、280うつかりして居(を)れぬぞ。281皆(みな)の中(うち)から四五(しご)人(にん)手分(てわ)けして、282村中(むらぢう)の中老組(ちうらうぐみ)を招(よ)んで来(き)てくれ。283そして各自(めんめ)に得物(えもの)を携(たづさ)へて来(こ)いと言(い)つてくれ。284そして後(あと)に残(のこ)つた青年(せいねん)は各自(めんめ)に鍬(くは)なり、285手斧(ちよんの)なり、286鎌(かま)なり、287鶴嘴(つるばし)なり、288百姓(ひやくしやう)道具(だうぐ)を取(と)つて用心(ようじん)せい。289此奴(こいつ)の事(こと)だから、290どんな事(こと)してるか分(わか)らぬから、291準備(じゆんび)をしておかなならぬからのう』
292と大声(おほごゑ)に怒鳴(どな)り出(だ)した。293気(き)の利(き)いた青年(せいねん)は跣足(はだし)で裏口(うらぐち)から飛(とび)出(だ)し、294村中(むらぢう)の中老組(ちうらうぐみ)を呼(よび)集(あつ)めにいつた。295テーラは懐中(ふところ)から呼子(よびこ)の笛(ふえ)を取(とり)出(だ)し、296切(しき)りにヒヨロ ヒヨロ ヒヨロと吹(ふき)立(た)てる。297忽(たちま)ち数百(すうひやく)人(にん)の足音(あしおと)、298体(たい)を固(かた)めた黒装束(くろしやうぞく)の捕手(とりて)は、299十手(じつて)、300叉又(さしまた)、301鎌(かま)、302槍(やり)なんど手(て)ん手(で)に携(たづさ)へ、303バラバラと飛(とび)込(こ)んで来(き)た。
304テーラ『これはこれはお役人(やくにん)様(さま)、305能(よ)う来(き)て下(くだ)さいました。306ここに居(ゐ)る奴(やつ)等(ら)は当家(たうけ)の財産(ざいさん)を横領(わうりやう)せうと致(いた)し、307今(いま)斯(こ)の通(とほ)り、308数十(すうじふ)名(めい)を以(もつ)て押寄(おしよ)せて来(き)たのです。309つまり騒擾罪(さうぜうざい)ですから、310一番(いちばん)にターク、311インターの首魁(しゆくわい)をフン縛(じば)つて下(くだ)さいませ。312親戚(しんせき)の私(わたし)が何(ど)うしても遺産(ゐさん)を相続(さうぞく)すべき権利(けんり)が厶(ござ)いますから、313巧(うま)く手(て)に入(い)れば、314お役人(やくにん)御(ご)一同(いちどう)へ分配(ぶんぱい)致(いた)しますからなア、315決(けつ)してお約束(やくそく)は違(たが)へませぬから、316御(ご)安心(あんしん)の上(うへ)何卒(どうぞ)此奴(こいつ)等(ら)をおくくり下(くだ)さいませ』
317 捕手(とりて)の頭(かしら)キングレスは威丈高(ゐたけだか)になり、
318『オイ、319当家(たうけ)は一人(ひとり)も残(のこ)らず不慮(ふりよ)の炎難(さいなん)にかかつて滅亡(めつぼう)し、320憂愁(いうしう)の空気(くうき)が漂(ただよ)うてるにも係(かか)はらず、321其(その)方(はう)は不都合(ふつがふ)千万(せんばん)にも当家(たうけ)の財産(ざいさん)を横領(わうりやう)せむと押寄(おしよ)せて来(き)たのか、322返答(へんたふ)次第(しだい)に依(よ)つては容赦(ようしや)は致(いた)さぬが何(ど)うだ。323当家(たうけ)は一人(ひとり)も残(のこ)らず滅亡(めつぼう)したのだから、324親類(しんるゐ)関係(くわんけい)のテーラが遺産(ゐさん)相続(さうぞく)するのは法律(はふりつ)の許(ゆる)す所(ところ)だ。325不都合(ふつがふ)千万(せんばん)な、326マゴマゴしてると皆(みな)捕縛(ほばく)するぞ』
327ターク『モシ、328キングレスさまとやら、329万々一(まんまんいち)、330未亡人(みばうじん)のスマナーさまが生(いき)残(のこ)つて居(を)つたら何(ど)うなりますか。331それでも遺産(ゐさん)をテーラが相続(さうぞく)せねばならぬのですか。332左様(さやう)な法律(はふりつ)は未(ま)だ聞(き)いた事(こと)は厶(ござ)いませぬが…』
333キング『きまつた事(こと)だ。334もし未亡人(みばうじん)が居(を)るとすれば、335却(かへつ)てテーラが財産(ざいさん)横領(わうりやう)を企(くはだ)てた事(こと)になり、336大罪人(だいざいにん)となる所(ところ)だ。337併(しか)し乍(なが)ら今(いま)軒下(のきした)に隠(かく)れて聞(き)いて居(を)れば、338夫(をつと)の後(あと)を逐(お)うて自殺(じさつ)をすると申(まを)し、339書置(かきおき)まで残(のこ)しておいたぢやないか』
340ターク『成程(なるほど)、341夫(そ)れには間違(まちがひ)厶(ござ)いませぬが、342もしも死(し)なずに居(を)つたら、343矢張(やつぱり)、344テーラの物(もの)にはなりますまいな』
345キング『無論(むろん)の事(こと)だ』
346テーラ『アハヽヽヽ、347何(なん)と云(い)つても運(うん)が向(む)いて来(き)たのだから……オイ、348ターク、349インター、350駄目(だめ)だよ。351神妙(しんめう)に捕縛(ほばく)されるか。352但(ただ)しは茲(ここ)であやまるなら、353俺(おれ)も村(むら)のよしみで許(ゆる)して貰(もら)うてやる。354何(ど)うだ。355返答(へんたふ)を早(はや)く致(いた)せ』
356 此(この)間(あひだ)に五六(ごろく)人(にん)の青年(せいねん)は中老(ちうらう)をかり集(あつ)めると云(い)つて出(で)たのは、357其(その)実(じつ)白骨堂(はくこつだう)のあたりにまだスマナーが生(い)きてうろついて居(を)りはせぬか、358それさへ居(を)ればテーラの鼻(はな)をあかしてやるのに好都合(かうつがふ)だと、359目(め)ひき袖(そで)ひき捜索(さうさく)に出(で)たのであつた。360かかる所(ところ)へ幽(かす)かな女(をんな)の歌(うた)ふ声(こゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。
361(大正一二・七・一七 旧六・四 於祥雲閣 松村真澄録)
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