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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第65巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 盗風賊雨
第1章 感謝組
第2章 古峽の山
第3章 岩侠
第4章 不聞銃
第5章 独許貧
第6章 噴火口
第7章 反鱗
第2篇 地異転変
第8章 異心泥信
第9章 劇流
第10章 赤酒の声
第11章 大笑裡
第12章 天恵
第3篇 虎熊惨状
第13章 隔世談
第14章 山川動乱
第15章 饅頭塚
第16章 泥足坊
第17章 山颪
第4篇 神仙魔境
第18章 白骨堂
第19章 谿の途
第20章 熊鷹
第21章 仙聖郷
第22章 均霑
第23章 義侠
第5篇 讃歌応山
第24章 危母玉
第25章 道歌
第26章 七福神
余白歌
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霊界物語
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山河草木(第61~72巻、入蒙記)
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第65巻(辰の巻)
> 第2篇 地異転変 > 第8章 異心泥信
<<< 反鱗
(B)
(N)
劇流 >>>
第八章
異心
(
いしん
)
泥信
(
でいしん
)
〔一六六四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
篇:
第2篇 地異転変
よみ(新仮名遣い):
ちいてんぺん
章:
第8章 異心泥信
よみ(新仮名遣い):
いしんでいしん
通し章番号:
1664
口述日:
1923(大正12)年07月16日(旧06月3日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年4月14日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6508
愛善世界社版:
93頁
八幡書店版:
第11輯 643頁
修補版:
校定版:
97頁
普及版:
44頁
初版:
ページ備考:
001
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
はベル、
002
バット、
003
カークス、
004
ベースの
四
(
よ
)
人
(
にん
)
と
共
(
とも
)
に、
005
うす
暗
(
ぐら
)
い
石
(
いし
)
の
牢獄
(
らうごく
)
に
投
(
なげ
)
込
(
こ
)
まれ、
006
セールの
厳命
(
げんめい
)
に
仍
(
よ
)
りて、
007
飲食物
(
いんしよくぶつ
)
を
断
(
た
)
たれて
了
(
しま
)
つた。
008
されど
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
にて
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
に
帰順
(
きじゆん
)
してゐる
牢番
(
らうばん
)
のヤク、
009
エールは
010
いろいろと
苦心
(
くしん
)
して
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
為
(
ため
)
に
飲食
(
いんしよく
)
を
供給
(
きようきふ
)
し、
011
あらむ
限
(
かぎ
)
りの
便宜
(
べんぎ
)
を
与
(
あた
)
へた。
012
親分
(
おやぶん
)
のセールはヤク、
013
エールを
深
(
ふか
)
く
信任
(
しんにん
)
し、
014
一度
(
いちど
)
も
牢獄
(
らうごく
)
を
見舞
(
みまひ
)
に
来
(
こ
)
なかつた。
015
そして
自分
(
じぶん
)
の
大将軍
(
だいしやうぐん
)
と
仰
(
あふ
)
いでゐた
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
には
何
(
なん
)
だか
恥
(
はづか
)
しいやうな、
016
恐
(
おそ
)
ろしいやうな
気
(
き
)
がして、
017
会
(
あ
)
ふ
事
(
こと
)
を
欲
(
ほつ
)
しなかつた。
018
先
(
ま
)
づ
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
の
一隊
(
いつたい
)
は
両人
(
りやうにん
)
に
任
(
まか
)
しておき、
019
他
(
た
)
の
子分
(
こぶん
)
を
四方
(
しはう
)
に
派遣
(
はけん
)
し、
020
財物
(
ざいぶつ
)
の
収集
(
しうしふ
)
に
全力
(
ぜんりよく
)
を
注
(
そそ
)
ぐ
一方
(
いつぱう
)
、
021
自分
(
じぶん
)
は
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
を、
022
何
(
なん
)
とかして
自分
(
じぶん
)
の
者
(
もの
)
にせうと、
023
それのみに、
024
現
(
うつつ
)
をぬかしてゐた。
025
ヤク、
026
エールの
両人
(
りやうにん
)
は、
027
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
とブラヷーダ、
028
デビス
姫
(
ひめ
)
の
間
(
あひだ
)
の、
029
郵便夫
(
ゆうびんふ
)
の
様
(
やう
)
な
役
(
やく
)
を
密
(
ひそ
)
かに
勤
(
つと
)
めてゐた。
030
牢獄
(
らうごく
)
の
中
(
なか
)
では、
031
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
を
真中
(
まんなか
)
に、
032
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
改心組
(
かいしんぐみ
)
が、
033
いろいろと
小声
(
こごゑ
)
で
話
(
はな
)
し
合
(
あ
)
つてゐる。
034
ベル『オイ、
035
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
何
(
なん
)
だかチツと
許
(
ばか
)
り
不安
(
ふあん
)
な
気分
(
きぶん
)
になつたぢやないか。
036
身
(
み
)
の
自由
(
じいう
)
を
縛
(
ばく
)
された
籠
(
かご
)
の
鳥
(
とり
)
も
同然
(
どうぜん
)
、
037
生殺
(
せいさつ
)
の
権利
(
けんり
)
を
親分
(
おやぶん
)
に
握
(
にぎ
)
られてゐるのだから、
038
何程
(
なにほど
)
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
様
(
さま
)
に
法力
(
ほふりき
)
が
有
(
あ
)
ると
云
(
い
)
つても、
039
此
(
この
)
牢獄
(
らうごく
)
を
経文
(
きやうもん
)
の
力
(
ちから
)
に、
040
打
(
うち
)
破
(
やぶ
)
つて
下
(
くだ
)
さらぬ
以上
(
いじやう
)
は、
041
険呑
(
けんのん
)
な
物
(
もの
)
だないか。
042
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
様
(
さま
)
は
平気
(
へいき
)
の
平左
(
へいざ
)
で、
043
心身
(
しんしん
)
の
休養
(
きうやう
)
だとか
云
(
い
)
つて、
044
温泉
(
をんせん
)
にでも
入
(
はい
)
つた
様
(
やう
)
な
気分
(
きぶん
)
で、
045
前後
(
ぜんご
)
不覚
(
ふかく
)
に
眠
(
ねむ
)
つて
厶
(
ござ
)
るが、
046
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
ヤ
何
(
ど
)
うも、
047
そんな
気
(
き
)
になれないわ。
048
お
前
(
まへ
)
等
(
たち
)
、
049
何
(
なん
)
とか
工夫
(
くふう
)
をこらして、
050
ここを
飛
(
とび
)
出
(
だ
)
す
考
(
かんが
)
へはないか』
051
バット『
何
(
なに
)
心配
(
しんぱい
)
するな。
052
サアといへば、
053
ヤク、
054
エールが
牢番
(
らうばん
)
してるから、
055
何時
(
いつ
)
でも
開
(
あ
)
けてくれるよ。
056
今
(
いま
)
彼奴
(
あいつ
)
が
開
(
あ
)
けないのは
深
(
ふか
)
い
思案
(
しあん
)
があつての
事
(
こと
)
だ。
057
何
(
なに
)
しろこれ
丈
(
だけ
)
の
人数
(
にんず
)
が
集
(
あつ
)
まつて
居
(
ゐ
)
るから、
058
下手
(
へた
)
な
事
(
こと
)
をやると
虻蜂
(
あぶはち
)
とらずになつて
了
(
しま
)
ふ。
059
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
様
(
さま
)
はそこを
見込
(
みこ
)
んで、
060
平気
(
へいき
)
で
寝
(
ね
)
てゐらつしやるのだ。
061
何事
(
なにごと
)
も
惟神
(
かむながら
)
に
任
(
まか
)
して
置
(
お
)
くが
一番
(
いちばん
)
安全
(
あんぜん
)
だ』
062
ベル『それだと
云
(
い
)
つて、
063
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
は
分
(
わか
)
らないよ。
064
ヤク、
065
エールの
両人
(
りやうにん
)
が、
066
若
(
も
)
しも
心機
(
しんき
)
一転
(
いつてん
)
して
親分
(
おやぶん
)
の
方
(
はう
)
へ
肩
(
かた
)
を
持
(
も
)
たうものなら、
067
それこそ
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は、
068
箒
(
はうき
)
で
押
(
おさ
)
へられた
蝶々
(
てふてふ
)
のやうなものだ。
069
モウ
少
(
すこ
)
し
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
様
(
さま
)
に
法力
(
ほふりき
)
があると、
070
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
安心
(
あんしん
)
だけれどなア』
071
バット『ナアニ、
072
構
(
かま
)
ふものかい。
073
マア
安心
(
あんしん
)
せい。
074
ここへ
来
(
き
)
てから、
075
まだ
一夜
(
いちや
)
逗留
(
とうりう
)
した
丈
(
だけ
)
ぢやないか。
076
仮令
(
たとへ
)
三日
(
みつか
)
や
四日
(
よつか
)
位
(
くらゐ
)
、
077
ここへ
入
(
はい
)
つた
所
(
ところ
)
で、
078
一片
(
ひときれ
)
のパンを
食
(
く
)
はなくつても
辛抱
(
しんばう
)
は
出来
(
でき
)
るよ。
079
先
(
ま
)
づ
楽隠居
(
らくいんきよ
)
だと
思
(
おも
)
つて、
080
体
(
からだ
)
を
休養
(
きうやう
)
させ、
081
愈
(
いよいよ
)
となつたら
岩窟
(
いはや
)
退治
(
たいぢ
)
をやるのだな。
082
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も、
083
軍人
(
ぐんじん
)
上
(
あが
)
りで、
084
皆
(
みな
)
手
(
て
)
が
利
(
き
)
いてるから、
085
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
四
(
よ
)
人
(
にん
)
や
五
(
ご
)
人
(
にん
)
で
暴
(
あば
)
れたつて
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いからな』
086
ベル『オイ、
087
バット、
088
汝
(
きさま
)
、
089
さう
楽観
(
らくくわん
)
してゐるが、
090
寸善
(
すんぜん
)
尺魔
(
しやくま
)
と
言
(
い
)
つて、
091
吾々
(
われわれ
)
は
死
(
し
)
の
魔
(
ま
)
の
手
(
て
)
に
捉
(
とら
)
へられてゐるのだから、
092
些
(
ちつ
)
とは
尻
(
しり
)
へ
手
(
て
)
をまはして
置
(
お
)
かねばなるまいぞ。
093
ナア、
094
カークス、
095
ベース、
096
お
前
(
まへ
)
は
何
(
ど
)
う
思
(
おも
)
ふか』
097
カークス『
何事
(
なにごと
)
も
俺
(
おれ
)
たちは
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
任
(
まか
)
せしてゐるのだ。
098
それよりも
御
(
ご
)
祈念
(
きねん
)
をするが
一等
(
いつとう
)
だなア』
099
ベース『そりやさうだ。
100
カークスの
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
101
此
(
この
)
天地間
(
てんちかん
)
はすべて
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
意志
(
いし
)
の
儘
(
まま
)
だから、
102
何程
(
なにほど
)
俺
(
おれ
)
たちが
騒
(
さわ
)
いだつて
駄目
(
だめ
)
だ。
103
斯
(
か
)
うして
牢獄
(
らうごく
)
へ
蟄居
(
ちつきよ
)
してゐるのもセールがしたのでない。
104
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
深遠
(
しんゑん
)
な
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
に
仍
(
よ
)
つて、
105
修養
(
しうやう
)
させられてゐるのだ。
106
余
(
あま
)
りクヨクヨ
思
(
おも
)
ふな』
107
ベル『
俺
(
おれ
)
もう
何
(
なん
)
だか
信仰
(
しんかう
)
の
土台
(
どだい
)
がグラついて
来
(
き
)
たやうだ。
108
オイ、
109
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
○○を○○して、
110
○○の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
取
(
と
)
り、
111
牢屋
(
らうや
)
の
苦
(
く
)
を
遁
(
のが
)
れて
再
(
ふたたび
)
○○に
逆転
(
ぎやくてん
)
したら
何
(
ど
)
うだ。
112
何程
(
なにほど
)
世
(
よ
)
の
為
(
ため
)
だとか、
113
死後
(
しご
)
の
生活
(
せいくわつ
)
の
為
(
ため
)
だとか
云
(
い
)
つても、
114
忽
(
たちま
)
ち
現在
(
げんざい
)
がやりきれないぢやないか。
115
末
(
すゑ
)
の
百
(
ひやく
)
より
今
(
いま
)
の
五十
(
ごじふ
)
だ。
116
何程
(
なにほど
)
死後
(
しご
)
の
世界
(
せかい
)
があると
云
(
い
)
つたつて、
117
雲
(
くも
)
を
掴
(
つか
)
むやうな
話
(
はなし
)
だからのう』
118
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
は、
119
ベルが
自分
(
じぶん
)
を
殺害
(
さつがい
)
し、
120
セールに
裏返
(
うらがへ
)
らうといふ
意味
(
いみ
)
を
仄
(
ほのめ
)
かしてゐるのを、
121
鼾
(
いびき
)
をかいてゐる
振
(
ふり
)
して
聞
(
き
)
いてゐた。
122
バット『オイ、
123
ベル、
124
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
吐
(
ぬか
)
すと、
125
俺
(
おれ
)
ヤもう
了見
(
れうけん
)
はせぬぞ。
126
汝
(
きさま
)
を○○して、
127
○○へ○○するが
何
(
ど
)
うだ』
128
ベル『ヤ、
129
コリヤ
一
(
ひと
)
つお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
心
(
こころ
)
を
引
(
ひ
)
いて
見
(
み
)
た
丈
(
だけ
)
だ。
130
誰
(
たれ
)
がそんな
勿体
(
もつたい
)
ない
事
(
こと
)
をするものかい。
131
これでお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
意志
(
いし
)
も
分
(
わか
)
つて
俺
(
おれ
)
も
安心
(
あんしん
)
したのだ』
132
と
俄
(
にはか
)
に
空
(
そら
)
トボケてみせる。
133
カークス、
134
ベースは
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
を
揺
(
ゆす
)
り
起
(
おこ
)
した。
135
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
は
寝
(
ね
)
むた
相
(
さう
)
な
顔
(
かほ
)
をして
起
(
おき
)
直
(
なほ
)
り、
136
拳
(
こぶし
)
を
握
(
にぎ
)
つて
上
(
うへ
)
の
方
(
はう
)
へグツと
突
(
つき
)
出
(
だ
)
し、
137
「あゝあ」と
大欠伸
(
おほあくび
)
を
無雑作
(
むざふさ
)
にし
乍
(
なが
)
ら、
138
治道
(
ちだう
)
『アハヽヽヽ、
139
あ、
140
夢
(
ゆめ
)
だつたか。
141
ベルの
奴
(
やつ
)
、
142
此
(
この
)
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
を○○して○○の
機嫌
(
きげん
)
をとり、
143
元
(
もと
)
の○○へ
逆転
(
ぎやくてん
)
しよつたと
思
(
おも
)
へば、
144
ヤツパリ
夢
(
ゆめ
)
だつたワイ。
145
アハヽヽヽヽ。
146
どうも
人間
(
にんげん
)
の
心
(
こころ
)
といふものは
当
(
あて
)
にならないものだなア。
147
一切
(
いつさい
)
の
欲望
(
よくばう
)
を
捨
(
す
)
て、
148
命
(
いのち
)
迄
(
まで
)
すてた
此
(
この
)
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
でさへも、
149
矢張
(
やつぱり
)
どつかに、
150
命
(
いのち
)
が
惜
(
をし
)
いと
云
(
い
)
ふ
副守
(
ふくしゆ
)
が
残
(
のこ
)
つてゐると
見
(
み
)
えて、
151
こんな
怪
(
け
)
ツ
体
(
たい
)
な
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たのだなア』
152
カークス『モシ
治道
(
ちだう
)
様
(
さま
)
、
153
ソリヤ
夢
(
ゆめ
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬ。
154
現
(
げん
)
にベルの
奴
(
やつ
)
、
155
貴方
(
あなた
)
が
熟睡
(
じゆくすゐ
)
遊
(
あそ
)
ばしたのを
奇貨
(
きくわ
)
とし、
156
あなたに
対
(
たい
)
し、
157
叛逆
(
はんぎやく
)
を
企
(
くはだ
)
てようとしたのですよ。
158
用心
(
ようじん
)
なさいませ』
159
治道
(
ちだう
)
『ハヽヽヽ
猪口才
(
ちよこざい
)
千万
(
せんばん
)
な、
160
蚯蚓
(
みみづ
)
のやうな
魂
(
たましひ
)
で
蛟竜
(
かうりう
)
の
身辺
(
しんぺん
)
を
窺
(
うかが
)
ふとは、
161
実
(
じつ
)
に
身
(
み
)
の
程
(
ほど
)
知
(
し
)
らずだなア。
162
ベルも
亦
(
また
)
此処
(
ここ
)
へ
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
てから、
163
臆病神
(
おくびやうがみ
)
に
取
(
と
)
つ
付
(
つ
)
かれよつたとみえる。
164
ても
扨
(
さ
)
ても
憐
(
あはれ
)
むべき
代物
(
しろもの
)
だな。
165
オイ、
166
ベル、
167
何
(
ど
)
うだ。
168
私
(
わし
)
の
命
(
いのち
)
が
取
(
と
)
りたいか。
169
とりたくば
幾
(
いく
)
らでも
取
(
と
)
らしてやる。
170
さあモウ
一寝入
(
ひとねい
)
りするから、
171
其
(
その
)
間
(
ま
)
に
私
(
わし
)
の
首
(
くび
)
でもかいて、
172
セールの
親分
(
おやぶん
)
に
身
(
み
)
の
潔白
(
けつぱく
)
を
示
(
しめ
)
し、
173
再
(
ふたたび
)
泥棒
(
どろばう
)
の
親分
(
おやぶん
)
に
使
(
つか
)
つて
貰
(
もら
)
ふがよからう。
174
遠慮
(
ゑんりよ
)
はいらぬ。
175
お
前
(
まへ
)
に
首
(
くび
)
をかかれて
天国行
(
てんごくゆき
)
をするのも、
176
一
(
ひと
)
つは
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
思召
(
おぼしめし
)
かも
知
(
し
)
れない』
177
ベル『メヽ
滅相
(
めつさう
)
もない。
178
勿体
(
もつたい
)
ない。
179
何
(
ど
)
うしてそんな
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませうか。
180
どうぞ
私
(
わたし
)
の
赤心
(
まごころ
)
を
諒解
(
りやうかい
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
181
治道
(
ちだう
)
『
赤心
(
まごころ
)
の
マ
は
悪魔
(
あくま
)
のマぢやないか、
182
誠
(
まこと
)
のマもあれば、
183
間男
(
まをとこ
)
のマもあり、
184
閻魔
(
えんま
)
のマもあり、
185
悪魔
(
あくま
)
のマもあり、
186
マといふ
者
(
もの
)
は
何事
(
なにごと
)
にも
附
(
つき
)
添
(
そ
)
ふものだから……、
187
オイ
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
者
(
もの
)
、
188
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けよ。
189
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
と
同居
(
どうきよ
)
してゐるやうな
物
(
もの
)
だからのう』
190
かかる
所
(
ところ
)
へヤク、
191
エールは
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
の
泥棒
(
どろばう
)
と
共
(
とも
)
に、
192
牢獄
(
らうごく
)
を
検分
(
けんぶん
)
がてらやつて
来
(
き
)
た。
193
ヤク『コリヤコリヤ、
194
静
(
しづか
)
に
致
(
いた
)
さぬか、
195
今
(
いま
)
何
(
なに
)
を
囀
(
さへづ
)
つてゐたか』
196
ベル『ハイ、
197
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
始
(
はじ
)
め
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
が、
198
此
(
この
)
ベルを○○せうと
云
(
い
)
ふのです。
199
どうぞ
私
(
わたし
)
を
別牢
(
べつらう
)
へ
入
(
い
)
れて
下
(
くだ
)
さいな。
200
険呑
(
けんのん
)
で
堪
(
たま
)
りませぬから……』
201
ヤク『ハツハヽヽヽ、
202
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
命
(
いのち
)
は
旦夕
(
たんせき
)
に
迫
(
せま
)
つてゐるのだ。
203
親分
(
おやぶん
)
に
殺
(
ころ
)
されるか、
204
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
に
殺
(
ころ
)
されるか、
205
どつちみち
殺
(
ころ
)
される
身分
(
みぶん
)
だ。
206
マア
安心
(
あんしん
)
して
四人
(
よつたり
)
の
連中
(
れんちう
)
から、
207
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
苛
(
いぢ
)
められたがよからうぞ。
208
オツホヽヽヽ。
209
汝
(
きさま
)
は
此
(
この
)
中
(
なか
)
でも
一番
(
いちばん
)
悪党
(
あくたう
)
だからのう』
210
ベル『モシ、
211
ヤクさま、
212
私
(
わたし
)
は
決
(
けつ
)
してそんな
悪人
(
あくにん
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬ。
213
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
に
改心
(
かいしん
)
したと
見
(
み
)
せかけ、
214
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
秘密
(
ひみつ
)
を
探
(
さぐ
)
つて
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
に
報告
(
はうこく
)
する
為
(
ため
)
、
215
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
化
(
ば
)
けてゐたのですから、
216
どうぞ
親分
(
おやぶん
)
にさう
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
217
カークス『ハツハヽヽ、
218
本当
(
ほんたう
)
に
此奴
(
こいつ
)
ア
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
219
猫
(
ねこ
)
の
目
(
め
)
程
(
ほど
)
クレクレとかへる
奴
(
やつ
)
だから、
220
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
様
(
さま
)
を
暗殺
(
あんさつ
)
しようとしよつた
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
221
こんな
者
(
もの
)
が
同
(
おな
)
じ
牢獄
(
らうごく
)
の
中
(
なか
)
に
居
(
を
)
ると、
222
ゆつくり
寝
(
ね
)
る
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ない。
223
もし、
224
ヤクさま、
225
どうかベルを
請求
(
せいきう
)
通
(
どほり
)
、
226
別室
(
べつしつ
)
に
置
(
お
)
いて
下
(
くだ
)
さいな』
227
ヤク『ヨシヨシ、
228
こんな
奴
(
やつ
)
を
一所
(
いつしよ
)
に
置
(
お
)
いておくと
為
(
ため
)
になるまい。
229
……
又
(
また
)
俺
(
おれ
)
の
都合
(
つがふ
)
も
悪
(
わる
)
い……』
230
と
小声
(
こごゑ
)
に
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
錠前
(
ぢやうまへ
)
を
外
(
はづ
)
し、
231
ベルの
手
(
て
)
を
引
(
ひき
)
立
(
た
)
てて、
232
最
(
もつと
)
も
暗
(
くら
)
い
深
(
ふか
)
い
岩壁
(
がんぺき
)
で
囲
(
かこ
)
んだ
牢獄
(
らうごく
)
へ
打
(
ぶ
)
ち
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
233
ヤク、
234
エールの
両人
(
りやうにん
)
は、
235
ベルの
為
(
ため
)
に
自分
(
じぶん
)
等
(
ら
)
の
計画
(
けいくわく
)
の
暴露
(
ばくろ
)
せむ
事
(
こと
)
を
恐
(
おそ
)
れたからである。
236
ヤクは
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
盗人
(
ぬすびと
)
と
共
(
とも
)
にベルを
引
(
ひき
)
立
(
た
)
てて
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
去
(
さ
)
つた。
237
跡
(
あと
)
にエールは
牢番
(
らうばん
)
として
一人
(
ひとり
)
残
(
のこ
)
つてゐた。
238
治道
(
ちだう
)
『オイ、
239
エール、
240
岩窟
(
いはや
)
の
様子
(
やうす
)
は
何
(
ど
)
うだ。
241
セールは
今
(
いま
)
何
(
なに
)
をしてゐるか』
242
エールは
小声
(
こごゑ
)
になつて、
243
エール『ハイ、
244
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
に
現
(
うつつ
)
をぬかし、
245
涎
(
よだれ
)
をくつて
居
(
を
)
りますが、
246
肝心
(
かんじん
)
の
女
(
をんな
)
が
悪口
(
わるくち
)
計
(
ばか
)
り
言
(
い
)
つて
応
(
おう
)
じないものですから、
247
泥坊
(
どろばう
)
商売
(
しやうばい
)
はそつち
退
(
の
)
けにして、
248
頭
(
あたま
)
を
悩
(
なや
)
めて
居
(
を
)
ります。
249
それはそれは
見
(
み
)
られた
態
(
ざま
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬワ』
250
治道
(
ちだう
)
『ハヽヽ、
251
あの
洒
(
しや
)
ツ
面
(
つら
)
では
女
(
をんな
)
にはもてまい。
252
困
(
こま
)
つた
奴
(
やつ
)
だなア。
253
そして
其
(
その
)
女
(
をんな
)
といふのは
何処
(
どこ
)
の
者
(
もの
)
だ』
254
エール『
何
(
なん
)
でも
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
では
言
(
い
)
へませぬが、
255
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
です』
256
治道
(
ちだう
)
『ハテなア、
257
そして
其
(
その
)
名
(
な
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つたか』
258
エール『ハイ、
259
何
(
なん
)
でもブラブラ
婆
(
ば
)
アさまだとか、
260
エベスだとか
大黒
(
だいこく
)
だとか
聞
(
き
)
きました。
261
随分
(
ずいぶん
)
美人
(
びじん
)
ですよ』
262
治道
(
ちだう
)
『ハア、
263
それではブラヷーダにデビス
姫
(
ひめ
)
の
事
(
こと
)
だらう。
264
ア、
265
其奴
(
そいつ
)
ア
可哀相
(
かあいさう
)
だ。
266
お
前
(
まへ
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だが、
267
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
が
此処
(
ここ
)
に
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を、
268
何
(
なん
)
とかして
知
(
し
)
らして
呉
(
く
)
れまいか』
269
エール『ハイ、
270
機会
(
きくわい
)
を
考
(
かんが
)
へて
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げませう』
271
治道
(
ちだう
)
『
屹度
(
きつと
)
頼
(
たの
)
むよ。
272
私
(
わし
)
が
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
で
手紙
(
てがみ
)
を
書
(
か
)
くから、
273
之
(
これ
)
をソツと
渡
(
わた
)
してくれ』
274
エール『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
275
治道
(
ちだう
)
『
何
(
なに
)
か……
筆
(
ふで
)
と
墨
(
すみ
)
と
紙
(
かみ
)
を
貸
(
か
)
して
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いものだな』
276
エール『
畏
(
かしこ
)
まりました。
277
暫時
(
しばらく
)
お
待
(
ま
)
ち
下
(
くだ
)
さいませ』
278
と
四辺
(
あたり
)
を
窺
(
うかが
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
279
何処
(
どこ
)
からか
筆紙墨
(
ひつしぼく
)
を
用意
(
ようい
)
して
来
(
き
)
た。
280
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
はバットに
墨
(
すみ
)
をすらせ、
281
何事
(
なにごと
)
かスラスラと
書
(
か
)
き
認
(
したた
)
め
終
(
をは
)
り、
282
治道
(
ちだう
)
『サア、
283
エール、
284
此
(
この
)
二通
(
につう
)
の
手紙
(
てがみ
)
を
一通
(
いつつう
)
づつ
両人
(
りやうにん
)
にソツと
渡
(
わた
)
してくれ。
285
どちらでも
構
(
かま
)
はぬ。
286
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
が
書
(
か
)
いてあるのだから』
287
エール『ハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
288
と
手紙
(
てがみ
)
を
懐
(
ふところ
)
に
捻
(
ねぢ
)
込
(
こ
)
み、
289
いろいろ
苦心
(
くしん
)
して、
290
二人
(
ふたり
)
の
牢獄
(
らうごく
)
の
前
(
まへ
)
に
窺
(
うかが
)
ひ
寄
(
よ
)
つた。
291
見
(
み
)
れば
暗
(
くら
)
がりに
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
が
立
(
た
)
つてゐる。
292
男
(
をとこ
)
『
誰
(
たれ
)
だ。
293
何
(
なに
)
しに
来
(
き
)
たのだ。
294
ここへは
来
(
く
)
る
事
(
こと
)
はならぬと、
295
あれ
程
(
ほど
)
喧
(
やかま
)
しう
云
(
い
)
ふてあるのぢやないか』
296
エール『ハイ、
297
私
(
わたし
)
はエールで
厶
(
ござ
)
いますが、
298
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
の
牢番
(
らうばん
)
をして
居
(
を
)
りました
所
(
ところ
)
、
299
済
(
す
)
まぬ
事
(
こと
)
乍
(
なが
)
ら、
300
フラフラと
居眠
(
ゐねむ
)
りまして、
301
方角
(
はうがく
)
を
取違
(
とりちが
)
ひ、
302
斯様
(
かやう
)
な
所
(
ところ
)
へやつて
来
(
き
)
まして、
303
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
みませぬ』
304
と
態
(
わざ
)
とに
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
して、
305
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
の
来
(
き
)
てゐる
事
(
こと
)
を、
306
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
に
聞
(
き
)
かさうとしてゐる。
307
男
(
をとこ
)
『コリヤ、
308
エール、
309
チボ
や
乞食
(
こじき
)
を
何
(
ど
)
うしたといふのだ』
310
とワザとにセールは
二人
(
ふたり
)
に
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
の
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かそまいと、
311
詞
(
ことば
)
を
濁
(
にご
)
さうとする。
312
エールは
態
(
わざ
)
とに
其
(
その
)
意
(
い
)
を
解
(
かい
)
せざるものの
如
(
ごと
)
く、
313
エール『もし
親方
(
おやかた
)
様
(
さま
)
、
314
チボ
乞食
(
こじき
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬ。
315
三五教
(
あななひけう
)
の
比丘
(
びく
)
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
の
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ』
316
セール『
馬鹿
(
ばか
)
ツ、
317
早
(
はや
)
く
下
(
さが
)
れツ。
318
そして
自分
(
じぶん
)
の
職務
(
しよくむ
)
を
忠実
(
ちうじつ
)
に
守
(
まも
)
るのだ。
319
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
行
(
ゆ
)
けツ。
320
汝
(
きさま
)
が
居
(
を
)
ると
邪魔
(
じやま
)
になる』
321
エールは『ハイ』と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
暗
(
くら
)
がりを
幸
(
さいは
)
ひ、
322
牢獄
(
らうや
)
の
窓
(
まど
)
から
手紙
(
てがみ
)
を
一通
(
いつつう
)
づつ、
323
ソツと
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
324
ブラヷーダ『あの
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
さまも、
325
此処
(
ここ
)
に
捕
(
とら
)
はれて
居
(
ゐ
)
られますか。
326
そりや
本当
(
ほんたう
)
に
心地
(
ここち
)
のよい
事
(
こと
)
ですね。
327
彼奴
(
あいつ
)
は
随分
(
ずいぶん
)
私
(
わたし
)
に
無体
(
むたい
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つた
奴
(
やつ
)
だから、
328
天罰
(
てんばつ
)
が
巡
(
めぐ
)
り
来
(
き
)
たのでせう、
329
ホヽヽヽ。
330
モシ
隣
(
となり
)
のデビス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
331
貴女
(
あなた
)
と
私
(
わたし
)
をひどい
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はしよつた、
332
あの
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
といふ
比丘
(
びく
)
が
捉
(
とら
)
へられて
来
(
き
)
てると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
ですワ。
333
本当
(
ほんたう
)
に
気分
(
きぶん
)
が
可
(
い
)
いぢやありませぬか。
334
ホヽヽヽ』
335
デビス『
本当
(
ほんたう
)
にねえ、
336
私
(
わたし
)
も
溜飲
(
りういん
)
が
下
(
さが
)
りましたワ』
337
エールは
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
だと、
338
首
(
くび
)
をひねり
乍
(
なが
)
ら、
339
暗
(
くら
)
い
隧道
(
すいだう
)
を
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
340
セール『アハヽヽヽ、
341
オイ
両人
(
りやうにん
)
、
342
お
前
(
まへ
)
も
何
(
なに
)
か
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
に
迫害
(
はくがい
)
を
受
(
う
)
けたのだなア。
343
ヨシ、
344
俺
(
おれ
)
がお
前
(
まへ
)
の
仇討
(
あだうち
)
をしてやるから、
345
安心
(
あんしん
)
したがよからう。
346
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
も
聞
(
き
)
くだらうな』
347
ブラ『
姉
(
ねえ
)
さま、
348
どうしまほうか、
349
本当
(
ほんたう
)
に、
350
一
(
ひと
)
つここで
恨
(
うらみ
)
を
晴
(
は
)
らさなくちや、
351
女
(
をんな
)
の
意地
(
いぢ
)
が
立
(
た
)
たぬぢやありませぬか』
352
デビス『そらさうですワ、
353
何
(
なん
)
とかして
彼奴
(
あいつ
)
を
此処
(
ここ
)
へ
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んで
頂
(
いただ
)
き、
354
二人
(
ふたり
)
よつて
両方
(
りやうはう
)
から
嬲
(
なぶり
)
殺
(
ごろし
)
にさして
下
(
くだ
)
されば
嬉
(
うれ
)
しいですがな。
355
さうすりや
親分
(
おやぶん
)
さまの
御
(
ご
)
註文
(
ちゆうもん
)
位
(
くらゐ
)
には
喜
(
よろこ
)
んで
応
(
おう
)
じますけれどなア』
356
ブラ『
姉
(
ねえ
)
さまが
其
(
その
)
お
考
(
かんが
)
へなら、
357
私
(
わたし
)
だつて
賛成
(
さんせい
)
ですワ。
358
あたい
の
夫
(
をつと
)
を
殺
(
ころ
)
した
奴
(
やつ
)
ですもの。
359
憎
(
にく
)
うて
憎
(
にく
)
うて
堪
(
たま
)
らないワ、
360
その
仇
(
あだ
)
を
親方
(
おやかた
)
さまの
同情心
(
どうじやうしん
)
に
依
(
よ
)
つて、
361
討
(
う
)
たして
下
(
くだ
)
さるやうな
事
(
こと
)
なら、
362
御恩
(
ごおん
)
報
(
ほう
)
じにどんな
事
(
こと
)
でも、
363
親方
(
おやかた
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かうと
思
(
おも
)
ひますワ』
364
セール『ウツフヽヽヽ。
365
オイ
女
(
をんな
)
、
366
お
前
(
まへ
)
の
願
(
ねがひ
)
は
聞
(
きき
)
届
(
とど
)
けた。
367
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに
私
(
わし
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
くだらうなア』
368
両人
(
りやうにん
)
一度
(
いちど
)
に、
369
『ヘーヘー
聞
(
き
)
きますとも、
370
貴方
(
あなた
)
の
仰有
(
おつしや
)
る
事
(
こと
)
何
(
ど
)
うして
聞
(
き
)
かずに
居
(
を
)
れませうか……。
371
二
(
ふた
)
つも
立派
(
りつぱ
)
な
耳
(
みみ
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
るのだもの……』
372
と
小
(
ちひ
)
さい
声
(
こゑ
)
で
後
(
あと
)
を
付
(
つ
)
けた。
373
セールは
声
(
こゑ
)
迄
(
まで
)
変
(
か
)
へて、
374
セール『ウンウンヨシヨシ、
375
可愛
(
かあい
)
いお
前
(
まへ
)
の
願
(
ねがひ
)
だから、
376
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
いてやる。
377
思
(
おも
)
ふ
存分
(
ぞんぶん
)
さいなんだがよからうぞ』
378
両人
(
りやうにん
)
一度
(
いちど
)
に、
379
『
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
380
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
くお
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
します』
381
セール『ヨシヨシ、
382
之
(
これ
)
から
牢番
(
らうばん
)
に
申
(
まをし
)
付
(
つ
)
けて
治道
(
ちだう
)
をここへ
引
(
ひ
)
つ
立
(
た
)
てて
来
(
く
)
るから、
383
お
前
(
まへ
)
の
好
(
す
)
きなやうにしたがよからう』
384
と
云
(
い
)
ひ
棄
(
す
)
て、
385
自分
(
じぶん
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
386
セールは
自分
(
じぶん
)
の
居間
(
ゐま
)
に
帰
(
かへ
)
り、
387
ニコニコし
乍
(
なが
)
ら
独言
(
ひとりごと
)
、
388
セール『ヤア、
389
之
(
これ
)
で
俺
(
おれ
)
も
願望
(
ぐわんまう
)
成就
(
じやうじゆ
)
だ。
390
ウマイウマイ、
391
矢張
(
やつぱり
)
女
(
をんな
)
といふ
者
(
もの
)
は
何
(
なに
)
か
一
(
ひと
)
つ
刺戟
(
しげき
)
を
与
(
あた
)
へないと
駄目
(
だめ
)
だワイ。
392
まだ
懐
(
ふところ
)
を
調
(
しら
)
べてゐないが、
393
あの
治道
(
ちだう
)
は○を
沢山
(
たくさん
)
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るに
違
(
ちが
)
ひない。
394
それに
恨
(
うらみ
)
のある
奴
(
やつ
)
が
来
(
き
)
てるによつて、
395
俺
(
おれ
)
にも
都合
(
つがふ
)
がよいといふものだ。
396
何
(
なに
)
しろ
月
(
つき
)
と
花
(
はな
)
にもまがふ
美人
(
びじん
)
だからな。
397
エヘヽヽヽ。
398
両手
(
りやうて
)
に
花
(
はな
)
とは
俺
(
おれ
)
の
事
(
こと
)
だ。
399
二人
(
ふたり
)
の
妻
(
つま
)
に
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
かれ、
400
黄金
(
こがね
)
の
橋
(
はし
)
を
渡
(
わた
)
るといふ
言
(
い
)
ひ
置
(
おき
)
は、
401
今
(
いま
)
実現
(
じつげん
)
しさうだワイ。
402
ウツフヽヽヽ』
403
と
四辺
(
あたり
)
に
人
(
ひと
)
無
(
な
)
きを
幸
(
さいは
)
ひ、
404
独
(
ひと
)
り
笑壺
(
ゑつぼ
)
に
入
(
い
)
つて
居
(
を
)
る。
405
(
大正一二・七・一六
旧六・三
於祥雲閣
松村真澄
録)
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