霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 反鱗(はんりん)〔一六六三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻 篇:第1篇 盗風賊雨 よみ(新仮名遣い):とうふうぞくう
章:第7章 反鱗 よみ(新仮名遣い):はんりん 通し章番号:1663
口述日:1923(大正12)年07月15日(旧06月2日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年4月14日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm6507
愛善世界社版:81頁 八幡書店版:第11輯 640頁 修補版: 校定版:86頁 普及版:39頁 初版: ページ備考:
001 (さん)(にん)急坂(きふはん)(のぼ)つて()くと、002密林(みつりん)(なか)に、003「ウンウン」と呻声(うめきごゑ)(きこ)えて()た。004伊太彦(いたひこ)(おどろ)いて(くさ)をわけ、005(はやし)(なか)()つて()れば、006一人(ひとり)(をとこ)繃帯(はうたい)をした(まま)007(むし)(いき)になつてフン()びて()る。008(たちま)水筒(すいとう)(くち)(ひら)いて(みづ)()ませ、009(あま)数歌(かずうた)(うた)ひ、010(いた)はつて介抱(かいはう)をしてやつた。011(たふ)れた(をとこ)(やうや)正気(しやうき)(ふく)し、012四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)し、013伊太彦(いたひこ)宣伝使(せんでんし)(わが)(まへ)にあるに(おどろ)き、014(はや)くも()げむとすれど、015()手足(てあし)(ちから)回復(くわいふく)しないので、016石亀(いしがめ)のやうに地団駄(ぢだんだ)()んで()る。
017伊太(いた)『ヤア(たび)のお(かた)018()がつきましたか、019()()結構(けつこう)々々(けつこう)020(まへ)大変(たいへん)怪我(けが)をして()るやうだが、021大方(おほかた)虎熊山(とらくまやま)泥棒(どろばう)にでもやられたのぢやないかな』
022(をとこ)『ハイ有難(ありがた)(ござ)います。023(わたし)(この)(ちか)くの(もの)(ござ)いますが、024一寸(ちよつと)(にはか)(よう)親威(しんせき)(まゐ)途中(とちう)025泥棒(どろばう)親分(おやぶん)026セールと()悪人(あくにん)出会(であ)ひ、027有金(ありがね)をすつかり()られ、028(あたま)をかち()られ人事(じんじ)不省(ふせい)になつて()(ところ)です。029ようまアお(たす)(くだ)さいました。030(この)御恩(ごおん)(けつ)して(わす)れませぬ』
031 エムはツカツカと(かたはら)により、032(かほ)をつくづく(なが)めて、
033エム『ヤア、034(まへ)虎熊山(とらくまやま)泥棒(どろばう)副親分(ふくおやぶん)ぢやないか、035そんな(うそ)()つたつて駄目(だめ)だよ。036もし宣伝使(せんでんし)(さま)037(この)(をとこ)はハールと(まをし)まして、038それはそれは(わる)(やつ)(ござ)います。039貴方(あなた)のお(たづ)ねになつた(わか)(むすめ)さまを、040(くち)猿轡(さるぐつわ)()めて、041数多(あまた)乾児(こぶん)岩窟(いはや)(なか)(かつ)()ました(やつ)ですから、042油断(ゆだん)をなされますなよ』
043ハール『オイ、044エム、045……いや、046(この)(やつ)()らないが、047さう見違(みちがひ)をして(もら)つては(こま)るぢやないか。048(わし)泥棒(どろばう)でも(なん)でもない、049(この)近傍(きんばう)百姓(ひやくしやう)だ。050滅多(めつた)(こと)()ふて(もら)ふまい』
051 エムはニタリと(わら)ひ、
052エム『ヘヽヽヽ、053よう仰有(おつしや)いますわい。054そんな(こと)()つたつて、055此処(ここ)にお前様(まへさま)乾児(こぶん)になつて()二人(ふたり)(さき)泥棒(どろばう)056(いま)真人間(まにんげん)(ひか)へて()ますよ。057(をとこ)らしく白状(はくじやう)しなさい』
058伊太(いた)『オイ、059エム、060タツの両人(りやうにん)061此奴(こいつ)泥棒(どろばう)間違(まちが)ひないなア』
062エム『ヘエヘエ、063チヤキチヤキの泥棒(どろばう)ですよ。064此奴(こいつ)はバラモン(ぐん)のハール少尉(せうゐ)()つて、065美男子(びなんし)()()つた士官(しくわん)ですが、066鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)(さま)軍隊(ぐんたい)解散(かいさん)せられてから、067仕方(しかた)なしにセール大尉(たいゐ)泥棒(どろばう)開業(かいげふ)し、068虎熊山(とらくまやま)岩窟(いはや)羽振(はぶり)()かし、069百人頭(ひやくにんがしら)になつて()極悪人(ごくあくにん)ですから、070油断(ゆだん)をなさつてはいけませぬよ』
071伊太(いた)『お(まへ)()(こと)本当(ほんたう)だらう。072(まへ)改心(かいしん)もそれで証明(しようめい)された。073これから可愛(かあい)がつてやるから安心(あんしん)せい』
074エム『いやもう有難(ありがた)(ござ)います。075どうぞ永当(えいたう)々々(えいたう)076()贔屓(ひいき)(ほど)をお(ねが)(まをし)ます』
077タツ『充分(じゆうぶん)勉強(べんきやう)をいたしまして、078他店(たてん)とはお(やす)(いた)します。079どうぞ末永(すゑなが)()贔屓(ひいき)(ねが)ひます』
080伊太(いた)『ハヽヽ。081面白(おもしろ)(をとこ)だな。082(おほい)()()つた。083(これ)から(せい)()して御用(ごよう)(おほ)せつけてやるから、084充分(じゆうぶん)勉強(べんきやう)するがいいぞ』
085両人(りやうにん)『フヽヽヽ』
086伊太(いた)『オイ、087(まへ)(いま)(この)両人(りやうにん)証明(しようめい)して()るが、088泥棒頭(どろぼうがしら)相違(さうゐ)あるまい。089有体(ありてい)白状(はくじやう)せないと、090(まへ)のためにならないぞ』
091ハール『いや、092(おそ)()りまして(ござ)います、093何卒(どうぞ)重々(ぢうぢう)(つみ)をお(ゆる)(くだ)さいませ、094二人(ふたり)(ひめ)(さま)()(かへ)り、095牢獄(らうごく)()()みましたのは(わたし)相違(さうゐ)(ござ)いませぬ。096(しか)(わたし)使(つか)大親分(おほおやぶん)(ござ)いますから、097(わたし)(ばか)りの(つみ)では(ござ)いませぬ。098どうぞ(かれ)をお調(しら)(くだ)さいませ』
099伊太(いた)自分(じぶん)(つみ)親分(おやぶん)()()けるとは不届(ふとど)千万(せんばん)(やつ)だ。100たとへ親分(おやぶん)がやつた(こと)でも101何故(なぜ)(わたし)がやりましたと(ひき)()けるだけの赤心(まごころ)()いか、102泥棒(どろばう)仲間(なかま)にも道徳律(だうとくりつ)(おこな)はれて()るだらう』
103ハール『ハイそれは(たしか)(ござ)いますが、104(なん)()つても親分(おやぶん)親分(おやぶん)(ござ)います。105たうとう親分(おやぶん)()106(こひ)競争(きやうそう)から(わたし)(うら)んで暗打(やみうち)()はさうと(いた)しましたので、107()んな()()はされ、108(じつ)()()して()(ところ)(ござ)います。109親分(おやぶん)反鱗(はんりん)あれば、110(わたし)にも反鱗(はんりん)があります。111さうだから阿呆(あはう)らしくて112どうしても犠牲(ぎせい)(てき)精神(せいしん)(おこ)らぬぢやありませぬか』
113伊太(いた)(その)二人(ふたり)(をんな)()うして()るか』
114ハール『ハイ、115きつと……セール大将(たいしやう)()れて()ますから、116さう手荒(てあら)(こと)(いた)しますまい。117まアお身柄(みがら)だけは大丈夫(だいぢやうぶ)ですから()安心(あんしん)なさいませ。118そして(わたし)(つみ)をお(ゆる)(くだ)さい。119(わたし)今日(けふ)(かぎ)泥棒(どろばう)廃業(はいげふ)(いた)します』
120伊太(いた)『それや感心(かんしん)だ。121そんならこれから(わし)について、122一度(いちど)岩窟(いはや)()つて()れないか、123何彼(なにか)便宜(べんぎ)がいいからなア』
124ハール『ハイ、125エーお(とも)(いた)()いは山々(やまやま)(ござ)いますが、126(この)(とほ)(かしら)(いた)み、127(にはか)急性(きふせい)臆病災(おくびやうえん)突発(とつぱつ)(いた)しましたので、128遺憾(ゐかん)ながら(まゐ)(こと)出来(でき)ませぬ。129(この)(たび)はお(ゆる)(くだ)さいませ』
130伊太(いた)本当(ほんたう)(こま)つた(やつ)だなア、131(いま)(わし)鎮魂(ちんこん)してやつたからもう(いたみ)()まつた(はず)だ。132そんななまくら()はずに、133(まへ)()()はうとも()いて()はうとも()はぬのだから134帰順(きじゆん)した証拠(しようこ)案内(あんない)をしたらどうだ』
135ハール『左様(さやう)ならば、136()むを()ませぬ。137言葉(ことば)(したが)ひ、138(ひめ)(さま)のお居間(ゐま)(まで)()案内(あんない)(いた)しませう。139さうしてあのお(かた)は、140貴方(あなた)(さま)のお身内(みうち)(かた)ですか、141(ただし)()兄弟(きやうだい)ですか』
142伊太(いた)(とし)(いつ)(はう)(わし)友達(ともだち)女房(にようばう)だ。143(わか)(はう)(わし)女房(にようばう)だ。144随分(ずいぶん)世話(せわ)になつたらうなア』
145ハール『ヤそれを(うけたま)はりますと、146(わたし)()はす(かほ)(ござ)いませぬから、147どうぞ(ゆる)して(くだ)さいな』
148エム『()宣伝使(せんでんし)(さま)149このハールは(わか)(はう)(かた)()れましてな、150口説(くどい)口説(くどい)口説(くどき)ぬいた上句(あげく)151肱鉄(ひぢてつ)(くは)され、152肝癪玉(かんしやくだま)破裂(はれつ)させ、153(くら)(くら)岩穴(いはあな)()()み、154虐待(ぎやくたい)をして()るのですよ。155それだから(あは)(かほ)がないと(いま)白状(はくじやう)したのです。156そこらで(ひと)つ、157ウンと()()()はしてお()りなさい。158後日(ごじつ)()めですからな』
159伊太(いた)仕方(しかた)()(をとこ)だな。160(しか)しお(まへ)改心(かいしん)したと()ふが、161随分(ずいぶん)(ひと)(わる)いぢやないか。162(いま)(まで)長上(ちやうじやう)(あふ)いで()(ひと)悪口(わるくち)(わし)()げるとは、163本当(ほんたう)義理(ぎり)人情(にんじやう)をわきまへぬ(やつ)だな』
164エム『義理(ぎり)人情(にんじやう)()つて()つて泥棒(どろばう)仲間(なかま)()いれますか、165弱肉(じやくにく)強食(きやうしよく)166優勝(いうしよう)劣敗(れつぱい)極致(きよくち)ですもの、167そんな余裕(よゆう)がありますものか、168そんな(こと)(かま)ふて()つたら、169自分(じぶん)()(ほろ)んで仕舞(しま)ひますわ、170有島(ありしま)武郎(たけを)だつて、171(あい)極致(きよくち)とやら(まで)()つて、172たうとう自滅(じめつ)したぢやありませぬか。173有島(ありしま)武郎(たけを)はラブ イズ ベストを高調(かうてう)し、174(あい)はどこ(まで)継続(けいぞく)すべきものでないと()つたでせう。175さうして仮令(たとへ)夫婦(ふうふ)でも(それ)以上(いじやう)(あい)する(もの)出来(でき)たら、176(わか)れて(あい)(ふか)(はう)(なび)くのが真理(しんり)だと()つたでせう。177それだから、178この大将(たいしやう)はも(はや)見込(みこみ)がない、179あなた(さま)(はう)余程(よほど)立派(りつぱ)だ、180吾々(われわれ)(すく)つて(くだ)さる(すく)(ぬし)だと(おも)つたから、181弊履(へいり)(ごと)(いま)(まで)親分(おやぶん)()てて仕舞(しま)つたのですよ。182(わる)(ござ)いますかな』
183伊太(いた)『アハヽヽヽ、184(なん)水臭(みづくさ)いものだな。185(それ)ではまだ改心(かいしん)()(ところ)へは()かぬわい。186(ひと)つこれから(あぶら)()つてやらねばなるまい』
187ハール『どうぞもう見逃(みのが)して(くだ)さい。188セールの悪口(あつこう)(まう)したのは、189つまり(こひ)(あだ)(ござ)いますから、190あんまり(むね)(わる)いので、191つい(くち)から(ほとばし)つたので(ござ)います。192今後(こんご)(つつし)みます。193そんなら(おほ)せに(したが)ひ、194陣容(ぢんよう)()(なほ)し、195堂々(だうだう)先陣(せんぢん)(つかまつ)りませう。196さア、197エム、198タツの両人(りやうにん)199宣伝使(せんでんし)のお(あと)から()いて()い』
200伊太(いた)『ヤアお(まへ)(たち)(さん)(にん)とも(さき)()くがよい。201(おれ)(うしろ)()()いからなア、202ハヽヽヽ』
203エム『(おく)(おほかみ)同道(どうだう)して()るやうなものですからなア。204(さき)にお(いで)になるのは険呑(けんのん)です。205(つまづ)いて()けたら何時(いつ)()ぶり()くかも()れませぬからなア』
206ハール『これエム。207いらぬ(こと)()ふな』
208(しか)りつけ(なが)ら、209先頭(せんとう)()つて、210足早(あしばや)(のぼ)りゆく。
211大正一二・七・一五 旧六・二 於祥雲閣 加藤明子録)
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