霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 大笑裡(だいせうり)〔一六六七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻 篇:第2篇 地異転変 よみ(新仮名遣い):ちいてんぺん
章:第11章 大笑裡 よみ(新仮名遣い):だいしょうり 通し章番号:1667
口述日:1923(大正12)年07月16日(旧06月3日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年4月14日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-06-13 15:43:08 文字数:4193 OBC :rm6511
愛善世界社版:125頁 八幡書店版:第11輯 655頁 修補版: 校定版:130頁 普及版:59頁 初版: ページ備考:
001 ヤク、002エールの両人(りやうにん)は、003バット、004カークス、005ベース三(さん)人(にん)を、006デビス姫(ひめ)を幽閉(いうへい)してある牢獄(らうごく)に打(う)ち込(こ)み、007治道(ちだう)居士(こじ)、008デビス姫(ひめ)、009ブラヷーダ姫(ひめ)をそつと牢獄(らうごく)の外(そと)に引(ひ)き出(だ)し、010暗夜(あんや)を幸(さいは)ひ人目(ひとめ)にかからぬ堅牢(けんらう)な一室(いつしつ)に、011茶(ちや)やパンを与(あた)へて休(やす)ませて置(お)き、012セールの居間(ゐま)に進(すす)み入(い)り、
013ヤク『もし親分(おやぶん)様(さま)、014御(ご)命令(めいれい)通(どほ)り、015ブラヷーダと治道(ちだう)居士(こじ)を、016デビスの牢獄(らうごく)へ放(ほ)り込(こ)んで置(お)きました。017さうして治道(ちだう)居士(こじ)は身動(みうご)きが出来(でき)ない所(ところ)迄(まで)、018がんじ搦(がらみ)に縛(しば)つて置(お)きましたから、019もはや安心(あんしん)で厶(ござ)います』
020セール『ヤア、021ヤク、022エールの両人(りやうにん)御(ご)苦労(くらう)だつた。023そんなら是(これ)から、024俺(おれ)も見(み)に往(ゆ)かうかなア』
025ヤク『アノ旦那(だんな)様(さま)、026二人(ふたり)の美人(びじん)が仰有(おつしや)るのには、027旦那(だんな)様(さま)と其(その)他(ほか)四五(しご)人(にん)の上役(うはやく)許(ばか)り立(た)ち会(あ)つて貰(もら)ひたいとの事(こと)です。028そして顔(かほ)が見(み)えると嫌(いや)ですから、029燈火(ともしび)をつけないで、030見聞(けんぶん)いや、031聴聞(ちやうもん)して欲(ほ)しいとの事(こと)です』
032エール『サア旦那(だんな)様(さま)、033早(はや)くお越(こし)を願(ねが)ひます』
034セール『ヨシヨシ、035そんなら小頭(こがしら)許(ばか)り列席(れつせき)さしたらよからう。036牢獄(らうごく)の外(そと)で様子(やうす)を聞(き)く事(こと)にせう』
037と五(ご)人(にん)の小頭(こがしら)を従(したが)へ、038エール、039ヤクも共(とも)に牢獄(らうごく)の外(そと)に八(はち)人(にん)づらつと並(なら)んで、040中(なか)の様子(やうす)を考(かんが)へて居(ゐ)る。041カークスは、042デビス姫(ひめ)の声色(こわいろ)をつかつて、
043カークス『ヤア其(その)方(はう)は、044恨(うら)み重(かさ)なる、045憎(にく)さも憎(にく)き治道(ちだう)居士(こじ)であらうがな。046天命(てんめい)逃(のが)れず此(この)牢獄(らうごく)に連(つ)れ込(こ)まれ、047繊弱(かよわ)き女(をんな)に仇(あだ)を打(う)たれるとは、048さてもさても不便(ふびん)な奴(やつ)だ。049これも前世(ぜんせ)の因縁(いんねん)と諦(あきら)めたがよからうぞや』
050 バットは治道(ちだう)居士(こじ)の声色(こわいろ)を使(つか)つて、
051バット『アハヽヽヽ。052猪口才(ちよこざい)千万(せんばん)な身(み)の程(ほど)知(し)らず奴(め)が、053俺(おれ)を何(なん)と心得(こころえ)て居(ゐ)る。054何程(なにほど)高手(たかて)小手(こて)に縛(いましめ)たればとて、055これ程(ほど)のひよろひよろ縄(なは)、056打(う)ち切(き)るに何(なん)の手間暇(てまひま)がかからうぞ。057下(くだ)らぬ事(こと)を致(いた)して、058後悔(こうくわい)するな。059吾(われ)こそはバラモン軍(ぐん)に於(おい)て、060英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)の仇名(あだな)を取(と)つた鬼春別(おにはるわけ)の中将(ちうじやう)だ。061三千(さんぜん)人(にん)の軍隊(ぐんたい)を三寸(さんずん)の舌端(ぜつたん)を以(もつ)て指揮(しき)し来(きた)つた某(それがし)、062今(いま)は三五教(あななひけう)の比丘(びく)となり、063一蓑(いつさ)一笠(いちりつ)の修験者(しゆげんじや)となりたればとて、064昔(むかし)取(と)つたる杵柄(きねつか)の、065未(いま)だに残(のこ)る腕(うで)の冴(さ)え、066見事(みごと)指一本(ゆびいつぽん)でも触(さえ)るなら、067サア、068触(さえ)て見(み)よ』
069カークス『ホヽヽヽヽ。070此(この)期(ご)に及(およ)んで、071何(なん)の繰言(くりごと)、072もはや叶(かな)はぬ……日頃(ひごろ)のデビスが恨(うら)み、073サア一刀(ひとかたな)浴(あ)びて見(み)よ。074これブラヷーダさま、075お前(まへ)も夫(をつと)の仇(あだ)ぢやないか。076サア妾(わたし)と両方(りやうはう)から両方(りやうはう)の耳(みみ)を、077滅多切(めつたぎり)に斬(き)り落(おと)しませう』
078 ベースはブラヷーダの仮声(こわいろ)を使(つか)ひ、
079ベース『姉上(あねうへ)様(さま)の仰(おほ)せ迄(まで)もなく、080此(この)恨(うらみ)を晴(は)らさで置(お)きませうか。081磐石(ばんじやく)をもつて卵(たまご)をわるが如(ごと)き此(この)場合(ばあひ)、082これも全(まつた)くセール親分(おやぶん)さまの御(ご)同情(どうじやう)の致(いた)す所(ところ)、083サア鬼春別(おにはるわけ)の治道(ちだう)居士(こじ)、084たとへ汝(なんぢ)は三軍(さんぐん)を指揮(しき)した勇将(ゆうしやう)たりとも、085も早(はや)かうなつては身動(みうご)きもなるまい。086繊弱(かよわ)き女(をんな)の腕(うで)に満身(まんしん)の恨(うらみ)を込(こ)めたこの刃(やいば)、087覚悟(かくご)をせよ。088サア姉上(あねうへ)様(さま)、089一(ひい)、090二(ふう)、091三(みつ)でやりませう。092貴女(あなた)は左(ひだり)の耳(みみ)、093私(わたし)は右(みぎ)の耳(みみ)を……ホヽヽヽまあ心地(ここち)よき事(こと)だなア、094一(ひい)、095二(ふう)、096三(み)つ』
097バット『エヽヽ痛(いた)いわい。098耳(みみ)がチヽ千切(ちぎ)れるぢやないか。099血(ち)が出(で)るぢやないか。100ウン、101アヽい痛(いた)いとは申(まを)さぬ。102俺(おれ)も男(をとこ)だ、103ウヽヽヽウン』
104カークス『痛(いた)いであらう。105痛(いた)いやうに斬(き)つたのだ。106血(ち)が出(で)るのはあたりまへぢや。107ても扨(さ)ても気持(きもち)のよい事(こと)だなア』
108ベース『これや鬼春別(おにはるわけ)、109此(この)ブラヷーダが恨(うらみ)の刃(やいば)、110些(ちつ)とは痛(いた)からう。111思(おも)ひ知(し)つたであらうのう』
112バット『いや早(はや)誠(まこと)にもつて痛(いた)く厶(ござ)らぬ事(こと)はないわい。113エヘヽヽヽ』
114カークス『はて頑固(しぶと)い、115此(これ)でもか。116いやこれでもか。117(男(をとこ)の声(こゑ))こーれでもかー』
118と思(おも)はず知(し)らず地声(ぢごゑ)を出(だ)して了(しま)つた。119外(そと)に聞(き)いて居(ゐ)たセールは驚(おどろ)いて、
120セール『オイ、121デビス姫(ひめ)、122何(なん)と云(い)ふ太(ふと)い声(こゑ)を出(だ)すのだ。123まるで男(をとこ)だないか』
124カークス『何(なん)だか知(し)りませぬが、125あんな声(こゑ)が出(で)たのですよ。126私(わたし)はいつも神懸(かむがかり)を致(いた)しますから、127大方(おほかた)大天狗(だいてんぐ)が憑(うつ)つて手伝(てつだ)ふてくれたので厶(ござ)いませう…(男声(をとこごゑ))デビス姫(ひめ)は虎熊山(とらくまやま)の大天狗(だいてんぐ)が憑(うつ)つて守護(しゆご)致(いた)して居(を)るぞよ。128セール129決(けつ)して疑(うたが)ふ事(こと)はならぬぞよ』
130セール『ハイ、131決(けつ)して疑(うたが)ひませぬ』
132ベース『これや治道(ちだう)居士(こじ)とやら、133夫(をつと)の仇(あだ)サア胸(むね)をついてやらう。134些(ちつ)とは痛(いた)うても辛棒(しんぼう)せよ。135明日(あす)の朝(あさ)迄(まで)嬲(なぶり)殺(ごろ)し……てもさても愉快(ゆくわい)の事(こと)だわい。136オホヽヽヽ。137あまりをかしうて、138シシ芝居(しばゐ)が出来(でき)ぬワイのう』
139バット『オイ、140ベース。141ではないブラヷーダ姫(ひめ)、142左様(さやう)な事(こと)を申(まを)すと治道(ちだう)居士(こじ)も何(なん)だか張(は)り合(あひ)が無(な)いわい。143サア早(はや)く思(おも)ふ存分(ぞんぶん)にしたがよからう』
144ベース『汝(なんぢ)の言葉(ことば)を待(ま)つ迄(まで)もなく腹(はら)をえぐつてやらう』
145バット『アイタヽヽヽター、146暫(しばら)く暫(しばら)くシシ暫(しばら)くお待(ま)ち下(くだ)さりませう』
147カークス『此(この)期(ご)に及(およ)んで何(なん)の躊躇(ちうちよ)、148血迷(ちまよ)ふたか、149ヤ、150おくれたか……バット……いやいや、151治道(ちだう)居士(こじ)……』
152バット『アイヤ、153血迷(ちまよ)ひもせぬ、154後(おく)れもせぬ。155某事(それがしこと)はビクトリ山(さん)の麓(ふもと)に於(おい)て、156治国別(はるくにわけ)が部下(ぶか)の者共(ものども)に駆(かけ)難(なや)まされ、157此(この)恨(うらみ)を報(むく)いむと、158テルモン山(ざん)の麓(ふもと)に来(きた)る折(をり)、159是(これ)なるデビス姫(ひめ)、160ブラヷーダ姫(ひめ)の両人(りやうにん)に出会(であ)ひ、161仇(かたき)の端(はし)とつけ覗(ねら)ふ中(うち)、162ブラヷーダの夫(をつと)伊太彦(いたひこ)なるもの、163横合(よこあい)より槍(やり)のキツ先(さき)を扱(しご)きながら攻(せ)め来(きた)る、164シヤー猪口才(ちよこざい)なと渡(わた)り戦(たたか)ふ。165上段(じやうだん)下段(げだん)某(それがし)が力(ちから)に敵(てき)しかね、166伊太彦(いたひこ)は其(その)場(ば)に斃(くたば)り、167手下(てした)のもの共(ども)ちりぢりバット花(はな)を嵐(あらし)のさそひし如(ごと)く、168逃(に)げ往(ゆ)く可笑(をか)しさ、169ハヽヽヽ。170もうかうなる上(うへ)は破(やぶ)れかぶれ、171どうなりと勝手(かつて)に致(いた)せ、172たとへ此(この)場(ば)に死(し)するとも、173魂魄(こんぱく)此(この)土(ど)に留(とど)まり、174汝(なんぢ)の素首(そつくび)引抜(ひきぬ)かむ。175ヒウドロドロドロ』
176カークス『(男(をとこ)の声(こゑ))オイ、177そんないやらしい事(こと)云(い)ふて呉(く)れない、178芝居(しばゐ)が出来(でき)ぬぢやないか。179(女(をんな)の声(こゑ))モシモシセール様(さま)、180妾(わたし)には大天狗(だいてんぐ)がうつつて居(を)りますから、181時々(ときどき)ど拍子(びやうし)の抜(ぬ)けた声(こゑ)を出(だ)します。182何卒(どうぞ)了見(れうけん)して(雷声(らいせい))下(くだ)さいませ』
183と雷(らい)の如(ごと)くに後(あと)の一語(いちご)を出(だ)す。184セールは二人(ふたり)の女(をんな)を信(しん)じ切(き)つて居(ゐ)るので、185黙言(だま)つて二人(ふたり)の言葉(ことば)を聞(き)いて居(ゐ)る。186五(ご)人(にん)の小頭(こがしら)は合点(がつてん)が往(い)かず、187腑(ふ)に落(お)ちぬと思(おも)ひながら、188頭(かしら)が黙言(だま)つて居(ゐ)るので、189不審(ふしん)の雲(くも)に包(つつ)まれながら、190息(いき)をこらして聞(き)いて居(ゐ)た。
191ベース『姉(ねえ)さま、192もう是(これ)位(くらゐ)で一思(ひとおも)ひにやつてやりませうか』
193カークス『さう致(いた)しませう。194これや治道(ちだう)居士(こじ)、195艮(とどめ)を刺(さ)してやらう。196喉(のど)はどこだ』
197と云(い)ひながら、198暗(くら)がりで喉(のど)のあたりを探(さぐ)つた。199バットはこそばゆくなつて思(おも)はず知(し)らずフヽヽヽヽと吹(ふ)き出(だ)した。
200カークス『おのれ頑固(しぶと)い……デビス姫(ひめ)の腕(うで)の冴(さ)え、201食(く)つて見(み)よー』
202 『キヤアツ』と云(い)つた切(き)りバタバタバタと音(おと)をさせ、203一言(いちごん)も発(はつ)しなくなつた。
204カークス『ホヽヽヽホー、205日頃(ひごろ)の恨(うらみ)、206妹(いもうと)が夫(をつと)の仇(あだ)、207思(おも)ひ知(し)つたか南無(なむ)頓生(とんしやう)菩提(ぼだい)治道(ちだう)居士(こじ)ー』
208ベース『夫(をつと)の仇(あだ)、209思(おも)ひ知(し)つたであらうなア。210南無(なむ)バラモン帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)、211有難(ありがた)く御(お)神徳(かげ)を感謝(かんしや)致(いた)します』
212バット『ヤア恨(うら)めしやなア。213此(この)治道(ちだう)居士(こじ)は思(おも)はぬ不覚(ふかく)を取(と)り、214小盗人(こぬすと)に高手(たかて)小手(こて)に縛(いましめ)られ、215身動(みうご)きならぬやうにせられ、216三(さん)人(にん)の女(をんな)に酷(さいな)まれ、217今(いま)は世(よ)になき亡骸(なきがら)の、218恨(うらみ)は募(つの)る虎熊(とらくま)の山(やま)、219汝(なんぢ)許(ばか)りならず、220此(この)岩窟(いはや)の大盗人(おほぬすびと)、221セールを初(はじ)め其(その)他(た)の奴原(やつばら)、222生首(なまくび)引(ひ)きぬき、223仇(あだ)を討(う)たいでおかうか、224残念(ざんねん)やな、225ク、226口惜(くちをし)やな』
227 セールは首筋元(くびすぢもと)からゾクゾクと寒気(さむけ)がしだし、228真蒼(まつさを)の顔(かほ)をし、229暗(くら)がりに慄(ふる)ひながら、
230セール『コヽヽコラ治道(ちだう)居士(こじ)とやら、231諦(あきら)めたがよからうぞ。232何(なん)と云(い)つても、233もうかうなつては此(この)世(よ)に縁(えん)がないのだから覚悟(かくご)をして神妙(しんめう)に成仏(じやうぶつ)せい。234南無(なむ)頓生(とんしやう)菩提(ぼだい)治道(ちだう)居士(こじ)…』
235カークス『もしセール様(さま)、236おかげをもつて本望(ほんまう)を遂(と)げました。237どうぞ昼(ひる)よりも明(あか)く灯(あかり)をつけて下(くだ)さいませ』
238 セールは慄(ふる)ひながら、
239セール『アヽ結構(けつこう)々々(けつこう)。240オイ皆(みな)の者(もの)241灯(あかり)の用意(ようい)だ』
242 『ハイ』と答(こた)へてヤク、243エールの両人(りやうにん)は蝋燭(らふそく)を点(てん)じて来(き)た。244セール外(ほか)五(ご)人(にん)の小頭(こがしら)はびつくり腰(ごし)を抜(ぬ)かし地(ち)べたに平太(へた)つて慄(ふる)うて居(ゐ)る。245蝋燭(らふそく)の火(ひ)は幾(いく)つともなく点(てん)ぜられた。246よくよく見(み)れば、247治道(ちだう)居士(こじ)、248デビス姫(ひめ)、249ブラヷーダはニコニコしながらセールの前(まへ)に立(た)つて居(ゐ)る。250牢獄(らうごく)の中(なか)から、251カークスは相変(あひかは)らず、252デビス姫(ひめ)の声色(こわいろ)にて、
253カークス『どうぞ旦那(だんな)様(さま)、254開(あ)けて下(くだ)さいませ。255本望(ほんまう)を遂(と)げまして厶(ござ)います』
256ベース『もし旦那(だんな)様(さま)、257早(はや)く此(こ)の戸(と)をあけて下(くだ)さい。258幽霊(いうれい)が恐(おそ)ろしう厶(ござ)います』
259 外(そと)のデビス姫(ひめ)は初(はじ)めて口(くち)を開(ひら)き、
260デビス『もしセール様(さま)、261私(わたし)は本当(ほんたう)のデビス姫(ひめ)で厶(ござ)いますよ。262牢獄(らうごく)に居(ゐ)るのは私(わたし)の替玉(かへだま)、263秘密(ひみつ)をカークスと云(い)ふ男(をとこ)で厶(ござ)います』
264セール『ナヽ何(なん)と、265お前(まへ)は又(また)どうして出(で)たのか』
266デビス『ホヽヽヽ貴方(あなた)もいい頓馬(とんま)ですねえ』
267ブラヷーダ『もしセールさま、268私(わたし)はブラヷーダで厶(ござ)います。269永(なが)らく御(ご)厄介(やくかい)に預(あづ)かりましたネエ』
270セール『何(なに)、271お前(まへ)はいつの間(ま)に出(で)たのだ』
272ブラヷーダ『ハイ、273斯(か)うなつたら何(なに)も彼(か)も申(まをし)上(あ)げますが、274ヤク、275エール様(さま)のお取計(とりはか)らひによつて、276私(わたし)は無事(ぶじ)に安全(あんぜん)地帯(ちたい)にのがれ、277ベースさまを替玉(かへだま)に使(つか)つたので厶(ござ)いますわ。278ホヽヽヽ』
279治道(ちだう)『拙者(せつしや)は鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)治道(ちだう)居士(こじ)で厶(ござ)る。280牢獄(らうごく)の中(なか)にて殺(ころ)されたりと見(みえ)しは汝(なんぢ)が乾児(こぶん)たりしバットであるぞよ。281オイ、282バット、283もうよい。284ヤア、285エール、286戸口(とぐち)を明(あ)けてやれ』
287 ハイと答(こた)へてエールは忽(たちま)ち戸口(とぐち)をパツと開(ひら)いた。288三(さん)人(にん)はニコニコしながら入口(いりぐち)の窓(まど)を潜(くぐ)つて出(で)て来(き)た。289セールを初(はじ)め五(ご)人(にん)の小頭(こがしら)は早(はや)腰(こし)を抜(ぬ)かし、290口(くち)をポカンと明(あ)けて、291真蒼(まつさを)な顔(かほ)をしてゐる。292かかる所(ところ)へ暗(やみ)を通(とほ)して聞(きこ)え来(く)る宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)、
293『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
294善(ぜん)と悪(あく)とを立分(たてわ)ける
295此(この)世(よ)を作(つく)りし神直日(かむなほひ)
296心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
297唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
298直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞直(ききなほ)せ
299曲(まが)の過(あやま)ち宣(の)り直(なほ)せ
300朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
301月(つき)は盈(み)つとも虧(かく)るとも
302仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
303誠(まこと)の力(ちから)は世(よ)を救(すく)ふ
304三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
305神(かみ)の教(をしへ)の伊太彦(いたひこ)が
306此(この)岩窟(がんくつ)に囚(とら)はれし
307デビスの姫(ひめ)やブラヷーダ
308二人(ふたり)の珍(うづ)の御使(みつかひ)を
309救(すく)はむためにハールをば
310先頭(せんとう)に立(た)ててスタスタと
311登(のぼ)りて茲(ここ)に現(あら)はれぬ
312鬼春別(おにはるわけ)の治道(ちだう)居士(こじ)
313定(さだ)めて無事(ぶじ)におはすらむ
314これの岩窟(いはや)の頭分(かしらぶん)
315セールは今(いま)や何処(どこ)に居(ゐ)る
316一(いち)時(じ)も早(はや)く出迎(でむか)へて
317吾(わが)言霊(ことたま)の神力(しんりき)に
318心(こころ)を直(なほ)し霊(たま)清(きよ)め
319誠(まこと)の道(みち)に帰(かへ)れかし
320吾(われ)に夜光(やくわう)の御玉(みたま)あり
321神(かみ)は吾(われ)等(ら)を守(まも)りつつ
322虎熊山(とらくまやま)の征伐(せいばつ)に
323早(はや)くも向(むか)はせたまひけり
324あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
325御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
326と謡(うた)ひ乍(なが)ら此(この)場(ば)にやつて来(く)る。327三度(さんど)吃驚(びつくり)のセールは、328地上(ちじやう)に頭(あたま)をくつつけ涙(なみだ)をたらして慄(ふる)ひ居(ゐ)る。329是(これ)よりセールを初(はじ)め、330其(その)他(た)の盗人(ぬすびと)共(ども)は何(いづ)れも悪事(あくじ)の恐(おそ)るべきを悟(さと)り、331心(こころ)の底(そこ)より悔(くひ)改(あらた)め、332三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)し、333向後(こうご)は決(けつ)して悪事(あくじ)をなさざる事(こと)を誓(ちか)ひ、334打(う)ち揃(そろ)ひ三五(あななひ)の大神(おほかみ)の御名(みな)を唱(とな)へ、335改悛(かいしゆん)の意(い)を表(あら)はした。336茲(ここ)に治道(ちだう)居士(こじ)及(およ)び伊太彦(いたひこ)は337又(また)もやブラヷーダ、338デビス姫(ひめ)と袂(たもと)を分(わか)ち、339思(おも)ひ思(おも)ひにエルサレムを指(さ)して進(すす)む事(こと)とした。340セールは虎熊山(とらくまやま)の岩窟(がんくつ)に火(ひ)を放(はな)ち、341数多(あまた)の乾児(こぶん)と共(とも)に悔(く)い改(あらた)めて此(この)場(ば)を立(た)ち出(い)で、342各自(めいめい)に自(おの)が郷里(きやうり)に帰(かへ)る事(こと)となつた。343ハールは伊太彦(いたひこ)に許(ゆる)されて、344エルサレム迄(まで)従(したが)ひ往(ゆ)く事(こと)となつた。345あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
346(大正一二・七・一六 旧六・三 於祥雲閣 加藤明子録)
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