霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 相聞(さうもん)(二)〔一九八九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第79巻 天祥地瑞 午の巻 篇:第2篇 竜宮風景 よみ(新仮名遣い):りゅうぐうふうけい
章:第8章 相聞(二) よみ(新仮名遣い):そうもん 通し章番号:1989
口述日:1934(昭和9)年07月17日(旧06月6日) 口述場所:関東別院南風閣 筆録者:内崎照代 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年10月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
艶男が鏡の湖畔の木陰に逃げてほっとしたのもつかの間、あたりの草むらから、白衣に赤い袴の乙女が現れて、白萩と名乗り、またもや艶男に恋の相聞歌を歌いかけた。
艶男はいつものように、実のなき恋で、応えるわけにはいかない、と断るが、それでも白萩は恋の思いを歌に託して艶男に問い掛けた。そして、鏡湖のように底も知らぬ思いに、艶男のためには命を捨てても惜しくない、と心のたけを歌った。艶男は困り果て、父母を思えば恋の思いも起こらないと嘆いた。
すると、鏡湖の波を左右に分けて現れ来る三柱の女神があった。そして、艶男の憩う木陰ににっこりとして近寄ってきた。白萩は女神の降臨に、大地にひれ伏して礼拝している。
女神は艶男に目礼すると、自分は大海津見(おおわだつみ)の神の娘、海津見姫の神であると名乗った。そして、この竜宮の島根は愛の花咲くよう神が定めた、恋の島であり、艶男にこの島を作り固めて御子を産むようにと諭した。八十姫神の願いをことごとく聞き入れて、竜神族を救うように、と歌った。
艶男は、そのようなことをしたら、竜神の姫神たちのねたみ心をあおってしまう、と不安を歌うと、海津見姫の神は、この島の竜神の姫神たちには、ねたみ心は露ほどもない、これはまだ若い国土を作り固める業であるので、ためらうことなく進むように歌い返した。
艶男は、その心はわかったが、自分は国津神の身であり、とてもそのような業に携わるには及ばない、と歌った。海津見姫の神は、日を重ねて時を重ねれば、次々と心雄雄しく進んで行くだろう、と歌い、侍女神を従えて大竜見彦の命の宮殿深く、姿を消してしまった。
艶男は女神の命に不審の念に打たれつつ、もろ手を組んで、太い息を漏らして思案にくれていた。
白萩は艶男に近寄って、左手を握ろうとしたが、艶男はとっさに驚き、飛び退いた。白萩は悲しい声を張り上げて、さきほどの海津見姫の言葉を引き合いに出しながら、艶男のつれなさを非難した。
艶男は決心のほぞを固め、今はしばらくこの場を逃れようと、自分には病気があるので、この病気が治ったら白萩の思いに応えるときもくるだろう、と歌った。白萩は喜び、二人は竜宮殿に共に帰った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:2865 OBC :rm7908
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 204頁 修補版: 校定版:152頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 艶男(あでやか)は女神(めがみ)等(たち)の恋(こひ)の鋭鋒(えいほう)をさけて、002鏡(かがみ)の湖畔(こはん)なる百津(ゆつ)桂木(かつらぎ)の樹蔭(こかげ)に太(ふと)き息(いき)をもらしつつありしが、003忽然(こつぜん)として辺(あたり)の叢(くさむら)よりあらはれたる白衣(びやくえ)、004紅袴(こうこ)の乙女(をとめ)は、005右手(めて)に白萩(しらはぎ)の花(はな)の満開(まんかい)せるを持(も)ち、006左手(ゆんで)に玉水盃(たまもひ)を捧(ささ)げながら、007艶男(あでやか)の側(そば)近(ちか)く進(すす)み寄(よ)り、008満面(まんめん)笑(ゑ)みを湛(たた)へて、009玉水盃(たまもひ)の水(みづ)を艶男(あでやか)の前(まへ)に差(さ)し置(お)き、
010『珍(めづら)しき艶男(あでやか)の君(きみ)よ御水(もひ)召(め)せよ
011今日(けふ)の暑(あつ)さは咽喉(のど)のかわけば
012わらはこそは露(つゆ)にうるほふしら萩(はぎ)の
013花(はな)はづかしき乙女(をとめ)なりけり
014そよと吹(ふ)く風(かぜ)にも靡(なび)く白萩(しらはぎ)の
015かよわき姿(すがた)を愛(め)で給(たま)はずや
016白萩(しらはぎ)の花(はな)は清(すが)しも鏡湖(かがみこ)の
017底(そこ)まで透(す)ける真清水(ましみづ)に似(に)て
018白萩(しらはぎ)の香(かを)りを添(そ)へて玉水盃(たまもひ)に
019御水(もひ)奉(たてまつ)る今日(けふ)の嬉(うれ)しさ
020真清水(ましみづ)を掬(むす)ばせながら白萩(しらはぎ)の
021花(はな)の香(かを)りを愛(め)でさせ給(たま)へ
022夏冬(なつふゆ)のけぢめもしらに白萩(しらはぎ)は
023伊吹(いぶき)の山(やま)に淋(さび)しく匂(にほ)ふも』
024 艶男(あでやか)はこれに答(こた)へて、
025『ありがたし乙女(をとめ)の君(きみ)の志(こころざし)
026われいただかむ桂木(かつらぎ)の蔭(かげ)に
027湖(みづうみ)の水(みづ)は清(きよ)しも白萩(しらはぎ)の
028花(はな)は床(ゆか)しも乙女(をとめ)の姿(すがた)か
029百千花(ももちばな)咲(さ)き匂(にほ)へども吾(われ)にして
030手折(たを)らむ力(ちから)なきぞかなしき』
031 白萩(しらはぎ)は歌(うた)ふ。
032『汝(な)が心(こころ)いづらにあるか白萩(しらはぎ)の
033花(はな)はづかしき吾(われ)にもあるかな
034さりながら手折(たを)らせ給(たま)へ白萩(しらはぎ)の
035花(はな)におく露(つゆ)こぼるるまでも
036汝(な)が君(きみ)の情(なさけ)の露(つゆ)にうるほひて
037吾(われ)は生(い)くべき白萩(しらはぎ)の花(はな)よ
038この島(しま)に百花(ももばな)千花(ちばな)匂(にほ)へども
039ただ一本(ひともと)の白萩(しらはぎ)のわれ
040風(かぜ)吹(ふ)かば露(つゆ)やこぼれむ花(はな)散(ち)らむ
041早(はや)く手折(たを)らへ一本(ひともと)の白萩(しらはぎ)』
042 艶男(あでやか)は歌(うた)ふ。
043『白萩(しらはぎ)の花(はな)美(うるは)しと見(み)る吾(われ)は
044岩(いは)の上(へ)に生(お)ふ無花実(いちじゆく)なるよ
045花(はな)のなき無花実(いちじゆく)のかげに繁(しげ)りたる
046草花(くさばな)にして実(み)のなき吾(われ)なり』
047 白萩(しらはぎ)は又(また)歌(うた)ふ。
048『なやましき心(こころ)の丈(たけ)をしら萩(はぎ)の
049梢(こずゑ)もみゆく汝(なれ)は山風(やまかぜ)
050山風(やまかぜ)は如何(いか)にはげしく吹(ふ)くとても
051木蔭(こかげ)の白萩(しらはぎ)散(ち)らむとはせず
052わが持(も)てる白萩(しらはぎ)の花(はな)に露(つゆ)とめて
053心(こころ)のあかしと君(きみ)にまゐらす
054よしやよし露(つゆ)の情(なさけ)はあらずとも
055君(きみ)のみそばに細(ほそ)く咲(さ)くべし
056人(ひと)の目(め)を漸(やうや)くここにしのび草(ぐさ)
057しのびかねたるわが思(おも)ひかな』
058 艶男(あでやか)は白萩(しらはぎ)の情(なさけ)のこもる言葉(ことば)に、059ほつと当惑(たうわく)しながら、060こともなげに鏡(かがみ)の湖面(こめん)を眺(なが)めてゐる。061白萩(しらはぎ)は水面(すゐめん)の小波(さざなみ)を指(ゆび)さしながら、
062『みそなはせ鏡(かがみ)の湖(うみ)の小波(さざなみ)の
063底(そこ)の心(こころ)は動(うご)かざるらむ
064鏡湖(かがみこ)の底(そこ)ひもしらぬわが思(おも)ひ
065写(うつ)して匂(にほ)ふ白萩(しらはぎ)の花(はな)よ
066八千尋(やちひろ)の底(そこ)ひもしらぬ思(おも)ひねを
067君(きみ)は知(し)らずやみそなはさずや
068君(きみ)のために玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)消(き)ゆるとも
069悔(く)いなき吾(われ)と思召(おぼしめ)さずや
070斯(か)くならば生命(いのち)死(し)すとも動(うご)かまじ
071深(ふか)き心(こころ)をくみとらすまでは
072伊吹山(いぶきやま)百草(ももぐさ)千草(ちぐさ)匂(にほ)へども
073君(きみ)のよそほひに勝(まさ)る花(はな)なし
074玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)をかけて恋(こ)ひ慕(した)ふ
075君(きみ)は情(つれ)なき薊(あざみ)の花(はな)かも』
076 艶男(あでやか)は歌(うた)ふ。
077『さまざまの汝(な)が言霊(ことたま)に打出(うちだ)され
078吾(われ)はいらへの言葉(ことば)だになし
079はろばろと波(なみ)の秀(ほ)ふみて来(き)ながらに
080かかるなやみは思(おも)はざりけり
081竜宮(りうぐう)の島(しま)の乙女(をとめ)に囲(かこ)まれて
082吾(われ)は行手(ゆくて)をふさがれにけり
083足引(あしびき)の山(やま)より高(たか)き父母(ふぼ)の恩(おん)
084おもへば春(はる)の心(こころ)起(おこ)らじ
085伊吹山(いぶきやま)尾根(をね)より吹(ふ)き来(く)る青嵐(せいらん)を
086朝夕(あさゆふ)あびて戦(をのの)く吾(われ)なり
087竜宮(りうぐう)の恋(こひ)の嵐(あらし)の強(つよ)ければ
088わが身(み)はかなく散(ち)らむとするも』
089 斯(か)く歌(うた)ふ折(をり)しも、090鏡湖(かがみこ)の波(なみ)を左右(さいう)に分(わ)けて、091あらはれ来(きた)る三柱(みはしら)の女神(めがみ)あり。092主(あるじ)と思(おぼ)しきは前(まへ)に立(た)ち、093稍(やや)年(とし)若(わか)き乙女(をとめ)は後辺(うしろべ)に立(た)ち、094悠々(いういう)として水面(すゐめん)を渡(わた)りながら、095艶男(あでやか)の憩(いこ)ふ百津(ゆつ)桂木(かつらぎ)の樹蔭(こかげ)に、096莞爾(くわんじ)として寄(よ)り来(きた)る。097白萩(しらはぎ)はこれを見(み)るより、098忽(たちま)ち大地(だいち)にひれ伏(ふ)し、099「ウオーウオー」と叫(さけ)びながら恭敬(きようけい)礼拝(らいはい)怠(をこた)りなく、100頭(かしら)を大地(だいち)につけたるまま身動(みうご)きもせず、101うづくまり居(ゐ)る。102女神(めがみ)は樹蔭(こかげ)に憩(いこ)ふ艶男(あでやか)に軽(かる)く黙礼(もくれい)し、103紅(くれなゐ)の唇(くちびる)を開(ひら)き、
104『御祖神(みおやがみ)の御子(みこ)あれますと聞(き)きしより
105そこひを分(わ)けて吾(われ)は来(き)にけり
106吾(われ)こそは大海津見(おほわだつみ)の神(かみ)の愛娘(まなむすめ)
107海津見(わだつみ)姫(ひめ)とよばるる神(かみ)なり
108竜宮(りうぐう)の島根(しまね)は未(いま)だ稚(わか)けれど
109汝(なれ)が力(ちから)をもちてつくれよ
110この島(しま)をつくり固(かた)めて御子(みこ)を生(う)み
111いや永久(とこしへ)に守(まも)らせ給(たま)へ
112竜宮(りうぐう)の島根(しまね)は恋(こひ)の島ケ根(しまがね)よ
113愛(あい)の花(はな)咲(さ)く神(かむ)さだめ島(じま)
114姫神(ひめがみ)の数多(あまた)住(す)まへるこの島(しま)に
115渡(わた)りし君(きみ)は助(たす)けの神(かみ)ぞや
116人体(じんたい)をうまらにつばらに備(そな)へざる
117女神(めがみ)を救(すく)へ神(かみ)のまにまに
118天地(あめつち)の百(もも)の草木(くさき)をことごとく
119この島ケ根(しまがね)に植(う)ゑ生(お)はしける
120この島(しま)は海津見(わだつみ)の神(かみ)の真秀良場(まほらば)よ
121われも折々(をりをり)来(きた)りてあそべる
122水(みづ)清(きよ)き鏡(かがみ)の湖(いけ)は海津見(わだつみ)の
123神(かみ)の宮居(みやゐ)の入口(いりぐち)ぞかし
124ここに来(き)て弱(よわ)き心(こころ)をもたすまじ
125全(まつた)き神子(みこ)を生(う)むべき島根(しまね)よ
126八十姫(やそひめ)の願(ねが)ひことごときき入(い)れて
127この島ケ根(しまがね)をにぎはせ給(たま)へ』
128 艶男(あでやか)はおそるおそるこれに答(こた)ふ。
129『如何(いか)にして百(もも)の女神(めがみ)にまみえなむ
130身体(からたま)の弱(よわ)きひとり身(み)吾(われ)は
131ゆくりなくこの島ケ根(しまがね)に渡(わた)り来(き)て
132百(もも)の乙女(をとめ)におそはれにける
133男(を)の子(こ)吾(われ)ひるまじものとおもへども
134ねたみ心(ごころ)を如何(いか)にをさめむ
135ねたましき心(こころ)をもつは姫神(ひめがみ)の
136常(つね)と知(し)る故(ゆゑ)ためらひ居(を)るなり』
137 海津見(わだつみ)姫(ひめ)の神(かみ)は淑(しと)やかに宣(の)り給(たま)ふ。
138『心(こころ)弱(よわ)きことを宣(の)らすな汝(な)は男(を)の子(こ)
139雄々(をを)しく清(すが)しくあるべきものを
140艶男(あでやか)の名(な)を負(お)ひませる君(きみ)なれば
141ねたみ心(ごころ)におそはるべしやは
142この島(しま)の女神(めがみ)はのこらず神(かみ)なれば
143ねたむ心(こころ)は露(つゆ)程(ほど)もなし
144稚(わか)き国土(くに)をつくり固(かた)むる業(わざ)なれば
145ためらふことなく進(すす)ませ給(たま)へ』
146 艶男(あでやか)はこれに答(こた)へて、
147『姫神(ひめがみ)の心(こころ)はよしと思(おも)へども
148吾(われ)には及(およ)ばず国津(くにつ)神(かみ)の身(み)よ』
149 海津見(わだつみ)の神(かみ)は、
150『日(ひ)を重(かさ)ね時(とき)をけみして次々(つぎつぎ)に
151心(こころ)雄々(をを)しく進(すす)ませ給(たま)はむ』
152 斯(か)く歌(うた)ひながら姫神(ひめがみ)は静々(しづしづ)と二人(ふたり)の侍女(じぢよ)と共(とも)に、153芒(すすき)の穂(ほ)の上(うへ)を軽(かる)く渡(わた)りながら、154大竜身彦(おほたつみひこ)の命(みこと)の宮殿(きうでん)深(ふか)く御姿(みすがた)をかくさせ給(たま)ひぬ。155艶男(あでやか)と白萩(しらはぎ)は姫神(ひめがみ)を粛然(しゆくぜん)として見送(みおく)り、156御影(みかげ)の見(み)えぬ迄(まで)伸(の)び上(あが)り伸(の)び上(あが)り眺(なが)めて居(ゐ)たが、157ここに艶男(あでやか)は不審(ふしん)の念(ねん)にうたれつつ、158諸手(もろて)を組(く)み、159太(ふと)き息(いき)をもらし思案(しあん)にくれてゐる。160白萩(しらはぎ)は白衣(びやくえ)の袖(そで)の艶男(あでやか)の息(いき)のさはるところまで近寄(ちかよ)り来(きた)り、161露(つゆ)の滴(したた)るまなざしを涼(すず)しくひらきながら、162あらゆる媚(こび)を呈(てい)し、163艶男(あでやか)の左手(ゆんで)を握(にぎ)らむとせしにぞ、164艶男(あでやか)は青天(せいてん)の霹靂(へきれき)の如(ごと)く驚(おどろ)き、165二三十(にさんじつ)歩(ぽ)後方(しりへ)に飛(と)び退(しりぞ)き、166呆然(ばうぜん)として白萩(しらはぎ)の面(おも)を見(み)つめてゐる。167白萩(しらはぎ)はかなしき声(こゑ)をはり上(あ)げながら、
168『情(なさけ)なやわがおもふ君(きみ)は白萩(しらはぎ)の
169梢(うれ)をもみゆく嵐(あらし)なりけり
170雨(あめ)霰(あられ)嵐(あらし)は如何(いか)に強(つよ)くとも
171たゆまざるべし白萩(しらはぎ)の吾(われ)は
172この島(しま)に渡(わた)り来(き)ませる君(きみ)なれば
173如何(いか)でのがさじ弥猛心(やたけごころ)に
174姫神(ひめがみ)の御言葉(みことば)汝(なれ)はきかざるや
175たゆまずひるまず手折(たを)らせ給(たま)へ
176いやしかるわが身体(からたま)におぢおそれ
177いなみ給(たま)ふか情(なさけ)なき君(きみ)
178身体(からたま)はよし竜体(りうたい)と生(うま)るとも
179恋(こひ)てふ心(こころ)に変(かは)りあるべき』
180 艶男(あでやか)は決心(けつしん)の臍(ほぞ)を固(かた)め、181しばしの虎口(ここう)を遁(のが)れむと、182腕(うで)を組(く)みながら憮然(ぶぜん)として歌(うた)ふ。
183『はづかしさ恋(こひ)しさあまりてただ吾(われ)は
184手折(たを)らむ道(みち)をためらひにけり
185さりながらしばしを待(ま)たせ給(たま)へかし
186吾(われ)には一(ひと)つの病(やまひ)ありせば
187この病(やまひ)癒(い)ゆるを待(ま)ちて白萩(しらはぎ)の
188君(きみ)にまみえむよき日(ひ)あるべし』
189 白萩(しらはぎ)は満面(まんめん)を輝(かがや)かしながら素直(すなほ)に歌(うた)ふ。
190『村肝(むらきも)の心(こころ)つくせし甲斐(かひ)ありて
191艶男(あでやか)の君(きみ)の心(こころ)うごきぬ
192嬉(うれ)しさにわが魂(たましひ)は輝(かがや)きぬ
193幾日(いくひ)まつとも吾(われ)は恨(うら)まじ
194斯(かく)の如(ごと)やさしき君(きみ)と知(し)らずして
195なやめ奉(まつ)りし心(こころ)はづかし
196いざさらば御殿(みとの)に送(おく)り奉(まつ)るべし
197早立(はやた)たせませ桂木(かつらぎ)の蔭(かげ)を』
198艶男(あでやか)の言葉(ことば)の風(かぜ)に白萩(しらはぎ)は
199心(こころ)静(しづ)かに打(う)ちなびきたり
200村肝(むらきも)の心(こころ)満(み)たねど艶男(あでやか)は
201白萩(しらはぎ)と共(とも)に御殿(みとの)にかへれり。
202(昭和九・七・一七 旧六・六 於関東別院南風閣 内崎照代謹録)
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