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霊界物語
天祥地瑞(第73~81巻)
第79巻(午の巻)
序文
総説
第1篇 竜の島根
第1章 湖中の怪
第2章 愛の追跡
第3章 離れ島
第4章 救ひの船
第5章 湖畔の遊び
第6章 再会
第2篇 竜宮風景
第7章 相聞(一)
第8章 相聞(二)
第9章 祝賀の宴(一)
第10章 祝賀の宴(二)
第11章 瀑下の乙女
第12章 樹下の夢
第13章 鰐の背
第14章 再生の歓び
第15章 宴遊会
第3篇 伊吹の山颪
第16章 共鳴の庭
第17章 還元竜神
第18章 言霊の幸
第19章 大井の淵
第20章 産の悩み
第21章 汀の歎き
第22章 天変地妖
第23章 二名の島
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第79巻(午の巻)
> 第3篇 伊吹の山颪 > 第19章 大井の淵
<<< 言霊の幸
(B)
(N)
産の悩み >>>
第一九章
大井
(
おほゐ
)
の
淵
(
ふち
)
〔二〇〇〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第79巻 天祥地瑞 午の巻
篇:
第3篇 伊吹の山颪
よみ(新仮名遣い):
いぶきのやまおろし
章:
第19章 大井の淵
よみ(新仮名遣い):
おおいのふち
通し章番号:
2000
口述日:
1934(昭和9)年07月19日(旧06月8日)
口述場所:
関東別院南風閣
筆録者:
白石恵子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1934(昭和9)年10月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
水上山は艶男が帰ってきてからは生活が豊かになり、国津神たちは泰平の世を謳歌した。
艶男と燕子花は、朝夕に庭園に出て仲むつまじく逍遥していたが、燕子花はなぜか水辺を好み、大井川の清流をじっと見つめて浮かない顔をしていた。
艶男は燕子花にそのわけを尋ねた。すると、燕子花は、竜神の性が体に残っており、川で水浴したいという思いが、流れる水への慕わしさをかきたてるのだ、と答えた。
そして、ひとりで思うまま水浴することができるよう、大井川をせきとめて、淀を作ってくれるよう、艶男に頼み込んだ。
艶男はさっそく国津神たちを集めて堰をつくった。この堰は大井の堰と名づけられ、あふれた川水が滝となって下流に落ちていく様は、壮観であった。
燕子花は月が昇った後に、艶男に告げて、ひとりで大井の川瀬に水浴に出かけた。艶男は妻の様子が腑に落ちないので、ひそかに大井の川瀬に出て、葦草の中に身を潜めて、妻の挙動をうかがっていた。
燕子花は真裸になって水中に飛び込むと、体は元の竜神の体に変じ、うろこの間の虫を洗い落としていた。
燕子花は水上に顔だけのぞかせて水浴していたので、艶男は燕子花が竜体に戻ってしまったことは少しも気づかなかった。そこで、みぎわ辺に立って、妻に歌いかけた。燕子花は答えの歌を歌い、もうすぐ水浴を終わって戻るから、心配せずに帰るよう、艶男に歌いかけた。
艶男が帰ったのを見届けて、燕子花は水中を駆け回り、水煙を上げて泳ぎ回ったが、ようやくみぎわ辺に這い上がると、呪文を唱え、人体と化した。そして、何食わぬ顔で夫の館を指して帰って行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7919
愛善世界社版:
八幡書店版:
第14輯 258頁
修補版:
校定版:
353頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
水上山
(
みなかみやま
)
の
神館
(
かむやかた
)
は、
002
艶男
(
あでやか
)
の
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
りしより、
003
忽
(
たちま
)
ち
歓楽郷
(
くわんらくきやう
)
と
化
(
くわ
)
し、
004
豊
(
ゆた
)
かなる
木
(
こ
)
の
実
(
み
)
、
005
野菜
(
やさい
)
等
(
とう
)
を
食
(
しよく
)
して、
006
此
(
この
)
辺
(
あた
)
りの
国津神
(
くにつかみ
)
等
(
たち
)
は
生活
(
せいくわつ
)
の
苦
(
く
)
も
知
(
し
)
らず、
007
天地
(
てんち
)
の
恵
(
めぐみ
)
に
浴
(
よく
)
し、
008
至治
(
しち
)
泰平
(
たいへい
)
の
御代
(
みよ
)
を
謳歌
(
おうか
)
せり。
009
艶男
(
あでやか
)
は
燕子花
(
かきつばた
)
を
此上
(
こよ
)
なきものと
愛
(
め
)
でいつくしみ、
010
朝夕
(
あしたゆふべ
)
を
庭園
(
ていゑん
)
に
出
(
い
)
で、
011
睦
(
むつ
)
まじく
手
(
て
)
を
取
(
と
)
り
逍遥
(
せうえう
)
しつつありしが、
012
燕子花
(
かきつばた
)
は
何故
(
なにゆゑ
)
か
水辺
(
すいへん
)
を
好
(
この
)
み、
013
大井川
(
おほゐがは
)
の
清流
(
せいりう
)
をじつと
見詰
(
みつ
)
めて
浮
(
う
)
かざるが
常
(
つね
)
なりける。
014
艶男
(
あでやか
)
は
燕子花
(
かきつばた
)
の
様子
(
やうす
)
を
怪
(
あや
)
しみながら、
015
歌
(
うた
)
もて
姫
(
ひめ
)
の
心
(
こころ
)
を
探
(
さぐ
)
らむと、
016
声
(
こゑ
)
も
清
(
すが
)
しく
歌
(
うた
)
ひける。
017
『
水
(
みづ
)
清
(
きよ
)
き
此
(
この
)
川
(
かは
)
の
辺
(
べ
)
に
佇
(
たたず
)
みて
018
物思
(
ものも
)
ひげなる
君
(
きみ
)
のあやしさ
019
汝
(
な
)
が
面
(
おもて
)
よくよく
見
(
み
)
ればまなかひに
020
赤
(
あか
)
き
涙
(
なみだ
)
を
浮
(
うか
)
ばせ
給
(
たま
)
へる
021
古里
(
ふるさと
)
の
恋
(
こひ
)
しき
故
(
ゆゑ
)
か
汀辺
(
みぎはべ
)
に
022
立
(
た
)
たせる
君
(
きみ
)
の
面
(
おも
)
は
淋
(
さび
)
しき
023
燕子花
(
かきつばた
)
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ひたる
汀辺
(
みぎはべ
)
も
024
幾度
(
いくたび
)
見
(
み
)
れば
飽
(
あ
)
くべきものを
025
川
(
かは
)
の
辺
(
べ
)
のわれは
遊
(
あそ
)
びに
飽
(
あ
)
きはてぬ
026
されども
君
(
きみ
)
は
恋
(
こひ
)
しげなりけり』
027
燕子花
(
かきつばた
)
は
覚束
(
おぼつか
)
なき
声
(
こゑ
)
にて
歌
(
うた
)
ふ。
028
『わが
君
(
きみ
)
の
言葉
(
ことば
)
畏
(
かしこ
)
しわれは
只
(
ただ
)
029
流
(
なが
)
るる
水
(
みづ
)
の
恋
(
こひ
)
しかりけり
030
日
(
ひ
)
に
一度
(
いちど
)
川水
(
かはみづ
)
の
流
(
なが
)
れ
眺
(
なが
)
めずば
031
わが
身体
(
からたま
)
は
燃
(
も
)
えむとするも
032
竜神
(
たつがみ
)
の
性
(
さが
)
を
保
(
たも
)
つか
吾
(
わが
)
身体
(
からだ
)
033
流
(
なが
)
るる
水
(
みづ
)
を
慕
(
した
)
はしと
思
(
おも
)
ふ
034
わが
君
(
きみ
)
の
御許
(
みゆる
)
しあらば
衣
(
きぬ
)
ぬぎて
035
此
(
この
)
川中
(
かはなか
)
に
浸
(
ひた
)
らむものを』
036
艶男
(
あでやか
)
は
答
(
こた
)
へて
歌
(
うた
)
ふ。
037
『
汝
(
な
)
が
願
(
ねがひ
)
いとも
易
(
やす
)
けし
村肝
(
むらきも
)
の
038
心
(
こころ
)
のままに
浸
(
ひた
)
らせ
給
(
たま
)
へ
039
月
(
つき
)
も
日
(
ひ
)
も
流
(
なが
)
るる
大井
(
おほゐ
)
の
川水
(
かはみづ
)
は
040
花
(
はな
)
の
香
(
か
)
漂
(
ただよ
)
ふ
泉
(
いづみ
)
なりけり
041
川底
(
かはそこ
)
の
真砂
(
まさご
)
も
照
(
て
)
れり
行
(
ゆ
)
く
水
(
みづ
)
の
042
膚
(
はだ
)
を
透
(
すか
)
して
日
(
ひ
)
の
流
(
なが
)
るれば
043
夕
(
ゆふ
)
ざれば
月
(
つき
)
の
流
(
なが
)
るる
大井川
(
おほゐがは
)
044
居
(
ゐ
)
ながらに
見
(
み
)
るわが
身
(
み
)
は
清
(
すが
)
しも』
045
燕子花
(
かきつばた
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
046
『
素裸
(
すはだか
)
となるは
恥
(
はづ
)
かし
願
(
ねが
)
はくば
047
われのみ
一人
(
ひとり
)
川
(
かは
)
に
入
(
い
)
りたし
048
御心
(
みこころ
)
の
花
(
はな
)
を
散
(
ち
)
らすか
知
(
し
)
らねども
049
夕
(
ゆふ
)
べの
川
(
かは
)
に
一人
(
ひとり
)
浴
(
あ
)
みたし』
050
艶男
(
あでやか
)
は
稍
(
やや
)
色
(
いろ
)
をなしながら
歌
(
うた
)
ふ。
051
『
心
(
こころ
)
なき
事
(
こと
)
を
宣
(
の
)
らすよ
鴛鴦
(
をしどり
)
の
052
番
(
つがひ
)
はなれぬ
契
(
ちぎ
)
りならずや
053
秋風
(
あきかぜ
)
は
川
(
かは
)
の
面
(
おもて
)
に
吹
(
ふ
)
きつけて
054
汀
(
みぎは
)
の
萩
(
はぎ
)
は
散
(
ち
)
らむとぞする
055
よしやよし
汝
(
なれ
)
の
心
(
こころ
)
は
離
(
さか
)
るとも
056
われは
忘
(
わす
)
れじ
貴
(
うづ
)
のよそほひ』
057
燕子花
(
かきつばた
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
058
『かくまでも
思
(
おも
)
はす
君
(
きみ
)
の
真心
(
まごころ
)
に
059
そむく
思
(
おも
)
へば
悲
(
かな
)
しかりけり
060
折々
(
をりをり
)
は
元津姿
(
もとつすがた
)
に
立
(
た
)
ちかへり
061
わが
身体
(
からたま
)
を
清
(
きよ
)
めたく
思
(
おも
)
ふ
062
わが
姿
(
すがた
)
君
(
きみ
)
に
見
(
み
)
らるる
苦
(
くる
)
しさに
063
かくも
情
(
つれ
)
なきことを
宣
(
の
)
りつる
064
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
よ
広
(
ひろ
)
き
心
(
こころ
)
に
見直
(
みなほ
)
して
065
妾
(
わらは
)
の
願
(
ねがひ
)
をただに
許
(
ゆる
)
せよ』
066
艶男
(
あでやか
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
067
『
汝
(
な
)
がなやみわれは
知
(
し
)
らぬにあらねども
068
寸時
(
すんじ
)
もはなるる
事
(
こと
)
の
苦
(
くる
)
しき
069
何故
(
なにゆゑ
)
か
此
(
この
)
川上
(
かはかみ
)
に
聳
(
そび
)
え
立
(
た
)
つ
070
藤ケ丘
(
ふぢがをか
)
べに
煙
(
けむり
)
立
(
た
)
ちたつ』
071
燕子花
(
かきつばた
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
072
『
君
(
きみ
)
を
思
(
おも
)
ふあつき
心
(
こころ
)
の
燃
(
も
)
え
立
(
た
)
ちて
073
竜神
(
たつがみ
)
の
水火
(
いき
)
燃
(
も
)
ゆるなるらむ
074
願
(
ねが
)
はくば
此
(
この
)
川水
(
かはみづ
)
をせきとめて
075
水
(
みづ
)
を
淀
(
よど
)
ませ
遊
(
あそ
)
ばせ
給
(
たま
)
へ』
076
艶男
(
あでやか
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
077
『
汝
(
な
)
が
願
(
ねがひ
)
われ
諾
(
うべな
)
ひて
明日
(
あす
)
よりは
078
国津神
(
くにつかみ
)
等
(
ら
)
にせきとめさせむ
079
汝
(
なれ
)
おもふ
心
(
こころ
)
の
深
(
ふか
)
さ
淵
(
ふち
)
となれば
080
此
(
この
)
行
(
ゆ
)
く
水
(
みづ
)
をせきとめて
見
(
み
)
む』
081
燕子花
(
かきつばた
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
082
『ありがたし
君
(
きみ
)
の
真心
(
まごころ
)
清
(
きよ
)
らけく
083
深
(
ふか
)
きを
思
(
おも
)
ひて
涙
(
なみだ
)
ぐまるる』
084
斯
(
か
)
く
互
(
たがひ
)
に
歌
(
うた
)
もて
語
(
かた
)
り
合
(
あ
)
ひながら、
085
月
(
つき
)
の
傾
(
かたむ
)
く
夕
(
ゆふ
)
まぐれ、
086
館
(
やかた
)
をさして
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
087
艶男
(
あでやか
)
は
数多
(
あまた
)
の
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
を
呼
(
よ
)
び
集
(
つど
)
へ、
088
川中
(
かはなか
)
に
散布
(
さんぷ
)
せる
大岩
(
おほいは
)
小岩
(
こいは
)
を
集
(
あつ
)
めて、
089
大井川
(
おほゐがは
)
の
水
(
みづ
)
をせきとむべく、
090
堰
(
せき
)
を
造
(
つく
)
らしめた。
091
川
(
かは
)
は
次第
(
しだい
)
に
深
(
ふか
)
まり
行
(
ゆ
)
きて、
092
幾十丈
(
いくじふぢやう
)
の
深
(
ふか
)
き
淵
(
ふち
)
とはなりける。
093
此
(
この
)
堰
(
せき
)
は
大井
(
おほゐ
)
の
堰
(
せき
)
と
名附
(
なづ
)
けられたり。
094
大井
(
おほゐ
)
の
堰
(
せき
)
をあふれ
流
(
なが
)
るる
川水
(
かはみづ
)
は、
095
滝
(
たき
)
となりて
下流
(
かりう
)
にくだち
行
(
ゆ
)
く。
096
その
壮観
(
さうくわん
)
さ、
097
恰
(
あたか
)
も
天
(
あま
)
の
河原
(
かはら
)
の
一直線
(
いつちよくせん
)
に
地上
(
ちじやう
)
に
向
(
むか
)
つて
落
(
お
)
つるが
如
(
ごと
)
し。
098
四天王
(
してんのう
)
の
職
(
しよく
)
に
仕
(
つか
)
へたる
岩ケ根
(
いはがね
)
、
099
真砂
(
まさご
)
、
100
白砂
(
しらさご
)
、
101
水音
(
みなおと
)
、
102
瀬音
(
せおと
)
の
面々
(
めんめん
)
は、
103
この
滝津瀬
(
たきつせ
)
の
壮観
(
さうくわん
)
を
見
(
み
)
むとて、
104
半日
(
はんにち
)
の
清遊
(
せいいう
)
を
試
(
こころ
)
みつつ、
105
各自
(
おのもおのも
)
心
(
こころ
)
の
丈
(
たけ
)
を
歌
(
うた
)
ふ。
106
岩ケ根
(
いはがね
)
の
歌
(
うた
)
。
107
『
雄々
(
をを
)
しくもまた
清
(
すが
)
しけれ
大井川
(
おほゐがは
)
108
漲
(
みなぎ
)
り
落
(
お
)
つる
音
(
おと
)
の
高
(
たか
)
きも
109
水上山
(
みなかみやま
)
麓
(
ふもと
)
にかかる
高滝
(
たかたき
)
の
110
あれしは
神代
(
かみよ
)
ゆ
聞
(
き
)
かずありけり
111
岩ケ根
(
いはがね
)
につき
固
(
かた
)
めたる
川堰
(
かはせき
)
の
112
千代
(
ちよ
)
に
八千代
(
やちよ
)
もゆるがずあれかし
113
川水
(
かはみづ
)
は
玉
(
たま
)
と
散
(
ち
)
りつつ
高堰
(
たかせき
)
を
114
輝
(
かがや
)
き
落
(
お
)
つる
雄々
(
をを
)
しさ
清
(
すが
)
しさ
115
音
(
おと
)
にきく
竜宮島
(
りうぐうじま
)
の
琴滝
(
ことだき
)
も
116
此
(
こ
)
の
滝津瀬
(
たきつせ
)
には
及
(
およ
)
ばざるらむ
117
たうたうと
落
(
お
)
つる
滝津瀬
(
たきつせ
)
の
音
(
おと
)
清
(
きよ
)
く
118
夜
(
よる
)
は
殊更
(
ことさら
)
とどろき
強
(
つよ
)
し
119
高堰
(
たかせき
)
を
造
(
つく
)
りし
日
(
ひ
)
より
水
(
みづ
)
深
(
ふか
)
み
120
百
(
もも
)
の
魚族
(
うろくづ
)
集
(
あつま
)
り
来
(
きた
)
れる
121
舟
(
ふね
)
うけてこれの
淀
(
よど
)
みに
遊
(
あそ
)
びなば
122
心
(
こころ
)
清
(
すが
)
しくはえましものを
123
川底
(
かはそこ
)
も
見
(
み
)
えわかぬまで
水
(
みづ
)
深
(
ふか
)
み
124
流
(
なが
)
れは
緩
(
ゆる
)
くなりにけらしな
125
此
(
この
)
堰
(
せき
)
の
築
(
きづ
)
かれしより
水上山
(
みなかみやま
)
126
貴
(
うづ
)
の
神苑
(
みその
)
に
川水
(
かはみづ
)
注
(
そそ
)
ぐも
127
庭
(
には
)
の
面
(
も
)
に
大魚
(
おほな
)
や
小魚
(
さな
)
は
溌溂
(
はつらつ
)
と
128
遊
(
あそ
)
びて
千歳
(
ちとせ
)
を
祝
(
いは
)
ふ
春
(
はる
)
なり』
129
真砂
(
まさご
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
130
『
水
(
みづ
)
深
(
ふか
)
み
堰
(
せき
)
の
音
(
と
)
深
(
ふか
)
く
川底
(
かはそこ
)
の
131
真砂
(
まさご
)
は
見
(
み
)
えずなりにけらしな
132
大岩
(
おほいは
)
を
高
(
たか
)
く
畳
(
たた
)
みて
築
(
きづ
)
きたる
133
此
(
この
)
高堰
(
たかせき
)
は
見
(
み
)
るもさやけし
134
日並
(
けなら
)
べて
大雨
(
おほあめ
)
降
(
ふ
)
らば
如何
(
いか
)
にせむと
135
思
(
おも
)
ひわづらふわれなりにけり
136
滝津瀬
(
たきつせ
)
の
音
(
おと
)
は
昼夜
(
ひるよる
)
響
(
ひび
)
かひて
137
水上山
(
みなかみやま
)
の
神苑
(
みその
)
にぎはし
138
川水
(
かはみづ
)
は
俄
(
には
)
かに
淵
(
ふち
)
となり
行
(
ゆ
)
きて
139
底
(
そこ
)
ひも
見
(
み
)
えずなりにけるかも
140
竜神
(
たつがみ
)
の
棲
(
す
)
むによろしき
此
(
この
)
淵
(
ふち
)
は
141
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
るさへ
怖
(
お
)
ぢ
気
(
け
)
立
(
た
)
つなり
142
あをあをと
水
(
みづ
)
を
湛
(
たた
)
へし
此
(
この
)
淵
(
ふち
)
の
143
深
(
ふか
)
き
秘密
(
ひみつ
)
を
知
(
し
)
るや
知
(
し
)
らずや
144
燕子花
(
かきつばた
)
姫
(
ひめ
)
の
命
(
みこと
)
の
願事
(
ねぎごと
)
に
145
なりし
淵瀬
(
ふちせ
)
と
思
(
おも
)
へば
床
(
ゆか
)
し』
146
白砂
(
しらさご
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
147
『
大井堰
(
おほゐせき
)
の
上手
(
かみて
)
の
水
(
みづ
)
は
淵
(
ふち
)
なせど
148
底
(
そこ
)
の
白砂
(
しらさご
)
ありありと
見
(
み
)
ゆ
149
白砂
(
しらさご
)
の
色
(
いろ
)
あをむまで
湛
(
たた
)
へたる
150
これの
淵瀬
(
ふちせ
)
の
深
(
ふか
)
くもあるかな
151
燕子花
(
かきつばた
)
姫
(
ひめ
)
の
命
(
みこと
)
の
真心
(
まごころ
)
は
152
此
(
この
)
淵瀬
(
ふちせ
)
より
深
(
ふか
)
かりにけむ
153
思
(
おも
)
ふ
事
(
こと
)
一
(
ひと
)
つも
成
(
な
)
らぬ
事
(
こと
)
のなき
154
艶男
(
あでやか
)
の
君
(
きみ
)
の
設計
(
しぐみ
)
かしこし』
155
水音
(
みなおと
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
156
『
大井堰
(
おほゐせき
)
高
(
たか
)
くかかりて
落
(
お
)
ちたぎつ
157
水音
(
みなおと
)
とみに
強
(
つよ
)
く
響
(
ひび
)
けり
158
水
(
みづ
)
の
音
(
おと
)
高
(
たか
)
く
響
(
ひび
)
きて
大井川
(
おほゐがは
)
159
汀
(
みぎは
)
の
葦
(
あし
)
もそよぎはげしき
160
藤波
(
ふぢなみ
)
や
山吹
(
やまぶき
)
の
花
(
はな
)
は
水底
(
みなそこ
)
に
161
簾
(
すだれ
)
の
如
(
ごと
)
くかかれるが
見
(
み
)
ゆ
162
水音
(
みなおと
)
を
消
(
け
)
して
鳴
(
な
)
きたつ
汀辺
(
みぎはべ
)
の
163
河鹿
(
かじか
)
の
声
(
こゑ
)
は
高
(
たか
)
まりにけり
164
此
(
この
)
淵
(
ふち
)
の
汀
(
みぎは
)
に
河鹿
(
かじか
)
集
(
あつま
)
りて
165
ここを
清所
(
すがど
)
と
鳴
(
な
)
きたつるかも
166
岩
(
いは
)
を
噛
(
か
)
みし
水音
(
みなおと
)
さへもをさまりて
167
水
(
みづ
)
たかまりし
大井
(
おほゐ
)
の
淵
(
ふち
)
かな
168
日
(
ひ
)
も
月
(
つき
)
も
静
(
しづ
)
かに
浮
(
うか
)
ぶ
大井
(
おほゐ
)
ケ
淵
(
ふち
)
の
169
ながめよろしも
花
(
はな
)
もうつらふ』
170
瀬音
(
せおと
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
171
『
大井川
(
おほゐがは
)
水
(
みづ
)
もどよみて
朝夕
(
あさゆふ
)
に
172
響
(
ひび
)
かふ
瀬音
(
せおと
)
消
(
き
)
えにけるかも
173
水
(
みづ
)
浅
(
あさ
)
く
清
(
きよ
)
く
流
(
なが
)
れし
大井川
(
おほゐがは
)
も
174
堰
(
せき
)
の
高
(
たか
)
さに
深
(
ふか
)
まりにけり
175
瀬
(
せ
)
の
音
(
おと
)
はいづらに
行
(
ゆ
)
きし
今
(
いま
)
は
只
(
ただ
)
176
鴨
(
かも
)
の
羽
(
は
)
ばたき
聞
(
きこ
)
ゆるのみなる
177
水鳥
(
みづどり
)
はいより
集
(
つど
)
ひて
魚族
(
うろくづ
)
を
178
食
(
は
)
まむとするか
浮
(
う
)
きつ
潜
(
もぐ
)
りつ
179
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
神代
(
かみよ
)
にもなき
此
(
この
)
川
(
かは
)
の
180
堰
(
せき
)
のなりしはめでたかりけり』
181
各自
(
おのもおのも
)
司神
(
つかさがみ
)
等
(
ら
)
は
此
(
この
)
滝水
(
たきみづ
)
を
賞
(
ほ
)
めそやしながら、
182
たそがるる
頃
(
ころ
)
家路
(
いへぢ
)
を
指
(
さ
)
して
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
183
夕月
(
ゆふづき
)
のかげは
銀色
(
ぎんいろ
)
の
光
(
ひかり
)
を
放
(
はな
)
つて、
184
高光山
(
たかみつやま
)
の
尾根
(
をね
)
より
昇
(
のぼ
)
り
給
(
たま
)
へば、
185
時
(
とき
)
こそよしと
燕子花
(
かきつばた
)
は、
186
大井
(
おほゐ
)
の
川瀬
(
かはせ
)
に
遊
(
あそ
)
ばむと、
187
艶男
(
あでやか
)
の
前
(
まへ
)
に
黙礼
(
もくれい
)
し、
188
必
(
かなら
)
ず
後
(
あと
)
をつかせたまふまじと、
189
言葉
(
ことば
)
残
(
のこ
)
して
出
(
い
)
で
行
(
ゆ
)
きぬ。
190
艶男
(
あでやか
)
は
燕子花
(
かきつばた
)
の
言葉
(
ことば
)
の、
191
如何
(
いか
)
にしても
腑
(
ふ
)
に
落
(
お
)
ちぬより、
192
そしらぬ
顔
(
かほ
)
をよそほひながら、
193
うんと
一声
(
ひとこゑ
)
うなづき
居
(
ゐ
)
たりしが、
194
時
(
とき
)
移
(
うつ
)
れども
妻
(
つま
)
の
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
らざるに
心
(
こころ
)
を
焦
(
いら
)
ち、
195
ひそかに
月下
(
げつか
)
の
庭園
(
ていゑん
)
を
伝
(
つた
)
ひて、
196
川
(
かは
)
の
辺
(
べ
)
の
葦草
(
あしぐさ
)
の
中
(
なか
)
に
身
(
み
)
をひそめ、
197
妻
(
つま
)
の
挙動
(
きよどう
)
を
窺
(
うかが
)
ひ
居
(
ゐ
)
たりける。
198
燕子花
(
かきつばた
)
は
真裸
(
まつぱだか
)
となりて
水中
(
すいちう
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み、
199
首
(
くび
)
のみを
出
(
だ
)
し、
200
元
(
もと
)
の
太刀膚
(
たちはだ
)
となりて、
201
鱗
(
うろこ
)
の
間
(
あひだ
)
に
密生
(
みつせい
)
せる
虫
(
むし
)
を
洗
(
あら
)
ひ
落
(
おと
)
しつつありしかども、
202
淵
(
ふち
)
深
(
ふか
)
ければ
其
(
その
)
姿
(
すがた
)
、
203
艶男
(
あでやか
)
の
目
(
め
)
には
見
(
み
)
えず、
204
ただ
頭部
(
とうぶ
)
のみ
月下
(
げつか
)
に
輝
(
かがや
)
けり。
205
燕子花
(
かきつばた
)
は
久方
(
ひさかた
)
ぶりに
淵水
(
ふちみづ
)
に
浴
(
あ
)
びながら、
206
その
爽快
(
さうくわい
)
さに
打
(
う
)
たれて
知
(
し
)
らず
知
(
し
)
らず
歌
(
うた
)
ふ。
207
『ああ
楽
(
たの
)
し
208
月
(
つき
)
の
浮
(
うか
)
べる
此
(
この
)
淵
(
ふち
)
に
209
わが
身体
(
からたま
)
を
浸
(
ひた
)
し
見
(
み
)
れば
210
日頃
(
ひごろ
)
なやみし
膚
(
はだ
)
の
虫
(
むし
)
も
211
真水
(
まみづ
)
におそれてはなれちる
212
今日
(
けふ
)
ははじめて
生
(
い
)
きたる
心地
(
ここち
)
よ
213
浅
(
あさ
)
ましの
214
わが
身
(
み
)
の
姿
(
すがた
)
若
(
も
)
しや
若
(
も
)
し
215
わが
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
の
目
(
め
)
に
入
(
い
)
らば
216
妹背
(
いもせ
)
の
契
(
ちぎ
)
りは
忽
(
たちま
)
ちに
217
破
(
やぶ
)
れむものと
今日
(
けふ
)
までも
218
耐
(
こら
)
へ
耐
(
こら
)
へ
苦
(
くる
)
しさよ
219
わが
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
の
御
(
おん
)
情
(
なさけ
)
220
これの
清淵
(
きよふち
)
与
(
あた
)
へられ
221
夕
(
ゆふ
)
べ
夕
(
ゆふ
)
べをたのもしく
222
遊
(
あそ
)
ぶも
嬉
(
うれ
)
しわが
魂
(
たま
)
は
223
よみがへりつつ
歓
(
ゑら
)
ぐなり
224
これの
川淵
(
かはふち
)
なかりせば
225
わが
身
(
み
)
の
生命
(
いのち
)
は
維
(
つな
)
げまじ
226
日
(
ひ
)
に
三熱
(
さんねつ
)
のなやみある
227
われには
一度
(
いちど
)
の
水浴
(
すいよく
)
も
228
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
の
思
(
おも
)
ひなり
229
ああたのもしや
清
(
すが
)
しさや
230
此
(
この
)
高堰
(
たかせき
)
のいつまでも
231
破
(
やぶ
)
れずあれや
永久
(
とこしへ
)
に
232
大井
(
おほゐ
)
の
川
(
かは
)
の
水
(
みづ
)
清
(
きよ
)
く
233
流
(
なが
)
れ
流
(
なが
)
れて
永久
(
とこしへ
)
の
234
露
(
つゆ
)
の
生命
(
いのち
)
を
保
(
たも
)
てかし
235
わが
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
のわが
姿
(
すがた
)
を
236
眺
(
なが
)
めて
恐
(
おそ
)
れ
給
(
たま
)
ひつつ
237
縁
(
えにし
)
の
糸
(
いと
)
のきれぬかと
238
案
(
あん
)
じわづらふ
年月
(
としつき
)
を
239
安
(
やす
)
けく
流
(
なが
)
す
川水
(
かはみづ
)
の
240
いさをは
実
(
げ
)
にもめでたけれ
241
ああ
惟神
(
かむながら
)
主
(
ス
)
の
神
(
かみ
)
の
242
恵
(
めぐみ
)
に
生
(
い
)
きてわが
姿
(
すがた
)
243
幾千代
(
いくちよ
)
までも
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
の
244
御
(
おん
)
目
(
め
)
に
触
(
ふ
)
れずあれよかし
245
縁
(
えにし
)
は
永久
(
とは
)
に
繁
(
つな
)
げかし
246
天津
(
あまつ
)
御
(
おん
)
神
(
かみ
)
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
247
川底
(
かはそこ
)
守
(
まも
)
る
水神
(
すいじん
)
の
248
御前
(
みまへ
)
に
謹
(
つつし
)
み
願
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る
249
御前
(
みまへ
)
を
謹
(
つつし
)
み
願
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る』
250
と
愉快
(
ゆくわい
)
げに
歌
(
うた
)
ひ
居
(
ゐ
)
たりける。
251
艶男
(
あでやか
)
は
此
(
この
)
愉快
(
ゆくわい
)
げなる
姫
(
ひめ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
ていたく
喜
(
よろこ
)
び、
252
月
(
つき
)
清
(
きよ
)
けれど、
253
さすがに
夜
(
よる
)
なれや、
254
水上
(
すゐじやう
)
の
優
(
やさ
)
しき
面
(
おも
)
のみ
見
(
み
)
えければ、
255
竜体
(
りうたい
)
に
還元
(
くわんげん
)
せし
事
(
こと
)
は
少
(
すこ
)
しも
心
(
こころ
)
づかず、
256
葦草
(
あしぐさ
)
を
分
(
わ
)
けて
汀辺
(
みぎはべ
)
に
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
で
歌
(
うた
)
ふ。
257
『
君
(
きみ
)
のかげ
気長
(
けなが
)
く
待
(
ま
)
てど
帰
(
かへ
)
りまさぬ
258
夜
(
よる
)
を
淋
(
さび
)
しみ
迎
(
むか
)
へ
来
(
き
)
つるも
259
汝
(
な
)
が
面
(
おもて
)
清
(
きよ
)
き
波間
(
なみま
)
に
浮
(
うか
)
び
出
(
い
)
でて
260
真白
(
ましろ
)
く
見
(
み
)
えぬ
月
(
つき
)
の
如
(
ごと
)
くに
261
水
(
みづ
)
の
面
(
も
)
に
浮
(
うか
)
べる
月
(
つき
)
は
汝
(
な
)
が
面
(
おも
)
に
262
まがひて
清
(
すが
)
し
玉
(
たま
)
と
映
(
は
)
えつつ
263
新
(
あたら
)
しきこれの
淵瀬
(
ふちせ
)
に
浴
(
あ
)
み
給
(
たま
)
ふ
264
君
(
きみ
)
は
竜宮
(
りうぐう
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
さずや』
265
燕子花
(
かきつばた
)
は
水
(
みづ
)
の
面
(
おもて
)
に
白
(
しろ
)
き
顔
(
かほ
)
を
浮
(
う
)
かせたるまま、
266
身体
(
からだ
)
をかくして
応
(
いら
)
への
歌
(
うた
)
をうたふ。
267
『
竜宮
(
りうぐう
)
の
島根
(
しまね
)
はもはや
飽
(
あ
)
きにけり
268
花
(
はな
)
なる
君
(
きみ
)
のおはしまさねば
269
此
(
この
)
清
(
きよ
)
き
淵
(
ふち
)
に
夜
(
よ
)
な
夜
(
よ
)
な
禊
(
みそぎ
)
して
270
あらたまりゆくわが
魂
(
たま
)
嬉
(
うれ
)
しも
271
空
(
そら
)
見
(
み
)
れば
月
(
つき
)
は
冴
(
さ
)
えたり
水底
(
みそこ
)
見
(
み
)
れば
272
真砂
(
まさご
)
は
白
(
しろ
)
く
輝
(
かがや
)
きにけり
273
此
(
この
)
清
(
きよ
)
き
淵瀬
(
ふちせ
)
に
夜
(
よ
)
な
夜
(
よ
)
な
禊
(
みそぎ
)
して
274
生
(
い
)
きの
生命
(
いのち
)
を
楽
(
たの
)
しむわれなり
275
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
は
早
(
は
)
や
帰
(
かへ
)
りませよ
今
(
いま
)
暫
(
しば
)
し
276
妾
(
わらは
)
は
禊
(
みそぎ
)
すまして
帰
(
かへ
)
らむ
277
裸身
(
はだかみ
)
を
見
(
み
)
らるる
事
(
こと
)
の
恥
(
はづ
)
かしさに
278
情
(
つれ
)
なき
言葉
(
ことば
)
を
許
(
ゆる
)
させ
給
(
たま
)
へ』
279
艶男
(
あでやか
)
は
妻
(
つま
)
の
言葉
(
ことば
)
に、
280
何
(
なん
)
の
疑
(
うたが
)
ふ
色
(
いろ
)
もなく、
281
『いざさらば
早
(
は
)
や
帰
(
かへ
)
りませわれは
今
(
いま
)
282
汝
(
なれ
)
に
先立
(
さきだ
)
ち
館
(
やかた
)
に
帰
(
かへ
)
らむ』
283
と
言
(
い
)
ひつつ
足
(
あし
)
ばやに、
284
月下
(
げつか
)
に
匂
(
にほ
)
ふ
花
(
はな
)
の
径
(
こみち
)
を
辿
(
たど
)
りて
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
285
後
(
あと
)
見送
(
みおく
)
りて
燕子花
(
かきつばた
)
は、
286
稍
(
やや
)
安心
(
あんしん
)
したものの
如
(
ごと
)
く、
287
忽
(
たちま
)
ち
水底
(
みなそこ
)
を
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
駈
(
か
)
け
巡
(
めぐ
)
り、
288
暴
(
あ
)
れ
狂
(
くる
)
ひ、
289
太刀膚
(
たちはだ
)
の
尻尾
(
しつぽ
)
を
以
(
もつ
)
て
水面
(
すゐめん
)
をはたきながら、
290
鱗
(
うろこ
)
の
間
(
あひだ
)
に
棲息
(
せいそく
)
せる
蛆
(
うじ
)
を
一匹
(
いつぴき
)
も
残
(
のこ
)
らず
払
(
はら
)
はむとして、
291
高
(
たか
)
き
水煙
(
みづけむり
)
を
立
(
た
)
てゐたりけるが、
292
漸
(
やうや
)
くにして
汀辺
(
みぎはべ
)
に
這
(
は
)
ひ
上
(
あが
)
り、
293
恭
(
うやうや
)
しく
呪文
(
じゆもん
)
を
唱
(
とな
)
へ、
294
全
(
まつた
)
き
人体
(
じんたい
)
と
化
(
くわ
)
して
白衣
(
びやくえ
)
を
身
(
み
)
に
纒
(
まと
)
ひ、
295
下半身
(
しもはんしん
)
は
緋
(
ひ
)
の
長袴
(
ながばかま
)
を
穿
(
うが
)
ち、
296
何
(
なに
)
喰
(
く
)
はぬ
顔
(
かほ
)
にてしづしづと、
297
夫
(
つま
)
の
館
(
やかた
)
をさして
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
きぬ。
298
月
(
つき
)
は
皎々
(
かうかう
)
として
大井
(
おほゐ
)
の
淵
(
ふち
)
の
水面
(
すゐめん
)
を
照
(
てら
)
し、
299
波
(
なみ
)
も
静
(
しづ
)
かに
滝津瀬
(
たきつせ
)
の
音
(
おと
)
の
高
(
たか
)
く
響
(
ひび
)
くばかりなりける。
300
(
昭和九・七・一九
旧六・八
於関東別院南風閣
白石恵子
謹録)
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(B)
(N)
産の悩み >>>
霊界物語
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天祥地瑞(第73~81巻)
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【第19章 大井の淵|第79巻|天祥地瑞|霊界物語|/rm7919】
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