霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二三章 二名(ふたな)の島(しま)〔二〇〇四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第79巻 天祥地瑞 午の巻 篇:第3篇 伊吹の山颪 よみ(新仮名遣い):いぶきのやまおろし
章:第23章 二名の島 よみ(新仮名遣い):ふたなのしま 通し章番号:2004
口述日:1934(昭和9)年07月20日(旧06月9日) 口述場所:関東別院南風閣 筆録者:白石恵子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年10月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
水上山方面の地では、数日の間天災が打ち続き、暴風雨、地鳴り震動が連続的に起こり、大井ケ堰は濁水が流れ落ちた。
大井の淵には四頭の竜神が互いに眼を怒らし、一人の艶男を奪おうと絶え間なく格闘を続け、竜体から流れる血汐は濁水に混じって朱のごとくであった。
水かさは日に日に増し、低地に住んでいた国津神たちは住家を流され、生命を奪われるものも多くあった。山神彦、川神姫は岩ケ根、瀬音、水音とともに、幼い乳飲み子をかかえ、頂上の神殿に参篭して天変地妖がおさまることを祈願したが、惨状はますます広がるばかりであった。
そこへ、黒雲を分けて喨喨たる音楽とともに、四柱の侍神を従えて、水上山の頂へ御樋代神・朝霧比女の神が降臨した。四柱の侍神は、大御照(おおみてらし)の神、朝空男の神、国生男の神、子心比女の神である。
朝霧比女の神が厳然として宣言するには、この惨状をもたらしたのは、天津神が生んで治めるべき国を、我が物顔に振舞った罪である、と。竜ケ島根はまだ完全に備わっていない国であり、竜神たちは人の顔を持っているが、身体は獣である。神の子の御魂をもって、獣の姫を娶るのは罪であり、艶男は神の掟にそむいた報いで、命を落とした。今日からは、いずれの神も心を清めて改めるべし、と。
そして、朝霧比女の神が天の数歌の言霊歌を歌うと、雷鳴、暴風雨、地震はぱったりと止まって、安静の状態にたちまち戻った。
山神彦、川神姫は、濁流が次第に減じていくのを眺めながら、神の治めるべき国を我が物としてきた罪を悟り、悔い改めを誓った。この言葉の誠を知った朝霧比女の神は、二人を許し、国の司として水上山に止まることを許した。
山神彦をはじめ、重臣の岩ケ根、水音、瀬音はそれぞれ、これまでの罪を悔い改める述懐の歌を歌った。
朝霧比女の神の侍神、大御照の神は、今は完全な神ではない竜の島根の乙女たちも、御樋代神が島に渡れば、島は生きる国となり、伊吹山に集まる曲津見たちも、花となり匂うであろう、と歌った。
また、朝空男の神は、山神彦、岩ケ根、瀬音、水音に、力をあわせ、御子が成人したら御子をこの地の司として辺りを治めさせるように託宣した。
国生男の神は、葭原の国に降って、都を造る業に携わるであろう、と歌った。
朝霧比女の神は、年老いた山神彦・川神姫は政から引退して、岩ケ根に任せること、岩ケ根は御子が成人したら、国の政治を御子に返すこと、そして御子は竜神から生まれたので、国津神たちには育てられず、子心比女の神に預けて育てさせるよう、宣言した。
子心比女の神は御子を抱えると、水上山の一同に御子の生い立ちを約束し、御樋代神とともに高光山に居を定めることを宣言した。そして、御樋代神一行は、悠然と雲を起こして、高光山方面を指して去っていった。
高光山の東に、御樋代神の御舎は建てられ、土阿(とあ)の宮殿を造って土阿の国と名づけた。そして、高光山より西を、予讃(よさ)の国と名づけた。葭原の国を総称して、貴の二名島(うづのふたなじま)と言うようになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:天の数歌 データ凡例: データ最終更新日:2025-03-02 12:33:53 文字数:3566 OBC :rm7923
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 277頁 修補版: 校定版:426頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 水上山(みなかみやま)方面(はうめん)の地(ち)は、002数日(すうじつ)の間(あひだ)天災(てんさい)地妖(ちえう)打(う)ち続(つづ)き、003雷鳴(らいめい)轟(とどろ)き電光(でんくわう)閃(ひら)めき、004暴風雨(ばうふうう)しきりに臻(いた)り、005驟雨(しうふ)沛然(はいぜん)として滝(たき)の如(ごと)く、006地鳴(ぢなり)震動(しんどう)連続(れんぞく)的(てき)に起(おこ)り、007大井(おほゐ)ケ堰(せき)は濁水(だくすゐ)滔々(たうたう)と流(なが)れ落(お)ち、008囂々(がうがう)たる水勢(すゐせい)は雷鳴(らいめい)に和(わ)して、009耳(みみ)も割(わ)るるばかりの大騒動(おほさうだう)とはなりぬ。
010 大井(おほゐ)の淵(ふち)には四頭(しとう)の竜神(りうじん)互(たがひ)に眼(まなこ)を怒(いか)らし、011一人(ひとり)の艶男(あでやか)を奪(うば)はむと、012間断(かんだん)なく格闘(かくとう)を続(つづ)け、013竜体(りうたい)より流(なが)るる血汐(ちしほ)は、014濁水(だくすい)に和(わ)して朱(しゆ)の如(ごと)く、015さすがに広(ひろ)き玉耶(たまや)の湖(うみ)も紅(くれなゐ)の湖(うみ)と変(かは)りけり。016水量(みづかさ)は日(ひ)に日(ひ)に増(ま)さり行(ゆ)きて、017低地(ていち)に住(す)める国津神(くにつかみ)等(たち)は住家(すみか)を流(なが)され、018生命(いのち)を奪(うば)はるる者(もの)多(おほ)く附近(ふきん)の山(やま)にのぼりて難(なん)を避(さ)けつつありけるが、019暴風雨(ばうふうう)と地鳴(ぢなり)との為(ため)に振(ふ)り落(おと)され、020水中(すいちう)に没(ぼつ)して生命(いのち)を失(う)するもの、021その数(かず)を知(し)らざりき。
022 山神彦(やまがみひこ)、023川神姫(かはかみひめ)は岩ケ根(いはがね)、024瀬音(せおと)、025水音(みなおと)と共(とも)に、026幼(をさな)き乳児(ちのみご)を抱(かか)へ、027頂上(ちやうじやう)の神殿(しんでん)に参籠(さんろう)して、028一(いち)時(じ)も早(はや)く天変(てんぺん)地妖(ちえう)のをさまらむ事(こと)を祈願(きぐわん)すれども、029如何(いかん)ともせむ術(すべ)もなく、030惨状(さんじやう)は益々(ますます)その度(ど)を加(くは)ふるのみ。
031 かかるところへ大空(おほぞら)の黒雲(くろくも)を分(わ)け、032四柱(よはしら)の侍神(じしん)を従(したが)へ、033嚠喨(りうりやう)たる音楽(おんがく)と共(とも)に、034水上山(みなかみやま)の頂(いただき)さして降(くだ)り給(たま)ひし神(かみ)は、035御樋代(みひしろ)神(がみ)の朝霧(あさぎり)比女(ひめ)の神(かみ)に坐(ま)しましける。036侍神(じしん)は大御照(おほみてらし)の神(かみ)、037朝空男(あさぞらを)の神(かみ)、038国生男(くにうみを)の神(かみ)、039子心(こごころ)比女(ひめ)の神(かみ)に坐(ま)しましける。
040 朝霧(あさぎり)比女(ひめ)の神(かみ)は、041天変(てんぺん)地妖(ちえう)をものともせず、042儼然(げんぜん)として宣(の)らせ給(たま)ふ。
043『われこそは主(ス)の大神(おほかみ)の神言(みこと)もて
044御樋代(みひしろ)神(がみ)と降(くだ)り来(き)つるも
045葭原(よしはら)の国土(くに)は獣(けもの)に汚(けが)されて
046天(あめ)と地(つち)との怒(いか)りを招(まね)けり
047竜ケ島(たつがしま)の乙女(をとめ)を汚(けが)せし罪(つみ)によりて
048国魂神(くにたまがみ)は怒(いか)らしにけり
049われは今(いま)葭原(よしはら)の国土(くに)を治(しら)さむと
050降(くだ)りて見(み)れば浅(あさ)ましき状(さま)よ
051天津(あまつ)神(かみ)生(う)ませ給(たま)ひし食(を)す国(くに)を
052わが物顔(ものがほ)に振舞(ふるま)ひし罪(つみ)なり
053山神彦(やまがみひこ)、川神姫(かはかみひめ)が今日(けふ)の日(ひ)の
054歎(なげ)きにあふも神(かみ)の心(こころ)よ
055今日(けふ)よりはたかぶる心(こころ)を振(ふ)りすてて
056正(ただ)しく清(きよ)く神(かみ)に仕(つか)へよ
057此(この)国(くに)は汝(なれ)が治(をさ)むる国(くに)ならず
058御樋代(みひしろ)神(がみ)の治(しら)す国(くに)なり
059玉耶湖(たまやこ)の中(なか)に浮(うか)べる竜ケ島(たつがしま)は
060今(いま)は全(まつた)く備(そな)はらぬ国(くに)
061人(ひと)の面(おも)なしつる女神(めがみ)も身体(からたま)の
062その大方(おほかた)は獣(けもの)なるぞや
063神(かみ)の子(こ)の御魂(みたま)を持(も)ちて獣(けもの)なす
064姫(ひめ)を娶(めと)るは罪(つみ)とこそ知(し)れ
065艶男(あでやか)は神(かみ)の律(おきて)に叛(そむ)きたる
066報(むく)いによりて亡(う)せにけるかも
067今日(けふ)よりはいづれの神(かみ)も村肝(むらきも)の
068心(こころ)清(きよ)めて改(あらた)めよかし。
069一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)
070百(もも)千(ち)万(よろづ)八千万(やちよろづ)
071風(かぜ)も早(はや)凪(な)げ雨(あめ)も降(ふ)るな
072雲(くも)よ退(しりぞ)け地震振(なゐふ)る止(と)まれ
073これの神国(みくに)は主(ス)の神(かみ)の
074依(よ)さし給(たま)へる御樋代(みひしろ)神(がみ)の
075永久(とは)に鎮(しづ)まる清所(すがど)なり
076雨(あめ)はれ国(くに)はれ雲(くも)はれよ
077葭(よし)の島根(しまね)は今日(けふ)よりは
078黄金(こがね)花(はな)咲(さ)く食(を)す国(くに)と
079宣(の)り直(なほ)しつつ開(ひら)くべし
080ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
081わが言霊(ことたま)に力(ちから)あれ
082生言霊(いくことたま)に光(ひかり)あれ』
083と宣(の)らせ給(たま)ふや、084さしも烈(はげ)しかりし雷鳴(らいめい)は鎮(しづ)まり、085電光(でんくわう)は影(かげ)を没(ぼつ)し、086暴風雨(ぼうふうう)は跡形(あとかた)もなく尾(を)の上(へ)の雲(くも)と消(き)え、087地震(ないふる)はひたと止(と)まりて、088安静(あんせい)の昔(むかし)にかへりしこそ畏(かしこ)けれ。
089 山神彦(やまがみひこ)は濁流(だくりう)の次第(しだい)々々(しだい)に減(げん)じ行(ゆ)くを眺(なが)めながら、090恐(おそ)れ畏(かしこ)み歌(うた)ふ。
091『御樋代(みひしろ)の神(かみ)の光(ひかり)の畏(かしこ)けれ
092百(もも)のなやみも消(き)え失(う)せぬれば
093大御祖(おほみおや)神(かみ)のみあとを継(つ)ぎて来(こ)し
094われは御国(みくに)の仇(あだ)なりしかも
095治(をさ)むべき神(かみ)の治(をさ)むる国(くに)なりしと
096今更(いまさら)ながら悟(さと)らひにけり
097御祖(みおや)より重(かさ)ね来(きた)りし罪科(つみとが)を
098許(ゆる)させ給(たま)へ御樋代(みひしろ)の神(かみ)
099わが伜(せがれ)水(みづ)の藻屑(もくづ)と消(き)え果(は)てしも
100御祖(みおや)の罪(つみ)のめぐり来(き)つるか
101畏(かしこ)しや貴(うづ)の言霊(ことたま)幸(さち)はひて
102国(くに)のなやみは消(き)え失(う)せにけり
103今日(けふ)よりは心(こころ)清(きよ)めて御樋代(みひしろ)の
104神(かみ)の教(をしへ)にまつろひ奉(まつ)らむ』
105 川神姫(かはかみひめ)は恐(おそ)る恐(おそ)る御前(みまへ)にひれ伏(ふ)して、106述懐(じゆつくわい)を歌(うた)ふ。
107『はしけやし厳(いづ)の御(おん)神(かみ)天降(あも)りまして
108われらが悩(なや)みを救(すく)はせ給(たま)ひぬ
109知(し)らず知(し)らず罪(つみ)を犯(をか)せしわれなりし
110許(ゆる)させ給(たま)へ天降(あも)ります神(かみ)
111御(おん)顔(かほ)を仰(あふ)ぐもまぶしくなりにけり
112曇(くも)りきりたるわがまなかひは
113まなかひの眩(くら)むばかりに思(おも)はるる
114神(かみ)のよそほひ尊(たふと)きろかも
115今(いま)となりてわが子(こ)の生命(いのち)は惜(を)しむまじ
116ただ惟神(かむながら)神(かみ)に任(まか)せむ
117よしやよしわれらの生命(いのち)召(め)さるとも
118罪(つみ)し消(き)ゆれば悔(く)ゆる事(こと)なし
119昔(むかし)より此(この)丘(をか)の上(へ)に鎮(しづ)まりて
120国(くに)を守(まも)りしことのはづかし
121主(ス)の神(かみ)の御許(みゆる)しなくばよき事(こと)も
122罪(つみ)なりといふ事(こと)を悟(さと)りぬ』
123 御樋代(みひしろ)神(がみ)の朝霧(あさぎり)比女(ひめ)の神(かみ)はうなづきながら、
124『汝(な)が言葉(ことば)澄(す)みてありけり宜(うべ)よ宜(うべ)よ
125国(くに)の司(つかさ)とありし身(み)なれば
126汝(な)が罪(つみ)をここに改(あらた)め許(ゆる)すべし
127水上(みなかみ)の山(やま)に永久(とは)に鎮(しづ)まれ』
128 山神彦(やまがみひこ)は涙(なみだ)を袖(そで)に拭(ぬぐ)ひながら、
129『再生(さいせい)の思(おも)ひするかな御樋代(みひしろ)神(がみ)の
130なさけの言葉(ことば)かたじけなみつつ
131天地(あめつち)の神(かみ)は怒(いか)りて国原(くにはら)は
132修羅(しゆら)の巷(ちまた)となりにけりしな
133常闇(とこやみ)の世(よ)を照(てら)しつつ天降(あも)りましし
134神(かみ)の御前(みまへ)に戦(をのの)くわれなり』
135 岩ケ根(いはがね)は恐(おそ)る恐(おそ)る歌(うた)ふ。
136『二柱(ふたはしら)神(かみ)に仕(つか)へて今日(けふ)までも
137安(やす)く暮(く)れにしわが身(み)恥(はづ)かし
138御樋代(みひしろ)の神(かみ)の御前(みまへ)を伏(ふ)し拝(をが)み
139わが身体(からたま)はいすくみにける
140主(ス)の神(かみ)の御許(みゆる)しなくて仕(つか)へたる
141われは悲(かな)しも罪(つみ)を重(かさ)ねて
142目路(めぢ)の限(かぎ)り国津(くにつ)神(かみ)らの住(す)む家(いへ)は
143跡形(あとかた)もなく失(う)せにけるかも
144かくの如(ごと)なげきの種(たね)を培(つちか)ひし
145われは礼(ゐや)なき罪人(つみびと)なりける
146わが生命(いのち)よしや死(し)すとも厭(いと)はまじ
147なやめる神(かみ)を許(ゆる)させ給(たま)へ
148此(この)館(たち)に古(ふる)く仕(つか)へて年(とし)老(お)いぬ
149著(しる)きいさをのあともなくして』
150 水音(みなおと)は歌(うた)ふ。
151『久方(ひさかた)の雲井(くもゐ)を分(わ)けて天降(あも)りませし
152神(かみ)の御前(みまへ)にわれ戦(をのの)きぬ
153常闇(とこやみ)の醜(しこ)の国原(くにはら)伊照(いて)らして
154天降(あも)り給(たま)ひし尊(たふと)き神(かみ)はも
155滝津瀬(たきつせ)の水音(みなおと)とみにしづまりて
156漲(みなぎ)る水(みづ)は低(ひく)みたるかも
157つぎつぎに漂(ただよ)ふ水(みづ)も流(なが)れ行(ゆ)きて
158狭霧(さぎり)立(た)ちたつこれの国原(くにはら)
159如何(いかが)して貴(うづ)の恵(めぐみ)に報(むく)いむと
160思(おも)ふはわれらが真心(まごころ)なりけり』
161 瀬音(せおと)は畏(かしこ)み歌(うた)ふ。
162『常闇(とこやみ)の歎(なげ)きに泣(な)きしわが魂(たま)も
163神(かみ)の光(ひかり)によみがへるける
164幾千代(いくちよ)の末(すゑ)の末(すゑ)まで忘(わす)れまじ
165神(かみ)の恵(めぐみ)のいやちこなるを
166あはれあはれ水上山(みなかみやま)の聖場(せいぢやう)は
167蘇(よみがへ)りつつ朝日(あさひ)照(て)らへり
168草(くさ)も木(き)も歓(えら)ぎよろこぶ世(よ)となりぬ
169光(ひかり)の神(かみ)の天降(あも)りましてゆ』
170 大御照(おほみてらし)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
171『天津(あまつ)日(ひ)も大御照(おほみて)らしの神(かみ)なれば
172御樋代(みひしろ)神(がみ)に添(そ)ひて降(くだ)れる
173今日(けふ)よりは御空(みそら)の雲霧(くもきり)吹(ふ)き払(はら)ひ
174葭原(よしはら)の国土(くに)を生(い)かさむと思(おも)ふ
175光闇(ひかりやみ)行(ゆ)きかふ世(よ)なりわれあらば
176夕(ゆふ)さりくるも国原(くにはら)明(あか)るし
177竜神(たつがみ)の島(しま)の乙女(をとめ)に心(こころ)せよ
178彼(かれ)等(ら)は全(まつた)き神(かみ)にあらねば
179御樋代(みひしろ)の神(かみ)の渡(わた)らせ給(たま)ひなば
180竜(たつ)の島根(しまね)は生(い)く国(くに)とならむ
181伊吹山(いぶきやま)尾根(をね)に集(あつま)る曲津見(まがつみ)は
182百花(ももばな)千花(ちばな)と化(な)りて匂(にほ)へるよ』
183 岩ケ根(いはがね)は頭(かしら)を地(ち)にすりつけながら、
184『ありがたし天津(あまつ)御神(みかみ)の御宣示(みことのり)
185心(こころ)に刻(きざ)みて忘(わす)れざらまし
186歎(なげ)かひの日(ひ)を送(おく)りつつよろこびの
187今日(けふ)はよき日(ひ)にあひにけらしな』
188 朝空男(あさぞらを)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
189『悩(なや)ましき水上(みなかみ)の山(やま)のありさまを
190われあはれみて降(くだ)り来(き)つるも
191御樋代(みひしろ)の神(かみ)のみあとに従(したが)ひて
192天降(あも)りしわれは朝空男(あさぞらを)の神(かみ)
193朝津日(あさつひ)は御空(みそら)に昇(のぼ)り夕月(ゆふづき)は
194尾(を)の上(へ)にかかりて国土(くに)照(てら)しまさむ
195主(ス)の神(かみ)の貴(うづ)の食(を)す国(くに)を美(うま)し国(くに)と
196治(をさ)めて永久(とは)の礎(いしずゑ)固(かた)めむ
197山神彦(やまがみひこ)よ岩ケ根(いはがね)、瀬音(せおと)、水音(みなおと)と
198力(ちから)協(あは)せて御子(みこ)を育(そだ)てよ
199生(お)ひ立(た)ちし御子(みこ)を此(この)地(ち)の司(つかさ)とし
200近(ちか)き辺(あた)りを安(やす)く治(をさ)めよ』
201 山神彦(やまがみひこ)は嬉(うれ)しさのあまり、202落涙(らくるい)しながら地(ち)に伏(ふ)して歌(うた)ふ。
203『罪(つみ)深(ふか)きわれらが孫(ひこ)をかくまでも
204恵(ゆぐ)ませ給(たま)ふと思(おも)へば悲(かな)しき
205真心(まごころ)のあらむ限(かぎ)りを捧(ささ)げつつ
206御樋代(みひしろ)神(がみ)に永久(とは)に仕(つか)へむ』
207 川神姫(かはかみひめ)は同(おな)じく伏(ふ)して歌(うた)ふ。
208『常闇(とこやみ)の世(よ)は晴(は)れにけり隈(くま)もなく
209御樋代(みひしろ)神(がみ)の光(ひかり)によりて
210わが夫(つま)と共(とも)にかしこみ此(この)国(くに)の
211近(ちか)き辺(あた)りを謹(つつし)み治(をさ)めむ』
212 国生男(くにうみを)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
213『葭原(よしはら)の国土(くに)は涯(はて)なく広(ひろ)ければ
214われは力(ちから)の限(かぎ)りを尽(つく)さむ
215はてしなき此(この)国原(くにはら)に天降(あも)りまして
216都(みやこ)つくると思(おも)へばいさまし』
217 御樋代(みひしろ)の神(かみ)は再(ふたた)び歌(うた)はせ給(たま)ふ。
218『朝霧(あさぎり)は四方(よも)に立(た)ちたつ夕霞(ゆふかすみ)
219棚引(たなび)き初(そ)むるこれの国原(くにはら)
220水上山(みなかみやま)これの清所(すがど)は年(とし)老(お)いし
221二人(ふたり)を休(やす)ませ岩ケ根(いはがね)にあづけむ
222此(この)御子(みこ)の生(お)ひ立(た)ちまさば岩ケ根(いはがね)は
223国(くに)の政治(まつり)を御子(みこ)に返(かへ)せよ
224此(この)御子(みこ)は竜神(たつがみ)の腹(はら)に生(な)りませば
225国津(くにつ)神(かみ)らの手(て)には育(そだ)たじ
226子心(こごころ)比女(ひめ)神(かみ)に嬰児(みづこ)を守(まも)らせて
227安(やす)く雄々(をを)ししく育(そだ)てむと思(おも)ふ』
228 岩ケ根(いはがね)は地(ち)に伏(ふ)して歌(うた)ふ。
229『ありがたし老(お)います君(きみ)のあとうけて
230水上(みなかみ)の山(やま)に仕(つか)へ奉(まつ)らむ
231貴御子(うづみこ)の生(お)ひ立(た)ちまさば吾(われ)は直(ただ)に
232これの御国(みくに)を返(かへ)し奉(まつ)らむ
233貴(うづ)の子(こ)の生(お)ひ立(た)ち頼(たの)みまゐらする
234御樋代(みひしろ)の神(かみ)子心(こごころ)比女(ひめ)の神(かみ)に』
235 子心(こごころ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
236『御樋代(みひしろ)の神(かみ)の仰(おほ)せをかしこみて
237朝(あさ)な夕(ゆふ)なを恵(めぐ)み育(そだ)てむ』
238 斯(か)く歌(うた)ひ給(たま)ひて、239竜彦(たつひこ)の御子(みこ)を御肌(みはだ)に抱(かか)へさせ給(たま)ひ、
240『貴(うづ)の子(こ)よ愛(めぐ)しき御子(みこ)よ汝(なれ)こそは
241国(くに)の柱(はしら)よすくすく育(そだ)てよ。
242神(かみ)の恵(めぐみ)はいや広(ひろ)し
243汝(なれ)の生命(いのち)の永(なが)かれと
244朝夕(あさゆふ)祈(いの)りて育(はぐく)まむ
245山神彦(やまがみひこ)よ川神姫(かはかみひめ)よ
246心(こころ)安(やす)かれ岩ケ根(いはがね)も
247すくすく此(この)子(こ)の生(お)ひ立(た)ちを
248楽(たの)しみ待(ま)てよ惟神(かむながら)
249われはこれより高光(たかみつ)の
250御山(みやま)を指(さ)して御樋代(みひしろ)の
251神(かみ)に従(したが)ひ出(い)で行(ゆ)かむ
252ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
253恩頼(みたまのふゆ)は永久(とは)にあれ
254恩頼(みたまのふゆ)は永久(とは)にあれ』
255と歌(うた)はせ給(たま)ひつつ、256悠然(いうぜん)として雲(くも)を起(おこ)し、257御樋代(みひしろ)の神(かみ)の他(ほか)四柱(よはしら)は、258高光山(たかみつやま)の方面(はうめん)指(さ)して出(い)で給(たま)ひける。
 
259 因(ちなみ)に言(い)ふ、260高光山(たかみつやま)を境(さかひ)として、261東(ひがし)に御樋代(みひしろ)神(がみ)の貴(うづ)の御舎(みあらか)は建(た)てられ、262土阿(とあ)の宮殿(きうでん)を造(つく)り、263改(あらた)めて土阿(とあ)の国(くに)と名付(なづ)け給(たま)ひ、264高光山(たかみつやま)以西(いせい)を予讃(よさ)の国(くに)と名付(なづ)け給(たま)ひ、265葭原(よしはら)の国土(くに)を総称(そうしよう)して貴(うづ)の二名島(ふたなじま)と称(たた)へ給(たま)ひけるぞ畏(かしこ)けれ。
266(昭和九・七・二〇 旧六・九 於関東別院南風閣 白石恵子謹録)
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