霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 鰐(わに)の背(せ)〔一九九四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第79巻 天祥地瑞 午の巻 篇:第2篇 竜宮風景 よみ(新仮名遣い):りゅうぐうふうけい
章:第13章 鰐の背 よみ(新仮名遣い):わにのせ 通し章番号:1994
口述日:1934(昭和9)年07月18日(旧06月7日) 口述場所:関東別院南風閣 筆録者:谷前清子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年10月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
艶男は燕子花と示し合わせて、ひそかに竜宮島を出てともに故郷に帰ろうと決心を固めた。艶男と燕子花は、麗子にも知らせずに、郊外の散歩にことよせて、真夜中に第一門の方へと急いで行った。
第一門の鉄門を開けると、そこは渚で波が迫っていた。艶男はいかにしてこの湖を越えようかと思案にくれる歌を歌っていると、波をかき分けて現れた八尋の大鰐があった。鰐は水面に背を現し、二人に背に乗るよう促している風であった。
二人は天の与えとばかりに鰐の背に飛び乗ると、鰐は湖を南のほうへと泳ぎだした。艶男と燕子花はこの天佑に喜び、感謝の歌を歌った。
すると、後方からどっとときの声があがった。二人が月光を透かし見れば、これは二人が逃げたことが発覚し、竜神たちが追っ手を放ったのであった。
これは一大事と、燕子花は声を張り上げて天之数歌をしきりに奏上した。するとときの声はぴたりと止んで、鰐の速度はいっそう速くなった。
水上山がほんのりと見えはじめ、二人は水上山の国津神の国への思いを歌に交わした。すると、波の奥から忽然と一艘の舟が漕ぎ寄せてきた。見ると、これは水火土の神であった。
水火土の神は艶男らを迎えに待っていたと言い、ここからは海の瀬が強いので、鰐の背から舟に移るように二人を促した。艶男はここまで送ってくれた鰐に感謝合掌し、二人は水火土の神の舟に乗って、月照る海原を南へと漕ぎ出て行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:2785 OBC :rm7913
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 233頁 修補版: 校定版:261頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 艶男(あでやか)は燕子花(かきつばた)と諜(しめ)し合(あは)せ、002夜陰(やいん)にまぎれて竜宮島(りうぐうじま)を立出(たちい)で、003父母(ちちはは)のいます国(くに)に帰(かへ)らむと、004決心(けつしん)を固(かた)めてゐた。
005 大竜身彦(おほたつみひこ)の命(みこと)に止(とど)められむ事(こと)をおそれ、006麗子(うららか)の弟姫神(おとひめがみ)にも告(つ)げず、007郊外(かうぐわい)の散歩(さんぽ)にことよせ、008月(つき)照(て)り渡(わた)る真夜中(まよなか)頃(ごろ)、009大楼門(だいろうもん)をくぐり第一門(だいいちもん)の方(はう)へと急(いそ)ぎゆく。010道(みち)の側(かたはら)の百草(ももぐさ)千草(ちぐさ)は夜露(よつゆ)の玉(たま)に月光(げつくわう)輝(かがや)き、011得(え)も言(い)はれぬ風情(ふぜい)である。012艶男(あでやか)はその自然(しぜん)をながめて、
013『道(みち)の辺(べ)に咲(さ)く百草(ももくさ)の花(はな)にさへ
014月(つき)の御霊(みたま)は宿(やど)らせ給(たま)へり
015草(くさ)の上(へ)に恋(こひ)を歌(うた)へる虫(むし)の音(ね)も
016今宵(こよひ)は清(きよ)く月(つき)に冴(さ)えたり
017渚辺(なぎさべ)に寄(よ)する波音(なみおと)聞(き)きながら
018月(つき)の夜路(よみち)を二人(ふたり)ゆくかも
019しのびゆく元津(もとつ)御国(みくに)の旅立(たびだち)は
020虫(むし)の声(こゑ)にも驚(おどろ)かされける
021二人(ふたり)ゆく空(そら)を照(てら)して月読(つきよみ)は
022吾(われ)を守(まも)らせ給(たま)ふがに見(み)ゆ
023心安(うらやす)く元津(もとつ)御国(みくに)に還(かへ)らせ給(たま)へ
024御空(みそら)に輝(かがや)く月読(つきよみ)の神(かみ)』
025 燕子花(かきつばた)は歌(うた)ふ。
026『竜神(たつがみ)の島(しま)に生(お)ひ立(た)ちし燕子花(かきつばた)
027吾(われ)は水上(みなかみ)の山(やま)に栄(さか)えむ
028月(つき)見(み)れば竜(りう)の玉(たま)かと疑(うたが)はる
029吾(われ)は夜路(よみち)を君(きみ)と行(ゆ)くなり
030草(くさ)の葉(は)に置(お)く白露(しらつゆ)に月(つき)照(て)りて
031二人(ふたり)の袖(そで)はぬれにけらしな
032恐(おそ)ろしく又(また)楽(たの)しくも思(おも)ふかな
033君(きみ)に引(ひ)かれて離(さか)りゆく身(み)は
034この島(しま)に今日(けふ)を名残(なごり)の別(わか)れぞと
035おもへば何(なに)か悲(かな)しかりけり
036夜(よる)光(ひか)る玉(たま)にもまさる君(きみ)故(ゆゑ)に
037吾(われ)は嬉(うれ)しく従(したが)ひゆくも』
038 斯(か)くして第一(だいいち)の門(もん)に着(つ)き、039鉄門(かなど)を中(なか)より易々(やすやす)と開(ひら)き、040渚辺(なぎさべ)に出(い)で、041躍(をど)り狂(くる)ふ波(なみ)の秀(ほ)をながめて艶男(あでやか)は、
042『翼(つばさ)なき身(み)は如何(いか)にせむ白波(しらなみ)の
043竜(たつ)の島根(しまね)を去(さ)る由(よし)もなし
044打寄(うちよ)する波(なみ)の白帆(しらほ)に照(て)る月(つき)を
045玉(たま)と仰(あふ)ぎて帰(かへ)らまく思(おも)ふ
046さりながら翼(つばさ)もなければ鰭(ひれ)もなし
047鳥(とり)にも魚(うを)にもなれぬかなしさ
048大空(おほぞら)の月(つき)も憐(あは)れみ給(たま)ふらむ
049汀(みぎは)に立(た)てる二人(ふたり)の姿(すがた)を
050ゆくりなく君(きみ)が情(なさけ)の露(つゆ)あびて
051又(また)も汀(みぎは)の露(つゆ)にぬれぬる
052天地(あめつち)の神(かみ)よ吾(われ)等(ら)を憐(あは)れみて
053水上(みなかみ)の山(やま)へ渡(わた)らせ給(たま)へ
054渡(わた)るにも御舟(みふね)なければ如何(いか)にせむ
055波(なみ)の上(へ)に浮(う)くこの島ケ根(しまがね)を』
056 斯(か)く歌(うた)ふ折(をり)しも、057波(なみ)を分(わ)けてぬつと現(あら)はれ来(きた)る八尋鰐(やひろわに)あり。058水面(すゐめん)に背(せ)を現(あらは)し、059之(これ)に乗(の)らせ給(たま)へと言(い)ひたげなり。060二人(ふたり)は天(てん)の与(あた)へと鰐(わに)の背(せ)に飛(と)び乗(の)れば、061鰐(わに)は何事(なにごと)も万事(ばんじ)承知(しようち)の上(うへ)とばかり、062荒波(あらなみ)の湖(うみ)を游(およ)ぎながら、063南(みなみ)へ南(みなみ)へと走(はし)りゆく。064鰐(わに)の背(せ)に乗(の)れる二人(ふたり)は交々(こもごも)歌(うた)ふ。
065艶男(あでやか)『鰐(わに)の背(せ)に救(すく)はれ水上(みなかみ)の山(やま)もとに
066帰(かへ)る思(おも)へば楽(たの)しかりけり
067大空(おほぞら)も湖(うみ)の底(そこ)ひも月(つき)照(て)りて
068その中原(なかはら)を行(ゆ)く身(み)は清(すが)し
069湖底(うなぞこ)に御空(みそら)うつしてまたたける
070星(ほし)は真砂(まさご)にさも似(に)たるかな
071そよと吹(ふ)く風(かぜ)に面(おもて)をなでられて
072こひしき君(きみ)と吾(われ)帰(かへ)り行(ゆ)くも
073果(は)てしなきこの湖原(うなばら)も足(あし)早(はや)き
074鰐(わに)の助(たす)けにとく帰(かへ)るべし
075この鰐(わに)は神(かみ)のたまひし賜(たまもの)ぞ
076吾(われ)おろそかに如何(いか)で思(おも)はむ
077鰐(わに)よ鰐(わに)吾(われ)を助(たす)けて元津国(もとつくに)に
078とく帰(かへ)らせよ波(なみ)を分(わ)けつつ』
079 燕子花(かきつばた)は歌(うた)ふ。
080『有難(ありがた)き神(かみ)の使(つか)ひの鰐(わに)の子(こ)に
081救(すく)はれ君(きみ)が御国(みくに)に行(ゆ)くかも
082吾(われ)も亦(また)元(もと)の身体(からだ)を持(も)ち居(を)らば
083鰐(わに)の如(ごと)くに送(おく)らむものを
084斯(か)くならば吾(われ)は人(ひと)の身(み)湖原(うなばら)を
085渡(わた)らむ力(ちから)失(う)せにけらしな
086惟神(かむながら)神(かみ)の恵(めぐ)みか大空(おほぞら)の
087月(つき)は一入(ひとしほ)冴(さ)え渡(わた)りける
088白波(しらなみ)の立(た)ちのまにまに月読(つきよみ)は
089かげをおとして輝(かがや)き給(たま)ふ
090水底(みなそこ)の魚族(うろくづ)までも見(み)えわたる
091今宵(こよひ)の月(つき)のさやかなるかも
092竜神(たつがみ)の追及(おひし)き来(く)るも恐(おそ)るまじ
093みあしの早(はや)き鰐(わに)に頼(たよ)れば
094湖原(うなばら)を飛(と)び交(か)ふ千鳥(ちどり)の音(ね)も冴(さ)えて
095心(こころ)清(すが)しき月(つき)の湖原(うなばら)
096天地(あめつち)にかかる例(ためし)はあらなみの
097上(うへ)分(わ)け走(はし)る今日(けふ)の嬉(うれ)しさ』
098 斯(か)く歌(うた)ふ折(をり)しも、099後方(こうはう)に当(あた)りて千万(せんまん)人(にん)の鬨(とき)の声(こゑ)、100どつとばかりに聞(きこ)え来(く)るにぞ、101艶男(あでやか)、102燕子花(かきつばた)の二人(ふたり)は後振(あとふ)り返(かへ)り手(て)を差上(さしあ)げ月光(げつくわう)に透(すか)し見(み)れば、103こはそもいかに、104両人(りやうにん)が月夜(つきよ)を力(ちから)に逃(に)げ去(さ)りし事(こと)発覚(はつかく)し、105大竜身彦(おほたつみひこ)の命(みこと)は数多(あまた)の竜神(たつがみ)等(ら)に下知(げち)を降(くだ)し、106二人(ふたり)の後(あと)を追(お)つかけよと厳命(げんめい)なしければ、107竜神(たつがみ)は吾(われ)も吾(われ)もと先(さき)を争(あらそ)ひ、108波間(なみま)を浮(う)きつ沈(しづ)みつ、109一瀉(いつしや)千里(せんり)の勢(いきほひ)にて追(お)ひしき追(お)ひまくるにぞありけり。
110 こは一大事(いちだいじ)と燕子花(かきつばた)は声(こゑ)を張(は)り上(あ)げ、111人身(じんしん)となりしを幸(さいは)ひ、112天(あま)の数歌(かずうた)を頻(しきり)に奏上(そうじやう)する、113この声(こゑ)天地(てんち)に響(ひび)き湖(うみ)も割(わ)るるばかりなり。
114『一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)百(もも)千(ち)万(よろづ)
115千万(ちよろづ)の神(かみ)守(まも)り給(たま)へ
116竜神(たつがみ)の切先(きつさき)を止(と)めさせ給(たま)へ
117鰐(わに)よ鰐(わに)よ力(ちから)限(かぎ)りに走(はし)れよ走(はし)れよ
118水上山(みなかみやま)は霞(かすみ)の奥(おく)にぼんやりと浮(う)く
119走(はし)れよ走(はし)れよ生命(いのち)限(かぎ)りに』
120 斯(か)く歌(うた)ふや、121鬨(とき)の声(こゑ)はぴたりと止(や)みて、122鰐(わに)の足(あし)は一入(ひとしほ)速(はや)くなりける。
123『有難(ありがた)し吾(わが)言霊(ことたま)に海津見(わだつみ)の
124神(かみ)の功(いさを)は現(あらは)れにけり
125諸々(もろもろ)の竜神(たつがみ)等(たち)の襲(おそ)ひ来(く)る
126矢先(やさ)き逃(のが)れて安(やす)けき湖原(うなばら)
127大竜身彦(おほたつみひこ)の命(みこと)の御功(みいさを)を
128とどめて安(やす)き夜(よる)の湖原(うなばら)』
129 艶男(あでやか)は歌(うた)ふ。
130『一輪(いちりん)の月(つき)は御空(みそら)に輝(かがや)けり
131吾(われ)は一(ひと)つの鰐(わに)に乗(の)り行(ゆ)く
132八尋鰐(やひろわに)足(あし)はやければ竜神(たつがみ)は
133最早(もは)や追付(おひつ)くおそれだもなし
134老(お)いませる吾(わが)垂乳根(たらちね)は吾(わが)行方(ゆくへ)
135探(たづ)ねて日夜(にちや)を歎(なげ)かせ給(たま)はむ
136一時(ひととき)も早(はや)く御(おん)顔(かほ)拝(をが)まむと
137思(おも)へば心(こころ)いらだちにけり
138水火土(しほつち)の神(かみ)に救(すく)はれ吾(わが)生命(いのち)
139蘇(よみがへ)りたる湖原(うなばら)はこれ
140ほのぼのと水上山(みなかみやま)は見(み)え初(そ)めぬ
141月夜(つきよ)の空(そら)にぼんやりとして
142千鳥(ちどり)啼(な)くこの湖原(うなばら)を細女(くはしめ)と
143行(ゆ)くは夢路(ゆめぢ)を辿(たど)るが如(ごと)し
144夢(ゆめ)の世(よ)に夢(ゆめ)を見(み)ながら細女(くはしめ)と
145鰐(わに)の背(せ)に乗(の)り湖原(うなばら)渡(わた)るも
146竜宮(りうぐう)の島(しま)もよけれど水上山(みなかみやま)
147吾(わが)故郷(ふるさと)は恋(こひ)しかりけり
148いとこやの麗子姫(うららかひめ)に立(た)ち別(わか)れ
149今(いま)燕子花(かきつばた)を伴(ともな)ひ帰(かへ)るも
150燕子花(かきつばた)よ汝(なれ)は面勝(おもかつ)神(かみ)なれば
151言向(ことむ)けやはせ国津神(くにつかみ)等(ら)を』
152 燕子花(かきつばた)は歌(うた)ふ。
153『尊(たふと)かる君(きみ)の言葉(ことば)をうべなひて
154言向(ことむ)けやはさむ国津神(くにつかみ)等(ら)を
155離(はな)れ島(じま)の乙女(をとめ)なれども君(きみ)と在(あ)れば
156吾(われ)は恐(おそ)れじ如何(いか)なる人(ひと)にも
157湖風(うなかぜ)は強(つよ)くなりけり波(なみ)の秀(ほ)は
158いや高々(たかだか)と狂(くる)ひ出(いだ)しぬ
159風(かぜ)強(つよ)み波(なみ)おこるとも何(なに)かあらむ
160神(かみ)の恵(めぐみ)に抱(いだ)かるる身(み)は
161天地(あめつち)の神(かみ)に抱(いだ)かれ吾(わが)恋(こ)ふる
162夫(つま)に抱(いだ)かれ安(やす)き湖原(うなばら)
163鰐(わに)の背(せ)に易々(やすやす)渡(わた)る湖原(うなばら)の
164風(かぜ)も恐(おそ)れじ波(なみ)も恐(おそ)れじ
165白波(しらなみ)のしぶきにあはれ吾(わが)袖(そで)は
166うるほひにけり湿(しめ)らひにけり
167抱(だ)き合(あ)ひて泣(な)ける夕(ゆふべ)の涙(なみだ)にも
168いやまさりつつ濡(ぬ)るる吾(わが)袖(そで)』
169 斯(か)く歌(うた)ふ折(をり)しも、170波(なみ)の奥(おく)より忽然(こつぜん)として現(あらは)れし一艘(いつそう)の舟(ふね)、171此方(こなた)に向(むか)つて漕(こ)ぎ来(く)る。172近(ちか)より見(み)れば豈計(あにはか)らむや、173水火土(しほつち)の神(かみ)にましける。
174 水火土(しほつち)の神(かみ)はにこにこしながら、
175『久々(ひさびさ)に帰(かへ)らす君(きみ)を迎(むか)へむと
176吾(われ)は御舟(みふね)を持(も)ちて来(きた)れり
177これよりは湖(うみ)の瀬(せ)強(つよ)し鰐(わに)の舟(ふね)
178返(かへ)してこれに乗(の)りうつらせよ
179垂乳根(たらちね)の父(ちち)と母(はは)とは汝(な)が行方(ゆくへ)
180歎(なげ)かせ給(たま)ひ衰(おとろ)へ給(たま)へり
181水上(みなかみ)の山(やま)はほんのり見(み)ゆれども
182波路(なみぢ)は遠(とほ)し吾(われ)は送(おく)らむ』
183 艶男(あでやか)は之(これ)に答(こた)へて、
184『ありがたし水火土(しほつち)の神(かみ)の御(おん)心(こころ)
185生命(いのち)死(し)すとも忘(わす)れざらまし
186竜宮(りうぐう)の島(しま)に渡(わた)りて求(もと)めたる
187花(はな)の蕾(つぼみ)の燕子花(かきつばた)はこれ
188竜宮(りうぐう)の島根(しまね)ゆ移(うつ)すこの花(はな)を
189水上(みなかみ)の山(やま)に植(う)ゑたく思(おも)ふ
190水火土(しほつち)の神(かみ)よ吾(わが)妻(つま)諸共(もろとも)に
191送(おく)らせ給(たま)へ水上(みなかみ)の山(やま)へ』
192と言(い)ひながら、193鰐(わに)の背(せ)より水火土(しほつち)の神(かみ)の御舟(みふね)に移(うつ)り、194鰐(わに)に向(むか)つて合掌(がつしやう)しながら、
195『浪(なみ)猛(たけ)る大湖原(おほうなばら)を安々(やすやす)と
196送(おく)りし君(きみ)に感謝(かんしや)を捧(ささ)げむ
197天津(あまつ)神(かみ)の御使(みつかひ)ならめや八尋鰐(やひろわに)の
198今日(けふ)の功(いさを)は永久(とは)に忘(わす)れじ
199いざさらば別(わか)れを告(つ)げむ八尋鰐(やひろわに)よ
200汝(なれ)は吾身(わがみ)の生命(いのち)なるぞや
201水上山(みなかみやま)吾(わが)故郷(ふるさと)に帰(かへ)りなば
202汝(なれ)を守護(まもり)の神(かみ)と斎(いつ)かむ』
203 斯(か)く歌(うた)ふや、204八尋鰐(やひろわに)は静々(しづしづ)その全身(ぜんしん)を水(みづ)に没(ぼつ)し、205後白波(あとしらなみ)となりにける。206これより水火土(しほつち)の神(かみ)は波(なみ)の秀(ほ)を分(わ)けながら、207月(つき)照(て)る湖原(うなばら)を南(みなみ)へ南(みなみ)へと漕(こ)ぎ行(ゆ)く。
208(昭和九・七・一八 旧六・七 於関東別院南風閣 谷前清子謹録)
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