霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二二章 天変(てんぺん)地妖(ちえう)〔二〇〇三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第79巻 天祥地瑞 午の巻 篇:第3篇 伊吹の山颪 よみ(新仮名遣い):いぶきのやまおろし
章:第22章 天変地妖 よみ(新仮名遣い):てんぺんちよう 通し章番号:2003
口述日:1934(昭和9)年07月20日(旧06月9日) 口述場所:関東別院南風閣 筆録者:林弥生 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年10月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
艶男は岩ケ根をはじめとする四天王の言葉を尽くしてのいさめに、死を思いとどまったが、なぜか大井の淵が恋しくてたまらず、朝夕に船を浮かべて遊ぶのを、唯一の慰めとしていた。
岩ケ根は、艶男にまさかのことがあってはと、真砂、白砂を監視として舟遊びに伴わせていた。
小雨が降る夕べ前、大井ケ淵にしばし舟遊びを試み、黄昏の幕が迫るころ、不思議にもかすかな声がどこからともなく聞こえてきた。よく耳を澄ませば、以前に竜の島で艶男に思いをかけていた、白萩の悲しげな声であった。
白萩は、艶男が燕子花と逐電したことに恨みを述べ、故郷の竜の島根を捨てて、藤ケ丘に移り住んだのだ、と歌った。艶男は、自分も木石ならぬ身ではあるが、一つの身でいかにできよう、と返し、自分もまた今は悲しみの淵にあり、今はただ両親のために生き長らえているのみなのだ、と歌った。
すると、今度は白菊の悲しげな声が聞こえてきて、やはり艶男への恨みを歌った。艶男は、白菊のことを忘れたことはなく、ただ時を待つように、と歌った。
また、今度は女郎花の声が、艶男への恨みを歌った。歌が響くおりしも、淵の水はにわかに大きな波紋を描き、水煙とともに、人面竜身の燕子花が立ち現れた。
艶男、真砂、白砂は驚き呆然としたが、波紋はますます激しく、舟も覆ろうとするばかりの荒波となった。艶男は意を決して、自分の恋する燕子花のすさびがこれほどまでなら、もはや自分は水の藻屑となろう、と歌った。
真砂、白砂は驚いて艶男の手をしっかりと握り、艶男を諭して押しとどめようとしたが、一天にわかに掻き曇り、暴風吹きすさみ、大地は震動して、荒波のたけりに舟もろとも、三人の姿は水中深く隠れてしまった。
これより日夜の震動やまず、雷とどろき、稲妻はひらめき、暴風が吹きすさんで雨は盆をかえしたように激しく降ってきた。水上山の聖場は阿鼻叫喚の巷と化し、岩ケ根は竜彦を背に追って高殿に避難して難を免れた。国津神たちは右往左往し、泣き叫ぶ様は目も当てられない惨状となってしまった。
ここへ、天より容姿端麗な女神が、四柱の侍神を伴って、この場に降ってきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:2599 OBC :rm7922
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 273頁 修補版: 校定版:411頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 艶男(あでやか)は、002岩ケ根(いはがね)他(ほか)四天王(してんわう)等(ら)の言葉(ことば)を尽(つく)しての諫(いさ)めに、003死(し)を思(おも)ひとどまりたれども、004何故(なにゆゑ)か大井(おほゐ)ケ淵(ふち)の恋(こひ)しくて堪(たま)らず、005朝(あさ)な夕(ゆふ)なの区別(くべつ)なく、006淵(ふち)に舟(ふね)を浮(うか)べて遊(あそ)ぶを唯一(ゆいつ)の慰(なぐさ)みとなしゐたりける。
007 岩ケ根(いはがね)は、008若(も)しや艶男(あでやか)に間違(まちが)ひ無(な)きやと案(あん)じ煩(わづら)ひながら、009真砂(まさご)、010白砂(しらさご)を左右(さいう)に看視(かんし)兼(けん)接待役(せつたいやく)として従(したが)はしめたり。011小雨(こさめ)ふる夕(ゆふ)べ前(まへ)、012かたの如(ごと)く艶男(あでやか)は真砂(まさご)、013白砂(しらさご)を伴(ともな)ひ、014大井(おほゐ)ケ淵(ふち)に暫時(しばし)の舟遊(ふなあそ)びを試(こころ)みにける。015黄昏(たそがれ)の幕(まく)稍(やや)迫(せま)らむとする折(をり)しも、016不思議(ふしぎ)なるかな、017微(かすか)なる声(こゑ)何処(いづこ)ともなく響(ひび)き来(きた)るを、018よくよく耳(みみ)をすまして聞(き)けば、019以前(いぜん)竜(たつ)の島根(しまね)にて、020艶男(あでやか)に思(おも)ひをかけし白萩(しらはぎ)の悲(かな)しげなる声(こゑ)にぞありける。
021 白萩(しらはぎ)の声(こゑ)。
022『秋風(あきかぜ)を待(ま)つ間(ま)の長(なが)き白萩(しらはぎ)は
023遠(とほ)き思(おも)ひに尋(たづ)ね来(き)にけり
024生命(いのち)までもと思(おも)ひし人(ひと)は影(かげ)もなく
025あと白萩(しらはぎ)の花(はな)と散(ち)りけり
026添(そ)はまくと思(おも)ひし夢(ゆめ)の悲(かな)しさに
027身(み)もしら萩(はぎ)の花(はな)は萎(しを)れつ
028恨(うら)めしき君(きみ)なりにけり燕子花(かきつばた)の
029花(はな)のみ手折(たを)りて露(つゆ)もおくらず
030この思(おも)ひ何時(いつ)の世(よ)にかは晴(は)らさむと
031恋(こ)ふるも悲(かな)しき萩(はぎ)の仇花(あだばな)
032現世(うつしよ)に生(い)くる甲斐(かひ)なきわが身(み)ぞと
033思(おも)へば苦(くる)し君(きみ)に捨(す)てられて
034百花(ももばな)の多(おほ)かる中(なか)に汝(な)が君(きみ)は
035燕子花(かきつばた)のみ愛(め)づるは恨(うら)めし
036朝(あさ)な朝(あさ)な露(つゆ)重(おも)げなる萩(はぎ)が枝(え)に
037君(きみ)は心(こころ)をかけて見(み)ざりしよ
038故郷(ふるさと)の竜(たつ)の都(みやこ)の白萩(しらはぎ)を
039藤(ふぢ)ケ丘(をか)辺(べ)に移(うつ)して匂(にほ)へり
040白萩(しらはぎ)は情(なさけ)の露(つゆ)に捨(す)てられて
041細(ほそ)き生命(いのち)を汀辺(みぎはべ)に保(たも)てり
042橘(たちばな)と香(かを)れる君(きみ)のよそほひは
043われを思(おも)はす種(たね)にぞありける
044荒波(あらなみ)をかき別(わ)け乗(の)り切(き)りこの淵(ふち)に
045伊寄(いよ)り来(きた)りて君(きみ)に焦(こが)るる
046御(おん)声(こゑ)を朝(あさ)な夕(ゆふ)なに聞(き)かまほしと
047白萩(しらはぎ)われは淵(ふち)に潜(ひそ)むも
048太刀膚(たちはだ)のわが身(み)に怖(お)ぢていとこやの
049君(きみ)は島根(しまね)を離(さか)りましけむ
050いとこやの君(きみ)を生命(いのち)と頼(たの)みてしを
051つれなき心(こころ)恨(うら)めしみ思(おも)ふ
052竜神(たつがみ)の身(み)にしあれども人恋(ひとこ)ふる
053心(こころ)に変(かは)りあるべきものかは
054恨(うら)めしさ悲(かな)しさ此処(ここ)に凝(かた)まりて
055恋(こひ)の淵瀬(ふちせ)に悲(かな)しみ泣(な)くなり』
056 艶男(あでやか)は微(かすか)にこの声(こゑ)を聞(き)きて、057白萩(しらはぎ)の心(こころ)の憐(あは)れさに両眼(りやうがん)をうるほしながら、
058『われとても木石(ぼくせき)ならぬ身(み)なれども
059一(ひと)つの身(み)なり如何(いか)に報(むく)いむ
060われも亦(また)歎(なげ)きの淵(ふち)に沈(しづ)みつつ
061胸(むね)晴(は)らさむと此処(ここ)に遊(あそ)べる
062黄昏(たそがれ)を君(きみ)の歎(なげ)きの声(こゑ)聞(き)きて
063悲(かな)しく淋(さび)しくなりにけらしな
064恋(こひ)故(ゆゑ)に生命(いのち)惜(を)しまじわれはただ
065垂乳根(たらちね)の為(た)めながらふのみなり』
066 かくいふ折(をり)しも、067又(また)もや上手(かみて)の方(はう)より悲(かな)しき声(こゑ)聞(きこ)え来(きた)る。
068『われこそは汝(なれ)を慕(した)ひし白菊(しらぎく)の
069露(つゆ)に霑(うるほ)ふ蕾(つぼみ)の花(はな)よ
070一本(ひともと)の花橘(はなたちばな)と思(おも)ひしを
071君(きみ)は百花(ももばな)千花(ちばな)を手折(たを)れり
072恨(うら)めしく悲(かな)しく生命(いのち)堪(た)へがてに
073われは湖路(うなぢ)を渡(わた)り来(こ)しはや
074わが思(おも)ひいや深(ふか)ければ此(こ)の淵(ふち)の
075底(そこ)に潜(ひそ)みて竜(たつ)となりぬる
076万代(よろづよ)の末(すゑ)にも枯(か)れぬ白菊(しらぎく)を
077枯(か)らし給(たま)へる君(きみ)ぞ恨(うら)めし
078千早振(ちはやぶ)る神代(かみよ)の事(こと)も人(ひと)ならば
079問(と)はましものを白菊(しらぎく)の花(はな)
080君ケ代(きみがよ)をいと長月(ながつき)の空(そら)清(きよ)く
081咲(さ)かむ白菊(しらぎく)あはれと思(おも)へ
082水上山(みなかみやま)菊(きく)の下水(したみづ)如何(いか)なれば
083流(なが)れて淵(ふち)に沈(しづ)むなるらむ
084祈(いの)りつつ待(ま)つ長月(ながつき)の菊(きく)の花(はな)を
085何(いづ)れの時(とき)か君(きみ)の手折(たを)るや
086山(やま)の端(は)を出(い)でゐる月(つき)の顔(かむばせ)は
087君(きみ)の面(おもて)と白菊(しらぎく)の花(はな)
088わが思(おも)ひいや深(ふか)ければ八千尋(やちひろ)の
089湖(うみ)を渡(わた)りて慕(した)ひ来(き)つるも
090類(たぐひ)なき君(きみ)のよそほひ見染(みそ)めてゆ
091白菊(しらぎく)われは乱(みだ)れむとせり
092玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)惜(を)しまじ君許(きみがり)に
093近(ちか)く棲(す)みなば淵(ふち)の底(そこ)ひも』
094 艶男(あでやか)はこの声(こゑ)を聞(き)き、095狂気(きやうき)の如(ごと)く胸(むね)を燃(も)やしながら、
096『今日(けふ)は又(また)悲(かな)しき声(こゑ)を聞(き)く日(ひ)かな
097今(いま)は前後(ぜんご)も白波(しらなみ)の上(うへ)
098秋(あき)されば白菊(しらぎく)の花(はな)手折(たを)らむと
099われは心(こころ)を替(か)へずありける
100白菊(しらぎく)の匂(にほ)ひめでたくわが袖(そで)に
101香(かを)りて時(とき)じく忘(わす)らへなくに
102惜(を)しまるる生命(いのち)ならねど今(いま)しばし
103わが子(こ)の生(お)ひたち待(ま)たせ給(たま)はれ』
104 白菊(しらぎく)の声(こゑ)として、
105『御(おん)言葉(ことば)偽(いつは)りなくばわれとても
106なやみ晴(は)らして時(とき)を待(ま)つべし』
107 かかる折(をり)しも、108稍(やや)下流(かりう)に当(あた)りて、109女郎花(をみなへし)の細(ほそ)き声(こゑ)ひびき来(きた)る。110よくよく耳(みみ)をすまして聞(き)き居(を)れば、
111『われこそは竜(たつ)の島根(しまね)に育(そだ)ちたる
112か弱(よわ)き花(はな)の女郎花(をみなへし)ぞや
113君(きみ)恋(こ)ひてわが身(み)やつれぬ玉(たま)の緒(を)の
114生命(いのち)死(し)せむと幾度(いくたび)思(おも)ひし
115八潮路(やしほぢ)を渡(わた)りてここに大井川(おほゐがは)
116淵瀬(ふちせ)に沈(しづ)むも君(きみ)おもへばなり
117細々(ほそぼそ)と降(ふ)り来(く)る雨(あめ)は君(きみ)思(おも)ふ
118悲(かな)しきわれの涙(なみだ)なるぞや
119如何(いか)にして悲(かな)しき思(おも)ひ晴(は)らさむと
120波路(なみぢ)を分(わ)けて此処(ここ)に来(き)つるも
121水上山(みなかみやま)斜面(なぞへ)に匂(にほ)ふ女郎花(をみなへし)の
122やさしきよそほひ見(み)そなはさずや
123君(きみ)恋(こ)ひてここに幾日(いくひ)を重(かさ)ねけり
124露(つゆ)の情(なさけ)の雨(あめ)に濡(ぬ)れむと
125われは今(いま)見(み)るに堪(た)へざる醜神(しこがみ)の
126竜(たつ)と思(おも)へば悲(かな)しかりけり
127幾千代(いくちよ)もこれの淵瀬(ふちせ)に沈(しづ)みゐて
128君(きみ)が御幸(みさち)を護(まも)らむと思(おも)ふ
129白萩(しらはぎ)も白菊(しらぎく)の君(きみ)もわれも亦(また)
130藤(ふぢ)ケ丘(をか)辺(べ)に君(きみ)を待(ま)つなり
131玉(たま)の緒(を)の君(きみ)が生命(いのち)の果(は)つるまで
132なやみ苦(くる)しみ待(ま)たむとぞ思(おも)ふ
133竜神(たつがみ)の悲(かな)しき心(こころ)を思(おも)ひやり
134夢(ゆめ)の枕(まくら)にも偲(しの)ばせ給(たま)へ』
135 かく響(ひび)く折(をり)しも、136淵(ふち)の水(みづ)は俄(にはか)に大(だい)なる波紋(はもん)を描(ゑが)き、137水煙(みづけむり)とともに立(た)ち昇(のぼ)りたるものあり。138よくよく見(み)れば人面(にんめん)竜身(りうしん)の燕子花(かきつばた)なるに、139艶男(あでやか)も真砂(まさご)、140白砂(しらさご)も一度(いちど)に驚(おどろ)き、141茫然(ばうぜん)として、142あちらこちらと立(た)ち狂(くる)ふ水煙(みづけむり)を眺(なが)めゐる。143波紋(はもん)は益々(ますます)激(はげ)しく、144遂(つひ)には舟(ふね)も覆(くつがへ)らむばかりの荒波(あらなみ)となりければ、145艶男(あでやか)は意(い)を決(けつ)して立(た)ち上(あが)り、
146『わが恋(こ)ふる燕子花(かきつばた)姫(ひめ)の荒(すさ)びにや
147われはとどむる力(ちから)だになし
148かくなれば何(なに)をいなまむわれも亦(また)
149水(みづ)の藻屑(もくづ)となりて消(き)ゆべし』
150 真砂(まさご)、151白砂(しらさご)の両人(りやうにん)は驚(おどろ)きて、152艶男(あでやか)の左右(さいう)の手(て)をしつかと握(にぎ)り、153涙(なみだ)ながらに、
154『若君(わかぎみ)よはやらせ給(たま)ふ事(こと)なかれ
155君(きみ)には父母(ふぼ)と御子(みこ)いまさずや
156玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)死(し)するはいと易(やす)し
157重(おも)きは国(くに)の務(つと)めなるぞや
158思(おも)ひきや大井(おほゐ)の川(かは)の舟遊(ふなあそ)びに
159かかる歎(なげ)きの身(み)に迫(せま)るとは
160上津瀬(かみつせ)にはた中津瀬(なかつせ)に下津瀬(しもつせ)に
161聞(きこ)ゆる声(こゑ)は魔神(まがみ)なるらむ
162若君(わかぎみ)よ魔神(まがみ)の甘(あま)き言(こと)の葉(は)に
163かかりて生命(いのち)捨(す)てさせ給(たま)ふな
164若君(わかぎみ)の生命(いのち)はわれ等(ら)があづからむ
165真砂(まさご)、白砂(しらさご)力(ちから)限(かぎ)りに』
166 白砂(しらさご)はあわてて、
167『風(かぜ)荒(あ)れて波(なみ)高(たか)まりぬいざ舟(ふね)を
168岸辺(きしべ)に寄(よ)せむ真砂(まさご)よ舟(ふね)漕(こ)げ』
169 真砂(まさご)はこたへて、
170『艫(ろ)も櫂(かい)も波(なみ)に浚(さら)はれ如何(いか)にして
171岸辺(きしべ)に着(つ)かむこの荒川(あらかは)を』
172 斯(か)くいふ折(をり)しも、173一天(いつてん)俄(にはか)にかき曇(くも)り、174暴風(ぼうふう)吹(ふ)き荒(すさ)み、175大地(だいち)は震動(しんどう)して、176荒波(あらなみ)の猛(たけ)りに舟(ふね)諸共(もろとも)に三(さん)人(にん)の姿(すがた)は水中(すいちう)深(ふか)くかくれける。
177 これより日夜(にちや)の震動(しんどう)止(や)まず、178雷(いかづち)轟(とどろ)き、179稲妻(いなづま)閃(ひらめ)き、180暴風(ぼうふう)吹(ふ)き荒(すさ)み、181雨(あめ)は盆(ぼん)を覆(かへ)せし如(ごと)く、182地鳴(ぢなり)震動(しんどう)間断(かんだん)なく、183さしもに平穏(へいをん)なりし水上山(みなかみやま)の聖場(せいぢやう)は、184阿鼻(あび)叫喚(けうくわん)の巷(ちまた)と化(くわ)し去(さ)り、185岩ケ根(いはがね)は竜彦(たつひこ)を一大事(いちだいじ)と背(せ)に負(お)ひ、186高殿(たかどの)に上(あが)りて、187難(なん)を免(まぬが)れゐたりける。
188 国津(くにつ)神(かみ)たちの右往(うわう)左往(さわう)に泣(な)き叫(さけ)ぶ状(さま)、189目(め)も当(あ)てられぬ惨状(さんじやう)なりける。
190 かかるところへ、191天(てん)より降(くだ)り来(き)ませる容姿(ようし)端麗(たんれい)なる女神(めがみ)、192四柱(よはしら)の侍神(じしん)を伴(ともな)ひ、193此(この)場(ば)に降(くだ)らせ給(たま)ふ。
194(昭和九・七・二〇 旧六・九 於関東別院南風閣 林弥生謹録)
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