霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一九章 生命(いのち)の親(おや)〔九六〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻 篇:第3篇 峠の達引 よみ(新仮名遣い):とうげのたてひき
章:第19章 生命の親 よみ(新仮名遣い):いのちのおや 通し章番号:960
口述日:1922(大正11)年09月14日(旧07月23日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
黒姫は、火の国に向かって山道を急いでいた。黒姫は向日峠の手前で街道に出る道がわからず、山中の遠回りの道に迷いこんでしまい、深谷川にかかる朽ちた丸木橋の手前で立ち止まっていた。
すると突然、三尺ばかりの一人の童子が現れ、この橋を渡らなければ想う人には会えない、という歌を歌うと忽然と消えてしまった。黒姫が不思議に思っていると、また七八人の童子が現れ、この先で大蛇の三公に縛られて生き埋めにされた高山彦やお愛という人がいる、と歌で告げた。
黒姫は高山彦と聞いてにわかに心配になってきた。そこへ玉治別の宣伝歌が聞こえてきた。玉治別が近くにいると知って心強くなった黒姫は、思い切って朽ちた丸木橋を渡り、無事に向こう岸に着いた。
すると、身なりがぼろぼろになって泣きはらした少女が向こうからやってきた。黒姫が心配して声をかけると、少女は泣き伏して、自分の姉が生き埋めにされたと黒姫に助けを求めた。
少女はお梅であった。黒姫はお梅を背負って道案内をしてもらい、三人が埋められている塚のところまでやってきた。黒姫は石を押しのけようと神号を唱えながら必死に押したが、石はびくともしなかった。
すると八人の童子がどこからともなく現れて、大きな石を投げ捨ててしまい、また煙となって消えてしまった。
黒姫は神に感謝し、一生懸命に土をかき分けて掘り起し出した。黒姫は三人の男女を掘り起こした。三人の縄を解き、草の上に寝かせて天の数歌を歌い、蘇生を祈願した。
お梅が汲んできた谷川の水を口に含ませると、お愛は気が付き、お梅に飛びついた。お梅は、三五教の宣伝使が助けてくれたのだとお愛に伝えた。孫公と兼公も気が付き、黒姫に礼を述べた。
黒姫は神助によって石を取り除き、三人を助けることができたことを告げた。一同は黒姫の後ろに端座して天津祝詞を奏上し、感謝祈願を行ったのち、元来た道を引き返して行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-09-19 10:15:01 文字数:4316 OBC :rm3419
愛善世界社版:241頁 八幡書店版:第6輯 449頁 修補版: 校定版:251頁 普及版:105頁 初版: ページ備考:
001 黒姫(くろひめ)は石塊(いしころ)だらけの谷道(たにみち)を火(ひ)の国都(くにみやこ)へと急(いそ)ぎつつ進(すす)み行(ゆ)く。002途中(とちう)の深谷川(ふかたにがは)に危(あやふ)い一本(いつぽん)の丸木橋(まるきばし)が架(か)つて居(ゐ)る。003黒姫(くろひめ)は石橋(いしばし)でも叩(たた)いて見(み)て渡(わた)ると云(い)ふ注意深(ちういぶか)い人間(にんげん)になつて居(ゐ)た。004建日(たけひ)の館(やかた)の建国別(たけくにわけ)の宣伝使(せんでんし)を、005軽率(けいそつ)にも吾(わが)子(こ)では無(な)いかと訪問(はうもん)して失敗(しつぱい)したのに懲(こ)りたからである。006黒姫(くろひめ)は一本橋(いつぽんばし)の裏(うら)を窺(のぞ)き込(こ)むと、007幾年(いくねん)かの風雨(ふうう)に晒(さら)された一本橋(いつぽんばし)は、008橋(はし)の詰(つめ)の方(はう)が七八分(しちはちぶ)ばかり朽(く)ちて居(ゐ)る。009これや如何(どう)したら宜(よ)からうかと、010橋詰(はしづめ)に佇(たたず)んで吐息(といき)を洩(も)らして居(ゐ)る。011折(をり)しも忽然(こつぜん)として現(あら)はれた三尺(さんじやく)ばかりの一人(ひとり)の童子(どうじ)黒姫(くろひめ)の顔(かほ)を見上(みあ)げてニヤリと笑(わら)ひ、
 
012童子『吾(わが)恋(こひ)は深谷川(ふかたにがは)の丸木橋(まるきばし)
013  渡(わた)るにこはし渡(わた)らねば
014   思(おも)ふ方(かた)には会(あ)はれない』
 
015と謡(うた)つたきりポツと白煙(はくえん)と共(とも)に消(き)えて了(しま)つた。016黒姫(くろひめ)は此(この)奇怪(きくわい)な現象(げんしやう)にうたれて不安(ふあん)の雲(くも)に包(つつ)まれ乍(なが)ら、017『惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に祈願(きぐわん)を籠(こ)めて居(ゐ)る。
018 此処(ここ)は向日峠(むかふたうげ)の手前(てまへ)であつた。019火(ひ)の国(くに)の都(みやこ)へ行(ゆ)くのには、020火(ひ)の国崎(くにざき)を通(とほ)るのが順路(じゆんろ)である。021されど黒姫(くろひめ)は左(ひだり)に広(ひろ)き火(ひ)の国(くに)街道(かいだう)のある事(こと)に気(き)づかず、022思(おも)はず右(みぎ)へ右(みぎ)へとやつて来(き)て、023此(この)山道(やまみち)に迷(まよ)ひ込(こ)んで来(き)たのであつた。024此(この)時(とき)又(また)もや忽然(こつぜん)として七八(しちはち)人(にん)の小(ちひ)さき童子(どうじ)、025橋(はし)の袂(たもと)に現(あら)はれ互(たがひ)に手(て)をつなぎ乍(なが)ら、
 
026童子(どうじ)『それ出(で)た、027やれ出(で)た、028現(あら)はれた
029  向日峠(むかふたうげ)の山麓(さんろく)の、030楠(くす)の木蔭(こかげ)に鬼(おに)が出(で)た
031 鬼(おに)かと思(おも)へば恐(おそ)ろしい
032  大蛇(をろち)の三公(さんこう)が現(あら)はれて
033 お愛(あい)の方(かた)を縛(しば)りつけ
034  高山彦(たかやまひこ)と言(い)ふ男(をとこ)
035 兼公(かねこう)迄(まで)もフン縛(じば)り
036  穴(あな)を穿(うが)つて埋(い)けよつた
037 大(おほ)きな岩(いは)が乗(の)つてある』
 
038と言(い)つたきり、039又(また)もやプスと童子(どうじ)の姿(すがた)は消(き)え、040後(あと)には白煙(しろけぶり)が幽(かす)かに揺(ゆら)いで居(ゐ)る。041黒姫(くろひめ)は両手(りやうて)を組(く)み頭(かうべ)を傾(かたむ)け、
042黒姫(くろひめ)『はてな、043合点(がつてん)のゆかぬ事(こと)だな。044今(いま)現(あら)はれた童子(どうじ)は魔(ま)か神(かみ)か、045何(なに)かは知(し)らぬが、046何(なん)とはなしに気(き)がかりな事(こと)を云(い)つた様(やう)だ。047高山彦(たかやまひこ)と云(い)ふ男(をとこ)がフン縛(じば)られて埋(う)められたとか、048お愛(あい)の方(かた)が埋(うづ)められたとか言(い)つた様(やう)だ。049若(も)しや恋(こひ)しい夫(をつと)の高山彦(たかやまひこ)様(さま)の事(こと)ではあるまいか。050お愛(あい)の方(かた)と云(い)つたのは、051大方(おほかた)愛子姫(あいこひめ)の事(こと)だらう。052向日峠(むかふたうげ)の山麓(さんろく)と云(い)へば、053まだ之(これ)から何程(なにほど)の里程(りてい)があるか知(し)らぬが、054何(なに)は兎(と)もあれ、055ヂツとしては居(を)れなくなつた。056あゝ如何(どう)したら宜(よ)からうかな。057……妾(わたし)位(くらゐ)因果(いんぐわ)の者(もの)が世(よ)にあらうか。058勿体(もつたい)ない、059若気(わかげ)の至(いた)りで、060折角(せつかく)神(かみ)様(さま)から貰(もら)うた男(をとこ)の児(こ)を捨(す)てた天罰(てんばつ)が酬(むく)うて来(き)て、061する事(こと)為(な)す事(こと)、062何(なに)もかも此(この)様(やう)に鶍(いすか)の嘴(はし)程(ほど)喰(く)ひ違(ちが)ふのであらう。063思(おも)へば思(おも)へば罪(つみ)の深(ふか)い此(この)身(み)ぢやなあ』
064と独言(ひとりご)ちつつ力(ちから)なげに落涙(らくるい)と共(とも)に垂頂(うなだ)れて居(ゐ)る。065此(こ)の時(とき)何処(どこ)ともなく宣伝歌(せんでんか)が聞(きこ)え来(き)たる。
066(玉治別)『朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
067月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
068仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
069如何(いか)なる災難(さいなん)来(きた)るとも
070神(かみ)に任(まか)した宣伝使(せんでんし)
071誠(まこと)一(ひと)つを立(た)て貫(ぬ)けよ
072神(かみ)は汝(なんぢ)と倶(とも)にあり
073汝(なんぢ)の誠(まこと)現(あら)はれて
074汝(なんぢ)を救(すく)ふ神(かみ)の道(みち)
075此(この)世(よ)を救(すく)ふ生神(いきがみ)は
076天教(てんけう)のお山(やま)のみでない
077至(いた)る所(ところ)に神(かみ)坐(ゐ)ます
078神(かみ)の恵(めぐ)みを諾(うべな)ひて
079飽迄(あくまで)行(ゆ)けよ三五(あななひ)の
080黒姫司(くろひめつかさ)の宣伝使(せんでんし)
081深谷川(ふかたにがは)の丸木橋(まるきばし)
082如何(いか)に危(あやふ)く見(み)えつれど
083汝(なんぢ)の心(こころ)に信仰(あななひ)の
084誠(まこと)の花(はな)の咲(さ)くならば
085易(やす)く渡(わた)らむ神(かみ)の橋(はし)
086進(すす)めよ進(すす)め早(はや)渡(わた)れ
087吾(われ)は玉治別(たまはるわけの)司(かみ)
088汝(なんぢ)の身魂(みたま)につき添(そ)ひて
089汝(なれ)が行末(ゆくすゑ)を守(まも)りつつ
090此処迄(ここまで)進(すす)み来(きた)りけり
091あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
092御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
093と云(い)つたきり、094宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)はピタリと止(と)まつて了(しま)つた。095黒姫(くろひめ)は此(この)宣伝歌(せんでんか)の近(ちか)く聞(きこ)えたのに力(ちから)を得(え)、096玉治別(たまはるわけ)が此(この)近(ちか)くに来(き)て居(ゐ)る事(こと)を心強(こころづよ)く思(おも)ひ、097萎(しほ)れきつたる心(こころ)を取直(とりなほ)し心待(こころま)ちに待(ま)つて居(ゐ)る。098されども玉治別(たまはるわけ)の姿(すがた)どころか、099獣(けもの)一匹(いつぴき)姿(すがた)を見(み)せぬ。100黒姫(くろひめ)は思(おも)ひきつて此(この)丸木橋(まるきばし)をチヨコチヨコ渡(わた)りに、101向(むか)ふに渡(わた)り胸(むね)を撫(な)で下(おろ)し乍(なが)ら、
102黒姫(くろひめ)『あゝ危(あやふ)い事(こと)だつた。103ようまア斯(こ)んな朽果(くちは)てた橋(はし)が無事(ぶじ)に渡(わた)れた事(こと)だ。104之(これ)と云(い)ふも矢張(やつぱり)神(かみ)様(さま)の御恵(みめぐ)みだ、105まだ天道(てんだう)様(さま)も黒姫(くろひめ)を捨(す)て玉(たま)はざる証(しるし)であらう。106あゝ有難(ありがた)い有難(ありがた)い勿体(もつたい)なや』
107と両手(りやうて)を合(あは)せ、108涙(なみだ)と共(とも)に感謝(かんしや)祈願(きぐわん)の祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)して居(ゐ)る。
109 そこに力(ちから)なげにチヨロチヨロと現(あら)はれ来(き)た十四五(じふしご)才(さい)の女(をんな)がある。110見(み)れば目(め)を腫(は)らし、111色(いろ)青(あを)ざめ、112髪(かみ)振乱(ふりみだ)し、113着物(きもの)の裾(すそ)には土(つち)が一(いつ)ぱい着(つ)いて居(ゐ)る。114黒姫(くろひめ)は此(この)少女(せうぢよ)を見(み)るより言葉(ことば)を掛(か)け、
115黒姫(くろひめ)『これこれお前(まへ)は小(ちひ)さい女(をんな)の身分(みぶん)として、116斯(こ)んな恐(おそ)ろしい山道(やまみち)へ何(なに)しに来(き)たのだい。117見(み)れば目(め)が腫(は)れて居(ゐ)る。118髪(かみ)も乱(みだ)れ、119顔(かほ)の色(いろ)は青(あを)くなり、120着物(きもの)の裾(すそ)には赤(あか)い土(つち)が一(いつ)ぱい着(つ)いて居(を)るぢやないか。121之(これ)には何(なに)か様子(やうす)のある事(こと)であらう。122差支(さしつかへ)なくば此(この)をばさまに云(い)つて下(くだ)さい。123妾(わたし)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)だ。124妾(わたし)の力(ちから)の及(およ)ぶ丈(だ)けはお前(まへ)の助(たす)けになりませう』
125と親切(しんせつ)に労(いた)はり問(と)へば、126少女(せうぢよ)は腰(こし)を屈(かが)め慇懃(いんぎん)に礼(れい)を述(の)べ乍(なが)ら、
127少女(せうぢよ)(お梅)『をば様(さま)、128有難(ありがた)う御座(ござ)います。129何卒(どうぞ)助(たす)けて下(くだ)さいませ。130妾(わたし)はお梅(うめ)と申(まを)す女(をんな)で御座(ござ)います。131お愛(あい)と云(い)ふ姉(ねえ)さまが、132悪者(わるもの)の為(た)めに捕(とら)へられ、133殺(ころ)されて土(つち)の中(なか)に埋(う)められて了(しま)ひました。134さうして二人(ふたり)の男(をとこ)の方(かた)と一所(いつしよ)に…』
135と此処迄(ここまで)言(い)つてワツとばかり声(こゑ)を放(はな)つて泣(な)きくづれる。136少女(せうぢよ)は今(いま)迄(まで)張(は)りきつて居(ゐ)た精神(せいしん)が、137黒姫(くろひめ)の情(なさけ)ある言葉(ことば)に絆(ほだ)されヤツと安心(あんしん)した途端(とたん)に気(き)が弛(ゆる)んで、138力(ちから)無(な)げに倒(たふ)れたのである。139黒姫(くろひめ)は深谷川(ふかたにがは)へ辛(から)うじて下(くだ)り水筒(すゐとう)に水(みづ)を盛(も)り来(きた)り、140少女(せうぢよ)の口(くち)に含(ふく)ませ面部(めんぶ)に吹(ふ)きかけなどして甲斐(かひ)々々(がひ)しく介抱(かいほう)をして居(ゐ)る。141黒姫(くろひめ)が熱心(ねつしん)なる介抱(かいほう)の効(かう)空(むな)しからず、142少女(せうぢよ)は息(いき)を吹(ふ)き返(かへ)し、143苦(くる)しげに胸(むね)を撫(な)で乍(なが)ら、
144お梅(うめ)『あゝ恐(こは)い恐(こは)い、145をばさま、146何卒(どうぞ)助(たす)けて下(くだ)さいまし。147お願(ねが)ひで御座(ござ)います』
148黒姫(くろひめ)『お前(まへ)、149最前(さいぜん)の言葉(ことば)に姉(ねえ)さまのお愛(あい)さまとやらが悪者(わるもの)に殺(ころ)され、150土中(どちう)に埋(うづ)められたと云(い)ひましたな』
151お梅(うめ)『はい、152高手(たかて)小手(こて)に縛(いまし)めて、153森(もり)の下(した)の土中(どちう)に埋(うづ)めて了(しま)ひました。154さうして高山彦(たかやまひこ)と言(い)ふお方(かた)と、155兼公(かねこう)と云(い)ふ無頼漢(ならずもの)と一所(いつしよ)に、156深(ふか)い穴(あな)へ埋(う)められ、157大(おほ)きな石(いし)を其(その)上(うへ)に幾(いく)つも幾(いく)つも乗(の)せて帰(かへ)つて了(しま)ひました』
158 黒姫(くろひめ)は高山彦(たかやまひこ)と聞(き)くより、159顔(かほ)を蒼白(まつさを)にし口(くち)を尖(とが)らせ、
160黒姫(くろひめ)『エ、161何(なん)と云(い)ひなさる。162高山彦(たかやまひこ)と云(い)ふ人(ひと)が如何(どう)なつたと云(い)ふのだい』
163お梅(うめ)『ハイ、164姉(ねえ)さまのお愛(あい)さまと妾(わたし)が縛(しば)られて、165大蛇(をろち)の三公(さんこう)と云(い)ふ悪者(わるもの)に嘖(さいな)まれて居(ゐ)る所(ところ)へ三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)を謡(うた)ひ、166助(たす)けに来(き)て下(くだ)さいましたお方(かた)で御座(ござ)います。167其(その)方(かた)に目潰(めつぶし)をかけて引倒(ひつこ)かし、168荒縄(あらなは)で縛(しば)り、169姉(ねえ)さまと一所(いつしよ)に埋(う)めて了(しま)ひました。170ウワーツ…………』
171と又(また)泣(な)き伏(ふ)す。172黒姫(くろひめ)はあわてふためき乍(なが)ら、
173黒姫(くろひめ)『これこれお梅(うめ)さま、174シツカリして下(くだ)され。175高山彦(たかやまひこ)さまは何処(どこ)に埋(う)めてあるか。176さあ早(はや)く行(い)つて助(たす)けねばなるまい。177お愛(あい)さまと云(い)ふのは火(ひ)の国都(くにみやこ)の愛子姫(あいこひめ)ではありませぬか。178さあ行(ゆ)きませう』
179と促(うなが)せば少女(せうぢよ)は、
180お梅『ハイ、181あまり恐(こは)かつたので気(き)が遠(とほ)くなり、182をばさまの仰(おつ)しやる事(こと)がハツキリ分(わか)りませぬが、183案内(あんない)しますから、184何卒(どうぞ)助(たす)けてやつて下(くだ)さいませ』
185黒姫(くろひめ)『あゝさうだらうとも、186無理(むり)もない。187可憐(かはい)さうに、188怖(こは)いのも尤(もつと)もだ。189それにしてもようまアお前(まへ)は免(まぬが)れて来(こ)られたものだ。190サア一時(いつとき)も愚図(ぐづ)々々(ぐづ)しては居(を)られませぬ。191息(いき)が絶(き)れては取返(とりかへ)しがつきませぬからな』
192お梅(うめ)『をばさま、193妾(わたし)が案内(あんない)致(いた)します。194何卒(どうぞ)跟(つ)いて来(き)て下(くだ)さい』
195と先(さき)に立(た)つ。196されどお梅(うめ)は夜前(やぜん)の騒動(さうだう)に気(き)を脱(ぬ)かれ、197其(その)上(うへ)積(つ)み重(かさ)ねられた石(いし)を取除(とりの)け様(やう)として力(ちから)一杯(いつぱい)気張(きば)つた結果(けつくわ)、198身体(からだ)は非常(ひじやう)に疲(つか)れて了(しま)ひ、199足許(あしもと)さへもヒヨロヒヨロである。200それ故(ゆゑ)思(おも)はしく足(あし)も運(はこ)ばず、201余(あま)りのもどかしさに黒姫(くろひめ)は気(き)が急(せ)いて堪(たま)らず、
202黒姫(くろひめ)『お梅(うめ)さまとやら、203此(この)をばが負(お)うてやりませう。204お前(まへ)は妾(わたし)の背中(せなか)から案内(あんない)して下(くだ)さい。205一刻(いつこく)も猶予(いうよ)はなりませぬから……』
206と云(い)ひ乍(なが)ら、207お梅(うめ)をグツと背(せ)に負(お)ひ、208杖(つゑ)を力(ちから)に雑草(ざつさう)生(お)ひ茂(しげ)る山道(やまみち)を、209我(われ)を忘(わす)れて進(すす)み行(ゆ)く。210殆(ほとん)ど十丁(じつちやう)ばかりも来(き)たと思(おも)ふ時(とき)、211お梅(うめ)は背中(せなか)より細(ほそ)い声(こゑ)にて、
212お梅『をばさま、213あそこの楠(くすのき)の根元(ねもと)に、214沢山(たくさん)な石(いし)が積(つ)んで御座(ござ)いませう。215あそこに姉(ねえ)さまや、216二人(ふたり)の方(かた)が埋(う)められて居(を)られます。217ワーンワーン』
218と又(また)もや泣(な)き出(だ)す。219黒姫(くろひめ)は泣(な)き叫(さけ)ぶお梅(うめ)を労(いた)はり乍(なが)ら、220慌(あはただ)しく塚(つか)の前(まへ)に馳寄(はせよ)り、221背中(せなか)よりお梅(うめ)を下(おろ)し、222一生(いつしやう)懸命(けんめい)の金剛力(こんがうりき)を出(だ)して、223口(くち)に神号(しんがう)を称(とな)へ乍(なが)ら巨大(きよだい)な石(いし)に手(て)をかけ、224押(お)せども突(つ)けどもビクとも動(うご)かぬのに落胆(らくたん)し、225涙(なみだ)をタラタラと流(なが)し乍(なが)ら、226一生(いつしやう)懸命(けんめい)に天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し初(はじ)めた。
227 此(この)時(とき)丸木橋(まるきばし)の袂(たもと)に現(あら)はれた三尺(さんじやく)ばかりの八(はち)人(にん)の童子(どうじ)、228何処(どこ)ともなく出(い)で来(きた)り、229巨大(きよだい)なる石(いし)を毬(まり)を投(な)げる様(やう)に軽(かる)さうにポイポイと取(と)り除(の)け、230四五間(しごけん)先(さき)へ投(な)げつけて了(しま)つた。231さうして又(また)もや白煙(しろけぶり)となつて童子(どうじ)の姿(すがた)は見(み)えなくなつた。232黒姫(くろひめ)は感謝(かんしや)の涙(なみだ)に咽(むせ)びつつ一生(いつしやう)懸命(けんめい)に土(つち)を掻(か)き分(わ)け汗(あせ)みどろになつて掘(ほ)りだした。233見(み)れば三(さん)人(にん)の男女(だんぢよ)が一緒(いつしよ)に枕(まくら)を並(なら)べて埋(う)められて居(ゐ)る。234黒姫(くろひめ)は心(こころ)の裡(うち)にて神助(しんじよ)を祈(いの)り乍(なが)ら、235三(さん)人(にん)の身体(からだ)を掘(ほ)り上(あ)げ青草(あをくさ)の上(うへ)に寝(ね)かせ、236手早(てばや)く縛(いましめ)の縄(なは)を一々(いちいち)解(と)き、237天(あま)の数歌(かずうた)を歌(うた)ひ上(あ)げ、238三(さん)人(にん)の蘇生(そせい)を祈(いの)つた。
239 お梅(うめ)は其(そ)の間(ま)に黒姫(くろひめ)の水筒(すゐとう)を取(と)り谷水(たにみづ)を汲(く)み来(きた)り、240三(さん)人(にん)の口(くち)に含(ふく)ませた。241お愛(あい)は『ウン』と一声(ひとこえ)叫(さけ)ぶと共(とも)にムツクリと起(お)き上(あが)り、242お梅(うめ)の姿(すがた)を見(み)て嬉(うれ)し気(げ)に、
243お愛『ア、244お前(まへ)は妹(いもうと)のお梅(うめ)であつたか。245ようまあ無事(ぶじ)で居(ゐ)て下(くだ)さつた』
246と飛(と)びつく様(やう)にする。247お梅(うめ)は嬉(うれ)しげに、
248お梅『姉(ねえ)さま、249嬉(うれ)しいわ、250三五教(あななひけう)のをばさまが助(たす)けて下(くだ)さつたのですよ。251お礼(れい)を申(まを)しなさい』
252 黒姫(くろひめ)は二人(ふたり)の男(をとこ)の顔(かほ)を見較(みくら)べ、253高山彦(たかやまひこ)には非(あら)ざるかと一生(いつしやう)懸命(けんめい)に調(しら)べて居(ゐ)たが、
254黒姫『ヤア、255之(これ)は孫公(まごこう)ぢやつた。256まア如何(どう)したら良(よ)からう』
257と身体(からだ)に手(て)を触(ふ)れて見(み)た。258まだ何処(どこ)ともなしに温味(ぬくみ)がある。259黒姫(くろひめ)はお愛(あい)の感謝(かんしや)の言葉(ことば)を耳(みみ)にもかけずに、260二人(ふたり)の男(をとこ)に一生(いつしやう)懸命(けんめい)に鎮魂(ちんこん)をなし、261天(あま)の数歌(かずうた)を謡(うた)ひ上(あ)げて居(を)る。262二人(ふたり)は漸(やうや)く『ウーン』と呻(うめ)いて起(お)き上(あが)り四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)して居(ゐ)る。
263孫公(まごこう)『やあ、264黒姫(くろひめ)さまか。265ようまあ助(たす)けて下(くだ)さいました』
266と云(い)つたきり涙(なみだ)をタラタラと流(なが)し、267大地(だいち)に頭(かしら)を下(さ)げて感謝(かんしや)して居(ゐ)る。268兼公(かねこう)は四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)し、
269兼公『ヤア、270お愛(あい)様(さま)、271誠(まこと)に危(あぶな)い事(こと)で御座(ござ)いました』
272お愛(あい)『兼公(かねこう)、273三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)様(さま)が、274妾(わたし)達(たち)一同(いちどう)の生命(いのち)を助(たす)けて下(くだ)さつたのですよ。275お礼(れい)を申(まを)しなさい』
276兼公(かねこう)『之(これ)は之(これ)は、277誰方(どなた)か存(ぞん)じませぬが、278能(よ)くもまあ生命(いのち)を拾(ひろ)つて下(くだ)さいました。279悪者(わるもの)の為(た)めにこんな処(ところ)に、280生埋(いきう)めにされて居(を)りました。281モ少(すこ)し貴女(あなた)のお出(い)でが遅(おそ)かつたら、282生命(いのち)は助(たす)かりませぬでした。283私(わたし)は矢方(やかた)の村(むら)の兼公(かねこう)と申(まを)して、284あまり良(よ)くない人物(じんぶつ)で御座(ござ)います。285斯(こ)うなつたのも全(まつた)く天罰(てんばつ)で御座(ござ)いませう。286何卒(どうぞ)神(かみ)様(さま)にお詫(わび)をして下(くだ)さいませ』
287黒姫(くろひめ)『まあ、288何(なに)よりも結構(けつこう)で御座(ござ)いました。289妾(わたし)も結構(けつこう)なお神徳(かげ)を頂(いただ)きまして、290斯(こ)んな気持(きもち)の良(よ)い事(こと)は御座(ござ)いませぬ。291さうお礼(れい)を云(い)つて貰(もら)ひましては、292妾(わたし)の折角(せつかく)の善行(ぜんかう)が煙(けぶり)となつて消(き)えて了(しま)ひます。293何事(なにごと)も皆(みな)神(かみ)様(さま)が助(たす)けて下(くだ)さつたのです。294大(おほ)きな岩石(がんせき)で圧(おさ)へつけてあつた此(この)塚(つか)は婆(ばば)アの力(ちから)に及(およ)ばず、295苦(くる)しみ悶(もだ)えて居(ゐ)る矢先(やさき)、296木花(このはな)咲耶姫(さくやひめ)様(さま)の御(ご)化身(けしん)が現(あら)はれて、297岩(いは)を取除(とりの)けて下(くだ)さいました。298其(その)お蔭(かげ)で皆(みな)さまをお助(たす)けする事(こと)が出来(でき)ましたのですから、299何卒(どうぞ)神(かみ)様(さま)にお礼(れい)を申上(まをしあ)げて下(くだ)さい』
300 孫公(まごこう)初(はじ)めお愛(あい)、301兼公(かねこう)、302お梅(うめ)の四(よ)人(にん)は黒姫(くろひめ)の後(うしろ)に端坐(たんざ)し、303天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し救命(きうめい)謝恩(しやおん)の祝詞(のりと)を終(をは)つて一行(いつかう)五(ご)人(にん)はもと来(き)し道(みち)へ引返(ひきかへ)し、304向日峠(むかふたうげ)の山道(やまみち)指(さ)して辿(たど)り行(ゆ)く。
305 あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
306(大正一一・九・一四 旧七・二三 北村隆光録)
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