霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第一二章 漆山(うるしやま)〔九五三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻 篇:第2篇 有情無情 よみ(新仮名遣い):うじょうむじょう
章:第12章 漆山 よみ(新仮名遣い):うるしやま 通し章番号:953
口述日:1922(大正11)年09月13日(旧07月22日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
房公と芳公は、黒姫に先に行かれ、激しい嵐に会いながらも玉治別宣伝使の宣伝歌に救われ、黒姫も嵐に悩んではいないかと必死に山道を追って進んでいた。
房公と芳公は、黒姫が出くわした村人たちのところまでやってきた。黒姫を建日別の館に送って行った玉公以外の村人は、山中の道に座ったままでいた。村人の一人、侠客の虎公は、房公と芳公のさまを見て、草鞋をめぐんでやろうと声をかけた。
房公と芳公は、虎公とおかしな掛け合いを始める。房公と芳公は、黒姫という婆様がここを通ったかと尋ねる。虎公は相撲を取って自分に勝ったら教えてやると返す。芳公と房公は相撲の経歴についての与太話をし、虎公は大いに受けた。
虎公は二人を案内して建日別の館に連れて行くことになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-09-15 10:35:15 文字数:4823 OBC :rm3412
愛善世界社版:154頁 八幡書店版:第6輯 418頁 修補版: 校定版:160頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001高山峠(たかやまたうげ)の中腹(ちうふく)に
002おき去(さ)られたる房(ふさ)、芳(よし)は
003足(あし)の立(た)つたを幸(さいは)ひに
004黒姫司(くろひめつかさ)の後(あと)を追(お)ひ
005火(ひ)の国都(くにみやこ)へ進(すす)まむと
006漸(やうや)く絶頂(ぜつちやう)にいざりつく
007壁立(かべた)つ坂(さか)を下(くだ)りつつ
008房公(ふさこう)芳公(よしこう)両人(りやうにん)は
009足(あし)の拍子(へうし)を取(と)り乍(なが)ら
010岩(いは)の根(ね)木(き)の根(ね)ふみさくみ
011房公(ふさこう)『ウントコドツコイ芳公(よしこう)さま
012気(き)をつけなされよ危(あぶ)ないぞ
013壁(かべ)を立(た)てたよな坂路(さかみち)だ
014石(いし)の車(くるま)がゴロゴロと
015人待顔(ひとまちがほ)にころげてる
016油断(ゆだん)は出来(でき)ない坂(さか)の路(みち)
017オツトドツコイ足(あし)辷(すべ)る
018アイタヽヽタツタ躓(つまづ)いた
019足(あし)の頭(あたま)がうづき出(だ)す
020芳公(よしこう)気(き)をつけシツカリせい
021この又(また)きつい坂路(さかみち)を
022黒姫(くろひめ)さまはドツコイシヨ
023どうして降(くだ)つて往(い)ただろか
024ホンに危(あぶ)ない坂路(さかみち)だ
025それについても孫公(まごこう)は
026どこにマゴマゴしてるだろ
027心(こころ)に掛(かか)る旅(たび)の空(そら)
028一天(いつてん)俄(にはか)にかき曇(くも)り
029レコード破(やぶ)りの暴風雨(ばうふうう)
030岩石(がんせき)飛(と)ばし木(き)を倒(たふ)し
031げに凄(すさま)じき光景(くわうけい)に
032縮(ちぢ)み上(あ)がつて黒姫(くろひめ)が
033ドツコイドツコイドツコイシヨ
034そこらに転(ころ)げていやせぬか
035ウントコドツコイガラガラガラ
036それ見(み)よ芳公(よしこう)こけたぢやないか
037足(あし)の爪先(つまさき)ドツコイシヨ
038一足(ひとあし)々々(ひとあし)気(き)をつけて
039尖(とが)つた石(いし)をよけ乍(なが)ら
040キヨクキヨク笑(わら)ふ膝坊主(ひざばうず)
041シツカリ灸(やいと)をすゑ乍(なが)ら
042此(この)峻坂(しゆんぱん)を下(くだ)らねば
043火(ひ)の国都(くにみやこ)にや行(ゆ)かれない
044さぞ今頃(いまごろ)は黒姫(くろひめ)さま
045高山彦(たかやまひこ)の襟首(えりがみ)を
046グツと掴(つか)んでドツコイシヨ
047ヤイノヤイノの真最中(まつさいちう)
048愛子(あいこ)の姫(ひめ)の新妻(にひづま)も
049さぞや心(こころ)が揉(も)めるだろ
050人(ひと)の事(こと)とは言(い)ひ乍(なが)ら
051俺(おれ)は心配(しんぱい)ドツコイシヨ
052心(こころ)に掛(かか)つて堪(たま)らない
053高山彦(たかやまひこ)が若(わか)やいで
054綺麗(きれい)な女房(にようばう)をドツコイシヨ
055貰(もら)うて喜(よろこ)ぶ最中(さいちう)へ
056お色(いろ)の黒(くろ)い皺(しわ)だらけ
057皺苦茶(しわくちや)婆(ば)さまがやつて来(き)て
058私(わたし)が本当(ほんたう)の女房(にようばう)と
059シラを切(き)られちやドツコイシヨ
060本当(ほんたう)に迷惑(めいわく)なさるだろ
061さはさり乍(なが)ら最前(さいぜん)の
062三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)
063玉治別(たまはるわけ)のドツコイシヨー
064歌(うた)うた声(こゑ)は影(かげ)もなく
065雲(くも)を霞(かすみ)と消(き)え失(う)せた
066此(この)急坂(きふはん)を如何(どう)してか
067玉治別(たまはるわけ)の神司(かむつかさ)
068如何(どう)して其様(そのよ)にドツコイシヨ
069早(はや)く降(くだ)つて行(い)たのだろ
070山(やま)の天狗(てんぐ)がドツコイシヨ
071運上(うんじやう)取(と)りに来(く)るだらう
072アイタタ ドツコイ又(また)転(こ)けた
073会(あ)ひ度(た)い見(み)たいと黒姫(くろひめ)が
074恋路(こひぢ)の暗(やみ)に包(つつ)まれて
075鳥(とり)も通(かよ)はぬ山坂(やまさか)を
076登(のぼ)りつ下(くだ)りつドツコイシヨ
077夫(をつと)の後(あと)を慕(した)ひ行(ゆ)く
078其(その)猛烈(まうれつ)な惚(ほ)れ加減(かげん)
079呆(あき)れて物(もの)が云(い)はれない
080ドツコイ ドツコイ ドツコイシヨ
081オツと向(むか)ふに人(ひと)の影(かげ)
082彼奴(あいつ)は如何(どう)やら怪(あや)しいぞ
083是(これ)から腹帯(はらおび)しめ直(なほ)し
084天狗(てんぐ)の孫(まご)だと詐(いつ)はつて
085彼奴(あいつ)が若(も)しもドツコイシヨ
086泥棒(どろばう)かせぎであつたなら
087頭(あたま)のテツペから怒(ど)なりつけ
088一(ひと)つ荒肝(あらぎも)取(と)つてやろ
089あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
090御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
091高山峠(たかやまたうげ)の急坂(きふはん)を
092苦(く)なく事(こと)なく速(すみやか)に
093下(くだ)らせ玉(たま)へ純世姫(すみよひめ)
094国魂神(くにたまがみ)の御(おん)前(まへ)に
095慎(つつし)み敬(うやま)ひ願(ね)ぎまつる
096オツトドツコイ又(また)辷(すべ)る
097何(なん)で是(これ)程(ほど)石(いし)コロが
098沢山(たくさん)ころげて居(ゐ)るのだろ
099文明(ぶんめい)開花(かいくわ)の今日(こんにち)は
100どこのどこ迄(まで)道(みち)をあけ
101如何(いか)なる嶮(けは)しき山路(やまみち)も
102三寸(さんずん)四寸(しすん)の勾配(こうばい)で
103自動車(じどうしや)人車(じんしや)の通(とほ)る様(やう)に
104開鑿(かいさく)されてあるものを
105コリヤ又(また)エライ野蛮国(やばんこく)
106アイタタ アイタタ躓(つまづ)いた
107草鞋(わらぢ)の先(さき)が切(き)れよつた
108何程(なにほど)痛(いた)い石路(いしみち)も
109跣足(はだし)で行(ゆ)かねばならないか
110困(こま)つた事(こと)が出来(でき)て来(き)た
111こんな事(こと)だと知(し)つたなら
112草鞋(わらぢ)の用意(ようい)をドツコイシヨ
113ドツコイドツコイドツコイシヨ
114して来(き)て居(を)つたらよかつたに
115黒姫(くろひめ)さまはドツコイシヨ
116年寄(としよ)り丈(だけ)に気(き)が付(つ)いて
117無花果(いちじゆく)迄(まで)も用意(ようい)して
118吾々(われわれ)二人(ふたり)の饑渇(きかつ)をば
119ヤツと救(すく)うて下(くだ)さつた
120黒姫(くろひめ)さまが負(お)うてゐる
121草鞋(わらぢ)が一足(いつそく)貸(か)して欲(ほ)しい
122さうぢやと云(い)つて黒姫(くろひめ)の
123所在(ありか)はどこだか分(わか)らない
124ホンに困(こま)つたドツコイシヨ
125破目(はめ)になつたぢやないかいな
126黒姫(くろひめ)さまがドツコイシヨ
127いつも乍(なが)らに言(い)うただろ
128お前(まへ)は若(わか)い者(もの)だから
129向意気(むこいき)計(ばか)りが強(つよ)すぎて
130前(まへ)と後(うしろ)に気(き)がつかぬ
131旅(たび)をする時(とき)や如何(どう)しても
132草鞋(わらぢ)の用意(ようい)が第一(だいいち)だ
133馬鹿口(ばかぐち)叩(たた)く其(その)ひまに
134草鞋(わらぢ)を作(つく)つておくがよい
135途中(とちう)で困(こま)る事(こと)あると
136口角(こうかく)泡(あわ)を飛(と)ばしつつ
137教(をし)へてくれた言(こと)の葉(は)が
138今(いま)目(ま)のあたり現(あら)はれて
139後悔(こうくわい)すれ共(ども)仕様(しやう)がない
140あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
141神(かみ)の御霊(みたま)の幸(さち)はひて
142房公(ふさこう)の足(あし)は少時(しばし)の間(ま)
143獅子(しし)狼(おほかみ)の足(あし)となり
144跣足(はだし)で行(ゆ)かして下(くだ)さんせ
145そうして此(この)坂(さか)下(くだ)つたら
146又(また)もや元(もと)の人(ひと)の足(あし)
147造(つく)り直(なほ)して下(くだ)されや
148房公(ふさこう)御(お)願(ねがひ)申(まを)します
149ウントコドツコイ ドツコイシヨ
150緩勾配(くわんこうばい)の坂道(さかみち)に
151ヒソヒソささやく人(ひと)の影(かげ)
152彼奴(あいつ)はテツキリ山賊(さんぞく)だ
153いよいよ是(これ)から大天狗(だいてんぐ)
154孫(まご)だと名乗(なの)つておどさうか
155一筋縄(ひとすぢなは)ではゆくまいぞ
156ウントコドツコイドツコイシヨ』
157と唄(うた)ひ乍(なが)ら下(くだ)つて来(く)る。158緩勾配(くわんこうばい)の坂路(さかみち)に腰(こし)うちかけて雑談(ざつだん)に耽(ふけ)つてゐる四(よ)人(にん)の男(をとこ)、159二人(ふたり)の姿(すがた)を見(み)て、
160甲(かふ)『オイ旅(たび)の衆(しう)、161一寸(ちよつと)一服(いつぷく)しなさい。162随分(ずゐぶん)最前(さいぜん)の暴風雨(ばうふうう)で、163谷路(たにみち)が荒(あ)れて、164エライ石(いし)コロ路(みち)になつたので、165随分(ずゐぶん)草臥(くたび)れただろ。166ヤアお前(まへ)は跣足(はだし)だなア、167其奴(そいつ)ア堪(たま)るまい、168如何(どう)だ、169足(あし)に合(あ)ふか知(し)らぬが、170俺(おれ)の草鞋(わらぢ)を一足(いつそく)進(しん)ぜるから、171之(これ)を履(は)きなさい。172こんな石(いし)の尖(とが)つた急坂(きふはん)を、173麓(ふもと)まで下(くだ)る迄(まで)にや、174コンパスが破損(はそん)して了(しま)ふからなア』
175房公(ふさこう)『ハイ有難(ありがた)う御座(ござ)います。176ヨウ御(ご)親切(しんせつ)に仰有(おつしや)つて下(くだ)さいました。177あゝそんなら幾(いく)ら出(だ)しましたら頂(いただ)けますかなア』
178甲(かふ)『俺(おれ)は草鞋売(わらぢうり)ではないぞ、179余(あま)り軽蔑(けいべつ)してくれない。180之(これ)でも武野村(たけのむら)の虎公(とらこう)と云(い)つて、181チツとは名(な)を売(う)つた男(をとこ)だ。182お前(まへ)の難儀(なんぎ)を見(み)るにつけ、183気(き)の毒(どく)なと思(おも)つたから、184与(や)らうと云(い)ふのだ』
185房公(ふさこう)『それでも見(み)ず知(し)らずの方(かた)に、186無料(ただ)で頂(いただ)きましては、187如何(どう)も心(こころ)が済(す)みませぬ。188どうぞ御(ご)遠慮(ゑんりよ)なく代価(だいか)を御(お)取(と)り下(くだ)さいませ』
189虎公(とらこう)『他人(たにん)らしい水臭(みづくさ)い事(こと)を言(い)ふな。190俺(おれ)は三五教(あななひけう)の信者(しんじや)だが、191神(かみ)さまの教(をしへ)には天(あめ)が下(した)には他人(たにん)と云(い)ふ事(こと)なきものぞ、192誰(たれ)も彼(かれ)も、193生(い)きとし生(い)ける者(もの)は、194人間(にんげん)はおろか、195禽獣(きんじう)虫魚(ちうぎよ)草木(さうもく)に至(いた)る迄(まで)、196尊(たふと)き神(かみ)さまの御子(みこ)だ、197さうして宇宙(うちう)一切(いつさい)は残(のこ)らず兄弟(けいてい)姉妹(しまい)だと仰有(おつしや)つたぞ。198それだから俺(おれ)はお前(まへ)を本当(ほんたう)の兄弟(きやうだい)だと思(おも)ふてゐるのだから、199遠慮(ゑんりよ)せずに履(は)いてくれ』
200房公(ふさこう)『ハイ有難(ありがた)う御座(ござ)います。201神(かみ)様(さま)の教(をしへ)は偉(えら)いものだなア。202こんな野蛮国(やばんこく)迄(まで)感化力(かんくわりよく)が延(の)びてると思(おも)へば、203宣伝使(せんでんし)も馬鹿(ばか)にはならぬワイ。204黒姫(くろひめ)さまだつて、205俺(おれ)達(たち)は沢山(たくさん)相(さう)に何(なん)につけ、206かにつけ、207からかつて来(き)たが、208本当(ほんたう)に勿体(もつたい)ない事(こと)をしたものだ。209一(いち)時(じ)も早(はや)く黒姫(くろひめ)さまにお目(め)にかかつてお詫(わび)をしようぢやないか、210なア芳公(よしこう)』
211 芳公(よしこう)は虎公(とらこう)に向(むか)ひ丁寧(ていねい)に会釈(ゑしやく)をし乍(なが)ら、
212芳公『見(み)ず知(し)らずの吾々(われわれ)に対(たい)し、213御(ご)親切(しんせつ)に恵(めぐ)んで下(くだ)さいまして有難(ありがた)う御座(ござ)います。214此(この)御恩(ごおん)は決(けつ)して忘(わす)れませぬ。215此(この)房公(ふさこう)も草鞋(わらぢ)を切(き)つて困(こま)つて居(を)つた所(ところ)、216あなたの御恵(みめぐみ)に預(あづか)り、217実(じつ)に生(い)き返(かへ)つたやうな、218私(わたし)迄(まで)が思(おも)ひを致(いた)します』
219と虎公(とらこう)の親切(しんせつ)にほだされて、220涙(なみだ)ぐみつつ礼(れい)を云(い)ふ。
221虎公(とらこう)『エヽそんな涙(なみだ)つぽい事(こと)を言(い)うてくれな、222兄弟(きやうだい)同志(どうし)ぢやないか。223俺(おれ)が此(この)草鞋(わらぢ)をはいて行(ゆ)けと云(い)つたら、224お前(まへ)の方(はう)から……ヨシ来(き)た、225はいてやろ、226貴様(きさま)も中々(なかなか)気(き)の利(き)いた奴(やつ)だ、227それでこそ俺(おれ)の兄弟分(きやうだいぶん)だ、228今日(けふ)から俺(おれ)がお伴(とも)をさしてやるから跟(つ)いて来(こ)い。229火(ひ)の国(こく)へ往(い)つたら酒(さけ)の一杯(いつぱい)も奢(おご)つてやる……と斯(こ)う元気(げんき)よう云(い)つてくれ。230男(をとこ)のくせにメソメソと、231有難(ありがた)いの勿体(もつたい)ないのと言(い)うてくれると小癪(こしやく)に障(さは)つて仕方(しかた)がないワ』
232房公(ふさこう)『オイ虎(とら)の野郎(やらう)、233貴様(きさま)は猛獣(まうじう)の様(やう)な名(な)だが、234割(わり)とは気(き)の弱(よわ)い奴(やつ)だ。235俺(おれ)が天狗(てんぐ)の孫(まご)だと思(おも)つて、236お追従(つゐせう)に一足(いつそく)よりない草鞋(わらぢ)を放(はう)り出(だ)しよつたのだなア。237貴様(きさま)の草鞋(わらぢ)も大方(おほかた)破(やぶ)れてるぢやないか。238俺(おれ)が此(この)草鞋(わらぢ)をはいてやつたら貴様(きさま)如何(どう)する積(つも)りだ。239訳(わけ)の分(わか)らぬ馬鹿者(ばかもの)だなア』
240虎公(とらこう)『オツトお出(い)でたな、241天狗(てんぐ)の孫(まご)どん……草鞋(わらぢ)の一足(いつそく)位(くらゐ)無(な)くなつたつて、242足(あし)の片(かた)つ方(ぱう)位(くらゐ)千切(ちぎ)れたつて、243こたへるやうな哥兄(にい)さまだと思(おも)つて居(ゐ)るのか。244天狗(てんぐ)の孫(まご)でさへ草鞋(わらぢ)が切(き)れて吠面(ほえづら)かはきやがつた位(くらゐ)だのに、245此(この)虎公(とらこう)は真跣足(まつぱだし)で此(この)坂(さか)を下(くだ)るのだから、246天狗(てんぐ)の孫(まご)よりも余程(よほど)偉(えら)いのだよ』
247房公(ふさこう)『アツハヽヽヽ此奴(こいつ)ア面白(おもしろ)い、248是(これ)から俺(おれ)の家来(けらい)にしてやらう。249チツと其(その)代(かは)りに辛(つら)いぞ』
250虎公(とらこう)『何(なに)が辛(つら)い、251俺(おれ)達(たち)は神(かみ)様(さま)の生宮(いきみや)だ。252此(この)世(よ)に辛(つら)い事(こと)も、253怖(こわ)い事(こと)も知(し)らぬと云(い)ふ金剛(こんがう)不壊(ふえ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)見(み)た様(やう)な肉体(にくたい)だからなア』
254芳公(よしこう)『オイ虎(とら)、255貴様(きさま)に一(ひと)つ問(と)ひたい事(こと)があるが白状(はくじやう)するか如何(どう)だ』
256虎公(とらこう)『白状(はくじやう)せいとは何(なん)の事(こと)だ。257丸(まる)で俺(おれ)を科人(とがにん)扱(あつかひ)にして居(ゐ)やがるのだなア』
258芳公(よしこう)『きまつた事(こと)よ、259世界(せかい)の人間(にんげん)は何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も祖神(おやがみ)さまの目(め)から見(み)れば科人(とがにん)計(ばか)りだ。260碌(ろく)な奴(やつ)ア一匹(いつぴき)だつて居(ゐ)るものぢやない。261皆(みな)四(よ)つ足(あし)の容器(いれもの)計(ばか)りぢやからなア。262貴様(きさま)のやうに折角(せつかく)人間(にんげん)に生(うま)れ乍(なが)ら、263四(よ)つ足(あし)の様(やう)な名(な)をつけやがつてトラ何(なん)の事(こと)だい』
264虎公(とらこう)『アハヽヽヽ馬鹿(ばか)にしやがるワイ。265ヨシ気(き)に入(い)つた。266貴様(きさま)こそ俺(おれ)の特別(とくべつ)の兄弟分(きやうだいぶん)だ。267大方(おほかた)貴様(きさま)は婆(ばば)の後(あと)を追(お)ひかけて来(き)たウルサイ代物(しろもの)だらう』
268芳公(よしこう)『さうだ、269其(その)婆(ばば)の所在(ありか)を知(し)つてゐるなら、270包(つつ)まずかくさず、271一々(いちいち)芳公(よしこう)の前(まへ)で白状(はくじやう)致(いた)せと云(い)ふのだ。272知(し)らぬの何(なん)のと、273薄情(はくじやう)な事(こと)吐(ぬか)すと、274鬼(おに)の蕨(わらび)が貴様(きさま)の横(よこ)つ面(つら)へ御(お)見舞(みまひ)申(まを)すぞ』
275虎公(とらこう)『アハヽヽヽ一寸(ちよつと)此奴(こやつ)、276味(あぢ)をやりよるワイ。277貴様(きさま)一体(いつたい)どこの馬(うま)の骨(ほね)だ』
278芳公(よしこう)『俺(おれ)かい、279俺(おれ)は自転倒(おのころ)島(じま)の芳公(よしこう)と云(い)つたら誰(たれ)も知(し)る者(もの)は知(し)る、280知(し)らぬ者(もの)は一寸(ちよつと)も知(し)らぬ、281天下(てんか)無双(むさう)の豪傑(がうけつ)だよ。282摩利支(まりし)天(てん)さまにさへ相撲(すまう)とつて負(ま)けたことのない哥兄(にい)さまだからなア』
283虎公(とらこう)『貴様(きさま)、284摩利支(まりし)天(てん)とどこで相撲(すもう)とつたのだ。285何程(なにほど)法螺(ほら)吹(ふ)いても、286其奴(そいつ)ア通用(つうよう)しないぞ、287摩利支(まりし)天(てん)に負(ま)けぬと云(い)ふ奴(やつ)が三千(さんぜん)世界(せかい)にあるものか。288そんなウソいふと、289貴様(きさま)、290死(し)んだら目(め)がつぶれ、291物(もの)も言(い)へぬやうになり、292体(からだ)が動(うご)けなくなつて了(しま)ふぞ』
293芳公(よしこう)『俺(おれ)は摩利支(まりし)天(てん)の木像(もくざう)と相撲(すもう)とつたのだ。294一(ひと)つ突(つ)いてやつたら、295一遍(いつぺん)に仰向(あふむ)けにこけるのだけれど、296腕(うで)が折(を)れたり指(ゆび)が取(と)れたりすると面倒(めんだう)だからなア。297それで怺(こら)へてやつたのだ』
298虎公(とらこう)『アハヽヽヽ大方(おほかた)そんな事(こと)だと思(おも)ふて居(を)つたよ。299併(しか)し芳公(よしこう)、300貴様(きさま)も小相撲(こずもう)の一(ひと)つも取(と)れさうな体(からだ)をしてゐるが、301相撲(すもう)とつたことがあるのか』
302芳公(よしこう)『あらいでかい、303相撲道(すもうだう)の名人(めいじん)だ。304自転倒(おのころ)島(じま)の横綱(よこづな)芳野川(よしのがは)と云(い)つたら俺(おれ)のことだ。305貴様(きさま)の耳(みみ)は余程(よほど)遅手耳(おくてみみ)だなア』
306房公(ふさこう)『オイ虎公(とらこう)、307此(この)芳公(よしこう)はなア、308随分(ずゐぶん)口(くち)は達者(たつしや)だが、309相撲(すもう)にかけたら、310随分(ずゐぶん)惨(みじ)めなものだよ。311芳野川(よしのがは)なんて、312ソラ隣(となり)に住(す)んで居(を)つた相撲取(すもうとり)のことだ。313此奴(こいつ)ア鍋蓋(なべぶた)と云(い)ふ力士(りきし)だ。314取(と)つたが最後(さいご)、315すぐに仰向(あふむ)くといふ代物(しろもの)だからなア』
316虎公(とらこう)『オウ一(ひと)つ鍋蓋(なべぶた)、317此(この)虎ケ岳(とらがだけ)と一勝負(ひとしようぶ)、318此処(ここ)でやらうぢやないか』
319芳公(よしこう)『オウ面白(おもしろ)からう。320やらぬ事(こと)はないが、321斯(こ)んな石原(いしはら)では面白(おもしろ)くねえ、322少(すこ)し平地(へいち)へ行(い)つて、323更(あらた)めて取(と)る事(こと)にしようかい。324俺(おれ)は今日(けふ)から漆山(うるしやま)と改名(かいめい)するから、325俺(おれ)に触(さは)つたらすぐに負(ま)けるから、326其(その)覚悟(かくご)で居(を)つたがよいワイ』
327虎公(とらこう)『うるさい漆山(うるしやま)だなア』
328房公(ふさこう)『オイ虎ケ岳(とらがだけ)、329こんな漆山(うるしやま)と相撲(すもう)なんか取(と)るものぢやない。330貴様(きさま)の沽券(こけん)が下(さ)がるよ。331此奴(こいつ)ア、332相撲(すもう)取(と)つて、333ついぞ勝(か)つたことのない奴(やつ)だからなア』
334芳公(よしこう)『喧(やかま)しう言(い)ふない。335俺(おれ)ん所(ところ)のお滝(たき)が何時(いつ)もなア……角力(すまう)にや負(ま)けても怪我(けが)さへなけりや、336晩(ばん)にや私(わたし)が負(ま)けて上(あ)げよ……と吐(ぬか)しやがるのだから、337何(なん)と云(い)つても色男(いろをとこ)だ。338貴様(きさま)なぞの燕雀(えんじやく)の容喙(ようかい)すべき所(ところ)ぢやない。339弱(よわ)い奴(やつ)ア弱(よわ)い奴(やつ)らしくスツ込(こ)んでをれ』
340房公(ふさこう)『オイ鍋蓋(なべぶた)、341貴様(きさま)は聖地(せいち)で宮相撲(みやずもう)のあつた時(とき)如何(どう)だつた。342鬼ケ岳(おにがだけ)と貴様(きさま)と取(と)つた時(とき)、343たしか二番(にばん)勝負(しようぶ)だつたなア』
344虎公(とらこう)『ソラ面白(おもしろ)い、345其(その)時(とき)の勝負(しようぶ)を聞(き)かしてくれ、346どうだつた、347キツと負(ま)けただらう』
348房公(ふさこう)『其(その)時(とき)は此(この)鍋蓋(なべぶた)奴(め)……』
349と言(い)はうとする。350あわてて口(くち)に手(て)を当(あ)て、
351芳公(よしこう)『コリヤ天機(てんき)洩(も)らす可(べか)らずだ。352言(い)はいでも分(わか)つてるワイ。353互角(ごかく)の勝負(しようぶ)だつたよ』
354虎公(とらこう)『さうすると一番(いちばん)宛(づつ)勝(か)つたのだな』
355芳公(よしこう)『初(はじめ)の勝負(しようぶ)には都合(つがふ)が悪(わる)うて、356此(この)鍋蓋(なべぶた)が鬼ケ岳(おにがだけ)に負(ま)けたのだ。357次(つぎ)の勝負(しようぶ)には、358向(むか)うが勝(か)つたのだ。359つまり先(さき)に俺(おれ)が負(ま)けて、360此度(こんど)は先方(むかふ)が勝(か)つたのだよ』
361虎公(とらこう)『アハヽヽヽ大方(おほかた)そんな事(こと)だと思(おも)つて居(を)つた』
362房公(ふさこう)『余(あま)り相撲(すもう)の話(はなし)で、363黒姫(くろひめ)の所在(ありか)を白状(はくじやう)さすのを忘(わす)れて居(を)つた。364サア切(き)り切(き)りチヤツと申上(まをしあ)げぬか』
365虎公(とらこう)『喧(やかま)し言(い)ふない。366俺(おれ)の行(ゆ)く所(ところ)へ従(つ)いて来(き)さへすれば分(わか)るのだ。367何事(なにごと)も三五教(あななひけう)は不言(ふげん)実行(じつかう)だからなア。368詞(ことば)多(おほ)ければ品(しな)少(すくな)し……と云(い)ふことがある、369黙(だま)つて従(つ)いて来(こ)い』
370と云(い)ひ乍(なが)ら、371虎公(とらこう)外(ほか)三(さん)人(にん)は二人(ふたり)の先(さき)に立(た)ち、372急坂(きふはん)を下(くだ)り、373稍(やや)緩勾配(くわんこうばい)の曲(まが)り道(みち)になつた所(ところ)より坂路(さかみち)を左(ひだり)に越(こ)え、374小(ちひ)さい山(やま)の尾(を)を二(ふた)つ三(み)つ廻(まは)つて建日(たけひ)の館(やかた)へ指(さ)して進(すす)み行(ゆ)くのであつた。
375(大正一一・九・一三 旧七・二二 松村真澄録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→