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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第34巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 筑紫の不知火
第1章 筑紫上陸
第2章 孫甦
第3章 障文句
第4章 歌垣
第5章 対歌
第6章 蜂の巣
第7章 無花果
第8章 暴風雨
第2篇 有情無情
第9章 玉の黒点
第10章 空縁
第11章 富士咲
第12章 漆山
第13章 行進歌
第14章 落胆
第15章 手長猿
第16章 楽天主義
第3篇 峠の達引
第17章 向日峠
第18章 三人塚
第19章 生命の親
第20章 玉卜
第21章 神護
第22章 蛙の口
第23章 動静
余白歌
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<<< 対歌
(B)
(N)
無花果 >>>
第六章
蜂
(
はち
)
の
巣
(
す
)
〔九四七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻
篇:
第1篇 筑紫の不知火
よみ(新仮名遣い):
つくしのしらぬい
章:
第6章 蜂の巣
よみ(新仮名遣い):
はちのす
通し章番号:
947
口述日:
1922(大正11)年09月12日(旧07月21日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
三人は細い谷道を行く。芳公は滑稽な歌を歌いながら登って行く。黒姫の高山彦への恋慕に付き合わされて自分までこんな目に合わなくてはならない、という文句をたらたら歌っている。
三人は木陰に座って休息を取った。ふと上を見上げると、大きな蜂の巣が懸っている。すわ大変と、三人は立って逃げ出した。蜂は三人の頭を襲撃したが、笠をかぶっていたので針の被害は免れた。
命からがら山道を駆け上ったところで、三人は清水が湧いているのを見つけた。房公と芳公は水を飲んで国魂神の純世姫命に感謝をささげた。
黒姫は、師をさしおいて水を飲んだと言って二人におかんむりである。房公は、黒姫には慈愛の心が無いと言って故事を挙げて黒姫を責め、文句を言い立てる。芳公は止めに入り、黒姫も言い返すが、房公はこれからまだ急坂を登らなければならないから喧嘩は止めにしようと休戦する。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-09-11 16:58:30
OBC :
rm3406
愛善世界社版:
78頁
八幡書店版:
第6輯 390頁
修補版:
校定版:
83頁
普及版:
32頁
初版:
ページ備考:
001
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ひ
002
遥々
(
はるばる
)
来
(
きた
)
りし
黒姫
(
くろひめ
)
は
003
房公
(
ふさこう
)
、
芳公
(
よしこう
)
を
伴
(
ともな
)
ひて
004
筑紫
(
つくし
)
ケ
岳
(
だけ
)
を
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
005
細
(
ほそ
)
き
谷道
(
たにみち
)
右左
(
みぎひだり
)
006
水成岩
(
すゐせいがん
)
の
此処
(
ここ
)
彼処
(
かしこ
)
007
頭
(
あたま
)
を
抬
(
もた
)
げて
居
(
ゐ
)
る
中
(
なか
)
を
008
足
(
あし
)
に
力
(
ちから
)
を
入
(
い
)
れ
乍
(
なが
)
ら
009
エイヤエイヤと
声
(
こゑ
)
揃
(
そろ
)
へ
010
一歩
(
ひとあし
)
々々
(
ひとあし
)
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
011
ウンウンウンと
呻
(
うめ
)
きつつ
012
芳公
(
よしこう
)
は
歌
(
うた
)
を
謡
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
す。
013
芳公
(
よしこう
)
『あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
014
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましまして
015
此
(
この
)
急坂
(
きふはん
)
をやすやすと
016
登
(
のぼ
)
らせ
給
(
たま
)
へ
純世姫
(
すみよひめ
)
017
ウントコドツコイ
息苦
(
いきぐる
)
し
018
ハアハアハアハア スウスウスウ
019
すべて
山坂
(
やまさか
)
登
(
のぼ
)
るときや
020
向
(
むか
)
ふを
眺
(
なが
)
めちやいかないぞ
021
一歩
(
ひとあし
)
々々
(
ひとあし
)
俯向
(
うつむ
)
いて
022
梯子
(
はしご
)
を
登
(
のぼ
)
る
心地
(
ここち
)
して
023
進
(
すす
)
めば
何時
(
いつ
)
しか
絶頂
(
ぜつちやう
)
に
024
ウントコドツコイ
着
(
つ
)
くだらう
025
とは
云
(
い
)
ふもののきつい
坂
(
さか
)
026
お
嬶
(
かあ
)
の○に
上
(
のぼ
)
るとは
027
チツとは
骨
(
ほね
)
がある
様
(
やう
)
だ
028
足
(
あし
)
はモカモカして
来
(
き
)
だす
029
ハアハアドツコイ、ウントコナ
030
腰
(
こし
)
の
辺
(
あた
)
りがドツコイシヨ
031
如何
(
どう
)
やらハアハア
変梃
(
へんてこ
)
に
032
フウスウフウスウ、ドツコイシヨ
033
なつて
来
(
き
)
たでは
無
(
な
)
いかいな
034
高山彦
(
たかやまひこ
)
へ
登
(
のぼ
)
るのは
035
余程
(
よつぽど
)
骨
(
ほね
)
が
折
(
を
)
れるわい
036
ハアハアこれこれハアハア、ドツコイシヨ
037
黒姫
(
くろひめ
)
さまよ
聞
(
き
)
きなされ
038
高山彦
(
たかやまひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
峠
(
たうげ
)
039
中々
(
なかなか
)
登
(
のぼ
)
り
難
(
にく
)
いぞや
040
にくいといつてもお
前
(
まへ
)
さまは
041
ハアハアフウフウ
可愛
(
かあ
)
いかろ
042
可愛
(
かあい
)
い
男
(
をとこ
)
にドツコイシヨ
043
ハアハアフウフウあふのだもの
044
お
前
(
まへ
)
は
前途
(
ぜんと
)
に
楽
(
たの
)
しみが
045
ウントコドツコイぶら
下
(
さが
)
る
046
私
(
わたし
)
は
汗
(
あせ
)
がぶら
下
(
さが
)
る
047
こんな
峠
(
たうげ
)
と
知
(
し
)
つたなら
048
ウントコドツコイ
初
(
はじ
)
めから
049
私
(
わたし
)
は
来
(
く
)
るのぢやなかつたに
050
胸突坂
(
むねつきざか
)
の
嶮
(
けは
)
しさよ
051
水成岩
(
すゐせいがん
)
や
火成岩
(
くわせいがん
)
052
片麻岩
(
へんまがん
)
かは
知
(
し
)
らねども
053
本当
(
ほんたう
)
に
堅
(
かた
)
い
石道
(
いしみち
)
だ
054
皆
(
みな
)
さまドツコイ
気
(
き
)
をつけよ
055
ウツカリ
滑
(
すべ
)
つて
向脛
(
むかふずね
)
を
056
ウントコドツコイ
擦
(
す
)
り
剥
(
む
)
いちや
057
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
にドツコイシヨ
058
残
(
のこ
)
して
置
(
お
)
いた
女房
(
にようばう
)
子
(
こ
)
に
059
あはせる
顔
(
かほ
)
が
無
(
な
)
い
程
(
ほど
)
に
060
房公
(
ふさこう
)
さまも
気
(
き
)
をつけよ
061
ウントコドツコイ、ハアハアフウ
062
芳公
(
よしこう
)
さまも
気
(
き
)
をつける
063
黒姫
(
くろひめ
)
さまはドツコイシヨ
064
高山峠
(
たかやまたうげ
)
を
登
(
のぼ
)
るのだ
065
仮令
(
たとへ
)
向脛
(
むこずね
)
ドツコイシヨ
066
剥
(
む
)
いたところで
得心
(
とくしん
)
だ
067
現在
(
げんざい
)
夫
(
をつと
)
の
名
(
な
)
の
様
(
やう
)
な
068
筑紫
(
つくし
)
ケ
岳
(
だけ
)
のドツコイシヨ
069
高山峠
(
たかやまたうげ
)
をフウフウフウ
070
這
(
は
)
うて
居
(
を
)
るのぢや
無
(
な
)
いかいな
071
何程
(
なにほど
)
恋
(
こひ
)
しいドツコイシヨ
072
高山彦
(
たかやまひこ
)
でも
此
(
この
)
様
(
やう
)
な
073
きつい
険
(
さか
)
しい
心
(
こころ
)
では
074
黒姫
(
くろひめ
)
さまも
困
(
こま
)
るだらう
075
ウントコドツコイ
気
(
き
)
をつけよ
076
そこには
尖
(
とが
)
つた
石
(
いし
)
がある
077
筑紫
(
つくし
)
の
国
(
くに
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
て
078
ドツコイ
怪我
(
けが
)
しちや
堪
(
たま
)
らない
079
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
080
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
081
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
082
此
(
この
)
坂
(
さか
)
越
(
こ
)
えねばならぬのか
083
黒姫
(
くろひめ
)
さまのドツコイシヨ
084
ハアハアフウフウ フウスウスウ
085
恋
(
こひ
)
の
犠牲
(
ぎせい
)
に
使
(
つか
)
はれて
086
踏
(
ふ
)
みも
習
(
なら
)
はぬ
山坂
(
やまさか
)
を
087
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
身
(
み
)
の
馬鹿
(
ばか
)
らしさ
088
ホンに
思
(
おも
)
へば
前
(
さき
)
の
世
(
よ
)
で
089
ウントコドツコイ
汗
(
あせ
)
が
出
(
で
)
る
090
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
の
罪
(
つみ
)
せしか
091
因果
(
いんぐわ
)
は
廻
(
めぐ
)
る
小車
(
をぐるま
)
の
092
小車
(
をぐるま
)
ならぬ
石車
(
いしぐるま
)
093
沢山
(
たくさん
)
転
(
ころ
)
がつてドツコイシヨ
094
其処
(
そこ
)
ら
四辺
(
あたり
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
る
095
ウントコドツコイ
暑
(
あつ
)
い
事
(
こと
)
ぢや
096
汗
(
あせ
)
と
脂
(
あぶら
)
を
絞
(
しぼ
)
り
出
(
だ
)
し
097
蝉
(
せみ
)
にはミンミン
囀
(
さへづ
)
られ
098
頭
(
あたま
)
はガンガン
照
(
てら
)
されて
099
ウントコドツコイ あゝ
偉
(
えら
)
い
100
こんなつまらぬ
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
い
101
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
102
叶
(
かな
)
はぬ
時
(
とき
)
の
神頼
(
かみだの
)
み
103
国魂神
(
くにたまがみ
)
の
純世姫
(
すみよひめ
)
104
月照彦
(
つきてるひこ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
よ
105
何卒
(
どうぞ
)
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さンせ
106
弱音
(
よわね
)
を
吹
(
ふ
)
くぢや
無
(
な
)
けれども
107
こんだけ
辛
(
え
)
らうては
堪
(
たま
)
らない
108
どこぞ
此処
(
ここ
)
らの
木蔭
(
こかげ
)
をば
109
求
(
もと
)
めて
一服
(
いつぷく
)
しようぢやないか
110
ウントコドツコイ
黒姫
(
くろひめ
)
さま
111
も
一
(
ひと
)
つ
無花果
(
いちじゆく
)
出
(
だ
)
しとくれ
112
喉
(
のど
)
がひつつきさうになつて
来
(
き
)
た
113
ハアハアフウフウ フウスウスウ
114
こンな
苦労
(
くらう
)
をするのんも
115
元
(
もと
)
を
訊
(
ただ
)
せばドツコイシヨ
116
みんなお
前
(
まへ
)
の
為
(
た
)
めぢやぞえ
117
皺苦茶
(
しわくちや
)
婆
(
ば
)
さまのドツコイシヨ
118
分際
(
ぶんざい
)
忘
(
わす
)
れて
高山
(
たかやま
)
の
119
峠
(
たうげ
)
に
登
(
のぼ
)
らうとする
故
(
ゆゑ
)
に
120
俺
(
おれ
)
迄
(
まで
)
迷惑
(
めいわく
)
するのんだ
121
ウントコドツコイ
俺
(
おれ
)
のみか
122
家
(
うち
)
のお
嬶
(
かか
)
も
困
(
こま
)
つてる
123
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
た
)
めに
124
御用
(
ごよう
)
に
立
(
た
)
つならドツコイシヨ
125
どんな
苦労
(
くらう
)
も
厭
(
いと
)
やせぬ
126
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
馬鹿
(
ばか
)
らしい
127
千
(
せん
)
里
(
り
)
二千
(
にせん
)
里
(
り
)
三千
(
さんぜん
)
里
(
り
)
128
荒波
(
あらなみ
)
越
(
こ
)
えてドツコイシヨ
129
筑紫
(
つくし
)
の
島
(
しま
)
まで
導
(
みちび
)
かれ
130
ハアハアフウフウ あゝ
暑
(
あつ
)
い
131
汗
(
あせ
)
が
滲
(
にじ
)
んで
目
(
め
)
が
見
(
み
)
えぬ
132
つまらぬ
事
(
こと
)
になつて
来
(
き
)
た
133
ウントコドツコイ
黒姫
(
くろひめ
)
さま
134
一寸
(
ちよつと
)
一服
(
いつぷく
)
しようぢやないか
135
何程
(
なにほど
)
あせつて
見
(
み
)
た
処
(
とこ
)
が
136
二日
(
ふつか
)
や
三日
(
みつか
)
や
十日
(
とをか
)
では
137
火
(
ひ
)
の
国都
(
くにみやこ
)
へ
行
(
ゆ
)
かれない
138
叔母
(
をば
)
が
死
(
し
)
んでも
食休
(
じきやす
)
み
139
ドツコイシヨードツコイシヨー
140
暑中
(
しよちう
)
休暇
(
きうか
)
の
流行
(
はや
)
る
世
(
よ
)
に
141
休
(
やすみ
)
なしとは
胴欲
(
どうよく
)
ぢや
142
私
(
わし
)
もどうやら
屁古垂
(
へこた
)
れた
143
何卒
(
どうぞ
)
一服
(
いつぷく
)
さして
呉
(
く
)
れ
144
それそれ
向
(
むか
)
ふの
木
(
き
)
の
枝
(
えだ
)
に
145
甘
(
うま
)
さうな
果実
(
このみ
)
がなつて
居
(
ゐ
)
る
146
あれ
見
(
み
)
てからは
堪
(
たま
)
らない
147
もう
一歩
(
ひとあし
)
も
行
(
ゆ
)
けませぬ
148
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
149
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ
150
オツト
危
(
あぶ
)
ない
石車
(
いしぐるま
)
151
スツテの
事
(
こと
)
で
向脛
(
むかふづね
)
を
152
傷
(
そこな
)
ひやぶる
処
(
とこ
)
だつた
153
これも
矢張
(
やつぱ
)
り
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
154
深
(
ふか
)
き
尊
(
たふと
)
き
御
(
おん
)
守護
(
まもり
)
155
此処
(
ここ
)
で
休
(
やす
)
んで
行
(
ゆ
)
きませう
156
御
(
お
)
足
(
みあ
)
の
達者
(
たつしや
)
な
御
(
お
)
方
(
かた
)
等
(
ら
)
は
157
何卒
(
どうぞ
)
お
先
(
さき
)
へ
行
(
い
)
つてくれ
158
欲
(
よく
)
にも
徳
(
とく
)
にも
代
(
か
)
へられぬ
159
生命
(
いのち
)
あつての
物種
(
ものだね
)
だ
160
行
(
い
)
きつきバツタリ
焼糞
(
やけくそ
)
だ
161
ハアハアフウフウ フウスウスウ
162
如何
(
どう
)
やら
呼吸
(
いき
)
がきれかけた
163
汗
(
あせ
)
も
膏
(
あぶら
)
も
乾
(
かわ
)
き
果
(
は
)
て
164
もう
一滴
(
いつてき
)
も
出
(
で
)
ない
様
(
やう
)
に
165
カンピンタンになりかけた
166
ウントコドツコイ
休
(
やす
)
まうか』
167
云
(
い
)
ひつつドスンと
腰
(
こし
)
下
(
おろ
)
し
168
青葉
(
あをば
)
の
上
(
うへ
)
に
横
(
よこ
)
たはる
169
黒姫
(
くろひめ
)
、
房公
(
ふさこう
)
両人
(
りやうにん
)
は
170
渡
(
わた
)
りに
舟
(
ふね
)
と
喜
(
よろこ
)
んで
171
木蔭
(
こかげ
)
に
立寄
(
たちよ
)
り
息
(
いき
)
休
(
やす
)
め
172
流
(
なが
)
るる
汗
(
あせ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ひける。
173
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
汗
(
あせ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
174
油蝉
(
あぶらぜみ
)
の
鳴
(
な
)
く
木蔭
(
こかげ
)
に
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
175
巨大
(
きよだい
)
な
青蜂
(
あをばち
)
等
(
など
)
が
盛
(
さかん
)
に
襲撃
(
しふげき
)
する。
176
フツと
空
(
そら
)
を
見上
(
みあ
)
ぐれば
大
(
おほ
)
きな
蜂
(
はち
)
の
巣
(
す
)
がぶら
下
(
さが
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
177
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は『コリヤ
大変
(
たいへん
)
!』と
俄
(
にはか
)
に
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り
坂道
(
さかみち
)
さして
逃
(
に
)
げ
出
(
いだ
)
す。
178
青蜂
(
あをばち
)
の
群
(
むれ
)
は
敵
(
てき
)
の
襲来
(
しふらい
)
と
見誤
(
みあやま
)
つたと
見
(
み
)
え、
179
両方
(
りやうはう
)
の
羽翼
(
うよく
)
に
極力
(
きよくりよく
)
馬力
(
ばりき
)
を
掛
(
か
)
け、
180
ブーンと
唸
(
うな
)
りを
立
(
た
)
てて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
頭
(
あたま
)
を
目蒐
(
めが
)
けて
襲撃
(
しふげき
)
する。
181
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
幸
(
さいは
)
ひ
笠
(
かさ
)
を
被
(
かぶ
)
つて
居
(
ゐ
)
たので
蜂
(
はち
)
の
剣
(
けん
)
を
免
(
まぬが
)
れ、
182
生命
(
いのち
)
辛々
(
からがら
)
二三丁
(
にさんちやう
)
許
(
ばか
)
り
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
坂道
(
さかみち
)
を
駆登
(
かけのぼ
)
つて
了
(
しま
)
つた。
183
其処
(
そこ
)
には
高
(
たか
)
い
山
(
やま
)
にも
似
(
に
)
ず
美
(
うつく
)
しい
清水
(
せいすゐ
)
がチヨロチヨロと
流
(
なが
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
184
芳公
(
よしこう
)
『ハアハアハアフウフウフウ……あゝ
有難
(
ありがた
)
い。
185
こんな
結構
(
けつこう
)
な
清水
(
しみづ
)
が
此処
(
ここ
)
に
湧
(
わ
)
いて
居
(
ゐ
)
るとは
心
(
こころ
)
づかなかつた。
186
丸
(
まる
)
で
夢
(
ゆめ
)
に
牡丹餅
(
ぼたもち
)
を
貰
(
もら
)
つた
様
(
やう
)
なものだ』
187
と
云
(
い
)
ひながら
清水
(
しみづ
)
を
両手
(
りやうて
)
に
掬
(
むす
)
んで
甘
(
うま
)
さうに
何杯
(
なんばい
)
も
何杯
(
なんばい
)
も
飲
(
の
)
み
乾
(
ほ
)
す。
188
房公
(
ふさこう
)
も
次
(
つ
)
いで
水
(
みづ
)
を
飲
(
の
)
む。
189
房公
(
ふさこう
)
『あゝ
有難
(
ありがた
)
い、
190
助
(
たす
)
け
舟
(
ぶね
)
に
遭
(
あ
)
うた
様
(
やう
)
だ。
191
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
純世姫
(
すみよひめ
)
様
(
さま
)
、
192
生命
(
いのち
)
の
清水
(
しみづ
)
を
与
(
あた
)
へて
頂
(
いただ
)
きました。
193
之
(
これ
)
で
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
御恩
(
ごおん
)
も
適切
(
てきせつ
)
に
分
(
わか
)
らして
頂
(
いただ
)
きました。
194
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
195
芳公
(
よしこう
)
『
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
196
貴女
(
あなた
)
も
一杯
(
いつぱい
)
お
飲
(
あが
)
りなさつては
如何
(
どう
)
ですか、
197
随分
(
ずゐぶん
)
喉
(
のど
)
が
乾
(
かわ
)
いたでせう』
198
黒姫
(
くろひめ
)
は
苦
(
にが
)
りきつた
顔
(
かほ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
199
黒姫
(
くろひめ
)
『お
前
(
まへ
)
は
本末
(
ほんまつ
)
自他
(
じた
)
公私
(
こうし
)
の
区別
(
くべつ
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
ますか。
200
天地
(
てんち
)
転倒
(
てんたう
)
したお
前
(
まへ
)
の
行
(
おこな
)
ひ、
201
そんな
水
(
みづ
)
は
仮令
(
たとへ
)
渇
(
かつ
)
しても
飲
(
の
)
みませぬワイ』
202
芳公
(
よしこう
)
『これは
又
(
また
)
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
を
承
(
うけたま
)
はります。
203
何
(
なに
)
がそれ
程
(
ほど
)
お
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らないのですか』
204
黒姫
(
くろひめ
)
『
長幼
(
ちやうえう
)
序
(
じよ
)
あり、
205
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
忘
(
わす
)
れましたか。
206
何故
(
なぜ
)
長者
(
ちやうじや
)
たる
黒姫
(
くろひめ
)
に
先
(
さき
)
に
水
(
みづ
)
を
勧
(
すす
)
めて
其
(
その
)
後
(
あと
)
を
飲
(
の
)
みなさらぬ。
207
若
(
わか
)
い
者
(
もの
)
が
先
(
さき
)
へ
飲
(
の
)
んで
其
(
その
)
後
(
あと
)
を
飲
(
の
)
めとはチツと
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
ではありませぬか』
208
房公
(
ふさこう
)
『なアんとむつかしい
婆
(
ばば
)
んつだ
喃
(
のう
)
。
209
後
(
あと
)
から
飲
(
の
)
んでも
前
(
さき
)
から
飲
(
の
)
んでも
水
(
みづ
)
の
味
(
あぢ
)
に
変
(
かは
)
りはあるまい。
210
こんな
処
(
とこ
)
まで
杓子
(
しやくし
)
定規
(
ぢやうぎ
)
をふりまはされて
堪
(
たま
)
つたものぢやない。
211
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
212
お
前
(
まへ
)
さまは
部下
(
ぶか
)
を
可愛
(
かあい
)
がると
云
(
い
)
ふ
至仁至愛
(
みろく
)
の
心
(
こころ
)
に
背
(
そむ
)
いて
居
(
ゐ
)
ますな。
213
そんな
事
(
こと
)
を
仰
(
あふ
)
せられると
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
方
(
はう
)
にも
随分
(
ずゐぶん
)
言
(
い
)
ひ
分
(
ぶん
)
がありますよ。
214
昔
(
むかし
)
シオン
山
(
ざん
)
に
戦
(
たたか
)
ひのあつた
時
(
とき
)
、
215
言霊別
(
ことたまわけの
)
命
(
みこと
)
の
部下
(
ぶか
)
に
国治別
(
くにはるわけ
)
と
云
(
い
)
ふ
大将
(
たいしやう
)
があつた。
216
其
(
その
)
時
(
とき
)
数多
(
あまた
)
の
部下
(
ぶか
)
が
敵軍
(
てきぐん
)
の
為
(
た
)
めに
重傷
(
ぢうしやう
)
を
負
(
お
)
ひ
喉
(
のど
)
が
乾
(
かわ
)
いて
困
(
こま
)
つて
居
(
を
)
つた。
217
国治別
(
くにはるわけ
)
の
大将
(
たいしやう
)
も
同
(
おな
)
じく
重傷
(
ぢうしやう
)
を
負
(
お
)
ひ
水
(
みづ
)
を
飲
(
の
)
みたがつて
居
(
ゐ
)
たが、
218
手近
(
てぢか
)
に
水
(
みづ
)
が
無
(
な
)
いので
部下
(
ぶか
)
の
臣卒
(
しんそつ
)
がやつとの
事
(
こと
)
で
谷川
(
たにがは
)
に
下
(
くだ
)
り、
219
帽子
(
ばうし
)
に
水
(
みづ
)
を
盛
(
も
)
つて
国治別
(
くにはるわけ
)
の
前
(
まへ
)
へ
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
た。
220
其
(
その
)
時
(
とき
)
に
沢山
(
たくさん
)
の
部下
(
ぶか
)
の
臣卒
(
しんそつ
)
は
其
(
その
)
水
(
みづ
)
を
眺
(
なが
)
めて
羨
(
うらや
)
ましさうな
顔色
(
かほいろ
)
をして
居
(
ゐ
)
た。
221
国治別
(
くにはるわけの
)
神
(
かみ
)
はそれを
見
(
み
)
て
自分
(
じぶん
)
の
飲
(
の
)
み
度
(
た
)
い
水
(
みづ
)
も
飲
(
の
)
まず、
222
部下
(
ぶか
)
の
臣卒
(
しんそつ
)
に
飲
(
の
)
ましてやれといつて
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
討死
(
うちじに
)
をなされたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
223
人
(
ひと
)
の
頭
(
かしら
)
にならうと
思
(
おも
)
へば
其
(
その
)
位
(
くらゐ
)
な
慈愛
(
じあい
)
の
心
(
こころ
)
が
無
(
な
)
くては
部下
(
ぶか
)
は
育
(
そだ
)
ちませぬよ。
224
お
前
(
まへ
)
さまは
永
(
なが
)
らく
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
いて
宣伝
(
せんでん
)
をして
居
(
ゐ
)
るが、
225
真味
(
しんみ
)
の
部下
(
ぶか
)
が
一人
(
ひとり
)
も
出来
(
でき
)
ぬので
不思議
(
ふしぎ
)
と
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
たが、
226
矢張
(
やつぱり
)
精神
(
せいしん
)
上
(
じやう
)
の
大欠陥
(
だいけつかん
)
がある。
227
そんな
利己主義
(
われよし
)
で
宣伝
(
せんでん
)
が
出来
(
でき
)
ますか。
228
神
(
かみ
)
は
愛
(
あい
)
だとか、
229
人
(
ひと
)
を
救
(
すく
)
ふのが
神
(
かみ
)
だとか、
230
何程
(
なにほど
)
立派
(
りつぱ
)
に
口先
(
くちさき
)
で
喋
(
しやべ
)
り
立
(
た
)
てても
事実
(
じじつ
)
が
伴
(
ともな
)
はねば
駄目
(
だめ
)
ですよ。
231
お
前
(
まへ
)
さまは
有言
(
いうげん
)
不実行
(
ふじつかう
)
だからそれで
吾々
(
われわれ
)
も
嫌
(
いや
)
になつて
了
(
しま
)
ふのだ。
232
水臭
(
みづくさ
)
いと
云
(
い
)
ふのはお
前
(
まへ
)
さまの
事
(
こと
)
だ。
233
水
(
みづ
)
の
一杯
(
いつぱい
)
位
(
くらゐ
)
でゴテゴテ
云
(
い
)
ふのだから
堪
(
たま
)
らないわ』
234
芳公
(
よしこう
)
『オイ
房公
(
ふさこう
)
、
235
もうそんな
水臭
(
みづくさ
)
い
話
(
はなし
)
は
よし
にせい。
236
下
(
くだ
)
らぬ
水掛
(
みづかけ
)
喧嘩
(
げんくわ
)
になつちや
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
して
申訳
(
まをしわけ
)
がないからな。
237
みず
知
(
し
)
らずの
仲
(
なか
)
ぢやあるまいし、
238
もうこんな
争
(
あらそ
)
ひは
綺麗
(
きれい
)
薩張
(
さつぱり
)
と
水
(
みづ
)
に
流
(
なが
)
さうぢやないか』
239
黒姫
(
くろひめ
)
『
能
(
よ
)
うまあツベコベと
揚足
(
あげあし
)
をとる
男
(
をとこ
)
だなあ。
240
妾
(
わし
)
が
不用意
(
ふようい
)
の
間
(
ま
)
に
口
(
くち
)
が
辷
(
すべ
)
つたと
云
(
い
)
つて、
241
それ
程
(
ほど
)
短兵急
(
たんぺいきふ
)
に
攻
(
せ
)
めると
云
(
い
)
ふのはチツとお
前
(
まへ
)
さまも
量見
(
りやうけん
)
があまり
良
(
よ
)
くはありますまい。
242
人
(
ひと
)
に
叱言
(
こごと
)
を
言
(
い
)
ふのなら
先
(
ま
)
づ
自分
(
じぶん
)
の
身
(
み
)
を
省
(
かへり
)
み、
243
行
(
おこな
)
ひを
考
(
かんが
)
へてからなさいませや』
244
と
白
(
しろ
)
い
歯
(
は
)
を
出
(
だ
)
し
頤
(
あご
)
を
前
(
まへ
)
にニユウと
出
(
だ
)
し、
245
二
(
ふた
)
ツ
三
(
みつ
)
ツしやくつてみせた。
246
房公
(
ふさこう
)
『あゝ、
247
まだこれから
此
(
この
)
急坂
(
きふはん
)
を
随分
(
ずゐぶん
)
てく
らねばなるまいから、
248
喧嘩
(
けんくわ
)
は
此処
(
ここ
)
等
(
ら
)
できり
上
(
あ
)
げておかうかい。
249
さア
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
発足
(
はつそく
)
致
(
いた
)
しませう』
250
(
大正一一・九・一二
旧七・二一
北村隆光
録)
251
(昭和一〇・六・一〇 王仁校正)
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