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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第34巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 筑紫の不知火
第1章 筑紫上陸
第2章 孫甦
第3章 障文句
第4章 歌垣
第5章 対歌
第6章 蜂の巣
第7章 無花果
第8章 暴風雨
第2篇 有情無情
第9章 玉の黒点
第10章 空縁
第11章 富士咲
第12章 漆山
第13章 行進歌
第14章 落胆
第15章 手長猿
第16章 楽天主義
第3篇 峠の達引
第17章 向日峠
第18章 三人塚
第19章 生命の親
第20章 玉卜
第21章 神護
第22章 蛙の口
第23章 動静
余白歌
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(B)
(N)
歌垣 >>>
第三章
障文句
(
さはりもんく
)
〔九四四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻
篇:
第1篇 筑紫の不知火
よみ(新仮名遣い):
つくしのしらぬい
章:
第3章 障文句
よみ(新仮名遣い):
さわりもんく
通し章番号:
944
口述日:
1922(大正11)年09月12日(旧07月21日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
孫公は神懸りの態のまま宣伝歌を歌いながら、黒姫の動機をからかい戒め続けた。孫公は歌の最後に、高山彦は筑紫の島の日の国で、神素盞嗚大神の八人の娘の一人・愛子姫と夫婦となって暮らしていると告げた。
それを聞いて黒姫はさらに逆上して詰め寄るが、房公は孫公のお告げがつじつまが合っていないと言って黒姫をなだめる。黒姫は納得して、房公と芳公を連れて筑紫の岩窟を目指していく。
房公と芳公は、孫公を助け起こして連れて行こうとしたが、孫公は目を閉じたままびくともしない。黒姫にせかされた二人は、やむを得ず孫公をそこへ置いていった。
三人はその日の暮れに筑紫の岩窟に着いた。かつて小島別命が月照彦神の神霊に厳しい戒めを受けて改心したという旧跡である。
黒姫は、自分は神様にお伺いを立てるから、邪魔になる二人はそこで寝ていろと房公と芳公に厳しく当たる。房公と芳公は黒姫に対してからかいながら批判して意趣返しをする。
黒姫は二人に孫公の霊がついたのだと鎮魂を始めるが、暗がりの中に足音がして、岩窟の中に入って行くように聞こえた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-11-04 02:16:33
OBC :
rm3403
愛善世界社版:
30頁
八幡書店版:
第6輯 374頁
修補版:
校定版:
32頁
普及版:
13頁
初版:
ページ備考:
001
孫公
(
まごこう
)
は、
002
委細
(
ゐさい
)
構
(
かま
)
はず
神懸
(
かむがかり
)
となつたまま
謡
(
うた
)
ひ
続
(
つづ
)
ける。
003
孫公
『
ウ
フヽヽフーフ ウフヽヽヽ
004
艮
(
う
しとら
)
金神
(
こんじん
)
現
(
あら
)
はれて
005
有象
(
う
ざう
)
無象
(
むざう
)
を
立別
(
たてわ
)
ける
006
う
つつを
抜
(
ぬ
)
かした
黒姫
(
くろひめ
)
が
007
浮世
(
う
きよ
)
気分
(
きぶん
)
を
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
して
008
ウ
ロウロ
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
た
009
う
るさい
男
(
をとこ
)
の
後
(
あと
)
追
(
お
)
うて
010
う
んざりする
様
(
やう
)
な
惚気方
(
のろけかた
)
011
浮世
(
う
きよ
)
の
常
(
つね
)
とは
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
012
憂身
(
う
きみ
)
をやつす
恋
(
こひ
)
の
闇
(
やみ
)
013
ウ
ラナイ
教
(
けう
)
の
看板
(
かんばん
)
を
014
打
(
う
)
つて
一
(
いち
)
時
(
じ
)
はメキメキと
015
羽振
(
はぶり
)
を
利
(
き
)
かした
黒姫
(
くろひめ
)
も
016
高山彦
(
たかやまひこ
)
のハズバンド
017
う
つかり
貰
(
もら
)
うた
其
(
その
)
為
(
ため
)
に
018
憂世
(
うきよ
)
の
味
(
あぢ
)
を
覚
(
おぼ
)
え
出
(
だ
)
し
019
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
も
迂路
(
う
ろ
)
々々
(
うろ
)
と
020
行方
(
ゆくへ
)
定
(
さだ
)
めぬ
旅
(
たび
)
の
空
(
そら
)
021
動
(
う
ご
)
きのとれぬ
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
うて
022
珍
(
う
づ
)
の
聖地
(
せいち
)
を
立
(
た
)
ち
離
(
はな
)
れ
023
渦巻
(
う
づまき
)
わたる
海原
(
う
なばら
)
を
024
越
(
こ
)
えて
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
ウ
ヨウヨと
025
迂路
(
う
ろ
)
つき
来
(
きた
)
る
憐
(
あは
)
れさよ
026
狼狽者
(
う
ろたへもの
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
027
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
甘口
(
あまくち
)
に
028
う
まく
乗
(
の
)
せられ
吾々
(
われわれ
)
は
029
牛
(
う
し
)
に
曳
(
ひ
)
かれて
善光寺
(
ぜんくわうじ
)
030
詣
(
まゐ
)
る
婆
(
ばば
)
アの
後
(
あと
)
につき
031
移
(
う
つ
)
つて
来
(
き
)
たのは
亜弗利加
(
アフリカ
)
の
032
憂世
(
う
きよ
)
離
(
はな
)
れた
筑紫島
(
つくしじま
)
033
瓜
(
う
り
)
の
様
(
やう
)
なる
細長
(
ほそなが
)
い
034
寿老頭
(
げほうあたま
)
の
老爺
(
おやぢ
)
をば
035
憂身
(
う
きみ
)
を
窶
(
やつ
)
して
追
(
お
)
うて
来
(
く
)
る
036
煩
(
う
る
)
さい
女
(
をんな
)
が
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
037
蛆虫
(
う
じむし
)
見
(
み
)
た
様
(
やう
)
な
魂
(
たましひ
)
で
038
迂路
(
う
ろ
)
々々
(
うろ
)
やつて
来
(
こ
)
られては
039
如何
(
いか
)
に
女
(
をんな
)
に
熱心
(
ねつしん
)
な
040
高山
(
たかやま
)
ぢやとて
煩
(
う
る
)
さかろ
041
煩
(
う
る
)
さの
娑婆
(
しやば
)
に
存
(
なが
)
らへて
042
憂目
(
う
きめ
)
を
見
(
み
)
るより
逸早
(
いちはや
)
く
043
改心
(
かいしん
)
した
方
(
はう
)
が
宜
(
よ
)
からうぞ
044
碾臼
(
ひき
う
す
)
みた
様
(
やう
)
な
尻
(
しり
)
をして
045
ウ
ロウロしたとて
仕方
(
しかた
)
ない
046
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
047
煩
(
う
る
)
さい
事
(
こと
)
ではないかいな
048
こんな
処
(
ところ
)
にマゴマゴと
049
致
(
いた
)
して
御座
(
ござ
)
る
暇
(
ひま
)
あれば
050
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
火
(
ひ
)
の
国
(
くに
)
へ
051
足
(
あし
)
を
早
(
はや
)
めて
行
(
ゆ
)
きなさい
052
顔
(
かほ
)
は
違
(
ちが
)
ふか
知
(
し
)
らねども
053
高山彦
(
たかやまひこ
)
が
御座
(
ござ
)
るぞや
054
その
又
(
また
)
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまは
055
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
の
056
八人
(
やたり
)
乙女
(
をとめ
)
の
其
(
その
)
一人
(
ひとり
)
057
愛子
(
あいこ
)
の
姫
(
ひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
方
(
かた
)
が
058
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
侍
(
かし
)
づいて
059
家事
(
かじ
)
万端
(
ばんたん
)
は
言
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
060
痒
(
かゆ
)
い
処
(
ところ
)
に
手
(
て
)
の
届
(
とど
)
く
061
水
(
みづ
)
も
洩
(
も
)
らさぬ
勤
(
つと
)
め
振
(
ぶ
)
り
062
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
神
(
かみ
)
さまは
063
笑壺
(
ゑつぼ
)
に
入
(
い
)
つて
脂下
(
やにさが
)
り
064
えらい
機嫌
(
きげん
)
で
御座
(
ござ
)
るぞや
065
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
066
黒姫
(
くろひめ
)
さまにあんな
処
(
とこ
)
067
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
せたら
如何
(
どう
)
だらう
068
忽
(
たちま
)
ち
二
(
ふた
)
つの
目
(
め
)
を
釣
(
つ
)
つて
069
鼻
(
はな
)
をムケムケ
口
(
くち
)
歪
(
ゆが
)
め
070
恨
(
うら
)
みの
炎
(
ほのほ
)
は
忽
(
たちま
)
ちに
071
天
(
てん
)
の
雲
(
くも
)
迄
(
まで
)
焦
(
こが
)
すだらう
072
高山彦
(
たかやまひこ
)
は
偉
(
えら
)
い
奴
(
やつ
)
073
五十
(
ごじふ
)
の
尻
(
けつ
)
を
結
(
むす
)
んだる
074
悪垂
(
あくた
)
れ
婆
(
ばば
)
と
事
(
こと
)
変
(
かは
)
り
075
雪
(
ゆき
)
を
欺
(
あざむ
)
く
白
(
しろ
)
い
顔
(
かほ
)
076
ボツテリ
肥
(
こえ
)
た
膚
(
はだへ
)
の
色
(
いろ
)
077
何処
(
どこ
)
に
言分
(
いひぶん
)
ない
娘
(
むすめ
)
078
女房
(
にようばう
)
にもつて
朝夕
(
あさゆふ
)
に
079
愛子
(
あいこ
)
々々
(
あいこ
)
と
愛
(
め
)
で
給
(
たま
)
ふ
080
他所
(
よそ
)
の
見
(
み
)
る
目
(
め
)
も
羨
(
けな
)
りよな
081
誠
(
まこと
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
夫婦
(
ふうふ
)
ぞや
082
エヘヽヽヘツヘ ヘヽヽヽヽ』
083
黒姫
(
くろひめ
)
『コレコレ
孫公
(
まごこう
)
、
084
お
前
(
まへ
)
それは
本当
(
ほんたう
)
かい。
085
あの
高山
(
たかやま
)
さまが
愛子姫
(
あいこひめ
)
と
云
(
い
)
ふ、
086
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
を
閉
(
し
)
めた
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
の
娘
(
あま
)
ツちよを
女房
(
にようばう
)
に
持
(
も
)
つて、
087
火
(
ひ
)
の
国
(
くに
)
に
御座
(
ござ
)
らつしやるとは
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
話
(
はなし
)
だ。
088
高山
(
たかやま
)
さまに
限
(
かぎ
)
つてそんな
筈
(
はず
)
はないのだが、
089
何卒
(
どうぞ
)
本当
(
ほんたう
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つてくれ。
090
如何
(
いか
)
に
気楽
(
きらく
)
な
黒姫
(
くろひめ
)
でもこんな
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くと、
091
如何
(
どう
)
しても
聞
(
き
)
き
逃
(
のが
)
しが
出来
(
でき
)
ませぬ。
092
さあ
何卒
(
どうぞ
)
早
(
はや
)
く
虚実
(
きよじつ
)
を
明
(
あきら
)
かに
答
(
こた
)
へて
下
(
くだ
)
さい』
093
房公
(
ふさこう
)
『
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
094
孫公
(
まごこう
)
があんな
事
(
こと
)
言
(
い
)
つて
揶揄
(
からか
)
つて
居
(
ゐ
)
るのですよ。
095
本当
(
ほんたう
)
にしちやいけませぬぜ。
096
……ナア
芳公
(
よしこう
)
、
097
どうも
怪
(
あや
)
しいぢやないか』
098
芳公
(
よしこう
)
『いや、
099
俺
(
おれ
)
は
決
(
けつ
)
して
怪
(
あや
)
しいとは
思
(
おも
)
はぬ、
100
よう
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
よ。
101
最前
(
さいぜん
)
からの
様子
(
やうす
)
、
102
如何
(
どう
)
しても
人間
(
にんげん
)
の
悪戯
(
いたづら
)
とは
思
(
おも
)
へぬぢやないか。
103
屹度
(
きつと
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
告
(
つげ
)
に
間違
(
まちが
)
ひは
無
(
な
)
からうぞ』
104
房公
(
ふさこう
)
『それでも
言
(
い
)
ふことが
矛盾
(
ほことん
)
して
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
105
高山彦
(
たかやまひこ
)
は
綾
(
あや
)
の
聖地
(
せいち
)
に
伊勢屋
(
いせや
)
の
娘
(
むすめ
)
と
暮
(
く
)
らして
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふかと
思
(
おも
)
へば、
106
火
(
ひ
)
の
国
(
くに
)
に
今
(
いま
)
は
愛子姫
(
あいこひめ
)
と
脂下
(
やにさが
)
つて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふなり、
107
何
(
なに
)
が
何
(
なん
)
だかチツとも
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬぢやないか』
108
芳公
(
よしこう
)
『それもさうだなア。
109
大方
(
おほかた
)
枉津
(
まがつ
)
が
憑
(
うつ
)
つたのだらう。
110
……おい
孫公
(
まごこう
)
、
111
シツカリせぬかい。
112
貴様
(
きさま
)
は
目
(
め
)
を
廻
(
まは
)
しやがつて
矢張
(
やは
)
り
気
(
き
)
が
遠
(
とほ
)
くなつたと
見
(
み
)
え、
113
そんな
矛盾
(
ほことん
)
の
事
(
こと
)
を
吐
(
ほざ
)
くのだらう。
114
チツとしつかりしてくれないか。
115
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
もこんな
処
(
ところ
)
で
発狂
(
はつきやう
)
されては
心細
(
こころぼそ
)
いからなア』
116
黒姫
(
くろひめ
)
『いかにも
房公
(
ふさこう
)
の
言
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
117
孫公
(
まごこう
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
前後
(
あとさき
)
がチツとも
揃
(
そろ
)
はない、
118
枉津
(
まがつ
)
と
云
(
い
)
ふものは、
119
賢
(
かしこ
)
い
様
(
やう
)
でも
馬鹿
(
ばか
)
な
者
(
もの
)
だなア。
120
高山
(
たかやま
)
さまが
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
に
居
(
を
)
ると
云
(
い
)
ふかと
思
(
おも
)
へば、
121
火
(
ひ
)
の
国
(
くに
)
に
居
(
を
)
ると
云
(
い
)
ふなり、
122
何
(
なに
)
が
何
(
なん
)
だか
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
つたものぢやありませぬわい…
人
(
ひと
)
を
力
(
ちから
)
にするな、
123
師匠
(
ししやう
)
を
杖
(
つゑ
)
につくな……と
云
(
い
)
ふ
教
(
をしへ
)
がある。
124
こんな
男
(
をとこ
)
の
神懸
(
かむがかり
)
に
誑
(
たぶら
)
かされて
居
(
を
)
つては、
125
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
もさつぱり
駄目
(
だめ
)
だ。
126
さあさあ
房公
(
ふさこう
)
、
127
芳公
(
よしこう
)
、
128
こんな
男
(
をとこ
)
は
此処
(
ここ
)
に
放棄
(
うつちや
)
つておいて
筑紫
(
つくし
)
の
巌窟
(
がんくつ
)
迄
(
まで
)
行
(
ゆ
)
きませう。
129
そこ
迄
(
まで
)
行
(
ゆ
)
けば
屹度
(
きつと
)
巌窟
(
がんくつ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
正確
(
せいかく
)
な
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さるに
相違
(
さうゐ
)
ありませぬ。
130
さあ
行
(
ゆ
)
きませう』
131
房公
(
ふさこう
)
『
巌窟
(
がんくつ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
昔
(
むかし
)
の
小島別
(
こじまわけ
)
の
様
(
やう
)
に
五大韻
(
ごだいゐん
)
の
言霊攻
(
ことたまぜめ
)
に
会
(
あ
)
はされては
堪
(
たま
)
りませぬぜ。
132
随分
(
ずゐぶん
)
疵
(
きず
)
持
(
も
)
つ
足
(
あし
)
の
吾々
(
われわれ
)
だからそんな
危険
(
きけん
)
区域
(
くゐき
)
の
地方
(
ちはう
)
へは
寄
(
よ
)
りつかない
方
(
はう
)
が
悧巧
(
りかう
)
ですよ』
133
黒姫
(
くろひめ
)
『
又
(
また
)
お
前
(
まへ
)
は
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
退嬰
(
たいえい
)
主義
(
しゆぎ
)
を
採
(
と
)
るのか。
134
三五教
(
あななひけう
)
は
進展
(
しんてん
)
主義
(
しゆぎ
)
ですよ。
135
決
(
けつ
)
して
退却
(
たいきやく
)
はなりませぬ。
136
小島別
(
こじまわけ
)
の
神
(
かみ
)
さまだつて、
137
終
(
しまひ
)
には
建日別
(
たけひわけの
)
命
(
みこと
)
と
云
(
い
)
ふ
立派
(
りつぱ
)
な
神
(
かみ
)
になつたぢやないか。
138
屹度
(
きつと
)
悪
(
わる
)
い
後
(
あと
)
は
善
(
よ
)
いにきまつてるから、
139
さあ
早
(
はや
)
く
行
(
ゆ
)
きませう』
140
芳公
(
よしこう
)
『
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
141
孫公
(
まごこう
)
はお
連
(
つ
)
れになりませぬか』
142
黒姫
(
くろひめ
)
『
来
(
きた
)
るものは
拒
(
こば
)
まず、
143
去
(
さ
)
る
者
(
もの
)
は
追
(
お
)
はず、
144
孫公
(
まごこう
)
の
自由
(
じいう
)
意志
(
いし
)
に
任
(
まか
)
せませうかい』
145
芳公
(
よしこう
)
『これ
孫公
(
まごこう
)
、
146
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
後
(
あと
)
について
行
(
ゆ
)
かうぢやないか。
147
何時迄
(
いつまで
)
もこんな
処
(
ところ
)
でア、
148
オ、
149
ウと
言霊
(
ことたま
)
もどきをやつて
居
(
を
)
つても、
150
てんから
脱線
(
だつせん
)
だらけだから、
151
流石
(
さすが
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
さまも
愛想
(
あいさう
)
づかしをなさつた
位
(
くらゐ
)
だから、
152
誰
(
たれ
)
も
聴手
(
ききて
)
があるまい。
153
さア
俺
(
おれ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
行
(
ゆ
)
かう』
154
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
孫公
(
まごこう
)
の
左右
(
さいう
)
の
手
(
て
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り
引
(
ひ
)
き
立
(
た
)
たさうとする。
155
孫公
(
まごこう
)
は
地
(
ち
)
から
生
(
は
)
えた
岩
(
いは
)
の
様
(
やう
)
に
何程
(
なにほど
)
ゆすつても
引
(
ひ
)
いてもビクとも
動
(
うご
)
かず、
156
只
(
ただ
)
一言
(
ひとこと
)
、
157
孫公
『
俺
(
おれ
)
の
自由
(
じいう
)
意思
(
いし
)
に
任
(
まか
)
すのだよ』
158
と
言
(
い
)
つたきり
目
(
め
)
を
閉
(
と
)
ぢ
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
坐
(
すわ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
159
黒姫
(
くろひめ
)
は
委細
(
ゐさい
)
構
(
かま
)
はず
言霊
(
ことたま
)
の
濁
(
にご
)
つた
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
160
風当
(
かぜあた
)
りのよき
谷道
(
たにみち
)
をスタスタと
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
161
房
(
ふさ
)
、
162
芳
(
よし
)
の
二人
(
ふたり
)
は
孫公
(
まごこう
)
に
心
(
こころ
)
を
惹
(
ひ
)
かれ
乍
(
なが
)
ら、
163
後
(
あと
)
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
り
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
り
嫌
(
いや
)
さうに
黒姫
(
くろひめ
)
の
後
(
あと
)
に
跟
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
164
黒姫
(
くろひめ
)
は
漸
(
やうや
)
くにして
其
(
その
)
日
(
ひ
)
の
黄昏
(
たそがれ
)
、
165
筑紫
(
つくし
)
の
巌窟
(
がんくつ
)
建日別
(
たけひわけ
)
の
旧蹟地
(
きうせきち
)
に
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
いた。
166
黒姫
(
くろひめ
)
『さあ、
167
此処
(
ここ
)
は
有名
(
いうめい
)
な
小島別
(
こじまわけの
)
命
(
みこと
)
が、
168
月照彦
(
つきてるひこ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
神霊
(
しんれい
)
から
脂
(
あぶら
)
をとられ
出世
(
しゆつせ
)
した
目出度
(
めでた
)
い
処
(
ところ
)
だ。
169
皆々
(
みなみな
)
、
170
一同
(
いちどう
)
に
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
しませう』
171
房公
(
ふさこう
)
『
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
安泰
(
あんたい
)
を
祈
(
いの
)
り、
172
第二
(
だいに
)
に
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
改心
(
かいしん
)
を
祈
(
いの
)
り、
173
第三
(
だいさん
)
に
孫公
(
まごこう
)
さまの
御
(
ご
)
出世
(
しゆつせ
)
を
祈
(
いの
)
る
事
(
こと
)
にしませうか』
174
黒姫
(
くろひめ
)
『えゝ
又
(
また
)
しても
又
(
また
)
しても、
175
高山
(
たかやま
)
さま
高山
(
たかやま
)
さまと
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さるな。
176
高山
(
たかやま
)
さまは
妾
(
わたし
)
の
夫
(
をつと
)
ですよ。
177
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
に
名
(
な
)
を
呼
(
よ
)
ばれると、
178
あまり
心持
(
こころもち
)
がよくありませぬからな』
179
芳公
(
よしこう
)
『
第二
(
だいに
)
の
亭主
(
ていしゆ
)
だから
名
(
な
)
を
言
(
い
)
はれても
減
(
へ
)
る
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がなさいますナ』
180
黒姫
(
くろひめ
)
『
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまの
事
(
こと
)
は
言
(
い
)
つちやなりませぬぞや。
181
それよりも
第一
(
だいいち
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ひなさい。
182
心得
(
こころえ
)
が
悪
(
わる
)
いと
又
(
また
)
此処
(
ここ
)
で
孫公
(
まごこう
)
の
様
(
やう
)
な
目
(
め
)
にあうて、
183
脛腰
(
すねこし
)
が
立
(
た
)
たず
口
(
くち
)
ばかり
達者
(
たつしや
)
な
化物
(
ばけもの
)
になつて
了
(
しま
)
ひますよ。
184
黒姫
(
くろひめ
)
に
敵
(
てき
)
たうた
者
(
もの
)
は
誰
(
たれ
)
も
彼
(
かれ
)
も
皆
(
みな
)
あの
通
(
とほ
)
りだ。
185
さあさあ
皆々
(
みなみな
)
、
186
祝詞
(
のりと
)
を
済
(
す
)
まして
今晩
(
こんばん
)
はおとなしく
此処
(
ここ
)
で
寝
(
やす
)
みなさい。
187
私
(
わたし
)
はこれから
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
伺
(
うかが
)
ひをせなくてはならない。
188
お
前
(
まへ
)
さま
達
(
たち
)
が
起
(
お
)
きて
居
(
を
)
ると
悪
(
あく
)
の
霊
(
れい
)
が
混線
(
こんせん
)
してはつきりした
神勅
(
しんちよく
)
が
受
(
う
)
けられませぬからな』
189
房公
(
ふさこう
)
『
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
190
貴女
(
あなた
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
にも
似合
(
にあ
)
はず、
191
実
(
じつ
)
に
冷酷
(
れいこく
)
なお
方
(
かた
)
ですな。
192
太平洋
(
たいへいやう
)
を
渡
(
わた
)
る
時
(
とき
)
は、
193
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
者
(
もの
)
が
居
(
を
)
らなくてはならない
者
(
もの
)
だから、
194
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
はれてもおとなしく
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
機嫌
(
きげん
)
をとつて
御座
(
ござ
)
つたが、
195
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
着
(
つ
)
くや
否
(
いな
)
や、
196
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまが
御座
(
ござ
)
ると
思
(
おも
)
つて
俄
(
にはか
)
に
権幕
(
けんまく
)
がひどくなり、
197
吾々
(
われわれ
)
を
邪魔者
(
じやまもの
)
扱
(
あつか
)
ひにされる
様子
(
やうす
)
が
見
(
み
)
えて
来
(
き
)
たぢやありませぬか』
198
芳公
(
よしこう
)
『
恋
(
こひ
)
に
焦
(
こ
)
がれた
五月水
(
さつきみづ
)
、
199
秋田
(
あきた
)
になればふられ
水
(
みづ
)
……だ。
200
秋風
(
あきかぜ
)
が
吹
(
ふ
)
いてからは
冷
(
つめた
)
い
水
(
みづ
)
は
必要
(
ひつえう
)
がないとみえるわい。
201
年老
(
としより
)
の
冷水
(
ひやみづ
)
とか
云
(
い
)
つて、
202
そろそろ
此
(
この
)
婆
(
ば
)
アさまも
冷水
(
ひやみづ
)
になりかけたのだよ。
203
それだから
人間
(
にんげん
)
をあてにしても
駄目
(
だめ
)
だと
云
(
い
)
ふのだよ。
204
こんな
婆
(
ば
)
アさまの
後
(
あと
)
について
来
(
く
)
るよりも、
205
矢張
(
やは
)
り
孫公
(
まごこう
)
の
側
(
そば
)
で
看病
(
かんびやう
)
して
居
(
を
)
つた
方
(
はう
)
が
宜
(
よ
)
かつたなア。
206
さあ
今頃
(
いまごろ
)
は
孫公
(
まごこう
)
は……
房
(
ふさ
)
、
207
芳
(
よし
)
の
両人
(
りやうにん
)
は
友達
(
ともだち
)
甲斐
(
がひ
)
もない
奴
(
やつ
)
だ、
208
俺
(
おれ
)
の
危難
(
きなん
)
を
見捨
(
みす
)
てて
万里
(
ばんり
)
の
異郷
(
いきやう
)
に……と
云
(
い
)
つて
嘸
(
さぞ
)
怨
(
うら
)
んで
居
(
を
)
るであらう。
209
あゝ
本当
(
ほんたう
)
に
友人
(
いうじん
)
の
信義
(
しんぎ
)
を
忘
(
わす
)
れて
居
(
を
)
つた。
210
これと
云
(
い
)
ふのも
黒姫
(
くろひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
黒
(
くろ
)
い
雲
(
くも
)
が
包
(
つつ
)
んで
居
(
を
)
つたからだ。
211
さアこれから
孫公
(
まごこう
)
を
迎
(
むか
)
へに
行
(
ゆ
)
かうぢやないか』
212
房公
(
ふさこう
)
『
迎
(
むか
)
へに
行
(
ゆ
)
かうと
云
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
で、
213
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
四辺
(
あたり
)
が
真暗
(
まつくら
)
になつては
危
(
あぶ
)
なうて
歩
(
ある
)
く
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ぬぢやないか。
214
まアゆつくりと
気
(
き
)
をおちつけて、
215
明日
(
あす
)
の
朝
(
あさ
)
迄
(
まで
)
此処
(
ここ
)
で
夜
(
よ
)
を
明
(
あ
)
かし、
216
改
(
あらた
)
めて
足許
(
あしもと
)
が
分
(
わか
)
つてから
慰問使
(
ゐもんし
)
となつて
行
(
ゆ
)
かうぢやないか』
217
芳公
(
よしこう
)
『
此処
(
ここ
)
でドツサリと
慰問袋
(
ゐもんぶくろ
)
の
用意
(
ようい
)
をして
置
(
お
)
かうぢやないか、
218
アハヽヽヽ』
219
黒姫
(
くろひめ
)
『コレコレ
両人
(
りやうにん
)
、
220
闇
(
くら
)
がりに
何
(
なに
)
をグヅグヅと、
221
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだい。
222
早
(
はや
)
く
寝
(
やす
)
みなさらぬか』
223
房公
(
ふさこう
)
『
何分
(
なにぶん
)
、
224
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
と
麻邇
(
まに
)
の
宝珠
(
ほつしゆ
)
が
私
(
わたくし
)
の
天眼通
(
てんがんつう
)
にチラつき、
225
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまが
愛子姫
(
あいこひめ
)
さまと
抱擁
(
はうよう
)
接吻
(
キツス
)
して
御座
(
ござ
)
る
状態
(
じやうたい
)
が、
226
パノラマ
式
(
しき
)
に
眼底
(
がんてい
)
に
映
(
うつ
)
るものだから
気
(
き
)
が
揉
(
も
)
めて
寝
(
ね
)
られませぬワイ。
227
これを
思
(
おも
)
ふと
修羅
(
しゆら
)
が
燃
(
も
)
えて
折角
(
せつかく
)
染
(
そ
)
めた
頭髪
(
かみ
)
までが
褪
(
は
)
げる
様
(
やう
)
な
気分
(
きぶん
)
になりますがな……オツトドツコイ
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
霊
(
れい
)
が
半分
(
はんぶん
)
ばかり
憑
(
うつ
)
つたとみえる、
228
オホヽヽヽ』
229
芳公
(
よしこう
)
『コレ
高山彦
(
たかやまひこ
)
さま、
230
お
前
(
まへ
)
さまも
余
(
あんま
)
りぢや
御座
(
ござ
)
んせぬかい。
231
竜宮
(
りうぐう
)
の
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
までも
手
(
て
)
に
手
(
て
)
を
把
(
と
)
つて
玉探
(
たまさが
)
しに
行
(
ゆ
)
き、
232
クロンバー、
233
クロンバーと
云
(
い
)
つて
可愛
(
かあい
)
がつて
下
(
くだ
)
さつたが、
234
男心
(
をとこごころ
)
と
秋
(
あき
)
の
空
(
そら
)
、
235
変
(
かは
)
れば
変
(
かは
)
る
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
ぢや。
236
六十
(
ろくじふ
)
の
尻
(
しり
)
を
作
(
つく
)
つて、
237
未
(
ま
)
だ
三十
(
さんじふ
)
にも
足
(
た
)
らぬ
愛子姫
(
あいこひめ
)
とやらを
女房
(
にようばう
)
に
持
(
も
)
つとは、
238
量見
(
りやうけん
)
がチト
違
(
ちが
)
ひはしませぬかい。
239
お
半
(
はん
)
長右衛門
(
ちやううゑもん
)
[
※
お半長右衛門…歌舞伎や浄瑠璃の登場人物の「お半」と「長右衛門(ちょうえもん)」のこと。14歳の信濃屋の娘お半と、38歳の帯屋長右衛門が恋愛関係となり最後には心中してしまう。
]
よりも
年
(
とし
)
が
違
(
ちが
)
つてる
女房
(
にようばう
)
を
持
(
も
)
つて、
240
それが
何
(
なに
)
名誉
(
めいよ
)
で
御座
(
ござ
)
んすか。
241
エー
口惜
(
くちをし
)
い、
242
残念
(
ざんねん
)
な、
243
(サハリ)
折角
(
せつかく
)
長
(
なが
)
の
海山
(
うみやま
)
を
越
(
こ
)
え、
244
お
前
(
まへ
)
に
会
(
あ
)
ひ
度
(
た
)
い
会
(
あ
)
ひ
度
(
た
)
いと、
245
苦労
(
くらう
)
艱難
(
かんなん
)
しながらも、
246
此処迄
(
ここまで
)
探
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
た
妾
(
わたし
)
、
247
鶫
(
つむぎ
)
の
尾
(
を
)
を
切
(
き
)
つた
様
(
やう
)
に、
248
思
(
おも
)
ひきるとは、
249
それや
聞
(
きこ
)
えませぬ
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまオツチンオツチン……』
250
房公
(
ふさこう
)
は
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
をして、
251
房公
『アイヤ
黒姫
(
くろひめ
)
、
252
そなたの
心
(
こころ
)
は
察
(
さつ
)
すれども、
253
雀
(
すずめ
)
百
(
ひやく
)
まで
雌鳥
(
めんどり
)
を
忘
(
わす
)
れぬとやら、
254
棺桶
(
くわんをけ
)
に
片足
(
かたあし
)
突込
(
つつこ
)
んだ
白髪頭
(
しらがあたま
)
の
皺苦茶
(
しわくちや
)
婆
(
ばば
)
よりも、
255
今
(
いま
)
を
盛
(
さか
)
りと
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ふ、
256
水
(
みづ
)
も
滴
(
したた
)
る
様
(
やう
)
な
愛子姫
(
あいこひめ
)
の
香
(
かを
)
りに、
257
サツパリ
此
(
この
)
高山彦
(
たかやまひこ
)
も
精神
(
せいしん
)
顛倒
(
てんたふ
)
し、
258
麝香
(
じやかう
)
の
香
(
か
)
に
比
(
ひ
)
して
糞嗅
(
ふんしう
)
の
臭
(
にほひ
)
に
似
(
に
)
た
糞婆
(
くそばば
)
と、
259
如何
(
どう
)
して
一緒
(
いつしよ
)
になる
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
やうかい。
260
思
(
おも
)
はぬ
望
(
のぞ
)
みを
起
(
おこ
)
すより、
261
思
(
おも
)
ひきつて
国許
(
くにもと
)
に
帰
(
かへ
)
つたが
宜
(
よ
)
からうぞや。
262
武士
(
ぶし
)
の
言葉
(
ことば
)
に
二言
(
にごん
)
はない。
263
その
手
(
て
)
を
放
(
はな
)
しや……と
衝
(
つ
)
つ
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り
一間
(
ひとま
)
にこそは
入
(
い
)
りにけり。
264
チヤチヤ チヤンチヤンチヤンぢや』
265
芳公
(
よしこう
)
『そりや
聞
(
きこ
)
えませぬ
高山彦
(
たかやまひこ
)
サン、
266
お
言葉
(
ことば
)
無理
(
むり
)
とは
思
(
おも
)
へども、
267
初
(
はじ
)
めて
会
(
あ
)
うた
其
(
その
)
日
(
ひ
)
から、
268
寿老
(
げほう
)
の
様
(
やう
)
な
長頭
(
ながあたま
)
、
269
南瓜
(
かぼちや
)
の
様
(
やう
)
によく
光
(
ひか
)
る、
270
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
から
皺
(
しわ
)
だらけ、
271
睾玉
(
きんたま
)
に
目鼻
(
めはな
)
をつけた
様
(
やう
)
な
其
(
その
)
お
顔立
(
かほだ
)
ち、
272
こんな
男
(
をとこ
)
と
添
(
そ
)
うたなら、
273
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
もお
顔
(
かほ
)
の
色
(
いろ
)
は
変
(
かは
)
るまいと、
274
そればつかりを
楽
(
たの
)
しみに、
275
ウラナイ
教
(
けう
)
の
教理
(
けうり
)
に
背
(
そむ
)
き、
276
お
前
(
まへ
)
を
夫
(
をつと
)
に
持
(
も
)
つたのは、
277
よもや
忘
(
わす
)
れては
居
(
ゐ
)
やしやんすまい。
278
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
残念
(
ざんねん
)
ぢや
口惜
(
くちをし
)
いわいな……と
取
(
と
)
りすがつて、
279
涙
(
なみだ
)
さき
立
(
だ
)
つ
口説
(
くど
)
き
言
(
ごと
)
、
280
オホヽヽヽ』
281
黒姫
(
くろひめ
)
『コレコレ
両人
(
りやうにん
)
、
282
又
(
また
)
しても
又
(
また
)
しても
妾
(
わたし
)
を
揶揄
(
からか
)
ふのかい。
283
あまり
馬鹿
(
ばか
)
にしなさるな。
284
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
と
侮
(
あなど
)
つて
無礼
(
ぶれい
)
な
事
(
こと
)
ばかり
仰有
(
おつしや
)
るが、
285
今
(
いま
)
に
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまに
出会
(
であ
)
つたら、
286
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
の
無礼
(
ぶれい
)
を
残
(
のこ
)
らず
申上
(
まをしあ
)
げるから、
287
其
(
その
)
時
(
とき
)
には
何程
(
なにほど
)
謝
(
あやま
)
つても
量見
(
りやうけん
)
はしませぬぞや。
288
チツと
嗜
(
たしな
)
みなされ』
289
房公
(
ふさこう
)
『
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが、
290
高山彦
(
たかやまひこ
)
や
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
霊
(
れい
)
が
両人
(
りやうにん
)
の
身体
(
からだ
)
に
憑依
(
ひようい
)
して、
291
あんな
事
(
こと
)
言
(
い
)
ふのだもの、
292
仕方
(
しかた
)
がありませぬわ』
293
黒姫
(
くろひめ
)
『
大方
(
おほかた
)
、
294
孫公
(
まごこう
)
の
霊
(
れい
)
が
憑
(
つ
)
いたのだらう。
295
どれ
是
(
これ
)
から
妾
(
わたし
)
が
闇
(
くら
)
がりだけど
鎮魂
(
ちんこん
)
してあげませう』
296
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
謡
(
うた
)
ひあげ、
297
黒姫
(
くろひめ
)
『
国治立
(
くにはるたちの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
、
298
豊国姫
(
とよくにひめの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
、
299
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
、
300
竜宮
(
りうぐうの
)
乙姫
(
おとひめ
)
様
(
さま
)
、
301
木花
(
このはな
)
咲耶姫
(
さくやひめの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
、
302
何卒
(
なにとぞ
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
高山彦
(
たかやまひこ
)
に
会
(
あ
)
はして
下
(
くだ
)
さい。
303
次
(
つぎ
)
には
此
(
この
)
両人
(
ふたり
)
に
憑
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
る
悪霊
(
あくれい
)
を
速
(
すみやか
)
に
退却
(
たいきやく
)
させて
下
(
くだ
)
さいませ。
304
憐
(
あは
)
れな
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
いますから……』
305
此
(
この
)
時
(
とき
)
闇
(
くら
)
がりにガサリガサリと
何者
(
なにもの
)
かの
足音
(
あしおと
)
が
聞
(
きこ
)
え、
306
傍
(
かたはら
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
の
中
(
なか
)
へ
這入
(
はい
)
る
様
(
やう
)
な
気配
(
けはい
)
がした。
307
(
大正一一・九・一二
旧七・二一
北村隆光
録)
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(B)
(N)
歌垣 >>>
霊界物語
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