霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 障文句(さはりもんく)〔九四四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻 篇:第1篇 筑紫の不知火 よみ(新仮名遣い):つくしのしらぬい
章:第3章 障文句 よみ(新仮名遣い):さわりもんく 通し章番号:944
口述日:1922(大正11)年09月12日(旧07月21日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
孫公は神懸りの態のまま宣伝歌を歌いながら、黒姫の動機をからかい戒め続けた。孫公は歌の最後に、高山彦は筑紫の島の日の国で、神素盞嗚大神の八人の娘の一人・愛子姫と夫婦となって暮らしていると告げた。
それを聞いて黒姫はさらに逆上して詰め寄るが、房公は孫公のお告げがつじつまが合っていないと言って黒姫をなだめる。黒姫は納得して、房公と芳公を連れて筑紫の岩窟を目指していく。
房公と芳公は、孫公を助け起こして連れて行こうとしたが、孫公は目を閉じたままびくともしない。黒姫にせかされた二人は、やむを得ず孫公をそこへ置いていった。
三人はその日の暮れに筑紫の岩窟に着いた。かつて小島別命が月照彦神の神霊に厳しい戒めを受けて改心したという旧跡である。
黒姫は、自分は神様にお伺いを立てるから、邪魔になる二人はそこで寝ていろと房公と芳公に厳しく当たる。房公と芳公は黒姫に対してからかいながら批判して意趣返しをする。
黒姫は二人に孫公の霊がついたのだと鎮魂を始めるが、暗がりの中に足音がして、岩窟の中に入って行くように聞こえた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-04 02:16:33 文字数:4544 OBC :rm3403
愛善世界社版:30頁 八幡書店版:第6輯 374頁 修補版: 校定版:32頁 普及版:13頁 初版: ページ備考:
001 孫公(まごこう)は、002委細(ゐさい)構(かま)はず神懸(かむがかり)となつたまま謡(うた)ひ続(つづ)ける。
003孫公『ウフヽヽフーフ ウフヽヽヽ
004艮(うしとら)金神(こんじん)現(あら)はれて
005有象(うざう)無象(むざう)を立別(たてわ)ける
006うつつを抜(ぬ)かした黒姫(くろひめ)が
007浮世(うきよ)気分(きぶん)を放(ほ)り出(だ)して
008ウロウロ此処(ここ)迄(まで)やつて来(き)た
009うるさい男(をとこ)の後(あと)追(お)うて
010うんざりする様(やう)な惚気方(のろけかた)
011浮世(うきよ)の常(つね)とは言(い)ひ乍(なが)ら
012憂身(うきみ)をやつす恋(こひ)の闇(やみ)
013ウラナイ教(けう)の看板(かんばん)を
014打(う)つて一(いち)時(じ)はメキメキと
015羽振(はぶり)を利(き)かした黒姫(くろひめ)も
016高山彦(たかやまひこ)のハズバンド
017うつかり貰(もら)うた其(その)為(ため)に
018憂世(うきよ)の味(あぢ)を覚(おぼ)え出(だ)し
019心(こころ)の空(そら)も迂路(うろ)々々(うろ)と
020行方(ゆくへ)定(さだ)めぬ旅(たび)の空(そら)
021動(うご)きのとれぬ目(め)に会(あ)うて
022珍(うづ)の聖地(せいち)を立(た)ち離(はな)れ
023渦巻(うづまき)わたる海原(うなばら)を
024越(こ)えて此処(ここ)迄(まで)ウヨウヨと
025迂路(うろ)つき来(きた)る憐(あは)れさよ
026狼狽者(うろたへもの)の宣伝使(せんでんし)
027黒姫(くろひめ)さまの甘口(あまくち)に
028うまく乗(の)せられ吾々(われわれ)は
029牛(うし)に曳(ひ)かれて善光寺(ぜんくわうじ)
030詣(まゐ)る婆(ばば)アの後(あと)につき
031移(うつ)つて来(き)たのは亜弗利加(アフリカ)の
032憂世(うきよ)離(はな)れた筑紫島(つくしじま)
033瓜(うり)の様(やう)なる細長(ほそなが)い
034寿老頭(げほうあたま)の老爺(おやぢ)をば
035憂身(うきみ)を窶(やつ)して追(お)うて来(く)る
036煩(うる)さい女(をんな)が唯(ただ)一人(ひとり)
037蛆虫(うじむし)見(み)た様(やう)な魂(たましひ)で
038迂路(うろ)々々(うろ)やつて来(こ)られては
039如何(いか)に女(をんな)に熱心(ねつしん)な
040高山(たかやま)ぢやとて煩(うる)さかろ
041煩(うる)さの娑婆(しやば)に存(なが)らへて
042憂目(うきめ)を見(み)るより逸早(いちはや)く
043改心(かいしん)した方(はう)が宜(よ)からうぞ
044碾臼(ひきうす)みた様(やう)な尻(しり)をして
045ウロウロしたとて仕方(しかた)ない
046あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
047煩(うる)さい事(こと)ではないかいな
048こんな処(ところ)にマゴマゴと
049致(いた)して御座(ござ)る暇(ひま)あれば
050一(いち)時(じ)も早(はや)く火(ひ)の国(くに)へ
051足(あし)を早(はや)めて行(ゆ)きなさい
052顔(かほ)は違(ちが)ふか知(し)らねども
053高山彦(たかやまひこ)が御座(ござ)るぞや
054その又(また)高山彦(たかやまひこ)さまは
055神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
056八人(やたり)乙女(をとめ)の其(その)一人(ひとり)
057愛子(あいこ)の姫(ひめ)と云(い)ふ方(かた)が
058朝(あさ)な夕(ゆふ)なに侍(かし)づいて
059家事(かじ)万端(ばんたん)は言(い)ふも更(さら)
060痒(かゆ)い処(ところ)に手(て)の届(とど)く
061水(みづ)も洩(も)らさぬ勤(つと)め振(ぶ)り
062高山彦(たかやまひこ)の神(かみ)さまは
063笑壺(ゑつぼ)に入(い)つて脂下(やにさが)り
064えらい機嫌(きげん)で御座(ござ)るぞや
065あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
066黒姫(くろひめ)さまにあんな処(とこ)
067一目(ひとめ)見(み)せたら如何(どう)だらう
068忽(たちま)ち二(ふた)つの目(め)を釣(つ)つて
069鼻(はな)をムケムケ口(くち)歪(ゆが)め
070恨(うら)みの炎(ほのほ)は忽(たちま)ちに
071天(てん)の雲(くも)迄(まで)焦(こが)すだらう
072高山彦(たかやまひこ)は偉(えら)い奴(やつ)
073五十(ごじふ)の尻(けつ)を結(むす)んだる
074悪垂(あくた)れ婆(ばば)と事(こと)変(かは)り
075雪(ゆき)を欺(あざむ)く白(しろ)い顔(かほ)
076ボツテリ肥(こえ)た膚(はだへ)の色(いろ)
077何処(どこ)に言分(いひぶん)ない娘(むすめ)
078女房(にようばう)にもつて朝夕(あさゆふ)に
079愛子(あいこ)々々(あいこ)と愛(め)で給(たま)ふ
080他所(よそ)の見(み)る目(め)も羨(けな)りよな
081誠(まこと)に立派(りつぱ)な夫婦(ふうふ)ぞや
082エヘヽヽヘツヘ ヘヽヽヽヽ』
083黒姫(くろひめ)『コレコレ孫公(まごこう)、084お前(まへ)それは本当(ほんたう)かい。085あの高山(たかやま)さまが愛子姫(あいこひめ)と云(い)ふ、086天(あま)の岩戸(いはと)を閉(し)めた素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の娘(あま)ツちよを女房(にようばう)に持(も)つて、087火(ひ)の国(くに)に御座(ござ)らつしやるとは合点(がてん)の行(ゆ)かぬ話(はなし)だ。088高山(たかやま)さまに限(かぎ)つてそんな筈(はず)はないのだが、089何卒(どうぞ)本当(ほんたう)の事(こと)を云(い)つてくれ。090如何(いか)に気楽(きらく)な黒姫(くろひめ)でもこんな事(こと)を聞(き)くと、091如何(どう)しても聞(き)き逃(のが)しが出来(でき)ませぬ。092さあ何卒(どうぞ)早(はや)く虚実(きよじつ)を明(あきら)かに答(こた)へて下(くだ)さい』
093房公(ふさこう)『黒姫(くろひめ)さま、094孫公(まごこう)があんな事(こと)言(い)つて揶揄(からか)つて居(ゐ)るのですよ。095本当(ほんたう)にしちやいけませぬぜ。096……ナア芳公(よしこう)、097どうも怪(あや)しいぢやないか』
098芳公(よしこう)『いや、099俺(おれ)は決(けつ)して怪(あや)しいとは思(おも)はぬ、100よう考(かんが)へて見(み)よ。101最前(さいぜん)からの様子(やうす)、102如何(どう)しても人間(にんげん)の悪戯(いたづら)とは思(おも)へぬぢやないか。103屹度(きつと)神(かみ)様(さま)のお告(つげ)に間違(まちが)ひは無(な)からうぞ』
104房公(ふさこう)『それでも言(い)ふことが矛盾(ほことん)して居(ゐ)るぢやないか。105高山彦(たかやまひこ)は綾(あや)の聖地(せいち)に伊勢屋(いせや)の娘(むすめ)と暮(く)らして居(ゐ)ると云(い)ふかと思(おも)へば、106火(ひ)の国(くに)に今(いま)は愛子姫(あいこひめ)と脂下(やにさが)つて居(ゐ)ると云(い)ふなり、107何(なに)が何(なん)だかチツとも訳(わけ)が分(わか)らぬぢやないか』
108芳公(よしこう)『それもさうだなア。109大方(おほかた)枉津(まがつ)が憑(うつ)つたのだらう。110……おい孫公(まごこう)、111シツカリせぬかい。112貴様(きさま)は目(め)を廻(まは)しやがつて矢張(やは)り気(き)が遠(とほ)くなつたと見(み)え、113そんな矛盾(ほことん)の事(こと)を吐(ほざ)くのだらう。114チツとしつかりしてくれないか。115俺(おれ)達(たち)もこんな処(ところ)で発狂(はつきやう)されては心細(こころぼそ)いからなア』
116黒姫(くろひめ)『いかにも房公(ふさこう)の言(い)ふ通(とほ)り、117孫公(まごこう)の言(い)ふ事(こと)は前後(あとさき)がチツとも揃(そろ)はない、118枉津(まがつ)と云(い)ふものは、119賢(かしこ)い様(やう)でも馬鹿(ばか)な者(もの)だなア。120高山(たかやま)さまが自転倒(おのころ)島(じま)に居(を)ると云(い)ふかと思(おも)へば、121火(ひ)の国(くに)に居(を)ると云(い)ふなり、122何(なに)が何(なん)だか訳(わけ)の分(わか)つたものぢやありませぬわい…人(ひと)を力(ちから)にするな、123師匠(ししやう)を杖(つゑ)につくな……と云(い)ふ教(をしへ)がある。124こんな男(をとこ)の神懸(かむがかり)に誑(たぶら)かされて居(を)つては、125三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)もさつぱり駄目(だめ)だ。126さあさあ房公(ふさこう)、127芳公(よしこう)、128こんな男(をとこ)は此処(ここ)に放棄(うつちや)つておいて筑紫(つくし)の巌窟(がんくつ)迄(まで)行(ゆ)きませう。129そこ迄(まで)行(ゆ)けば屹度(きつと)巌窟(がんくつ)の神(かみ)様(さま)が正確(せいかく)な事(こと)を聞(き)かして下(くだ)さるに相違(さうゐ)ありませぬ。130さあ行(ゆ)きませう』
131房公(ふさこう)『巌窟(がんくつ)の神(かみ)様(さま)に昔(むかし)の小島別(こじまわけ)の様(やう)に五大韻(ごだいゐん)の言霊攻(ことたまぜめ)に会(あ)はされては堪(たま)りませぬぜ。132随分(ずゐぶん)疵(きず)持(も)つ足(あし)の吾々(われわれ)だからそんな危険(きけん)区域(くゐき)の地方(ちはう)へは寄(よ)りつかない方(はう)が悧巧(りかう)ですよ』
133黒姫(くろひめ)『又(また)お前(まへ)は気(き)の弱(よわ)い退嬰(たいえい)主義(しゆぎ)を採(と)るのか。134三五教(あななひけう)は進展(しんてん)主義(しゆぎ)ですよ。135決(けつ)して退却(たいきやく)はなりませぬ。136小島別(こじまわけ)の神(かみ)さまだつて、137終(しまひ)には建日別(たけひわけの)命(みこと)と云(い)ふ立派(りつぱ)な神(かみ)になつたぢやないか。138屹度(きつと)悪(わる)い後(あと)は善(よ)いにきまつてるから、139さあ早(はや)く行(ゆ)きませう』
140芳公(よしこう)『黒姫(くろひめ)さま、141孫公(まごこう)はお連(つ)れになりませぬか』
142黒姫(くろひめ)『来(きた)るものは拒(こば)まず、143去(さ)る者(もの)は追(お)はず、144孫公(まごこう)の自由(じいう)意志(いし)に任(まか)せませうかい』
145芳公(よしこう)『これ孫公(まごこう)、146俺(おれ)達(たち)と一緒(いつしよ)に黒姫(くろひめ)さまの後(あと)について行(ゆ)かうぢやないか。147何時迄(いつまで)もこんな処(ところ)でア、148オ、149ウと言霊(ことたま)もどきをやつて居(を)つても、150てんから脱線(だつせん)だらけだから、151流石(さすが)の黒姫(くろひめ)さまも愛想(あいさう)づかしをなさつた位(くらゐ)だから、152誰(たれ)も聴手(ききて)があるまい。153さア俺(おれ)と一緒(いつしよ)に行(ゆ)かう』
154と言(い)ひ乍(なが)ら孫公(まごこう)の左右(さいう)の手(て)をグツと握(にぎ)り引(ひ)き立(た)たさうとする。155孫公(まごこう)は地(ち)から生(は)えた岩(いは)の様(やう)に何程(なにほど)ゆすつても引(ひ)いてもビクとも動(うご)かず、156只(ただ)一言(ひとこと)、
157孫公『俺(おれ)の自由(じいう)意思(いし)に任(まか)すのだよ』
158と言(い)つたきり目(め)を閉(と)ぢ無言(むごん)の儘(まま)坐(すわ)つて居(ゐ)る。159黒姫(くろひめ)は委細(ゐさい)構(かま)はず言霊(ことたま)の濁(にご)つた宣伝歌(せんでんか)を謡(うた)ひ乍(なが)ら、160風当(かぜあた)りのよき谷道(たにみち)をスタスタと登(のぼ)り行(ゆ)く。161房(ふさ)、162芳(よし)の二人(ふたり)は孫公(まごこう)に心(こころ)を惹(ひ)かれ乍(なが)ら、163後(あと)振(ふ)り返(かへ)り振(ふ)り返(かへ)り嫌(いや)さうに黒姫(くろひめ)の後(あと)に跟(つ)いて行(ゆ)く。
164 黒姫(くろひめ)は漸(やうや)くにして其(その)日(ひ)の黄昏(たそがれ)、165筑紫(つくし)の巌窟(がんくつ)建日別(たけひわけ)の旧蹟地(きうせきち)に辿(たど)り着(つ)いた。
166黒姫(くろひめ)『さあ、167此処(ここ)は有名(いうめい)な小島別(こじまわけの)命(みこと)が、168月照彦(つきてるひこ)の神(かみ)様(さま)の神霊(しんれい)から脂(あぶら)をとられ出世(しゆつせ)した目出度(めでた)い処(ところ)だ。169皆々(みなみな)、170一同(いちどう)に天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)しませう』
171房公(ふさこう)『先(ま)づ第一(だいいち)に高山彦(たかやまひこ)様(さま)の御(ご)安泰(あんたい)を祈(いの)り、172第二(だいに)に黒姫(くろひめ)様(さま)の御(ご)改心(かいしん)を祈(いの)り、173第三(だいさん)に孫公(まごこう)さまの御(ご)出世(しゆつせ)を祈(いの)る事(こと)にしませうか』
174黒姫(くろひめ)『えゝ又(また)しても又(また)しても、175高山(たかやま)さま高山(たかやま)さまと云(い)つて下(くだ)さるな。176高山(たかやま)さまは妾(わたし)の夫(をつと)ですよ。177お前(まへ)等(ら)に名(な)を呼(よ)ばれると、178あまり心持(こころもち)がよくありませぬからな』
179芳公(よしこう)『第二(だいに)の亭主(ていしゆ)だから名(な)を言(い)はれても減(へ)る様(やう)な気(き)がなさいますナ』
180黒姫(くろひめ)『今日(けふ)限(かぎ)り高山彦(たかやまひこ)さまの事(こと)は言(い)つちやなりませぬぞや。181それよりも第一(だいいち)に神(かみ)様(さま)の事(こと)を云(い)ひなさい。182心得(こころえ)が悪(わる)いと又(また)此処(ここ)で孫公(まごこう)の様(やう)な目(め)にあうて、183脛腰(すねこし)が立(た)たず口(くち)ばかり達者(たつしや)な化物(ばけもの)になつて了(しま)ひますよ。184黒姫(くろひめ)に敵(てき)たうた者(もの)は誰(たれ)も彼(かれ)も皆(みな)あの通(とほ)りだ。185さあさあ皆々(みなみな)、186祝詞(のりと)を済(す)まして今晩(こんばん)はおとなしく此処(ここ)で寝(やす)みなさい。187私(わたし)はこれから神(かみ)様(さま)にお伺(うかが)ひをせなくてはならない。188お前(まへ)さま達(たち)が起(お)きて居(を)ると悪(あく)の霊(れい)が混線(こんせん)してはつきりした神勅(しんちよく)が受(う)けられませぬからな』
189房公(ふさこう)『黒姫(くろひめ)さま、190貴女(あなた)は宣伝使(せんでんし)にも似合(にあ)はず、191実(じつ)に冷酷(れいこく)なお方(かた)ですな。192太平洋(たいへいやう)を渡(わた)る時(とき)は、193吾々(われわれ)三(さん)人(にん)の者(もの)が居(を)らなくてはならない者(もの)だから、194何(なん)と言(い)はれてもおとなしく俺(おれ)達(たち)の機嫌(きげん)をとつて御座(ござ)つたが、195此(この)島(しま)に着(つ)くや否(いな)や、196高山彦(たかやまひこ)さまが御座(ござ)ると思(おも)つて俄(にはか)に権幕(けんまく)がひどくなり、197吾々(われわれ)を邪魔者(じやまもの)扱(あつか)ひにされる様子(やうす)が見(み)えて来(き)たぢやありませぬか』
198芳公(よしこう)『恋(こひ)に焦(こ)がれた五月水(さつきみづ)、199秋田(あきた)になればふられ水(みづ)……だ。200秋風(あきかぜ)が吹(ふ)いてからは冷(つめた)い水(みづ)は必要(ひつえう)がないとみえるわい。201年老(としより)の冷水(ひやみづ)とか云(い)つて、202そろそろ此(この)婆(ば)アさまも冷水(ひやみづ)になりかけたのだよ。203それだから人間(にんげん)をあてにしても駄目(だめ)だと云(い)ふのだよ。204こんな婆(ば)アさまの後(あと)について来(く)るよりも、205矢張(やは)り孫公(まごこう)の側(そば)で看病(かんびやう)して居(を)つた方(はう)が宜(よ)かつたなア。206さあ今頃(いまごろ)は孫公(まごこう)は……房(ふさ)、207芳(よし)の両人(りやうにん)は友達(ともだち)甲斐(がひ)もない奴(やつ)だ、208俺(おれ)の危難(きなん)を見捨(みす)てて万里(ばんり)の異郷(いきやう)に……と云(い)つて嘸(さぞ)怨(うら)んで居(を)るであらう。209あゝ本当(ほんたう)に友人(いうじん)の信義(しんぎ)を忘(わす)れて居(を)つた。210これと云(い)ふのも黒姫(くろひめ)と云(い)ふ黒(くろ)い雲(くも)が包(つつ)んで居(を)つたからだ。211さアこれから孫公(まごこう)を迎(むか)へに行(ゆ)かうぢやないか』
212房公(ふさこう)『迎(むか)へに行(ゆ)かうと云(い)つた所(ところ)で、213此(この)通(とほ)り四辺(あたり)が真暗(まつくら)になつては危(あぶ)なうて歩(ある)く事(こと)が出来(でき)ぬぢやないか。214まアゆつくりと気(き)をおちつけて、215明日(あす)の朝(あさ)迄(まで)此処(ここ)で夜(よ)を明(あ)かし、216改(あらた)めて足許(あしもと)が分(わか)つてから慰問使(ゐもんし)となつて行(ゆ)かうぢやないか』
217芳公(よしこう)『此処(ここ)でドツサリと慰問袋(ゐもんぶくろ)の用意(ようい)をして置(お)かうぢやないか、218アハヽヽヽ』
219黒姫(くろひめ)『コレコレ両人(りやうにん)、220闇(くら)がりに何(なに)をグヅグヅと、221云(い)つて居(ゐ)るのだい。222早(はや)く寝(やす)みなさらぬか』
223房公(ふさこう)『何分(なにぶん)、224黄金(こがね)の玉(たま)と麻邇(まに)の宝珠(ほつしゆ)が私(わたくし)の天眼通(てんがんつう)にチラつき、225高山彦(たかやまひこ)さまが愛子姫(あいこひめ)さまと抱擁(はうよう)接吻(キツス)して御座(ござ)る状態(じやうたい)が、226パノラマ式(しき)に眼底(がんてい)に映(うつ)るものだから気(き)が揉(も)めて寝(ね)られませぬワイ。227これを思(おも)ふと修羅(しゆら)が燃(も)えて折角(せつかく)染(そ)めた頭髪(かみ)までが褪(は)げる様(やう)な気分(きぶん)になりますがな……オツトドツコイ何時(いつ)の間(ま)にか黒姫(くろひめ)さまの霊(れい)が半分(はんぶん)ばかり憑(うつ)つたとみえる、228オホヽヽヽ』
229芳公(よしこう)『コレ高山彦(たかやまひこ)さま、230お前(まへ)さまも余(あんま)りぢや御座(ござ)んせぬかい。231竜宮(りうぐう)の一(ひと)つ島(じま)までも手(て)に手(て)を把(と)つて玉探(たまさが)しに行(ゆ)き、232クロンバー、233クロンバーと云(い)つて可愛(かあい)がつて下(くだ)さつたが、234男心(をとこごころ)と秋(あき)の空(そら)、235変(かは)れば変(かは)る世(よ)の中(なか)ぢや。236六十(ろくじふ)の尻(しり)を作(つく)つて、237未(ま)だ三十(さんじふ)にも足(た)らぬ愛子姫(あいこひめ)とやらを女房(にようばう)に持(も)つとは、238量見(りやうけん)がチト違(ちが)ひはしませぬかい。239お半(はん)長右衛門(ちやううゑもん)[※お半長右衛門…歌舞伎や浄瑠璃の登場人物の「お半」と「長右衛門(ちょうえもん)」のこと。14歳の信濃屋の娘お半と、38歳の帯屋長右衛門が恋愛関係となり最後には心中してしまう。]よりも年(とし)が違(ちが)つてる女房(にようばう)を持(も)つて、240それが何(なに)名誉(めいよ)で御座(ござ)んすか。241エー口惜(くちをし)い、242残念(ざんねん)な、243(サハリ)折角(せつかく)長(なが)の海山(うみやま)を越(こ)え、244お前(まへ)に会(あ)ひ度(た)い会(あ)ひ度(た)いと、245苦労(くらう)艱難(かんなん)しながらも、246此処迄(ここまで)探(たづ)ねて来(き)た妾(わたし)、247鶫(つむぎ)の尾(を)を切(き)つた様(やう)に、248思(おも)ひきるとは、249それや聞(きこ)えませぬ高山彦(たかやまひこ)さまオツチンオツチン……』
250 房公(ふさこう)は作(つく)り声(ごゑ)をして、
251房公『アイヤ黒姫(くろひめ)、252そなたの心(こころ)は察(さつ)すれども、253雀(すずめ)百(ひやく)まで雌鳥(めんどり)を忘(わす)れぬとやら、254棺桶(くわんをけ)に片足(かたあし)突込(つつこ)んだ白髪頭(しらがあたま)の皺苦茶(しわくちや)婆(ばば)よりも、255今(いま)を盛(さか)りと咲(さ)き匂(にほ)ふ、256水(みづ)も滴(したた)る様(やう)な愛子姫(あいこひめ)の香(かを)りに、257サツパリ此(この)高山彦(たかやまひこ)も精神(せいしん)顛倒(てんたふ)し、258麝香(じやかう)の香(か)に比(ひ)して糞嗅(ふんしう)の臭(にほひ)に似(に)た糞婆(くそばば)と、259如何(どう)して一緒(いつしよ)になる事(こと)が出来(でき)やうかい。260思(おも)はぬ望(のぞ)みを起(おこ)すより、261思(おも)ひきつて国許(くにもと)に帰(かへ)つたが宜(よ)からうぞや。262武士(ぶし)の言葉(ことば)に二言(にごん)はない。263その手(て)を放(はな)しや……と衝(つ)つ立(た)ち上(あが)り一間(ひとま)にこそは入(い)りにけり。264チヤチヤ チヤンチヤンチヤンぢや』
265芳公(よしこう)『そりや聞(きこ)えませぬ高山彦(たかやまひこ)サン、266お言葉(ことば)無理(むり)とは思(おも)へども、267初(はじ)めて会(あ)うた其(その)日(ひ)から、268寿老(げほう)の様(やう)な長頭(ながあたま)、269南瓜(かぼちや)の様(やう)によく光(ひか)る、270若(わか)い時(とき)から皺(しわ)だらけ、271睾玉(きんたま)に目鼻(めはな)をつけた様(やう)な其(その)お顔立(かほだ)ち、272こんな男(をとこ)と添(そ)うたなら、273何時(いつ)迄(まで)もお顔(かほ)の色(いろ)は変(かは)るまいと、274そればつかりを楽(たの)しみに、275ウラナイ教(けう)の教理(けうり)に背(そむ)き、276お前(まへ)を夫(をつと)に持(も)つたのは、277よもや忘(わす)れては居(ゐ)やしやんすまい。278思(おも)へば思(おも)へば残念(ざんねん)ぢや口惜(くちをし)いわいな……と取(と)りすがつて、279涙(なみだ)さき立(だ)つ口説(くど)き言(ごと)、280オホヽヽヽ』
281黒姫(くろひめ)『コレコレ両人(りやうにん)、282又(また)しても又(また)しても妾(わたし)を揶揄(からか)ふのかい。283あまり馬鹿(ばか)にしなさるな。284女(をんな)一人(ひとり)と侮(あなど)つて無礼(ぶれい)な事(こと)ばかり仰有(おつしや)るが、285今(いま)に高山彦(たかやまひこ)さまに出会(であ)つたら、286お前(まへ)等(ら)の無礼(ぶれい)を残(のこ)らず申上(まをしあ)げるから、287其(その)時(とき)には何程(なにほど)謝(あやま)つても量見(りやうけん)はしませぬぞや。288チツと嗜(たしな)みなされ』
289房公(ふさこう)『何(なん)だか知(し)らぬが、290高山彦(たかやまひこ)や黒姫(くろひめ)さまの霊(れい)が両人(りやうにん)の身体(からだ)に憑依(ひようい)して、291あんな事(こと)言(い)ふのだもの、292仕方(しかた)がありませぬわ』
293黒姫(くろひめ)『大方(おほかた)、294孫公(まごこう)の霊(れい)が憑(つ)いたのだらう。295どれ是(これ)から妾(わたし)が闇(くら)がりだけど鎮魂(ちんこん)してあげませう』
296と云(い)ひ乍(なが)ら双手(もろて)を組(く)み天(あま)の数歌(かずうた)を一生(いつしやう)懸命(けんめい)に謡(うた)ひあげ、
297黒姫(くろひめ)『国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)様(さま)、298豊国姫(とよくにひめの)大神(おほかみ)様(さま)、299日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)、300竜宮(りうぐうの)乙姫(おとひめ)様(さま)、301木花(このはな)咲耶姫(さくやひめの)大神(おほかみ)様(さま)、302何卒(なにとぞ)一(いち)時(じ)も早(はや)く高山彦(たかやまひこ)に会(あ)はして下(くだ)さい。303次(つぎ)には此(この)両人(ふたり)に憑(つ)いて居(ゐ)る悪霊(あくれい)を速(すみやか)に退却(たいきやく)させて下(くだ)さいませ。304憐(あは)れな者(もの)で御座(ござ)いますから……』
305 此(この)時(とき)闇(くら)がりにガサリガサリと何者(なにもの)かの足音(あしおと)が聞(きこ)え、306傍(かたはら)の岩窟(がんくつ)の中(なか)へ這入(はい)る様(やう)な気配(けはい)がした。
307(大正一一・九・一二 旧七・二一 北村隆光録)
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