霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 障文句(さはりもんく)〔九四四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻 篇:第1篇 筑紫の不知火 よみ(新仮名遣い):つくしのしらぬい
章:第3章 障文句 よみ(新仮名遣い):さわりもんく 通し章番号:944
口述日:1922(大正11)年09月12日(旧07月21日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
孫公は神懸りの態のまま宣伝歌を歌いながら、黒姫の動機をからかい戒め続けた。孫公は歌の最後に、高山彦は筑紫の島の日の国で、神素盞嗚大神の八人の娘の一人・愛子姫と夫婦となって暮らしていると告げた。
それを聞いて黒姫はさらに逆上して詰め寄るが、房公は孫公のお告げがつじつまが合っていないと言って黒姫をなだめる。黒姫は納得して、房公と芳公を連れて筑紫の岩窟を目指していく。
房公と芳公は、孫公を助け起こして連れて行こうとしたが、孫公は目を閉じたままびくともしない。黒姫にせかされた二人は、やむを得ず孫公をそこへ置いていった。
三人はその日の暮れに筑紫の岩窟に着いた。かつて小島別命が月照彦神の神霊に厳しい戒めを受けて改心したという旧跡である。
黒姫は、自分は神様にお伺いを立てるから、邪魔になる二人はそこで寝ていろと房公と芳公に厳しく当たる。房公と芳公は黒姫に対してからかいながら批判して意趣返しをする。
黒姫は二人に孫公の霊がついたのだと鎮魂を始めるが、暗がりの中に足音がして、岩窟の中に入って行くように聞こえた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-04 02:16:33 OBC :rm3403
愛善世界社版:30頁 八幡書店版:第6輯 374頁 修補版: 校定版:32頁 普及版:13頁 初版: ページ備考:
001 孫公(まごこう)は、002委細(ゐさい)(かま)はず神懸(かむがかり)となつたまま(うた)(つづ)ける。
003孫公フヽヽフーフ ウフヽヽヽ
004(しとら)金神(こんじん)(あら)はれて
005有象(ざう)無象(むざう)立別(たてわ)ける
006つつを()かした黒姫(くろひめ)
007浮世(きよ)気分(きぶん)()()して
008ロウロ此処(ここ)(まで)やつて()
009るさい(をとこ)(あと)()うて
010んざりする(やう)惚気方(のろけかた)
011浮世(きよ)(つね)とは()(なが)
012憂身(きみ)をやつす(こひ)(やみ)
013ラナイ(けう)看板(かんばん)
014()つて(いち)()はメキメキと
015羽振(はぶり)()かした黒姫(くろひめ)
016高山彦(たかやまひこ)のハズバンド
017つかり(もら)うた(その)(ため)
018憂世(うきよ)(あぢ)(おぼ)()
019(こころ)(そら)迂路()々々(うろ)
020行方(ゆくへ)(さだ)めぬ(たび)(そら)
021()きのとれぬ()()うて
022()聖地(せいち)()(はな)
023渦巻(づまき)わたる海原(なばら)
024()えて此処(ここ)(まで)ヨウヨと
025迂路()つき(きた)(あは)れさよ
026狼狽者(ろたへもの)宣伝使(せんでんし)
027黒姫(くろひめ)さまの甘口(あまくち)
028まく()せられ吾々(われわれ)
029()()かれて善光寺(ぜんくわうじ)
030(まゐ)(ばば)アの(あと)につき
031()つて()たのは亜弗利加(アフリカ)
032憂世(きよ)(はな)れた筑紫島(つくしじま)
033()(やう)なる細長(ほそなが)
034寿老頭(げほうあたま)老爺(おやぢ)をば
035憂身(きみ)(やつ)して()うて()
036()さい(をんな)(ただ)一人(ひとり)
037蛆虫(じむし)()(やう)(たましひ)
038迂路()々々(うろ)やつて()られては
039如何(いか)(をんな)熱心(ねつしん)
040高山(たかやま)ぢやとて()さかろ
041()さの娑婆(しやば)(なが)らへて
042憂目(きめ)()るより逸早(いちはや)
043改心(かいしん)した(はう)()からうぞ
044碾臼(ひき)みた(やう)(しり)をして
045ロウロしたとて仕方(しかた)ない
046あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
047()さい(こと)ではないかいな
048こんな(ところ)にマゴマゴと
049(いた)して御座(ござ)(ひま)あれば
050(いち)()(はや)()(くに)
051(あし)(はや)めて()きなさい
052(かほ)(ちが)ふか()らねども
053高山彦(たかやまひこ)御座(ござ)るぞや
054その(また)高山彦(たかやまひこ)さまは
055(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)
056八人(やたり)乙女(をとめ)(その)一人(ひとり)
057愛子(あいこ)(ひめ)()(かた)
058(あさ)(ゆふ)なに(かし)づいて
059家事(かじ)万端(ばんたん)()ふも(さら)
060(かゆ)(ところ)()(とど)
061(みづ)()らさぬ(つと)()
062高山彦(たかやまひこ)(かみ)さまは
063笑壺(ゑつぼ)()つて脂下(やにさが)
064えらい機嫌(きげん)御座(ござ)るぞや
065あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
066黒姫(くろひめ)さまにあんな(とこ)
067一目(ひとめ)()せたら如何(どう)だらう
068(たちま)(ふた)つの()()つて
069(はな)をムケムケ(くち)(ゆが)
070(うら)みの(ほのほ)(たちま)ちに
071(てん)(くも)(まで)(こが)すだらう
072高山彦(たかやまひこ)(えら)(やつ)
073五十(ごじふ)(けつ)(むす)んだる
074悪垂(あくた)(ばば)(こと)(かは)
075(ゆき)(あざむ)(しろ)(かほ)
076ボツテリ(こえ)(はだへ)(いろ)
077何処(どこ)言分(いひぶん)ない(むすめ)
078女房(にようばう)にもつて朝夕(あさゆふ)
079愛子(あいこ)々々(あいこ)()(たま)
080他所(よそ)()()(けな)りよな
081(まこと)立派(りつぱ)夫婦(ふうふ)ぞや
082エヘヽヽヘツヘ ヘヽヽヽヽ』
083黒姫(くろひめ)『コレコレ孫公(まごこう)084(まへ)それは本当(ほんたう)かい。085あの高山(たかやま)さまが愛子姫(あいこひめ)()ふ、086(あま)岩戸(いはと)()めた素盞嗚(すさのをの)(みこと)(あま)ツちよを女房(にようばう)()つて、087()(くに)御座(ござ)らつしやるとは合点(がてん)()かぬ(はなし)だ。088高山(たかやま)さまに(かぎ)つてそんな(はず)はないのだが、089何卒(どうぞ)本当(ほんたう)(こと)()つてくれ。090如何(いか)気楽(きらく)黒姫(くろひめ)でもこんな(こと)()くと、091如何(どう)しても()(のが)しが出来(でき)ませぬ。092さあ何卒(どうぞ)(はや)虚実(きよじつ)(あきら)かに(こた)へて(くだ)さい』
093房公(ふさこう)黒姫(くろひめ)さま、094孫公(まごこう)があんな(こと)()つて揶揄(からか)つて()るのですよ。095本当(ほんたう)にしちやいけませぬぜ。096……ナア芳公(よしこう)097どうも(あや)しいぢやないか』
098芳公(よしこう)『いや、099(おれ)(けつ)して(あや)しいとは(おも)はぬ、100よう(かんが)へて()よ。101最前(さいぜん)からの様子(やうす)102如何(どう)しても人間(にんげん)悪戯(いたづら)とは(おも)へぬぢやないか。103屹度(きつと)(かみ)(さま)のお(つげ)間違(まちが)ひは()からうぞ』
104房公(ふさこう)『それでも()ふことが矛盾(ほことん)して()るぢやないか。105高山彦(たかやまひこ)(あや)聖地(せいち)伊勢屋(いせや)(むすめ)()らして()ると()ふかと(おも)へば、106()(くに)(いま)愛子姫(あいこひめ)脂下(やにさが)つて()ると()ふなり、107(なに)(なん)だかチツとも(わけ)(わか)らぬぢやないか』
108芳公(よしこう)『それもさうだなア。109大方(おほかた)枉津(まがつ)(うつ)つたのだらう。110……おい孫公(まごこう)111シツカリせぬかい。112貴様(きさま)()(まは)しやがつて矢張(やは)()(とほ)くなつたと()え、113そんな矛盾(ほことん)(こと)(ほざ)くのだらう。114チツとしつかりしてくれないか。115(おれ)(たち)もこんな(ところ)発狂(はつきやう)されては心細(こころぼそ)いからなア』
116黒姫(くろひめ)『いかにも房公(ふさこう)()(とほ)り、117孫公(まごこう)()(こと)前後(あとさき)がチツとも(そろ)はない、118枉津(まがつ)()ふものは、119(かしこ)(やう)でも馬鹿(ばか)(もの)だなア。120高山(たかやま)さまが自転倒(おのころ)(じま)()ると()ふかと(おも)へば、121()(くに)()ると()ふなり、122(なに)(なん)だか(わけ)(わか)つたものぢやありませぬわい…(ひと)(ちから)にするな、123師匠(ししやう)(つゑ)につくな……と()(をしへ)がある。124こんな(をとこ)神懸(かむがかり)(たぶら)かされて()つては、125三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)もさつぱり駄目(だめ)だ。126さあさあ房公(ふさこう)127芳公(よしこう)128こんな(をとこ)此処(ここ)放棄(うつちや)つておいて筑紫(つくし)巌窟(がんくつ)(まで)()きませう。129そこ(まで)()けば屹度(きつと)巌窟(がんくつ)(かみ)(さま)正確(せいかく)(こと)()かして(くだ)さるに相違(さうゐ)ありませぬ。130さあ()きませう』
131房公(ふさこう)巌窟(がんくつ)(かみ)(さま)(むかし)小島別(こじまわけ)(やう)五大韻(ごだいゐん)言霊攻(ことたまぜめ)()はされては(たま)りませぬぜ。132随分(ずゐぶん)(きず)()(あし)吾々(われわれ)だからそんな危険(きけん)区域(くゐき)地方(ちはう)へは()りつかない(はう)悧巧(りかう)ですよ』
133黒姫(くろひめ)(また)(まへ)()(よわ)退嬰(たいえい)主義(しゆぎ)()るのか。134三五教(あななひけう)進展(しんてん)主義(しゆぎ)ですよ。135(けつ)して退却(たいきやく)はなりませぬ。136小島別(こじまわけ)(かみ)さまだつて、137(しまひ)には建日別(たけひわけの)(みこと)()立派(りつぱ)(かみ)になつたぢやないか。138屹度(きつと)(わる)(あと)()いにきまつてるから、139さあ(はや)()きませう』
140芳公(よしこう)黒姫(くろひめ)さま、141孫公(まごこう)はお()れになりませぬか』
142黒姫(くろひめ)(きた)るものは(こば)まず、143()(もの)()はず、144孫公(まごこう)自由(じいう)意志(いし)(まか)せませうかい』
145芳公(よしこう)『これ孫公(まごこう)146(おれ)(たち)一緒(いつしよ)黒姫(くろひめ)さまの(あと)について()かうぢやないか。147何時迄(いつまで)もこんな(ところ)でア、148オ、149ウと言霊(ことたま)もどきをやつて()つても、150てんから脱線(だつせん)だらけだから、151流石(さすが)黒姫(くろひめ)さまも愛想(あいさう)づかしをなさつた(くらゐ)だから、152(たれ)聴手(ききて)があるまい。153さア(おれ)一緒(いつしよ)()かう』
154()(なが)孫公(まごこう)左右(さいう)()をグツと(にぎ)()()たさうとする。155孫公(まごこう)()から()えた(いは)(やう)何程(なにほど)ゆすつても()いてもビクとも(うご)かず、156(ただ)一言(ひとこと)
157孫公(おれ)自由(じいう)意思(いし)(まか)すのだよ』
158()つたきり()()無言(むごん)(まま)(すわ)つて()る。159黒姫(くろひめ)委細(ゐさい)(かま)はず言霊(ことたま)(にご)つた宣伝歌(せんでんか)(うた)(なが)ら、160風当(かぜあた)りのよき谷道(たにみち)をスタスタと(のぼ)()く。161(ふさ)162(よし)二人(ふたり)孫公(まごこう)(こころ)()かれ(なが)ら、163(あと)()(かへ)()(かへ)(いや)さうに黒姫(くろひめ)(あと)()いて()く。
164 黒姫(くろひめ)(やうや)くにして(その)()黄昏(たそがれ)165筑紫(つくし)巌窟(がんくつ)建日別(たけひわけ)旧蹟地(きうせきち)辿(たど)()いた。
166黒姫(くろひめ)『さあ、167此処(ここ)有名(いうめい)小島別(こじまわけの)(みこと)が、168月照彦(つきてるひこ)(かみ)(さま)神霊(しんれい)から(あぶら)をとられ出世(しゆつせ)した目出度(めでた)(ところ)だ。169皆々(みなみな)170一同(いちどう)天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)しませう』
171房公(ふさこう)()第一(だいいち)高山彦(たかやまひこ)(さま)()安泰(あんたい)(いの)り、172第二(だいに)黒姫(くろひめ)(さま)()改心(かいしん)(いの)り、173第三(だいさん)孫公(まごこう)さまの()出世(しゆつせ)(いの)(こと)にしませうか』
174黒姫(くろひめ)『えゝ(また)しても(また)しても、175高山(たかやま)さま高山(たかやま)さまと()つて(くだ)さるな。176高山(たかやま)さまは(わたし)(をつと)ですよ。177(まへ)()()()ばれると、178あまり心持(こころもち)がよくありませぬからな』
179芳公(よしこう)第二(だいに)亭主(ていしゆ)だから()()はれても()(やう)()がなさいますナ』
180黒姫(くろひめ)今日(けふ)(かぎ)高山彦(たかやまひこ)さまの(こと)()つちやなりませぬぞや。181それよりも第一(だいいち)(かみ)(さま)(こと)()ひなさい。182心得(こころえ)(わる)いと(また)此処(ここ)孫公(まごこう)(やう)()にあうて、183脛腰(すねこし)()たず(くち)ばかり達者(たつしや)化物(ばけもの)になつて(しま)ひますよ。184黒姫(くろひめ)(てき)たうた(もの)(たれ)(かれ)(みな)あの(とほ)りだ。185さあさあ皆々(みなみな)186祝詞(のりと)()まして今晩(こんばん)はおとなしく此処(ここ)(やす)みなさい。187(わたし)はこれから(かみ)(さま)にお(うかが)ひをせなくてはならない。188(まへ)さま(たち)()きて()ると(あく)(れい)混線(こんせん)してはつきりした神勅(しんちよく)()けられませぬからな』
189房公(ふさこう)黒姫(くろひめ)さま、190貴女(あなた)宣伝使(せんでんし)にも似合(にあ)はず、191(じつ)冷酷(れいこく)なお(かた)ですな。192太平洋(たいへいやう)(わた)(とき)は、193吾々(われわれ)(さん)(にん)(もの)()らなくてはならない(もの)だから、194(なん)()はれてもおとなしく(おれ)(たち)機嫌(きげん)をとつて御座(ござ)つたが、195(この)(しま)()くや(いな)や、196高山彦(たかやまひこ)さまが御座(ござ)ると(おも)つて(にはか)権幕(けんまく)がひどくなり、197吾々(われわれ)邪魔者(じやまもの)(あつか)ひにされる様子(やうす)()えて()たぢやありませぬか』
198芳公(よしこう)(こひ)()がれた五月水(さつきみづ)199秋田(あきた)になればふられ(みづ)……だ。200秋風(あきかぜ)()いてからは(つめた)(みづ)必要(ひつえう)がないとみえるわい。201年老(としより)冷水(ひやみづ)とか()つて、202そろそろ(この)()アさまも冷水(ひやみづ)になりかけたのだよ。203それだから人間(にんげん)をあてにしても駄目(だめ)だと()ふのだよ。204こんな()アさまの(あと)について()るよりも、205矢張(やは)孫公(まごこう)(そば)看病(かんびやう)して()つた(はう)()かつたなア。206さあ今頃(いまごろ)孫公(まごこう)は……(ふさ)207(よし)両人(りやうにん)友達(ともだち)甲斐(がひ)もない(やつ)だ、208(おれ)危難(きなん)見捨(みす)てて万里(ばんり)異郷(いきやう)に……と()つて(さぞ)(うら)んで()るであらう。209あゝ本当(ほんたう)友人(いうじん)信義(しんぎ)(わす)れて()つた。210これと()ふのも黒姫(くろひめ)()(くろ)(くも)(つつ)んで()つたからだ。211さアこれから孫公(まごこう)(むか)へに()かうぢやないか』
212房公(ふさこう)(むか)へに()かうと()つた(ところ)で、213(この)(とほ)四辺(あたり)真暗(まつくら)になつては(あぶ)なうて(ある)(こと)出来(でき)ぬぢやないか。214まアゆつくりと()をおちつけて、215明日(あす)(あさ)(まで)此処(ここ)()()かし、216(あらた)めて足許(あしもと)(わか)つてから慰問使(ゐもんし)となつて()かうぢやないか』
217芳公(よしこう)此処(ここ)でドツサリと慰問袋(ゐもんぶくろ)用意(ようい)をして()かうぢやないか、218アハヽヽヽ』
219黒姫(くろひめ)『コレコレ両人(りやうにん)220(くら)がりに(なに)をグヅグヅと、221()つて()るのだい。222(はや)(やす)みなさらぬか』
223房公(ふさこう)何分(なにぶん)224黄金(こがね)(たま)麻邇(まに)宝珠(ほつしゆ)(わたくし)天眼通(てんがんつう)にチラつき、225高山彦(たかやまひこ)さまが愛子姫(あいこひめ)さまと抱擁(はうよう)接吻(キツス)して御座(ござ)状態(じやうたい)が、226パノラマ(しき)眼底(がんてい)(うつ)るものだから()()めて()られませぬワイ。227これを(おも)ふと修羅(しゆら)()えて折角(せつかく)()めた頭髪(かみ)までが()げる(やう)気分(きぶん)になりますがな……オツトドツコイ何時(いつ)()にか黒姫(くろひめ)さまの(れい)半分(はんぶん)ばかり(うつ)つたとみえる、228オホヽヽヽ』
229芳公(よしこう)『コレ高山彦(たかやまひこ)さま、230(まへ)さまも(あんま)りぢや御座(ござ)んせぬかい。231竜宮(りうぐう)(ひと)(じま)までも()()()つて玉探(たまさが)しに()き、232クロンバー、233クロンバーと()つて可愛(かあい)がつて(くだ)さつたが、234男心(をとこごころ)(あき)(そら)235(かは)れば(かは)()(なか)ぢや。236六十(ろくじふ)(しり)(つく)つて、237()三十(さんじふ)にも()らぬ愛子姫(あいこひめ)とやらを女房(にようばう)()つとは、238量見(りやうけん)がチト(ちが)ひはしませぬかい。239(はん)長右衛門(ちやううゑもん)お半長右衛門…歌舞伎や浄瑠璃の登場人物の「お半」と「長右衛門(ちょうえもん)」のこと。14歳の信濃屋の娘お半と、38歳の帯屋長右衛門が恋愛関係となり最後には心中してしまう。よりも(とし)(ちが)つてる女房(にようばう)()つて、240それが(なに)名誉(めいよ)御座(ござ)んすか。241エー口惜(くちをし)い、242残念(ざんねん)な、243(サハリ)折角(せつかく)(なが)海山(うみやま)()え、244(まへ)()()()()いと、245苦労(くらう)艱難(かんなん)しながらも、246此処迄(ここまで)(たづ)ねて()(わたし)247(つむぎ)()()つた(やう)に、248(おも)ひきるとは、249それや(きこ)えませぬ高山彦(たかやまひこ)さまオツチンオツチン……』
250 房公(ふさこう)(つく)(ごゑ)をして、
251房公『アイヤ黒姫(くろひめ)252そなたの(こころ)(さつ)すれども、253(すずめ)(ひやく)まで雌鳥(めんどり)(わす)れぬとやら、254棺桶(くわんをけ)片足(かたあし)突込(つつこ)んだ白髪頭(しらがあたま)皺苦茶(しわくちや)(ばば)よりも、255(いま)(さか)りと()(にほ)ふ、256(みづ)(したた)(やう)愛子姫(あいこひめ)(かを)りに、257サツパリ(この)高山彦(たかやまひこ)精神(せいしん)顛倒(てんたふ)し、258麝香(じやかう)()()して糞嗅(ふんしう)(にほひ)()糞婆(くそばば)と、259如何(どう)して一緒(いつしよ)になる(こと)出来(でき)やうかい。260(おも)はぬ(のぞ)みを(おこ)すより、261(おも)ひきつて国許(くにもと)(かへ)つたが()からうぞや。262武士(ぶし)言葉(ことば)二言(にごん)はない。263その()(はな)しや……と()()(あが)一間(ひとま)にこそは()りにけり。264チヤチヤ チヤンチヤンチヤンぢや』
265芳公(よしこう)『そりや(きこ)えませぬ高山彦(たかやまひこ)サン、266言葉(ことば)無理(むり)とは(おも)へども、267(はじ)めて()うた(その)()から、268寿老(げほう)(やう)長頭(ながあたま)269南瓜(かぼちや)(やう)によく(ひか)る、270(わか)(とき)から(しわ)だらけ、271睾玉(きんたま)目鼻(めはな)をつけた(やう)(その)顔立(かほだ)ち、272こんな(をとこ)()うたなら、273何時(いつ)(まで)もお(かほ)(いろ)(かは)るまいと、274そればつかりを(たの)しみに、275ウラナイ(けう)教理(けうり)(そむ)き、276(まへ)(をつと)()つたのは、277よもや(わす)れては()やしやんすまい。278(おも)へば(おも)へば残念(ざんねん)ぢや口惜(くちをし)いわいな……と()りすがつて、279(なみだ)さき()口説(くど)(ごと)280オホヽヽヽ』
281黒姫(くろひめ)『コレコレ両人(りやうにん)282(また)しても(また)しても(わたし)揶揄(からか)ふのかい。283あまり馬鹿(ばか)にしなさるな。284(をんな)一人(ひとり)(あなど)つて無礼(ぶれい)(こと)ばかり仰有(おつしや)るが、285(いま)高山彦(たかやまひこ)さまに出会(であ)つたら、286(まへ)()無礼(ぶれい)(のこ)らず申上(まをしあ)げるから、287(その)(とき)には何程(なにほど)(あやま)つても量見(りやうけん)はしませぬぞや。288チツと(たしな)みなされ』
289房公(ふさこう)(なん)だか()らぬが、290高山彦(たかやまひこ)黒姫(くろひめ)さまの(れい)両人(りやうにん)身体(からだ)憑依(ひようい)して、291あんな(こと)()ふのだもの、292仕方(しかた)がありませぬわ』
293黒姫(くろひめ)大方(おほかた)294孫公(まごこう)(れい)()いたのだらう。295どれ(これ)から(わたし)(くら)がりだけど鎮魂(ちんこん)してあげませう』
296()(なが)双手(もろて)()(あま)数歌(かずうた)一生(いつしやう)懸命(けんめい)(うた)ひあげ、
297黒姫(くろひめ)国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)(さま)298豊国姫(とよくにひめの)大神(おほかみ)(さま)299()出神(でのかみ)(さま)300竜宮(りうぐうの)乙姫(おとひめ)(さま)301木花(このはな)咲耶姫(さくやひめの)大神(おほかみ)(さま)302何卒(なにとぞ)(いち)()(はや)高山彦(たかやまひこ)()はして(くだ)さい。303(つぎ)には(この)両人(ふたり)()いて()悪霊(あくれい)(すみやか)退却(たいきやく)させて(くだ)さいませ。304(あは)れな(もの)御座(ござ)いますから……』
305 (この)(とき)(くら)がりにガサリガサリと何者(なにもの)かの足音(あしおと)(きこ)え、306(かたはら)岩窟(がんくつ)(なか)這入(はい)(やう)気配(けはい)がした。
307大正一一・九・一二 旧七・二一 北村隆光録)
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