霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 孫甦(まごこう)〔九四三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻 篇:第1篇 筑紫の不知火 よみ(新仮名遣い):つくしのしらぬい
章:第2章 孫甦 よみ(新仮名遣い):まごこう 通し章番号:943
口述日:1922(大正11)年09月12日(旧07月21日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
孫公が人事不省になったので、房公と芳公は必死に介抱を始めた。二人は黒姫に助けを求めるが、黒姫は罰が当たったのだといって冷酷に笑っている。
房公は倒れた孫公の体に向かって鎮魂を始めた。房公は、黒姫が冷酷なのは曲津に取り付かれたからだと言って、黒姫に霊を送っている。
倒れていた孫公はにわかに雷のような唸り声をたてだした。黒姫は真っ青になってその場にしゃがんでしまった。孫公は草の上にあぐらをかき、真っ赤な顔で唇を動かしだした。
黒姫は孫公に近寄り、自分が鎮魂したから助かったのだと吹いている。房公と芳公は黒姫の図々しさを指摘して文句を言うが、黒姫は意に介さず二人に食って掛かっている。
すると孫公は大口を開いて、黒姫の過去の所業を攻め立てる言霊歌を歌いだした。そして、高山彦は筑紫の島にはおらず、自転倒島に潜んでいると宣言した。
黒姫はこれを聞くと、神がかりした孫公に高山彦のありかを明かすようにと頼み込み始めた。孫公は、高山彦は聖地の伊勢屋の娘と浮気していると歌いだした。黒姫は茶化した孫公の歌に怒って文句をつけ、本当のことを明かすように迫った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-09-10 11:50:26 文字数:4368 OBC :rm3402
愛善世界社版:18頁 八幡書店版:第6輯 369頁 修補版: 校定版:19頁 普及版:8頁 初版: ページ備考:
001 孫公(まごこう)は、002笑(わら)ひ転(こ)けた途端(とたん)に腰骨(こしぼね)を岩角(いはかど)に強(したた)か打(う)ち『ウン』と云(い)つたきり人事(じんじ)不省(ふせい)になつて了(しま)つた。003房公(ふさこう)、004芳公(よしこう)の両人(りやうにん)は周章(あわて)狼狽(ふため)き、005谷水(たにみづ)を汲(く)み来(きた)つて顔(かほ)にぶつかけたり、006口(くち)を無理(むり)にあけて水(みづ)を飲(の)ませなどして種々(いろいろ)と介抱(かいほう)を余念(よねん)なく続(つづ)けて居(ゐ)る。007されど孫公(まごこう)は、008だんだん身体(からだ)が冷却(れいきやく)する計(ばか)り、009呼(よ)べど叫(さけ)べど何(なん)の応答(こたへ)も無(な)くなつて了(しま)つた。010黒姫(くろひめ)は冷然(れいぜん)として孫公(まごこう)の倒(たふ)れた体(からだ)を斜眼(ながしめ)に見(み)て居(ゐ)る。
011房公(ふさこう)『これ黒姫(くろひめ)さま、012孫公(まごこう)がこんな目(め)に遇(あ)つて居(ゐ)るのです。013なぜ神(かみ)様(さま)に願(ねが)つて下(くだ)さらぬのか。014早(はや)く数歌(かずうた)を歌(うた)ひ上(あ)げて魂返(たまがへ)しをして下(くだ)さい。015愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(ゐ)ると、016此方(こちら)の者(もの)にはなりませぬぞや』
017 黒姫(くろひめ)はニヤリと笑(わら)ひ、
018黒姫『神(かみ)様(さま)の戒(いまし)めは、019恐(おそ)ろしいものですな。020皆様(みなさま)是(これ)を見(み)て改心(かいしん)なさい。021長上(ちやうじやう)を敬(うやま)へと云(い)ふ……お前(まへ)は天(てん)の御(ご)規則(きそく)を何(なん)と心得(こころえ)て御座(ござ)る。022太平洋(たいへいやう)を渡(わた)る時(とき)から、023此(この)孫公(まごこう)は黒姫(くろひめ)の云(い)ふ事(こと)を一(ひと)つ一(ひと)つ口答(くちごた)へを致(いた)し、024長上(ちやうじやう)を侮辱(ぶじよく)した天則(てんそく)違反(ゐはん)の罪(つみ)が自然(しぜん)に報(むく)うて来(き)たのだから、025何程(なにほど)頼(たの)んだとて祈(いの)つたとて、026もはや駄目(だめ)だよ。027……これ房公(ふさこう)、028芳公(よしこう)、029お前(まへ)も随分(ずゐぶん)孫公(まごこう)のやうに此(この)黒姫(くろひめ)に口答(くちごた)へをしたり、030又(また)悪口(わるくち)を云(い)つたであらう。031第二(だいに)の候補者(こうほしや)はどちらになるか知(し)らぬでなア、032オホヽヽヽ……エヽ気味(きみ)のよい事(こと)だ。033こんな事(こと)が無(な)ければ阿呆(あはう)らしくて神(かみ)様(さま)の信仰(しんかう)は出来(でき)はしない。034神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて、035善(ぜん)と悪(あく)とを立(た)て別(わ)けると云(い)ふ三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)は、036決(けつ)して嘘(うそ)ぢやありますまいがな。037神(かみ)は善(ぜん)を賞(しやう)し悪(あく)を亡(ほろ)ぼしたまふと云(い)ふ事(こと)は、038いつも此(この)黒姫(くろひめ)の口(くち)が酢(す)つぱくなるまで教(をし)へてあるぢやないか。039それだから神(かみ)様(さま)は怖(こわ)いと云(い)ふのだ。040あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
041房公(ふさこう)『それでも黒姫(くろひめ)さま、042あまり冷酷(れいこく)ぢやありませぬか。043神(かみ)様(さま)は神(かみ)様(さま)として、044若(も)し此(この)孫公(まごこう)が高山彦(たかやまひこ)さまであつたら、045黒姫(くろひめ)さま、046お前(まへ)さまはそんなに平気(へいき)な顔(かほ)がして居(を)られますか』
047黒姫(くろひめ)『高山彦(たかやまひこ)さまに限(かぎ)つて、048こんな分(わか)らぬ天則(てんそく)違反(ゐはん)の行(おこな)ひはなさりませぬ哩(わい)。049滅多(めつた)に気遣(きづか)ひないから御(ご)心配(しんぱい)下(くだ)さいますな、050ウフヽヽヽ』
051芳公(よしこう)『オイ房公(ふさこう)、052黒姫(くろひめ)には曲津(まがつ)神(かみ)が憑依(ひようい)したと見(み)える。053さうでなくては肝腎(かんじん)の弟子(でし)が縡切(ことぎ)れて居(ゐ)るのに、054如何(いか)に無情(むじやう)冷酷(れいこく)な人間(にんげん)でもこんな態度(たいど)を装(よそほ)ふ訳(わけ)には行(ゆ)くまい。055これから両人(りやうにん)が両方(りやうはう)から鎮魂責(ちんこんぜめ)にして、056黒姫(くろひめ)の悪霊(あくれい)を放(ほ)り出(だ)さうぢやないか』
057房公(ふさこう)『俺(おれ)は孫公(まごこう)の介抱(かいほう)をする。058まだ少(すこ)し温(ぬく)みがあるから蘇生(いきかへ)るかも知(し)れない。059お前(まへ)は黒姫(くろひめ)の曲津(まがつ)退治(たいぢ)にかかつて呉(く)れ』
060と云(い)ひながら、061房公(ふさこう)は孫公(まごこう)の倒(たふ)れた体(からだ)に向(むか)つて一生(いつしやう)懸命(けんめい)に鎮魂(ちんこん)をなし、062天(あま)の数歌(かずうた)を謡(うた)ひ出(だ)した。063芳公(よしこう)は両手(りやうて)を組(く)み黒姫(くろひめ)に向(むか)つて『ウンウン』と霊(れい)を送(おく)つて居(ゐ)る。
064黒姫(くろひめ)『オホヽヽヽ、065敵(てき)は本能寺(ほんのうじ)にあり、066吾(わが)敵(かたき)は吾(わが)心(こころ)に潜(ひそ)むと云(い)つて、067此(この)黒姫(くろひめ)が悪(あく)に見(み)えるのは所謂(いはゆる)お前(まへ)の心(こころ)に悪魔(あくま)が棲(す)んで居(ゐ)るのだよ。068そんな馬鹿(ばか)な芸当(げいたう)をするよりも早(はや)く神(かみ)様(さま)にお詫(わび)をしなさい。069此(この)黒姫(くろひめ)の腹立(はらだち)の直(なほ)らぬかぎりは、070房公(ふさこう)だつてお前(まへ)だつて孫公(まごこう)の通(とほ)りだよ。071さてもさても憐(あは)れなものだなア。072心(こころ)から発根(ほつこん)の改心(かいしん)でないと、073何程(なにほど)神(かみ)様(さま)を祈(いの)つたとてあきませぬぞえ。074これから何事(なにごと)も神(かみ)第一(だいいち)、075黒姫(くろひめ)第二(だいに)とするのだよ』
076芳公(よしこう)『高山彦(たかやまひこ)さまと元(もと)の通(とほ)り御(ご)夫婦(ふうふ)になられた時(とき)はどうなります。077高山彦(たかやまひこ)第三(だいさん)ですか、078或(あるひ)は第二(だいに)ですか、079それを聞(き)かして置(お)いて頂(いただ)かむと都合(つがふ)が悪(わる)いですからなア』
080黒姫(くろひめ)『今(いま)からそんな事(こと)を云(い)ふ時(とき)ぢやありませぬ。081孫公(まごこう)があの通(とほ)り冷(つめ)たくなつて居(を)るのに、082お前(まへ)は何(なん)とも無(な)いのかい』
083芳公(よしこう)『さうですなア、084黒姫(くろひめ)さまが高山彦(たかやまひこ)さまを思(おも)ふ位(くらゐ)なものでせうかい。085高山彦(たかやまひこ)さまが第二(だいに)ですか、086第三(だいさん)ですか、087但(ただし)は機会(きくわい)均等(きんとう)主義(しゆぎ)ですか』
088 黒姫(くろひめ)はニヤリと笑(わら)ひ、
089黒姫『極(きま)つた事(こと)よ。090私(わたし)のハズバンドだもの、091オホヽヽヽ』
092と顔(かほ)を隠(かく)す。093五十(ごじふ)の坂(さか)を越(こ)えた皺苦茶(しわくちや)婆(ばば)も、094ハズバンドの事(こと)を云(い)はれると少(すこ)しく恥(はづ)かしくなつたと見(み)える。
095 今(いま)迄(まで)打倒(うちたふ)れて居(ゐ)た孫公(まごこう)は、096房公(ふさこう)の看病(かんびやう)が利(き)いたのか、097但(ただし)は御(ご)神力(しんりき)で息(いき)を吹(ふ)き返(かへ)したのか、098俄(にはか)に雷(らい)のやうな唸(うな)り声(ごゑ)を立(た)て出(だ)した。099黒姫(くろひめ)は真蒼(まつさを)な顔(かほ)になつて其(その)場(ば)にしやがんで了(しま)ふ。100房公(ふさこう)、101芳公(よしこう)の両人(りやうにん)は且(か)つ驚(おどろ)き且(か)つ喜(よろこ)び、102雑草(ざつさう)の茂(しげ)る道端(みちばた)を右(みぎ)に左(ひだり)に周章(うろた)へ廻(まは)る。103孫公(まごこう)は益々(ますます)唸(うな)り出(だ)した。104さうしてツト自(みづか)ら起(お)き上(あが)り、105道端(みちばた)の青草(あをくさ)の上(うへ)に胡坐(あぐら)をかき真赤(まつか)な顔(かほ)をしながら、106への字(じ)に結(むす)んだ口(くち)を片(かた)つ方(ぱう)から少(すこ)しづつ通草(あけび)がはじけかかつたやうに上下(じやうげ)の唇(くちびる)を開(ひら)き初(はじ)め、107白(しろ)い歯(は)を一(いち)枚(まい)二(に)枚(まい)三(さん)枚(まい)と露(あら)はし初(はじ)めた。108三(さん)人(にん)は目(め)も放(はな)たず驚異(きやうい)の念(ねん)にかられて孫公(まごこう)の口辺(くちばた)ばかりを見詰(みつ)めて居(ゐ)ると、109孫公(まごこう)の口(くち)は三十二(さんじふに)枚(まい)の歯(は)迄(まで)露出(ろしゆつ)して了(しま)つて、110暫(しばら)くすると蟇蛙(ひきがへる)が蚊(か)を吸(す)ふ調子(てうし)で、111上下(じやうげ)の唇(くちびる)をパクパクと動(うご)かした機(はづ)みに上下(じやうげ)の歯(は)がカツンカツンと打(うち)あふ音(おと)が聞(きこ)えて来(き)た。112黒姫(くろひめ)はツト傍(かたはら)に寄(よ)つて、
113黒姫『コレ孫公(まごこう)、114喜(よろこ)びなさい、115黒姫(くろひめ)の鎮魂(ちんこん)のお蔭(かげ)で、116死(し)んで居(ゐ)たお前(まへ)が甦(よみがへ)つたのだよ。117これからは黒姫(くろひめ)に対(たい)しては、118今(いま)迄(まで)のやうな傲慢(がうまん)の態度(たいど)をあらためなさいや』
119房公(ふさこう)『これ黒姫(くろひめ)さま、120鎮魂(ちんこん)したのは私(わたし)ですよ。121お前(まへ)さまは孫公(まごこう)が死(し)ぬのは天罰(てんばつ)だ、122神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)けなさつたのだと、123さんざん理屈(りくつ)を云(い)つたぢやありませぬか』
124黒姫(くろひめ)『お前(まへ)が鎮魂(ちんこん)しても、125此(この)黒姫(くろひめ)の神力(しんりき)がお前(まへ)に憑(うつ)つたのだから、126孫公(まごこう)が神徳(しんとく)を頂(いただ)いたのだよ。127きつと此(この)黒姫(くろひめ)が神力(しんりき)によつて甦(よみがへ)らせるだけの確信(かくしん)を持(も)つて居(ゐ)たから、128泰然(たいぜん)自若(じじやく)として冷静(れいせい)に構(かま)へて居(ゐ)たのだ。129覚(おぼ)え無(な)くして宣伝使(せんでんし)が勤(つと)まりますか、130何事(なにごと)も知(し)らず識(し)らずに神(かみ)様(さま)にさされて居(ゐ)るのだ。131房公(ふさこう)、132お前(まへ)の鎮魂(ちんこん)で直(なほ)つたと思(おも)つたら了見(りやうけん)が違(ちが)ひますぞえ。133皆(みな)黒姫(くろひめ)の余徳(よとく)だから、134皆(みな)慢心(まんしん)をしたり、135黒姫(くろひめ)より私(わたし)は偉(えら)い、136鎮魂(ちんこん)がよく利(き)くなどと思(おも)ふ事(こと)はなりませぬぞえ』
137房公(ふさこう)『まるで高姫(たかひめ)のやうな事(こと)を云(い)ふ婆(ば)アさまだなア。138高姫(たかひめ)と云(い)ふ奴(やつ)は人(ひと)に命(いのち)を助(たす)けて貰(もら)つて置(お)き乍(なが)ら、139いつも日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)がお前(まへ)を使(つか)うて助(たす)けさしてやつたのだ、140お礼(れい)を申(まを)しなさい……なんて、141瀬戸(せと)の海(うみ)の難船(なんせん)の時(とき)にも救(すく)うて呉(く)れた玉能姫(たまのひめ)にお礼(れい)を云(い)はせたと云(い)ふ筆法(ひつぱふ)だな。142矢張(やつぱ)り高姫(たかひめ)仕込(じこみ)だけあつて、143負惜(まけをし)みの強(つよ)い事(こと)は天下(てんか)一品(いつぴん)だ、144アハヽヽヽ。145年(とし)が寄(よ)つて雄鳥(をんどり)に離(はな)れると矢張(やつぱ)り根性(こんじやう)が拗(ねぢ)けると見(み)える。146高姫(たかひめ)だつて適当(てきたう)なハズバンドさへあれば、147あんなに拗(ねぢ)けるのぢや無(な)からうに、148人間(にんげん)と云(い)ふ者(もの)は、149どうしても異性(いせい)が付(つ)いて居(ゐ)ないと妙(めう)な心(こころ)になるものだ。150黒姫(くろひめ)さまを改心(かいしん)させるには、151どうしても高山彦(たかやまひこ)さまの顔(かほ)を見(み)せてあげなければなりますまい。152俺(おれ)だつてお鉄(てつ)の顔(かほ)を見(み)る迄(まで)は、153どうしたつて心(こころ)がをさまらぬからなア、154アハヽヽヽ』
155黒姫(くろひめ)『あまり口(くち)が過(す)ぎると又(また)孫公(まごこう)のやうな目(め)に遇(あ)ひますぞや』
156芳公(よしこう)『孫公(まごこう)のやうな目(め)に遇(あ)つたつて構(かま)はぬぢやないか。157お前(まへ)さま達(たち)がヤツサモツサ騒(さわ)いで居(ゐ)る間(うち)に平気(へいき)の平左(へいざ)で幽冥界(いうめいかい)の探険(たんけん)をなし、158平気(へいき)の平左(へいざ)で甦(よみがへ)つたぢやないか。159俺(おれ)だつてあんな死(し)にやうなら何度(なんど)もして見(み)たいわ』
160黒姫(くろひめ)『罰(ばち)が当(あた)りますぞや。161好(よ)い加減(かげん)に心(こころ)を直(なほ)しなさい。162改心(かいしん)が一等(いつとう)だと神(かみ)様(さま)が仰有(おつしや)りますぞえ』
163芳公(よしこう)『改心(かいしん)しきつたものが改心(かいしん)せよと云(い)つたつて、164改心(かいしん)の余地(よち)が無(な)いぢやないか、165オホヽヽヽ』
166黒姫(くろひめ)『これ芳公(よしこう)、167お前(まへ)は又(また)私(わたし)の真似(まね)をして嘲弄(からか)ふのだな』
168芳公(よしこう)『あまり好(よ)う流行(はや)る豆腐屋(とうふや)で、169豆腐(とうふ)が切(き)れたから仕方(しかた)なしにカラ買(か)ふのだよ。170オホヽヽヽ』
171 孫公(まごこう)は両手(りやうて)を組(く)みそろそろ喋(しやべ)り出(だ)した。
172孫公(まごこう)『アヽヽヽヽ』
173黒姫(くろひめ)『これこれ孫公(まごこう)、174筑紫(つくし)の岩窟(がんくつ)は此処(ここ)ぢや御座(ござ)りませぬぞえ。175小島別(こじまわけ)の昔(むかし)を思(おも)ひ出(だ)し、176そんな……アヽヽヽヽなぞと云(い)うと、177悪(あく)の性来(しやうらい)が現(あら)はれてアフンとする事(こと)が出来(でき)ますぞえ、178ちつと確(しつか)りなさらぬかえ』
179孫公(まごこう)『アハヽヽヽヽ、180オホヽヽヽヽ、181ウフヽヽヽヽ、182エヘヽヽヽヽ、183イヒヽヽヽヽ』
184黒姫(くろひめ)『又(また)しても、185曲津(まがつ)がつきよつたかな。186どれどれ此(この)黒姫(くろひめ)が神力(しんりき)によつて退散(たいさん)さして見(み)ませう』
187と云(い)ひつつ青草(あをくさ)の上(うへ)に端坐(たんざ)し、188両手(りやうて)を組(く)み皺枯(しわが)れた声(こゑ)で天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し始(はじ)めた。189孫公(まごこう)は大口(おほぐち)を開(あ)いて歌(うた)ひ出(だ)した。
190孫公『アハヽヽハツハ阿呆(あはう)らしい
191頭(あたま)の光(ひか)つたハズバンド
192高山彦(たかやまひこ)の後(あと)追(お)うて
193烏(からす)のやうな黒姫(くろひめ)が
194綾(あや)の聖地(せいち)を後(あと)にして
195荒浪(あらなみ)猛(たけ)る海原(うなばら)を
196荒肝(あらぎも)放(はう)り出(だ)し三(さん)人(にん)の
197伴(とも)を引(ひ)き連(つ)れあら悲(かな)し
198仮令(たとへ)悪魔(あくま)と云(い)はれやうが
199遇(あ)ひたい見(み)たいハズバンド
200亜弗利加(アフリカ)国(こく)の果(はて)までも
201所在(ありか)を探(さが)して尋(たづ)ねあて
202ありし昔(むかし)の物語(ものがたり)
203アラサホイサを云(い)ひ出(いだ)し
204飽迄(あくまで)初心(しよしん)を貫徹(くわんてつ)し
205愛別(あいべつ)離苦(りく)の悲(かな)しみを
206相身(あひみ)互(たがひ)に語(かた)らふて
207愛想(あいさう)尽(づか)しを云(い)うて見(み)たり
208悋気(りんき)喧嘩(げんくわ)をして見(み)よと
209悪魔(あくま)の霊(れい)にあやつられ
210泡(あわ)を吹(ふ)くとは知(し)らずして
211やつて来(き)たのは憐(あはれ)なり
212あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
213あかん恋路(こひぢ)に迷(まよ)ふより
214諦(あきら)めなされよ黒姫(くろひめ)さま
215亜細亜(アジア)亜弗利加(アフリカ)欧羅巴(ヨーロツパ)
216亜米利加(アメリカ)国(こく)の果(はて)迄(まで)も
217後(あと)を慕(した)うて見(み)たところ
218所在(ありか)の知(し)れぬハズバンド
219あかん目的(もくてき)立(た)てるより
220足(あし)の爪先(つまさき)明(あ)かるいうちに
221あきらめなさつて逸早(いちはや)く
222蜻蛉(あきつ)の島(しま)に帰(かへ)れかし
223阿呆(あはう)々々(あはう)と烏(からす)迄(まで)
224あすこの杉(すぎ)で鳴(な)いて居(ゐ)る
225相見(あひみ)ての後(のち)の心(こころ)に比(くら)ぶれば
226遇(あ)はぬ昔(むかし)がましだつた
227あゝあゝこんな事(こと)なれば
228綺麗(きれい)薩張(さつぱ)り諦(あきら)めて
229綾(あや)の聖地(せいち)におとなしく
230朝(あさ)な夕(ゆふ)なに神(かみ)の前(まへ)
231仕(つか)へて居(を)つたがよかつたに
232あゝあゝ何(なん)と詮方(せんかた)も
233泣(な)く泣(な)く帰(かへ)る呆(あき)れ顔(がほ)
234あこがれ慕(した)ふハズバンド
235頭(あたま)の長(なが)い福禄寿(げほう)さま
236蜻蛉(あきつ)の島(しま)に御座(ござ)るぞや
237蟹(かに)のやうなる泡(あわ)吹(ふ)いて
238あらぬ夫(をつと)を探(さが)すより
239早(はや)く諦(あきら)め帰(い)ぬがよい
240アハヽヽハツハ アハヽヽハー
241呆(あき)れはてたる次第(しだい)なり
242あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
243御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
244 黒姫(くろひめ)はツト傍(そば)により、
245黒姫『いづれの神(かみ)様(さま)のお憑(かか)りか知(し)りませぬが、246今(いま)承(うけたま)はれば高山彦(たかやまひこ)は蜻蛉島(あきつしま)に居(ゐ)る、247此(この)亜弗利加(アフリカ)には居(ゐ)ないと仰有(おつしや)いましたが、248それは本当(ほんたう)で御座(ござ)いますか。249孫公(まごこう)に憑(かか)つた神(かみ)様(さま)、250どうぞ黒姫(くろひめ)の一身(いつしん)上(じやう)にかかつた大問題(だいもんだい)で御座(ござ)いますから、251好(よ)い加減(かげん)の事(こと)を云(い)はずとハツキリと云(い)つて下(くだ)さい。252聞(き)いて居(を)ればアヽヽヽアとアア尽(づく)しで仰有(おつしや)つたが、253そんな事(こと)云(い)うて此(この)黒姫(くろひめ)をちよろまかし、254アフンとさせむとする悪(わる)い企(たく)みぢやあるまいかな。255飽(あ)きも飽(あ)かれもせぬ高山彦(たかやまひこ)さまの行方(ゆくへ)、256どうぞ明(あきら)かに知(し)らして下(くだ)さい』
257孫公(まごこう)『イヒヽヽヒツヒ イヒヽヽヽ
258いつ迄(まで)尋(たづ)ねて見(み)たとこが
259命(いのち)に替(か)へたハズバンド
260居所(ゐどころ)分(わか)る筈(はず)はない
261色々(いろいろ)雑多(ざつた)とイチヤついた
262往(い)とし昔(むかし)を思(おも)ひ出(だ)し
263色(いろ)に迷(まよ)ふた黒姫(くろひめ)さま
264いかに心配(しんぱい)遊(あそ)ばして
265色(いろ)迄(まで)青(あを)うなつて来(き)た
266異国(いこく)の果(は)てを探(さが)しても
267居(ゐ)ない男(をとこ)は居(ゐ)はせぬぞ
268意外(いぐわい)も意外(いぐわい)も大意外(おほいぐわい)
269命(いのち)に替(か)へた高山彦(たかやまひこ)さまは
270伊勢屋(いせや)の娘(むすめ)の虎(とら)さまと
271意茶(いちや)つき廻(まは)つて酒(さけ)を呑(の)み
272意気(いき)揚々(やうやう)と今(いま)頃(ごろ)は
273石(いし)の肴(さかな)を前(まへ)に据(す)ゑ
274固(かた)い約束(やくそく)岩(いは)の判(はん)
275石(いし)に証文(しようもん)書(か)き並(なら)べ
276いよいよ真(まこと)の夫婦(ふうふ)ぞと
277朝(あさ)から晩(ばん)迄(まで)楽(たのし)んで
278意茶(いちや)つき暮(くら)す面白(おもしろ)さ
279伊勢(いせ)の鮑(あはび)の片思(かたおも)ひ
280何程(なにほど)お前(まへ)が探(さが)すとも
281高山彦(たかやまひこ)は黒姫(くろひめ)に
282唯(ただ)の一度(いちど)も遇(あ)うてはくれぬ
283あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
284叶(かな)はぬならば逸早(いちはや)く
285綾(あや)の聖地(せいち)に立(た)ち帰(かへ)り
286意茶(いちや)つき暮(く)らす両人(りやうにん)の
287生首(いきくび)ぬいてやらしやんせ
288ウフヽヽフツフ ウフヽヽヽ』
289黒姫(くろひめ)『これ孫公(まごこう)、290私(わたし)を馬鹿(ばか)にするのかい。291本当(ほんたう)の事(こと)を云(い)うて下(くだ)さい。292これ程(ほど)黒姫(くろひめ)が一生(いつしやう)懸命(けんめい)になつて尋(たづ)ねて居(ゐ)るのに、293ウフヽヽヽとは何(なん)の事(こと)だい。294大方(おほかた)お前(まへ)は此(こ)の二人(ふたり)の代物(しろもの)と腹(はら)を合(あは)せ、295死真似(しにまね)をしたのであらう。296ほんにほんに油断(ゆだん)のならぬ代物(しろもの)だなア』
297(大正一一・九・一二 旧七・二一 加藤明子録)
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